「叛逆……か」
それは、あの死刑囚が地獄に送られる数時間前。時間の概念さえない地獄ではそう呼ぶこと自体がないのだが、体感的に言えばそうだった。
閻魔は足元に置かれた大きな鏡に視線を向けながら、静かに呟く。
「何がですか?」
「彼奴の現世での罪状よ。よくもまあ、格上相手にこのようなことを為そうと画策したものだ」
時代を生きる人間は、2つに区分されると閻魔は考える。
一つはただ上級者たちに怯える、あるいは見て見ぬ振りをしながら、のうのうと生を全うする人間。これはほとんどの人類が当てはまるものだ。
そしてもう一つは、時代を作ろうと必死になる人間。こちらは数が非常に少ない。
その中でも成功を収めた、いわゆる歴史に名を刻んだ稀有な者のことを言う。『天』の奴らはそういう者に慈悲を汲み、特に人類に対する善良な偉業を成し遂げたものは[[rb:天国 > むこう]]へと向かうことが多かった。
だが人間というのは、どうも何かの犠牲を払わねば次へ進めぬ生き物である。人々に尽くした慈善者がいる反面、粗悪で身勝手な行いを繰り返す者たちもまた存在することを閻魔は知っていた。
そんな善人も悪人もごちゃまぜに入り混じった、数え切れないほど多くの犠牲者が途端に増える時期がある。
その時は決まって、戦争というものが主な原因となっていた。
争いがあれば、勝者と敗者がある。敗れれば奴隷国として首輪を嵌められ、手足を動かすだけの存在になろう。そんな中でも、多少の情けを賜ってまともな生活ぐらいは送ってもらおうとする狡猾な者もいる。
敵国に寝返った裏切り者や密告者などがそうだった。だがそんな奴らも結局は人を騙し、味方を裏切った非道な人間に他ならない。
故に、この地獄で今も裁きを受け続けている。
「格上…ですか?」
「そうだな。例えるなら今ここでお前が我の首を取り、新しき閻魔と称して世直しをしようと謀った…といったところか」
その返答に、淫魔の頭の中は呆然としただろう。受け答えするための回答すら見当たらないほど、馬鹿げた話だったからだ。
「そいつ、頭に脳みそ詰まってないんですかね?」
「己の力量を過信したが故の愚断だったのだろう。それに奴には信用できる臣下もかろうじて残っていたようだしな。見栄でも張るつもりだったか」
この時の淫魔はまだ、死刑囚のことを知らない。だが彼の犯した罪の大きさは、閻魔から使命を受けて淫罰の刑を受刑するに等しいほどの大罪だったことを知った。
現世の世界であろうと、この地獄であろうと。
その限られた世界を治めている『長』を殺すことは…その行為すら許されない、決して犯してはならない[[rb:禁忌 > タブー]]なのだと。
[newpage]
今日も私は、ひたひたと響く足音で目を覚ます。この世界に今日という概念は無いのだろうが、小窓から覗く陽の光で本能的に1日の切り替わりだと判断せざるを得なかった。
開けた視界には、すっかり乾いた無機質な床。私の汗や涙、そして尋常ではない量の精液で塗れていたはずだが、今はその影も形もなくなっていた。
普通であればシミにでもなってしまいそうなほどの水分が排出されていた記憶があるのにそうではないということは、やはりこの場所が現実ではないことを表している。
私はその光景に、完全に慣れてしまってもいた。
「よう、死刑囚。朝日の眩しい良い目覚めだな」
金属の擦れる鈍い音に、体が過敏に反応する。
檻を開けて入ってくる虎の悪魔は、いつものように気味の悪い薄笑いを浮かべている。相変わらず屈強な肉体を見せびらかしながら歩くその姿に、私は目線を横に逸らした。
もちろんそれは奴の顔を見たくないのが理由でもあるのだが、実際にはもう一つの要因が生じていたことは分かりきっていた。抗えないその事象から目を背けたかっただけだ。
だが目の前の虎には全てを曝け出してしまっている。どう頑張っても、全てを隠し切ることなどは到底不可能だった。
「そっちもビンビンに元気じゃねぇか、今にも爆発しそうだぜ」
「んあっ!?なっ、あ゛っぐ……!!」
虎はニヤニヤと笑みを浮かべながら一言呟くなり、私の男根を足で踏みつける。手枷を外されている今ならその足を押さえて抵抗することなど容易かっただろう。
今の私に常人の力が備わっていればの話だが。
あれは体感にして数日前と言った方が正しいだろうか。目が覚めた時には手錠が外されていたことに深い安堵を覚えたが、それはすぐに消えることとなった。
私の手はもはや蟻すらも[[rb:摘 > つま]]めないほど弱々しい握力となっているようで、自身の腕でさえ満足に掴めなくなっていたのだ。とすれば、他者から与えられる圧力にも当然抵抗できる訳がない。
同時にそれは、私自身の男根を扱くことを封じてもいた。じんじんと腹の奥から湧き上がり、玉袋を伝って竿、そして尿道の出口まであと一歩手前というところまで出かかっている劣情を一刻も早く放出させたいのに、刺激を与えることすらできない。
間接的に私は、自力で射精することを禁じられてしまっていたのである。
手足の自由が得られたように思えたが、逆に不自由になっただけだった。今までは早くイきたいと思えば自分でその衝動を解放させることができたのに、それすら容易に行えなくなってしまったのだ。
それでも関わらず依然として高まり続ける興奮と共に刈り取られていく理性に、私の思考はどんどん甘いものへと変化してしまう。すっかり体に馴染んでしまった淫紋の効果も相まって、考えたこともない様々な方法で自慰を行ってしまうのだった。
床や壁に怒張した男根を圧迫させながら擦り付けたり、あぐらをかいて足で包皮を扱いたり、終いには牢の檻に亀頭を貼り付かせて激しく腰を振って快感を得てもいた。訪れる一瞬の幸福と共に激しく精を吐き出せば、こんな方法で快楽を得てしまっていたのかという激しい自己嫌悪が襲い来る。
こんなにも淫らな体になってしまったという証拠を自分で示してしまっているのだ。生え揃った鋭利な牙で自らの舌を噛み切りたくなるほど、自分という存在が嫌になっていく。
だがそれでも、溢れ出る欲情を我慢することができない。それを幾度となく繰り返してしまっていた私は、ついに虎が部屋の中にやってきたことすら認知できずに続けていたこともあった。
その醜態を晒してからというもの、奴の態度はあからさまに変化していった。
そして今日も、一番初めに私の男根を踏み潰すことから始めるのだった。両手が使い物にならない私は踏みつけられてもそれを退かすことはできない。どれだけ力一杯押しても壁のように動かず、その足首を掴むことも叶わなかった。
「あ゛ぅっ、ん゛ん…!う、ぐっ……!」
「早速キモチよくさせてやらねぇとなぁ?うん?」
完全に膨張していた男根が微かに変形するたび、私の首筋にゾクゾクと微弱な電流が走っていく。濁った声が空虚な部屋に響き渡り、少しずつ汗が噴き出してきてしまう。
部屋の中に差し込む柔らかな陽光とは、全くもって相容れない光景だろう。
奴の足の指は、気持ち悪いほどによく動いた。ぐりぐりと親指の腹で亀頭を踏みつけられ、足の裏全体を使って私の竿を軽く圧迫する。潰してしまわない程度に、だがそれ相応の痛みを与えるように。
すっかり我慢汁で濡れた私の男根は滑らかになり、より一層奴の指捌きが素早くなっていく。親指と人差し指の間に挟まれながら何度も包皮を擦られ、さらに近づきつつあった虎の股間から匂う雄の香りに興奮が高まってしまった私は、情けなく腰を引きながら喘いでしまう。
「あっ、ぐぁっ……いっ、イぐっ…!!」
腹に刻まれた淫紋によって感度の高まった体では、男根に与えられる刺激はどんな形であれ私の射精欲求をいとも簡単に満たしてしまう。虎に踏みつけられたままビュルルルッと放射される白濁は蛇のように地を這い、新たな河川を作っていった。
時間が経つにつれ強くなっていく精力のせいで一度に放出される量も格段に増えており、溶けた粘土のように目で見て分かるほど白い液体がどんどん溢れ出していく。踏み潰していた虎の足、その指の隙間から漏れ出しては存分に汚して。
それは同時に、私が次にすべきことを暗に示していた。
「また良く出たもんだ。さて、俺の足を汚した駄犬にはお掃除してもらわないとな?」
白く濁る粘ついた液体が虎の足の指を覆っている。奴はそれを見せつけるように何度も動かし、気色悪く艶めいた肉球などを私の顔に擦り付ける。
皮毛の奥底にある皮膚へと浸透させようという思惑が垣間見えるほどの力強さで、獣となってしまった私の頬毛にぐしゃぐしゃと擦り込まれてしまう。
滑った[[rb:蛞蝓 > なめくじ]]のような気持ち悪い感触、唾液を彷彿とさせる生暖かい温度、鼻の奥にツンと響く酸っぱい匂い。吐き気を催し、腹の中から胃液が込み上げてきそうになる。
それでも私は、耐えることしかできなかった。いや、耐えられるようになっていたと言った方が正しいか。
慣れとは、時に便利になるものである。初めはどれだけ嫌だと思っても、何度も何度も経験していればそれなりに順応していく。たとえそれが周りから気色悪がられるものであったとしても、死んでいる私にとっては何の問題もない。
事実、徐々に動じなくなっていたと自分でも僅かな自覚はあった。それがこの虎に悟られているかなどはどうでもいいが、少なくとも嫌悪感を理性で押さえ込むまでにはなっていただろう。
「………お掃除させて頂きます…」
「よし、いいぞ」
私は虎に忠誠を誓った奴隷のように言葉を発し、ぺろりと一番面積の広い親指に舌を這わす。ぬるく、ねばねばした液体が味蕾を刺激し、言いようのない苦味と生臭さが私の鼻と口を覆う。奴は親指をどんどん押し込み、すぐに口の中に収められてしまった。
精液と汗の匂いが口内にさらに充満し、鼻から抜ける。だがそれでも私は、無心で自らの精液を舐め取るだけだった。
歯で傷をつけないように用心しながら慎重に舐め取り、やがて全ての指を口の中に放り込む。
「今日は閻魔様のところに行くんでな、しっかりキレイにしてくれ」
虎の上機嫌な声が聞こえるが、私はそんなことを気にしている場合ではない。奴の浮いた気分に連動するように足を押しこまれ、土踏まずあたりまでを舌の上に乗せられてしまっていたからだ。
呼吸困難になってもおかしくないこの状況だが、私にはそれを押し返すことはできない。向こうから手を引いてくれるまで、奉仕を続けるしか道はなかった。
密着している口から漏れる音が何とも気持ち悪い…まるで赤子になってしまったかのように錯覚し、心の中が複雑な気持ちでいっぱいになる。
それでもやっとの思いで虎の足掃除を済ませ、口周りを無惨に汚しながら壁にもたれかかる。乱れた息を整えようと顔を上に仰げば、普段通りの嘲笑を浮かべた虎が私を見下していた。
必死に耐え忍んで舐め続けると、奴の足がふいに口から離れていく。
「よし、もう十分だ」
「……っ…」
「感謝の言葉はまだすぐに言えないようだが…まぁいいか。ようやくコッチの世界に慣れてきた感じではあるしな」
そう言うと、私がまるで自分の犬であると示すかのように虎は私の頭を撫でる。私はそれを、無言で施され続けるしかなかった。
今までは本当に嫌だったのだが、今となっては正直に嬉しがってしまっている自分もいた。強制的に「こうすれば優しくしてくれる」という経験をこれまでに何度も刷り込まれたためか、私は本能的にそう感じるようになってしまったようだった。
「じゃあ、従順な犬にはちゃんとご褒美をやらないとな。存分に味わってくれ」
その言葉の後、虎は既に屹立しかかっていた重たい肉棒を私のマズルの上に置く。裏筋の血管が鼻先に当たり、根元と玉袋の間から重厚な雄の香りが漂ってくる。それだけで私の思考はいつしかトロンと溶け始め、虎の匂いに[[rb:絆 > ほだ]]されてしまう。
私の精力は時間が経つごとに増幅しており、最近では常日頃から先走りを垂らしてはすぐに精液を吐き出すようになっていた。快感に屈してしまっているのが嫌でも分かってしまい、悔しさで心がいっぱいになる。
だが少しでも躊躇う姿勢を取れば、また何をされるか分からない。それゆえに、余計な行為を慎むようになっていたのもまた事実だった。
「………」
「まだ黙るのか?ならいい」
「ん゛っ!!ぐっ、がぼっ……!」
その言葉と全く正反対の行動をするように、虎は私の口内へとドス黒い肉棒を無理やりねじ込んでいく。何度も咥えてきたために激しい嫌悪感は薄れてきていたが、いつになってもその太さと大きさには慣れなかった。
激しく咽せたようにゴホゴホと喉奥を鳴らして息を吸い込むが、そんなことなどお構いなしに奴は私の頭を掴んで固定させる。やがて口の中が硬くなった海綿体で満たされ、私はすぐに舌での愛撫を始めさせられてしまう。
ちろちろと剥けた亀頭の裏筋を舐め、唾液と先走りを混ぜ合わせていく。私の口は人間の頃よりも長くなっており、舌を動かすのは少々難儀だった。だがそれもようやく扱えるようになってきており、虎を多少満足させるまでには至っていたらしい。
だが息苦しい事に変わりはない。奴の肉棒は私がこうしている間にも膨張し続け、いずれは喉を完全に塞いでしまうのではないかとさえ思ってしまう。
私が必死に鼻を鳴らしながら奉仕するたびに奴は腰をビクビクと震わせていたが、私はいつもこの時間が一番辛かった。
早く終わってほしい。死んでいるとはいえ呼吸の感覚がある以上、窒息という現象には激しい拒絶反応が伴うのである。
そう思っていた矢先、今まで動く気配のなかった虎の体が一気に私の完全に躍り出る。
「あ゛ッ、がっ、ごっ……う゛ぅっ……!」
「やっぱり舐められんのもいいが、自分で腰振るのが一番イイな。アンタもこうやってチンポを捩じ込まれる方がアガるんだろ?」
そう思っている暇があるなら、私はとうの昔に口を離している。その状況を分かっていて、コイツは私にそう問うているのだ。
口の中で気持ち悪い液体がどんどん増え、それを無理やり流し込むように肉棒を喉奥まで突きつけられる。やがて収まりきらなくなった私自身の唾液がぼたぼたと太ももに零れていくが、それでもなお虎が腰を打ちつける行為は止まらない。
突き出た私の鼻は何度も奴の陰毛に埋まり、性器とはまた違った類の匂いが鼻腔へと入り込んでいく。腐った干物のような雄特有の刺激臭と口内にある肉棒の感触が紐付けられ、私の愚息は再び熱を帯びていた。
無論、これが気持ち良くないわけがない。
強制的に興奮を高められた肉体が完全に拒否することはなく、むしろ快楽を求めて私の舌を突き動かしてしまう。
私は無心で、早く射精してくれることを祈りながら耐える。ぐちゅぐちゅと耳障りな音が私の耳の中を侵食し、また一つ卑猥な経験が私の心に積み重なっていく。
「そろそろだ、しっかり喉開けて飲み干すんだぞ」
言葉を全て聞き取り終わる前に、虎はしっかりと栓をして私の口から逃げ場をなくす。次の瞬間にはブルブルと震えた肉棒が舌に叩きつけられ、白濁の大砲が勢いよく発射された。
「───ッッ!!…んぐっ、んぐ、うぅっ……」
ドビュルルッッ!と五月蝿いほどに濁った音が口の中で響き渡る。ドロドロに溶けた蝋燭の塊のような液体が、私の喉奥に直接衝突しては食道へと落ちていくのが分かる。かなりの熱さも携えていたために胸元が焼け付くように疼き、粘着性の高さも相まってなかなか溜飲が下がらなかった。
どれだけ喉を鳴らしながら飲み込んでも止まることはない虎の射精に、私はいつもの如く涙を滲ませながら喉を必死に開け閉めするしかない。ごきゅっ、ごきゅっと唸るような轟音を上げながら、力の入らない両手で床に爪を突き立てて目を瞑る。
気絶してしまうのではないかというギリギリまで追い込まれるが、まるで全てを分かっているかのように虎は私が意識を手放す一歩手前で顔を離すのだった。
反射的に思い切り呼吸を繰り返すが、舌に残る生臭い白濁と鼻の奥にこびりついた突き刺すような刺激臭に、無味無臭のはずだった新鮮な空気はどう足掻いても汚されてしまう。肺いっぱいに吸い込んだはずの空気はもはや、毒ガスのそれと何ら変わりないものへと変化していた。
胃の最下層部分がさらに熱くなった気がしてならない。場所で言えばちょうど淫紋に当たる部分だろうか、たった一回で既に許容量の半分ほどが埋められてしまったような感覚だった。
「全部飲み干せたな。飲むことに関してはそれなりにできるようになったじゃねぇか」
「はぁっ、はぁっ…ふひゅうっ……」
「アンタもここにきてからそれなりに経つもんな?うん?」
涎と涙と鼻水、そして精液でぐしゃぐしゃになりながらも頭を撫でてくれる。これ以上ない侮辱行為でもあるにも関わらず、奴の絶妙な力加減に自然と頭を突き出してしまう自分が情けなくて、体を引き裂かれるような気分に気が狂いそうになった。
地獄というこの場所が、私をここまで淫らな行為で貶めるこの虎が…憎くて仕方がなかった。もし手の力が戻っていれば、奴の首根を掴んで握り潰そうとしたかもしれない。
だが…私にはできなかった。湧き上がる苦渋の怒りを痛い思い出で塗りつぶし、必死に理性で押さえつけるようになってしまっていたのだ。
多少の苦しみはあれど、痛みがないだけ刑罰としては恵まれているのではと考え、結論づけた。慣れさえしてしまえば、いくらでも耐えることはできるだろうと。
そうすれば私は、少ない時間と刑罰でこの地獄から解放されるのかもしれない。
今ではその気持ちが、より強くなっていく一方でもあった。
これまでにさまざまな経験をしてきた私は、さっさと生き返るにはこうした方が最も早い道なのだと割り切るようになっていた。どれだけ接吻を施されようとも、卑しい行為をされようとも、他人の足を舐めようとも……私はもう、耐え忍ぶことを決意した。
従順なフリを装って、この忌々しい刑罰から一刻も早く逃れるために。
そのためなら、いくらでも我慢してやると誓った。私とて一介の軍人なのだ、ここで廃れては誇りも何も言えたものではない。
「よし、俺の出る幕は今日はこれで終わりだな」
今日もいつもと同じように、虎から施される行為に対しての心構えをしていた私だったが、それはすぐに無駄だということを知った。予想外の言葉に、私は目を丸くさせてしまう。
「…えっ?」
「言っただろ、これから閻魔様と話し合いがあるんだよ。かなり時間がかかるんでな」
閻魔と獄卒同士が形式的な談論を行うことにも驚いたが、それよりも私は別の意味で混乱していた。
これからどうなるのだろうか。私を担当するとまで語っていた虎自身がこう言ってしまっては、私も混乱せざるを得ない。
だがここは地獄、情けをかけるような所でもないことなど嫌でも分かりきっていた。
「……どうせ代わりがいるのだろう」
「ご名答、話が早くて助かるよ。おい、入ってこい」
少しの静寂の後、奥の方からうるさいほどの足音が聞こえてきた。それは明らかに粗暴と呼べるものであり、聞き覚えなのない私は少々恐怖に襲われる。
ひとえにそれは虎の行いがしっかりしていたことの裏返しでもあるのだが、いざその時がようやく訪れたのかと思うと心構えすらままならなかった。
一体誰が来るのだろうか…虎よりも乱暴だと覚悟はしていた方が良いのだろうが、何をされるのか想像もしたくない。
だが、地獄であっても流れる時は止まってはくれない。
次第に近づくその足音の正体に、しばらく忘れていた恐怖を思い出してしまうのだった。
「な…!?おっ、お前は……!」
火にさらされて煤けたような真黒の毛皮、虎よりも僅かに高い身長と、筋骨隆々の肉体。こちらも虎に負けず劣らずのにやけ顔を晒しながら、私の近くへと一歩一歩近づいてくる。
四角く伸びた口吻から覗く歯は肉食ではなく草食動物、さながら人間とほぼ同様の形。眉毛の延長線にある頭頂部から生えている象牙色の角が、なんとも言えない禍々しさを醸し出していた。
その後ろから歩いてくる奴もまた、特徴的な体の作りが見て取れる。角もなくそこまで逞しくはないが、伸びきった前髪は目元を隠して表情を読み取ることができない。
だがそれでも、その雰囲気には見覚えがあった。ありすぎていた。
「よう、また会ったな死刑囚」
「こ、こ、こっ、こんにちは……久しぶ、り…」
牛の頭と、馬の頭。
罪人を裁き、監視する、地獄の番人。くぐもった鈴の音が、汚れた褌の中から聞こえてくる。
あの2人が、私の目の前に突っ立っていた。
[newpage]
「いやぁ驚いたぜ、お前の方から頼みに来るなんてよ」
「前にお世話になってたらしいからな。俺のいないところで……な」
部屋に入って早々、険悪な雰囲気が流れる。私はそれどころではないというのに、この2人は互いを睨み合って薄ら笑いを浮かべていた。
虎、牛、馬という化け物3人が肩を並べて会話しているなんて。私の知る人間なんて、この刑が始まってから一度も見たことがない。
地獄には化け物しかいないのか…!?
「あーあー、そん時ぁ悪かったな。でもそのおかげでアイツもしっかりチンポしゃぶれるようになったんなら俺のおかげじゃねぇの?」
「お前はいつも初めから飛ばすから嫌なんだよ。少しずつ慣らしていく予定だったのに…だがまあ、手間が省けたことに変わりはねぇ」
「…あぁ!?なぁんだちゃんと感謝してくれてたのか、はっきり言えってんだよ!」
さっきまで睨み合いながら互いを罵り合っていると思えば、いきなり和解して急に歩み寄るような仕草を牛頭が取っていた。それをひらりと交わす虎も虎だが、感情の起伏が激しすぎるだろう。
訳が分からない、意味不明にも程がある。
状況が理解できそうになかった私でも、それだけは分かった。だが狼狽えていた私の元に音もなく近寄った虎は、いきなり私の腹を触ってきたのだった。
「なっ、何を…!?」
「淫紋の強度を少し上げた。次の段階に進むために必要なことなんでな」
「はっ…?嘘だろう…!」
私はその言葉の真意を聞こうと鼻先を虎の方へと押し出すが、すぐに視界は薄汚れた褌と太ももに遮られた。うっと声をあげてしまいそうになるほどの悪臭が鼻先を掠め、恐ろしくて見上げることすらできない。
「おおっとお話はそこまでだぜ。こっからは俺たちが代わりに可愛がってやるからよォ」
「やっ、いやっ……やめろ…!」
遠くで扉の閉まる音が聞こえる。同時に私は、虎のことがひどく恋しくなった。
それは俗にいう恋慕の気持ちなどではない、むしろ恐怖から起きた感情である。目の前にいるコイツらよりも遥かにマシな罰を施してくれる虎に、居てほしいと懇願する視線を送る。
だが、奴の顔がこちらを振り向くことはなかった。その姿がどこへ行くのかも見終えることなく、視線を強制的に元に戻される。
「アイツからは好きにしていいって言われてるからよ……ケヒヒッ、たっぷり楽しもうぜ?」
背筋をゆっくりと撫でるような気持ち悪い声が、私の思考を恐怖で染め上げた。
[newpage]
「いいか死刑囚、お前は俺たち獄卒を気持ち良くさせりゃそれでいいんだ、そのためにしなきゃいけねぇことぐらい分かるだろ?」
「…………」
クソ野郎が……!
今この瞬間だけは、牛頭だけでなく虎にも激しい怒りを感じていた。なぜこんなヤツに代わりを任せたのか、信じられなかった。
いや…一瞬でも優しさを思ってしまった私が愚かだったと、そう教え込ませたかったのだろうか。
「お前はな、最終的には上も下も、両方の穴を使えるようにならねぇといけねぇんだよ」
そう言いながら、牛頭は私の腰から下を指差していた。誘導されるように視線を移動させてしまった私は、その先にいた馬頭を見つける。
ソイツはいつの間にか私の股の間におり、同時に足首には枷のようなものをはめられていたことに気づく。動かそうとしてもビクともせず、鋼のような銀色の杭が勝手に打ち込まれていた。
「なっ、何だこれは…!やめろ、何をしている!?」
「とぼけんなよ。お前も薄々勘づいてるんじゃねぇのか?まあ、始めて会った時にすこーしだけ経験させてやったけどなぁ…あん時はすぐ気絶しちまったから覚えてないかもな」
直後、一瞬だけその光景が脳裏に蘇る。生まれて初めて味わったことのない感触と、恐怖に塗りつぶされた記憶。瞬きの合間に断片的な記憶が繋がり、全てを察した私は必死に逃げようとした。
だがもう、遅すぎた。というより、元から逃げ道などないのだ。
「嘘だっ!こんなもの、正気じゃない…!!」
「ハッ、正気だと?この地獄にいる以上、正気でいることの方が馬鹿だってことを教えてやるよ。向こうでも偉そうぶって言ってたんだろ?『習うより慣れろ』ってな」
「ぐぁ!?」
その衝撃は、油断していた私にとってかなりのものだった。鳩尾あたりに突き刺さったのは牛頭の尻だということを知ると同時に、茶色く薄汚れた白地の布が目の前に鎮座している。
膨らみを形作っているのはおそらく奴のアレなのだろうが、先端にしてはあまりにも太すぎる…!首元にずっしりと重みのあるそれが徐々に実感を帯び、全身が震え上がっていくのが分かる。
目を背けたくなるほど汚らしく、鼻の曲がりそうな悪臭を放っているそれは…この世のものとは思えないほど悍ましい何かであった。その正体を知るよりも先に、牛頭の声が頭上から降り注ぐ。
「俺たち2人でお前を躾けてやる。俺は嗅覚と視覚、そして味覚を徹底的に覚えさせ、アイツは尻を開発する」
「……は…っ…!?」
それは、私が生きていた時でさえもほとんど聞いたことのなかった単語だった。性とはほぼ無縁の生活を送ってきた私にとって、想像もつかないものであったのだ。
それでも性交の意味ぐらいは知っている。私とて全く興味がなかった訳ではなく、共に愛を育んだ妻もおり、子供だって授かった身だ。
だが今この状況において…相手となる女性はどこにもいない。
ならば、誰がメスとして挿れられる側に回るのか。誰が雄として君臨するのか。
答えはもう、分かりきっていた。だからこそ私は、この瞬間が嘘であってほしいと強く懇願するしかできなかった。
「なっ、や…やめろ、やめてくれ…!」
「ダメに決まってんだろ。まあ安心しとけ、俺様の匂いが病みつきになる頃にはすっかりほぐれちまってるよ」
「嫌だ、嫌だっ!やめっ……んぐっ!?」
必死の思いで呟いた言葉も、奴には響きすらしない。私の伸びた口吻にその膨らみが押し付けられ、息をするのもままならないほど重厚な匂いが立ち込める。獣であり、雄であり、地獄の番人でもあったその匂いは…形容し難いものだった。
しっかり吸い込んでもいないのに、私の鼻の奥を目指して無理やり侵入してくる。小便にも似たアンモニア臭が鼻腔の奥へと突き刺し、脳天を痺れさせていく。
汚い、臭い、気持ち悪い……!罵倒の言葉が頭の中を埋め尽くすが、目の前の汚物は私の顔をその悪臭とともに塗りつぶしていく。
慣れもあっただろうが、虎の逸物を舐めていた時でさえこんなにも嫌だという気持ちは湧いてこなかった。だが今は明らかに違う、明らかな悪意あっての行為なのだ。
私は無我夢中で拒否していた。力の入らなくなった手のひらで必死に抵抗し、ぐっしょりと濡れた牛頭の尻毛を叩く。だがその衝撃など奴にとっては何も感じないのだろう、私はなすすべもなく腕を奴の足に組み伏せられ、あぐらの中に顔を埋められるように太ももで顔を完全に固定されてしまった。
「淫魔の奴から即時反射痛覚は消してもらったみてぇだが…抵抗なんぞするもんなら俺は容赦しねぇからな。問答無用でブン殴ってやる」
「……っ、んんっ、ぐぅ……!」
「知ってるか?一応地獄にも身なりの秩序はあってな。[[rb:淫魔 > アイツ]]を除いて獄卒は基本的に全裸でいちゃいけねぇんだよ。だからコレを穿かなきゃいけねぇんだ」
ぐりぐりと押し付けられるたびに、生暖かい液体が染み出している……
それが何なのかは想像もしたくない、したところでどうにもならない。今私にできることは何だと必死に頭を働かせようとするが、徐々に興奮しつつあったのもまた事実だった。
どれだけキツくても、「雄の匂い」という概念をほぼすかっり刷り込まれてしまった私の体は素直に反応せざるを得なかったのだ。
信じたくないのに。それでも、この先を期待してしまうもう1人の私が…胸の奥底で燻っていた。
「でも俺たち2人は灼熱の担当なんだぜ?燃え盛り続ける炎と釜風呂、おまけに溶岩まである。暑くて暑くてたまらねぇから、こんなもん脱ぎたくてしょうがなかった。そんな時、ようやくお前が来てくれたってワケだ」
「……ん゛っ!?んぶっ…!!」
その時だった。牛頭の重たい体が乗せられているにも関わらず、びくりと私の体が震えては波打つ。それは顔じゅうに広がっていたあの気持ち悪い感覚ではなく、下半身で始まった別のもの。言い換えればそれは、既に小さな快感として認識していたかもしれない。
だが身構える時間などなく、ずぶずぶと何かが尻穴の中へと入り込んでいく奇妙な感覚に震えることしかできなかった。
「おっ、始まったか。そんじゃ俺も始めるとするか」
「ん゛、んんぅ゛ッッ!!?」
尻の感覚に気を取られていた私は後頭部を掴まれ、首から上を完全に支配されてしまう。気づいた時には遅く、唇とほぼ密着していると言っても過言ではないほどその褌を思い切り押し付けられた。
ぼやけた視界に映るいく筋ものシワが生まれていた鼻は、このままいけば潰れてしまうのではないかと思えてしまった。布地がその下に包み隠しているモノから生まれているであろう液体が、じわじわと私の発達した鼻に染み込んでいく。
「俺様の汗がたっぷり染みてるからなぁ…すぐに虜になっちまうかもな」
「……ッ!!───!!」
不快感という概念を寄せ集めたようなその感触に、私の目に涙が浮かぶ。だがボロボロと頬を伝う清廉な雫が奴の水分と交わっているのだと思うと、その歯痒さと苦しさからさらに溢れ出してしまった。
これ以上肺を侵されたら、鼻の中に匂いがこびり付いたら…完全に廃れてしまう。そんな気持ちでいっぱいになりながらも、私は受け入れるしかできなかった。
だが、ここで私は自分の体の変化に驚き悲しむことになる。
あんなにも吐き気を催し、幾度となく胃液が込み上げてきそうになったその匂いにも、次第に慣れてしまっていたのだ。それは理性が十分に残っていた状態の私でも気づいてしまえるほど、目立った変化だった。
むしろその香りは、どんどん私の思考を霞ませていた。嗅げば嗅ぐほど体の中がゆったりとした心地になり、腹の奥からムズムズと熱を帯びた違和感が膨らんでいく。
これはダメだ…これ以上嗅いだら、私は後戻りできなくなる…!
そう直感が叫んでいるのに、スンスンと愛おしそうに奴の股間へ鼻を鳴らしてしまう。自分の理性で抑えられない欲望が、どんどん私の心を蝕んでは確実に侵していく感覚がする。
熱に蒸された重厚な雄の匂い。肺が重たくなるほどの質量を持っていた奴の蠱惑的な臭気に魅了を施された私は口を情けなく開け、小刻みの呼吸を繰り返すケダモノとなっていた。
やめろ、やめろっ…これ以上は本当にダメだと分かっているのに…!
やめられない…………
「お?もうヨダレ垂らしてやがんのか。さすがは淫魔の野郎に仕込まれただけはあるぜ」
反論もできなかった。仕込まれたのは事実であるし、何度も奴の腋汗や男根を舐めたのだから。
だが、それとこれとは話が別だ。こんな汚らしい、嫌悪感云々よりも近づくことすら避けたくなる奴のモノに対してこのようなことをするなんて…何が何でも嫌だ。
だが私の思考回路はすでに酩酊し始めており、快感の方へと敏感になっていたらしい。それを知ることになったのは直後のことだった。
「……ん゛っ!?」
「と、りあえず、ゆび1本、入った…」
「おう、そのまま続けて拡げてくれ。3本入れば今回はいい方だろ」
「ん、分かった…」
急激に感じる尻穴……ではなく、尻の内部での違和感。排泄するためだけにあるその部分に、外側から何かが入り込んでいた。反射的に肛門をキツく閉めようとするが、ヒリつく痛みに思わず歯を食いしばってしまう。
だが、それでも侵入してくるそれは動きを止めることがない。それよりも奥深くを目指すというよりは、私の肛門を引き伸ばすようにグイグイと押し拡げていくようだった。
私はその感覚に思わず口を開け、変な声を漏らしてしまう。
「んっ、んぁ、なっ、何を…っ!?」
「指でお前のケツ穴を拡げてんだよ。死刑囚なんかに慣らしなんて必要ねぇとは思ってたが、感度も喘ぎ方も断然違うんでな。だから俺もアイツに協力してんだ」
「そっ、そんなことっ…あっ、ぐぅ…!」
腹の中を何か得体の知れないものが埋め尽くしている。そんな感覚で胸がいっぱいだった。
押し出そうと力を込めても逆に押し込まれ、内臓を押し潰されるような息苦しさに襲われる。呼吸を安定させようと無意識に力を抜いてしまい、そこを狙われてまたさらに奥まで……
言葉遣いの不安定さからは想像もつかないほどの器用さだった。まるで私の感情を全て把握しているかのように、奴は指の動きを絶え間なく変化させてくる。
終わることのない違和感の連鎖だった。必死に尻穴を閉じようとすれば、逆にその部分が焼け付くような痛みを感じるだけで全く意味を成さない。
私がこうして悪戦苦闘しているうちにも、ぐにぐにと無造作に肛門を拡げられている感覚が悍ましくてたまらなかった。
「ぐ、あぁっ…くそ、ぐぅうっ…!」
「苦しいだろ、痛いだろ?イヤだよなぁ……じゃあ、その感覚を忘れさせちまえばいいワケだ、こうやってな」
「!?やっ、待て、んがっ!!!」
言葉の真意を知ったのとほぼ同時に、私は再び口を開けない状態にされてしまった。牛頭の力は途方もない強さで、私の頭を押し付けているだけでなく握りつぶさんとする勢いで締め上げていたのだ。
雄の匂いと汗、そして尻穴の奇妙な感覚に加えてギリギリと鈍い痛みを与えられるせいで、私の思考はほぼ停止していた。
再び鼻の中の蹂躙を始めるあの匂い。なすすべもなく、鼻腔の隅々にまで心地よい悪臭が染み渡っていく。
聞こえてくるのは牛頭の口から漏れる荒い息遣いと、くちゅくちゅという気持ちの悪い音。おそらく弄られている私の尻からなのだろうが、自分の体から出た音だとは信じたくなかった。
だというのに、私の逸物は硬く勃起し続けている。虎が言ったように感度を上げられたのだろうが、こんな酷い匂いにまで興奮するようになってしまったのかという事実を突きつけられている気がしてならない。
「じきにお前は雄の匂いを嗅いだだけで発情するようになるさ。そして我慢汁をドバドバ垂れ流しながら俺たちに懇願するんだ、『精液を恵んでください』ってな」
「……っぐ、そんなこと…!」
「2、本目、もう、入ってる…よ」
「にっ、2本だと…!?」
その時、不規則な言葉遣いが私の耳を遮る。馬頭のことを考えてしまったと同時に尻へ意識がいってしまい、また同じような息苦しさに耐えなければならないのかと身構えた。
肛門に指が2本も入っているという事実すら受け入れ難いのに、固定されてしまった体では身を捩って気を紛らわすこともできない。
「ほう、思ったよりも早い順応だ。ってことはそろそろ感じてくる頃だな」
その言葉の直後だった。急にじんじんとした熱が臍の直下から沸き起こり、それは瞬く間に私の体中に広がっていく。それは、幾度とない射精を繰り返してきた私でも言い表せない奇妙な感覚だった。
まるで弱々しい射精を永遠に繰り返しているような…精液を吐き出した後に来る、ぼんやりとしたあの曖昧な快感に似ていた。
妙に体を預けたくなってしまう。尻穴を指で弄られ、汚れた股間を押し付けられているのに。
「……!?」
その時、私の意識は感じ取った。意識を微かに向けていた尻の方から、何か生暖かい液体が漏れ出していたことに。
死後の世界ゆえにそれが汚物でないことは分かっていたが、それでも排泄物のような感覚が抑えきれない私は妙な声をあげてしまう。
「なっ、なんだ…?」
「出てきた、けっこう、早いね…」
私が混乱していてもその分泌は止まらない。ぐちゅぐちゅと指で尻の内部をなぞられるたびに体が震え、得体の知れない液体がどんどん溢れ出していくのが分かる。
その光景を見てから、牛頭はいきなり私の頭を離しては目線を上向きにした。あの忌まわしい匂いと汗から解放されたが、それよりも今は尻の方への不安が大きかった。
「へぇ……お前、メスの素質はあるみたいだな」
「はっ…?な、何を言っている!?」
「初めて弄られてんのに腸液たくさん分泌させてるヤツなんてそうそういるかっての。やっぱりお前は、軍人の皮を被った相当な淫乱野郎ってことだ」
腸液だと…!?
牛頭の言っていることが全く理解できないまま、なおも分泌は止まらない。馬頭に弄られれば弄られるほど、私の尻穴からとめどなく流れ出てくるそれが気持ち悪くて仕方なかった。
だが同時に、あの微弱な快感が広がっているのはその場所からだということも分かっていた。正確に言えば、尻穴のさらに奥。雄のみが持つと虎から耳に挟んだ、前立腺という部分のことだろうか…?
確証は持てない。だが馬頭の指の腹がとある箇所を通り過ぎるたびに、電流のような感覚が迸るのがどうしても気になっていた。
その場所を何度もぐりぐりと押される度に妙な圧迫感と快感が尻の中から広がり、変な息が漏れてしまうのだ。
「ンなこと言って、ホントは気持ちいいんだろ?淫魔からもらったモンにハズレはねぇからな」
「あ、アイツから…!?」
「ちょっとした薬みたいなもんだ。お前の生きてた世界では媚薬とか言ったか?」
媚薬…!!その言葉を聞いた途端、今起きている全ての現象を理解した。
だが理解したとて何も状況は変わらない。相変わらず一方的に秘部を弄られながらも反応してしまう自信の体を拒絶しながら、私は叫ぶしかなかった。
「そんな、そんなはずない…!こんなことされて喜ぶ奴などいる訳ないだろう!!」
「お前の実際喜んでるみたいだけどな?ほら、そろそろコイツも我慢の限界だろうし」
「んぁ゛ぁっ!!?」
いきなりだった。ぎゅうっと今にもはち切れそうだった私の男根が大きな手のひらに掴まれ、あまりの気持ちよさに思いっきり叫んでしまう。同時に肛門までもを締め付けてしまい、閉じた門の中に取り残された指が一瞬だけ動きを止めた。
だがそれはほんの数秒の出来事で、すぐにまた執拗な拡張が再開される。だが今はそれに加えて、私の男根を扱かれていた。
「あんな弱々しい握力じゃあ自分のチンポもシコれなかっただろ?今楽にしてやるよ。……ただし、俺様の股座の匂いを嗅ぎながら、な」
虎によって事前に射精してはいたものの、初めの頃よりも遥かに高まっている精力のせいで大量の先走りが私の肉竿を落ちていく感覚がする。
ぐじゅっ、ぐじゅっと泡立つような音を立てて扱かれ、私は何度も苦悶の声を漏らしてしまう。自分で扱けなかった分の反動も相まって、射精欲求はすぐそこまで来ていた。
「雄の匂いを嗅ぎながら尻穴も弄られたままでチンポを扱かれるのは気持ちいいだろう?存分にイっちまっていいぜ」
「あっ、んぁ、ううぅ、ああぁ゛っ……!!」
「射精という行為に対して匂いと尻穴の感覚を紐付けしてやれば、お前は次第にチンポを扱かなくても簡単にイける体になれるぜ」
焼き切れそうな快感の渦の中で、牛頭の言葉が頭へと響いていく。そんなモノで紐付けされて射精するなど、想像もしたくない…!
だが私はどうすることもできない。急激に高まっていく体中の悦楽と共に思考回路はドロドロと溶けていき、ろくな考えも思い浮かばずに身を委ねてしまう。鼻に押し付けられた布地から漂うひどく饐えた匂いが気分を酩酊させ、全身の力が抜けていく。
「そうだ…雄の匂いも、尻穴を弄られることも気持ち良いものなんだよ。お前は何をされようが、その全てが快感に直結するんだ」
「……う…ぁ………」
意識が混濁していく……受け入れてはいけない感覚を、逆らえなくなった本能が飲み込んでしまう。
牛頭の言われた通りに、私の体が享受していたモノ全てを快楽へと変換させようとしていた。
いつしか私の喉を潰すようにかかっていた牛頭の体重のことなども忘れ、尻穴に今もなお入り込んでいる2本の指に意識を持って行かれていた。縦横無尽に[[rb:畝 > うね]]る指の腹が腸壁を変形させるたびに、ゾクゾクとした微弱な快感が体の中から湧き上がってくる。
くそ、何で……今されていることは男である私が施されるものではないはずなのに。穴の準備を済ませるのは女の役割であるはずなのに…!
どうして私は…こんなにも続けてほしいと願ってしまっているのだろうか……
「律儀なご主人様呼びなんていらねぇからよ、お前が生前に犯した大罪なんて全部忘れちまうくらい激しくイってくれや」
掴んでいた手のひらの上下運動が激しくなり、同時に尻穴を弄る強さも大きくなっていった。股間と尻のどちらから鳴っているのか分からないくちゅくちゅとした音がやけに耳に入り込んでくる。
鼻に擦り込まれた強すぎる雄の匂い、痛みを伴っていたはずの尻穴の拡張はいつしか快感へと成り変わり、尿道の中を子種が駆け上がってくる壮絶な快感に意識を手放しかけた。
これ以上ないほど最大級の興奮を味わされながら、耐えきれなくなった私は小さく叫ぶ。
「…んあっ、あっ、あぁっ…!だ、だめだっ、もうっ…無理だ……イく…イ゛…っ!」
ビュルルルッッ!!と、自分でも信じられないほどの勢いで外界へと放たれていくのが分かる。真っ直ぐに天を向いた私の男根がビクビクと暴れ狂い、暴発しながら白濁を周囲へ撒き散らしていく。
何度も何度も小刻みに解き放たれる精液は私の体にぼたぼたと垂れ落ち、ビクついていた足に繋がれた鎖がジャラジャラと鈍い金属音を立てた。
おそらく私以外の2人にも降りかかっていたかもしれないが、そんなことなどどうでも良くなるぐらいの気持ち良さだった。それは自分でいそいそと男根を扱くようなごく普通の自慰行為では到底感受することのできない、常識を超えた悦楽。
それに加えて奴の股座の匂いと尻穴の気持ち悪さに包まれながら致してしまったことで、「射精」という概念の中に二つの項目が追加されかけていた。
それほど強大な衝撃だったのだ。
「あーあー派手に撒き散らしやがって、思いっきりかかったぞ」
「あ…う……はっ、はぁっ……」
「まあいい。俺の匂いと尻穴、どっちが気持ちよかったか言ってみろ」
「あ……あぁ…」
感じたことのなかった絶大な快感に、私は呆けてしまっていた。まさかこんなにも気持ちよすぎるものだとは思わなかった、どうしてこんなにも───
「──あがッ!!!?」
「おい、テメェだけ気持ち良くなってんじゃねぇぞ。どっちが気持ちよかったかって聞いてんだ」
さっきまで見えていたはずの天井が急に見えなくなり、頬に感じた衝撃の後に脳がガンガンとする。後からやってきた鋭い痛みで私は正気に戻り、自分が何をしていたのかを悟った。
牛頭の唸るような声ですぐに意識を持ち直し、かろうじて覚えていた先の質問の答えを考える。
しかし、正直言って甲乙つけ難いものだった。どちらにせよ、私を凄まじい快感の波へと飲み込んだのは間違いない、それをどちらか一つに絞るなんてことはできなかったのだ。
「そ、それは……」
「どっちか決めらんねぇってか?んだよ、完全に俺の匂いにやられたと思ってたのになぁ」
「お、おれだって、けっこう、頑張っ、た、よ…」
この状況において競い合っている意味が全く分からないが、私とて自分がこんなにも性の快感にやられたのは初めてだった。嬌声を上げていた淫猥な自分の姿をふと思い出しては、キリキリと胸が締め付けられる感覚を覚えてしまう。
あれはまるでメスのような…完全に雄としての矜持を失くし、阿呆みたいに腑抜けていた。自分が自分でなくなったような虚無感が、私の心をゆっくりと蝕んでいく。
だがそれも、離れることのなかった牛頭の股座から香る淫臭によってかき消されようとしていた。
次なる興奮が私の体に熱を帯びさせていたのだ。今までとは明らかに異なる復活のスピードに、淫紋の感度を少し上げたという虎の言葉を思い出す。
こんなのは少しどころの騒ぎではない…!むしろこれ以上続けたらどうなってしまうのかという不安の方が大きかった。
だが腹の奥から湧き上がる情欲に勝てるはずもなく、もじもじしている私を見下しながら牛頭は笑った。
「まあまだ最初だしな、これからが本番だからよ」
「…なっ、まだ続くのか!?」
「当たり前だろうが、頭腐ってんのか?いいから大人しくコレ巻かれとけ」
そう言うと牛頭はおもむろに立ち上がりあの汚れていた褌を脱ぎ始めた。改めて見ればそれは使い古された雑巾のようにボロボロで、覆いとして機能していたのかが疑問に思えるほどだ。
あまりにも自然に、そして唐突にボロンと飛び出す奴の肉棒が目につく。それは牛の名を持つ化け物に相応しいほどの雄々しさを放っていた。
平常時ではないと信じたくなるほどの太さを誇っていたそれは茶色く濁り、ヤツの粗暴な心を表しているかのような大きさ。もしあれが勃起したらと思うと…背筋にぞくりと悪寒が走る。
しかもよく見ると男根の根元に何か輪っかのようなものを携えており、陰毛に隠れるようにして少し黒く煤けた銀色の丸いものが見える。
それは鈴だった。褌を脱ごうと足を動かすたびにチャリチャリと本来の音では無い鳴り方をしており、ほとんど鈴としての機能を発揮していない。
そもそもなぜあんな場所についているのかと意味不明に思ってしまうが、次第にそんな悠長なことを考えている場合では無くなっていた。
恐怖と不安から本能が働き、後退りしようとするも繋がれた鎖のせいで足は動かず、体勢を整える時間もなく再び馬乗りになる形で体を固定されてしまった。
「嫌だっ、嫌だっ、そんなもの…!!」
「うるせえな、嗅覚にはこうするのが一番なんだよ。黙って嗅いでろッ!!!」
急に激昂した牛頭に頬を殴られた私は意識を失いかけ、首から上を支える力を失った。それを狙っていたかのように奴は素早く私の口を塞ぐように濡れた布で覆い、ほどけないよう後頭部でキツく結ばれたのが分かる。
私はもう、これで奴の匂いから逃げられなくなってしまった。口も開けず、呼吸をするたびに鼻が曲がってしまいそうな激臭を嗅がなければならなくなったのだ。
「ぐ……んん゛ん…ッッ…!」
頭の中を絶望が染める。ぐちょぐちょに気持ち悪く湿った布地がピッタリと鼻や口先に密着し、少しずつ染み出す液体が口の中へと入り込んでいく……
しかし、こういった気持ちの悪い感触に対する嫌悪感はどんどん下がってきていた。これまでの行為によって強制的に体が覚えてしまったのだ。
普通であれば萎んでしまうはずのこの状況においても私の男根は完全復活し、我慢汁を垂らしながらビクビクと脈打ち始めてしまう。
「へへ、よく似合ってるぜ?嗅覚はこれでいい。次は視覚だが…俺様のチンポを見てろ、それだけだ」
「なっ…!?がひっ…!」
普通の呼吸もままならない私は牛頭に頭を掴まれ、首を起こされて固定された。目と鼻の先にはずっしりと構える巨大な玉袋と陰茎、そして体に垂れ落ちる透明な液体。
私の視界には、悍ましいの一言を煮詰めたようなその物体しか存在しなくなってしまった。
一体奴は何を言っている…?
こんな汚らしいものを見続けたら気が狂ってしまうに決まっている…!誰が好んで見るかと思い、私は目線を外す。
その、ほんの僅かな一瞬だった。
「──!!?」
鳩尾に強烈な衝撃が走る。声も出せないほどの衝撃に喉の唾液が逆流し、苦くてぬるい液体が込み上げる。今まで忘れていた痛みが突然与えられた私は顔を歪ませ、涙を滲ませてしまう。
拳が叩きつけられたと知るまで、かなりの時間を要した。
「今みたいに少しでも視線をズラしてみろ。その瞬間に俺はお前の体を殴る。目だろうが鼻だろうが喉だろうが関係ねぇ、潰れてもお前は死なねぇしな」
「…ひっ……!」
その目に、光は宿っていなかった。今まで見てきた牛頭の雰囲気は完全に消え失せ、そこには地獄の番人としての感情を纏った獄卒がいた。
久方ぶりの痛みと奴の豹変ぶりに、私は情けなくも掠れた声をあげてしまう。だがそれすらも目線を変えたと判断されたのだろう、気づいた時には何か大きな黒い塊が私の目の前にあった。
「──っがぁ…!」
私の視界は一瞬白く弾け飛び、風船が割れたような破裂音が鼓膜を切り裂く。次に目を開けた時には、ぼやけた光景と口の中で泡立つ唾液の感覚がした。
「だから逸らすなっつってんだろ。これ以降同じマネをしたらどうなるか分かるな?」
私は必死に首を縦に振りたかったが、牛頭の圧倒的な威圧感に気圧されて視線を肉棒へと注ぐことしかできない。むしろこれ以上目を合わせたくないと逃げるように移動させていた。
「そうだ、それでいい。ずっとそうしてろよ?あとは俺様がお前のチンポを扱き続けるだけだ」
「!!?ん゛ん、んんぅっ……!!」
そして牛頭はまた、私の男根を無造作に握っては擦り始める。乱暴で激しい皮擦りの気持ちよさに私は何度も腰をくねらせてしまい、少しでも視線を外したと判断されれば何の躊躇いもなく殴られた。
チカチカと白く弾け飛ぶ視界、霞がかったようにぼやける不明瞭な世界。唯一分かるのは、男根から広がるどうしようもない快感の津波だけ。
「俺たちの躾はこれからだ。淫魔が戻ってくるまでずっとこの状態だってことを覚悟しておけ」
撫でるような牛頭の不気味な声が響く。だが少しでも視線が逸れれば一瞬で殴られ、意識が吹き飛びかけると同時に尿道からはしたない汁をビュルビュルと放出してしまう。
襲いくる吐き気と同時に吸い込んだ空気は汚く、鼻腔から濃すぎる雄の匂いが突き抜けていく。そうしてまた、痛みと興奮が鎖のように結びつけられていった。
私はこれに耐えられるのだろうか……?
諦めにも似た感情が波のように広がっていく。だがそれも汚い布から香る雄の匂いによって霧散し、扱かれた自身の男根から白濁が飛び出していく感覚に背筋を震わせてしまう。
その後も休む暇もなく頭を掴まれて視線を矯正され、尻穴を貫かれての拡張が続いた。
[newpage]
何時間続いただろう。体感的に、そう考える方が最も近しかった。
何度殴られたか、もうハッキリと覚えていない。鼻の奥に残る錆のような匂いと牛の股座の激臭が混ぜられた空間の中に頭を固定されていた私は、意識を朦朧とさせていた。
初めは慣れてしまえば簡単で、男根を見るだけなら何ともなかった。だが射精という快感が加えられてしまえば、耐えるのは不可能に等しかった。
しかも牛頭は私だけでなく、奴自身の肉棒も扱き始めたのだ。
牛頭はニヤけた笑みを浮かべながら荒い息を繰り返して手を動かし、私の顔に生暖かい液体を撒き散らす。汚らしく青臭い、それも他者のものが目や鼻に降りかかる悍ましさは計り知れないものだった。
それでも眼前にぶちまけられる白濁に反応して一瞬でも目を瞑れば腹や顔を殴られ、視線を逸らすなと唸るように警告される。あまりにも不条理すぎる行為に、私は幾度となく怒りを露わにした。
だが奴はそんなことなど気にもせず、反抗したなと怒りを見せてはまた殴り、延々と男根を扱き続けていくのだった。
目の前で動く手の中で、透明な泡を立たせる卑猥な物体。不気味に茶色く変色した皮と赤黒い亀頭が滑った液体でつやつやと光っている男根に、何度目を背けたくなったか分からない。
だが逸した瞬間に施される暴行の数々により私の心に植え付けられた痛みに対するトラウマが蘇り、悔しくも牛頭の言いなりになってしまう。なぜ急にコイツらにされることになってしまったのかを憤ることも忘れ、ただその肉棒を見つめることしかできずにいた。
「へっ、気持ちいいか死刑囚?雄の匂い嗅ぎながら尻穴弄られてりゃあ、そろそろ出来上がってくる頃だろ」
「何を言ってる…!」
「感覚的に知らねーだろうが、もう指3本分入ってるみたいだぞ」
「さ、3本!?……ぐがっ!!!」
あまりの驚愕に目線を牛頭に移してしまった私は再び殴られた。頬を突き刺すような痛みが広がると同時に、ビュッと白濁が放り出される感覚がする。
いつの間にそこまで拡張されていたのだ…!?
全く気が付かなかった…いや、ずっと牛頭の男根に気を取られていて気がつけなかったのか?
頭の中が尻穴のことで不安になっていくと同時に、感じることのなかった微弱な快感が腰下の方から広がっていくのを感じる。どう考えても拡がってはいけないところまで拡がってしまっているのが、嫌でも分かってしまう。
ほとんど閉じることしか価値のなかったその部分を千切れそうなほど押し拡げられれば、確実に激痛が伴うだろう。だが、意味不明なことに全くもって何も感じなかった。
いやむしろ、その違和感を妙に受け入れてしまっている自分がいたのだ。うねうねと腹の中で動く長い指の感触が、不思議と心地良いものへと変わっていた。
一旦その動きが止まってしまうと、なぜか落ち着けなくなってしまう。もともと存在していた体の一部の機能が奪い取られてしまったかのような不安感が止まらない。
だが再び内部の指々が動き出せばそれはすぐに消え、言いようのない安心感に包まれる。
それは私が、拒絶していたはずの違和感に完全に慣れてしまっていることを示していた。気がつけばその動きから広がる緩やかな快感が私の男根へと広がり、扱かれているのも相まっていとも簡単に射精してしまう。
今もなお異物感があって気持ち悪いはずなのに、腹を下から押されるような圧迫感と息苦しさがあるはずなのに…
私は確かに、その行為が気持ちが良いと、続けて欲しいと考えてしまっていた。
その感情を察したかのように、私の目の前で盛り続けていた牛頭が丁度よく話しかけてくる。
「よーし、体の反応も良し、目線も着実に固定できるようになってきたな。どうだ、そろそろチンポも美味そうに見えてきただろ?」
「う、美味そうだと!?こんなモノがか…!?」
快感の波に乗せられそうになったが、牛頭の言葉によって逆に正気に戻った。誰がこんな汚らしいブツを美味そうだなんて思うんだ?
ありえない、想像もできない…!
「だって俺様のチンポを見ながらその匂いを嗅いでるだけでキモチ良くなってただろ。何度も何度もイってたのが証拠じゃねぇか」
他人に見せられるほど綺麗でもない極太のソレなど、見せつけられて美味そうだと思う奴がいるわけない。
違う、違うと何度も頭の中で繰り返す。私は半ば憤りながら反論するが、殴られることだけは避けたかったために語気は少し弱まってしまう。
「お前が私のを弄っているからだろう…!?それにそんな汚いものを好む奴なんている訳がない…!」
全くもって理解できない、むしろ理解できてしまう方が恐ろしく思えてくる。
そもそも、理解したところで意味はない。
だがこうしている間にも尻穴をぐにぐにと押し拡げられている感覚はあり、着実に感じてしまっていた。情けなく逸物を勃たせて会話を成り立たせてしまっているこの状況がなんとも悔しくてたまらない。
「ちっ、まだ分かってねぇか。まあいい、次からたっぷり食わせてやるから安心しとけ」
「…はっ?やっ、やめっ……んぶっ!!」
その直後のことだった。唐突に襲いくる首元への圧迫、そしてマズルを思い切り開げられたと思えば、湿気と粘液に濡れた硬く太い熱が口の中を一瞬で満たした。
私はそれが反射的に牛頭の肉棒だと判断するが、もはや吐き出すことも噛みちぎることもできない。喉仏を奴の尻で潰され、気道…すなわち呼吸することを完全に停止させられたからだ。
頭に血が昇ったように顔が熱くなり、見開かれた眼に映るのは屈強な腹筋と真っ黒な陰毛のみ。
再び窒息するという恐怖に襲われた私は無我夢中で首に力を込めるが、力比べなど敵わないことはとうの昔から知っていた。だとしても抗いたいという、一種の自己満にも似た衝動に突き動かされていたかもしれない。
「きちんと味を覚えるために最も重要なのは、とにかく舐めることだ。お前には精液だけじゃなくチンポ本来の味も覚えてもらわなきゃいけねぇからな…んじゃ早速裏筋から舐めてみろ」
「……っっ!!っぐ、うぅ…!」
「おっと、苦しいのにそんなに騒いでいいのかなァ?俺様の言う通りに舐めればちゃんと離してやるよ」
舐めるも何も、窒息寸前の状況ではその行為を遂行することすら無理に等しい。奴はそれを分かって言っているのだろうと思うと、激しい怒りが込み上げてくる。
それでもどくどくと舌の上に流れ出てくる先走りが呼吸できない私の喉奥へと入り込んでいくが、潰れた喉では飲み込むこともできない。
この状況で必死に舌を使ったとして、私はここで死ぬのだろう。人生を終えてなお経験するとは思わなかった再度の死を少しずつ享受し始めていた私は、最後の抵抗から牛頭を睨みつける。
こんなことできる訳がない、できたところでどうせ意識を失うのだから覚えさせる意味も無い。
空になっていく胸の中の空気と共に頭は朦朧とし、[[rb:劈 > つんざ]]く耳鳴りが鼓膜の中で響き渡っていく。黒く狭まっていく視界に映るのは、汗だくの体を持つ牛頭の薄ら笑い。
そして私は…意識を手放した。
心のどこかで、虎の帰還を微かに望みながら。
───
また、どれだけの時間が経っただろう。
何時間、何日、何年……そう捉えてもおかしくないと思えるほど、私にとっては途方もない時間だった。
目が覚めれば口の中で膨張しっぱなしの男根に呼吸を止められ、浅黒い肌肉から立ち昇る淫臭に鼻腔を汚され、戯れに殴られれば再び意識がぷつりと途切れる。
そしてまた覚醒し、同じ事を繰り返す。
何度も、何度も。
気が狂いそうだった。いや、狂う余地も無かったかもしれない。血も涙もない、人を人と思わないバケモノの所業に、私はまた意識を閉ざす。
───
次に目を開けた時、いつのまにか口の中を塞ぐだけだったその物体が前後に動いていた。激しく素早い運動に私の顔は大きく揺さぶられ、視界が定まらない。
「う゛ッッ、ぐっ、ごほッ……お゛、お゛…っ…」
「もっと喉開けろオラ。ちゃんとまるごと咥え込むんだよ」
舌の上を既に何十往復もしたであろう牛の肉棒。押し倒されないように堪えていた首は少しずつ痛み始め、かろうじて吸い得た微かな空気は奴の雄の匂いに染まっていく。
食道と一緒に肺までもが汚されている感覚に陥っていた。
奴の陰毛は虎よりも濃く、不気味に生い茂る密林のようにじっとりと蒸れており、湿気った空気が目に染みて涙が止まらない。
だが息をしてしまう以上反射的に嗅がざるを得ないその匂いに、私の体は興奮していた。もはや自分の男根がどうなっているのかすら分からない状態だ。
「そろそろチンポの味ってモンが分かってきたか?あとはどうやって奉仕すればいいかだけだ」
その言葉に、体が微かに反応する。
何をすれば奴は喜ぶのか、そもそも奴が喜ぶことは何なのか……分からないようで、分かっていた。
弱々しい力で舌を這わすが、牛頭は腰を振ることをやめない。トロトロと流れ出る先走りが私の口端から飛び出しても、涙と鼻水を吹き出しながらやめてくれと手で尻を叩いても、この地獄は終わらなかった。
そうだ、ここは地獄だ。
やはり私は、恵まれてなどいなかった。結局はあの虎だけが異様に気にかけてくれているだけであって、他の奴らは私のことなどどうでもいいのだ。
それでも、諦めてしまたい気持ちと同時に納得がいかないという感情がせめぎ合う。なぜ私がこんなにも不当な扱いを受けなければならないのだという怒りが、脳を焼き尽くしていく。
不当な扱いなど…生きている時だけで十分だったのに。
「……おっ?そうだ、そうやって舌を使うんだぜ。けひっ、やりゃあできんじゃねぇか?」
私はこの時だけ、全てをかなぐり捨てて奴の言うことに従っていた。文字通り舌を極太の竿に這わせ、雑巾のように汚れを舐めとっていく。
砂利のような感触をしたものが痴垢だということは否が応でも分かっていたが、もはや空虚にも似た感情しかなかった私にとってはどうでもよかった。
虎と同様、奴の満足する行為をすれば早く終わるという単純な思考回路だけで私は舌を動かす。ありえない量の先走りが口の中で混ぜられ、牛頭が腰を動かすたびに卑猥な水音が聞こえてくる。
もはや息を吸いたいなどという願望は消えていた。というより奴の動かす勢いが強くなったおかげで何度か呼吸をすることはできていたのが事実だ。
だが奴はそんなことなど気にする様子もなく、ただただ私を道具のように扱っていた。そんな私も今この時だけは、感情を殺して口で奉仕することだけに集中する。
「おし、そろそろイくぜ。ちゃんと飲み干せよ」
その言葉を聞いてから数秒もしないうちに、私の喉奥へ熱い液体が叩きつけられた。ビュルルルッと濁った音が口の中で反響し、瞬く間に食道が粘着質なもので染まっていく。
それでも私は、ただ飲み干すことだけを考えて喉を動かすしかない。もしこれが出来なかったらまた息ができなくなるという強迫観念にも似た感情に押しつぶされ、腹が満杯になったとしても無理やり溜め込んでいく。
ごぷごぷと流し込まれる白濁がようやく収まった時、私の腹は見るも無惨に膨れ上がり、子を宿した妊婦のように体の自由が利かなかった。意識もギリギリの状態で呆けていると、ずるんと口の中の肉棒が抜かれる。
何時間ぶりにも及ぶ口内の解放に、私は無意識に涙をこぼしていた。どこもかしこも濡れた全身は、土砂降りの雨に打たれたように凄惨だっただろう。
「ようし、全部飲んでくれたな?偉いぞ、死刑囚」
あんなにも私を苦しめた牛の怪物が、私の肩を軽く叩いて笑った。蔑むような目つきに変わりはないのだが、こうも素直に感謝されては私も混乱せざるを得ない。
何度も何度も殴られ、口を塞がれて窒息する恐怖を味わったのに。拷問にも等しいほどの仕打ちを受け続けたはずなのに…私は少なからず、嬉しさを感じてしまっていたのだ。
これが何を意味するかなど、疲弊した思考回路では考えられるわけもない。ただようやく一区切りついたと判断してから、全身の力が抜け落ちていた。
「お、おわり…だって」
「お前のご主人様も帰ってきたことだし、そうするか」
「………は…っ…?」
薄れゆく意識の途中で唐突に聞こえた歯切れの悪い言葉に、私は思わず顔を起こしてしまう。
よく見ると、あの虎が牛頭と馬頭の後ろにいたことに気がついた。だが私にはもう、これ以上意識を保つことは困難だった。
艶やかな縞模様の毛皮が何やら話し合っているが、強烈な疲労感に襲われた私はそのまま目を閉じてしまう。
突然、そしてようやく訪れた心の安寧に身を任せるように、私はまた意識を失っていくのだった。
[newpage]
『──うして──あんな──』
暗闇の中から声が聞こえる。聞き覚えのある、それだけで心に静音が訪れるような声。
私はさらに耳を澄ます。
『どうして…あんなことをしようと思ったのですか…?』
…………なんの話だ?
『どうしてあなたは、あのお方を撃ち殺すことができたのですか…?』
……ああ、思い出した。その声、いつも最悪の事態を考えてしまって怯えているような口調。
忘れようにも忘れられないな。お前の声は。
理由なんてそんなもの、私やお前の祖国をこれ以上危険に晒さないために決まってるだろう。
これ以上奴の好きにさせてしまえば、間違いなく我が国は崩壊の道を辿っていた。
戦争に次ぐ戦争、足りなくなった戦力は問答無用で補充、国民の生活など全く無関心な政治。
お前も目の当たりにしただろう、荒れ廃り生気のなくなった民たちの現状を。
あれはもう、民の上に立つべき人間ではなかった。ただ自らの領土を広げることしか頭にない、支配欲の権化そのものだった。
だからこそ……誰かが止める必要があったのだ。
それを一番よく理解し、私の相談相手になってくれたのはお前じゃないか。
だからこそ私は、あの瞬間に引き金を引くことができたのだ。
後悔などしていない。
間違ったことをしたとも思っていない。
この国を崩壊させようとしていた巨悪を撃ち倒すために払う犠牲が私だけで済むのなら、それでよかった。
『そう、ですか……相変わらず、お硬いですね』
ただ一つ心残りがあるとすれば、お前がこの地獄に来ていないことを願うばかりだ。
国から抜け出せる隠し通路で別れたあの晩が、お前を見た最後の姿だったな。あの後お前は、仲間と共にどこか遠くの国で暮らせただろうか。
親の顔よりも見たお前の顔が、うっすらと思い浮かべそうな気がする。
またお前と、作戦の話で夜を明かしたい。
味の薄い茶を飲みながら、これからの未来を想像するあの時間が懐かしい。
『総督────』
その瞬間だった。
急激に浮上する意識のような感覚と共に、目の前の暗闇が形を形成していく。白んだ[[rb:靄 > もや]]の中から浮き上がる顔が、徐々に明瞭になっていくのが見える。
参謀。そうだ、参謀だ。
彼のことをそう呼んでいたのを思い出すのと同時に、私の頭の中に浮かんだ顔は───
虎の形をしていた。
───
「うあああああああ!!!」
私は飛び上がった。体中の力を振り絞って背中を持ち上げ、襲いかかってきた悪夢を振り払うように両手をぶんぶんと振り回す。
もしこんな姿をかつての同僚に見られたら、笑止千万だろう。だがそんなことを考えている余裕もなかった私は、今見たものが夢であったことにひどく安心していた。
悍ましい瞬間だった…汗がびっしょりと全身を覆っているのが分かる。額に滲んだそれを拭うと同時に、私は手足が自由になっていることに気がついた。
それは、あの忌々しい拷問からついに解放されたことを意味していた。顔全体を覆う圧迫感も、鼻が曲がってしまいそうな悪臭も、鈴の音も聞こえてこない。
手のひらに感じる冷たい床の感覚が随分と久しぶりに思える中、微かに感じるあの匂いに顔をあげる。
「…ひっ!?」
そこには、ついさっき見た悪夢と全く同じ造形をした顔があった。
鼻先が接触してしまいそうなほど近かったその顔に恐怖を感じてしまった私の全身はびくりと激しく飛び上がり、何とも情けない悲鳴をあげてしまう。
「お目覚めか?」
「……っ…」
「ずいぶんと嫌な悪夢を見ていたみたいだな。苦しそうに唸ってたぜ」
返答できない。まだ完全な状況把握ができない私は、じりじりと後ずさるように壁にもたれかかる。
だが、コイツが次に放った言葉は私の予想とは少し異なっていた。
「牛頭と馬頭にかなり仕込まれたらしいが…その様子だとそこまでって感じだな」
「……なら何だ、また舐めればいいのか?」
回復したであろうはずの気力は、先の悪夢のせいで一気に消え失せてしまっていたらしい。軽く自暴自棄になっていた私は、さも当たり前のように肉棒を舐めるという宣言をしてしまった。
気の抜けた行為だと後悔したのはその直後で、激しい自己嫌悪に陥りながらも諦める以外の道はない。全裸の姿をした虎が躊躇なく近づいて来る僅かな時間で、心を持ち直そうとする。
「いや、今日は違う」
だが、虎の第一声は私の予想とは異なるものだった。
ならば一体、何をしようというんだ…?
困惑する私だったが、奴は目の前で胡座をかくようにいきなり座る。艶かしいその目線に、得体の知れない恐怖を感じ取った。
「まっ…待て、何をする気だ…!?」
「命令だ、『動くな』」
「……うく…!」
その言葉通りに、私の体はぴたりと止まってしまった。いくら力を入れても動かせることはなく、意識だけを残したまま時間だけが奪われたような感覚が残る。
奴はそのまま私の股を開き、ひとしきり観察するような眼差しを向けながら笑う。他者にまじまじと隠すべき場所を見られている状況に羞恥心で心が張り裂けそうになるが、歯を食いしばって時が過ぎるのを待つことしかできなかった。
「…んひっ!?」
ずぶりと何かが肛門の中へと入ってきたことで、再び変な声を上げてしまう。それは違和感に体が反応したに違いないのだが、この時だけは今までとは違う感覚が追加されたことに僅かながら気づいていた。
しかしその正体は明確に掴めないまま、ぐりぐりとその穴が拡げられていく。
「うっ、ぐぅっ……んあっ…!」
「ずいぶんほぐれてるじゃねぇか。これなら十分だろう」
私の尻穴は恐ろしいほど柔らかくなっているようで、奴の指を容易く受け入れてしまっていた。これがあの馬頭にやられたことだとは分かっているが、どうやったらここまで緩くなるのか疑問に思えるほどだ。
それでも虎の指は侵入をやめない。排泄器官であるはずの底を弄られて気持ち悪いはずなのに、私の体は徐々に興奮しつつあった。
徐々に体に熱が籠り始め、呼吸が荒くなっていく。刻まれた淫紋の真下から湧き上がるむず痒さと共に、私の男根はあっけなく膨張を初めてしまう。
「だいぶ体の方は出来上がってきたようだ。俺としてはちょっと癪だが、あの2人には感謝しないといけないかもな」
私にとってはその時間ほど嫌だと思ったことはないのだが。感謝も何も言えた物ではない。
だがこうしている間にも奴の指は内部を掻き回し、グチュグチュと気持ち悪い音を立てながら直腸がどんどん押し拡げられてしまう。情けなくも快感に屈してしまっていた私は抵抗することもできず、壁に体を押し付けながら喘いでしまっていた。
だが次には、今まで感じていた拡張という感覚からかけ離れた違和感が少しずつ襲って来ていた。それが何なのかを理解する間もなく、腹の奥底がじわじわと圧迫されていく感じがする。
固定されていなかった眼球を必死に動かして視線を移すと、奴の右腕が少しずつ私の体へめり込んでいるのが見えた。あり得ない光景に私は背筋が凍り、掠れた声を上げる。
「……はっ!?やっ、待てっ、やめろ!!これ以上は入らな…!」
「入るぜ、こうやってな……」
「あ……がっ………!」
その恐怖が徐々に私の中へと入り込んでいく。奴の指が2本、3本、4本…と一点に集約していくのが尻穴の開き具合で分かってしまう。
だがいくら何でもそれ以上入ったら裂けてしまうのではないか…!?
不安に駆り立てられるも体は動かず、ゆっくりと栓をするように押し込まれているのを受け入れることしかできない。必要以上に拡がる肛門の皮膚感覚が狂いそうになる。
それはまるで、虎の拳の全てが尻の中へと無理やり捩じ込まれているような感覚だった。
「あ、あっ、うあぁっ…そんな、嘘だっ…!」
「もうすぐ終わる、我慢しろ」
虎がそう呟いた後、私の直腸内は何かよく分からないもので完全に満たされていた。個体でなければ液体でもない、言うなれば粘土のように形が変わっているような気さえする。
あり得ないと全身の細胞がそう叫んでいるが、ゆっくりと時間をかけてここまで押し込まれた感覚がある以上、これが奴の腕だとしか考えられなかった。
拳にあたる部分は私の内部の最奥、小腸を押し上げるように窮屈に圧迫しているように思えてしまう。そこから肛門にかけての消化管はみっちりと完全に道を塞がれ、本来閉じているはずの肛門は開きっぱなしになってしまっていた。
「よーし終わったぞ。息苦しさはあるだろうが、いずれは慣れるさ」
「……なっ!?お前、腕が…!?」
だが私は、尻穴を切り開かれた衝撃よりもさらに悍ましい光景を目の当たりにしてしまった。
尻から抜かれたはずの奴の指…だけではない、腕の半分が丸ごと消えていたのだ。正確には肘あたりから手のひらまでが全て失くなっており、まるで隻腕のようになっていた。
だが異様にも断面図は見えずフサフサとした毛皮に覆われており、血の滲みも見当たらない。
それはまるで体の一部分がどこかへ消えてしまったかのようだった。だがその行き先は考えるまでもなく私の体の中なのだろうということが、尻の中の異物感で分かってしまう。
「なぜだ…どうしてそんなことが…!」
「[[rb:地獄 > ココ]]じゃどんなことが起きたって不思議じゃない。アンタも身をもって知っただろうが、別に俺たちも例外じゃないんだぜ?」
奴は失った方の腕を宙に回しながら見せつける。痛みなど感じないかのように笑い顔を浮かべながら笑う奴が、今この時だけはひどく恐ろしい存在に見えた。
凶暴性の高過ぎる牛頭よりも、何を考えているか分からない馬頭よりも……遥かに恐ろしかった。
絶句する私をよそに、奴の腕がボコボコと隆起を繰り返しては新たな肉を形成していく。外から継ぎ足すのではなく内側から湧き上がるように体積を増やし、徐々に形を形成していっては皮膚と見られる部分からぞわぞわと毛皮が生えそろっていた。
信じられない。その一言しか思い浮かばなかった。
こんなことが実際に起こっていいわけない。原理すら分からないその事象は、まさしく人智を超えていた。
ここが死後の世界だと忘れてしまうくらいに、こんなことが本当に存在していいのかという驚愕に体が震えてしまう。
「どうだ、すごいだろ?ちなみにアンタの中に入れた俺の腕も変形するからな。じきにアンタの直腸内の形状を記憶して膨張し、中を矯正していくぞ」
「きょっ、矯正…!?」
「チンポを受け入れやすくするためさ。図体は大きくてもケツの中が小さいと意味ないからな、今ごろ指の部分は融合し終わってるはずだろう」
気づけばもう内部での膨張は始まっているようで、少しずつ腰の奥深くから息苦しさが広がっていた。指で慣らされていたと思っていたのに、その物体は馬頭の指よりも大きい。
すでに一つの塊として形を変えていたようで、凄まじい圧迫感と異物感に脂汗が止まらない。他者の前で排泄するという羞恥心を抑えてどれだけ力を込めてひり出そうとしても、全く出ていく気配がしなかった。
「こ、これは外せないのか…!?」
「当たり前だ。俺がいいと言えば外れるが、慣れれば外さなくてもよくなるよ」
「うう、くそっ…!」
もぞもぞと動き回る塊が腸壁を擦る感覚が妙に気持ち悪く、喉奥から液体が逆流しそうになる。だが次第に形状変化を終えたのだろう、膨らんでいるような感覚は消えていたが、それ以外の考えが頭をよぎっていた。
これはもう……アレと等しい大きさではないのか…?
虎がそう言っているのだからおそらく形も同じようになっているのだろう、考えれば考えるほど内部の塊の正体を勝手に想像してしまう。
悶々とし続けていた私を気にする様子もなく、虎は私の脇腹の隣まで近づいてきた。そのまま胡座をかいて座り込み、膝の上に置いた新調された腕で頬杖をつきながら小さく呟く。
「準備はこれで終わりだ。さて、今日はちょっと別のことをするぜ」
「別のこと……?」
「アンタの犯した『罪』について聞いていく。俗に言う、聴罪ってヤツだよ」
[newpage]
私の所属していた軍をまとめていた、事実上の頂点──『元帥』と呼ばれた彼を、私は殺した。
戦争で勝たなければ、国としての強さを誇示できない。誇示できなければ、他国に攻め入れられる。
私の生きた時代は血生臭く残酷で、争いは絶えなかった。
だからこそ私も、若い頃は愛すべき自分の母国を守りたいと奮闘したものだ。自ら軍に志願し、厳しい訓練に明け暮れ、がむしゃらに戦場を駆け抜けた。
何人もの友を失い、数えきれないほどの敵兵を殺した。この国が安泰になるまで、世界がこの国を恐れるようになるまで死ねないと必死になっていた私は、無我夢中で戦いに身を投じた。
そして時は過ぎ、数々の功績を認められた私は『総督』と称され、実質的な2番目の地位を得た。作戦の指揮全般を任されるようになり、第一線から退き指揮を取る立ち回りが多くなっていった。
同志や部下を戦場へ送り込み、死を間近に経験するよりも悼むことの方が増えたのだ。私はその後も多くの戦争に赴き、勝利を貢献していく。
その貢献先こそ…私が殺した、軍で最も位の高い地位に君臨する元帥だった。
代々続く軍家一族の出らしく、初めて見た時は私もその気高さと律儀な人物像に感心していた。だが私が上に登り詰めた時、まさかその裏側を知ることになろうとは思いもしなかった。
数えきれないほどの不正と強引な貿易、賄賂、諜報、そして兵力を高めるためならどんな犠牲も惜しまないその躊躇の無さに、私は毎日のように小さな吐き気を覚えていたのを覚えている。
私が今まで何のために戦ってきたのかを見失いそうになった時もあった。だが周りの仲間にも恵まれた私はなんとか正気を保ち続け、ここまでやってこれたと思っている。
しかし私の気が狂う以前に、この国の財力と活気が底を尽きる方が早かったらしい。そこから国は少しずつ崩壊への道を辿っていたが、奴はそれを見て見ぬふりをするように問答無用で戦争をし続けた。
そこからはもう、言うまでもなかった。
───
「で、アンタは計画し始めたってワケだな?」
奴は姿勢を一切変えずに、私の話を聞いていた。この時だけはやけに静かで、私の体を触ってきたりもしてこなかった。
いつにも増して妙な奴だとは思ったが、以前として尻内部の息苦しさに頭を悩ませていた私は口を動かすことで気を紛らわすことしかできない。
「私のことを今更話しても何の意味もないだろう…」
「いや、結構大事さ。罪を記録するのは閻魔様だけじゃないんでな」
そうは言いつつも紙や筆のようなものはなく、どこに記録をしているのか見当もつかない。まさか頭の中だとでも言うのかと思ったが、奴は続けて口を開いた。
「もう一度聞くが、アンタは軍の最も偉い奴を殺した。それで間違いないな?」
「………」
あまりにも単刀直入だった。だがそれがおそらく私の罪状なのだろうし、確かに殺したのは私だ。
当時にことを今振り返れば、彼の地位は国で一番だったと言っても過言ではない。命令一つで軍だけでなく国内の政治にも干渉することはできていた。
つまり私は、実質的に国を掌握していた奴を殺したことになるのか。あの時は国を救うことに必死で気づかなかったが、彼の実権はそれほどまでに大きかった。
そんな人物を、私は殺害したのだ。
死後にこうして尋問されることなど想像もしなかったが、いざこうして正面から質問をされると答えるのにどうも躊躇してしまう。
理由がどうであれ、人を『殺した』と言う実感は自分が死んでもなお消えることはないのだろうか。
「答えないのか?」
「……そうだ。私が、殺した」
その時だった。尻の中に捩じ込まれた塊がぶるっと震え、その衝撃で腸壁をなぞられたような気がした。言葉にできない奇妙な感触に、ぞくりとした感覚が背筋を伝う。
なんだ…?今のは……
「じゃあ、どうして殺した?」
続けざまに虎はすぐに次の質問に移る。先ほどの感覚が何なのかを理解できないまま、尻の中にある異物からの圧迫感によって返答をやけに早めてしまった。
「…奴の行き過ぎた暴走を止めるためだ。これ以上彼の好きにさせれば、軍はおろか国までもが崩壊すると誰しもが思っていた。あの暴君をこれ以上野放しにするわけにはいかなかったのだ」
頭の中に断片的に点在している記憶が、ふっと思い浮かんでは消えていく。引き金を引いたあの感触と衝撃は、なぜかはっきりと手のひらが覚えている。
「……ッ…!?」
そしてまた、尻の中で塊が微動した。気味の悪い感触に今度は腰がビクつき、微かだが勃起していた男根が揺れてしまう。慌てて虎の方を見るが、奴は何も気にしていないようだった。
何だ…奴は何をした……?
拭いきれない不安と共に、先ほどから感じるものがわずかだが気持ち良いものだったことに頭が混乱しかけている。
「そうだ、よく覚えてるな。だがいくら国が危ないって分かったとしても、ソイツを殺すなんて方法は流石にやりすぎだとは思わなかったのか?」
「………」
「軍って言えば国を守るために大切な機関だ、しかもその一番上を殺したとなれば当然大きな罪になることは分かりきってるはずだろ?そんな中でよくやろうと思ったな」
私が得体の知れない感覚に悩んでいる中、半分関心するような口調で虎は私に淡々と話し続ける。私のしたことを一つ一つ思い出させるような口ぶりに、聞いていた私にも多少の動揺はあっただろう。
だが今話している内容は全てもう終わったことだ。今更蒸し返されたところで、私には何の価値もない。
そもそも最高権威者を止めることなど、直接的に手を下す以外の方法はないだろうに。
それよりも今の私には、尻の中で蠢くムズムズとした歯切れの悪い感触に頭を悩ませていた。怒張した私の男根の真下、その奥深くで小さな微動を繰り返す物体に声すら漏れ出てしまいそうになる。
それでも会話が途切れたら何をされるか分からないと感じた私は、堪えながら言葉を紡ぐしかない。
「そ、それは…私のやったことを否定しているのか?」
「いや、俺はただ知りたいだけだ。アンタがどういう思いで罪を犯したのかをな」
訳が分からない…そんなことを知って何になるというのか。
くだらない問答に答えるだけなら、さっさとやるべきことをやって少しでもこの空間から解放される期間を短くした方がマシだ。…と自分から言うのは流石に無理があったが、私の体が徐々にそう言った思考へと向けさせているのは分かっていた。
「じゃあ一つ聞こう。アンタは自分の犯した罪に対して良い事をしたと思ってるのか?未来のためだとか言って自らの命を断ち切ってまでしたことを、戦場で死んでいったかつての仲間たちに胸を張って言えるのか?」
「……はっ…?」
何とも馬鹿げた質問だった。そんなことを今更聞かれても、答えようがないだろう。
私が死んだ後の世界など知るすべもないのに、そんな事を言うなんてできる訳がない。彼が死んでから何かが変わったなんて知らないのだ。
だから答えはほとんど決まっていたようなものだった。というより、これしかなかった。
「言えるも何も、結末を知らないのに言える訳ないだろう…!私に未来が見えていたとでも言いたいのか?」
「へぇ、そうか。じゃあアンタは、やることだけやって逃げたんだな?それで自分だけ先に死んでおいて、あとはその責任を生き残った奴らに押し付けたってことだ」
「…はっ?ち、違う!私はそんなことなど考えていな……あひッ!?」
ありもしない事実を突きつけられ、思わず叫んでしまった時。今まで小さな動きしか繰り返していなかった尻の中の物体が、急に私の直腸内を思いきり押し上げた。
それと同時に男根の根元から感じたことのない衝撃と快感の波が押し寄せ、言葉を中断してしまうほどの喘ぎ声が飛び出してしまった。
「おお?そんなに反応するってことは、かなり核心に近いのか?」
「さ、さっきから何なんだこれは…!!いったい何をした…!?」
あまりの悦楽と自分の醜態にかあっと顔が熱くなっていく。得体の知れない感触なのに衝撃が大きすぎてすぐには忘れられず、記憶は体のすみずみにまで残っていた。
虎はくくっとひと笑いを起こし、薄気味悪く声を発する。
「尻の中に入れたそれは尻穴を拡張すると同時にアンタの潜在意識を汲み取り、前立腺を刺激して快感を与えるようになってる」
「な……なに…!?」
そうしている間にも、直腸の中でうずうずと微動するソレが気持ち悪くてたまらない。たまらないはずなのに…腰の奥深くから広がる快感が、射精欲求を急速に早めていた。
ビクビクと脈打つ私の男根ははち切れそうになっており、鈴口からとめどなく透明な粘液が溢れ出している。
「感じ取るのは『罪の意識』だ。自分が犯した罪を再認識するたびに、ソイツは容赦なく前立腺を責め抜く」
罪の意識…!?
私があの元帥を殺したという事を考えれば考えるほど、このようになってしまうと言うことか…?
そんなもの、罪を悔い改めるこの地獄においては最悪の相性なのではないのか!?
情報を整理すればするほど負の感情がどんどん増幅されていくが、それは体中に広がっていた快感と熱によって次第に打ち解けていってしまう。奴の目的が、少しずつ分かっていくような気がした。
「ぐぅぅ……くそッ、んんっ、んぁっ…!!」
どれほど抵抗しようとしても、未だに虎からの命令を解かれていないこの体ではどうすることもできなかった。力すら入らないせいか尻穴はどんどん緩んでいくのに、中にある塊は一向に外へ出される気がしない。
それよりも少しずつ液体のようなものが塊から分泌され始めている。生暖かなそれは腸壁に作用しているようで、男根と同じようにとめどなく私の尻穴から漏れ出ては床に小さな水たまりを作っていく。
「おまけに俺の体液もそこから滲み出してくる仕様でな、徐々にケツの中が性感帯へと変わっていくだろうさ。ま、俺の体から切り離されたものだから当たり前だけどな」
「なっ、何だと…!?」
「だがまぁ、そんなに反応するってことは一番気がかりなんだろうなぁ?結局は自分自身のためだったってことにな」
「だからそれは違うと言って……んひっ!?」
必死の思いで否定しようとすればするほど、中にある物体は直腸内の一部分を集中的に狙ってくる。ぐりぐりと意思を持つかのように力強く突かれ、強制的に快感を享受せざるを得ない。
情けない声が漏れてしまうと同時に、言葉すらまともに話せない自分が何とも憎たらしかった。
いや、今はこんな快感に溺れている場合ではない…!
そもそも私はそんな無責任な事をしたなんて微塵も思っていないのに、どうして奴は根も葉もないことを言っているのか意味が分からなかった。
元帥が死んだ後の計画もある程度考えていたし、軍と行政上層部の様々な癒着や不正な資金繰りを書き記した書物もまとめていた。
そして私はそれを、彼に託したはずだ。元帥を葬り去った後、彼が新たな指導者として国を導びけるよう私の旧友に頼みこんだ文も書いて、秘密裏に送っていた。
だが、その考えを嘲笑うように虎はさらに言葉を続ける。
「お前は反逆者として立ち向かい、不遇な時代を終わらせた英雄として祀られたいがために、あんな大事件を起こしたんだろ?」
「違う…違うと言っているだろう!!断じて私はそんな名誉のために奴を殺したのではないッ!!」
私は叫んだ。じんじんと疼く尻穴の快感に耐えながら、早く精液をぶちまけたいという欲望を押し殺しながら、自らの人生を否定された怒りに身を任せて。
しかしその威勢も虚しく、虎の大きな手に顔面を掴まれ壁に後頭部を叩きつけられてしまう。頭蓋に響く鋭い痛みと同時に、下腹部に溜まっていた熱が一瞬だけ放出されたような気がした。
「ならどうしてその先のことをもっと深く考えなかったんだ?アンタならできたはずだろう、罪を遂行するために動いてくれた数少ない仲間たちを助けることぐらいはな」
「な……なん、だと…?」
「アンタが未来を託したっていうヤツはな、逃げる途中で捕まったんだとよ。反逆者に手を貸した裏切り者って言われてな」
「……………は?」
その言葉に、私の思考は停止した。同時に様々な記憶が洪水のように脳内に溢れかえり、思い出せなかったはずの顔が鮮明に浮かび上がる。
そんな、嘘だ……嘘だと言ってくれ…!
私の全身に込もっていた力が溶けるように消えていく。
生死なんて、捕まった時点で決まっているようなものだ。私の仲間として捕えられたのならば尚更だろう。
まさか…あの抜け道は安全ではなかったのか?
私は彼らに、誤った道を教えてしまったというのか…?
虎の声が耳の中で不気味に響き渡る。私にとってその言葉は、鋭利な杭のように心の奥へと深く突き刺さっていく凶器となっていた。
返答する気力も湧き起こらない。だというのに、尻の中で動き回る物体のせいで性的興奮を覚えている体が憎い。だがそれすらもどうでもいいとまで思ってしまうほど、心を抉られていた。
「謝っても謝りきれないよなぁ、アンタを慕ってくれた人たちにはさ。アンタとわずかな関係を持っていただけで同じ反逆者として罪も犯してないのに捕まったんだぞ?」
どうして……私はただこれ以上国が、民たちが苦しむ姿を見たくなかっただけなのに。そのためなら命さえ惜しまないと覚悟を決めたのに。
私が原因で、皆が捕えられてしまったのか?私があんなことをしようとしたから…?
「そう、アンタのせいだ。アンタがあいつらを貶めちまったんだ、なぁ?死刑囚」
「…私の、せい……」
「辛いなぁ、苦しいよなぁ。こんなこと全部忘れたいよな…?」
真っ黒な感情が、心を蝕んでいく。私の願いが、希望が…誇りと共に砕かれる音がする。
私が全てをかけて行ったあの行為は何の意味もなかった。
私の命は、無駄に終わってしまった。
ありもしない言葉が頭の中に次々と浮かんでは消える。目を背けたくなる事実が、無数の棘となって体中に突き刺さる。
信じたくない、忘れてしまいたいと、感じたことのない感情が渦巻いていく。
「なら、こうするしかないんだよ」
そう言って私の鼻先に差し出されたのは、長らく見ることのなかった奴の肉棒。すでにいくらか膨らみを増しているようだった。
忘れていた濃厚な香りが鼻を満たし、脳内が快刺激として書き換えていく。深呼吸をするように吸い込めば痺れるような快感が背筋から広がり、それだけで心地が良い。
たったそれだけで、悲しみや後悔、罪悪感までもが頭の中から霧散する。性の悦楽を覚えてしまった体が疼き出し、尻穴の奥がジュンと熱を持ったような気がした。
「これがアンタの懺悔だ。そうすれば罪の意識は次第に薄れ、いつか消えて無くなってくれる」
「消えて……」
「そう、簡単だろ?俺のチンポをしゃぶるだけでいいんだ」
少しずつ近づいてくる、雄の象徴。鼻がヒクヒクと動き、何度もその汚れた空気を堪能してしまう。
その匂いに私の体は熱く火照り、発情し、はち切れそうになっている私の男根からトロトロと透明な液体が溢れ出す。
もっと嗅いでいたい、その匂いで頭の中をいっぱいにしてほしい……
そうすれば私は、この罪を忘れることができるような気がしていたから。
いつの間にか力無く口を開け、舌まで飛び出してしまっていた。まるで本物の犬のように何度も短い呼吸を繰り返し、ダラダラと涎を垂らしながら虎の肉棒を見上げてしまう。
適度に赤黒く、先走りに包まれて艶やかな光沢を放っている。肉厚で、芳醇な香りを放っていて、それでいて咥えごたえのありそうな太さ。
あれを口に含んでしまえたら、この罪悪感をひと時でも忘れられるのだろうか。
そう考えれば考えるほどに…何故か不思議と……
「美味そうなチンポだって思ってる顔してんな。早く咥えたいか?」
「……うぅ………」
「さぁ、懺悔の時間だ…己の犯した過ちを悔い改めながら咥えろ」
私は言われるがままに、差し出された虎の肉棒を伸びたマズルで咥え込んでいく。舌を裏筋に這わせると塩辛い液体が味蕾を刺激し、頬が灼けつくように熱くなる。喉奥には押し込まずに亀頭の部分だけを口の中に含み、緩やかな曲線を描きながら舌での愛撫を始めた。
「よしよし…舐めるのもだいぶ上達したな」
「…んぐっ、ふっ、んむ……」
私が強い快感を感じる所を的確に舐めると、虎はぶるぶると不規則に腰を振るわせながら恍惚な吐息を零す。そして優しく呟きながら頭を撫でてくれるのだが、これが妙に心地良く感じた。
どんどん流れ出てくる先走りを嚥下しながらも肉棒に塗りたくり、舌の動きをより滑らかにしていく。じゅぽっ、じゅぽっと盛大な音を撒き散らしながら、私は顔を前後させる。
こうすることでしか、心の痛みを忘れることができなかった。これで全てを忘れられるなら、私はきっといつまでも続けてしまうだろう。
「アンタは罪なき人を、仲間を、自分の身勝手な理由で殺した。元帥だけじゃない、周りの人間をも巻き込んだんだ」
だがちょうど忘れかけた頃に、頭上から心無い言葉を投げかけられる。罪を忘れられると言っておきながら、奴は私に何度も罪を自覚させてきたのだ。
その度にズキズキと胸が締め付けられるような息苦しさを覚えたが、直後に尻穴を刺激されたことにより下腹部がキュンと疼いてしまってそれどころではなかった。
「自分1人で奴を止められると過信していた。彼さえいなくなればいくらでも立て直せる機会はある、だから自分がその犠牲になればいいと、全てを人任せにして道連れを選んだ」
快楽に蕩けた私の思考回路では罪を悔い改める判断力は残っておらず、もはや口の中にあるチンポのことだけしか考えられなっていた。虎によって自らの罪を認識させられようとも、腸壁を擦られる快感に意識を取られてしまう。
気づけば私は立膝で虎の剛直を頬張り、尻の中のもどかしい快感に腰をくねらせながら喘いでいた。
「ぐ、んむっ、ううぅっ……」
「俺のチンポは美味いだろう?アンタの罪を忘れさせてくれる代物なんだからな」
その言葉に無意識に顔がコクコクと上下してしまう。このまま奴のチンポを舐め続けていれば、そう遠くないうちにこの罪悪感を忘れることができるかもしれない。
一縷の希望を胸に抱きながら、私は咥えながら上目遣いで虎を見る。
「そう焦るな。アンタの欲しいモンはすぐにくれてやるよ」
「──がっ、ぐぼッ!!?」
虎が急に私の後頭部を掴み、乱暴に腰を前後し始めた。抑制していた喉奥への侵入を許してしまった私は何度も[[rb:嘔吐 > えず]]きかけるが、その激しさはどんどん強くなっていく。
飛び散る粘液が口の端から顔中に広がり、生暖かい温度と蒸気が立ち込めていくのが分かる。
だが不思議とこの時の私は…不思議と嫌だと思わなかった。あの牛頭や馬頭に比べれば清潔さは虎の方が断然上だが、それでも雄の股間に顔を埋めていることに対する嫌悪感はあるはずだ。
なのに私の頭は、奴の動く腰に合わせて連動してしまう。いつの間にか体の自由も解放されていたのか、動かせるようになっていた両腕で必死に虎の太ももにしがみついていた。
「そろそろ出すが、ちゃんと最後まで飲み干すところまでが贖罪となるんだ。零したら初めからやり直しだからな」
その言葉と同時に、舌の上でぶるぶると肉棒が震え出した。私は意気消沈しているにも関わらず即座に喉を開けてしまい、奴の精液を受け入れる準備をしてしまう。
その準備に応えるように、熱い液体が喉奥へと叩きつけられる。ビュルルルッと濁った音を立てて放出されるみずみずしい白の津波を、私の口は全て受け入れようと必死になる。
ゴクゴクと喉を最大限に鳴らしながら嚥下し、入れ物の機能しか持たない胃へと放り込む。舌の上に残る粘着質な物体から香る生臭い匂いが鼻から突き抜け、全身で感じる快感に思考が蕩けていく。
この時私は、自らの体の異変を感じ取っていた。奴の精液を飲みことに対する嫌悪感が一気になくなり、むしろそれ以上の多幸感を得られていたのだ。
脊髄から広がる和やかな感情が、粘ついた液体を一飲みするごとに増してくる。びくりと肩が震え、毛皮が逆立つのを全身で感じていた。
淫紋の影響もあるのだろうが、心なしか体が以前よりも数倍敏感になったような気がする…
生暖かい液体が喉を通り抜ける度に微弱な電流を脳天からつま先まで流し込まれ続けているかのような痺れる快感を享受し、波に揺蕩っているかのような浮遊感に陥っていく。なぜかそれがたまらなくクセになり、飲み込むことがやめられなかった。
やがて第2、第3波をすべて飲み干した私の口から虎の肉棒がずるりと抜かれ、先走りと涎、そして白濁の混じった液体を垂らしながら[[rb:項垂 > うなだ]]れる。
しかし即座に虎に顎を強く持ち上げられ、視線を強制的に合わされてしまう。その表情は、見たことがないほど恍惚な色を浮かべていたように思えた。
「…よく飲んだなぁ死刑囚。少しは自分の犯した罪の重さを分かってくれたか?」
「罪の、重さ……?」
「自分がしたことの重大さだ。だからアンタは現世で死刑になり、この地獄へと落とされたんだからな」
そうだ、私がもともとここにいるのは死刑となったからだ。死刑に値するほどの罪を犯したから、今こうして罰を受けている。
だが今でも…私のしたことが完全な間違いだとは考えられなかった。たとえ私が原因で同胞たちを亡くしてしまったとしても、腐っていたのはあの元帥なのだと今でも思ってしまう。
そんなことを考えていた私の身に、重く唸るような虎の声が降り注いだ。
「まさかとは思うが、これで終わりだと思ってないよな?」
「……えっ?」
「懺悔は一回じゃ済まされない。時間は無限にあるんだ、ゆっくり楽しもうじゃねぇか?」
───
顎に走るズキズキとした鈍い痛みに、遠のいていた意識が呼び戻される。
これ以上喉を動かせそうにない。喉にへばりつく粘っこい液体が気道を塞ぎかけ、呼吸もろくに行えない。私の腹は見る影もなく膨れてしまっているのが、力無く垂れ下がった手のひらで微かに分かる。
それでもまだ虎の肉棒は口の中で暴れ、さらに白濁を押し込んでいた。食道から胃、さらにはその奥深くまでもが精液の匂いで満ちてしまったような気がする。
「うぶっ……はぁっ、あぐ…」
「たんまり飲んでくれたなぁ。どうだ?懺悔の味っていうのはよ」
「……うぅっ…」
懺悔そのものに、きっと味なんてものは存在しないのだろう。しかし私の場合、それは苦くて酸っぱく、そして饐えた生臭い匂いを纏っていた。
少しでも話そうとすれば体の中から逆流してしまいそうなほど気持ち悪い。たぷたぷと重たくなった腹が揺れ、見上げることすらままならなかった。
それでも未だ口を離せずにいた私は、完全に精液の味と匂いで満たされてしまったこの状況に浸ることしかできずにいた。
「こんなに膨れちまえば、自分の罪もしっかり腹の中に刻み込んだだろ」
数十回にも及ぶ飲精を終え、やっとの思いで肉棒が口から引き剥がされる。鼻の曲がりそうな股座から解放され、呼吸もできて嬉しいはずなのに、私の口は無意識に虚しさを感じてしまっていた。
既に尻の中に仕込まれた物体にも慣れてしまい、うねうねと動き続けているそれを気持ち悪いとは思いながらも、着実に快感を得てしまっている。
体の感度もさらに上がってしまったようで、ある一部分を少し小突かれるだけで腰がビクンと跳ねてしまう。故にそれは、私が快感に対しての抵抗を弱めていた証でもあった。
気づけば亀頭のあたりがやけに熱く、下を見れば悍ましいほどの白濁の池が広がっていた。
私はこんなにも射精してしまっていたのかと……微かな絶望が頭をよぎる。
「なかなか気持ちいいクチだったぜ。よくできたな」
「……ぐっ、んむっ…!」
心構えをしていなかった私はいきなり顎を持ち上げられ、虎に唇を奪われてしまう。突然のことに驚き離れようとするも奴の力に敵うはずもなく、後頭部を掴まれぐいぐいと顔を押し込まれた。
疲労困憊だった私に抵抗する気力はなく、そのまま分厚い舌で口をこじ開けられ、いとも簡単に侵入を許してしまう。虎が私の歯や歯茎に残った奴自身の精液を舐め取るたびに微弱な刺激が脳内を迸り、無情にもゾクゾクとした快感に背筋を伸ばしてしまっていた。
「うぐ……むぐぅっ、んんっ…ぢゅる………」
ねっとりした蜜のような水分が舌に絡みつき、貪るように口内を蹂躙されてしまう。しかし初めの頃よりもはるかに過敏になってしまった体は正直に反応してしまい、私の男根は完全復活し我慢汁を垂れ流していた。
怪力の持ち主である虎は、力の抜けた私を軽々と持ち上げては激しい接吻を続ける。舌と舌が触れ合うたびに私は情けなくも惚けた声を漏らし、軍人としてあるまじき醜態を晒してしまう。
だがそれでも、やめて欲しいとは思わなくなっていた。無様にも奴に褒められる度に、素直に喜ばずにはいられない体になってしまったのだ。
自らの罪を忘れさせるのではなく、刻み込ませる。自らの侵した過ちを強制的に認知させ、どんなに苦しくても自分の責任であると認めなければならない。
これが、懺悔。これまでも幾度となく罵倒された私の心はボロボロに剥がれ落ちていったが、溢れ出る快感に打ち勝つことは一度もなかった。
ここまで性の快感を覚えさせれてしまったらもう…それに縋ることしかできなかったのだ。
「へっ、キスだけでここまで欲情するとはアンタも染まってきたな…またそろそろイきたいんだろ?」
「……い、イき…たい……」
「ならイっていいぞ。ただし、ちゃんと宣言してからイけよ」
「あっぐ!!?かひっ、うぐ…ぅ…!」
イきたいという感情を言葉にすることに対して一瞬の躊躇を見せた私に、虎はすかさず追い打ちをかける。その大きな手で男根を掴み、激しく上下に擦り始めたのだ。
掴んでいない方の腕は私の体を決して離さず、まるで大きな獣に包まれながら自慰をしているような気持ちに陥ってしまう。じゅこじゅこと卑猥な音を立てながら扱かれる私の男根は膨張し、瞬く間に快楽物質を脳内に送り込んでくる。
高まる射精欲求と共に、その言葉を発したくないという正気と全てをかなぐり捨てて吐精したい欲望がせめぎ合う。しかし宣言せずにイってしまった場合に何をされるか分からない、むしろその方が恐いと思ってしまった私の本能は…すぐさま理性を押し潰していった。
「い…い、いっ、イき…ます……ッ…!!」
「よし言ったな。けどそれだけじゃつまらねぇし、もう一回キスしてやるよ」
「な…んぐぅっ!?」
「アンタはキスされながら射精する快感を味わえばいい。これも懺悔だ」
懺悔という言葉に再び心が反応する。私が殺してしまった、私のせいだ。
自分で自分を責め立てる言葉が頭の中を埋め尽くし、自己嫌悪が止まらなくなる。
しかし直後にそれをかき消してくれるのは、紛れもない快感だった。歯茎から、舌から、男根から、そして尻穴から溢れ出す悦楽に…私は流されていく。
「んっ、んっ、んぅッ……!ん〜〜〜〜ッッ!!」
そして私はまた、絶頂した。これまで何度もしてきたはずなのに、この射精は地獄に落とされてから最も快感の威力が大きかった気がする。
それは男根だけでなく別の場所を責められていることもあるのだろうが、それでも刺激が体を駆け巡る速さとその衝撃は桁違いだった。視界が白く弾け、何も考えられなくなる寸前まで意識が飛びかけてしまう。
互いに屈強な身体、その腹筋の間に板挟みになった私の男根は暴れ狂うことなく固定され、私と虎の顎に何度も精液をぶちまけていく。裏筋に走る鈍い痛みでさえも、今は全てが気持ち良かった。
これ以上ないくらいに、私の心が満たされていた気がした。
「理由がどうであれ、アンタは罪を犯した。それだけは絶対に忘れるなよ」
「…んはぁッ、はっ、はぁ……」
「よし、そろそろいいだろう。最後に俺の体を綺麗にしてくれたら終わりにするぜ」
言われるがままに、私は虎の腹に飛び散った自らの精液を舐めとってしまう。いつの間にか滲んでいた汗をも一緒に含んでしまい、舌の上をピリピリと刺激する感覚に懐かしい感情を覚えていた。
それだけで体の中が心地良くなっていき、恐ろしくなる腹の重量感が消えていく。やはり、快感には勝てないのだ。
私が殺した、私が周りを不幸にさせてしまったという罪悪感がどれほど心を苛んだとしても、今の私にはどうでもよかった。ただ虎の体や肉棒を舐め、許容量を超えた精液を飲まされ、快感に身を任せるだけで…その全てを忘れられていたからだ。
「本当に可哀想、というより馬鹿だよな。アンタみたいな情けないヤツについて行くなんてさ」
情けない……私は、本当にそういう人間だったのだろうか。しかし疲労し切った頭の中では、言い訳を考えることすらも不可能だった。
ああ……もう、これでいい。私はこのままずっと、淫らな行為を施され続けながら生き返るまで過ごすのだろう。
犯した罪に、幾度となく打ちひしがれながら。
「参謀や部下も、アンタが信頼を寄せてた古い仲間も…そして叶うわけない釈放を待ち望んでいた妻や子供、その他諸々の人間たちもな」
「……!」
完全に廃れる寸前だった私の理性は、その言葉で唐突に引き戻された。
忘れていた、なぜ思い出せなかったのかというその単語に、感じたことのない衝撃が体中に走る。
「特に家族は苦労しただろうなぁ。軍のお偉いさんだからこそ何週間も帰ってこないアンタを思っていた哀れな妻に、父親の帰りをずっと待ってた健気な子供……可哀想だぜ、本当にさ」
吐き捨てるような声だった。道端の小石を蹴飛ばすような口調だった。
他者の命など気にもとめない奴からしたら、その言葉の中に深い意味などないのだろう。
だが私に湧き上がっていたのは、途方もない怒りの感情。それ以上でも、以下でもなかった。
それが私の罪の意識を再確認させるためのものならば、それでいい。
だが今の発言は、確実に私に向けた言葉ではなかった。私ではなく、私以外の大切なものを踏み躙ったものだと直感が叫んでいた。
この瞬間、私の理性は初めて、性欲という一つの三大欲求に打ち勝ったと言えたかもしれない。強すぎる射精欲求も、虎の体を舐めることで得ていた幸福感も、今の私には無駄だった。
激しい激情に身を任せ、這わせていた舌からは何も感じない。心地よかったはずの汗の味も、鼻腔を突き刺す雄の匂いも、腹に刻まれた淫紋も…今この時だけは、私の怒りを増幅させるためのものでしかなかった。
虎の呪縛から解き放たれた私は、皮肉にも奴から与えられたこの獣の体を駆使した。鋭利な牙を奴の体に食い込ませ、皮膚と呼べるであろうその皮を引き千切ろうとする。
自分の中に眠るケダモノとしての本能が、堅牢な檻から解き放たれた瞬間であった。
あと一瞬、ほんのあと一瞬だけでも早かったら、私の牙は虎の体を貫いていたかもしれない。
「────!?」
しかし奴もまたその異変に気付いたのか即座に回避し、私の口は空を噛むように空回りに終わってしまった。普通であれば私はその時点で諦めただろうが、たった一度の失敗で煮えたぎる心は折れず、何度も何度も噛みつこうと無様に顔面を突き出す。
だが私よりも奴の方が逃げるのは簡単だっただろう。対して力の入らない両手を持っていた私では鼻先ひとつ掠めることもできないまま、地面に突っ伏してしまった。
それでも私は鼻息を荒げながら奴を睨みつける。
「これ以上妻を……子供を…私の仲間たちのことを、侮辱するな……ッ!!」
「……へぇ」
「お前は何を言っているんだ…っ!?誰に対してその言葉を吐いているんだ!!!」
頭の中が沸騰しそうに熱い。思えば地獄へ来てから初めてここまで激昂し、叫んだかもしれない。
だがそれほどまでに、私にとって許すまじ行為であったのだ。虎に逆らうことが無駄だと分かっていても、黙って聞いているわけにはいかなかった。
いくはずがなかったのだ。
この先どうなるかなんて知らない。もしかしたら生き返れないかもしれない。
だとしても、私以外の人々を侮辱されるのはどう考えても間違っている。罪を背負うのは私1人だけでいいのだから。
「罵倒は私にだけすればいいはずだ!私はどうなっても構わない、だがそれ以外の人たちを悪く言うのは筋が違うだろう!?獄卒が罰するべき対象をすり替えるなッッ!!」
「これは驚いた……アンタはまだそこまで腐っちゃいないか」
今もなおニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている虎が、今までで一番憎たらしい。あの言い草に、時折見せた優しさに飲み込まれなくて良かったと、ひどく思う。
もしあのまま身を委ねていたら、きっと私は気づかなかっただろう。やはり地獄に住む奴に善人などいるはずがない、少しでも思いやりがあると考えた私がバカだった。
コイツらは他者の命など興味ないのだ。それはきっと、私たちのように罪を犯したものたちと同類なのだろう。
善悪を区別する能力など要らない。
ただ罪人に罰を与えるだけの存在なのだ。
結果的に報復は失敗に終わったが、私はもう何をされようと構わなかった。今なら燃え盛る業火に投げ込まれようと、体を切り刻まれようと、全て耐えられる覚悟だった。
それゆえに、奴へこれ以上ない怒りを露わにしていた。言うなればそれは、殺意にすら近しいものだったかもしれない。
「しかしまぁ、ご主人様に向かってよくもこんなことができたな」
「ふざけるな!!何がご主人様だ……同じことをもう一度言ってみろ…!!」
「言ったら?」
クソ、どこまでも余裕ぶったその顔が腹立たしい…!
体の穴という穴から汗が吹き出し、頭がかち割れそうなほど熱い。死んで動かなくなっているはずの心の臓の音が、耳元で五月蝿く鳴り響いていた。
今なら、今だけなら…奴に抵抗できるかもしれない。頭突きでも体当たりでもなんでもいい、何かしらの反撃をしないと気が済んでくれないのだ。
手枷を外してくれていたおかげで立ち上がることはできた私は、足に力を込める。使ったことのない獣の体を今この瞬間だけでも使いこなそうと、全神経を集中させる。
「お前の首を噛み切る……こうしてなぁッ!!!」
刹那、私の体は宙に浮いた。自らの意思で地面を蹴り、口を大きく広げ、虎に向かって飛びかかったのだ。
それが徒労に終わることは分かっていた。だがそれでも、奴の意表をつくことさえできればかすり傷の一つはつけられるかもしれないとも思っていた私は、あらん限りの力を尽くした。
しかし案の定それは、無駄に終わった。なんの手応えもないまま私の体は地面に突っ伏し、硬い床に体を強く打ち付けてしまう。
これでも頑張ったと自負したいが、やはり奴には届かないようだった。勇ましく反抗したものの、ほんの僅かな結果すら残せなかった恥ずかしさが胸の中に残る。
だがそんなことに構っている場合ではない、もしかしたらまだ機会はあるのではないかと、さらに体を起こそうとした。
その、瞬間だった。
私は妙なことに気づく。
今見えている世界が、90度に傾いていた。
いや、倒れ込んだのだから横向きになっているのは当たり前だろう。視界の左端に映り込む黒い影はおそらく床で、その奥には見慣れた鉄格子が横向きに並んでいるのだ。
見えているのは至ってごく普通な、牢獄の光景のはずだった。
目の前にある『ソレ』を除いては。
そもそも、私が今これを見えていること自体あり得ないはずだ。
あり得ていいモノでは、決してなかった。
──そこには、私の体が横たわっていた。
「………………え?」
虎の足元に横たわる獣の体。私の纏っていた色と全く同じ毛皮を持つそれには、首から上が存在していなかった。
[newpage]
何が起きた?
どうして、私の体があんなふうに見えている?
どうしてあの体には頭が無い?
頭は────私?
腕も、手も、足も、感覚は確かにある。なのにどうして私は、起き上がれないのだ?
身体の感覚は確かに残っている気がするのに、実感が無い。中身だけを取られ、空になった状態の体を動かそうとしているような気分だった。
吐き気が、悪寒が、思考が、逡巡する。
一体何をされた?
私は今、どのような状態なんだ?
「俺の首を噛み切ろうってか?怖いなぁ…そんなことできるとでも思ってるアンタの脳ミソがな」
「な……な、なに、をっ……!」
「分からないならちゃんと見せてやるよ。ホラ」
ひたひたと近づく虎が私の頭を掴む。同時に視界がぐんと上がり、起き上がる動作をしていないのに見える範囲が途端に広がった。
そこには普段と変わらない牢獄の風景と、横たわる私の……体……?
嫌だ、見たくない。初めて感じる類の恐怖が、私の思考能力を奪っていく。
それでも虎は私の顔を体に近づけ、わざと見せつけるようにしてくる。嫌でも視界に入ってしまうそれはさっきまで当たり前のように生命活動を続けていたかのごとく、あまりにも生々しい生気を漂わせていた。
「たった今、アンタの胴体と頭は切り離されたんだ。正真正銘、これはアンタの体だよ」
「そ……そんな………」
目の前に横たわる、首だけを失くした肉体。ピクリとも動かないそれは人形のように見えるが、明らかに自分の体であると分かってしまう。
他ならぬ持ち主である私だからこそ、それが本当に私の体だと直感していた。
よく見ると首の断面は見えず、まるで切り離された事実が初めからなかったかのようにびっしりと毛皮が生えている。血の滲みも無ければ床や壁に飛び散った形跡もない。
そもそも、思い返せば痛みすらなかった。気がついた時にはもう、首と胴体が切り離されていたのだから。
私は絶句していた。頭の中がまだ整理できない。
繋がっていないはずなのに口から漏れる息は震えて、呼吸は小さい。肺や気道も切り離されているのに当たり前のように呼吸は実現し、窒息しそうな息苦しさは全くなかった。
味わったことのない狂感覚に、途方もない吐き気が込み上げる。しかし下を見ても私の胴体は無く、見えるのは無機質な牢獄の床だけ。
無論、あるはずのない胃から液体が逆流してくることもなく。
「な……なにが、どうなって……」
「こんな事じゃアンタは死なないさ。地獄における本当の死は、それこそ魂の消滅を意味する。すなわち輪廻転生の環から外れることになるからな」
虎の言っている言葉の意味など、理解できるはずがなかった。今の私には、このような状態であることを受け入れようとすることだけで精一杯だった。
首を切り離されているのに呼吸はでき、舌や喉の動きも確認できる。だが唾を飲んでも床に滴り落ちることはなく、今吐いている息もどこから来ているのか全く分からない。
まるで、感覚だけを残して私の首から下がどこか異空間にでも行ってしまったかのようだ。
無から有が生まれていた。現実ではありえないことを、私は身をもって思い知ることになってしまったのだ。
乾いた呼吸を繰り返す私の頭上から、無慈悲な声が降り注ぐ。
「これだけやってもまだ抵抗する意思があるんだ、それ相応の罰を与えなければな」
「な、何を……や、やめろ……!」
「やめろ?ご主人様に向かって歯向かっといて今更何言ってんだ。それよりさっきまでの威勢はどこに行ったよ、死刑囚。勇ましく偉そうな反抗は見せないの…かぁッ!?」
「──!!」
直後、私の視界はありえないほどの速さで廻り、揺らぎ、急降下した。頬に直撃する硬い物体と共に、鼻から口にかけて激しい痛みが走る。
体のない状態では受け身すら取れず、モロに衝撃を喰らってしまった顔面は縦横無尽に暴れ狂った。連続する目眩に三半規管は狂い、ぐらぐらと視覚や聴覚が掻き回される。
見えていた景色が輪郭を崩し、絵の具のように混ざり合い、全てが痛みと共に濁っては星屑のように消えていった。
やがて痛みと気持ち悪さが徐々に引いてくると、視界も明瞭になっていく。像が結ばれ、ぼやけていた目の前の光景が鮮明に映し出される。
私はこの時、自分と虎の距離が離れていたことに気づく。同時に、自らに起こった事も理解した。
きっと首を地面に叩きつけられたのだろう。受け身を取るための体がないこの状態では、直にその衝撃を受ける以外の道はなかったのだ。
「……はっ、はっ、は………」
体が無い。すなわち、私は何もできない。
これから誰に何をされようと、抵抗もできない。
私はこの時生まれて初めて、真の恐怖を覚えていた。死や、自らの体が淫靡になっていくものとは全く違う、直接的な感情だった。
全身の毛穴を針で突き刺されたような感覚に、無意識に顔の筋肉が引き攣ってしまう。
「何そんな顔してる。自業自得だろう?アンタが抵抗したのが全ての原因なんだよ」
嫌な考えが一気に広がって止まらなくなり、頭の中が絶望に染まっていく。呼吸がどんどん乱れているのが分かる。
自業自得なのか…?
いや、間違いを犯したのは虎のはずではないのか?どうして私がこんな目に遭っている…?
思考が乱雑に絡まり合い、ぐちゃぐちゃになっていく。誰が正しくて、誰が間違っているのか。その判断すらもできない。
まさかこんな状態にされるなんて思ってもいなかった。そもそも、誰もこんなことは想像できないだろう。
心のどこかで地獄というこの世界を甘く見ていた、私の慢心が生んだ惨状。虎が本気を出せば、本当に私を塵にでも灰にでもできるのだということをこんな状態で思い知った私はきっと…救いのようない馬鹿なのだろう。
恐怖で声が出なかった。普通に行なえていた行動ができないという想像を絶した衝撃に、首筋が氷のように冷たくなったような気がした。
カチカチと歯が擦れる小さな音が聞こえる。いつの間にか、あまりの悍ましさに口を震わせてしまっていたようだった。
失って初めて気づくものだという誰かの言葉が、唐突に蘇ってくる。それでもこれは…失うにはあまりにも大きすぎる。
だが、きっともう懇願しても帰ってこないのではという考えの方が強かった。
「うぁっ…!?」
額に滲む汗が目尻の真横を通り過ぎた直後、私の頭は虎に掴まれた。毛皮を乱暴に毟られるような痛みと共に、視界が急に浮上していく。
膝立ちの状態よりも低くなった視線は辺りを見回せるほどのものではなく、振り子のようにぶら下がったような前後の揺れに酔いそうになる。だが首を回そうとしても首周りの筋肉がないため、振り返ることもできなかった。
『当たり前に行えていた行動』ができない、その事実だけで感じたことのない焦りと不安が一気に込み上げ、口の中からあるはずのない異物が飛び出しそうになる。
だが奴は未だ激しく動揺している私をよそに、いきなり歩き始めた。
「ど、どこへ行く……!?」
「アンタにはやっぱりもっと過酷な仕置きが必要だからな。今からその場所へ連れて行く」
それ以上、言葉は出てこなかった。首だけになった状態ではどう足掻いても抵抗できるはずがない。体の感覚は微かにあるものの、動いたとしても牢から出られる訳がない。
切り離されてもなお残る体の感覚に力を込めても、起き上がる様子は微塵もない。もう、完全に詰んでいるということを受け入れるしかなかった。
それまでの過程があまりにも不可解すぎて未だに脳の処理が追いつかないが、一つだけわかったことがある。
少なくとも、この先私に待ち受けるのは確実に生易しいことではない。むしろ、今までで最も最悪な目に遭わされるのだということを……すでに確信していた。
───
呆然としたまま奴の歩は進み、長い時間をかけて辿り着いたのは限りなく広い場所。枯れ果てた地面は火山灰のように灰色で、空は焼け付くような朱を纏っていた。
周囲には禿げた野山のような丘陵が取り囲んでいるが、それら全てが酷く色褪せている。そして最も印象的だったのは…罪人はおろか、獄卒すらもいないことだった。
この空間において、私と虎以外の存在を一つも感じ取ることができなかったのだ。
そんな虚無に囲まれた中心に、ぽっかりと空いた大きな穴が存在している。
ただ、それだけだった。
なのに私には「それ」の正体を、一瞬にして悟ったような気がした。
「さぁ、着いたぞ」
「ここは……」
「地獄なら誰もが行きたがらない場所だ」
虎の言葉で、不安が絶望へと変わっていく。奴は穴の淵に近づいて私に覗き込ませるように顔を突き出すと、次の瞬間には、私の真下には底の見えない真っ暗な虚無が広がっていた。
黒に黒を幾度となく重ね塗りしたような…紛れもない漆黒。これを実在する本物の闇と呼ぶのなら、誰もがそう信じてしまうと思えるほどだった。
気を抜けば意識まで丸ごと吸い込まれてしまいそうなほど深く、無限にも広がるような黒色に、形容し難い恐怖が込み上げてくる。首を切り離された時の絶望感ではなく、存在そのものに細胞単位で拒絶していた。
顔が引き攣り、呼吸が浅くなっていくのが分かる。中身のない体からすうっと細く冷たい針を貫き通されたような感覚を覚えた。
「いっ、いっ…嫌だ……こんな…!」
「これが『奈落』だ。前に話したろ?落ちたら最後、アンタの魂は永遠に闇を彷徨うことになり、二度と生き返ることはできなくなるぞ」
その穴の上に、もがくこともできない私の頭が浮かぶ。ゆらゆらと頭頂部の毛皮を揺らされ、見えていた世界が乱される。
しかしどうやっても下に広がるのは、真っ黒な常闇だった。
這い上がって自らを覆い隠してしまうのではと錯覚してしまうほど、目の前まで迫っているように思えてくる。遠くにあるはずなのにすぐ近くまで存在しているような、そんな感覚。
もしも戯れに虎が指の力を抜けば、それで全てが終わる。生き返ることもできず、どのような結末を迎えるかも想像できない。
自分の命の行先を全て掌握され、弄ばれていた。何よりも尊いはずのものを、完全に。
「いつ見ても深ぇなぁ、アンタもそう思わないか?」
「や、あっ、やめっ、やめてっ…くれ…っ!」
「何言ってる?普通の罪人じゃ絶対に来れない所までせっかく来てやったんだ、どうせならしっかり目に焼き付けておけよ」
「うぁっ……ああ…!」
顔全体を下に向けられてしまえばもう、目の前には黒しか広がっていない。どこを見ようが、何一つ変わらない光景だった。
視線を逸らしても黒、瞼を閉じても黒、開けても黒。
黒、黒、黒……………
無限に広がる闇に何が何だか分からなくなった私は、泣き喚く子供のように掠れた声をあげていた。
それは命惜しさに嘆いたのではなく、虎に懇願したのでもない。無論この穴に落ちてしまったら生き返ることができなくなるという絶望もあったのだろうが、それを凌駕するほどの感情が満ちていく。
ただただ、怖かった。
遠いようですぐ近くにあるような、どこまでも広がるその闇が。
死を迎える直前に[[rb:顳顬 > こめかみ]]に突きつけられた拳銃、戦場で見た数々の無惨な戦死体、敵国の兵士を殺した瞬間に嫌でも感じ取ってしまう…畏れという概念そのものだった。
牛頭や馬頭なんかでは比べ物にならない、あの虎にすら及ばない。おそらく……閻魔にも。
これは絶対に現世に存在してはいけないモノだ。もはやモノとして認識すること自体が禁じられているというような威圧感が、眼球を通して痛々しく突き刺さって来る。
だからこそ今この瞬間、私は地獄にいるのだと心の底から信じた。
完全に恐怖に支配されてしまった私はもう、正気ではいられなかった。
「お、お願いだっ…頼むからもうやめてくれ…!」
「……そうだな、もうそろそろいいだろう」
え……?
半信半疑の私だが、もはや判断する能力はほぼ残っていなかった。さぁっと心に広がっていく安心感に、涙すらこぼしてしまいそうになる。
だが、その言葉に一瞬でも解放されると安心してしまったのが間違いだった。
「じゃ、始めるぞ」
「なっ、なっ、何をっ…んぶッ!!?」
掴まれた私の首が向かった先は、虎の股座。口を無理やり押し広げられ、いつの間にか屹立していた奴の男根を一気に咥え込んでしまう。
鼻腔内を淫臭が一気に突き抜け、恐怖によって塗りつぶされていたはずの性的興奮が湧き上がってくる。ねっとりした奴の先走りは既に舌にまとわりついており、痺れるような味に頬が熱くなる。
「俺が満足するまでしゃぶればいい。ただし、こうやってな…」
「……ッ!?」
その瞬間、私は更なる恐怖を与えられることとなった。
押さえつけるように後頭部に食い込んでいた奴の手のひらが、徐々に離れていたのだ。首だけになっても自重は残っているため、少しずつ下へ下へとずり落ちていくのを感じていた。
重力が存在しているこの地獄なら、一般的に考えて肉棒よりも頭の方が重いに決まっている。ならばこの先に起こりうることは誰でも予想できるはずだ。
このまま何もしなければ、支える体のない私の首は奈落へと真っ逆さまだろう。
そして二度と生き返る事もなく、暗闇を永遠に彷徨うことになる……
嫌だ、そんなのは絶対に御免だ。
こんなところで、生き返るための権利を失いたくない。
ならばもう、やらなければならないことは分かっていた。首だけの私は思い切り虎の肉棒を吸い込み、落ちないことだけを考えながら口淫を続けるしかない。
「奈落に落ちるのは絶対にイヤだよな?ならそうやって全力で咥えるしかねぇよなぁ…」
「ぐ、んうっ、ごぶっ……」
「けひひ…せいぜい頑張れよ。俺が満足するか、アンタが諦めるかのどっちかだからな」
普段通り真正面から咥えているわけではないため、これまで行なってきたような舐め方も簡単ではなかった。虎の肉棒が上顎に密着し、しがみつくように舌で固定しているために愛撫もできない。
この状態でどうやって虎を満足させればいいのか。理不尽極まりない極限の状態だが、少しでも気を抜けば今までの苦労も全てが無駄に終わる。
何より、あの暗闇をもう見たくなかった。もう一度真正面から向き合ってしまったら、確実に発狂してしまうと思っていた。
アレの中に落ちるのは…なにがなんでも避けたかったのだ。たとえ生き返ることができなくなったとしても、あの穴にだけは絶対に落ちたくない。
その一心で私は、鼻息を荒げながら[[rb:滑 > ぬめ]]る肉棒にしがみつくことしかできなかった。
───
それからは言うまでもない。一心不乱に肉棒を咥え続けていた私は、口の中へとどんどん白濁を流し込まれた。
腹の無い体ゆえに溜まることはなく、実質無限に注ぎ込まれる熱く粘ついた液体に喉が火傷しそうになっていた。
それでも虎の射精…もとい奴の性欲はとどまることを知らず、延々と飲み込み続けた。時折顔を掴まれては、目線が合う場所まで持ち上げられ、ゲラゲラと嘲笑されながら罵倒されるだけ。
気を抜けば奈落という恐怖に常時迫られていた私の意識はろくに保てるはずもなく、聞き取ることも言い返すこともできない。
ただ息継ぎだけに没頭し、口に溜まった精液をぼたぼたと虚空に落とす。虎の言葉が途切れれば再び口を股座に固定され、奴の肉棒を舐るだけの存在となった。
もはや耐える耐えないの問題ではなかったのだ。ただ咥える…それだけが私が助かるための方法だった。
虎に施されるイタズラにも何度屈しかけたことだろうか。ある時は頭を優しく撫でられ、それだけで忘れかけていた従順の心が復活して一瞬の気の緩みが生まれてしまい、口を離してしまいそうになった。
またある時にはいきなり腰を上下に揺らし始め、私の顔を肉棒から引き離そうとするような動きもした。奴にとっては本気ではなかったのだろうが、先走りと白濁の混ざり合った粘液がたっぷりとまとわりついた口内と虎の肉棒はどんどん滑り、息を吸おうとしただけで離れそうになった。
涙すら溢れてしまうほどの恐怖を覚えたのは、これが初めてかもしれない。幾度となく振り回される視界と空間に翻弄されながらも無我夢中で口をぎゅっと閉じ、力を振り絞って吸い込み、蛇のように舌を肉棒へと巻きつかせて耐えるしかなかった。
事あるごとにジュルルッと卑猥な音が耳の中を何度も満たしていく。その音ですら邪魔になるほど、自分でもありえないくらいに必死に喰らい付いていたように思う。
鼻水を、涎を、涙を、口の端から溢れる精液をあちこちに振り撒きながら、獲物に噛みついて離さない野生の獣のようにむしゃぶりつくだけ。
それが男性器だという羞恥心はもう、とっくの昔に消えていた。
そしてまた、虎は私の頭を引き剥がしては満足げに笑うのだった。
「あーあー、もう涙がヨダレか精液か分かんねぇな…だが、いい[[rb:表情 > カオ]]してるぜ?」
「…っはぁ、はぁっ、ひゅぅ………」
「結構頑張ってるじゃねぇか。そろそろやめたいか?うん?」
やめられる………!
その言葉に、切り離された胸が躍る。ぐちゃぐちゃになった思考ではもはやなにも考えられなくなっており、虎がこの行為を止めてくれるならどんなことでもするとしか思えていなかった。
「も、もう…終わりにさせてくださいご主人様……私がっ、私が間違っていました…!」
「だろう?死刑囚であるアンタは獄卒である俺に逆らう権利なんて無いんだよ。分かってくれたか?」
壊れて首のもげた木偶人形のような私は、泣きながら懇願する。どんなに無様だろうが、上下の関係を完全に理解させられた今の状況では言葉すらも慎重に選ばなければならなかった。
だがどれだけ心構えはしていたとしても、ご主人様という言葉を使うたびに心がキリキリと締め付けられる。一概にも軍の最高指揮官であった誇りと矜持が、少しずつ剥がれ落ちていくような気がしてしまう。
そんな私を見て楽しんでいるのだろう、奴は私が言葉を発するたびに手に力を込め、頭蓋が割れてしまいそうなほどの握力で握り潰そうとしてくる。頭頂部に走る鈍い痛みで眼球が飛び出そうになり、途切れ途切れの言葉が力無く零れ落ちていった。
「ぎぃ…ぁ…!!わ、分かりました、分かりました、からっ……どうか、どうかもうこれ以上は…!」
「じゃあ、アンタは自分に付いてきた人たちを全員無下に扱ったって事でいいんだな?そうだろ?」
「うぐ……そ、それは………!」
ようやく酌量の機会が訪れたと思ったのに、また奴は私を一層殺しにかかってくる。その一言で、淫靡に染まっていた私の思考が一気に冴え渡ってしまう。
そこで一瞬でも躊躇ったのが間違いだった。言い淀んだのを見逃さなかった虎は、またつまらなそうな表情を浮かべながら吐き捨てる。
「まだ自分の中で落とし込んでいないようだな?間違っていたのはアンタだ、アンタが自分で全てを台無しにしたんだ。そのことを完全に認めるまでは…止めるワケにはいかないな」
「そんな…嫌だっ、や、やめてくださいご主人さ……んぐっ!!?」
私の口は再び肉厚な海綿体を頬張ってしまう。舌の上にトロトロと流れ出る生暖かい液体は、虎の性欲の復活を示していた。
そしてまた、耐え忍ぶだけの時間が始まろうとしていた。
[newpage]
…………どれほどの時間が経ったのだろう。
あれから何度も奴の言葉に反応していったが、どれもこれも「違う」と言って跳ね返されていた。罪人らしくない、罪の意識が足りない、もっと犯した過ちのことを考えろ……
あまりにも理不尽すぎるその内容に、私の思考は確実に擦り切れていた。常に奈落の底に怯えながら藁にもすがる気持ちで口淫を続けていたというのに、一切の終わりが見えないのだ。
これが永遠に続くようにすら思えた。
もはやなんのために虎の肉棒を咥えているのかも分からなくなり、ただ無心で舐めまわしては貪っているだけ。時折虎が私の頭を引き剥がしては言葉を投げかけるが、どうせ救いの余地はないのだからどうでもいい。
身も心も、本当の意味で死んでいた。
というより、虎に奉仕している間だけは奈落に落ちる恐怖を忘れることができていた。何度も必死に耐えていれば、それなりに離れない咥え方やしゃぶり方などを嫌でも発見してしまうものだ。
むしろこれが奈落に対する唯一の対抗策だと気づくようになってからは、さっさとそのチンポを口に入れてくれと、そう思うことしかしなくなっていた。事実、そうしていた方が心地よかったのだ。
ここにきて牛頭に嫌というほど咥えさせられた記憶が蘇る。だが今となっては、その経験が確かに活きていたことに若干の感謝を感じていた。
私の口が覚えていたのだ。喉奥まで肉棒を咥え込みながらも口を離さない技術を、拙いながらも知らぬ間に習得していたらしい。
不幸中の幸いと言うのか、そのおかげで私は奈落へと落ちずにここまで耐えることができていた。
少し時間が経つと虎は面白がって私の体の感覚を復活させ、あろうことかそれを頭と接続させた…らしい。初めは全く信じられなかったが、手に触れる床や檻の感触、歩けば冷たい床の温度までもが感じられた瞬間、久方ぶりの五感に衝撃を受けざるを得なかった。
奇妙、というほかに表す言葉がない。私の目の前にあるのは虎の陰毛や腹筋なのに、戻ってきた手足の感覚はいつも通りの牢獄にある。
何度か体を動かしてみようと試みたが、見えているものが全く異なるために幾度となく体中を部屋のあちこちにぶつけ、結局座り込むことしかできなかった。
だが、未だ驚く私の身に摩訶不思議なことが起き始める。
今までは飲んでも飲んでも蓄積されることのなかった白濁は私の腹の中へと溜まり始め、感覚しか残らない体が重たくなっている気がしていた。想像しながら腹のある方へと手を伸ばすとやはりそこは徐々に膨らんでおり、どういうわけか奴の精液が大量に流れ込んでいたのである。
加えて体の感覚が戻ったということは、忘れかけていた身体的な性的興奮も私の脳内に直接流れ込んでくるようになってしまうことでもあった。予感は的中し、淫紋によって下腹部から広がる歯痒い快感に思考が少しずつ蕩けてしまう。
さらに尻の中に入りっぱなしになっていた異物感にも意識が向いてしまい、腰の奥深くが疼いていた。男根の真下を何かが突き上げる度に、キュンとした鋭い快感が直腸内を襲う。
誰もいないはずの部屋で首なしの肉体が一人でいやらしく体をくねらせていると思うと……なぜかそれだけで胸が張り裂けそうだった。
私もまたそんなことを悠長に考えられる訳でもなく、奈落へと落ちないようにひたすらに虎のチンポをしゃぶることに集中するしかない。だが体の感度がこっちにまで伝わってしまうとなれば、口を閉じることすらも困難であった。
「ここまでしてもまだ離さねぇとは、よほど俺のチンポが好きなんだな?」
「…ぅぐ、んっぐ…おごっ……」
好きなわけではない……
決してそんなことではないと強く思いたいが、舐めるのをやめられないのは確かかもしれなかった。舌の上を刺激するしょっぱい塩味が、いつしか恋しくなってしまっていたのだ。
離されないようにぎゅっと口に力を込めれば鈴口から何度も流れ込んでくるそれは、私の恐怖を和らげてくれる代物だった。時折溢れ出る精液も例外ではなく、飲み込むことに没頭するだけであの闇を忘れることができる。
これ以上ない逃げ道だった。私の内に巣食う弱い心が生み出した唯一の退路を見つけてしまっては、正常な判断を下せるはずもない私の理性はそこに縋り付くしかない。
そしてまた、いきなり頭を引っ張られては持ち上げられる。まだ味わっていたかった雄の味と匂いが離れ、だらしなく舌を垂らしながら虎と視線を合わせてしまう。
「よくやったな死刑囚。正直、ここまでやるとは思ってなかった」
「はぁ、はぁっ、ううぅ……」
「すぐに音を上げて真っ逆さまかと思ったが…良い根性見せたじゃないか。よくやったぞ?」
そう言って奴はまた私の頭を撫でる。喜んだとしてもどうせされることは同じなのに、期待しても無駄だということはさんざん思い知ってきたはずなのに…どうしても喜びを隠しきれない自身の体が憎かった。
見えなくても分かってしまうのだ、尻尾がゆらゆらと揺れているのが。
「俺も何度か出してようやく頭が冴えてきた。ちとやりすぎたか?」
「え……っ?あ、いや、その…」
唐突すぎる虎の言葉に動揺してしまった私は、返す言葉が見当たらない。ずっと底知れない恐怖に覚えながら肉棒を舐め続けていた影響もあり、まともに会話する気力は持っていなかった。
「ああ、言わなくていい。もう十分わかっただろうからな。だろ?」
「う……は、はい…」
何が、とは言わずとも分かる。この地獄で逆らえばどうなるかということを言っているのだろう。
おそらく今後同じようなことすれば、またこうして精神を無理やり削るような仕打ちをすると暗に伝えていた。
虎から過剰に言い聞かされた仲間に対する罵倒もいつの間にか受け入れてしまっていた私は、それをも含めた返答をしてしまう。
全て、私が原因だったと。
「よーし、良い返事だ。じゃあ最後に気持ちよくイかせてやる、『チンポを弄れ』」
「えっ…あ゛ぁっ!?」
それは虎による命令だった。だがその言葉に、私の首は何も起こらない。
しかし情けない声を上げてしまったのは理由がある。その命令を行い始めたのは、切り離された私の体だった。
牢獄の壁にもたれかかっていたはずの体はいきなり動き出し、私の男根を手のひらが包み込む感覚がする。
激しすぎる手淫にぶるるっと全身が震え、腰が砕けた。その勢いで声が漏れてしまったのだ。
「あっ、あっ、あ、んんっ…!!」
「久しぶりだからずいぶん気持ちいいだろう?アンタの握力は強制的に失くしてあるが、俺の命令ならちゃんと機能してくれるからな」
あんなに力の入らなかった指々がしっかりと私の男根を掴み、程よい速さと力加減で包皮を上下に擦る。既にダラダラと大量の先走りを垂れ流していたその剛直は何度も小刻みに震えながら、暴発する準備を進めていた。
まだ射精していないというのに、扱くだけでこんなにも心地が良いのは初めてだ。それだけ体が敏感になってしまったのかもしれないが、今はもうどうでも良かった。
虎の手で持ち上げられた首だけの私は、ひたすらに喘いでいた。どれだけ顔を赤らめようと、反射的に涎を垂らしてしまおうと、真正面に捉えられては全ての表情を晒してしまう。
それでも構わなかった。ただ、全身を急激に駆け巡る快感の波に飲み込まれていたかったのだ。
「上の口がずいぶんと寂しそうだな。コッチもちゃんと付き合わせてやろう」
「ん゛っ!!?がっ、ぐぶっ…!!」
そう言って虎は奈落からかなり離れたところに私の首を持って行き、私の口を穴代わりにする。今度は喉奥までもを潰さんとする乱暴な前後運動だったが、今は下にちゃんとした床が存在しているため、私は恐怖を抱くことがなかった。
ならばもう、安心して奉仕できるというものだ。
あの暗闇が視界に入らないこの状況がこんなにも幸せだと思える時が来るなんて…想像もできなかった。
私はこの時ほど、心の底から喜んだことはないだろう。あの必死の口淫は無駄ではなかったと、安堵と幸福感が頭の中にじんわりと広がってゆく。
虎のチンポを喉奥に突き刺されようとも、強引に口を押し広げられて大量の先走りを放り込まれようとも、今この時だけはそれに勝るものは存在していなかった。
「へへ、かなり上達したじゃねぇか死刑囚…アンタも気持ちいいだろ?」
「んぐ、んんっう……がふッ、ぐぼっ…!」
激しく打ちつける腰の勢いは強く、まともな会話などできるはずもない。その代わりの答えというように、私の舌は慣れたように虎の裏筋へと這わせていた。ジュボッジュボッと淫らな音が口内を犯し、ここにきて虎の本気をその身に受け止めているという実感を得る。
舌の上で暴れ回る虎チンポがぶるぶると震え、あと少しで射精される……という瞬間、いきなり私の口はずるりと引き抜かれた。
「おっと、射精する前は何か言うことあったよな」
叫ぶように放たれたその言葉に、混乱していた私の思考は逡巡する。情報の整理を虎の射精が始まる前に終えた時、様々な液体に塗れた口が開く。
「い…いっ、イきたいですっ……!イかせてくださいご主人様…っ!!」
「よぉし良いだろう!俺も出すぞ、しっかり飲み干せ死刑囚!!」
見えない私の手が、膨張した男根に最後の一往復をした瞬間……私の口はしっかりと虎のチンポで栓をされ、大量の精液を叩きつけられた。
同時に、遠く離れた本体の体の腰深くから熱源を放出しながら。
ドビュルルッッ!!と尿道を迸る性の奔流が、忘れかけていた悦楽を思い出させる。射精という行為が与えてくれる気持ちよさを、切り離された私の脳内が再認識する。
強すぎる手淫の快感に背筋が弓なりにのけぞる感覚を覚え、あまりの衝撃に脳が処理しきれずに白目を剥いてしまう。だがあの奈落での衝撃と恐怖に比べたらこんなもの、はるかに幸せである。
同時進行的に口の中に熱く滾る虎の白濁が喉奥に叩きつけられ、乳白色の即席水槽が出来上がっていった。朦朧とした意識の中でそれを零さないようにごくごくと飲み込み、自ら進んで咥え込んでは鼻先を陰毛の中へと滑り込ませる。
むわりとした重厚な雄の匂いが鼻腔を満たし、顔じゅうの毛皮が淫臭に染まっていく。ビュクビュクとお互いの肉棒から飛び出していく精液、その両方から享受できている途方もない快感。
さらに腸壁を擦られる妙な心地良さが加わり、快楽に大きく拍車がかかる。
恐怖に支配されていない状態での淫らな行為というものは、こんなにも至福なのか。
なんて幸せな絶頂だっただろうか……
蕩けた思考が緩やかに染み渡っては、私を快楽へ堕としていく。それがいかに卑猥で浅ましい事だと分かっていても、拒否することなどできなかった。
繋がっていないはずの食道を通り、私の腹の中に熱いものが溜まっていくのが分かる。だがそれは今までにないほどの多幸感を提供してくれており、途切れるのが悲しくなってしまったほどであった。
白濁に染まった虎のチンポを一通り掃除し終え、鈴口に残った残滓をしっかり吸い込んだところで頭が股座から離れる。満たされなくなった口内と鼻腔は少しだけ空虚な寂しさを感じてしまうが、仕方ないのだと無理やり言い聞かせるしかない。
「ふう…よくやったぞ死刑囚。こうやって罪を認めれば認めるだけ、ラクに快楽を感じられるようになるんだ」
「はぁっ…はぁっ、ら、楽に…」
「もっと従順になれ。己の罪を悔い改めることがアンタに残された道なんだからな」
虎の一言一言が、心の中に染み込んでいく。恐怖に晒され続けた私の心はひどく弱り、もはやまともな思考はできなかった。
べちゃりと床一面に広がる白濁の海に転がる私の首。真横になった視界には虎の屈強な足が目の前に映り、なぞるようにその体を見上げる。
私は、コイツに逆らうことはできない。
逆らってはいけない……絶対に。
服従という言葉が頭をよぎるが、それ以上のことは考えられなかった。
その対象である虎は私のことなど依然として気にもせず、フラフラと辺りを歩き回っては何か準備をし始めていた。
「色々と収まりやすい小ささになったし、せっかくだからこうやって戻るか」
そう言うと虎は私の頭を軽々と持ち上げた。射精の快感が強すぎたために意識がまだ朦朧としており、何をされるのかも分からないままことの成り行きを受け入れることしかできない。
少し時間が経ってから、私は真っ暗な場所に押し込められたことに気づいた。
なんだ……?ひどく狭くて息苦しい、口が塞がれてしまいそうになる……
「………!!」
だが、その場所に立ち込めていた熱気と臭いですぐに己の状況を理解した。おそらく虎の下着である褌の中に無理やり収納されてしまったのだろうと。
普段は下着を履かないという情報を思い出したが、この時になって使うとは思わなかった。後頭部に感じる濡れた布がぎゅっと締め付けられ、一気に熱と淫臭の凝縮された空間に取り残されてしまう。
「ケケッ、これなら存分に俺の匂いを感じることができるな…」
口の端にちょうど虎の肉棒が食い込み、むにっとした柔らかな感触に包まれる。だが今の私にはもうそれに抵抗することも、受け入れることすらも難しかった。
良くも悪くも、何をされようと無駄だったのだ。それほどまでに、精神がボロボロになっていた。
それでも陰毛と肉棒の根元に埋まる鼻先から、屈強な雄の匂いが入り込んでくる。そうすることで無条件に性的興奮は高まり、遠く離れた体が小刻みに背筋を震わせてしまう。
目を開いても見えるのは獣毛の密林。まるでいつかの模擬訓練の際に置かれた環境、鬱蒼と生い茂った森林地帯のように視界を埋め尽くしていた。
しかしこれが真っ暗な闇でないことに、途方もない安心感を得られていたのもまた事実だ。これでもう落ちることはないと穏やかになった心が、ゆっくりと静かに[[rb:微睡 > まどろ]]んでいた。
辺りに漂うのは虎から滲み出る魅惑の麝香。
生臭くも心地よい刺激臭が、疲れ切った心の中に染み渡っていく……
歩みを進めるために両足を動かせば視界が目まぐるしく変わり、白濁に塗れたままの肉棒に顔が擦れては新たに流れ出す先走りにも汚れされていく。顔に生えた毛皮の一本一本に虎自身の匂いと液体が染み込み、視界がぼやけて霞む。
痺れるような感覚に心酔していた私は、虎の股座の中で意識を手放していくのだった。
[newpage]
「っぐ、んうっ、んん……」
シンと静まり返る牢獄の中で、じゅぷじゅぷと卑猥な音が響き渡る。それは肉棒を咥えていた私の口から発せられる音なのだが、第三者から見れば明らかに異様な光景だったはずだ。
たった一つの体が自分で肉棒を咥えることなど、本来ならば不可能なのだから。
その不可能を可能に実現するならば、異常な状態の体でなければならないだろう。だが、今の私はまさにそれだった。
虎の褌の中で首を持ち帰られたが、体はすぐに元通りにならなかったのだ。これは虎の仕業ではなく、一度身体を切り離してしまうと接合できるようになるまでに時間がかかるらしい。
それならばと虎に命令されて、私は私自身の肉棒から口を離せなくされてしまった。まさか自分で自分のモノを舐めるとは思ってもいなかったが、もはや何が起こっても受け入れざるを得ない。
初めこそひどく惨めに思えたが、いざ始まってしまえば自身の口淫の気持ちよさに腰は砕けっぱなしであった。思い返せば他者にしか舐めてこなかったため、肉棒を舐められるという経験自体が初めてだったのだ。
こんなにも気持ちが良いものなのかと……嫌悪感を思っていたはずの私はすぐに病みつきになってしまった。手で擦ることが阿呆らしく思えてしまうほどに、私は進んで肉棒へと奉仕を続けてしまう。
トロトロと鈴口から溢れ出る先走りを口に含ませながら、裏筋や雁首に舌を這わせる。虎ほど太くはないし咥えごたえもないが、舐めるだけでも脳が溶けてしまうような快感に情けなく甘い声を漏らしてしまっていた。
これが紛れもない醜態だということは重々承知している。自らの首を切り離されてまで自分の肉棒を舐めようとする奴なんて…頭の狂った変態だ。
だが実際の私がそうだったのだから、反論も擁護もできなかった。私は卑しい者ですと見えない誰かに見せつけるように、開いた股に顔を突っ込ませる。
それでも、少しばかりの羞恥心で済んでしまうようになってしまったのである。私の心の中に深く刻み込まれてしまったあの暗闇の恐怖に比べてしまえば、こんなことでは動じなくなっていた。
真下にある床の存在にどれほど安心感を覚えたことか。取り戻していた体の感覚からも感じる、地に足の着いたとでも言うのだろうか、そんな心地が私の心をどこまでも穏やかにさせてくれたのだ。
「っぐぅ……うっ、んぐっ……!!」
そしてまた、何度目かの絶頂。尿道を迸る壮絶な快感に侵された思考のまま、ドクドクと放射される自身の白濁を口の奥へと放り込み、見えない食道で繋がっている胃の中へと溜め込んでいく。
鼻の奥から突き抜ける精液の生臭さをこんなにもしっかりと嗅ぎ取ることができたのも、奈落での奉仕以来だった。本当に解放されて良かったという喜びを、射精する度にひしひしと感じていた。
涎と精液でびちゃびちゃになった顔を、自由になった私の指で撫でてみる。力は無くとも、付着した液体を拭うことぐらいはできていた。
少し上を覗けば、立派に浮き出た腹筋の下あたりに淫紋が見える。今までは上から見ることしかできていなかったが、こうして間近で見ることになろうとは……
こうして改めて見ても、奇妙な模様だ。確かに体に刻まれているのは分かるが、ほのかに紫色に光っているのがなんとも不思議だった。
こんなものが私の体の感度を強制的に上げ、常に興奮し続けさせているというのがなんとも信じ難く思えてしまう。
少し触ってみようかと体を動かし、興味本位でその紋様をつつ…となぞってみる。
「……ん゛!?んんっ、ん゛ふぅっ…!!」
だがそのひと撫でで、私の腰はビクビクと激しく痙攣してしまった。指の腹から与えられるくすぐったい感触がぞわぞわと下腹部から全身へと速やかに広がっていき、即座に微弱な快感として成り代わっていく。
切り離されている脳内に直接送り込まれてくる全身の快楽物質が神経を侵食し、思考が霞んでしまうほどの快感を得ながら射精してしまった。どぷどぷと尿道を通る精液の感覚が口を通して伝わり、やがて喉奥へと濁流のように押し流されていく。
絶頂の瞬間の感覚をこんなにもハッキリと味わったのは……今が初めてだったのかもしれない。
私の体は、これから一体どうなってしまうのだろうか…?
こんなにも淫らな姿になってまで刑罰を与えられなければならないのか?どれほど犯した罪を悔い改めなければ、この地獄は終わるのだろうか。
漠然とした不安が頭をよぎるも、それを受け入れようとしてしまっている自分にも驚きを隠し切れない。
恐怖によるショックからなのか、生前の記憶も蘇りつつあった。妻や子供、数少ない戦友の顔が朧げながらも浮かび、その度に心が締め付けられる。
皆、私が陥れてしまったのかと。私があんなことをしなければ、普段通りに過ごせていたのではないかと。
吐き気の込み上げてくるような後悔の念が押し寄せるたび、尻穴の中がじゅくっと疼く。擦られ続けた腸壁は柔らかくなってしまい、内部にある塊は好きなように暴れ回るようになってしまっている。
それに咥えているせいで下を見ることはできないが、尻が信じられないくらいにぐっしょりと濡れていた。開きっぱなしになっていた尻穴からはひっきりなしに腸液が溢れ出すようになってしまい、私の先走りと同じくらいにまで流れ出しているのだろうと不安に駆られてしまう。
だがその異変すらも受け入れてしまっていた私は、自らの体の変わりようを嘆くことしかできなかった。
その時、金属の擦れる音が後ろの方から聞こえてくる。
「……随分と淫乱な体になったもんだな、死刑囚」
聞き慣れた声が空虚な部屋を満たす。相変わらず掴みどころのない飄々とした口調だ。
奴は音もなく近付くと、ずるりと私の首を肉棒から引き抜く。口の中が満たされなくなった寂しさを僅かに感じながらも、虎との会話に身構えた。
「自分で自分のチンポを咥えるなんて滅多にない経験だっただろう、楽しかったか?」
「…はっ……はい………」
「そろそろ繋がるようになるだろうと思ってな。喜べよ?ようやく元通りの体になるぞ」
「……っ!」
声をあげることもできなかった。口の中に残る粘ついた精液のせいでもあったが、変に無駄口を叩かないようにしていたせいで反射的に口をつぐんでしまったのだ。
それでも虎は構わず、私の首を持ち上げては上へと運んでいく。
ようやく元あった場所へと戻され、嬉しい思いをするはず……なのに私はどこか、小さな虚しさを覚えていた。もちろんあの奈落での行為をさせられる可能性も低くなるし、顔面を乱暴に地面へと叩きつけられることもないだろう。
だがついさっき知ってしまった自らへの口淫がどうも忘れられず、妙な歯痒さを感じながらも切り離された首が接着していく感覚を覚えていた。
肉体と肉体が接合し、繋がっていく奇妙な実感に全身が震える。最後のひと押しとでもいうように虎が私の頭頂部をぐっと押し込んだ後……私は首を動かしてみようと試みた。
「…あ、あぁ……」
動く。動いた…!途方もない時間を経て再開したように思える私の頭と胴体は、見事に一つとなったのだ。
体を動かすたびに伴う実感が、胸の中にじんわりと広がっていく。やはり体はこうして繋がっていなければならないと、歓喜で全身に変な力が込もってしまう。
「何か言うことは?」
「あ、ありがとうございます……ご主人、様……」
未だに、この言葉には慣れない。というより慣れてしまいたくないのが本音だが、今の状況においては素直に感謝するしかなかった。
目を逸らしながらも私は、しっかりと虎に聞こえるように言ってしまう。
「よし。ついでだからちゃんと繋がったかどうかも確かめてやろうか」
「えっ?あっ…うぐ……!」
嬉しいのも束の間、いきなり顎を掴まれ、首と胴が繋がったことを示すかのように上に持ち上げられた。つい数秒前に繋がったばかりなのだ、もしかしたら不十分でまた千切れてしまうのではないかと怖くなる。
慌てて立ち上がろうとしてしまい、足に力を込めて踏ん張る。
無機質な壁に密着する背中を擦りながらゆっくりと持ち上げられ、次第にほぼ垂直に立った状態と同じようになってしまった。視界に映る虎の顔はニヤけており、否が応でも視線が合ってしまう。
真上に引っ張られる首筋に小さく鈍い痛みが走るが、それは完全に首がつながったという確かな証でもあった。
「よしよし…ちゃんと繋がってるみたいだな」
せっかく元に戻したのになぜこんなことをするのか、意味が分からなかった。だが虎は本当にそれだけで手に入っていた力を緩め、私に迫ってきた。
「俺は感動してるんだぜ…死刑囚」
「な…何…?」
「実を言うと、ほとんどの罪人はあの奈落を直視しただけで心が壊れちまう。たとえ首だけじゃなく、体があったとしてもな」
奈落と言う言葉に、心の中に残った苦い記憶が蘇る。だが奴の言葉は、当時とはまるで反対のことを言っているようだった。
罰を受けるだけと思っていた思考回路が止まりそうになってしまう。
「ましてや首だけになってああやってされりゃあ、どんなヤツだって気が狂っちまうだろう。だから俺も、それなりにやりすぎたと思ったんだ」
「今更何を……」
「だがアンタは結果的にやり遂げただろう?俺はそれを、素直に凄いと認めてんだよ」
何を言っているんだ…?
あんなにさんざん私の精神をめちゃくちゃにしておいて、認めるだと?
私はあの時間で心を失いかけたのだ。いや、おそらく少しは腐ってしまっているだろうとさえ思える。
それを今になって賞賛されても、意味など全くない。
刑期が減る訳でもなければ、この淫紋を取り除いてくれる訳でもないのだろう。奴はそういう存在だということを分かり切っていた以上、何も期待することはなかった。
「死刑囚…アンタはどんどん淫乱になっていくな。あんなの、狂ってなけりゃ出来ねぇよ」
「………」
そう言われれば、そうだった。普通ならば、あの恐怖に負けて全てを放り出してしまった方が楽だっただろう。実際私もそうなりかけていた。
だが、なぜ抵抗し続けることができたのか?
ただ単純に生き返りたいという意思だけでは無理だ。だとすれば、それ以外の何かがそうさせたのだろう。
ならば、考えうる可能性は一つしかなかった。私は本当に狂っていたのかもしれないと。
仲間たちの罵倒に対する怒りも確かにあっただろう。しかしあの状況での私の思考回路は、間違いなく狂ってしまっていたかもしれない。
考えれば考えるほど、己の体だけでなく心まで変わってしまったのかという疑念が膨らんでいく。いや違う、それは虎のせいだ。
この地獄の刑罰が、私をそうさせているだけなのだ…!
「俺は嬉しいぜ。アンタが罪を認めながら、こうやって淫らに染まってくれることがな…」
「うっ、嬉しいだと…!?さっきから何を……んむっ!!?」
私が反応するよりも先に虎は口を塞ぎにくる。獣同士の口吻が交わったことに狼狽えてしまった隙を突かれ、素早く舌を絡め取られてしまう。
肉厚で長く、ざらざらとした突起を無数に生やした舌の力は強すぎた。
同時にどろどろと流し込まれる生ぬるい唾液が口の中を満たし、くちゃくちゃといやらしい音を立てながら蹂躙されてしまった。
「んんっ、んぁ、ぐむ……じゅる……」
肉棒を舐めるよりも直接的な感情の伝わってくる接吻に、私の体は少しずつ熱を帯びていってしまう。抵抗する心構えをしていたはずが、徐々に緊張がほぐれて力が抜けていく。
それほどまでに心地の良いものだった。今まで経験してきた一方的なものとは快感の感じ方が桁違いで、舌の表面から感じるねっとりとした液体が言葉にならない感触を提供してくれていた。
それを飲み込めばまるで酒に浮かされたように気分が酩酊し、虎に身を委ねたいという欲望が芽を出してしまう。相手は私の心や体を弄んだ下劣な存在であるのに……どうしてもやめることができない。
「キスもずいぶんといやらしくなったもんだ…俺が言わずとも勝手に這わせてくれるとはな」
その言葉に、私の心に棘がチクリと刺さったような気がする。だがそれも、口から広がる心地よい快楽によってすぐに忘れ去ってしまう。
その代わりにもっとくれとねだる卑しい願望が、沸々と湧き上がっていた。
虎はさらに私との距離を詰めていく。いつの間にかだらだらと垂れ流していた私の男根を押し潰し、密着するほどまでになっていた。
屈強な虎の肉体に圧迫された気持ちよさは言葉にならず、口虐も相まって意識が飛んでしまいそうなほどの快楽だ。首だけではない、実体のある行為にここまで歓びを感じたことはないかもしれない。
元通りになった安心が拍車をかけ、さらに身を委ねてしまう。
「ん?なんだ、もうイっちまったのか」
「…な、なにっ…!?」
虎の言葉で、私は驚愕と共に絶句してしまった。慌てて下腹部の方を見やると、勃起した男根がビクビクと震えており、鈴口から白い液体が漏れているのが見える。
いつ射精した…?絶頂時の快感も感じなかった。
だがその理由を探ろうとするたびに、頭の中では考えたくもない判断が下されていく。
ウソだ、そんな……私はともかく、虎でさえ一度も触っていないはずなのに…!
「触らずにキスだけでイくとはな…もうチンポを弄る必要もないか?」
「ちっ、ちがっ…!そんなこと…んひっ!!?」
その時だった。突然の尻穴からの唐突な感覚に、思わず声が漏れてしまう。
だが中でうねるようなものではなく、全く異なるものであった。どれだけ力を込めても出る気配のなかったその塊が放出されるギリギリまで引っ張られていたのだ。
しかしあと一息で出る…と言うところで、再び一気に押し戻された。腹の奥底に轟く衝撃と共に、尻穴が一気に締まる。
初めての感覚、それ故に訳が分からなかった。
「よしよし、コッチもすっかりほぐれてるな。出し入れされる感触はどうだ?」
「あっ、あひっ…うぐっ……!!」
ぐちゅぐちゅと何度も抜きかけては突き刺されるその物体に、体が小刻みに反応してしまう。これまで違和感としてしか認識していなかった圧迫感が少しずつ心地よさへと変わり、腸壁を擦られる感覚にゾクゾクとした快楽が首筋から広がっていた。
もしこのまま続いたら…… 接吻ではなく、肉棒を咥えるのでもない、以前とは全く違う快感を得ることができるのだろうか。
知りたい。感じてみたい。
まだ見ぬ未知の快楽を得たいという欲望が、私の心を少しずつ蝕んでいく……
「けひっ…気持ちよくなってもいいんだぜ?尻穴弄られて射精しちまえ」
「そ、そんなっ、あっ、あくぅっ……!」
じゅくじゅくと尻が疼く。だが虎が抜き差しするたびにそのむず痒さは消え失せ、代わりに押し寄せるのは強大な快感。
いつしか直腸内から滲み出していた液体は尾を引いて太ももを伝い、とろとろとありえない量を放出してしまっていた。信じられない体の変化に恐怖を覚えつつも、それすらも覆い隠すほどの快衝動にかき消されていく。
体の内側から熱が暴発しそうだ。早く発散させなければ気が狂ってしまう。
そんな焦燥感は一気に下腹部へと収束し、淫紋の直下から途方もない悦びが溢れ出す間際だった。
「あはぁっ…もう、ダメだっ、い…イってしまうぅっ!!」
情けない嬌声を上げながら、私は悦楽の波に飲み込まれた。迸る白の濁流が尿道を勢いよく駆け巡り、意識を焼き切りそうなほどの快感が襲う。
射精する毎にガクガクと腰が震えてしまい、立っていることすらも難しくなっていた。
だが虎は、自身の体が精液で汚れるのも構わず私の体を抱き抱えるようにして支えてくれた。なぜそうしたのかは分からない。
理解しようとしても、強すぎる快感の津波に飲み込まれてしまって考え事すらできる状況ではなかった。
その後も痙攣しながら絶頂を繰り返し、昇天しそうな夢見心地を享受する。射精するたびに心のどこかで何かが剥がれ落ちていくような感覚を覚えたが、気にしていられる状態ではなかったのはいうまでもない。
やがて満足のいくまで精を吐き出した私はぐったりと虎に身を預けてしまう。奴はそれでも嫌がる様子を見せず口を奪い、ねっとりと舌を絡めた後に壁へともたれかけさせた。
「はぁっ、んはぁっ、はぁ……」
「普段より段違いに気持ちよかったみたいだな」
虎の陽気な声が、荒い息継ぎを繰り返す私に降り注ぐ。だが、私はずっと困惑したままだった。
唐突な行動の変化を見せた奴を見上げる。やはり笑っていることに変わりはないが、表情は初めてみた時よりも柔和になっていたように思えてしまう。
「やっぱりアンタは少し違う。過去にここへぶち込まれた罪人の中でもずっと理性的で、馬鹿みたいに喚かず、それでいて確かな精神力を持っている。そして、性欲に従順だ」
違う……精神力などで解決できるような場所ではない。お前が勝手に決めつけているだけだ。
私は小さく首を横に振るが、虎の手が顎に添えられるとそのまま上を向かされる。ネコ科の丸いマズルが目と鼻の先に迫り、牙の表面に煌めく唾液に視線が移る。
その艶かしさに、どうしてもピクリと男根が反応してしまう。
「今更言っても信じないとは思うが…あの奈落でもしアンタが諦めて口を離したとしても、掴む準備はしていたんだよ」
「……な、何…?」
「アンタは俺の罪人だからな。たとえどんなことになったとしても、最後まで俺が責任を持って刑罰を全うし終えるまでは絶対に手放さない。これは俺の譲れない信条だ」
信じられない……
本当に同一人物かと疑ってしまいたくなる。
だが先ほどまでの行動からして、真っ向から否定できる訳でもなかった。ここまで性格の悪いクソ野郎としか見ていなかったが、言い方でさえもどこか私を認めてくれているような雰囲気を醸し出しており、どんどん頭の中が絡まってしまう。
コイツは一体何がしたいのだ。私はただ刑罰を受けているだけの、一人の罪人に過ぎないのではないのか…?
分からない、理由が見えてこない……
そんな中でも私の心に芽生えていたのは、あろうことか奴に対しての信頼だった。信頼というより、縋り付くような、そんな感情だった。
幾度となく貶され、罵倒され、白濁を飲まされ、精神を病んでしまう寸前まで追い詰められた。だがそれはどれも私が反抗したという正当な理由があり、奴が好き勝手にしていた訳ではない。
ならば本当に…奴の言うことだけを聞いていればよかったのだろうか?
そうすれば首を切り落とされるなどされずに刑期を縮めることができたのだろうかと、微かな後悔が胸の中にこびりつく。
体を切り離されて無抵抗にされることもなく、奈落の恐怖に怯えながら咥えることもなく、はるかに良い時間を送れたはずだ。
奈落に落ちて永遠に闇の中を彷徨うより、苦しみを忘れてしまえるほどの快感に溺れてしまえばいい。羞恥心や肉欲への後ろめたさなど、いつかは慣れるのだから。
虎はそれを何度も手助けしてくれたじゃないか。あとは私自身が犯した罪と向き合うだけだろう。
じんじんとした疼きが、体の中から湧き上がる。腰の奥から広がっていた緩やかな快感に、波に揺蕩っているような感覚を覚える。
床一面に広がっていた生暖かい液体に尻を濡らしてしまっていた私は、いつの間にか虎に頭を優しく撫でられていたことに気づいた。射精後の倦怠感もあってか呆けたように愛撫を受け入れてしまい、ゆらゆらと尻尾が揺れ動くのを抑えきれない。
その時、声が聞こえた。
「さて、ここからは山場だ。もし乗り越えられれば、アンタの刑期は一気に減るかもしれないな」
「えっ……?」
私は一瞬で、その言葉の重みが変わったことを悟った。[[rb:徐 > おもむろ]]に顔を上げ、声の主へと視線を向ける。
その表情は、どこか妙な雰囲気を漂わせていた。
同時に、私にも確かに伝わってきた。これから向かうのはきっと、地獄において特別な場所であるということだと。
私はまた、試練に向かわされるのだと。
「出るぞ。これからアンタを、閻魔様のところへ連れていく」