野望編 第五十五話 王都脱出

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  ティアスの開いた祝勝会に参加した貴族は思いの外少なかった、ゾッフォの生産に関わる貴族でさえも、まさかゾッフォの方が勝つとは思っておらず、わざわざクガト領付近から王都へと足を運んだ者など殆ど居なかったのだ。

  そこでティアスは色々と手伝ってくれていた王宮工房の工員達を多く招いて、祝勝会の雰囲気は貴族の華やかな物とは大きく異なっていた。

  ダイン 「むしろこういう雑多な雰囲気の宴の方が私は好みですよ」

  貴族の宴などに慣れていない工員達の多いこの宴は、秋の収穫祭に近い物となっていた、思い思いの料理を皿に詰め込んで、グラスを使わず瓶のまま飲み物を煽る様子はまさに収穫祭だ。

  ティアス 「ティアスもこういう宴の方が好きですよ、作法にうるさい貴族の宴は料理も冷めてますし」

  プルルは来客の客層を考えて料理を出した様で、スープなどは大鍋そのままで会場に持ち込まれ、湯気を放ったまま来客に振舞われている。

  ティアス 「あ、あれは」

  ティアスは何かを見つけた様でダインの手を引いて目的地に向かう、そこは既に人だかりが出来ていたが、ティアスの来訪を知ると前に通す様に割れて行く。

  ダイン 「料理人が桶の何かを捌いてますね、む、あれがエポポですか」

  ティアス 「はい、生きたエポポの生き血は活力が沸くと言われていて、そのまま振る舞われる事も有るんですよ、ダイン様がエポポが見たいと言っていたのでプルルが用意してくれたんですよ」

  ダイン 「引き出した首を器具で固定し首を切断して血を集めてますね、私の国でもあの血を酒で割って飲んでいましたよ」

  ティアス 「酒ですか、飲酒は宴でやる物じゃ無いですね、酔って他人に迷惑を掛けると人類法で裁かれる事も有りますから」

  ダイン 「私は酒を嗜まないので問題ありませんが、私の居た国では不可能でしょうね」

  ティアス 「ダイン様がこの国のしきたりに馴染んでくれるなら幸いです、ダイン様に不自由はさせたく有りませんから」

  ダイン 「それにしても、あの生き血はどうするんですか?」

  ティアス 「好きな人はあのまま飲みますね、力仕事の多い工員の方達はお好きな人が多いと聞いています」

  ダイン 「私には無理そうですね、肉はどうするんですか」

  ティアス 「捌いてスープにしますよ、ぶつ切りの身を入れますけど、スープだけでも美味しいので飲んでみて下さい」

  ダイン 「解りました、しかし、エポポ・ゾッフォの勝利記念にエポポが振る舞われるとは」

  ティアス 「王都の宴では付き物ですから、まぁ裁くところを見せる王宮の宴はティアスも初めてですけど、収穫祭などではよくありますよ」

  その後、会場を一回りしたダイン達は演壇で紹介を受けてから、用意された席へと通される、リレッタはダインの対面となる、クガト側の位置に席を用意されていて、左右の貴族達と会話をしている。

  プルルは会場全体を取り仕切っている様で姿を見せないが、ラフェメやツィーカはティアスとダインに続く席へと配されている。

  ティアス 「本来ならティアスよりもダインさんやラフェメの方が功労者なんですけど」

  ティアスはラフェメの手前、ダインの様付けを止めて話している、ティアスとしてはむず痒い事なのだが、規律に厳しいラフェメには本当の事を知られるには行かないのだ。

  ツィーカ 「いえ、ティアス様の交渉で今日の協定戦が実現したわけですから、一番の功労者はティアス様です、協定戦が無ければ二人の活躍も無かったわけですから」

  ラフェメ 「はい、それにダインさんのエポポも凄かったです、あのゾッフォ無くして今日の勝利は有り得ないモノでした」

  ダイン 「私用に調整したゾッフォを任せるのは不安も有りましたが、ラフェメは立派に乗りこなしてくれました、ラフェメの実力は十分に誇ってもいいものですよ」

  ティアス 「それはもちろんです、リレッタに出番を与えなかった事でティアス派の功績は絶対的になりましたし」

  リレッタ 「本人の前でそんな事をおっしゃるのですか、ティアス様は意地が悪いですわ」

  ティアス 「だってクガトの方に余計な手間が増えたと言われましたし」

  ティアスはリレッタより上座に座る豪華な身なりの貴族にワザと聞こえる様に言った。

  豪華な貴族 「あの言葉は本当に申し訳ありませんでした、言い訳かも知れませんが領地で厄介ごとを抱えておりました、ですが、今日の勝利でそれも解決できティアス様には本当に感謝しております、譲渡するゾッフォはその意味も込めて我が家の機体をお送りいたします」

  この貴族はジゾフ・クガルという名前でクガトの分家でクガト側のマギガントに携わる全てを統括している立場だ、クガト側の出席者は少ないが、このジゾフは立場上欠席するわけには行かず渋々王都に登城していたが、今はそれを良かったと思っている。

  ティアス 「ジゾフ殿所蔵とはなかなかの逸品でしょうね、まぁ代わりのゾッフォは王宮騎士団の物なんですけどね、ですがその心遣いは有り難く思います」

  ジゾフ 「我々としても今後も出来得る限りの協力をお約束致します」

  ティアス 「本気にしますよ、差し当たって申しますが貴殿の保有する魔鋼を幾らかテガスへと分けて頂いたいのです、もちろんお代はお支払い致します」

  ジゾフ 「痛い事をおっしゃりますな、今日の勝利で新たなるゾッフォの製造も進める必要が有りますので余り多くはお分出来ませんが、必ず用意してみせます」

  ティアス 「楽しみにして待ってますね」

  リレッタ 「しかし、テガスに送るという事はダインさんがまた新しい事をなさるんですか?」

  ダイン 「そうですね、私の構想を実現させる為には魔鋼は幾ら有っても困りませんから」

  ジゾフ 「それは興味が湧きますな、ですが今、魔鋼の価値は今まで以上に上がっております、幾らかの国で新しいマギガントの開発が始まっているのですよ」

  ティアス 「はい、ウウルやジーカに対抗するマギガントが模索されてますが、今日ダインさんが一例を示しましたよね」

  ツィーカ 「そうなんですよ、各国とも更に軽いマギガントで対抗する計画の様ですが、ゾッフォで勝たれては練り直す国も出て来るでしょうね」

  ティアス 「エディケスもこのまま黙っているとは思えませんしね、ですが水面下で進めている交渉にはかなり打撃を与えた筈です」

  ジゾフ 「我が領地の厄介事にも関わる話です、ですが、既に解決しそうな気はしております」

  ティアス 「そんなにエディケスの工作は幅広く及んでいるのですか?」

  ジゾフ 「ゾッフォでは勝てないというのが常識となっておりましたから、マギガントは何と言っても協定戦に対する備えですから、勝てる機体を用意するのが重要なのですよ、作業にはゾッフォが適しておりますが」

  ティアス 「そうなんですよね、村々を見て回るとマギガントの力を必要とする事は多々有ります、ですが力強さと強靭さも求められているんですよ」

  ジゾフ 「流石はポナリアで国内を駆け巡るティアス様のお言葉です」

  ジゾフは、マギガントの戦闘面だけで無く、巨人としての有用性をちゃんと理解出来ているようだが、領地を守る為には戦闘に秀でたマギガントが重要で有る事も事実だ。

  リレッタ 「しかし、余りお一人で動かれてはお命を狙われる危険性も有りますわ、特に今回の事で選定戦でのティアス様の優勢は確実となりました、そして追い詰められた者は何をするか解らないモノですわ」

  ティアス 「耳に痛い言葉です、護衛も連れて行けるマギガントが有ればいいんですが」

  ジゾフ 「フーティアやポナリアは高価過ぎますからなぁ、それに扱える騎士も限られておりますし」

  ダイン 「そうですね、私の様に男に産まれた者には飛べる事が羨ましいです、何とか出来ないか模索はしておりますが」

  ジゾフ 「それは胸の躍るお言葉ですな、あの様な戦いが出来るダイン殿ならば我々でも空を飛べるマギガントを作れるかも知れませんな」

  ティアス 「はい、その為には魔鋼が沢山必要になりますよ」

  ジゾフ 「解りました、私自身の夢の為にもテガスへより多くの魔鋼を手配致しましょう、ですが事が成った際にはよろしくお願いしますぞ」

  ダイン 「はい、私は恩には報いる人間です」

  ジゾフ 「いやいや、今日はこの夢の話が出来ただけでも十分でしたな、それだけで無くちゃんとした実利も得られるとは」

  ジゾフは後にちゃんと約束を果たすどころか、予想以上の量の魔鋼をテガスに送る事になる、それはクガト派の分裂も原因の一端ではあるのだが、この時ダインと邂逅出来た事が彼の人生をより充実したモノにさせるとは今この時には思いもよらない事だろう。

  一通りの食事が終わると、ティアスとダインは壇上の席へと移動して希望者との面通しが行われた、元々参加した貴族は少なく、工員には当然その資格が与えられていなかった為に面通しは直ぐに終わってダインとティアスは宴を離れる事になるのだが、工員達には十分な量の料理が用意されて宴は全てを食べ尽くすまで続いた、そう、人類法で食べ物を残す事は硬く禁じられているのだ。

  殆どの工員達はまだ宴の会場に残り、全く人気の無くなった工房にダインとティアスの姿が有った、プルルも最初は同行を渋ったのだが、宴の片付けとザガルバが二人乗りの事から同行を断念して、戻ったティアスがまたテガスまで送る算段で納得していた。

  ティアス 「工員達を招いたのは正解でした、これなら面倒な事にならずに王都を抜け出す事が出来ます」

  ダイン 「昨日と対して変わらない気もしますが・・・」

  ティアス 「昨日は王都近郊の散歩という名目でしたので許可が降りたんですよ、ダイン様をテガスに返すとなれば許可など下りませんよ」

  ダイン 「それでティアスは大丈夫なんですか?」

  ティアス 「多分大丈夫ですよ、元々無理にダイン様を連れて来ましたから、いくら国王でも自分の意思を他人に押し付ける事は罪に問われる場合も有るんですよ、権力者をちゃんと裁けないと社会が腐敗すると人類法典に記されてますし」

  ダイン 「それはいい事言ってますね、自分の立場に危機を感じない人間は他人に対して横柄になりますから」

  ティアス 「でも、ダイン様って誰に対しても変わらないですよね」

  ダイン 「そうでも無いですよ、無理そうな人間とは極力関わりませんから」

  ティアス 「魅力的な方法ですけど、ティアスには無理ですね」

  ダイン 「立場上どうにもなりませんよ、まぁ、こういう話は空でも出来るので出発しましょうか、予定よりも長引いたのでテガスの事が心配です、上手くやっているでしょうか」

  ティアス 「そうですよね、ティアス達はこの二日ダイン様を独占してますから、御姉様方に謝らないと」

  ダイン 「その姉の中にフェカトは含まれているんですか、実際姉妹の様な付き合いだとは聞いていますが」

  ティアス 「はい、以前よりも姉っぽく感じてます、双子姉達への感情は変わってませんね」

  ダイン 「フェカトの妹達ですか、彼女達も年上ですよね」

  ティアス 「はい、でも感じ方が違います、あの二人は元々純粋でしたから、才能に恵まれたので捩れ無かったみたいです」

  ダイン 「酷い評価ですね、ですが解りますよ、私も容姿に優れていたならもっと単純な人間に成っていたと思いますので」

  ティアス 「そういう事を平気で言っちゃうところが凄いですよ、人に弱みなんて見せたくないのに」

  ダインの発言は王族のティアスには信じられないモノだった、王位を狙う王族は常に自らの優秀さを見せる必要が有り、弱みなど感じさせてはいけないのだ、だが、ティアスにとっての絶対者は弱みを見せてくれて、それはティアスにとって自分が信頼されている事を十分に認識させてくれる言葉でも有った。

  ダイン 「甘えられないのなら遊魔にした意味が有りませんからね、私を甘やかす事も遊魔の責務ですから」

  ティアス 「悪い気はしませんね、あんなに凄いダイン様に頼られるなんて」

  ダイン 「なら、私をテガスへと連れて行って下さい、マギガントで空を飛ぶ事は今の私には不可能ですから」

  ティアス 「はい、では参りましょうか」

  闇夜の中、ダインを乗せたティアスのザガルバはひっそりと王都を後にする、目標のテガスまでは二時間、操縦席という密室の中で二時間も二人っきりで過ごせる幸運にティアスはとても心を躍らせていた。

  おまけ

  クガル工房 クガト領に位置する人類大陸最大のマギガント製造工房、三百年前の大戦時より存在しており、現在では主にジノ・ゾッフォを生産している。

  クガト家の分家クガル家によって統括され、立場的にはクガトが本家ではあるが、実力はクガルの方が強いとまで言われている。

  決闘機と呼ばれる機種こそ生産してはいないが、それを上回るとも言われている上級機のフーティアを生産している、そしてそれは同時にザガルバの生産も行われているという意味で、複雑型マギガントはクガル独自の機体とも言える。

  人類圏において最も高いマギガント技術を持つとも言われており、かのムウディフーティアもクガルで製造された機体である。

  高性能機の設計競争でポロルグやエディケスに遅れを取ったとも言われているが、それは無駄を嫌うクガルが戦闘しか出来ない決闘機の開発を行わなかった為で、決闘機を超える新型を開発中と長年言われているが、実機の存在を確認したという信頼にたる情報は無い。