7話 「何を言うか、虐殺者が」 ハーフエルフを狩る者たち17
バルティゴ連邦歴18年10月18日太陽の日。スウィートバウム。
夜通し降っていた雨は止み、青空の下町の中央広場では既に激励祭の準備が整っていた。
この激励祭は今年で2回目の開催で、二つの目的のために開催されている。
冒険者になりたての者に対し、冒険者ギルドないし冒険者という全体への帰属意識を高め士気を高揚させる事でギルドへの定着率を高めることがひとつ。
もうひとつは新規冒険者獲得の為に冒険者生活の良いイメージを持たせる為である。
これは、ブレイブバウムの冒険者ギルド本部の発案で、各都市国家で定期的に開催されている。
近年冒険者の数が減ってきている事態を受けての対策であった。
既に会場には食べ物の屋台や武具の露店、出し物のための小屋や運営委員の待機所や来賓の為の休息所などが仮設で建てられている。
中央にはスピーチや歌謡のためのステージがあり、すっかり祭りの様相に変わりつつあった。
時刻は朝10時に近づいている。
既に多くの冒険者や冒険者志望者、単に祭りを楽しみにきた市民などで賑わいはじめているが、ステージ上では開会式の準備が進められている。
開会式はまず開会の挨拶からはじまり、その後冒険者ギルド・都市ジギン支部の副支部長であるハインリヒ・ディレルオスカーのスピーチが始まる。
耳派が計画するテロ行為の本懐はこのディレルオスカーの誅殺であった。
「あんた、ずいぶん重そうなコートだね」
この日、来場者受付は4人の冒険者が担当しており、その中にラムジーとパターソと言う男がいた。
彼らは山猫階級の冒険者で、ひょろりと長身の男がラムジー、小太りで猪首の若者がパターソ。
彼らは来場者が銃器を持ち込んでいないかのチェックを行っていた。
ラムジーは男女2人組の来場者のうちだいぶ分厚いコートを着ているのが気になったらしい。
時期は冬が近くコートを着ている事に不自然はないが、冒険者向けに売られているコートの中では珍しいものだった。
「このコートは新商品でね、急所を守るように砂袋が仕込まれているんだ。1度は銃弾を防げる」
ボディチェックを行うパターソは感心した。
確かにコートを確かめると中に砂か何かが入った袋が急所を守るように配置されている。
「へぇ! これなら撃たれても安心だ!」
パターソは他に武器などがない事を確認し素直に感心した。
「まぁ、普段着こむには重すぎるが、日常的に来てないといざという時に動けないからね」
赤髪のハーフエルフの男、ユーディはそういって笑った。
「もういいかしら? 早くお祭りを楽しみたいわ」
既にボディチェックが終わっていた銀髪のハーフエルフの少女、プルシェニカはうずうずした様子で言う。
彼らは言うまでもなく冒険者に扮した耳派のふたりである。
「ベルフ・ミラーとマリア・スチェルニーか。確かに問題はなさそうだね」
そう言ってラムジーは彼らに冒険者証のカードを返した。
このカードはギルドで冒険者として登録された際に発行されるもので、容易に偽造されぬように特殊な印鑑が押してある。
しかし、この当時は写真がまだ広く流通していなかったので書かれている情報は年齢、性別、種族と名前、そして登録番号だけであった。
今日テロを計画していた耳派は裏のルートで冒険者証を手に入れ、身分を偽っていた。
「どうぞ楽しんで」
パターソとラムジーはふたりを疑うことなく冒険者式の敬礼で会場に受け入れた。
「ありがとう。先輩」
プルシェニカは内心で「間抜け」とほくそ笑み、パターソに微笑みと敬礼を返した。
既にほかの仲間も会場に入り込んでいるはずである。
計画の決行はもうすぐであった。
彼らの計画はこうである。
時間をわけて会場に全員で入り込み、先に入った者はあらかじめ会場の花壇やゴミ箱に隠していた武器を回収する。
そしてディレルオスカーの演説が始まり壇上に上がった後に暗殺。
ディレルオスカーの過去の罪状を冒険者達に告げる。
当然戦闘状態に突入するが、そこでユーディがコートに仕掛けた装置を使う。
ユーディのコートの中には確かに砂袋が入っているが、更にその中にはダイナマイトとカリュウ花の種が仕込まれている。
これを爆発させ、種を会場に広くばらまくと同時にプルシェニカが魔法を発動させカリュウ花を急速に成長させる。
カリュウ花は他の生物に寄生して咲く紅蓮の色をした花で、プルシェニカの魔法で冒険者に植え付け急激に成長させ、冒険者を狂わせ会場を恐慌状態にさせる。
その隙に全員が脱出を図る。
たったこれだけの計画である。
連邦の一大勢力と戦おうとするにはあまりにも杜撰な計画ではあるが、当時の耳派の多くがこの程度のテロ行為を本気でハーフエルフ独立のためと信じその殆どが失敗に終わっていた。
果たして、プルシェニカらの計画は成功するだろうか?
「続きまして、現在ではジギン支部の副支部長を務め、魔王大戦では南部戦線防衛の功績を残しました英雄、ハインリヒ・ディレルオスカー氏の挨拶となります」
既に開会の挨拶は終わったらしい。
ステージ上では鳥人族のペリュミンが司会信仰を行っている。
彼女は『声を遠くまで響かせる魔法』を得意とする。
この当時、まだマイクなどは発明されていなかったため様々な場面で重宝された。
そして広場で壇上を見上げる無数の冒険者の視線の先に、老い始めているがまだ壮気を感じさせる人族の男が現れた。
白い礼服に身を包み、笑顔で手を振るこの男こそがハインリヒ・ディレルオスカーである。
この時彼は冒険者達の中では過去の大戦の英雄であったが、後の世で非道な虐殺行為を指導した事が証明されている。
その事実を知る者はこの激励祭の会場には多くない。
だが、耳派の復讐者は彼の行いを忘れるはずがなかった。
既にプルシェニカは射撃位置を確保しているヘルゼルペイタやセルゲイ、他の仲間たちの姿をお互いに確認している。
「いやはや、若い冒険者の方々にこう拍手で迎えられると何か仕込まれているのではないかと思って警戒してしまいますね。我々は冒険者ですからね。とは言え、酒瓶やトマトが飛んで来ない事に安心しています」
会場からは小さな笑いが起きた。
ディレルオスカーは口達者で、大衆受けの良い人物であったとされている。
「さて……。我々冒険者は、先の大戦で自由・自立の精神から義勇に奮い立ち東から来る侵略者と戦いました。多くの犠牲を払いましたが、遂には冒険者の英雄である勇者の魔王討伐により戦争を終わらせました」
プルシェニカはヘルゼルペイタからのアイコンタクトを受けた。「準備は良いか?」と目で言っており、その意図は確かにプルシェニカに伝わった。
耳派の一派は壇上のディレルオスカーをどこからでも狙撃できるよう、各自が扇型に広がっている。
プルシェニカと赤髪のユーディは全体で見て群衆の中央にいた。
「私たちは英雄である勇者の意志を引き継がねばなりません。戦後もこの連邦に自由・自立の精神を恒久的なものとするために我々冒険者が連邦を守る盾とならなければならないのです!」
群衆から拍手が巻き起こる。
その中でプルシェニカはヘルゼルペイタに相槌を返した。
後はヘルゼルペイタの発砲と同時に銃を手にした仲間が一斉に発砲する。隠匿性の問題で、各自1発しか装填できない小型拳銃しか持っていないが、どれか1発でもディレルオスカーの急所を貫けばよいのだ。
「我々は冒険者です! 獣人族、爬虫人族、鬼人族、冒険者に全ての種族、身分は平等であり、我々冒険者こそがこの連邦の自由と平等の象徴なのです!」
歓声があがった。
プルシェニカはその中で「何を言うか、虐殺者が」と心の中で唾を吐いた。
過去の罪を忘れのうのうと英雄として生きるディレルオスカー、ハーフエルフを踏みにじった繁栄の上で浮かれる冒険者、何の疑問も持たず自分の事しか考えていない市民、全てを憎んだ。
さあ、機は熟した。
今こそディレルオスカーに罪を償わせ、全ての冒険者と市民を目覚めさせ、ハーフエルフのためにこの連邦を変えるのだ。
機は、熟した。
それなのにヘルゼルペイタは何故か固まったまま動かない。
苛立たし気に再度目線を送ったプルシェニカであったが、
「動くな。騒ぐな。前を見続けろ」
何者かの静かな声。
プルシェニカは自分の背中に何か硬い筒のようなものが突きつけられているのを感じた。
プルシェニカらの計画は始まる前から失敗していたのである。