相手を思うとは

  「わぁぁっも、やだぁぁ!」

  「…戻りなさい。」

  「おじりいだいぃっ」

  「貴和。」

  「ゆ、してぇぇ……っ許してぇ」

  「貴和、戻りなさい。」

  「うわぁぁんっっ」

  「コーナータイムにする?それでもいいよ?」

  「やらぁぁあ"っそれやだぁぁっっ」

  「じゃどうするの。

  自分で戻らないとずっと終わらないからね。」

  「わぁぁっおにいいぃっちあきざ、の鬼いぃっ!」

  ──本当は、許してあげたい。

  本当は、今すぐにでも抱き締めてあげたい。

  本当は、こんなに叱りたくない。

  本当は、痛い思いもさせたくない。

  本当は、怖がらせたくない。

  だけど、そう思っても、一度始めたお仕置きを途中で投げ出すことは出来ない。

  やろうと思えば出来るのかもしれない。

  だけどそれは、本人の為にならない。

  もしここで終わりにしたら、もし優しいお仕置きで終わりにしてしまったら、次はもっと大きな事故や怪我に繋がるかもしれない。

  取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

  だから、心を鬼にして、どんな酷いことを言われたとしても、本人が反省して、二度としないと思えるように、してしまう前に、お尻の痛みを、お仕置きの辛さを、思い出せるように、平手や道具を振るう。

  心の中では、どうかこれ以上繰り返すことがないようにと願っている。

  どうかこの一回が響きますように、残りますようにと。

  どうかこれ以上、この子が辛い思いをして泣くことがないようにと。

  本当は今すぐ止めたい手を、本人の為に振り上げる。

  長く続くお仕置きに、貴和は子供返りをする事が珍しくない。

  元々寂しがり屋で甘えんぼの貴和だから、ずっと痛くて、怖くて、苦しくて辛いのは嫌に決まっている。

  怯えて、イライラして、わぁわぁ泣きながら、もう嫌だ、もう終わり、もうしない!と叫ばれて、暴れられる。

  本当はここで、顔をのぞきこんで、本当にもうしない?って聞いて、信じて終わりにしてあげたい。

  だけどきっと、まだ足りない。

  そこで終わりにしたら、貴和はないけど、泣き叫べば終わりだと思ってしまう。

  でも、心から反省出来て、ごめんなさいがきちんと言えて初めて終わりになる。

  だから、子供返りをした貴和に、冷静な声で、何がダメだったのか、何でダメだったのか、これからどうしていくのか、最低この三つは聞く。

  それが、つっかえてもきちんと答えられるなら、もう少し叩いておしまい。

  何か一つでも理解出来ていないなら、もう一度きちんと説明する。

  必要なら、お尻を叩きながら頭に入れる。

  貴和の場合は叩きながらだと痛みに意識が持っていかれてしまう為、お話の時は手を止める。

  パニクって、泣きすぎた時は、一旦抱っこ。

  そんな時、胸が張り裂けそうなくらい痛くなる。

  抱っこをしてても、まだ終わってないから、また、始めなきゃいけなくなる。

  私が悪いわけではない。

  それでももう一度膝に乗せる時、ごめんねと何度も謝る。

  厳しく叱りすぎたことと、もう一度膝に戻される絶望を与えてしまったことに、申し訳なくなる。

  貴和が痛みのあまり膝から逃げてしまった時も、同じだ。

  私がきちんと押さえられていれば、貴和は追加のお仕置きを受けずに済んだ。

  ちゃんと押さえていられなくてごめんねと、心の中で謝り続ける。

  でも、この感情も気持ちも後悔も全部、貴和は知らなくていいと思っている。

  こんなことを話してしまったら、貴和は次から普通にお仕置きが受けれなくなるだろうと思う。

  だから、これからもこの気持ちは、私の胸の中だけに閉まっておこう。

  今はただ、貴方の為だけに大きな愛を。

  たまに、本当にたまに、鬼、とか悪魔、とか言われることがなくもない。

  正直、上で分かるように死ぬほどこっちも苦しいので、更にグサッと刺さるのだが、私はそれも受け入れている。

  そこでもやっぱり、暴言として追加しなければならないのが本当に辛い……。

  けど、貴和からしたらただの厳しすぎるお仕置きでも、後々本人の為になるお仕置きだから、やっぱり私がどんなに苦しくても、貴和の為に最後までやり抜くべきだと思った。

  「…っひ、ひっぐ……も、や、……ゲホッケホ…

  ふ、んうぅっ」

  「…貴和、何がダメだったの?」

  「っうぅっ……くすりぃ……」

  「うん」

  「ぅ、っうぇえぇ……」

  「ゆっくりでいいから、言ってごらん?」

  落ち着くように、そっと背中を摩ってやる。

  「ふぇぇっく……く、すり、、のまな、ですてたぁ…」

  「うん、そうだね。

  何でお薬、飲まないとダメなんだっけ?」

  「うえぇっ……からだぁ、よく、ならな…て……っ」

  「うんうん。

  お薬飲めば治るものも、飲まなきゃ治らないでしょ?

  ずっと苦しいままだよ?分かる?」

  真っ赤に腫れ上がった、痛々しいお尻を出来るだけそっと撫でながら、ゆっくりお話をする。

  「んうぅっっわか、るっごめ、なさぁぁっ……」

  貴和が自分からごめんなさいが言えたことに、私は感動してしまった。

  いつも中々言葉が出て来なくて、言い淀んだり、少し諦めてしまったりする貴和。

  今回自分からごめんなさいが出来たのは、大きな一歩じゃないだろうか。

  「自分からごめんなさい出来て、偉いね。貴和。

  じゃぁ、最後。

  これから、どうする?」

  もう最後だから、少しくらい優しくしても、罰は当たらないよね。

  自分が苦しいからって言うエゴだが、許して欲しい。

  私は、ずっと厳しく冷静には、お仕置き出来ないみたいだ…(苦笑)

  「ぅっひっく……グズ……これ、から……きちんとのむぅっ……おく、すりっ、のみま、すっ

  だから、だからぁぁっっ」

  もう許して。お尻痛い。

  お願いだから許してください。

  弱々しく泣き出した貴和。

  これはもう本当に、限界なのだろう。

  ……さて。最後の葛藤だ。

  このまま、もうしないんだよ、と告げて、貴和のごめんなさいを聞いて終わりにするか。

  もしくは、もう二度としないでいてくれるように、キツい平手を三回落として、終わりにするか。

  恐らく前者でも、いい子の貴和は、私が見ていればきちんと薬を飲むだろう。

  だが、私は会社での仕事の方が多い。

  もし一度でも捨ててしまえば、また元に戻ってしまうかもしれない。

  そうなった場合、今回はパドルを使ったが、次はもっと痛みを感じる道具にしなければならなくなる。

  その場合、また両方が苦しまなくてはならない。

  ただ、後者だと、恐らく貴和は限界を越え、私を嫌いになるだろう。

  心の底からではないと分かっているし、貴和も後から酷く謝ってくる。

  理解はしているが、確実に全部が嫌になるだろう。

  さぁ、どうする?

  自分に問いかけ、思わず唇を噛み締める。

  どうしよう。とてもやりたくない。

  比べなくても答えは出ていたが、気持ちが強ばり目の前が滲んだ。

  ほんの少し情けないなと思うけど、本当に、それだけ辛いんだ。

  貴和に嫌われるのも、これ以上貴和を泣かせるのも。

  ごめんね、ごめんね。

  心の中で謝りながら、震える声を整えて貴和に告げた。

  「…じゃあ最後に、三回だけお尻、痛くしようね。」

  「っ……ぇ……」

  顔を見なくても分かる。

  信じられないと目を見開いているだろう。

  ごめんね、ごめんね。

  すぐ終わらせるから。

  零れかけた涙をサッと拭うと、私は手を振り上げた。

  バチィン!

  「っああ"あぁぁぁぁっ!!?」

  バシィン!

  「やぁぁぁっっいやぁぁっ!!」

  暴れる貴和を抱え直して、一瞬手を握り締めた。

  どうか、この一回で。

  貴方がいい子になれますように。

  繰り返すことがありませんように…。

  バッチイイィン!

  「っぎゃぁぁぁあっっ」

  すぐさま抱き上げ、かなり震えている手で背中や頭を撫でる。

  案の定貴和は、少しの間放心状態だったけど、私を強く拒絶した。

  「も、やだぁぁっ!

  きら、いぃっちあきさ、嫌いいぃっ」

  「おしまい。もう終わったから

  貴和、貴和……」

  涙を堪え続ける。

  私が泣いてたら可笑しい。

  いつもは耐えられるのに、今日は色々考えてしまったから。

  涙腺が緩んでる…。

  「わぁぁぁ"っあっぢいげえぇっ」

  分かってる。

  そうなるよね。

  全部嫌だよね。ごめんね。ごめんね……。

  結局貴和は、膝の上で盛大に暴れて、時々私を蹴って、自室に逃げていってしまった。

  「っ………ふ……」

  貴和がいないのをいいことに、声を押し殺して泣く。

  嫌われたから嫌なんじゃない。

  嫌われることまで分かっていながら、厳しくしたのが嫌だった。

  でもきっと、、これであの子はいい子になれたかな…。

  私の苦しさは…無駄にならなかったかな…。

  それでも…心を傷付けて、ごめんね?貴和……

  叩く人も、楽じゃないんだと…改めて思った…。

  それでも、たった一人の大事な子だから、これからも厳しく叱る。

  いつか貴和が気付く時があるのかなぁなんて、少し思う。

  その後、貴和は泣き疲れて寝ていたらしく、リビングで軽く放心状態だった私の所に数時間後にやってきた。

  お尻冷やしてなかったね、冷やす?

  そう聞いた私に、貴和は大泣きして抱き着いてきた。

  ごめんなさい。酷いこと言ってごめんなさい。

  悪いのは俺なのに。千秋さんは何も悪くないのに。

  本当にごめんなさい。

  貴和の気持ちも、分かっているから、私は笑って慰めた。

  気にしなくていいよ。そう思っちゃうよね。

  それだけ辛かったよね。良く頑張れたね。

  いい子になれたよ。

  貴和、いい子。頑張った。

  偉い、偉い。

  沢山沢山褒めたら、お仕置きの時より泣いていた。

  きっと、寝てしまう前も、考えていたんだろう。

  八つ当たりして酷いこと言った自分が嫌いになってしまったかもしれないけど、仕方ないことだからいいんだよと私は言った。

  貴和は、もう絶対しないと泣いていた。

  ……うん、出来れば、しないでくれると助かるな(苦笑)

  END