21.繋ぎ止めるもの

  東棟の個室に入りソファーに座ると、愛斗先生は俺の隣に座った。

  「…これから話すことは、必ずしも全部が黒木くんと神代さんに当てはまるわけじゃないから、あくまで僕の意見として聞いていて欲しい。いいかな」

  そう言われて、俺は僅かに頷く。

  「…僕が、海斗との関係を周囲にカミングアウトした時、周囲の反応は大体同じ感じだったんだ。

  両親には案の定猛反対されて、気持ち悪いだとか、病気だとか、縁を切るとまで言われた。

  海斗と一緒に暮らし始めてからも、噂が広がって嫌がらせをされたり、絡まれたり……

  人を好きになるってこと自体は同じなのに、どうして、同性ってだけで、兄弟ってだけで、こんなにも攻撃されて、冷たい目で見られて、心無い言葉を投げつけられなきゃいけないのか、僕は理解できなかった…

  ここに来るまで、沢山嫌な思いも、辛い思いも、悲しい思いもした。

  色んなことがあったよ。

  山ほど後悔した。

  それでも、僕は良かったと思ってることがいくつかあるんだ。」

  そう言うと愛斗先生は、俺を真っ直ぐ見つめた。

  「それはね、海斗を愛し続けたこと。

  僕の中にある愛も、海斗の中にあるであろう愛も、信じ続けたこと。

  そうやって2人で生きてきたこと。

  その時だけじゃない、今日までずっと。

  そして、これからも、僕達はずっと、支え合って生きていく。

  例え世界が僕らを非難しても、認めなくても、気にしない。大切なのは僕と海斗の心だから。

  そこに正解なんてないんだから。

  僕らは僕らの思うように生きていいんだって、最近ようやく前を向けるようになったんだ」

  そう言って笑った愛斗先生の目には、涙が浮かんでいて…

  大人の人の涙を見る機会なんてそうそうないから、俺は驚いて、愛斗先生の目を見つめた。

  こんなに綺麗に泣く人を、千秋さん以外に初めて見た、そう思いながら。

  そんな俺に、愛斗先生は涙を流しながら、はっきり言った。

  「黒木くん、

  本当の愛はね、どんな困難も、乗り越えられるんだよ」

  その言葉が、心に染み渡っていくようだった。

  「黒木くんは、今は神代さんと2人で生きることが難しいと思うから…僕達が支えるから、一緒にいるから、だから……」

  震える声でそこまで言った愛斗先生は、一瞬唇に手を当てて涙を飲み込む。

  「だから…もう少し、僕達と一緒に、闘ってみない、?」

  どうして愛斗先生が泣いているのかは、あまり分からなかったけど、もう少しなら頑張れる気がした。

  「…分かった…ありがとう…先生…」

  「力になれなくてごめんね…」

  先生はしばらく泣いていたけど、やがてティッシュで鼻をかみ、涙を拭くと、真っ赤な瞳で笑った。

  「人前でこんなに泣いたの初めてかも(笑)

  海斗とのこととか、黒木くんの現状とか考えてたら涙止まらなくて…

  しんどいよね、なるべく支えるからね」

  決意に固まったようなその瞳は真っ直ぐで、なんだか俺には眩しかった。

  

  続く