「黒木〜、スタバ行かね?」
「悪い、用事。」
「また病院かよ」
「まぁな」
「ま、気持ち分からなくもない
気を付けて行けよ」
「ん、ありがと」
俺に声を掛けたのは同じクラスの佐久間。
俺と同じくらいの歳の差のパートナーがいるらしく、千秋さんのことをたまに話したりできる少ない友人だ。
学校が終わると、毎日病院に通うのが俺のルーティーンになった。
病院に行けば千秋さんに会える。
意識が無くても、俺の大事な人であることに変わりはないから。
病院に着くと、受付で面会表に名前を書く。
(…今日涼介さん来てないんだ
仕事忙しいのかな)
最近、面会表に涼介さんの名前が無い。
仕事が仕事だし、もしかしたら千秋さん関係のことを調べたりしているのかもしれないから、そうだとしたらありがたい。
事件のことも、昏睡のことも、焦らないようにしようと自分に言い聞かせていた。
どちらも、俺が焦っても仕方ないことだから。
「失礼します」
ノックして、一応声をかけてから扉を開けると、そこにはいつもと変わらない光景があった。
モニターをチェックしていた看護師さんに頭を下げる。
「こんにちは〜」
「こんにちは」
「今日神代さんね〜反応いいのよ〜
先生たちも驚いてたわ
沢山話し掛けてあげてね (ニコッ」
看護師さんの言葉に、俺は微笑んで千秋さんに目を向けた。
「ありがとうございます」
「いいのよ〜それじゃぁね」
看護師さんに少し頭を下げて、枕元に置いてあった椅子に腰掛ける。
「……そうなの?
話さないけど声は聞こえてたりするのかなー
今日も変わらず授業でね、帰りに佐久間に誘われたけど、断ってきたよ
だって千秋さんに会いたいし
俺は千秋さんがいればそれでいいから
でも…そろそろ起きて欲しいな……」
いつものように今日あったことを話して、そっと千秋さんの手の甲にキスをする。
「……俺は…千秋さんしか愛さないよ
千秋さんだけを愛してる
これからも変わらない
待ってるよ、ずっと
だから……」
だから、なんだろう。
俺は何を期待しているんだろう。
期待したって、千秋さんは目覚めないのにな。
滲んだ涙を誤魔化すように、外の景色を見つめた。
コンコン。
部屋に響いたノックに、重い口を開いて応える。
「……どうぞ」
「失礼します。
よかった、いて」
入ってきたのは、愛斗先生だった。
「時間があって気が進めばだけど、少しだけプレイルームを見てみない?」
そう言って愛斗先生が入口を示すと、そこには海斗先生がいた。
「…俺も行く」
なんだかしょげているように見えるのは気のせいだろうか…。
「どうする??」
そう聞かれて、俺は少しだけなら、と承諾した。
「それじゃぁ、向かおうか」
病室を出る前に、千秋さんの頬に触れる。
口には出さないけど、心の中で呼びかけた。
(……千秋さん。
少しだけ見てくるね
でも、俺はやっぱり、千秋さんとしかPlayしたくないよ
ご褒美くれるのも、甘やかしてくれるのも、叱ってくれるのも、お仕置きされるのも…全部ぜんぶ、千秋さんしか嫌だ。
………早く戻ってきてね)
そっと、動かない唇に口付けて、俺達は病室を後にした。
プレイルームに近付くと、空気にGlareなどが混ざってきているのを感じた。
入口を入ると受付があり、そこに名前を書く。
奥に進むと広めの部屋があり、開放されたそこでは控えめのPlayが行われたり、団欒している人達がいた。
窓から陽の光が差し込むそこは、とても暖かに感じた。
更に奥に進むと個室が続いていて、防音なのか静かだった。
その更に奥に進むと、僅かに肌を打つ音が聞こえてくる。
広めの部屋の入口に[Play room]と書いてあったように、そこには[Punishment room]と書かれていた。
Punishmentとは、英語で罰を指す。
お仕置きという解釈でもいいだろう。
人のお仕置きを聞いていていいことは特にないので、俺は直ぐ通り過ぎた。
角を曲がると、中庭が見えた。
そこも自由に過ごせる場所になっていて、草の上に寝転んでいたり木に寄りかかって昼寝をしている人がいた。
「……ここは、、自由なんですね」
「…うん。
入院はストレスが溜まるからね
患者さん本人も、その人を支えているパートナーの人も。
だから、少しでもストレスを減らすことが出来たらいいなと思って、医院長に発案したんだ。」
そう言って患者さん達を見ている愛斗先生の瞳は、とても優しかった。
「…愛斗先生は優しいですね」
「んなことねぇよ…」
ボソッとそう零した海斗先生は、俺が向けた視線にびっくりしたような顔になった。
「ぇ、俺今なんて言った?」
「…そんなことないって」
聞かれたのでそう答えると、海斗先生は頬を引き攣らせて愛斗先生に視線を流した。
「……」
視線を受けた愛斗先生はスッと目を細める。
「っ…やべ」
そのまま立ち上がった愛斗先生は、海斗先生の耳を掴んで立ち上がらせると、こっちに視線を投げた。
「気付いてたかもしれないけど、海斗と僕はパートナーなんだ
ちょ〜っとだけ遊んでくるから、ゆっくりしててね
ここから離れてもいいけど、東棟の中にいること
約束ね」
愛斗先生の言葉に頷くと、愛斗先生はにっこり笑って、そのまま固まっていた海斗先生を見た。
「いててて、」
「海斗?😊」
「ひ…だって今のはしょうがねぇだろ、!」
「だってじゃないの
本当なら担当外されかねないでしょ?」
「だっ…ぃっで、、!」
「ほら、おいで
海斗はちょっとじゃ懲りないってことがよーく分かった
何で知られたらまずいのかしっかり教えてあげる」
「必要ねぇ、!
いてぇぇ耳ちぎれるっ」
「騒がしいよ
ここ病院。」
「知るかよっ
マジいてぇ!」
「大体…………」
「〜〜………」
2人の声が遠ざかると、俺は中庭に視線を戻した。
ぼんやりしながら考える。
なんとなく2人がパートナーなのは勘づいてたけど、兄弟でもありなんだろうか。
恋愛の形は人それぞれだからなんとも言えないが。
でも、相性良いんだろうな。
そうしているうちにうとうとして来て、組んだ腕の上に頭を乗せて微睡んでいたら、不意に目の前のガラスがコツコツと音を立てた。
視線をあげると、左手に草を持った男性が手を振っていた。
続く