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ポケフォーマーズ

  ここは人口の囚人島。ここには世界中の凶悪な犯罪者が集められているんだ。でも、正義感の強いポケモンを用いた警備で閉じこめているから、絶対に安心・安全なんだ。

  

  そんな囚人島のとある一室に5人の囚人が集められていた。長テーブルに縦に5人座り、目の前に大画面テレビがある。年代が異なる男女で互いの面識も無かった。沈黙に耐え切れない金髪のチャラ男がせきを切って喋り始める。

  

  「なぁ。待ってる間ヒマだから、自分の犯罪歴を話そうぜ」

  

  数人が黙ったままうなずいたので、男は流れるように話し始める。

  

  「俺様は金を稼ぐのが大好きな詐欺師さ。オレオレ詐欺、振り込め詐欺、霊感商法、コラッタ講など古今東西ありとあらゆる詐欺をやったかな。最高で3億円の貯金があったんだぜ。今のこのザマじゃ信じないと思うけどな」

  「どうして捕まっちゃったの?」

  

  黒髪ショートの少女がくりっとした目で彼を見つめて、身を乗り出して尋ねる。

  

  「偽メガストーンの販売で足が付いて、真っ赤な帽子のガキにやられちゃったよ。あいつの持ってたピカチュウ、俺のサンドパンの攻撃を受けてもピンピンしてたから、レベルがカンストしてるんじゃねぇか」

  

  元・詐欺師は舌打ちして、幸せそうに眠り続けるアフロ男をにらんだ。次にヒゲもじゃの男が話し始める。

  

  「それはお気の毒に。俺はこう見えても手先が器用でね。ピッキングでドアをこじ開けて、色んなものを盗んだなぁ~」

  「でっかいダイヤでも盗んだのか?」

  「いいや。レアなフィギュアやカード、おもちゃを盗んでコレクションしていたよ。絶対にバレないと思ったら、ラプラスぬいぐるみに発信機を付けられておしまい」

  

  泥棒は指をくねくねと動かして、盗みの快感を思い出そうとしていた。

  次に、男2人が少女に注目する。少女はため息を吐いて面倒臭げに言う。

  

  「お2人さんに比べたら、あたいはたいしたことないわぁ」

  「自分の体を売っていたのか?」

  「うっせぇチャラ男! あたいの家って、いっつも両親がケンカしていて、母さんの口癖は「さっさと出てけ」。学校にいても友達は出来ないし、居場所のないあたいは幸せそうな家を焼いてやったの」

  

  さらりと凶悪犯罪を暴露した彼女に対して、2人はドン引きしていた。それを気にせず、彼女は饒舌(じょうぜつ)になっていく。

  

  「天まで届く鮮やかな炎。建物が砕けていく音。家族の思い出が一瞬に消し去る哀しみ。ああ、全てが愛おしい…、シャワーズがあそこで出なければ、これから毎日家を焼いていたのに、チキショー!」

  

  放火魔の叫びでアフロ頭の大男が目覚めた。大男は3人をギロリとにらみつけて、血管が浮き出るほど拳を強く握りしめる。

  

  詐欺師は身の危険を察知して、机の下に隠れる。それを見た大男は眉間にしわを寄せて、今から怒れる状態になっていた。緊張の糸が場に張り詰めて、ヒーターの音が聞こえるほど静まり返る。

  

  「ガハハハハハ。おいは弱っちい奴なんかとケンカせんバイ、安心せい」

  

  体と同じく声も窓ガラスを揺らすバクオングだ。暴力を振るわないことが分かっても、彼が恐ろしい存在に変わりない。

  

  「おいは強そうな奴と見込んだら、必ずケンカして勝ってきた。これまで99人やっつけてきたバイ」

  

  手錠をつけられた両手の拳を前後に出し入れする。その素早さでもって、彼の力強さは明らかだ。

  

  「だが、酔った勢いで野生のハリテヤマとやったのが、運の尽きタイ。伸び切ったおいを見つけた奴らがサツに通報して、ここに至ったわけバイ」

  「ハリテヤマとケンカしてよく死ななかったねぇ、あんた凄いよ」

  「99人もボコったこの人が、今のところ最強の犯罪者ね。あたいはヤケド数人、65軒の家だけだし。ところで、あなたはどんなことやったの?」

  

  放火魔が白髪の若い女性に尋ねるも、返事はない。彼女はうつむき加減で口を閉ざし、無表情を貫いていた。

  

  「人には言えないぐらい恐ろしい犯罪をしでかしちゃったのかい? かわいそうに」

  

  詐欺師は上辺だけの同情を取り繕う。謎の罪人は一切意に介さないので、不気味さがより増してくる。

  

  そんな彼らの親睦(?)が深まったところで、モニターが付く。ひじをついて重ねた手の上にあごを乗せている男が映りこむ。その男はげっそり痩せていて、風吹けば倒れそうだ。男は偉そうな態度を取ったまま淡々と話す。

  

  「そこにいる君達は、どうしようもない根っからの悪人だ。懲役年数が過ぎて野に放たれたら、すぐに再犯する可能性が高い。はっきり言えば、ヤブクロン以下のクズだ」

  「あんだとぉ!!」

  

  暴行魔は声を荒げて、画面の男をにらみつける。男は鼻で笑ってから再び話し始める。

  

  「だが、そんなクズでも世の中の役に立つ。今から君達にはポケフォーミング計画に加わってもらおう」

  「フン。誰が、一銭にもならない計画に加わるもんか」

  

  詐欺師がそっぽを向けば、天井から金属音が聞こえてくる。皆が顔を上げれば、天井の切れ目からメガホンのような物がぶら下がっていた。それは紫色のガスを噴出して、瞬く間に皆の視力を奪った。

  

  「ゲホッゲホッ。何しやがるタイ、このぉ!」

  「あーん、ヤダ、もう!」

  「それでは諸君、新たな自分を楽しみなさい」

  

  彼らはガスの中でせきこみながら、自らの体の異常に気付く。

  

  放火魔の鼻がグイッと伸びて黒ずんでいく。暴行魔の目は赤く光り、赤い鼻が尖りだす。謎の女の体中に白い毛が生えて、服がビリビリ破れていく。窃盗犯の指が三本になり、硬いかぎ爪になって伸びていく。詐欺師の手足が短くなり、顔がパンパンに肥大していく。

  

  放火魔と暴行魔と謎の女の3人は二本足でバランスを保てなくなり、両手を床についてしまう。両手首が細くなって手錠が外れたものの、思い描いていた自由とかけ離れたものであった。

  

  放火魔は嫌々ながら足の臭いを嗅ぎ出す。スクール時代の飼育小屋みたいな臭さで、彼女の顔の涙としわが増えていく。自慢のサラサラの黒髪は体毛と混じって、見た目の区別が出来なくなっていた。

  

  「一体どうなってるんタイグラァ!」

  

  暴行魔は歯をむき出してうなって、下の両腕を見る。分厚い黒手袋の毛がびっしり生えて、人肌が全く見えない。爪は白く変色し、地面をつかむのに適した形状になっていた。

  

  謎の女の首元には白い毛がどっさり生えて、ワタッコの毛玉みたいだ。青黒い顔の右横から刃の角が出てきて後ろへ伸びていく。左頬を隠すように前髪が伸びて、アシンメトリーの神秘性をかもし出していた。

  

  「俺の手は一体全体、どうしたんだニュ?」

  

  窃盗犯はいぶかしげに長い三本の爪が生えた手を見ている。顔は丸味を帯びて紺色の毛が生えている。額には黄色のジュエルが光り、髪の毛は赤く染まりシャンプーハット状に固まって後ろへ伸びていく。

  

  詐欺師の体はすでに人間と大きくかけ離れていて、ほとんど顔でできていた。赤子のような短い手足は人間のままだが、顔中に紫色の毛がびっしり生えている。頭頂部のみとがった金髪が残っている。嘘を吐く舌は分厚く長く伸びて、彼自身の目に届く高さになっていく。

  

  変化は容赦なく進み、彼らを人間からポケモンにしていく。放火魔は下半身まで黒の短毛は生えそろい、ムチの尻尾が飛び出る。暴行魔は背中と両足の先端と尻尾が黒い毛、それ以外が灰色の毛に覆われる。謎の女はもふもふの白い毛に包まれて、角と同様の硬さと細長さの尻尾が生え出す。窃盗犯は足も鋭い爪が出て、ポッコリお腹の体型に変わる。詐欺師は両手足が紫色の毛に満たされる。

  

  ガスの霧が晴れて、互いの姿が見えるようになれば、驚天動地の声が室内に響いた。

  

  「何なのこれぇ? ヘルルルル!」

  「お前らおかしいタイグラァ!」

  「あー、俺様の手足が、酷いよこれぇ!」

  

  放火魔は襟足の残るヘルガー、暴行魔はアフロと直毛が混じるタテガミのヘルガー、謎の女はメガネアブソル、窃盗犯はあごヒゲの残るマニューラ、詐欺師は金のモヒカンのゲンガーになっていた。

  

  「ポケフォーミング計画って、俺達をポケモンに改造することだったのかぁ。ということは、警察の犬(ガーディ)にされるニュか?」

  「えー、警察の犬になりたくないヘルゥ」

  「こうなったら、おいが噛みついて脱出するバイグラ!」

  「あっ、見ろ。扉が開いたぜ」

  

  彼らは警察官に飛びついて、それぞれが得意な技を出そうとした。だが、ゴージャスボールの眩い光に成す術なく、中に入れられてしまう。ボール内の自然豊かな環境に彼らの心は現れて、警察(マスター)の命令にしたがう心境に変わる。

  

  その後、過酷なトレーニングの実施とポケモンフーズの餌付けにより、彼らはポケフォーマーズに生まれ変わっていくのだ。

  

  [newpage]

  

  ポケフォーマーズのデビューは、山荘の人質救出に決まった。

  

  犯行グループは革命軍の幹部の釈放をスピーカー越しに要求している。彼らはダイナマイトを所有しているので、人間がうかつに近寄ると人質ごとドカンだ。そこで、ポケフォーマーズに白羽の矢が立ったのだ。

  

  闇夜にまぎれて、ポケフォーマーズは山荘の入口に立っていた。

  

  「おいの体当たりでぶっ壊してやるグラ」

  「待て。大きな音がすると気づかれてしまうニュ」

  

  マニューラは血の気の多いグラエナを制止して、自慢のかぎ爪をドアの間に入れる。マニューラの爪はどんな硬い物も裂いてしまう。錠前は真っ二つに割れて、侵入可能となった。彼らは忍び足で入りこむ。

  

  「だっ、誰だ!?」

  

  サングラスの男性が銃口をポケフォーマーズに向ける。グラエナは目にも止まらぬ速さで彼の足を嚙み、マニューラは彼の顔にみだれひっかきを喰らわした。男性は吐血して床に倒れこんだ。

  

  「おい、どうしたんだ?」

  

  すりガラス越しに仲間が尋ねてきて、皆は困惑の色を浮かべる。機転を利かしたゲンガーは声色を変えて応答する。

  

  「いや、何でもない。悪かったな」

  「そうか。引き続き警備を頼むぞ」

  

  足音とともに影は小さくなっていく。彼らは安心の息を漏らして、モクロ―の羽音より小さい声で相談し始める。

  

  「この部屋の中に人質がいるゲン?」

  「うん。香水おばさんやピザ少年達がいるヘル。中に入って早く助けなくっちゃ」

  

  ヘルガーは鼻をドアのすき間に向けながら言う。

  

  「革命軍は残り四人。一匹一殺で片付けようニュ」

  「そうと決まれば、突進だグラァ!」

  「あっ、バカエナ」

  

  グラエナのとっしんで、ドアは粉々に砕け散る。革命軍はとっさに銃口をドアに向けて連射し始める。ポケフォーマーズは上下左右に慌てふためきながら、奥の人質へ向かうおうとする。

  

  「俺様の目をよぉく見てごらん」

  

  ゲンガーの目が妖しく光り出す。目が合ってしまった男はあくむにうなされて、戦闘不能になってしまった。

  

  「くぅ。よくも仲間のカタキを!」

  

  紅一点のメンバーがマシンガンをぶっ放すも、ヘルガーのかえんほうしゃで銃弾が溶けていく。弾切れでヤケクソになった彼女はマシンガンを振り上げて、ヘルガーの頭を叩こうとする。

  

  「あたいより可愛い人間死ねヘルゥ!」

  

  ヘルガーのほのおのキバがマシンガンに食い込む。火炎がマシンガンを包み、さらに女性に移る。彼女は金切り声を上げてのたうち回りながら、廊下へ出て行く。

  

  ナイフ使いの団員はマニューラと向き合って、じりじりと詰め寄る。マニューラがちょっとでも動いたらナイフを投げるつもりだ。

  

  「マニュッ!」

  「そこだ!」

  

  男がナイフを投げれば、マニューラの胸に刺さって血しぶきが上がる。男はニヤリとガッツポーズをする。だが、マニューラの姿がブレてみがわり人形に変わると、顔が青ざめていく。

  

  「なっ、偽物だと?」

  

  男が辺りを見回すと、どこからともなくナイフが飛んできた。

  

  「ひいい!」

  

  男は瞬時に頭を下げるも、髪の毛と精神が犠牲になった。あわを吹いて気絶する男の腹上に立って、マニューラはどや顔を浮かべる。

  

  こうして、革命軍のメンバーが倒されて、彼らは人質の元へ悠々と向かう。

  

  アブソルの角やグラエナの牙でロープが切れて、人質は笑顔で抱き合った。

  

  「後は警察の方が来るんで、安心して下さいゲン」

  「わぁ。ゲンガーがしゃべったぁ!」

  

  少年はゲンガーをロボットと勘違いして、毛をかき分けてボタンを探す。それを見た他の人質やグラエナは笑い始める。

  

  「妙なポケモンどもめ、これを見やがれ!」

  

  グラサン男の怒号が笑顔をかき消す。彼が握る鉄製の筒の上部には、赤いボタンがついている。ポケフォーマーズの脳裏に「ダイナマイト」がよぎった。

  

  男は不敵な笑みを浮かべながら、血をはうような低い声で話し続ける。

  

  「お前達ポケモンは早くここから出て行け。さもないとダイナマイトを爆発させて、この世からサヨナラバイバイだぞ」

  「フン! 誰がそんなこけおどしにしたがうもんヘル」

  

  ヘルガーが熱い息を男に吹きかけるも、男は全く動じない。逆に、男はヘルガーの顔に接近して目をカッと見開いた。

  

  「あくタイプのポケモンなら、俺が本気か否かわかるだろう?」

  

  焦点の定まらない狂気に満ちた目。ヘルガーは怖気づいて後ずさりする。エスパータイプがいればこの男からスイッチを取り上げられるが……。しかたなく、ポケモン達はのそのそそと部屋から出て行く。

  

  最後に残ったのはメガネアブソルだ。憂いを帯びた赤い瞳は、男を凝視している。男はいらうちてスイッチを振りかざす。

  

  「やい、アブ公! 早く出て行かねぇとドカンだぞ」

  「あなたは「死」を見たことがありますか?」

  

  アブソルの唐突な質問で、男が動揺の色を浮かべる。アブソルは口元を緩めて静かに語り続ける。

  

  「人が死んでいくところを見たなら、気軽に人を殺すなんて言えないはず。ましてや自分自身を殺すのは不可能。あなたは絶対にそのスイッチを押せないアブ」

  「うっ、うるせぇ。お、お、押してやるぞ!」

  

  男が震える指をスイッチにゆっくり近づけたら、急に目の前が暗くなった。ゲンガーに頭を丸呑みされた男はパニックになり、スイッチを落として引きはがそうとする。そのスキを突いて、ヘルガーがスイッチを燃やす。

  

  「よっしゃ、ナイスチームワークタイ!」

  

  グラエナは片目を不器用につむって吠える。

  

  「グラちゃんは何もやってないニュ」

  

  痛いところを突かれたグラエナは、マニューラの右手に噛みついて強制的に黙らせた。ヘルガーとアブソルはあきれ顔で二匹を見守っていた。そのスキをついて、ゲンガーは女性達をくどいていた。

  

  その後、警察が突入して革命軍のメンバーは捕まった。ポケフォーマーズのデビューは大成功だった。

  

  [newpage]

  

  ボックス「ポケフォーマーズ」内で、グラエナとゲンガーはレスリング、マニューラとヘルガーとアブソルはお茶会を開いている。

  

  レスリングの野太い声をBGMにして、彼女達は紅茶とお菓子の味を楽しんでいる。ヘルガーとアブソルは手を使わない“いぬ食い”だが、お行儀が悪いと叱られないので、躊躇なく口へ運んでいく。

  

  「エリート医師がアブソルになってあたい達と一緒に過ごすなんて、世の中わかんないもんヘルね」

  

  ヘルガーは菓子くずをまき散らして喋る。

  

  「私は身勝手な理屈で多くの命を奪ってしまったから…、これは天罰なのアブ」

  「色々なことがあったんだねぇ、アブさん」

  

  マニューラは湯呑みの紅茶をすすり出す。暗い過去に踏み込もうとしない二匹の姿勢は、アブソルにとって好ましいものだ。

  

  「マニューラさん、アレの出来はどうなったヘル?」

  「ああ。今出してあげるニュ」

  

  マニューラは木のうろに手をつっこんで探し始める。すると、彼は「あった」と言って振り向き、その手には色とりどりの花の首飾りがあった。

  

  「この前みんなの危機を救ったお礼に、俺とヘルちゃんで作ってみたんニュー。つけてみて」

  

  アブソルはゆっくりと首を垂れて、マニューラの手で首飾りをかけてもらう。花の芳しい香りがアブソルの鼻に入って、うっとりした表情に変わっていく。

  

  「とっても似合ってる。かわいー!」

  「コンテストに出たら優勝できるかもニュ」

  

  二匹に褒められてアブソルの頬が赤くなり、左の髪の毛が伸びて羽が生える。彼女は嬉しさのあまりメガシンカしてしまった。

  

  彼女は高く羽ばたいて皆を見下ろす。世界がこんなに広くて美しいことがわかり、自然な笑顔を見せた。ゲンガーはボロクズのグラエナを舌でなめ回しながら、彼女に手を振る。ヘルガーはひのこを吐いて尻尾をビュンビュン振る。マニューラは爪を叩いて拍手する。

  

  これが、悪人や害ポケモンとの戦いで疲れたポケフォーマーズの休暇である。

  (おわり)

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