昔の話だ。かつて、私には仲間がいた。
この広大な迷宮で死んでいった人間のなれの果てである魔物。ただ、それを狩るために生きていた仲間たちが。
何十日も、何か月も陽の光を見ずに……痩せた魔物の身体から剥いだ僅かな肉を噛んで腹を満たし、抽出されたささやかな量の油で灯りを点けて迷宮の暗闇を照らした。誰もが魔物の肉を引き裂くことに酔っていて、理由もなく魔物を狩り続けていた。高価な合金でできた頑丈な武器が折れるとき以外に、そうそう地上に戻ることは無かった。
“獣狩り”。私たちは自分が属する集団のことをそう呼んでいたし、ほかの探検家の間でもその名前は噂されていた。暗闇の中で、獣狩りに狩られないように気を付けろと。そう噂されているという話題が私たちの間で上がるたびに、馬鹿馬鹿しいと皆で笑いあったっけ。ただ魔物のみを殺すっていうのが、“獣狩り”の信条だったから。
そこは決して快適な集団ではなかったけど、私はずっと幸せに狩りを続けていた。私に存在意義を与えてくれたのはあそこだけだったから。実際、大事な友達もできたし。
ただ。
そのささやかな幸せを帯びた日々は突然終わりを迎えた。あの瞬間だけははっきりと覚えている。あの日迷宮が見せていた、黒い水をたたえた特徴的な姿も。あの底の見えない水場が広がった廊下で、突然水中から襲い掛かってきた怪物に……私以外の全員がひと呑みにされるのを見た。ちょうど集団から一歩遅れたところを歩いていたから、私は助かった。けれど友達と先輩とが食われるのをより鮮烈に俯瞰することになって……そして“獣狩り”は壊滅した。あの惨劇から逃れたのは私だけだった。
それからどうやって地上に戻ったのかはよく覚えていない。今よりもずっと槍捌きが下手だったのに、どうして無事に生還できたのだろう。ただ、幸運だったのだろうか。
槍以外の全てを失ってからは、ずっと長い間、独りで過ごしてきた。仲間を求めて、もう一度仲間を失うのも私には恐ろしすぎた。
それでも、探検家はやめなかった。独りで魔物を殺し。独りで干した肉を噛んで、独りで迷宮の暗闇を照らした。私はだんだんと迷宮の奥深くへと沈んでいった。
目的はたった一つだった。かつての仲間と友達を葬って眠らせてやること。迷宮が死人を魔物に変えるなら、かつての“獣狩り”はまだあの迷宮の奥底を彷徨っているはずだから。
……自分でもわかっている。私はただ、ここに独りで残されたくなかっただけだってことを。それでも目的に執着して孤独に迷宮の深みを目指すのは、たぶん私がその過程で死んで、皆と同じ場所へ行くことを望んでいるからだ。
残されて生きてゆくことは何の罪でもないはずなのに、今の私にはそれは途方もなく邪悪なことのように感じられた。地上の路地裏で、迷宮の片隅で眠るたびに、鋭い罪悪感が私を突き刺して苛んだ。
その日は冷たく湿った姿を見せていた迷宮の深みで、私は魔物と戦っていた。出会い頭に魔物に突き刺した槍はやや正確さを欠いていたようで、貫かれた胸からはそれほど激しく血は漏れなかった。心臓を外したのだ。私はこの毛むくじゃらの化け物にもう一撃を加えてやろうと、全身に力を込めて槍を引き抜く。灯りで照らされた魔物の姿は、狼のようだった。半狼。かつては人に化けると語られていた狼の魔物。
完全に不意を突いて背中から貫いたおかげで、魔物はまだ反撃できるような体制にない。私は今度こそ息の根を止めんと、こんどは首元を貫いてやろうと、魔物の背を一瞬、じっと見据える。すると魔物の左耳辺りを灯りが照らして、何かが光るのが見えた。ピアスだろうか。いつかの最愛の友達が、そこにピアスをつけていたことを思い出して、一瞬躊躇した。でも、結局やることは同じだった。身体を支える脚に、いっそう力を込める。
「ま……待って!」
「!」
聞き覚えのある女声が私を制止した。すこし歪んでいたけど、ずっと昔に毎日聞いていた声。人語を模倣する魔物なんて少なくないのに……私は一瞬動きを止めてしまった。
「あたしは人間と戦うつもりは……って、あなたもしかして……」
「…………」
しかし、相手はその隙を突いては来なかった。その代わりに、半狼が敵意は無い、というふうに体をゆっくりとこちらに向ける。その口調にも心当たりがあった。油断してはならないはずなのに、腕から力が抜けてしまう。私は困惑していた。
「く……クレス? あなたなんですか」
「そうよ! 本当に久しぶりね、ランジー。あなたが迷宮に戻ってくるなんて思いもしなかったわ」
暗闇に明るく輝く両の獣の眼が私を優しく見据えていた。クレス……クレーシェ。獣狩りに流れ着いてからすべてが終わるまで、ずっと私のそばにいてくれたひと。身体は暗くて長い灰色の毛に覆われて、大きな手には異形の爪が生え、狼の頭には凶悪な牙が生えていたけど、そのしぐさはいつだって未熟な私を助けてくれた彼女そのものだった。
「どうして……どうして昔みたいに私を迎えてくれるんです? あなたが死んで魔物になって……ずっと我を失ったまま彷徨ってるんじゃないかって思ってたんです。だから私があなたとみんなを眠らせてあげないとって、私、私……」
「ランジー……ずっとあたしのことを気にしてたの? そのために、こんなになってまで独りでここに来たのね」
思考が複雑に絡まって言葉が出てこなかった。混乱とどうしようもない感情がこみあげて、私は崩れ落ち、唯一の得物である槍が地面に落ちる。そんな私を見たクレーシュがゆっくりと歩いて近づいて……そのまま彼女は、崩れ落ちた私に合わせて体をかがめ、獣の腕で慣れないように私を抱いてくる。息を吸い込めば彼女の血生臭く獣のような臭いが色濃く感じられた。でもそれは、ずっと地下で魔物を殺して、皮を剥ぎ続けていた私にとってはすっかり慣れってしまった臭いだった。だからそこまで不快には感じなかった。
「…………」
私は目を瞑って、魔物と抱擁を交わしていた。不思議な気分だった。失ったと思っていたものが戻ってきたというよりは、まるで彼女と過ごした過去の時間の一部を、追体験しているように感じられたから。魔物になったクレーシェの内面が人間のままだったことに私は安心したけど、彼女の性格はまるで私たちが昨日別れたみたいに変わらないように思えた。
私の前で、焚火のようなものが燃えていた。ようなもの、と形容したのは、それが魔物の骨だとか皮だとか、迷宮に生えるよく解らない蔦だとかを集めて燃やしたものだったからだ。焚火にしては変な臭いがしたし、火の勢いもちゃんと燃えるものをくべたときよりずっと弱かった。それでも熱はもっていたから、意外にも冷たい迷宮の中ではありがたい歓迎だった。
「使い道の無いごみも集めておけば、案外役に立つものだな? おかげで久しぶりに会ったこの小娘に暖かさを与えてやれたじゃないか」
迷宮の床と壁に響く、低く唸るような声。ぬめるような艶やかさを持った黒い鱗に、火が放つ光がちらちらと反射していた。大きな黒い竜が火を挟んで、私の前に立っているのだ。
「……デテスター」
「おや、目を覚ましたか。いかにも私はデテスターさ、プランジア。この姿になって随分様変わりしたと思うんだが、そんなに面影が残っていたか?」
竜は口角を上げて、ずらりと並んだ鋭い歯をむき出しにした。どこか露悪的な笑みとともに見下すような視線を送ってくるのは、記憶通りだ。“獣狩り”の長……デテスター。私を迷宮に誘い、魔物の殺し方を教えてくれた人。彼女はいまや大きな黒い竜だ。背に大きな翼と長く力強い尾を背負い、禍々しくねじくれた一対の角を生やしたその姿は、邪悪ながらも美しい。
「……羨むような目つきだな、プランジア。お前にも魔物の美しさが分かるのか」
“魔物は死んでいった人間の奥底を映す鏡だ。これ以上に神秘的で素晴らしいものは無いだろうな! それを狩って、皮を剥ぐことで、私たちは真理に近づくんだ!” ……デテスターは狩りを先導するときにいつもそう言っていた。長を務めているだけあって彼女の状況判断能力とカリスマは素晴らしかったけど、根底に渦巻く思想は誰も理解できなかった。説明してくれれば理解できたかもしれないが、デテスターは彼女が考えていることについて深く説明したがらなかった。
「……そんなわけないでしょう。ただ、あなたの姿がほんのすこし綺麗だって思っただけで」
デテスターには魔物の姿がお似合いだと、うんざりして息を吐く。火にあたっていると、また眠ってしまいそうだった。ずっと魔物の襲撃を警戒しないといけなかったから、体から力を抜けるのは久しぶりだった。
「うふふ、ゆっくり休んでね、ランジー。こんなに深くまで独りで来たのなら、気が抜ける瞬間なんてなかったでしょう」
「ありがとうございます、クレス」
いつのまにか、クレーシェが私の傍に座っていた。いつかそうしたように、彼女の体に少しだけ寄りかかって体重を預ける。
「ランジーったら、もう……」
「は、お前にそうやって他人といちゃつくような人間性がまだ残っているとは驚きだったな、クレーシェ。いつも狩りの時は先頭を切って爪で魔物を引き裂いているのに」
「ちょっとぐらい、人間だったころを思い出してもいいじゃない、デテスター。ね?」
「あっ、クレス……」
寄りかかっていたクレーシェに抱きつかれる。さっき彼女と対峙したときに抱かれた時よりも、はっきりと毛皮の感触を頬に感じた。肌に当たるその感覚は、固い保護具や迷宮の構造材よりもずっと柔い。
「もう。長が見ている前じゃないですか」
「ふふ、デテスターの一人ぐらいがどうしたっていうの」
火が放つ熱が彼女の毛皮に捕えられて温もりを生み出していた。また居眠りしてしまいそうなほどに、心地よい。ずっとこうしていたいけど……質問するべきことを質問しなければいけなかった。
「デテスター。みんなどうして魔物になっているのに考えたり喋ったりできるんですか? 私が知ってる魔物は、とてもそんな流暢に喋ったり考えたりできないと思うんですけど」
クレーシェもデテスターも、周りにいるいくらかの魔物たちも当然のように喋っていたから、それが本来不自然だってことをすっかり忘れていた。魔物は、もともと人間だったにもかかわらず、言ってしまえばかなり行動原理が単純な存在だ。目の前にある、魔物以外の存在を襲うだけ。個体間でコミュニケーションもとらないから、獣以下といってもいいかもしれない。
「ふん……簡単さ、プランジア。私たちは魔物の本能が狩りの欲求にすっかり置き換わった存在なんだ。魔物になるということは人間の攻撃性だけを取り出してむき出しにするということは、私たちが人間だったころにも話しただろう?」
「……はい」
「魔物になる前に私たちに残されたのは魔物に対する殺意だけだった。ほんとうは他の奴がどうなのかは知らないが、少なくとも私はそうだ。そうしてその部分だけが取り出されて……私は魔物を狩り続けるだけの魔物になったのさ。取り出された部分が違うだけで、本質はそこをうろついている魔物とそう変わりないだろう」
「そうなのよ、ランジー。あなたみたいな人間に対して傷つけたいとは思わないけど、魔物を目の前にすると興奮と衝動が湧き上がってくるの。そのたびに、人間を見た魔物ってこんな気持ちになるのねって思うわ……あ、そこ気持ちいいわ、もっと頭なでなでして……」
「……何をしている」
「手元が暇だったので……それじゃあ、あなたたちは今も狩りを続けてるんですか?」
犬みたいに体を寄せてくるクレーシェの頭と背中を撫でてあげながら、私はデテスターとの問答を続ける。かつてこういう露骨なスキンシップを自分からする趣味はなかったけど、喜んでいる彼女を見るのは意外と面白かった。
「もちろん! 魔物を殺すことだけが私たちの存在意義だからな……はあ、そこの犬は例外かもしれんが」
「ひどいわね、デテスター……旧友と親睦を深めてるだけじゃない」
「……とにかく。私たちは今でも魔物を狩り続けている。人間だったころとは違って。休みなくな。魔物には食事も休息も要らん。いまこうやってお前とともに休んでいるのはめったにないことなのさ。さて……」
デテスターは暗い通路の先に視線を向ける。その先にはどうやら他の魔物がいるらしい。見知った仲間もいるだろうが、全員と向き合う気にはなれなかった。結局、私は単に組織の一員だったから。
「そろそろ、あいつらの飢えが限界に達するだろうな。狩りを再開しないとならないだろう。クレーシェ。少しの間でいいから、お前が狩りを先導しろ。私はもう少し小娘の世話をしておかないといけないから」
「あなたが言うなら、仕方ないわね。確かに、ランジーはもうちょっと休んだほうが良いでしょう」
クレーシェは私への抱擁を解いて立ち上がる。歩み出す前に、彼女は私の頬をひと舐めしてくれた。キスのつもりだろうか。
「それじゃあ、お別れね、ランジー。次に会うときお互いがどうなってるかはわからないけど、あまり私のことを重く考えないでね」
「クレス。 ……元気で」
「ふふ……変ね。普通、魔物に元気で、って言うかしら」
クレーシェはまるで私たちがすぐまた会える関係かのように、そのまま向こうへと走り去っていってしまった。あまりにも突然始まって突然終わった彼女との時間は、文字通りに夢のようだった。
「……ふむ。行ったみたいだな」
デテスターは腰を下ろした。雑多なものがくべられた火は、少しずつその勢いを失っていっている。
「独りでここまで下りてきたんだろう? 火が消えるまで、ゆっくり休むと良い。本当は私も狩りに加わりたい。が、無防備な人間をここに残しておくわけにはいかないし、消耗したお前を放り出すわけにもいかん」
「……ありがとうございます」
目を閉じる。誰かに見守られながらこうして休むのは何月ぶりだろうか。もう寄り添ってくれたクレーシェは行ってしまったけど、それでも独りで怯えながら休むのよりはずっと良かった。
「そういえば、お前はどうしてここまで、独りで降りてきたんだ?」
私は目を閉じ、壁に寄りかかったまま口だけを動かす。デテスターの口調は決してせかすようなものではなかったから、私も無理をせずにぽつぽつと話した。
「クレーシェは話さなかったんですね。あなたたちが何もかも忘れて、眠れずにこの地下を彷徨い続けてるんじゃないかって思ってたんです。だからみんなを私が眠らせてあげようと思って」
「当たらずとも遠からず、だな。私たちが言葉を話すからといって、安息を得られてないのは確かだから。どうして殺さなくていいって思ったんだ?」
「……わかりません。まだ、整理がついていないんだと思います。みんながまだ昔のままだなんて、思ってもみませんでしたから」
はっきりと胸に抱えた矛盾を吐き出して、私は黙った。見かねたように、デテスターは沈黙を破る。
「まあ、少なくとも今のお前は私を狩れないだろうな」
「どうして、そう思うんです?」
「純粋で善良で、そして幼いから。だから、傍から見たら人語を喋るだけの魔物でしかないクレーシェを殺せなかった。今私に槍を向けても、その結果は中途半端に終わるだろう……さあ、目を開けろ、プランジア。少しだけでいいから」
言われたとおりに私は目を開ける。するとデテスターは片方の手の指に、もう片方の爪の生えた手を近づけて動かした。何をしたのかと思えば、私の方に差し出されたその手には古い鉄製のペンダントが握られていた。“獣狩り”の紋章が、それには刻まれている。私がそれをぼんやりと眺めていると、彼女はせかすように手を突き出した。慌てて、私はそれを自分の手に収める。
「私からの贈り物だ。もう、それを私がつけていても何の意味もないからな。それを使うも使わないも自由だが……お前がまた迷宮に潜るのなら、私を殺しに来い。今度は独りではなく、私のことを知らない人間を連れて」
このペンダントを着けて、新しい“獣狩り”の長としてここに帰ってこい、とデテスターは言っているのだろう。でも、彼女はどうして狩られることを……死を望むのか私にはわからなかった。デテスターはここで永遠の狩りを楽しんでいるように見えたから。
「どうして、自分の命が終わることを望むんですか」
「私の命ならもう終わっているよ、プランジア。ここに残っている奴らも。お前の言葉を借りれば、“何もかも忘れて“狩りを続けているんだ。ただ生きていた頃を覚えているだけで」
「…………」
デテスターが言ってきたことを、クレーシェが同意した言葉を信じるならそうなのだろう。生前の魔物への殺意に縛られただけの魔物。人間のように見えるだけの魔物。
「全ての魔物は、結局のところ狩られるべき存在だ。狩られた時に死ぬか、いつか死ぬかの違いだ。人間とは違って、魔物は変わることはできないからな。お前が安息を与えたいと思うのなら、そうすればいい。迷宮に踏み入った、光が眩しくて地上では生きていけない人間。そいつらを迷宮の中で死なせて、永遠に陽の光を見ずに済むようにしてやるように」
「ひどい言い方ですね。いつもみたいに……」
デテスターは迷宮に生きる人間も、いつか迷宮で死ぬと、だから仲間を失うことを恐れるなと言っているのだろう。彼女のいうことに完全に賛同することはできないけど、ここで孤独に死ぬよりは、誰かのために死ぬことができるほうが良い気がした。果たして、私が、私のために誰かが死ぬことを許容することができるかはわからないけど。
「……デテスター、私……あなたをいつか狩ってみせます。それがいつになるかはわかりませんけど、私は迷宮から離れられないと思いますから」
私は目的を捨てないことにした。いつになるかはわからない。でも、私がこの地下から出て、ずっと地上で暮らしていくことは……もっとありえないだろうって思った。私は、どんなに変わり果ててもここにいるはずだ。
「そうだ。ここまで背負って降りてきた目的だ。やり遂げて見せろ」
そうして、話している間にみるみる弱くなっていった炎はついに消えた。それはささやかな安息の時間の終わりを意味していた。
「ふむ、消えたか……どうだ。立てるか、小娘」
「立てます。これからどう生きるにしたって、まずは生きて帰らないといけませんね」
「違いない」
私は立ち上がる。身体はいくぶん軽くなっていた。そして私の心も。私はまだ生きていてもいいのだろう。かつての“獣狩り”を覚えている、たった一人残された人間として。そうでなければ、彼らのことを誰が覚えているのだろう。そして目的を果たすために、私は生きてゆくべきなんだ。こんな簡単なことに、どうして今まで気づかなかったのだろうか。冷たい金属の槍を握り、装備を再び背負う。
「……でも」
でも、最後にこれだけは聞いておかないといけなかった。
「次に私があなたと会ったとき……そのとき、私がまだどうするか決められていなかったら、私が変わり切れていなかったら。こんなふうに、私をまた歓迎してくれませんか?」
「まったく、お前は昔からそうやって甘いことを言うんだな」
デテスターはうんざりとしたような口調で、でもどこか楽しそうにそう言った。
「……次にお前が連れてくる仲間が良いというのなら、まあいいさ」
「ごめんなさい。でも、ありがとう」
デテスターの言う通り、私は軟弱者だ。だけど、きっとすぐに変わる必要は無いだろうし、人はそんなにすぐ変わることもできない。今はそんなことより、自分がずっと生き続けて、もっと強くなれるって期待することの方が大事なことのような気がする。
「それじゃあ。いずれ、どこかでまた会いましょう。さようなら、デテスター」
私は竜を背にして歩き出した。私はこの地下で、ずっと生きてゆかないといけないから。いまだ終わることのない目的を抱えて。