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さみしがり屋の兎

  さびしがり屋の兎

  

  作:ぴよった

  

  あるところに、兎がいました。

  彼は

  「兎がさびしいと死ぬ」

  という事を信じていませんでした。

  だから、一人森の奥深くで暮らしていたのです。

  実際に一人でも彼は死にませんでしたし、暮らしていくのに不便も感じていませんでした。

  そして、森に住む他の動物たちも、他の力を借りようとしない兎に、自分たちから関わろうともしないでいたのです。

  

  

  

  そんなある日。

  兎がいつものように食料を集めに森を歩いていたら、怖い怖い狼が襲い掛かってきました。弱々しい兎には狼を倒すことが出来ません。ただ必死に逃げることしか彼には出来ず、いつ食べられてしまうかわからないまま、森を駆け回りました。

  後ろから諦めずに追いかけてくる狼。兎は怖くて怖くてたまりませんでした。そして誰にともなく叫びました。

  「たすけて!」

  ですが、一人で暮らしていた兎を、怖い狼から救ってくれるようなものはいません。

  「誰も助けてくれない! だから一人で暮らしてきたんだ!!」

  兎の声はただただ森にこだまするばかり……兎はもうつかれきっていました。けれど足を止めれば食べられてしまう。

  もうだめだと諦めかけたその時――

  「もう大丈夫だ」

  優しい声がすれ違いざま聞こえました。

  「えっ」

  兎が驚いて後ろを振り向くと、そこには虎がいました。

  大きな虎が怖い狼と戦っていたのです。

  力の差は歴然で、狼はしぶしぶ諦めて逃げていきました。虎は最後までそれを見張っていた後不意に倒れました。

  「えぇ?」

  兎は驚いてそばに駆け寄りました。相手が自分を食べてしまうかもしれないというのに……。

  「はらへった~」

  弱々しく虎はそういいました。同時に虎の腹がぐぅーとなりました。虎はここ何日か、何も食べていなかったのです。

  そこでやっと兎は、相手が獰猛と呼ばれる虎と思い出しました。でも、兎は逃げません。今の虎には、きっと虎を追っかける力は残っていないだろうし、食べるならすでにしていたと思ったからです。

  「おなか減ってるんですよね? 魚でもよければ取ってきますよ?」

  兎は虎にそう話しかけていました。虎はぴくっと反応して兎のほう見ます。

  「にげねぇーの?」

  「逃げてもいいなら逃げますけど?」

  驚く虎をよそに、兎は背を向けようとします。

  「やめてやめてっお願い! せめて魚取れる場所教えて」

  そんな兎に虎はすがるような目を向けます。

  「腹減ったんだけど、魚がいる川見つからないし、果物さえも見つかんなくて困ってたんだ」

  「助けてもらったお礼です。そのくらい教えてあげますよ。たてますか?」

  虎のそんな様子が兎には怖く見えなくて、古くからの友達のように接していました。友達なんていたことすらないのに……

  

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  その後、虎は無事に魚を捕まえて食べ、元気をとりもどしました。

  「さっきはありがとうございました」

  一息ついて兎がそういうと、虎はにかっと笑って言いました。

  「なんてことはないさ。こっちもありがとうおまえは命の恩人だ!」

  「それこそこちらこそですよ」

  そこで二人は笑いあいます。兎は物心ついた頃から一人だったので、初めて笑いあったのです。

  兎と虎の笑い声が森にこだましました。

  楽しそうな声に、森に住む他の動物たちも集まってきました。

  「いつも一人の兎が虎と笑っている」

  「なんか楽しそうだね」

  「ねぇ、僕らも混ぜてよ!」

  兎と虎の周りに次々森の動物が集まって、みんなで笑いました。

  ふと兎は暖かいと思いました。

  大勢で笑いあうのが、楽しくて、暖かいと感じたのです。

  「なぁ、お前一人なの?」

  「えぇ」

  唐突に虎がそうきいてきて、兎はとっさにうなずきました。

  「じゃあさ、俺を拾ってくれない?」

  「……え?」

  「だからさ、俺を拾って、一緒に暮らしてよ」

  いきなりそんなこと言いだした虎の顔を、兎は目を見開いて見ました。

  「いくところないんだ。だからさ」

  「くくっ分かりましたいいですよ」

  必死に食い下がる虎の人懐っこさに負けて、とうとう兎は一人暮らしじゃなくなりました。

  

  

  

  それから幾日も過ぎ、兎には多くの友達と呼べる動物たちが出来ました。虎とも仲良く暮らしていて、そこにはただただ平穏な日々があるだけでした。

  あの日が来るまでは……

  

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  その日はいつも通りの日でした。特に何かこれといった特別なこともない、本当に平凡な日常。

  「起きてください朝ですよ」

  兎が虎を起こそうとすると、虎がやけに苦しそうに唸っていました。

  「……っ」

  「大丈夫ですか?? 何処か痛いんですか?」

  兎が近づいて体をゆすると、ふっと虎の目が開きました。そして次の瞬間――

  虎をゆすっていた兎の手を、虎が思いっきりつかみ、噛み付きました。

  「うぁぁぁ」

  鋭い牙で噛まれたために兎の腕からは真っ赤な血が滴り落ちます。

  「っどうしたんですか……」

  それでも兎は暴れることなく虎に話しかけました。すると虎ははっとしたように目を見開くと、兎の腕から口を離します。虎の口の周りには真っ赤な兎の血がついていました。

  「どうしたんですか?」

  もう一度兎が問うと、虎は弱々しくうなだれ

  「ごめん」

  とだけ呟きました。

  虎は兎が美味しそうに見えて仕方なくなりました。

  「ごめん……もう、俺ここにいられない」

  「どうしてですか? このくらいなんてことないですよ」

  兎は慰めようとしましたが、虎は兎から距離をとります。近づこうとするものなら、鋭く

  「近寄るな!!」

  と叫びます。

  「駄目なんだ。もう……お前を食べないでいられる自信がない」

  弱々しく虎はそういうと兎に背を向けて、一目散にかけていきました。

  怪我をした兎には虎を追いかけることは出来ません。

  その後、他の動物たちに兎は手当てされます。幸いにもそこまで深い傷というわけでもなく、数日すると普通に歩けるようになりました。

  でも、虎はいつまでたっても帰ってきません。

  兎は元のように一人ぼっちになりました。

  一人で寝て一人で起きて一人で食べる。

  今までつい最近までしてきたことなのに、兎にはどれも難しくなっていました。なかなか寝付けず、一睡もしないで朝をむかえ、ご飯も喉を通らなくなっていきます。

  兎は胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちでした。前と変わらない生活をしているのに、その時には感じなかった、物足りなさがこみ上げてくるのです。何をしようにもやる気が出ず、気力もなくなっていく日々。寒くて、涙が出そうで、水の中に沈んでしまったような気持ち。息苦しいそんな気持ち。

  そこでやはじめて兎は知るのです。

  これが『さみしい』と言うのだと――

  こんなにも辛いことだと――

  兎は痩せ細った体から、これでもかと涙を流しながら

  「さみしい、さみしいよ……」

  と言い続けました。

  するとどこからともなく、友達になった動物たちが集まり始めました。

  「さみしくないよ」

  「僕らがいるよ」

  動物たちが口々にそういいます。

  「きっと帰ってくるよ」

  「僕らと一緒にまとう」

  日々やつれていく兎を心配していた動物たちは、みんなで兎を囲みました。

  兎は友達の優しさに触れて、さみしさじゃない涙を流します。

  それは暖かくて、死んでしまいそうだった兎の心を、暖めていきました。

  それからというもの、兎は友達たちと一緒に虎を待ち続けました。一人で待っていたら死んでしまったかもしれませんが、今はみんながいます。

  幾日も幾月もいく年も待ち続けました。

  

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  そんなある日。

  一匹の猫が狼に襲われていました。

  兎はすぐさま飛び出て猫を守るため駆けずり回ります。

  「みんな助けて!」

  その一言で、多くの友達が駆けつけ、猫は守られました。

  「ありがとう。貴方がパパの言ってたさみしがり屋?」

  「え?」

  「パパがね、この森に兎がいて、兎っていうのはさびしいと死んじゃうから、いってやれって」

  助けた猫は、虎柄の子猫でした。

  「うん。そうだよ。僕がさみしがり屋の兎だよ」

  「でもさみしくないね! 貴方の周りにはこんなにも友達がいっぱいいるもの」

  「うん。君のパパのおかけだよ。ねぇ僕とお友達になってくれませんか?」

  兎がそういうと、子猫は虎にそっくりな人懐っこい笑顔で答えました。

  「もちろん」

  

  

  

  こうしてさみしがり屋の兎には、また新しいの友達が出来ましたとさ

  

  ~おしまい~

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