地固め編 第十五話 ユーマによるツェーリア改革

  004-015

  ユーマ共栄国へのツェーリア王国の併合は瞬く間に王都ゼアムに拡まって、落胆ムードは一気に解消されていた。

  ジゾンは自身の権限でユーマに国土を売り渡す決断をしたのだ、これを聞き及んだ先王ジアガムなどは激怒して撤回しろと喚き散らしたが、彼に付き従っていた貴族達ですら誰も従わず、逆にジアガムの元を去ってジゾンの元へと馳せ参じていた。

  だが、当のジゾンは既にダイン達との会談が始まっており、貴族達は不安を感じながら待つしか無かった。

  ダイン 「では、本当にピューラの婚約以外の要求は無いんですか、少々無謀でも言ってみた方がお得だと思いますよ」

  ゼアム闘技場の貴賓室でユーマ一党とジゾンとその腹心の会談が行われていた。

  ジゾン 「自らの才で掴んだ地位でないと人間実力を発揮出来ませんから、私は王という地位を手に入れましたが、正直言って荷が重いと思っています、ピューラの事は矛盾しているかも知れませんが、父親として娘の幸福を考えた上に出した結論です」

  フェカト 「ダイン様に嫁げば王家の血筋も安泰だと考えたのですね」

  ジゾン 「正直それも有りますが、ツェリ殿を見てダイン様に預けるのが娘には最良の道だと確信しました、幼さ故の無謀かも知れませんがピューラは騎士に憧れているんですよ」

  フェカト 「なるほど、娘の夢を叶えて上げるのなら、ダイン様の元が一番確実ですね、でもダインって見た目の好みがうるさいですよ」

  ジゾン 「ピューラは妻の若い頃によく似ていて、ツェーリア王宮の冬蕾とも言われております、必ずや美しく育ってくれるでしょう」

  ダイン 「まだ花が咲く前というわけですか、ですがその様な幼子を母親から引き離す事には気が引けるのですが」

  ジゾン 「正直申しましてピューラは人質としても考えております、愛娘を預ける事でツェーリア王家の忠誠を示す訳です、ダイン様はその様な事をしなくても解ってくれるでしょうが、ツェーリアの民の目を考えるとそれでもまだ不足かと思っております」

  七実 「まぁダイン様はジゾン殿の人柄を見抜いて、一戦で決する勝負を受けてますから、勝った上で王位を放棄したジゾンが殿が民から後ろ指さされる事は無いと思いますが」

  ジゾン 「いえ、ツェーリア王家の間違いは明らかです、現にポロルグの民は豊かな暮らしをしておりますし」

  フェカト 「考え過ぎだと思いますけど、今は恨みが勝っても、数年経てば考えなくなってると思いますけどね、要は民を満足させる事が重要でユーマになる以上はきっと豊かな国にしてみせます、今回の性急な進攻だってダイン様がツェーリアの民を思っての事ですし、今なら種蒔きに間に合いますよね」

  ジゾン 「それが理由とはダイン様は真に民を思われてますね」

  ダイン 「それは買い被り過ぎですね、ツェーリア国土を欲しているのは、マギガントに使用する油を必要としているからです、ツェーリア国土で油分の多い食物を生産出来ればユーマの大きな力となるんですよ、ですがそれでツェーリアの民が潤うのは間違いありませんから、テガスで使用している魔導オーブンを使えば美味しい料理と油の採取が両立出来るんですよ」

  ジゾンはダインの言葉の意味が解らずに慌てているが、見兼ねたフェカトが声を掛ける。

  フェカト 「解らなくても気に病む事は有りませんよ、ダイン様は何時もこんな感じですから、ですが、その正しさはテガスを見て貰えば理解して貰えますよね」

  ジゾン 「伝え聞く話は驚く事ばかりです、今日も空飛ぶ船を見てツェーリアではどうにもならぬと察しました、そこで一計を案じさせて貰いました、先王の時代が終わった事でツェーリアもようやく変わる事が出来ます」

  ダイン 「私もこの結果には満足です、そしてまさかツェリを倒してしまうとは、そこまでは予想外だったので冷りとしましたよ」

  ジゾン 「私にもまさかの勝利でした、ツェリ殿はお強かったですが、剣筋が正直過ぎましたので、もしやと思いまして、ですがこの短期間で扱いの難しいと言われるポナリア・ジーカを使いこなしてしまうとは」

  ツェリ 「ユーマの教育の賜物です、私自身はユーマ式しか受けた事が有りませんが、とても簡単にマギガントを乗りこなせる様になりました、ですが、実戦の勘という物は戦ってみないと身に付かない物ですね」

  ダイン 「アレは私でも負けていましたよ、フェカトも知らない隠し技を使われてしまいましたから」

  ジゾン 「私も実戦で使ったのは初めてです、技術を嫌うツェーリアで異端の私はツィグルの整備なども自分で行っていましたので、天才ジオルカも再びポロルグとツェーリアを結び付ける為にあの様な仕掛けを残したのかも知れません」

  フェカト 「両国のバランスを考えていたのは間違い無さそうです、ポロルグに有ったポグレンも全てツェーリアの管轄となりましたからね、ツィグルのあの隠し技はポロルグの工員達も知る者などいないと思います」

  ダイン 「なら、ツェリは気に病む事は有りませんよ、十分に仕事は果たしてくれてますし」

  ジゾン 「全くその通りです、ツェリ殿の活動のお陰でツェーリア王国は長くは無かったですから、その中で如何に王家の勤めを果たすのかが常に私にのし掛かっておりました、ですが、ダイン王が私の意図を汲み取って頂き、上手く幕引きをする事が出来たと思います」

  ダイン 「ですが、これで終わったとは思わないで下さいね、私はジゾン殿の事を高く評価していますし、優れた人材は幾らでも欲してますから、他の皆さんもその才を示して頂ければユーマは心良く受け入れます」

  ジゾン 「有り難いお言葉です、この者達は私によく尽くしてくれる者で、もしユーマでの仕官が叶わなければ私が面倒を見るつもりでした、そしてこの者達ならば私以上にユーマの為に働ける筈だと確信しております」

  ダイン 「ツェーリアの事はツェーリア人に聞くのが一番ですからね、私には苦手な事なのでフェカトの下に付いて助けて上げて下さい」

  ジゾン 「有り難い申し出ですが、その様に簡単にお決めになってよろしいのですか」

  ダイン 「フェカトなら私以上に仕事をこなしてくれますから、ですが私以上に厳しくも有るので覚悟して下さいね」

  ジゾン 「皆ツェーリアを支えていてくれた者達ですので十分な手腕はある筈です」

  フェカト 「ユーマは人手不足ですからね、仕官の希望は多いんですけど、手が回って無いんですよ、ですからツェーリアは暫く現体制を維持して欲しいですね」

  その後、ダインは自らスカイベアーを操ってテガスに帰還する事にする、まだ試験飛行段階のスカイベアーは工房に戻して不具合が無いか点検をする必要が有るのだ。

  ゼアムにはフェカト、ニア、真夏、ツェリの四名を残し、エポポ三機とポナリアも同様に残す事にする、ツェリは変革派の人々を集めて詳細な結果報告を行い、代表を選出して国家統合の協議に参加させるつもりでもある。

  ゼアムを後にしたスカイベアーは順調に航行してテガスに辿り着くと、ダイン、七実、ポーカの三人は直ぐに船体のチェックを始め、気を効かした愛耶が夕食を差し入れる。

  一通りのチェックを終えたスカイベアーには大きな欠点は見つからなかったが、細かな修正点は幾つか発覚して、出来る事から直ぐに修正を開始する事となった。

  一方、ゼアムに残った面々は王宮の貴賓室を与えられて夜遅くまで協議を続けていた、基本的には王位の交代を行い、徐々にユーマの方式を広めて行くという形になったが、変革派の人々は中々その案に了承してくれなかった。

  中には先王の罪を糾弾する場の開催を要求する者達も現れて、改革派の代表を加えた事にフェカトは不満の表情を浮かべていたが、交渉の経緯をちゃんと民衆の知らせるべきというダインの言伝が有った為に我慢していた。

  結果、改革派には不満も有った交渉内容だったが、ユーマ王ダインがツェーリア王以外の罪は問わないという命を出していた為に引き下がるしか無かった、ツェーリアの政変が一気に進む要因にユーマの力が有った事は明白であり、改革派もその意向を無視する事は出来ず、ましてや自分達の新しい統治者でもあるのだ。

  一通りの方向性が示された段階で一旦協議は終了し、休息を取った上でまた明日に再会される事が決まった、再会は明日の夕刻からでそれまでは各々の状況の整理の時間に当てられる。

  ユーマ一行は与えられた一室で休息を取るが、会議に不参加で眠り込んでいたニアは起き出して皆の安全を衛役目を担う。

  翌日、そして次の日と協議は続き大筋は大体決まっていった、なるべく現状を維持しつつ徐々に変革を加えて行くという事だが、実情はテガスで行っている事と大差は無かった、その為、旧ツェーリア王国領の民衆達はほぼ変わらない暮らしが続いていたが、権力層では大きな変革が始まりつつ有った。

  ツェーリアで世襲制が続く大きな要因は、公的教育機関が存在せずに個々の家族で教育が行われている事に有る、つまり親は自分の仕事のやり方を子供に伝授して行くのだ。

  この為、貴族は産まれながらに貴族の教育を受けて貴族となり、平民はほぼ親の仕事を継いでいく。

  ポロルグでは、魔力による適職の選別などが行われているが、文化的に遅れているツェーリアの主要産業は農業で、魔導具も殆ど普及しておらず、民衆は己の魔力の存在など殆ど関係無く暮らしているのだ。

  そこでユーマは、貴族達の魔力測定から変革を始めて行く事にする、魔力によって貴族達を振り分けて、高い魔力を持つ者はテガスで魔導の教育を行うのだ。

  その一方で魔力の低い者達は、教育を受けた高い識字能力を利用して管理業務を行う為の教育を施す事にする、基本的な読み書きが出来なければ算術を教え込んでも無駄だという判断からだ。

  フェカトはツェーリア貴族達の選別を行って、教育の指導者なども見つけ出して、直ぐに行動の準備を始めて行く、幸いツェーリア貴族は王都ゼアムに屋敷を構えているので、ゼアムに教育機関を開設すれば講習を受けさせる事自体の難易度は低い。

  そして、一定の成果を上げられない者達には、単純な肉体労働を担ってもらう事にする、遅れたツェーリアに流通網を整備する為には流通インフラを整える必要があり、もっとも重要なテガスとゼアムの運河の開設の為には幾らでも人手が必要なのだ。

  支配層だった貴族が選別されて肉体労働を行う姿は民衆達に大いに評価されていた、貴族は常に特権で守られていた存在だったからだ。

  こうして、上から強制的に変革させるユーマのやり方は民衆の支持という後押しを受けて順調に遂行されて行った、元々ツェーリア貴族は居ても居なくても国家運営に変わらない寄生虫の様な物で有ったので、全ての貴族の選別が終わった頃には目に見えてツェーリアの社会は公正な物となり、個人の才覚で高い地位を得られる時代の到来を感じさせられる物となっていた。

  次のユーマの変革は教育に関する物だった、食堂スタイルが定着しているアーグル社会では、それを利用する事で容易に教育機関の開設が可能で、教師さえちゃんと用意すれば直ぐにでも始められる事業でも有った。

  貴族達の中から教師の適性を持つ者を選別して、それらの人物を教師とする事で初めの平民教育機関が開設される、読み書きから始まったその施設は今のところ強制では無く個人の意思に参加を任せているが、元が食堂なだけに気軽に訪れる者も多く瞬く間に人気の施設となった。

  適性を認められずに肉体労働を強いられている貴族達にも門戸は開かれており、這い上がる為に熱心に勉強する彼等の姿を見る事は、読み書きを学びたい民衆の励みにもなっている。

  社会上層部から始まったユーマ改革は徐々にその成果を表しつつ有った、社会寄生勢力が一層されれば当然の事では有るが、ツェーリアの変貌は明らかにそれ以上の効果を示しつつ有った。

  おまけ

  ユーマのツェーリア政策 ダインはツェーリアの工業化を進めるつもりは無く、農業生産力の強化を重点的に進めるつもりだ。

  実際、ツェーリア領域を除くユーマ共栄国の食料生産能力はかなり低く、交易によって食料を賄っているのが現状だ。

  だが、旧体制のツェーリア国土は農地に対しての生産量も低く、自給自足を維持するほどでとても人口が増えたテガスまでカバーする事は不可能である。

  そこでダインは併合以前より、生産量の多い農産物の種子や苗を用意しており直ぐにツェーリアでの栽培を可能としていたのだ。

  今のところダインはツェーリア旧体制を維持してはいるが、貴族達の能力選別は着実に行っている、そのやり方は実務を与えての選別でもあり、既に多くの貴族達が能力不相応と判断されて、能力に相応しい地位と仕事を与えられている。