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蟲の女王1

  勇者パーティの一行は、女騎士を除く貴い犠牲によって、魔王を討ち滅ぼす事に成功する。

  しかし、魔王掃討後も情勢不安は続き、むしろ、それ故に、人間同士の争いは、より醜く、そしてより顕わになった。

  女騎士は、そんな世界に辟易としながらも、勇者達の志を受け継ぎ、魔族討伐隊長として戦いを続ける事になった。

  

  女騎士は、元々軍人であり、隊を率いることに抵抗はなかったし、また、その能力もあった。

  しかし、士気は決して高い物ではなかった。

  その理由としては、第一に彼女が女性である事、そして、もう一つの理由として、彼女に掛けられた嫌疑があった。

  

  現在の彼女の容姿は、甲冑に身を包み、それを人前で決して脱ぐことがなかったと言うこと、そして、魔王討伐前にはなかった、オッド・アイが、怪しい煌めきを持っていたことである。

  それ故に、彼女を妬む者達によって、「魔王に取り込まれているのではないか?」と噂されたからである。

  また、物思いに沈む姿や、見えぬ誰かと話しているかのような姿を目撃された事も、醜聞を加速させた。

  

  真相はこうだ。

  彼女は、魔王戦の前に四肢を失う事態になった。また、同時に、ウィザードも絶命の危機に瀕していたのだ。

  ウィザードは、最後の魔法を使い、彼女の甲冑として、再び生を手に入れ、女騎士と共に魔王の猛威を打ち砕いたのだ。

  尤も、この魔法は、禁制の魔術であり、ウィザード自身は、魔法生物、つまり、一つの魔物に成り下がったことを意味していた。

  それ故、女騎士は、ただ一人の生還者として凱旋することになったのだ。

  

  ウィザードは女性ながら、女騎士に恋心を抱いていたフシがある。

  四肢を失った女騎士も、また、それに気付いていた。

  彼女は一人部屋に籠もると、一糸まとわぬ姿でベッドに身を投げ出し、甲冑に身体を清めて貰うのが、誰にも言えぬ慣習となっていた。

  肉の身体を捨てた甲冑は、その悦びを女騎士に与える事によって、己の悦びとしていた。

  尤も、そのような生活は長く続かなかった。

  

  

  

  ある日、魔族討伐の任地にて、隊の副長以下、主要隊員による造反が発生した。

  魔物であることの嫌疑を掛けられ、そして、潔白を証明する為には、洞窟奥に隠れる強力な魔物を討ち果たせと言う命令が下ったのだ。

  二人の勇士は、運命も尽きたと、これに甘んずるしかなかった。

  魔物のレベル的には、彼女らの力で斃すことは不可能ではなかった。しかし、討ったところで、状況は特に変わらないだろう。結局、彼等はこの自分の事が許せないのだから。

  

  だから、洞窟に入ると、二人は、今までのことをお互い呟きながら、剣を捨てた。

  そして、魔物に食われる決意を固め、死地へ歩み征く。

  

  彼女たちの運命は決したに思われた。

  女騎士は、ヴァルハラで仲間達との再会を願った。

  ただ、一つだけ違ったのは、ウィザードは、女騎士と一敗地に塗れる事など、露とも願っていなかった事にあった。

  巨大な蜘蛛型のそれは、手を広げ、運命を受け容れた女騎士を、何の躊躇もなくひと飲みにした。

  

  意識が薄れていくのは、肉体を持つ女騎士だけである。

  魔物は、ただ、それを喰らうだけでは飽き足らず、二人の魂を眠らせる事と引き換えに、二人の力を一挙に手にする事になる。

  それは、魔王に匹敵する力となった。

  

  女騎士やウィザードの想いが多少注いだかも知れない。

  雌伏を決め込んでいた、魔物は正気を失った。

  洞窟前に駐留していた騎士団を蹂躙すると、そのまま手当たり次第に、周辺の村を焼き、そして、一番近い都市に攻め入った。

  

  勇者なきこの世界で、かの怪物に抗う力は、人類にはなかった。

  男どもは、一人残らず殺戮され、女どもは食われるか犯されるかの地獄絵図が広がる。

  ある者は、魔物の子を宿し、ある者は繭の中で変化の時を待つ事になる。

  

  今や一枚板ではない人類は、人の子救出や、魔物の死を熱望するほどの余裕がなかった。

  

  餌要員で牢屋に入れられた人間は、一人ずつかみ砕かれ、将来の我が子の栄養となった。

  事情が分かる者は、喰う事を拒否し、飢え死にを選ぶが、魔物は、それを甲斐甲斐しくも残酷に、口移しで与えるのだ。

  口で頭部を半飲みにすると、腔内の触手が喉に消化しかけの肉を注ぎ込む。

  人ならざる者が蠢き、人だったものを食わされる……意識のあった者も、遠からず発狂する。そんな風景である。

  

  

  

  それから半年と暫く。二人の戦い――正確にはウィザードの戦いは終わっていなかった。

  魂を眠らされた女騎士に反して、ウィザードは明確に、精神的な戦いを続けていたのだ。

  魔物が気を狂わせたのは、彼女の戦略の一つであった。魔物の精神の一角、また一角を奪っていったのだ。

  それ故、精神を奪うウィザードと、本能が残る魔物は、この半年の間、まさに、己の子による軍の結成に勤しむ事になる。

  結果、それを総取りしたのは、ウィザードの方であった。

  ウィザードは、魔物の精神を完全に葬り去ると、残りの力を振り絞り、女騎士の復活を成し遂げる事となる。

  

  女騎士は、ある日目を覚ますと、生暖かく、ヌルヌルする真っ暗な空間にいる事に気付いた。

  全く気を失っていた彼女は、今消化されようとしているものだと察した。

  しかし、同時に、別の視界が、城の中にいる己の姿を捉えている。

  そして、人間の口ではない口を開くと、人間の方の瞳が、先から見つめていた世界を描き出し始めた。

  

  女騎士だった者は、鏡で、己の姿を認める。

  大口を開けた蜘蛛の化け物から、人間である自分の裸体、腰から上が生えていて、そして、全身が、粘液に塗れていたのだ。

  己の目は、人間のそれを失っていたが、意識は完璧に元の自分のままであり、そして、意識で制御出来ない部分など一つもなかったのだ。

  生前失われた両腕も復活しており、気分がとてもいいことに気が付いた。

  

  そして、次第に、この身体が、一体何をしてきて、そして、ウィザードが自分にしてくれたことを思い出すに至る。

  悲しみに暮れ、全ての葛藤を克服するのに、それから丸一日が過ぎた。

  だが、彼女の精神が折れる事はなかった。

  己の中にあるのは、全ての者に対する復讐である。

  人類全体に対する。

  

  

  

  丁度、時を同じくして、繭になった人間は、成虫となって這い出て来た。

  その姿は、女騎士同様、半蟲半人の姿であり、ある者は蜘蛛となり、ある者は蛾に、またある者は蟷螂に。様々な姿を現わした。

  彼女たちは、本能がそうであったかのように、蟲の子を孕んだ娘達を世話し始めたのだ。

  

  女騎士は、そうした蟲たち妊婦たちに、醜く美しいその姿を曝した。

  「私は、この魔族を討ち滅ぼし、同時に、人間であることを失いました。

  それ以前の私は、人間であったのに、人間同士の争いから、命を失うことになりました。

  今の私は、その両方をなげうって、蟲王を名乗ろう。

  人間もない世界の為に、私の子、同胞が戦ってくれるものと信じている」

  

  この宣言を以て、復讐が始まる。

  更に数ヶ月経つと、妊婦達はその子供を産むこととなった。

  成虫は、幼体を取り上げる。

  ある者は死に、またある者は、意識を蟲たちに帰依するよう洗脳されていたのだ。

  

  虚ろな目をした彼女たちは、再び子を宿すことを待ち望む。

  蟲王は、魔物部分、その腹部より、子種を彼女たちに注ぎ込み、終わらない快楽に身を委ねるのだ。

  

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