犬獣人の冴えない自分が上級獣人のお家に訪問するお話

  この世界には大きく分けて3つの種族が存在する。1つが上級獣人。基本的に産まれた時から勝ち組。普通獣人、人間に命令することができる。体格、地位、名誉、富の全てにおいて勝っている。2つ目は、普通獣人。上級ではない獣人。ボリューム層。獣人の中では小柄であるが、人間と身長はほとんど同じである。しかしながら力においては人間に勝っている。上級獣人に目をつけられずにいれば、普通に暮らすにおいては、大丈夫。そしてラストが人間である。上記の2種にはどんなに頑張っても勝てない存在。そのため、扱いが酷く、獣人にレイプされることも少なくは無い。どんなに頑張っても、普通獣人より少し下ぐらいのお金しか貰えない。上級獣人のペットとして買われることが一番の人生の勝ち組かもしれない。

  

  そんな上級獣人が世の中を回しているこの世界で、俺は産まれた。名前は、犬水 誠。25歳。犬獣人であり、種族は普通獣人と呼ばれる種族である。俺は今まで、学校は全て普通獣人専用の学校に行っていたため、1度も上級獣人に目をつけられたことはない。だから、上級獣人もいる会社に入社した時には、目をつけられないかビクビクした。しかしながら、上級獣人は思ったよりも俺たちに興味がないのか、さほど目をつけられることない。中には、目をつけられている人もいるらしい。上級獣人が普通獣人に目をつけるのと同じように、普通獣人も人間に目をつける人はいる。俺は基本的には人間に興味がないため、スルーである。……だって可哀想じゃないか。人間がどんなに頑張っても獣人の中では小柄な俺にも勝てっこない。それに、社会的にも差別されながら生きている彼らをこれ以上苦しめても意味がない。俺はそう思っているので人間には何もしていない。上級獣人に至っては、人間のことを存在してないものだと思っているやつもいるくらいだ。それくらい奴らにとっては、どうでもいい存在らしい。

  俺は会社に到着すると、いつもの席に座った。俺は営業部に今はいる。営業部といっても同僚は全員普通獣人である。上級獣人の営業部は、普通獣人とは分かれている。普通獣人と獣人獣人の間では、役職の地位も違う。普通獣人の部長クラスでようやく、上級獣人の一般社員である。普通獣人の次長や課長は、上級獣人の一般社員以下の地位である。

  俺が席に着いて、ボーッとしていると、

  「犬水君ちょっといいかね?」

  

  後ろからそう声がした。俺は後ろを振り向くとそこには、同じ犬獣人の部長がいた。

  

  「なんですか?」

  俺がそう聞き返すと

  「突然なんだが、上級部長が君のこと呼んでいるから来てくれないか?」

  と部長は俺にそう言った。

  上級部長――俺はその言葉を聞いてビクッとなった。名に上級がついているため、当然上級獣人である。俺はその人に会ったことは一回しかない。その1回も入社式の時にチョロっと見たぐらいである。あの時、その人の目つきは鋭く、簡単に俺の事など殺せるのではないかと思うくらいの鋭さだったのを今でも鮮明に覚えている。その人に呼ばれたということは、何をやらかしたのかヒヤヒヤしてしょうがない。それを察したのか

  

  「大丈夫。俺も途中まで一緒に行ってあげるからさ」

  と、部長は言ってくれた。

  そして、俺たちは2人は上級部長のいる部屋まで一緒に行くことにした。入社して3年目になるが、部長と2人で社内を歩くのは初めてかもしれない。部長の方をチラリと見ると、かなり疲れてそうな顔をしている。……それもそうか。部長は、普段上級獣人と一緒に仕事もすることがあると聞く。……それは疲れるよな。そう思いながら俺は部長と共に歩く。

  部長と無言で歩く時間が続いてしまう。俺は気まずいながらも何とか話題を考えようとしていると、

  

  「あれっ!部長じゃないっすか?」

  と後ろから声が聞こえる。

  俺が後ろを見ると、そこには牛の姿をした上級獣人がいた。その体格は、まさに牛のように大柄。身長も軽く4mは超えてそうである。俺と部長は、見上げながらそいつの顔を見る。

  「部長!なんか元気ないっすね。どうしたんすか?」

  と、そいつが大きい声で話しかけてきた。

  

  「それがですね……最近、仕事が忙しいんですよ。それで、少し……」

  部長クラスであっても上級獣人には敬語を使わなくてはいけない。例え、相手がどんなに若手でもである。これが会社……いやこの世の中のルールといったところか。

  「部長も大変っすね。そんな大変なのに、給料は2年目の俺よりも貰ってないって……なんか可哀想っすね」

  

  と哀れんだ目でこちらを見ている。

  部長が何か言いたげな顔をしているが、黙っている。部長が悔しそうに俯いていると、さらに後ろから

  「おい。お前こんなとこで何やっとんじゃ」

  

  と低音ボイスが聞こえる。その声の主は、虎の姿をした上級獣人であった。年齢は、40代くらいで、牛獣人よりもさらにガタイがよく5mは超えているのではないかという身長で牛獣人に話しかけている。

  「げっ……課長。いや別に……ただ普通獣人の部長と話してただけで……」

  

  そう牛獣人が言うと、虎の獣人は、ちらりと俺たちの方を見る。

  「あぁ、お前な。こんな下等な奴と喋る暇があるなら仕事しろよ。時間の無駄だろ」

  虎獣人は俺たちのことを見下しながらそう言った。そして、課長と呼ばれたその男は、部長の方を見ながら

  「頼むから、これ以上俺の後輩にちょっかいかけるなよ。下等種どもに時間を奪われるなんてごめんだからな。次、見かけたら……」

  と、虎課長は牙をコチラにわざとらしく見せながら牛獣人を引き連れてどこかへ行ってしまった。

  部長は、ため息をついた。そりゃ部長も大変な訳だ。そして、俺が今まで上級獣人に目をつけられなかった理由がようやく分かった。先程の会話でも1度もヤツらは俺との会話をしなかったし、目線も合わせてなかった。そして、部長は入って2年目の社員にもあのような態度をとられている。つまり、部長クラスであの扱われ方という事は、部長以下の普通獣人なんて最初から居ないもの同然と扱われているのだろう。だから、俺はこの3年間1度も目をつけられずに過ごすことが可能だったわけだ。しかしながら、そんな俺がいきなり上級部長に目をつけられるとは……とことん運が無いといったところだろうか。俺はたぶん今の顔は最悪の顔をしているだろう。不安でいっぱいの俺は部長と一緒に長い長い廊下をただひたすら歩いた。

  「……ここだ」

  部長は俺の方を見ながら短くそう言った。そこにはでかでかとした文字で上級部長室と書かれていた。上級獣人になると、役職につくだけで専用の部屋まで用意されているのだ。我々一般的な獣人とは待遇が雲泥の差である。

  「じゃあ、私はここで失礼するよ」

  そう言うと、部長は俺に手を振りながら、帰って行った。その後ろ姿を見送り、姿が見えなくなったところで、ドアを開けようとした。しかしながら、当然俺と上級獣人では背丈が大きく違う。そのため、どんなに俺が手を伸ばそうとしてもドアノブに手が届きそうではなかった。しかしながら周囲には誰も居ないため、どうすることも出来なかった。仕方がないため、俺は一か八かにかけて、ドアを思い切って3回ノックした。

  「すみません、犬水です。ドアノブが届かないので、お手数お掛けしますが、ドアを開けて貰えないでしょうか?」

  と、恐らくドアの向こうにいるであろう上級部長に言った。もちろん、上級獣人に対してお願いごとをするのは基本的にはタブーな行為ではある。しかしながら今の俺にはこの方法で開けてもらうしかない。この待っている時間はホントに苦痛である。しばらくすると、ガチャっとドアが開いた。

  「全く最近の犬は自分でドアも開けれんのんか」

  と言いながら熊獣人がこちらを向いている。……向いているというよりは、見下ろしていると言うのが正しいであろうか。その姿。まさに、俺の目の前にそびえ立っている。先程の虎獣人と同じ大きさかそれよりちょっと大きいぐらいであろうか。いずれにせよ、俺より遥かに大きいのに変わりは無い。何を考えているか分からない無愛想な表情。ふっくらとしたお腹。俺の目線がちょうど膝上になるほどのデカさ。まさに、上級部長にふさわしい風格であった。俺は慌ててお礼を言うと、

  「……俺にお願いするとは、いい度胸じゃねぇか。俺の機嫌が悪くなかったから今日は許してやるが、次同じことやったら覚えておけよ?」

  と、その俺に突き刺すような鋭い眼光をこちらに向けながら上級部長はそう言った。

  俺はそのまま上級部長の部屋に入り、机の前に立たされた。とは言っても、俺の身長よりも机の方が高いため、向こう側に座っているであろう上級部長の顔は一切見えずに、声だけが聞こえてくる。

  「わざわざお前のために、時間を作ってやってるんだから感謝しろよな」

  と上級部長の声がする。

  「あ、ありがとうございます」

  と、俺は感謝など1mmも思っていないがそう返答する。

  「お前、今日は熊峰さんのところに、行ってこい」

  俺に向かって上級部長はそう言った。

  俺は、その名前を知っている。というか営業部にいてその名前を知らない者は恐らくいないであろう。うちの会社の取引先相手の方の名前である。しかも熊峰さんは、かなりうちの会社に貢献をして下さっているお得意様である。俺は1度もその姿を見たことがないが、上級獣人であることは知っている。しかしながら、普通であれば、上級獣人との取引の時は、上級獣人の営業部の人が対応するのが鉄則である。上級獣人様相手に普通獣人がいけば失礼にあたるからである。そんな大事な取引相手の人の対応を俺がなんでやらなければいけないのか疑問に思った。

  「あ、あの。なんで俺なんですか?」

  と、聞くと

  「俺もよく知らんが、とりあえず適当に選んだら、お前だったわけだ。とりあえず行ってこい」

  と上級部長は俺に言った。

  「それに、普段だったら俺とお前では天と地がひっくり返っても、こうやって喋る機会はない訳だ。俺に会えたことも光栄に思うんだな」

  と、ガハハと笑いながらそう続けて言った。

  俺はその圧倒的な力の差を前に何もいうことができずに、そのまま部屋を出た。部屋を出る前に上級部長が

  「もし、ヘマしてお得意先を潰したら許さねぇからな」

  と、俺に脅し文句のようにそう言った。いや、脅し文句ではない可能性も当然ある。もしやらかしてしまったらと考えると俺は恐怖で全身が震えてしまった。

  あれから俺は急いで支度をして、外へと飛び出した。上級部長から教えてもらった住所をスマートフォンの地図アプリに入力して行き先を目指す。場所としては、ここから2、3駅離れたところのようだ。そう遠くはないはずである。俺は最寄りの駅に向かってどんどんと歩いていく。電車に乗ると俺は席が空いてるにも関わらず、立ちながら窓の外の景色を眺めていた。席に座れるのは上級獣人のみである。それ以外の者は、例え席が空いていたとしても座ることは決して許されない。席の設計は大柄な上級獣人に合わせているため、物理的にも座ることが出来ない。結果として、立って待っとくことしか出来ないのである。

  電車に乗ること10分弱。目的地付近に着いた俺は、熊峰さんのいる場所に向かって歩いた。周囲は、とてもオフィスビルがあるには思えない住宅街である。てっきり取引先の会社に伺うのかと思っていたがもしかしたら違うのかもしれない。俺は不安になりながらも目的地付近を急ぐ。

  「やっとついた……」

  俺は思わず声に出してそう行ってしまった。上級部長からは、駅から歩いてすぐと言われていたが、かれこれ30分ほど歩いた。それもそのはず、上級獣人と俺たちでは、歩くスピードも歩幅も違うため、所要時間にも差がある。それにしても、まさか驚いた。目的地がまさか熊峰さんの自宅だからだ。立派な一軒家に、広い庭。俺の住んでいる築40年の木造アパートとは大違いである。俺は呆気にとられながらも、インターホンを探した。意外にもインターホンは、俺の届く場所にも設置されてあった。俺は恐る恐るインターホンを押そうとしたその時、向こうからガチャっと音がして、ドアが開いた。ドアの向こうから出てきたのは、部長のように太く大きい体の大型獣人ではなくて、俺と同じぐらいの大きさの女性の白い猫獣人であった。

  その可愛さに俺は一瞬心を奪われてしまった。俺は数秒遅れて自己紹介をしようとすると、

  「私、猫山と申します。旦那様のお客様ですよね?すぐご案内します」

  ぺこりとお辞儀をしながら彼女は俺にそう言った。俺は彼女の後ろを追いかけるように家に入った。広い庭から想像出来るように、家の中もそれは立派なものだった。大理石の床に観葉植物が置いてありとても広々とした玄関であった。そして、当然ながら家の中は大型獣人である熊峰さんサイズの大きさである。このサイズの家の中を歩き回る猫山さんは大変だろうなと思いながら俺は彼女の後ろをついて歩く。

  「この部屋の中に旦那様がいらっしゃいます」

  しばらく廊下を歩くと、猫山さんはそう言って俺の方を振り返った。この扉の向こうに熊峰さんがいることで、俺は急に肩に力が入った。そんな俺のことなどお構い無しに、

  「旦那様失礼します」

  ノックをしながら猫山さんは大型獣人サイズの下にあった俺たちサイズの扉から入っていったた目、俺も恐る恐るついて行く。

  中に入ると、そこには大型獣人の熊峰さんがソファにどっしりと座っているのが見えた。ソファに座ってるにも関わらず、立っている俺よりも大きく、俺は見上げる形で熊峰さんを見た。お腹は大型獣人の部長よりはでていないが、それでも立派なお腹をしていた。毛は雪のように白くなっており、俺はここで初めて熊峰さんが白熊獣人ということを知った。毛並みが揃っており、歳は50代っぽいが、小綺麗であり、大型獣人の部長とは何もかもが正反対の感じであった。部屋も当然豪華であり、熊峰さんが座っているソファだけで、俺の年収くらいありそうな気がした。また、部屋には俺にはよく分からないような絵が飾っており、まさしくお金持ちの家という印象であった。

  「おぉ、よく来てくれたね」

  熊峰さんは、俺に向かって目を細めながらそう言った。社会的地位が上な熊峰さんが俺のようなただの犬獣人に対して、そのような優しい言葉で話してくれるのが意外であった。その目は大型獣人の部長のような俺の事を下に見下している目ではなく、ちゃんと俺を1人の獣人として見てくれているような目であった。

  「まぁ、そんな所に立っていないで、ソファに座りなさい」

  そう言われた俺は、熊峰さんが座っているソファの反対側のソファへと向かった。当然、このソファも大型獣人サイズである。しかしながら、ソファの下に段差があり、俺でも座りやすいソファになっていた。

  「……失礼します」

  俺はそう言うと、サイズ感があっていないソファへと座った。先程までは下からのアングルであったが、ソファから熊峰さんを観察すると、よりいっそう紳士っぽい雰囲気を感じてしまった。俺が数秒間見とれているうちにいつの間にか猫山さんは何処かへ行ってしまったようだ。

  「ところで、本日はどのようなご要件でしょうか?」

  今日の俺は要件が何か知らされずにここへ来ているそのため、俺は熊峰さんにそう言って訊ねた。

  「実はな……君に来てもらったのは、単純に私の話し相手になって欲しかったからなんだ……」

  と、少しバツが悪そうに熊峰さんはそう言った。

  (へ、それだけ?)

  俺は内心そう思ったが、声に出さないように何とか堪えた。俺は今日の要件は完璧に仕事のことだと思っていた。そのため、今の俺は呆気にとられたような顔をしているだろう。

  話をそこから聞いてみると、どうやら最近社内の若い大型獣人では無い普通の獣人が熊峰さんを見ると、ビビり散らかしているらしい。そのため、俺のような若い普通の獣人を呼んで、練習相手にしたかったらしい。 まぁ、社内の若い普通の獣人がビビるのも分かる。普通に考えて、大型獣人のしかもお偉いさんが急に自分に話しかけてきたら、驚くのは当たり前である。それに、いくら熊峰さんが優しそうな印象でも、この身長差では威圧感を感じることは間違いない。俺は軽く社内の若い獣人に同情した。

  「君は、確か犬水くんだよね?」

  熊峰さんは俺にそう訊ねてくる。どうやら、先程大型獣人の部長から俺が来ることの連絡が入ったらしい。それで、俺の名前を知っているようだ。

  「今、若者の間では何が流行ってるんだ?」

  熊峰さんは俺にありきたりな質問を投げかけてきた。今、俺たちの間で流行っているものは、スマホゲームである。大ヒットしているスマホのゲー厶は、電車の中や信号の待ち時間でさえやっている人を見かける。

  「今、流行ってるのはスマホゲームですかね。やはり、スマホで無料で遊べるからやりやすいですし……」

  「スマホゲームか。なるほどなるほど……」

  そう言いながら、熊峰さんはメモ帳に高そうなボールペンでメモしていた。

  熊峰さんがメモを終えたとほとんど同時に、猫山さんがノックをして入ってきた。猫山さんは、俺と熊峰さんにペコりとお辞儀をすると、ワゴンに紅茶らしきものを置いて、こちらへと向かってきた。相変わらず猫山さんは美人で可愛い感じである。俺もお金持ちになったらこんな子が来てくれるのかなぁ。という妄想をしていると、

  「失礼します。こちら紅茶でございます」

  と机に紅茶を置いてくれた。当然、猫山さんの身長では机には届かないので、台みたいなものを用意していた。猫山さんがペコりと俺に礼をしたのに俺もつられてしまってお辞儀をした。こんな雰囲気は、まるで高級レストランに来ているようで、変に緊張してしまう。

  猫山さんは、次に熊峰さんの紅茶を用意しようとしていた。しかしながら熊峰さんは、小山のように大きな体格である。そのため、当然カップも大きく、猫山さんは必死にカップを落とさないように慎重に両手で抱えようとしていた。すると、スっと熊峰さんが立ち上がり

  「すまない、君の身長ではこれを運ぶのは少し重かったな。私が持とう」

  と言ったが、

  「いえ、旦那様。大丈夫ですので」

  と、猫山さんも無理に持とうとしたが、熊峰さんはそんな猫山さんが両手で持つような重そうなカップを片手で軽くひょいっと持ち上げると机の上に置いた。

  猫山さんは熊峰さんにお礼を言うと、再び部屋から出ていってしまった。そしてらまた俺と熊峰さんは2人っきりとなってしまった。俺は紅茶を軽く飲んでみることにした。その紅茶は味覚音痴な俺でも市販の紅茶とは違うと分かるような味であった。やっぱり金持ちの家にある紅茶は少し違うのか、俺はあっという間に飲んでしまった。

  その後も俺は色々な質問をされたり、会話を楽しんだ。1時間くらい楽しんだところで、熊峰さんは再び俺に質問をしてきた。

  「……君は私の第一印象でどう思った?」

  熊峰さんは俺に訊ねてきた。唐突にこの質問がきたため、俺は一瞬戸惑ったが、この人にはお世辞とか抜きで好印象であった。もし、この質問を大型獣人の部長がしてきたら、嘘を考えなければいけなかったが……。

  「正直、優しそうな方だなぁという印象ですね。こういう人が上司に居たら凄い良いなぁという感じです」

  正直に俺はそう言った。熊峰さんは、少し照れながら頭をポリポリとかいている。その姿をみて、少し可愛いなと思ったのは内緒である。猫山さんの方が数倍可愛いが……。

  「犬水くん。ちょっと私の側まで来てくれるかね」

  熊峰さんは俺にそう言った。俺は不思議そうにしながら、ソファからおりた。ソファからおりる時も、熊峰さんは俺に「気をつけてね」と一言言ってくれた。もうほんとに紳士である。あの大型獣人の部長とはホントに大違いである。そう思いながら俺は熊峰さんの側に行った。熊峰さんはちょうど座っているので、俺の目線は熊峰さんの股間ぐらいである。ちょっと意識してしまうが、おれはそういった趣味はない。熊峰さんは立ったら、俺は熊峰さんの膝くらいまでしか身長がないだろう。これが大型獣人と普通の獣人の体格の違いである。

  すると突然、熊峰さんは俺を抱きかかえながら、熊峰さんの膝の上に乗せられた。俺は咄嗟のことに、驚いたが圧倒的な力の差を前にどうすることもできない。

  「な、何するんですか!?」

  俺はそう言うと、

  「驚かせてすまない。少し君のことを撫でたいと思ってな。犬獣人は撫でられるのが好きなんだろう?」

  俺に向かって熊峰さんはそう言った。確かに、犬獣人は撫でられるのが好きである。ただ、成人の今では撫でられるのには恥ずかしくて少し抵抗もある。そんなことを思っていると俺の頭上に熊峰さんの手が置かれた。

  「ひゃっ!」と、俺は間抜けな声を出してしまったが、熊峰さんはお構い無しに俺の事をそっと優しく撫ではじめた。その太くて力強そうな手とは正反対に、優しくそっとである。俺はやはり犬獣人なだけあってか一気に気持ちよくなってしまった。心が洗われるというか、リラックスできるというか。よく分からないが、今は最高に幸せである。

  「どうだい?気持ちいいかい?」

  と、俺に熊峰さんは問いかける。

  「ひゃ、ひゃい。」

  俺は間抜けそうな声でそう言った。それほどに気持ちよかった。

  「実はね。さっき紅茶を持ってきてくれた彼女も私に撫でられるのが好きみたいでね」

  俺は、猫山さんのそれを聞いて。驚いてしまった。あの美人で可愛い猫山さんが熊峰さんにこんなことされてるなんて。そう思うと、猫獣人も犬獣人も一緒なんだなと思いながらも俺はこの極上な時間を味わっていた。

  俺は気持ちよすぎて眠たくなってしまった。コクリコクリとしている俺を見て察したのか熊峰さんは膝の上で俺を横にゴロンとすると、まるで俺をペットのように頭から背中にかけて撫でてくれた。さすがに寝るのはまずいと思いながら目を開いて頑張ってはいたが、とうとう限界の来てしまった俺はそのまま目を閉じて眠ってしまった。

  ハッと気づき目を開けると、俺は急いで立ち上がろうとする。

  「おや、起きたかい?」

  と、俺の頭上から声が聞こえる。俺はサーっと血の気がひいてしまい、恐る恐る上を見る。どうやら、熊峰さんの顔は笑っているように見られ、怒っている様子はなさそうである。しかしながら、俺はひたすらに謝った。

  結果として、熊峰さんは全く怒ってはいなかった。それどころか

  「最後にもう1回撫でさせてくれないか?」

  と言われてしまった。俺は二つ返事でOKをすると、熊峰さんは俺を再び膝の上に乗せた。すると、先程よりもやや前屈みになりながら俺を撫ではじめた。熊峰さんは俺の事をまるで少し大きなぬいぐるみのように撫で回す。しかしながら俺はそれが不快には全く思わなかった。

  熊峰さんは前屈みになったことにより、俺の背中と熊峰さんの少しふっくらしたお腹が密接となってしまい、さらに、熊峰さんの鼻息が俺の頭に微かに吹かかるため、俺は変に意識をしてしまった。それに加えて、先程よりも優しくそっと撫でてくれている。俺はもう頭がおかしくなりそうであった。俺は別に男が好きなわけではない。猫山さん見たいな人がタイプである。しかし、今のこの現状、いくら男とはいえ、熊峰さんになら何でもされていいような気がしてきた。俺はあまりの気持ちよさに少しづつ下半身にも力が入ってきた。しかしながら、ここでその事を熊峰さんにバレてしまったら、会社になんて言われるか分からない。そのため、下半身に力が入らないように、別のことを考えようとした。しかしながら、このお腹の気持ちよさと、微かにかかる息。そして、どことなく香る不快では無い熊峰さんの匂い。撫でられている快感で、別のことを考えれる余裕は無い。俺は必死に心の中で耐えろ耐えろ。と言い、何とか我慢していた。

  しかしながら、最後の難関が待っていた。熊峰さんは、俺の頭を撫でるのをやめてしまった。これで終わりか。と思っていたのも束の間。今度は、俺のお腹の方に手をやると、先程と同じように撫でてきた。俺のお腹を撫でることによって、熊峰さんはさらに、前屈みになってしまい、熊峰さんのお腹と俺の背中が完全にくっつくようになってしまった。俺は完全に敗北してしまった。下半身が完全に勃ってしまい、ピンッとテントのようになってしまった。熊峰さんもどうやら気づいたらしく、俺を撫でる手を止めて、こちらを見ている。

  「……すまないね。もしかして、気持ちよくさせすぎたかい?」

  と、俺の方を申し訳なさそうな目で見てくる。

  「ひゃっ、ひゃい。」

  と、俺はとろけたような声でそう言ってしまった。

  「……でも今日はお互い初めましてだからね。また今度より密接な関係を築いていこうね」

  と、俺の耳にそう囁いた。

  熊峰さんは俺を膝から降ろすと、猫山さんをベルで呼んだ。猫山さんはすぐにノックをして部屋に入ってくる。そして、熊峰さんは猫山さんに

  「彼を玄関まで送ってくれないか?」

  と、言っているのが俺は聞こえた。俺はもう至福なひとときが終わったことに少しガッカリしたが、仕方ないと思いながら、猫山さんに着いて行った。最後、部屋から出る時に、熊峰さんの方を振り向くと熊峰さんはニコッと笑って俺に手を振ってくれた。猫山さんに着いていき、俺は玄関に出ると、猫山さんにぺこりとお辞儀をされた。猫山さんは相変わらず可愛かったが、今の俺の頭の中は、熊峰さんのことでいっぱいである。

  俺は、少しぼーっとしながら夕暮れに近づいてきた空を見上げた。

  (次も会えたらいいなぁ)

  俺はそう思いながら、1人寂しく駅へと向かうのであった。

  終