街中生物研究所。都市部の中心からやや離れた場所に位置するその研究所は、新たな薬効成分の発見やマウスの遺伝子操作を行い研究に適したものを生み出すなど、次世代の医療を支える研究を行っている。――表向きは。その実態は秘密裏に輸送してきた死刑囚や戸籍の無い人間を対象に非合法な人体実験を行う真っ黒な組織だ。かく言う私もそんな研究所で働いているのだからとやかく言える立場ではないのだが。
「で、一体こんなことをしてどう責任を取るおつもりですか?」
私は今、実験室の中で全裸でかつ手足を拘束され複数の研究員に囲まれている。結果を出せていない末端の研究員から妬まれているのは知っていたが、こんな短絡的な行動を取るなんて考えもしなかった。研究員達から返事は無く、ただこちらをニヤニヤとした顔で見下ろしている。
「準備が完了致しました。被験者以外の方々は速やかにご退室ください」
無機質なアナウンスが流れる。これはまさか、私を実験の材料として利用するつもりか!?
「おい、こんなことが許されると思っているのか!私の研究は研究所内でも一二を争う重要なプロジェクトなんだぞ!責任者が不在になれば研究が立ち行かなくなるぞ!」
声を荒げるが、研究員達の様子は変わらない。まさか――
「おや、流石エリート研究員様。状況が飲み込めたみたいですねえ。そうです、あなたの研究は我々が引き継ぐことになりました。いやあ所長は話の分かるお方でしてねえ」
クズ野郎め。所長に賄賂を渡して責任者の立場を変えさせたのだろう。
「そういうことなので、あなたには社会的に消えていただこうと思いまして。せっかくなのであなたの研究の成果をあなたの身体で実証しようかと」
――獣の因子を取り込むことによる人体の改変とそれに伴う不老長寿の達成、でしたっけ――そうクズ野郎は言葉を続ける。このままではまずい、手足を激しく動かし拘束具を破壊しようとするが傷一つ付く気配がない。
「では、またお会いしましょう」
扉が閉まり鍵がかかる音がする。実験室の扉や壁は被検体が暴れたときのために超硬度な材質で造られている。最早脱出の手立ては無くなってしまったと言っていいだろう。
[newpage]
閉じ込められて数十分。身体に激痛が走り、意識を保つのが困難になってきた。何とか堪えながら状況を分析する。恐らく実験室中に散布された薬剤とナノマシンによって身体の改造が始まったのだろう。薬剤で獣の因子を刻み込み変容させ、ナノマシンで細胞を弄り慣らしていくのだ。開発できたときにはなんて素晴らしく画期的な技術なのだと感動に打ち震えたものだが、私が被検体になっては意味が無い。私は安全が立証されてもいない技術などを受け入れたくはないのだ。
さらに数十分。目に見える変化が現れた。性器が勃起し、勢いよく精を吐き出し始めたのだ。精を吐き出せば吐き出すほどに熱が全身に回り、まともに思考が出来なくなる。普通ではありえないほどの量の精液が床に、身体に付着していく。このまま続けば命にかかわるほどだろう。だが、対処する手立てもない。
最早どれだけの時間が経過したか分からない。射精する度に身体に異変を感じていたのだが、拘束されていたはずの手足が突然解放されたことでその正体が分かった。身体が縮み、柔らかくなってきているのだ。つまり私は――
「幼児に、なっている?」
声を出してハッとする。まるで思春期すら経験していないかのような子供の声だ。クズ野郎め、嫌がらせのために肉体を退行させるように設定させたな。悪態をつくが、拘束具から解き放たれたとはいえ幼児の身体では壁を破ることはより一層不可能になっただろう。大人しくしているしかない。
それからすぐのことだった。射精が止まったかと思うと、性器が縮小を始めついには見えなくなってしまった。慌てて確認するとそこには、一筋の切れ目と性器の成れの果てであろう豆粒が鎮座しているのが見えた。これではまるで女性の――そう考えていたとき、突如胸の辺りに熱が集まってきた。
「グッ…ウウ?」
熱に耐えきれず手で胸を押さえてうずくまるが、次第にその手が押し返され始める。胸部が肥大化していく――既に元の身体の顔よりも大きいのではないか。筋力の無い身体では支えきれない重量を感じ倒れ込む。だが、まだ変化は終わらない。
次に感じたのは全身を覆う不快感。辛うじて見える腕と胸に、白い毛が急速に生えていくのが見えた。これが全身を覆い始めたのだろう。それと同時に視界に黒い何かが飛び込んできた――これは鼻だ!
「これは…犬か?」
耳の位置が変わり、頭の上に立つ。視界が少しぼやけ色を視認することが難しくなった。尻に違和感を感じると何かがせり出している。これは恐らく尻尾だろう。
「ハァ…ハァ…」
舌を出し、獣のように熱を外に排出する。変化が収まったようだ。改めて姿を確認するため、なんとか胸を支え立ち上がってみる。先ほどよりかは重量を感じないので、ケモノになったことで筋力が多少回復したのだろうか。
「犬獣人の…3,4歳の女児、といったところか」
身長は100㎝にギリギリ届かないほどで、全身が白い毛で覆われ犬の特徴を有している。そして、男であったと主張するには邪魔な巨大な胸が鎮座している。大きさはスイカほどで、成人女性でもそうはいないだろう。支えられているのが奇跡なほどだ。
「実験室の換気が完了致しました。扉のロックを解除し、入室が可能です。」
実験終了のアナウンスが流れる。扉が開き、ぞろぞろとクズ共が成果を確認しようと近づいてくる。音の聴こえ方がまるで違い困惑していると――突如腹部に痛みが走り、壁に突き飛ばされた。
「オラッ!よくも偉そうに踏ん反り返ってくれたな!」
痛みで起き上がることも出来ない。どうやら蹴り飛ばされたようだ。続いて他の研究員からも身体を踏みつけられる。
「いい姿になったじゃねえかよ、なんだそのでっかい乳は!犬なのに牛みてえだな!」
知性を感じられない罵倒が飛び交うが、痛みでそれどころではない。
「なんだ、末端の研究員の話なんか馬鹿らしくて耳に入らないってか?これはお仕置きが必要だな」
研究員達が私の身体を持ち上げると、仰向けにして四肢を開かせる。おい、まさか――
「エリート様も知らない知識を授けてやるぜ」
蹴り飛ばされるのとはまるで違う痛みが、下腹部を襲った。未成熟な性器に勢いよく挿入されたのだ。激しく突かれ息が出来ない。
「どうだ、男では得られなかった知識を得た感想は!お前の為に挿入できるよう調整してやったんだから感謝しろよ!」
罵声を浴びせゲラゲラと笑う姿を見て怒りがこみ上げてくるが、それ以外にも感情が湧き出てくる。
――気持ちがいい、この人にお仕えしたい、忠誠を誓いたい!
「クゥーン…」
犬のような鳴き声が漏れる。それを聞いた研究員達は顔を合わせて大爆笑している。
「もう犬の本能に呑まれちまったのか?それなら、これからどうしてほしいか言ってみろよ!」
そんなことか、答えは一つに決まっている。
「私の未成熟なおまんこに、ご主人様の精液を流し込んでください♡」
ご主人様はニヤリと笑い、さらに激しく交尾を行う。
「オラッ!受け取れクソ野郎!」
そう言うと、熱いものが次々流し込まれてくる。ああ、ご主人様の精液を頂けるなんて嬉しい――!
その後、ご主人様達は私を代わる代わる犯してくださりました。数時間にも及ぶ交尾の果てに、ご主人様達も疲れを見せ始めた時――異変が起こったのです。
「なんで、射精が止まらないんだ――!?」
ご主人様達は揃いも揃って虚空に精液を吐き出し始め、苦しみ始めました。まるで、私を襲った変化のような――そこで、私は人間としての意識を取り戻した。この現象はまさか――
「お前たち、ナノマシンの設定を間違えたな?」
このクズ野郎達は、私の体内に存在するナノマシンを性行為を媒介にして取り込んでしまったのだ。多少取り込んだ程度であれば代謝で体外に排出されるかもしれないが、恐らく胸の大きさを弄るために多量のナノマシンを投与させた影響で転移した量が多くなってしまったのだろう。それに、他人に伝染しないように設定していればこのような事態は起きなかったはずだ。呆れて物も言えない。
「ヒッ…助けてくれ…誰か…」
口々に助けを乞うが、自業自得だ。クズ野郎の身体が、私の時とはまるで違う速度で肉体が変容していく。時計の針が半分も進まないうちに、全員巨大な胸を持った何らかの獣人へと変貌してしまった。
「身体が熱い…誰か収めて…」
「ご主人様はどこにいるの…」
相手を求めて獣人達は彷徨い、自慰を始める者もいたが、研究所内には現在我々以外存在しない。そんな姿を見ていると、ある感情が湧き出てきた。
「この素晴らしい身体を、皆に分けてあげなくては」
本来の私と、獣人の私が、綺麗に交わった瞬間だった。これだけ気持ち良いのだ、ネガティブな思考を吹き飛ばし世の中を幸せで埋め尽くすことが出来るだろう。急いで実験室を抜け研究室に戻ると、体内のナノマシンと使用された薬剤を分析し改良を始めた。人類の進歩の為に、この研究を昇華してみせる――
[newpage]
「街中生物研究所から研究員が戻らない、との通報を受けて3日が経ちました。安否確認のため連絡や侵入を試みますが、高いセキュリティに阻まれ成果が出ていません。」
研究所の前でテレビ局のリポーターがカメラに向かい異変を報道している。人々は、画面越しにその様子を見守っていた。
「御覧のように入り口は閉ざされ、屋上からの侵入も頑丈な扉とセキュリティにより突破できていません。おや、突如入り口が開きました!速報です!突如入り口が開き、白い物体が飛び出してきました!」
リポーターが指を指した先に、何やら奇妙なものが見える。人のようでありながら別の動物であるかのような――様子を伺っていると、白い物体は何やら機械を取り出し、地面に設置した。
「あれはなんでしょうか…ウッ!」
リポーターが突然地面に倒れ、苦しむ姿が見える。続いてカメラが横倒しとなり、カメラマンの呻き声も映像に加わる。画面の前にいる人々は異常な状況に映像を恐る恐る見つめている。次の瞬間、リポーターの姿が急速に縮んだかと思えば、縮んだ分の体積が全て胸に集中するかのように膨れ上がった。耳が頭頂部に移動し、長くなったかと思えば先っぽが垂れる。白い毛が全身に生え、リポーターはウサギの獣人へと変貌してしまった。
その映像を見た人々は、SNSに感想を流し始める。
「あれってCG?」
「フェイクニュースってやつだよ」
「これは人類が善行を積まなかったことによる世界の終末の訪れです」
現実に起きていることとは知らず、あること無いことを書き込む人々。
「この研究所って近場にあったとこだよな…」
SNSを見て、そう呟く男性は研究所を確認するため窓を開けようとする。瞬間、男性は窓枠に手が届かなくなり弾みで床に倒れる。身体を確認すると、男性であった名残は既に欠片も残っていなかった。
「にゃんだこれはぁぁぁぁ!」
小さな猫の獣人が、胸を大きく弾ませながら叫ぶ。次第に、街の至る所から悲鳴と嬌声が鳴り響く。こうなっては、誰にも止めることは出来ないだろう。
「さあ、人類の新しい時代の始まりだ、この快楽を受け入れるといい」
元凶である白い犬獣人は、そう言いながら『改良型変容装置』を携え都市の中心へと向かう。中心にこの装置を設置すれば、散布されるナノマシンと獣人となった者による性行為を媒介に、芋づる式に変化が広がっていくだろう。その様子を思い浮かべながら、犬獣人は小さな歩幅で前進するのであった。