あこがれ

  「カネさ~~ん♪」

  

  俺より大きな体が背中に勢い良くくっついてきた。

  

  いつも温かい体、長い腕、大きな手、ふわふわした髪…。全てあいつを作る大切な材料だと思う。1つも欠けてはならない。

  

  

  

  俺がカープを出て行く時、あいつは人目も憚らず泣いていた。

  

  「もう俺は、カネさんと一緒に野球が出来ないんでしょうか……。そんなのどんなことよりも辛いです…。」

  

  大粒の涙を流しながら、途切れとぎれにつぶやいた。俺はなんて返そうか分からず、こう言った。

  

  「貴浩、俺からカープ選手として、最後のプレゼントだ。『何事にも一生懸命に。』

  この言葉を忘れずにいてくれ。困難に立ち向かわなければいけないときが、必ずやってくる。その時に、この言葉がお前の背中を押してくれるから。そう信じて、真っ向勝負に挑め。もう二度と一緒に出来ない訳じゃない。オールスターだってあるんだから。俺は、いつでも連絡待ってるからな。あっ、イタズラ電話はナシやで?」

  

  「カネさん……。はい‼」

  

  貴浩の声が、空に向かって清々しく響いた。

  

  その時、2人の目に涙が溢れた。

  一筋のまばゆい光を放ちながら…。

  

  

  

  数年後に、あいつはタイガースまで追いかけてきた。そこまでしてきたのか、と驚きと嬉しさで俺の心はいっぱいになった。

  

  

  「やっぱりカネさんは、すごいです!俺もあんな風にバンバン打てるようになれていたらなあ。骨折してたのにヒット打つなんて、普通なら、考えられませんよ‼」

  

  「ふっ、もうお前の選手生命も長くないやろ?」

  

  「そ、そんなこと言わんで下さい‼カネさんくらい長くやっていきます‼」

  

  「お前に出来るんか~( ・ε・)?」

  

  「やってみなきゃ、分からないですよ。何事にも一生懸命に。そう教えてくれたのは、カネさんじゃないですか。」

  

  そんな昔のことを覚えていたのか…。記憶力いいな。

  「お前は、カープに戻ったら大人になったな。今までは、お前が先輩に振り回される側だったのに。」

  

  貴浩は、ふてくされてこう言った。

  

  「振り回してたのは、ほぼカネさんじゃないですかぁ( ̄0 ̄;)‼ もう毎日毎日何が起こるのか、ヒヤヒヤしてましたから。」

  

  「そうだったのか?本当に愛されキャラだからな、お前は。昔も、今も。」

  

  「ありがたいですけどね。でも、カネさんは特別です。誰も真似出来ない、最高のイジリですから!」

  

  「それは……、誉めている、と捉えていいんだよな?」

  

  「もっちろんです!だから、監督になって俺のことをあまりいじれないと思いますが、いつでも連絡待ってますから!」

  

  「お前、いつでもいいって言ったな…?」

  

  「あっ……。やばいかも…。」

  

  

  

  そう言った数日後、俺は貴浩に電話をした。

  「おはようございます、新井選手(^o^)/」と。

  

  

  その時間は、午前2時。

  

  そう、真夜中に。

  

  あいつを真夜中に起こせるのは、多分俺だけかな?