7話 植物処刑 イチは輪切りになって死んでしまうのか? ハーフエルフを狩る者たち16
イチとメイメイは縛られたまま仕置き部屋に残された。
下着姿のまま中央のパイプに互いの体温を感じながら背中合わせに縛られ、身体中に蔦や茨が絡みついている。
イチはメイメイより酷く痛めつけられ、乳房や下半身から皮膚を破って花を咲かされて気を失っている。
状況は絶望的であった。
ヘルゼルペイタらはイチ達を救出に冒険者が訪れる事を危惧していたが、そもそもイルハをスウィートバウムの某支部にやってしまったはずなのでそれも望めない。
プルシェニカが最後に仕掛けた残酷な処刑装置のために、イチとメイメイの冒険はこの薄暗い仕置き部屋で無残に終わろうとしていた。
「うっ……うぅ……ぐす……」
メイメイは泣いていた。
プルシェニカが仕込んだキリサキソウの蔦は徐々に身体に巻き付き始め、段々首元まで迫っている。
しばらくすればジワジワと肉に食い込み、そしてゆっくりと時間をかけて身体を輪切りにされてしまうだろう。
まさか親友だった相手にこんな残酷な仕打ちを受けた事もそうだが、自分が先走った為に大切な仲間であるイチも巻き込んでしまった。
後悔と自責の念のために何も考えられず、ただただ嗚咽するだけだった。
「おい……、メイメイ。無事か?」
ふと、メイメイの後ろで弱弱しい声がした。
「イチ……?」
どうやらイチが目を覚ましたらしい。
酷い拷問を受けたので声に力はない。
「ごめんなさい。ごめんなさいイチ……。私のせいで…………私のせいで」
メイメイはせめてイチが気を取り戻さなければよかったのにと思った。気を失ったままであれば、せめて苦しまずに済んだだろう。
「バカ! めそめそ泣いてる暇があるか!? 泣いてる暇があるなら何かしろ!」
しかしイチはやはり不屈の冒険者であった。
状況はよくわかっていないが、耳派の姿が見えないなら脱出のための絶好の機会ではないか。
身体が痛むにもかかわらず全身をゆさぶり拘束が解けないか試みた。しかし全身をがんじがらめにされているので蜘蛛の巣にかかった蝶のように無様な姿を見せるしかできない。
イチが身体を揺さぶるたびにメイメイに絡みついた茨も動き、そのたびに棘が皮膚に食い込む。
「イチ……、もうダメよ。もう、私たちはここでお終いよ」
「バカヤロウ! 諦めるやつがあるか!? そうだ。何か持ってないか!? ちょっとした金属とか、何かの破片とか!」
「無理言わないでよ。何もないし、手も足も出せないわ」
「くそっ……! リャンだったらこんな縄、千切って抜け出すのに……」
イチは下唇を吸った。
状況を打開するために頭の中で過去の経験と知識から何か方法がないか知恵を絞ってみたが、絞っても絞っても何も出そうにない。
「誰か! 誰かいないのか!? 助けてくれ!!」
イチは結局首から上しか自由に動かせないという事実を受け入れ、助けを求めて声を限りに叫んだ。
それ以外何ができるというのか。
「イチ……」
「メイメイ! お前も大声を出せ! 最後まで諦めるな!」
メイメイはイチの決して諦めないその姿勢にわずかに勇気を取り戻し、イチと一緒に大声を出し始めた。
キリサキソウの蔦はじわじわと身体に巻き付いてゆくが、大声を出している間はその痛みも絶望も忘れることができた。
「誰かいないのか!? 助けてくれ!!」
「お願い!! 助けて!!」
それは悪あがきとしか言いようがなかった。
仕置き部屋の出入口隠し扉になっており、聖堂の本棚の裏に隠されている。
よほど神経を張り巡らせていなければそこから漏れ出る声に気が付かないだろうし、それ以前に周囲にひとがいないのならなんら意味がない。
それでもふたりは叫んだ。
じわじわと迫る死の恐怖から目を逸らすように、或いは身体を苛む痛みを忘れるために。
その努力が報われる事などないはずであるが。
しかし、
「イチ…………蔦の動きが止まったわ!」
メイメイはいつからか自分を締め付けるはずの蔦の動きが止まっている事に気が付いた。
何かの偶然か、それとも。
ただし、それはメイメイのみに起きた現象のようだった。
「うっ…………ぐぐぐ…………ぐ……………………」
どうやらイチに絡みついたキリサキソウの蔦はついにイチの喉元まで巻き付き、その呼吸を奪いつつある。
それでもイチは生を諦めず、少しでも呼吸を確保しようと身をよじっている
「ぐが……………………かはっ……………………ああ”っ……………………」
「イチ!? イチ!! なんで!?」
その時タオ・メイメイは悟った。
プルシェニカは最初からメイメイを殺すつもりなどなかったに違いない。
もしそうであれば、イチが来る前にメイメイは死んでいる。
あのもったいぶった拷問も、考えてみればイチだけ執拗に痛めつけられていた。
プルシェニカは確かに復讐と思想に狂っていたが、メイメイへの友情だけは変わらなかった。
しかしその温情は、イチには向けられていない。
「イチ!! イチ!! やだあああああああああ!!」
メイメイは泣き叫んだ。自分は助かっても、イチがじわじわと切り裂かれて死んでいくのを間近で見続けるなど耐えられない。
しかし無情にもイチの身体を締め付けるキリサキソウの蔦は彼女の肉体に食い込み、もう間もなく肉を切り裂きイチのしなやかな太腿も瑞々しい乳房も切り裂かれて輪切りになるだろう。
「誰か! 誰か助けて!! お願い! 誰でもいいからイチを助けてよ!!」
しかし、いったい誰がイチを助けられるというのか?
イルハはイチが某支部にやってしまったし、それ以外にイチとメイメイを今気にかけている者などいないではないか。
ついににイチの首筋や太腿、乳房から滲むように血が見え始めた頃であった。
タオ・メイメイの人間的特性は類まれなる悪運である。
イチ達の正面の壁がぐるりと回るように開き、外からの光が差し込んだ。
「あや!? イチさん! これは大変だ!!」
その黒髪の少女は風のように瞬発したかと思えば、まるで全てが一体になったダンスのように腰に差した長剣を抜きざま、居合切りの要領でイチに絡みついたキリサキソウを切り裂いてイチを助けた。
「イルハ!!」
メイメイは喜びと驚きが混ざって弾けたような表情をした。
そこにいたのは某支部に向かいスウィートバウムに戻っているはずの少女騎士、イルハ・ルチオリーヌだった。