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変わらない温かさ

  秋信は猫の姿のまま目を覚ました。場所は、自分の布団の上。猫になった際脱げた服は、丁寧に畳まれて近くに置かれていた。

  (申し訳ないこと、したな……)

  秋信は元の姿に戻り、服を着た。そして深呼吸をし、四人の気配を感じる居間の方へと向かった。

  襖の前で立ち止まる。何せいつもは人間に化けた姿で会っている。本当の姿で面と向かって会うのは初めてなのだから、とても緊張している。

  「秋信!!早く入りなよ!!」

  「!?」

  そう声を上げたのは、クロだった。近くにはキジ猫もいる。

  「皆、あなたを待ってるわよ」

  「……でも……」

  「もー!開けないなら俺が開ける!爪立てて襖ボロボロにする!」

  「それいいわね」

  クロの発言に、キジ猫はそう返した。

  「そ、それは駄目!」

  「だったら早く入れー!!」

  「そうよ。信じるんでしょ?あの子達を」

  「……うん」

  秋信は頷き、引き手に手をかけゆっくりと襖を開けた。

  [newpage]

  「おはよう、秋信さん」

  望は秋信の姿を見ると、いつもと変わらない優しい声で、そう言った。

  「あ、やっと起きましたか」

  立はそう言い、優しく微笑む。

  「秋信さんおはようございます。よく眠れました?」

  純可は優しく、そう訊ねた。

  「気分が悪いとかないですか?」

  恵奈は、少し心配そうに訊ねる。

  (……温かい……あの日の……いつもの皆だ……)

  「ど、どうしたの?」

  望は動揺した声を上げた。

  「えっ?」

  秋信は、自身が泣いていることに気がついた。

  「あ、安心したみたい……その……この姿見せた時、皆がどういう反応するのか……かなり不安だったから……でも皆は、いつもと変わらず声をかけてくれたから……」

  話せば話すほど、涙が溢れ出て止まらない。四人は秋信の側へと座った。

  「アキちゃん、秋信さんあのね。私達、猫の姿のアキちゃんも、ついこの間出会った秋信さんも、大好きなんだよ。だって、見た目は違うけど同じだから」

  恵奈は、ゆっくりと秋信に告げた。

  「そう。さっきも言ったけど、私達はアキくん、秋信さんが何者でも関係ないの。ずっと、大切で大好きな存在だよ」

  純可は、秋信の涙をハンカチで拭う。

  「俺達、アキにも秋信さんにも助けてもらったんだ。あんたのお陰で、望とちゃんと話す機会が出来た。昨日、帰ってから冷静になってさ……」

  [newpage]

  昨晩。立は、怒りと悲しみに満ちた表情で望に言われた言葉が、頭から離れずにいた。

  (……俺、親友に何してたんだろうな……)

  思わず自嘲する。

  「こんなんじゃ、秋信さんも悲しむよな……あんなに仲が良かった俺等が今じゃこうだなんて……ん?」

  自然と口から出た言葉に、立は動揺する。秋信とは最近出会ったばかりのはず。しかし、先程口から出た言葉は、明らかに秋信が今より幼い自分達のことを、知っているようなものだった。何かを忘れている。思い出そうとするが、思い出せない。目頭が熱くなる。

  「……このままじゃ、駄目だ」

  何を忘れているのかはわからない。しかし立はこれ以上、大切な友達が傷つくことは避けたかった。

  スマホを手に取り、震える手で望に電話をかける。

  「り、立?」

  電話越しの望の声は、かなり驚いていた。何年も電話どころか、まともに話しすらしなかったのだから、当然だろう。

  [newpage]

  「えっと……こんな時間に悪いな」

  「い、いや。大丈夫だけど……」

  「……体調は?」

  「もう、大丈夫……」

  「そうか……」

  沈黙が流れる。

  「……ごめん」

  暫しの沈黙後、立は謝罪の言葉を告げた。

  「えっ?」

  「今まで、俺の勝手な考えでお前を避けて……本当にごめん……俺だって本当は……っ」

  立は泣きそうになり、声が詰まる。

  「本当は……避けるだなんてことしたくなかった!!中学でも、望と同じ部活に入りたいとか、放課後寄り道してみてぇなとか……他にもたくさん、望とやりたいことあったんだ!!」

  立は、叫ぶように心の内を語った。

  涙はとっくのとうに流れ出ている。

  「立……」

  「本当は先輩に呼び出されて、絡まれた日……望に相談したかった……けど、お前小六の秋頃から、よく体調崩すようになっただろ?だから……今日お前は、俺と一緒に逃げ回ってやるって言ってくれたし、何なら当時もそう言うだろうなってわかってた、けど……俺が巻き込んだせいで、望の体調が悪化する……そう考えたら、怖くなった……」

  最後の方は、立が言っているとは考えられない程、弱々しい声だった。

  「……立、ごめん……僕の方こそ立の気持ち、わかってなかった……でも、僕はやっぱり、立が一人で抱え込んでいるのは嫌だ。それに、また一緒にいたい……」

  望の声は、震えていた。望も泣いているのだろう。

  [newpage]

  「……わかってる……でも、今はまだ駄目だ……高校に入ってから、絡んで来る人数が増えた……殴られることだってある……だから、あいつらに見つかる場所じゃ、話せない……」

  「殴られるって……」

  親友が自分の知らない所で、酷い目に合っている。聞かされた望はどこにぶつけたら良いかわからない怒りを抱いた。

  「……今までごめんな……自分勝手だけど、俺はまた……皆と……あの頃みたいに一緒にいたい」

  そう言った瞬間、立は忘れていた記憶が一気に頭の中を駆け巡った。

  「……ア、キ……」

  「!?立、もしかして……」

  「望……俺、何で忘れていたんだろう……それに、アキってもしかして……」

  「……明日、秋信さん家に行って聞いてみよう。純可ちゃん達も、学校帰りに寄るって言ってたから……」

  「あ、ああ……」

  その後、二人は通話を切った。

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