3話 縛られ監禁されるイチ達 目隠しをされ怯えるピィピに、山賊の汚い手が… パーティを追放(以下略)12

  イチは目隠しをかけられたまま後ろ手に縛られたまま牢に投げ入れられた。

  どうやら山賊団の中に捕縛術に長けた者がいたらしい。大菱縄と呼ばれる、胸部が強調される緊縛術で縛られたイチはなんとか縄から逃れようと味をよじったが、力技では縛られた手首を痛めるだけだった。

  「先輩、ピィピ、大丈夫ですか?」

  「あぁ…、大丈夫だ。なあ、ピィピ」

  「うん…、大丈夫…」

  視界が奪われているので顔色は伺えないが、パルテルラットも回復したらしい。

  しかし声にいつもの力が無いのが気になった。

  パルテルラットもピィピもイチと同様、女にとっては屈辱的な縛り方で緊縛されており、縄抜けに長けたピィピでさえもこの縄からは抜け出せないようだった。

  「ミラ………、まだ冷たい……」

  ピィピはまだ冷えたパルテルラットの身体に寄り添って温めてやった。身体に感じるパルテルラットの体温がまだ氷のように冷たい。

  もしホーイッツが殺す気であれば実際にパルテルラットを凍死させる事もできたのであろう。

  「ははは、まさか『水を冷たくする魔法』にあんな使い方があったとはな」

  パルテルラットはピィピの体温を感じながら、彼女を安心させるために彼女の頭に己の額を当ててやった。

  少なくともミラ・パルテルラットは自分の目の前にいる。

  その温もりが、ピィピに僅かに安心感を与えた。

  「大丈夫だ。メイメイはまだ捕まってない。きっと助けを呼んでくれるさ」

  「うん………」

  パルテルラットはそう言ってピィピを慰めたが、それを聞いていたイチは内心で「むずしいな…」と思ってしまった。

  まず、イチ達は武器を奪われてしまっている。メイメイでは武器がない状態で山賊団と渡り合うのは不可能だろう。

  それならば助けを呼びに走りたいところだが、今回は村人の協力を得る事は不可能だし、馬も奪われてしまっている。

  馬がなければ身近な冒険者ギルドまで4日以上はかかるだろう。

  「そうですね。きっと、メイメイが助けを呼んできますよ」

  だがそんな現実を口にしてピィピを無駄に怯えさせる事もしたくなかった。

  パルテルラットもイチと同じ考えだろうが、今は様子を見るしかない。

  過去に囚われ監禁された経験もないわけではないが、今回は助かるか。

  過去に敵に囚われた女冒険者がどのような末路を辿るかを知らないわけではない。

  イチは彼女の師であるリャン・ハックマンから何かこの状況を打開するための知恵を授けられていなかったか必死に思い返したが、

  「敵に捕まった事?私があるわきゃねーだろ。はっ倒すぞ。」

  と言われて危うく殺されそうになった事しか思い出せなかった。

  ____くそ、どうしたらいいんだ。

  暗闇の中、少女が鼻を啜るような泣き声が聞こえた。

  ピィピの泣き声だろう。

  彼女は兎人族のハーフであるためにストレスに弱い。

  パルテルラットがせめてもの慰めに彼女の頭に己の頭を擦りつけて慰めてやっているが、この状況が長引けば長引くほどピィピの心を苛むだろう。

  しばらく視界を奪われたまま満足に身体も動かせずピィピの啜り泣きを聞きながら横になっているしかできないイチだったが、何者かが近づいてくる足音に気がつく。

  一瞬、タオ・メイメイが助けに来たのではないかと期待したが、そんな事などあるはずがなかった。

  「金髪は、あの小僧のお気に入りだと。先に、ウサギと赤髪だ」

  イチは野卑な男の声に生理的嫌悪感を感じ怖気だった。

  「やだ! 乱暴しないで! ミラ! ミラ!」

  ピィピの悲痛な叫び声にイチは一気に血の気が引いてゆく感覚を感じた。

  「乱暴にするか、優しくするかはお前ら次第だな」

  姿こそ目隠しのせいで見えないが、声の質だけでも下衆な男だとわかりそうな声色の男達だ。

  男のひとりがピィピの兎の耳を乱暴に掴んで立たせるとピィピは激しい苦痛に叫ぶ。

  兎人族にとって耳は神経が集中した弱点でもある。

  「ピィピに手を触れるな! 私はどうなってもいい! ピィピだけは____うぐッッ」

  ピィピの身を案じるパルテルラットの声がくぐもる。

  どうやら殴られたらしい。

  「先輩! ピィピ! 貴様ら、許さないぞ!」

  怒りの声をあげるイチだったが、その声に僅かだが恐怖が混じっている。

  「イチ! 大丈夫だ冒険者をやっていればこういう事も………君は脱出の方法を考えるんだ____」

  ピィピの泣き叫ぶ声とパルテルラットの声が暗闇の中でイチから離れていくのを感じてイチは途方もない無力と絶望を感じた。

  ひとり残された牢の中で、イチは惨めさと絶望にひとり涙を流し嗚咽した。

  ◆

  さて、イチ達の受難を描く前に最低限こうなった経緯を記しておくべきだろう。

  ホーイッツはイチ達が予想した通り独断で村内を調査し、結果ラッチェの山賊団に囚われた。

  この背景にはホーイッツがシローキンと何かしらの密約を結んでいたと見るべきであろう。

  その密約について記録される資料などないので想像に過ぎないが、恐らく働きに応じた金銭の報酬か、或いはユーカイ村の実権などを餌にしていたと見るべきだろう。

  だがそれ以上に彼を突き動かしたのはパルテルラットの態度ではないか。

  ホーイッツの自尊心は自分が徐々に戦力外と見做され行動の権利を取り上げられるのに耐えられなかったのであろう。

  故に独断専行でラッチェの隠れ家を突き止め、パーティ内で自分の存在感を増そうとしたのではないか。

  だがホーイッツは等身大の自分を見計る事の苦手な男だった故に、あっさりとラッチェの仲間に捕縛されてしまった。

  しかし、イチ達の予想に反して彼を待っていたのは拷問などではなかった。

  ラッチェはホーイッツを自分の寝室に招いたのである。

  ラッチェという女は年増ではあるが美貌の女で、ある種の魔性を漂わせていたと言われる。

  ホーイッツを寝室に招いてラッチェが彼に何をしてやったかは読者の想像に任せる事とするが、ピィピ同様に『印象を良くする魔法』でも使っていたのかもしれない。

  もっとも、ホーイッツが相手ではその魔法も不要であったかもしれないが。

  こうしてホーイッツはイチ達を裏切り、ラッチェの手ゴマの1人になり果てたのだろう。

  ◆

  イチは牢の中でパルテルラットとピィピが受けている恥辱を考えると気が狂いそうになった。なったが、どこか冷静な心が過去に他の冒険者の仲間がこういう状況について語っていた事を思い出させていた。

  ____あれはスウィートバウムのコボルト料理の店だったか。あの時は料理に気をとられていたが、確か猫人族のハーフと人族のハーフが話していたような____

  「もし野盗に捕まったらどうするかって?一番ダメなのは怒らせたりする事だね。とにかく愛想よく、コミュニケーションをとることよ」

  「けど、向こうだってそんなに甘くないでしょう?」

  「馬鹿ね。あたしたち女には男にはない武器があるじゃない。それを使えばいいのよ」

  「きゃあ!ミミィったら大胆!」

  ____女の武器………。女の武器か。

  イチは何も昨日今日女として冒険者になったわけではない。

  女の武器がどういうものかわかっているつもりだ。

  そして、状況を打開するためなら初めてではあるがその武器を使う覚悟はあるつもりだった。

  つもりだったのだが、結果を言えばそうはならなかった。

  何者かが牢に近づいてくる気配を感じ、イチは身構えた。

  恐らくタオ・メイメイではないだろう。

  その何者かが発した声を聞いて、イチは怒りで身体中の血液が沸き立つような気さえした。

  「イチさん。俺だ。ホーイッツだ」