004-024
王都二日目のダインはほぼ丸一日ティアスと行動を共にしていた、午前のマギガント工房の視察に始まり、午後は関係者との技術関連での協議が行われた。
浮遊母艦の生産委託に関しては全会一致の賛同とはならなかったが、供与可能な技術移転の下見の為にテガス工房へ派遣される工員の選別になると、反対していた者までもが希望すると言った場面すら有った。
結局のところ王都工房とテガス工房では生産技術に差があり過ぎて、テガスで当たり前に行われている事でも、実施出来るだけの裏付けを欠いてしまっているのが問題だ。
ツィーカ 「ダイン王の持つ技術が王都工房より進んでいる事は理解出来ますが、本当に私達に出来るのでしょうか」
ティアス派でダインのやる事に好意的なツィーカでも、巨大な浮遊母艦の製造には不安を持っている様だ。
ダイン 「その為に王都工房の工員をテガスで訓練します、二番艦の建造で慣れて貰いますしテガスの設備も送りますので、王都でも生産は可能でしょう」
ジゾフ 「王都工房が無理なら儂の工房でやらせて貰おうかの、工員の腕はこっちが上じゃろうて」
ティアス 「それは無理な話ですよ、ユーマとククジアの関係を他国に解らせるのも目的ですし、それにクガトはゾッフォで忙しいですよね」
ダインが送り出したエポポ・ゾッフォのお陰でゾッフォの受注は大きく増えていた、現行機の改良機の方が運用側の不安が少ないからであろう、そして何よりゾッフォの方がお手頃だ。
ダイン 「テガスではクラフト・ゾッフォと言うマギガントも使っているんですよ、それを王都でも導入すれば部品の大きさなどは問題無い筈です」
ツィーカ 「話は聞いていますけどね、ですが王都に回せる程数があるんですか」
ダイン 「エポポに改修するゾッフォが日々送られていますからね、クラフトはジノへ改修し無くても改修出来ますから」
ジゾフ 「いっそのこと、ジノへの改修もテガスで行った方が早いでしょうな」
ダイン 「テガスでは人手が足りてませんから、クガト持ちで工房の制作と人員を確保してくれるなら大歓迎ですが」
ジゾフ 「儂はそれでも構わんが、難しいのぉ」
ティアス 「そこで浮遊母艦の増産なんですよ、浮遊母艦なら大陸の端でも二日あればマギガント三機運べますから」
ジゾフ 「正に世の中を一変させる発明ですな」
ダイン 「私だけの発想じゃ有りませんからねそういう発想を表現した先人がいたんですよ、アーグルの運河も良く出来ていますが、時間が掛かるのが難点ですね」
ツィーカ 「問題はそこなんですよ、ダイン王の帰還の際に何人か同行させて貰えますよね、船だと一ヶ月は掛かってしまいます」
ダイン 「先ずは五人ぐらいに同行して貰いましょう、人選は任せます」
上級工員 「それは有難い、移動に一ヶ月も掛けると勘が鈍ってしまうので」
ジゾフ 「儂も行っていいじゃろ、あのスカイベアーに乗りたいのじゃ」
ツィーカ 「ジゾフ翁は久しく槌など振るっていませんよね、腕の立つ者を送って早く技術を獲得しないと」
ダイン 「第一条件はゾッフォを扱える事ですね、クラフト・ゾッフォを扱える様になればテガスで行う事の大半は出来る様になりますから」
ツィーカ 「その条件は少し厳しいな、私等は騎士じゃないからね」
ティアス 「アテが無いなら騎士を連れ帰って貰いますよ」
ジゾフ 「まぁ五人ぐらいはクガルでも何とかなるじゃろうて、お主等に無理ならクガルから出させて貰うわ」
工房長 「そうは行きませんよ、これは王都工房の仕事ですから、クガルからは一人お願いします、残りは私の一存で選んでもいいでしょうか?」
ツィーカ 「三派閥から一人は出して貰わないとね、本来ならティアス派だけで済ませたいのに」
ティアス 「気持ちは解りますけど、これはククジアの威信を掛けた仕事です、何としても成功させる為に最善の人選でお願いします」
工房長 「なるべく期待に応えようと思います、ですが、私から一つダイン王にお願いが有ります、スカイベアーの見学を許可して下さい、それで工員達の不満も減らせるでしょうから」
ダイン 「そうですね、それぐらいなら問題有りません、ナナやマナを付けますので見学してみて下さい」
工房長 「ありがとうございます、選ばれた者だけが乗ると有っては角が立ってしまいますから」
工房長がこういうお願いをしたのは、若年層の工員を採用する意図が有るからである、工員とは元々騎士に成れない魔力の持ち主が殆どで、マギガントを扱える者も若い処女工員が多いのだ、それ程工員としての技術を持たない者をテガスに送り出す為には、他の者達の不満を和らげる事が必要で、その為のスカイベアー見学である。
会談が終わった後、工房長の要求は直ぐに実行される、工房では職場毎に班が作られて順にスカイベアーの見学が実施されて行くのだ。
工房での用事が終わったダインとティアスにまだ休息は訪れない、今度は国王主催の晩餐会への出席が待っているのだ。
半ばダインの控室となったティアスの私室では、プルルがダインが着る衣服の着付けを行っていた、晩餐会用の服など持ち合わせていなかったダインはティアスが用意していた服を着せられると会場に向かう。
ダイン 「今晩も宴ですか、料理は凝ってますがゆっくりと味わえないんですよね」
ティアス 「我慢して下さい、貴族から支持されるのも王族の務めなんですよ」
ダイン 「そう言えばユーマではまだ宴を開いていませんでしたね、まぁユーマの貴族の殆どは元ツェーリエ貴族なんですけど」
ティアス 「フェカトはテガス領の領主やってますけど、王族ですからね、ダイン様は無駄な特権が嫌いですから」
ダイン 「社会の公平の為に無駄な権力機構はなるべく排除したいですからね、まぁアーグル世界の貴族はかなりまともですけど」
ティアス 「悪事が判明すると流刑ですからね、流刑って死罪とほぼ同じですから、でも流刑の対象者って貴族階層が一番多いんですよ」
ダイン 「それだけ民衆の監視が強いという事ですか」
ティアス 「そうですね、王族は貴族の統率が主な責務なので民衆の監視の目は無いですから」
ダイン 「権力は有りますが、それに伴う面倒事も多いですからね、よくレボト・クガトは罰せられませんね」
ティアス 「レボトは民衆には優しいんですよ、正直ククジアでクガトが一番暮らしやすいですよ、立場上対等な貴族に対する圧力ならばある程度は容認されるんですよ」
ダイン 「確かにティアスも貴族に心広いですね、さぁ今日も後ひと踏ん張りですね、明日はテガスに帰りますよ」
ティアス 「そんなにティアスと居るのが嫌なんですか」
ダイン 「王都が嫌なんですよ、闇雲に面通しで会見するよりも、先ず実績を示して貰いたいです」
ティアス 「会わない事で変な誤解を抱かれちゃいますよ、ダイン様は解る娘に囲まれ過ぎなんですよ、本来の王族はこういう物ですから」
ダイン 「ティアスを押し上げる為にも今暫く我慢しましょうか」
余り乗る気でないダインも、ティアスが王位に就くまでは我慢する事にする、そして、ユーマにこの様な面倒な風習が残らない国になる様に模索するので有った。
ダインが連れて来た、テガスに生徒三人にとって二日目は実に充実した一日となった。
三人がユーマ騎士団の騎士候補である事を知ったティアスは、急遽三人に王都騎士団への一日入団を許可したのだ。
王都騎士団の宿舎に部屋を与えられた三人は、朝から団員達と行動を共にする事になる、見た目の華々しさとは違い地味な走り込みから一日は始まり、実際の騎士が想像よりも修練を積んでいる事をその身で感じていた。
走り込みを終えてから朝食の時間を迎えた三人は同じテーブルに集まって、量は多いが見た目が地味な食事を前にしていた。
イーヴィエ 「凄い量ですよね、これが朝食ですか」
指導騎士 「いつでも動けるのが騎士の役目ですからね、実際にマギガントに乗るよりも要人の警護に大きく時間を割いてます」
ムジカ 「それで朝から走り込みなんですか」
スルーム 「アレは驚きました、空腹なのにあんなに走るなんて」
指導騎士 「万全な状況じゃない時に訓練した方が効果あるんですよ、まだ皆さんは慣れていないでしょうが、早起きして実践する事をお勧めしますよ」
イーヴィエ 「王都騎士団の騎士には当たり前の事なんですね」
指導騎士 「緊急時にこちらの体調なんて関係有りませんから、もっとも、実際に役立った事は有りませんけどね、初代国王の日課を実践しているだけです」
ムジカ 「人類法の無い、荒れた時代の風習ですか」
指導騎士 「ですが、護衛が遅れを取るわけには行きませんから、それに休める時には休んでいいですからね」
スルーム 「そう言えば騎士達は直ぐに退席してますね」
指導騎士 「見習いの皆さんは朝食を残さず食べて貰ってから剣技の訓練です、万全では無い方が鍛えられますので」
イーヴィエ 「これ、全て食べなきゃ行けないんですか、正規の騎士より量有りますけど」
指導騎士 「訓練期間は多めになってます、でも、食べてこそ一人前ですから」
ムジカ 「でも、太った人が居ないって事は・・・」
指導騎士 「新入団騎士と同じメニューをこなして貰います、新人は警護任務が無いので訓練ばっかりです、でもそれを乗り越え無ければ王都騎士団は務まりませんよ」
無駄をしないアーグル人は入団希望者だからといって手加減する事は無い、初めから厳しい現実を見せつけて容赦無く選別して行くのだ。
精強さで知られる王都騎士団ではあるが、その精強さが絶え間ない訓練の成果だという事を強調する事で犯罪抑止力を高めて王都を護っているのである。
ダインの居ない夜を真夏と過ごした七実は充分に満足して朝を迎えた、当初面倒を見る予定だった三人の学院生はティアスの図らいで王都騎士団へと体験入団していた。
真夏は生真面目な性格から、スカイベアーの警護をする様だが、人間の魔力では動かせないスカイベアーが奪われる事は無いだろう、だが、いざという時に近くには居た方が良さそうなので、王都工房の見学をティアスに打診すると案内役を派遣してくれるらしい。
そうして現れた人物の表情を見た時に、七実はティアスに計られたと感じてしまった、現れた女騎士は見るからに真面目そうな雰囲気で近寄るだけで息が詰まりそうだ。
女騎士 「ティアス様より七実殿の案内を仰せつかったラファメです、お気になる事がありましたら何なりと申し付けて下さい」
何処かで聞いた名前だと七実が記憶を探って行くと、確かダインが初めてエポポ・ゾッフォを使わせた騎士だと思いだす。
七実 「貴女がエポポを使った騎士ですね、貴女が頑張ってくれたお陰でダイン様も王位を与えられましたよ」
ラファメ 「ダイン王からの利益をククジアが独占しては、他国が黙っていませんから、私の様な者があれだけ活躍が出来た事を考えれば当然かと」
七実 「確かに他国から使節団派遣の申し出が毎日の様に届いてます、ダイン様は自分達で寝泊まり出来る船で来るなら受け入れると回答してますけど」
ラファメ 「そういう公正なところはダイン様らしいです、エディケスの騎士にも温情を見せてましたから」
七実 「それって綺麗な女騎士ですよね、男だったらそうならないでしょうから」
ラファメ 「そうなのですか、ダイン王には誰にでも寛大だと思われますけど、邪険に扱った私にも温情を与えて下さりました」
七実 「まぁそうでしょうね、ダイン様の好きそうなタイプですから」
ラファメ 「私がですか?」
七実 「変に個性的な方が好まれるんですよ、まぁこの話はここまでにして案内を頼みますね、王都工房は広いので時間掛かりそうですし」
七実はラファメの顔が綻びるのを見て話題を変える事にする、日本人の感覚からすれば信じられない事だが、アーグル人にとってダインは物凄く魅力的に映る様で、生真面目な女騎士でもこのざまだ。
もっとも遊魔を増やすという意味では好都合では有るが、同時に絶対的に受け入れられない人間もはっきりとしているので、そこから来る反感も注意しないといけないだろう。
だが、この七実の懸念はアーグルでは無用の気遣いだとも言える、純潔魔力の有用性は広く認知されており、アーグル世界の男性ではダインの様な処女厨は珍しくなく、女性も純潔をちゃんと意識して武器としているのだ。
おまけ
ユーマ騎士団設立計画 人類圏国家はその大小を問わず騎士団を保有している、これは統一法制下の戦争として協定戦が一般的な為に生じた、戦力整備の最適解とも言える方法であった為だ。
各国は自国の有する騎士団の装備と人材を過剰に喧伝する事で、協定戦に対する抑止力を維持しているのだ。
だが、このやり方はあくまで運河流通が発達して、マギガント侵攻が可能な都会ならではの事でも有り、ツェーリアの様なマギガント侵攻が不可能とされている国家ではその限りではない。
ユーマ独立前のテガスでは、ポロルグ領が有する黒豹騎士団の分隊と魔動力学院のポーカがテガス都市防衛戦力として配されていたのだが、ユーマ独立によって黒豹騎士団は引き上げている。
現在のテガス防衛にはポーカ、リエル、アーキアとダイン配下二名が防衛戦力として記されているが、リエルとアーキアはテガスを離れている事も多いので、ユーマ独自の騎士団を設立する流れになってはいるのだが、担う人員が不足している。
そこでダインは自身と相性の良い学院生を魔進化させて、ユーマ騎士団の騎士とする事を考えている。
今回、スカイベアーによる王都ククージア訪問という餌を使って適任者の選別を行い、教育一環として、ククジア王宮騎士団へ仮入団を実行し、近い将来への布石としている。