ディーラル侵蝕編 第二話 色の無い花

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  一番危険が予想された第二班は、奇妙な山と呼ばれる遺跡を見下ろす位置に到達していた、ほぼ正四面体で構成された奇妙な山は明らかな人工物であり、黒光するその外壁は経年劣化などない様で、真新しい構造物様にも思える。

  リリルカ思考 『こんな近くで実物を見ましたが、本当に素晴らしいですね、与えられた知識にあるダイン様の浮遊母艦よりも高度な技術が用いられている様です』

  無言で見つめるリリルカにレ・ミュウが声を掛ける。

  レ・ミュウ 「あれが奇妙な山か、ミュウの知るリッポト湖の遺跡よりも凄い」

  リリルカ 「ミュウ姉が生まれた耳長の古代遺跡ですね、同じ起源の遺跡なら何らかの共通点が見出せそうですが・・・」

  レ・ミュウ 「あんな形の物は見た事無い、そもそもあの形の意味がわからない」

  リリルカ 「ダイン様は安定して強固な形と言ってましたが・・・確かに山の頂点に乗るぐらいバランスは良いようですが・・・」

  リリルカが再度、遺跡を見ると少し違和感を感じる、平らだと思われていた面に何かの突起が浮き出ているのだ、そして突起には開口部が存在していて、かなりの大きさの物でも侵入する事が出来る様だ。

  レ・ミュウ 「あの穴、道が開けたという事か・・・ミュウは主の命に従って此処で待つ事にする」

  リリルカ 「はい、もしもの時はお願いします、ダイン様に必ず伝えてリリルカを助けようとはしないで下さいね」

  レ・ミュウ 「解った、あれは魔龍化してもどうにもならないと思う」

  リリルカ 「では、行って来ます、招かれるからには危害は加えられないと思いたいですが・・・」

  若干の不安を感じつつも、リリルカは遺跡の開口部へと侵入して行く、遊魔知識に有る防空装備の様な物は近付いても確認出来ず、余り警戒されている感じはしない、もっともリリルカの高度文明の知識はダイン譲りなので、魔導を持ちいた高度文明の防衛システムは想像出来ていない。

  リリルカ思考 『予想よりも奥に深いですね、ところどころ開いた仕切りっぽい構造になってますから、本当にリリルカを招き入れてくれている様です』

  リリルカは状況をよく観察出来る速度でさらに奥を目指す、内部は一定量の光量が有ってしっかり見る事が出来るが、何故明るいのかは今のリリルカにも理解は出来ない。

  リリルカ思考 『あ、あそこが目的地の様です、数名の人物が立っていますから、でも何だか不思議な人達ですね』

  リリルカは横列で並ぶ同じ変な服を纏った五人の若い女性の前に着地すると軽く会釈してから言葉を掛ける。

  リリルカ 「私は遊魔の王ダイン様からの使いです、我が王は皆様との対話を望んでおります」

  リリルカが五人の人物に違和感を感じた理由はその表情のせいだ、リリルカの言葉を聞いても五人誰もが表情を変える事ははい、だが、中央の一人が一歩前に出て対応してくれる様だ。

  銀色の髪の少女 「遊魔の王には、この地にお越し頂いて有り難く思います、敵が動く前に邂逅出来たのは幸いです」

  リリルカ 「敵ですか、その言いようだと貴女方と私達遊魔の共通の敵の様ですが、遊魔には明確な敵など存在していませんよ」

  銀色の髪の少女 「遊魔が敵と認識していなくても、敵は既に動き出しています、そして敵と遊魔がこの地で争う事は避けられない事実です」

  リリルカ 「確かにこの地を欲するダイン様が、この国の人間と戦うのは十分有り得る話しです、ですが遊魔と対等に戦えるとは思えません」

  銀色の髪の少女 「貴女方の実力は存じてますが相手は人間では有りません、かつてこの地を欲した地の王が再び侵攻を始めたのです」

  リリルカ 「え、今、始めたと言いませんでしたか、その様な報告は聞いていませんけど」

  銀色の髪の少女の後ろにディーラルの地図が投影される、リリルカが知る形とは異なったところもあるが、だいたいの形は合っているのでディーラルの地図で間違い無い。

  銀色の髪の少女 「地の王の軍勢の恐ろしいところは、地下より忍びよるところです、地図の赤い線は地の王の地下道の位置です」

  地図に写し出された地下道の位置と数にリリルカは絶句してしまう、既にディーラルの南半分迄に行き渡って、王都ディグランから程近いところまで延びている。

  リリルカ 「これが真実なら、かなり危ない状況ですね、国土の半分まで到達してます、それに王都もかなり危険です、まだダイン様が滞在しているのに・・・」

  銀色の髪の少女 「本格的な侵攻迄にはまだ部隊は展開されていません、今しばらく猶予は有ります、ですからなるべく早くここへお越し頂きたい」

  リリルカ 「望まれても難しい事ですね、ダイン様は警戒心が強いですから、リリルカが無事に帰ったぐらいでは信用してくれませんね」

  銀色の髪の少女 「ならば私を王の元へと連れ帰って下さい、王ならば真実を知る術をお持ちでしょう」

  リリルカ 「つまり貴女を遊魔に加えろという事ですか、出来ない事はありませんが尻尾で呑み込みますよ、リリルカが人を運んで飛ぶ手段はそれぐらいですから」

  実際にはリリルカは両手のお姫様抱っこで、この銀色の髪の少女ぐらいなら余裕で王都ディグランまで運ぶ事が出来るが、敢えて意地悪して覚悟を試しているのだ。

  銀色の髪の少女 「構いません、遊魔の王の信頼を得られるならそれぐらい大丈夫です」

  リリルカ 「怖くは無いんですか、尻尾と言ってもこの見た目ですよ」

  リリルカは尻尾の先を手に持って剥いてみると、中から粘液に濡れた尾ニプルが姿を現す、だが、見た目事は奇妙だが剥くと同時に甘い乳の香りが辺りに満ちて行きリリルカも相手がどう反応するのか気になってしまう。

  結果的にリリルカを見つめる五人の少女の様子は変わらなかった、嗅覚が麻痺しているのかと思える程の変化の無さで、乳の香りに自信の有ったリリルカは少し怒りを感じてしまう。

  銀色の髪の少女 「気分を害された様で申し訳有りません、私共には匂いの良し悪しが解らないのですよ」

  リリルカ 「解らないとは変わった事を仰りますね、生きていれば好みも有るでしょうに・・・」

  銀色の髪の少女 「その経験が私達には無いんですよ、この五人が製造されたのはほんの数日前、遊魔の王との対話を円滑に行う為に好みを反映させたのです」

  リリルカは五人全てが処女である事を理解している、北部の守護者は本当にダインを理解している様だ。

  リリルカ 「まぁ今はダイン様の元にお連れするのが最優先です、どの道、遊魔と成れば全てがダイン様に捧げられますから・・・ところでお名前をお聞きしてませんでしたね」

  銀色の髪の少女 「私の事は087-003とお呼び下さい、右から087-001となっており、最後が087-005です」

  リリルカ 「それって名前じゃ有りませんよね、ダイン様の知識で製造番号だと解ります、087はダイン様の国の言葉でオハナと読めるそうですから、取り敢えず貴女はオハナ三号ですね」

  オハナ三号 「個体名ですか、それで解り易いならオハナ三号とお呼び下さい」

  リリルカ 「まぁ仮ですけど、ダイン様にもっといい名前を付けて貰いましょう」

  リリルカは自身のネーミングセンスの無さに落胆するが、あくまでも仮の話だ、きっとダインならこの少女に相応しい名前を与えてくれるだろう。

  オハナ三号 「では直ぐにでも王の元へとお連れ下さい、このスーツのままでも大丈夫ですよね」

  オハナ達はいわゆるピッチリスーツを着用している、脱がしてみるのも楽しそうだが、この怪しげな服の放つ異様なオーラは、ダインへの献上品として喜ばれる気がして、リリルカもスーツごとオハナ三号を尻尾で飲み込む事にする。

  リリルカ 「その服はダイン様が喜ぶ気がしますからいいですよ、遊魔は話すよりも堕とした方が理解出来ますから、なるべく早くダイン様の元へとお連れしましょう」

  オハナ三号 「お願いします、王に現状を理解して貰った方が早いでしょうから」

  リリルカ 「なんというか身構えて来たんですけど、あっさりしてますね、今度ここを調べてもいいですか?」

  オハナ三号 「遊魔との関係が構築されれば隠す事も無くなると思います、ですが王が理解する事が最短の方法ですよね」

  オハナ三号はリリルカへ急ぐ事を伝えている、どうやら尻尾に呑まれる事に全く抵抗が無い様だ。

  リリルカ 「じゃあ行きますよ、普通の人間は呑まれると意識を失いそうですが、オハナ達は人間なんですよね?」

  オハナ三号 「構造は人間ですので大丈夫です、快適な旅を祈って下さい」

  リリルカも人を呑み込むのは初めてだが、立ったまま動かないオハナ三号はやり易い獲物で、尾ニプルを目一杯拡げて頭の上に持って行っても何の反応もない。

  だが、リリルカの心情的には拒否感を示して欲しいのだ、無抵抗の獲物よりも苦労して狩った獲物の方が価値を感じてしまうのは遊魔の本能の様なモノである。

  そして、オハナ三号が尻尾に呑まれる状況を目にしても残りのオハナ達は表情も変えずに、状況を冷やかに見つめているだけである。

  リリルカ 「何か感想が欲しいですね、リリルカも初めてなんですよ」

  オハナ一号 「私達には人間らしい感情など組み込まれていませんから、今の状況に恐怖も興味も有りません、ただ任務を果たせる087-003が087ロットで一番の功労者というだけです」

  リリルカ 「本当に個人の感情が乏しい様ですね。これはこれでダイン様が好きそうですけど、代わりの有る人工物が大好きな様ですから・・・ところで貴女達は他にも仲間がいるんですか?」

  オハナ一号 「現在稼働している対話用の有機体は今の5名だけです、お望みとあれば幾らでも生産は可能です・・・」

  リリルカ 「何だか可哀想な娘達ですね、この三号をダイン様がどう幸せにするのか見ものですね」

  リリルカの言葉にオハナ四号だけが興味を持った様で、少し表情が和らいでいる。

  リリルカ 「四号さん少し想像してますね、でもリリルカも少し安心しました、全員が全く同じでないと解りましたから」

  オハナ四号 「私達は与えられた情報は同一ですが、元となった個体は全て別個体ですから、私は幸せという言葉に特に惹かれるモノが有る様です」

  リリルカ 「なら三号の次は貴女をダイン様に推薦しますね、変わった娘の方がダイン様も好きですから」

  オハナ四号の表情は解りにくいが、少し喜んでいる様な気もする、リリルカとしてもダイン芸術として生まれ変わった三号を前に、他のオハナ達がどう反応するのか興味が湧いて来る。

  そして、リリルカの尻尾は完全にオハナ三号を呑み込んで、飛び立つ準備が完了した、後は一刻も早くダインの元に戻って、オハナ三号の魔進化によって共有される情報を楽しみたい。

  リリルカ 「では、リリルカはこのまま王都に向かいます、後の事はオハナ三号が示してくれますよね?」

  オハナ一号 「はい。私達は同じ知識を与えられてますので、087-003に何か有った時は代わりを求めて下さい」

  リリルカ 「ダイン様が魔進化で失敗など考えられませんけど、きっと貴女達が羨む三号を創り出してくれますよ、それではリリルカは失礼します」

  人一人を呑み込んでも、リリルカは軽く宙に浮き上がる、飛行能力の高い蝙蝠型遊魔は人一人分の重量が増えたところで飛行能力が低下する事など無さそうだ、ダインの考えた飛行特化という遊魔は単に飛行速度が速いだけで無く、航続距離と搭載重量も大きく向上させているのだ。

  そして、来た時よりも速いと思われる速度で遺跡内部を飛行するリリルカは自分が通った遺跡内部の構造をちゃんと把握しており、驚くべき速度で入った出入り口から外へと飛び出した。

  リリルカ思考 『何だか普通に飛ぶより飛び易いです、速ければ速い程身体が浮いてくれます』

  このリリルカの感想もダインがちゃんと計算して生じた結果だ、オハナ三号を呑み込んだ尻尾は跳ね上がって背中に密着して、揚力を生じ易い構造を生み出していたのだ。

  そしてダインの求める情報の塊ともいえる、オハナ三号を手に入れたリリルカはダインの元に戻る事をもっとも優先すべき事と認識している。

  その使命感は外で様子を伺っていたレ・ミュウへ短い念話だけを送って、王都ディグランへと向かってしまう程であった。

  おまけ

  現時点での遊魔戦力と戦法 本格的にディーラル王国の乗っ取りを開始したダインの現有戦力は遊魔七名しか居ないが、この内四名は耳長遊魔で魔龍化が可能である。

  だが、レ・ミュウ以外は魔龍化を行った事が無く、その能力は未知数でもあるがダインが生み出した人類大陸での魔龍はレ・ミュウに比べて能力的に劣っていた事から、魔龍レ・ミュウより能力的に劣っていると考えられる。

  また、ダインの遊び心から、魔龍化に向いていない天使型という遊魔形態を与えられている事から、レ・ミュウ以外は魔龍戦力として考えられていないとも思われる。

  巨人魔導具(マギガント相当)に至っては、稼働状態の物は三天人が保有する飛べないクフィカールが一機のみと殆ど戦力にならない状態だが、別段ダインに焦りは見られない。

  ダインのディーラル王国乗っ取り計画の基本は予言を利用した、自身の王位の正当性の主張と、遊魔能力を利用した王国内部での協力者の確保が基本となっている。

  一見すると実行力の乏しい計画に思えるが、メファティとリリルカの思考から解析したディーラルにおける三天人の影響力を考慮すれば可能という結論を導き出している。

  ディーラルという国家は百五十年前の地の王の侵攻時に、耳長の援軍が無ければ滅亡していた事に疑いがなく、それ故に今の王族権力は三天人から保証されて成り立っているという認識を国民が持っている。

  予言通りに三天人全てを娶った者がディーラル王位に相応しいというのは、ある種ディーラル国民の救世主願望の様な物で、実現させた人物が現れれば好意を持って国民に受け入れられるとダインは確信している。