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望の悩み

  秋信は、望を連れて家へと戻り、以前望が絶賛したお茶を出した。

  「ありがとうございます」

  望は笑顔を見せる。

  だが、その笑顔は無理に作ったものだと、見てわかった。

  (違う。無理に笑ってほしいんじゃない。僕はただ……)

  秋信は、昨日の望を思い出し、突然の来客だったとはいえ、話せて楽しかったのだと、そして、今日また会いに来てくれたことが、嬉しかったのだと再認識した。

  だからこそ、望の力になりたいと思ったのだ。

  [newpage]

  「……そういえば、立と知り合いだったんですか?」

  「えっ?いや、今日初めて会ったんだよ」

  秋信は、立と出会った経緯を説明した。

  「あー、なるほど。あいつらしいや」

  望は笑いながらそう言った。

  その姿に、秋信は安堵する。

  「昔も、似たようなことがあったな……立とは幼馴染なんです」

  「そうなんだね」

  「はい。これでも小学生の時は、ほぼ毎日一緒に遊んでました。まあ、高確率で僕が途中で寄り道して、二人して迷子になってましたけどね」

  (立、お疲れ……)

  その話を聞いて、秋信は立の苦労を想像した。好奇心旺盛な望に振り回されてる立の姿が安易に浮かぶ。

  「その度に立は怒りましたけど、それでも僕の我儘に付き合ってくれてました」

  「……親友、なんだね」

  立の話をする望の表情や声色から、そうなのだと、秋信は感じた。

  「……はい。僕はずっとそう思ってますよ」

  少し寂しそうに、望は言った。

  「……何があったのか、聞いてもいいかな?」

  きっと、聞かない方が良い。

  しかし秋信は、望と立二人と出会い、僅かな時間で二人の温かさに救われた。二人の関係をどうこうするとか、そういうのではなく、ただ、話を聞くことくらいは、したいと思ったのだ。

  [newpage]

  「……理由はわからないんですけど、本当に突然、確か中学に上がってからすぐに、避けられるようになったんです……」

  「え……」

  「理由を聞いても、もう関わるなとしか言われなくて……それに入学前までは、いつものように会っていましたし、立もおかしな様子はありませんでした」

  望はゆっくりと続ける。

  「中学三年間粘りましたけど、駄目で……もう駄目かと思ったんですけど、高校も同じだったんです。だから、今も粘り続けてます。合わせると三年と九ヶ月ですね。自分でもしつこいなって思ってますけど、やっぱり理由を聞くまでは諦められません」

  そう言うと、望はにっこりと笑ってみせた。

  「望くん……」

  「だって、寂しいじゃないですか。何もわからず、離れ離れだなんて」

  「……そう、だね」

  秋信は、何故かわからないが、望のその言葉を聞いた時、酷く胸が痛んだ。

  [newpage]

  その時、キジ猫が庭からこちらへ飛び移り、望の近くに座った。

  「あ、君。今日はありがとうね」

  「どういたしまして」

  望はキジ猫に礼を言うと、頭を撫でた。

  秋信は、今日キジ猫の後を追うように、望が歩いていたことを、思い出した。

  「もしかして……」

  「じつは、また迷いかけて……そしたらこの子が現れたんで、着いて行ったら、昨日の道にたどり着けたんです!」

  笑顔でそう話す望を見て、秋信は大きくため息をつく。

  「……秋信、この子、ありえないほどの方向音痴よ……」

  キジ猫は呆れた様子で、秋信に告げた。

  (……関わる関わらないとかの問題じゃないな……そもそも彼を山に入れること自体が、彼にとって危険だ……けど、術は効かなかった……一体どうすれば……)

  [newpage]

  昨日と同じように、望を山の出口近くまで連れていく。

  その間も、秋信は頭を悩ませていた。

  「明日も来ますね」

  「え」

  「駄目ですか?」

  「えっと……」

  「……私が道案内するわよ」

  キジ猫は、やれやれといった様子で呟いた。

  「……駄目じゃないよ。ただ、一つ約束。この子が来るまで、一人で山に入らないこと。この子について行けば、迷うことはまずないから。わかった?」

  「はい!わかりました!君、これからよろしくね」

  望は、元気よく返事をすると、キジ猫に向かって言葉をかけた。

  「はいはい」

  キジ猫は、仕方がないといった様子を見せたが、少し嬉しそうだった。

  望を見送り、秋信は家へと帰る。

  「今回は術を使わなかったのね」

  「……まあ、一度使って効果がなかったし……彼に関しては諦めたよ」

  「それだけじゃないくせに」

  キジ猫は、嬉しそうに言う。

  「……少し、少しだけだよ。そのうち飽きて、来なくなるだろうし」

  「……それはどうかしらね」

  キジ猫は、小さくそう呟いた。

  [newpage]

  その夜も、秋信は夢を見た。

  「おい馬鹿!そんな所登ったらあぶねぇって!」

  「ーーそんなに心配しなくても平気だよーーのあの様子からして、下りれなくなったわけじゃなさそうだし」

  二人の少年の声。そのうちの一人は、以前見た夢にも出てきた声だ。

  「今はそうでも、これ以上登ったら……」

  「……まあ、確かに下りれなくなるかも……」

  「……手遅れになる前に、下ろすか」

  そう言って、一人の少年は、木を登り始めた。

  「ーー動くなよ、いい子だから」

  その手に、優しく抱かれた所で、夢から醒めた。

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