4.必要なこと

  「黒木くんは、今千秋と住んでるんだよね」

  食事を終えた俺は、千秋さんのベッドの傍で涼介さんと話していた。

  「そうです」

  「……黒木くんさえ良ければ、その…家に来ない?」

  涼介さんの言葉に、俺は千秋さんから涼介さんに視線を移した。

  「…本気ですか、?」

  静かな病室に、信じられないというような俺の声は、思ったより大きく響いた。

  「……俺も悩むけど…流石に未成年を家に一人にしておく訳にいかないでしょ…」

  涼介さんは小さくそう言って、千秋さんを見つめた。

  俺も千秋さんを見つめていたが、やがて俯く。

  「……俺は……千秋さんと過ごしてた、あの家にいたい。」

  今までも、一人の時間はあった。

  あのマンションならセキュリティは万全だし、何かあれば千秋さんの部下が動いてくれる。

  一番思い出のあるあの家で、千秋さんにおかえりと言ってあげたいんだ…。

  「……そっか…

  ならせめて、時々様子を見に行かせて欲しい。」

  その言葉に、ようやく俺は頷いた。

  少しして涼介さんは午後から仕事だからと帰っていき、交代に色々検査をしたいと入って来た医師は、また別の人だったけど、さっきの月守先生と苗字が同じだった。

  なんでも兄弟だそうで…。

  「月守 海斗だ。

  さっそくなんだが、まずは採血とMRI検査をしたい。

  血を見るとダメなら出ておいた方がいいが…」

  海斗先生の言葉に、俺は静かに首を振る。

  「大丈夫です」

  「…そうか。」

  「…ここ、押さえといてくれ。」

  そう言われて小さめの脱脂綿を渡される。

  言われた通りに千秋さんの腕を押さえていると、もう一人の月守先生が入ってきた。

  「ごめんね、黒木くんに相談というか、提案があって」

  そう言って愛斗先生は俺に、パートナーがいる人用のPlayサークルがあることを話してくれた。

  「今、神代さんは昏睡状態で、黒木くんとPlayが出来る状態ではないから、黒木くんさえ良ければ身体に不調が出る前に、欲求を満たした方が苦しくないと思うんだけど……どうかな」

  俺は、愛斗先生の言葉が半分くらいしか頭に入ってこなかった。

  それでも、違う人とPlayをするってことは分かった。

  「………」

  Playは、Sub性を満たす上で必要なこと。

  でも俺は、千秋さん以外とPlayをすることなんて考えられなかった。

  「時間はあるから、ゆっくり考えてみて。

  パンフレット置いていくね」

  そう言って、愛斗先生はいくつかのサークルのパンフレットを置いて、海斗先生と病室を出ていった。

  「………千秋さん」

  ポツリと呟いた俺の声は、貴方の耳に届いているのだろうか…

  「…寂しいよ……」

  そう口に出したら、余計に寂しくなって、俺は千秋さんの手を握って泣いた。

  千秋さんが起きていたら、泣き虫だねと困ったように笑うのだろう。

  「っうぅ……起きてよぉ……泣」

  神様。

  俺はあとどれくらい我慢したら、千秋さんの声を聞くことが出来ますか

  続く