006-012
隠れ家待機組との合流を目指すダインは、先ほどの移動よりも倍ぐらいの速度で坑道内を下に降りていた。
ダインの遊魔能力の運用技術は他の追随を許さず圧倒的なモノで、暗闇の中でも全てを見通している、むしろ空間が限定している坑道内の方が得られる情報量自体が少なくなる為に、より遊魔能力が活用しやすいのだ。
ダイン思考 『想定より順調に降りてますね、ラフォリアからの情報では魔龍は睡眠中の様なのでより万全で挑めるでしょう』
上機嫌のダインがそれから暫く下に降りると、上部三人との意識の繋がりが失われる、ダインとしては他の遊魔の存在を認識しない状態は久しぶりであったがそんな時間も長くは続かない、直ぐに下部で待つ三人との間に繋がりが生まれて状況の報告を受ける。
ダイン思考 『大きな魔力を感じた後に天井が崩落した訳ですか、上は念入りに溶かして強度を高めた筈なのに、一撃で粉砕するとは魔龍の能力は想定以上の様ですね』
ダインはラフォリアからの視覚情報で魔龍が一撃で隠れ家の天井を吹き飛ばした事を確認した、そしてその方法はダインにも解らない系統の魔術の様なのだ。
ダイン思考 『魔龍は一系統だけの攻撃では無いという事でしょうか、ですが単純に身体を使っての物理攻撃の可能性も有りますね、火炎の対策は有りますがそれ以外は厄介ですね』
移動中にもダインは思考を巡らせる、与えられた情報から推論してより有利な状況を作り出すのがダインの戦いの基本ともいえる、その為には使える手駒をより多く得る事が重要となるのだ。
そして、ダインの求める者達がその接近を感じて近付いて来るのを感じる、遊魔はダインの近くに居るのが一番安心できるのだ、ましてや待機組の三名は魔龍の襲撃を受けており不安を感じているのは間違い無いのだ。
ダイン思考 『これはもどかしいですね、三人とは坑道を隔ててしまってます、魔力も十分に感じれるのに会う事が出来ないとは・・・え、トルポが何とかしてみるんですか、余り魔力を使うと危険ですよ』
ダインの心配は無用だった、三人がいる側の外壁からしばらく音がすると壁にすっぽりと穴が開いて通じてしまったのだ。
トルポ 「遊魔の身体ならこれぐらい余裕だったよ、岩の脈さえ読めれば穴ぐらい直ぐに開くよ」
開いた穴を通り抜けてトルポが姿を現す、岩の脈など初めて聞く言葉だが、岩喰いが島中に坑道を掘れたのもその岩の脈を上手く利用出来たからだろう。
リノール 「岩喰いも結構役に立つ、でもこれからは魔龍になれるリノール達の出番」
トルポを突き出す様にしてリノールも姿を現す、魔龍の存在を前にしてやる気は十分な様だ。
シノール 「リノールは早く出て下さい、シノールが出られませんよ」
リノールがその言葉に従って穴から出ると、直ぐにシノールもダインと合流する、三人共怪我などは無い様で、ダインも一先ず安堵する。
トルポ 「あれいきなりだったよ、轟音と同時に上の天井が無くなったんだよ、何かに力で地表ごと抉り取ったみたい」
ダイン 「それも岩の脈というやつですか?」
トルポ 「いや、多分力ずくだね、爪が凄く鋭いんだよ」
リノール 「リノールにはあんな事無理、負けたみたいで悔しいから何とかしたい」
シノール 「力で勝つのは難しいですよ、大きさと力って直結しますから、あれ、私達の倍は有りますよ」
ダイン 「大きさが倍なら体重は八倍ですからね、重いだけで道を破壊するんですよ」
トルポ 「重さと破壊力は同じって事だよね、あと早さが加わるんだよね」
ダイン 「岩喰いは重要なところを理解してるんですね」
トルポ 「槌はだらけて振り下ろすよりも早く振れって言うから・・・確かに早い方が威力有るんだよ」
シノール 「耳長の剣技でも速さが求められてますよ」
ダイン 「実践してる者の感覚という事ですね、実際の重さを増すよりも速さを上げる方が威力は上がりますからね、そして戻る事無く打ち出すだけの銃弾がもっとも効率的だと思います、まぁ熱線攻撃とかも魔術を駆使すれば不可能では有りませんけど」
リノール 「ダイン様の世界の武器は進んでるから、リノールには難しい」
ダイン 「魔龍になって火を噴くのと大して違いは無い様な、いや、あれは広範囲攻撃ですかね」
トルポ 「それよりもあの魔龍どうするの、折角の隠れ家が取られちゃったよ」
ダイン 「対抗策は既に上の者達には伝えてます、魔龍は下に私の尻尾がある事を知らないでしょうからね、つまり自ら罠に落ちたわけですよ」
リノール 「あれ、耳長を解ってるみたい、リノールとシノールを見てた」
シノール 「はい、私も意志を感じましたね、でも私達に何かあるとダイン様に申し訳有りませんので逃げちゃいました、ダイン様の指示が有るなら戦います」
ダイン 「魔龍の能力が私の想定を上回った場合は二人に頼みます、先ずは触手で絡め取って水攻めにします、そのままDコアを埋め込んでしまえば魔力を失って元の耳長の姿に戻る筈です」
トルポ 「流石はダイン様、あんな化け物を手懐けるつもりなんだ・・・」
遊魔というモノをよく知らないトルポは呆れ顔だが、純粋魔力を発している以上魔龍が処女なのは間違い無い、そして耳長には美形しか存在しない為に、今の姿が魔龍であっても十分に遊魔への資格を保有しているのだ。
そして、ダインの魔龍捕獲作戦は出来得る限りの準備を整えて実行に移ろうとしていた。
魔龍レ・ミュウはブヨブヨした寝床の寝心地に安堵していた、原因はよく解っていないが魔龍の魔力を感じてこの島に来て以来、少し魔力を使い過ぎて疲れていたのだ。
そして魔龍の魔力を感じたここは魔龍の棲家に間違い無く、ここで寝ていれば必ず向こうから接触して来る筈だ。
レ・ミュウ思考 『まだ近くに二つ魔力を感じるのに姿が見えない、魔力は大きいのに小さな龍なの、それに龍じゃ無いけど怪しい魔力も感じる』
レ・ミュウは魔龍の中でも魔力探知に優れた個体だ、その能力を上手く駆使して他の強大な力を持つ個体から逃げ回ってきたが、今回察知した個体達は魔力も小さく上手く扱えば仲間になってくれるかも知れないのだ。
そう、レ・ミュウは個体戦闘力で優劣が決まる魔龍の社会に組織を作って挑もうと画策しているのだ、その為には自分より弱い魔龍達を傘下に収める必要があり、この島で探知された程度の魔龍ならばレ・ミュウにも十分勝算がある、その為に力を誇示したのだ。
微睡みに溺れるレ・ミュウに突然予期せね事態が襲い掛かる、床の弾力が失われて身体が沈み込むと、同時に競り上がった無数の触手達がレ・ミュウを包み込もうと上に延びる。
レ・ミュウは大きな翼に力を込めて立ち上がろうとするが、絡み付き始めた触手達がレ・ミュウを抑え込んで来る。
レ・ミュウ思考 『罠ですか、でもこんなモノ引きちぎってしまえば』
レ・ミュウは腕と翼を振り回して絡み付く触手を払い退ける、見た目以上に強靭な強度を誇っている様だが、魔龍の力を持ってすれば払えない事は無い。
その時、上部から強烈な過重を感じる、縦穴の上部に現れた三名の魔族が障壁を展開してレ・ミュウを抑え込もうとしているのだ。
レ・ミュウ思考 『この島では魔龍と魔族が連んでいるんですか、話の解る魔族が居るとは朗報ですね』
新たな敵の出現にもレ・ミュウは冷静に対処する、例え頭上を抑えられたとしても魔族三人程度の妨害に屈するレ・ミュウでは無い、そう、頭上は無視して拘束を打破するのが先決である。
暴れ回るレ・ミュウによって触手達は引き千切られているのだが、その再生能力は尋常では無く、切っても直ぐに結合して立ち向かって来る。
レ・ミュウは破壊の無意味を察して別の方法に移行する、体内で練り込んだ魔力を喉奥の生体魔術式で熱に変換して熱ブレスを吐き出す、例え触手が魔法生物であろうとも熱ブレスに焼かれてしまえば消し炭になって無力化出来る筈だ、そして、その思惑は当たっていた様で、熱ブレスで炭化した触手達は最早動く事は無い。
ダイン思考 『この狭い空間で熱攻撃を行うとは予想外です、自身の身体の熱耐性に自信が有るという事ですか、ならば次の手を使いましょう』
ダインは触手の攻撃を緩めずに縦穴内に海水を送り込んで行く、触手達は焼かれて消炭になってしまったが、水中では熱ブレスの使用に制限があると考えたからだ、実際、熱ブレスを水中で使えば発生した水蒸気で焼かれてしまうか、空間が膨張して縦穴が崩落する可能性も生じるだろう。
だが、このダインの策略は裏目に出てしまう、魔龍よりも下に位置していたダイン達も当然汲み上げた海水によって水没していた、そこに魔龍の放った咆哮が伝わり、ダインを失神させてしまったのだ。
レ・ミュウ思考 『手応えが有りました穢れ魔力の個体の動きが無くなると触手の動きが止まりました、触手達からも若干の穢れ魔力を感じていましたから、穢れ魔力が攻撃を指揮してますね、ならば食べちゃいましょう』
レ・ミュウはその優れた探知能力で最も活発に発せられている魔力を見極めて、触手を操っている存在がこの攻撃の中心だと予測したのだ、そして次に取るべき行動は指揮者の無力化だ。
レ・ミュウは長い舌を肉床に突き立てると、注射器の針の様に内部へと推し進めて行く。
リレッタ 「魔龍の動きが変ですね、巨大な水飛沫の後動きが止まっています、ダイン様の触手も動きを止めてしまいました」
ダインが失念していた事をリレッタが理解出来るわけが無かった、ダインは水中で生じた音の伝わりで無力化してしまい、護衛役のリノールとシノールも同様だった、元々耐性の有るレ・ミュウが活動していた事がよりリレッタの判断を狂わせてしまい、ダインの言い付け通りに障壁の展開を続ける。
レ・ミュウ思考 『上の三人の魔族は状況が読めていませんね、今が好機です』
上の動きが無かったのはレ・ミュウにとって幸いだった、ダインと上の三人は直接複雑な思念を送り込むには離れ過ぎていてダインの失神を察知出来ていない。
妨害の無い状況でレ・ミュウの舌は、魔族四名が失神している空間に辿り着き、その中で指揮を取っていたと思われる穢れ魔力を発する個体を感じると舌で巻き取って口に巻き戻す。
レ・ミュウ思考 『男の魔族は美味しく無いですが、今の頭を潰せばレ・ミュウのモノになってくれますよね』
混沌大陸で生活するレ・ミュウにとって強さとは最大の魅力なのだ、即ち一番強い頭を叩けばその部下は当然レ・ミュウのモノになるという単純な思考である。
そして、戻されたレ・ミュウの舌に巻かれたダインを見てしまったリレッタ達三人は即座に状況を判断して障壁の展開を中止するとダインの救出に移行する、だが、この隙を見逃すレ・ミュウでは無い。
レ・ミュウ思考 『今は一旦離脱して策を練りましょう、幸い連中の頭も抑えましたから安全なところで情報を聞き出しましょう』
レ・ミュウは不利な縦穴での戦いに見切りを付けて飛び上がると、ダインを舌で巻き取って口に含んだまま縦穴の外に飛び出すと、そのまま何処かへと飛び去ってしまう。
この場合、ダインの判断に頼り過ぎていた事が遊魔達に取って仇となった、三人は咄嗟の出来事に判断力を失ってみすみす魔龍を逃亡させてしまったのだ。
おまけ
遊魔の水中活動 遊魔は遊魔形態である状態なら難なく水中活動も可能である、翼や尻尾といった遊魔部位では高い能力を持つ皮膚呼吸が可能であり、水中に居る状態でも窒息する事は無い。
レブナン島で食材調達を行ったリノールとシノールは難なく水中活動を行って獣魚を捕獲しており、水中での運動能力は人間などより遥かに高い、特に万能に変化する尻尾は水中で有効な部位で推進力の発生から、ワイヤーとしての使用、果てには釣り道具といった使い方まで様々な用途で使う事が可能だ。
ダインの作り出した遊魔はその出現時より人間社会に紛れ込む事を重要視しており、何かあった時の隠れ場所として水中を考慮している、その結果が高い水中適応能力なのだ。
また、遊魔部位の皮膚呼吸能力は酸素の薄い高高度での活動でも有効的に機能し、飛行時などに有効に活用されている。