絶望

  私の名前は、田中淳子。

  高校三年生になった私は残り一年を友達と楽しく過ごすはずだった。

  あの忌まわしい、人生を変えてしまったあの日までは・・・

  私は風邪を引いて病院を受診し、そこで1本の注射を受け薬を処方された。

  様々な機械を用いた長時間にわたる検査を受けさせられ不審に思ったが、医師からは問題なしと告げられた。

  その日以来、私はある異変に悩まされていた。

  誰かにつけられ見られているような視線を感じるのだ。

  しかし振り返っても誰もいないし、気のせいだと思って過ごしていたのだが一向にその気配は消える事が無かった。

  「ねえ淳子、この後買い物つきあってよ」

  「え?」

  学校帰り、私は親友の聡美と共に裏路地を歩いている。

  「どうしたの?」

  「あっ、ううんごめんね。 ちょっと考え事してて」

  「大丈夫?最近なんか元気ないけど」

  そう言って私の顔を覗き込む。

  「体調悪いなら別の日でも良いけど」

  「ううん、全然平気だから付きあ───」

  突然、背後に人の気配を感じた。

  聡美に振り返る間もなく、私は両手を後ろで掴まれ羽交い締めにされてしまう。

  「なっ!? 何するんですか! 放して!」

  抵抗するがビクともしない。

  「誰ですかあなたたち!!」

  聡美も驚いて声を上げる。

  「騒ぐんじゃねぇ。 可哀相だけど命令でな、ちょっとだけ遊んでくれや」

  男が聡美に抱き付くと彼女の服の中に手を入れ胸をまさぐり始める。

  「きゃああ!!やめて下さい!!」

  必死に抵抗するものの男の力には敵わない。

  「離してぇ!」

  私は無我夢中で暴れ回ると、私を羽交い締めにしていた男の手が離れ、直美に駆け寄ろうと手を伸ばす。

  しかし、私の顔面に男はおもいっきり平手打ちをしてきた。

  「うるせえんだよ。次はてめえの番だからおとなしく待ってろ!」

  強烈なビンタで私は、くらっとなり一瞬意識が遠のく。

  次の瞬間、体が熱くなり心臓が大きく“ドクン!”と強く波打った。

  心臓の鼓動が、急激に早くなり体が焼けるように熱くなる。

  「ハァハァ・・・ (体が・・・ 熱い・・・)」

  異変に気づき、男が私の拘束を緩め一歩身を引く姿が見えた。

  「おい、その女やべえんじゃねえか。お前、強く殴りすぎだろ」

  「そんな強くやってねえよ」

  [newpage]

  ミシミシ・・・ 私の体の中から不気味な音が鳴り始る。

  「ハァ、ハァ、わたし・・・ どうしちゃったのかしら・・・ 体が・・・」

  グチャッグチャッ・・・ 全身から不気味な音が聞こえると、なぜか制服がビリビリと引き裂かれていく。

  「なに・・・ 何なの? 私どうなっちゃってるの?」

  男達は、その光景をただ呆然と見つめている。

  次の瞬間、全身に痛みが走る。

  「ぐあっ!!」

  あまりの苦しさに私は四つんばいに倒れた。

  体の至る所から血が流れ出す。

  痛みに堪えながら自分の体に視線を向けると制服がはち切れそうな程・・・

  いや、すでに制服は破れ落ち、皮膚が裂けて真っ赤な肉が覗いていた。

  「いや・・・ 何これ・・・ いやー!!」

  その場でギュッと蹲ると背中がボコッと盛ががり赤黒く変色した肉組織が波打つ。

  「たす・・・ け・・・ て・・・ 聡・・・ 美・・・」

  顔を上げ手を伸ばしながら聡美にゆっくりとすり寄っていく私を、聡美は恐怖の目で涙を流しおびえている。

  「いや!こないでー!!」

  私は後ずさろうとする聡美の腕を掴む。

  ボコボコと肉眼でも分かるほど脈打つその手を引き剥がそうと聡美に腕を掴まれるが腕の皮膚がズルッと剥がれ落ちた。

  「キャー!」

  聡美は叫び声を上げ泣きじゃくる。

  「何これ・・・ 私の体、一体・・・ いや・・・ いやーぁぁあ!」

  私は聡美から手を離し自分の頭を両手で覆うと力いっぱい叫んだ。

  しかし、私の手が触れた髪の毛が頭皮ごとズルッと落ち、頭蓋骨の形があらわになる。

  バキィ! 顔から骨が砕けるような嫌な音が聞こえてくる。

  「ああぁぁーあっ!!!」

  得体の知れない何かが私の頭に流れ込んで来る

  私は苦しみながらも聡美に崩壊していく顔を向け訴える。

  「逃げて… 聡美… 早く… お願い… 逃げ ガァーーッ!!」

  しかし最後まで告げる事が出来ないまま私は雄たけびをあげ聡美に飛びかかった・・・

  [newpage]

  どのくらいの時間がたったのだろうか。

  私は何かに顔を埋め引き釣り出し、それを口に運んでいる。

  無言でそれをクチャクチャと貪り続けていると、横で物体から手鏡が転がり落ちた。

  自分の姿が鏡に映し出される。

  「・・・・・・」

  おぞましい姿の怪物・・・

  赤黒い皮膚に追われ、角のような突起物が無数に生えた頭部と前に突き出た顔には複数の目が存在している。

  口からは見た事もない器官が飛び出し何かを加えている。

  恐怖のあまり、とっさに手で顔を塞ごうとすると鏡に映る怪物も同じ動作をした。

  (えっ・・・ これ・・・ 私?)

  ふっと我に返り恐る恐る鏡に視線を向けると、口の周りだけは得体の知れない器官が飛び出してはいるが何故か元の自分の姿だった。

  それが逆に恐ろしく感じ、鏡から視線を外すと今度は自分の全身を見回す。

  「うそ… なに?この姿は…」

  私は、自分の姿に気持ち悪くなり嘔吐する。

  「うえーっ!」

  ビチャビチャと人の残骸が口から吐き出される。

  地面に散らばった物を私は呆然と見つめる事しか出来ない。

  しかし次の瞬間、私の体の何かが反応した。

  「・・・・・・。 誰かくる・・・ 二人? いや三人いる。後、三人食べられる・・・」

  自分の考えが、人間のものではないことに恐怖を感じた。

  「違う。 逃げなきゃ…」

  その瞬間、首筋に何かが突き刺さった感じがすると意識が遠のきその場に倒れ込み私は意識を失った。

  [newpage]

  ─── 病室

  まぶしさを感じ、重いまぶたを開く。

  私は、人間の姿に戻っていた。

  全裸のまま寝かされているが、今は何故かそれがととも嬉しい。

  (あれは夢?)

  周りを見渡すと、そこは見覚えのある病院のベット。

  「すいません!誰かいますか?」

  「はいはい」

  病室の扉が開き、あの時わたしに注射をした医者が入ってきた。

  「あ~ 久しぶりですね。 僕の事覚えてます?」

  私は、あのおぞましい鮮明な夢を思い出し、それを震えながら医者に話した。

  「変身中はどんな気分でしたか? 自我はどのくらい残っていました?」

  医者は、淡々とした口ぶりで話した。

  「それと、それ夢じゃないですよ」

  「え?」

  「貴方は3日前、学校の帰りに人を襲いました」

  「襲ったんじゃ無くて襲われたんです。 聡美に聞いてもらえば!」

  「いや、聡美さんはあなたが食べちゃったじゃないですか。 襲わせた二人の男と一緒に」

  私が聡美を食べた?

  なにそれ・・・

  「そこは覚えていないんですね。 やはりまだ途中だから仕方ないか」

  言葉が出ない。

  あれが夢じゃない?

  それに今この人は私達を“襲わせた”と言った・・・

  「いや、中々覚醒しないものであなたにちょっと刺激を与えてみたんですよ。 ちゃんと覚醒してくれたんで良かったです。 また失敗かと思っちゃいましたよ」

  ニコニコ笑う医者が普通じゃ無い事だけは分かった。

  「私、貴方の姿を見てすごく興奮しちゃいましたよ」

  「冗談じゃないわ! あんな怪物になって、わたし・・・ 何の迷いもなく・・・ 人まで食べてしまったのよ? 私を普通の体に戻して!」

  私は泣きながら懇願した。

  しかし、医者は私の腕を取ると躊躇無く注射針を刺し液体を流し込んできた。

  「何? 今度は何をしたの!?」

  「何って、注射だよ」

  「そうじゃなくて、何の薬を私に打ったのよ!」

  私は腕を引き逃れようとするもびくとも動かない。

  (え? 何この人の力・・・)

  [newpage]

  「はい、終わり」

  医者は何事も無かったかのように私の腕から注射器を抜く。

  「今打ったのは最初に打った塩基配列を更に再配置した物。 いきなり全部書き換えてしまうのは危険だからね。 念のために2回に分けたんだ」

  この人が何を言っているのかがよく分からない・・・

  「地球外生命体の遺伝子、分かりやすく言うとエイリアンだね。 その遺伝子を君に組み込んだんだよ」

  「は?」

  「いやー苦労したよ。 中々に人間の遺伝子と相性が悪くてさ。 組み込みが成功したのは君が初めてなんだ」

  「・・・・・・」

  この人は今なんて言った?

  地球外生命体?

  エイリアン?

  私にエイリアンの遺伝子を組み込んだ?

  「これでようやく目的が達成できる。 食べるものには困らないが流石に1人は寂しくてね」

  理解が追いつかないまま、私の体が熱を持ち、心臓が激しく波打つ。

  何故だろう・・・ 徐々に体の細胞が置き換わっていくのを感じる。

  そして、股間がムズムズしてきたと思ったら何かが割れるような音が聞こえてきた。

  「え?」

  恐る恐る下腹部を見ると、何かがパックリと破れそこから白い液体が流れ出している。

  私のお腹から下が赤黒くて硬い皮膚に変わり、秘所の部分が堅い骨格のような物に覆われ、そこが左右に開き液体を垂れ流している。

  (なんでこんな形してるの? っていうか私の体一体・・・ まさか、また)

  人間の構造からかけ離れた自分の体に恐怖を覚える。

  あの時と同じ・・・

  またあんな姿に変身してしまう・・・

  「ああぁぁ! いやぁーあ!」

  精一杯の絶叫を上げる。

  「もう始まったか。 ま、こっちはいつでも準備OKだけどね」

  そういうと、医者は部屋を出て行った。

  一人残された私はベットの上で発狂しながら再び意識を失い・・・

  私がいる隔離フロアーに複数の悲鳴が響き渡った。