002-031
数時間後、ティアス派貴族が集まって盛り上がったダイン祝勝会はティアスの意向により早めに切り上げられていた、不満も有る貴族達もいたが主賓であるダインが今日の戦いで疲労していると言われれば素直に従うしか無い、もっとも自分達の優位に酔いしれたい者達は場所を移して宴を開くであろうが、ダイン達に付き合う義理は無い。
そうして、格納庫から拝借したザガルバにはダインとティアス、ティアスのポナリア・ジーカにはリレッタが乗り込んで、王都近郊だが複雑な地形の為に人気の全く無い深い森へと向かって夜の空中散歩を楽しんでいた。
ティアス 「それにしてもダイン様のお力は凄いですね、ティアス、ダイン様の事は好きでしたけど、今はその深さが全然違います、人を本気で好きになるってこんなにも幸せなモノなんですね」
ティアスの脳内ではダインの注入した堕液が完全に定着して、ダインを崇拝し隷属するダインの為の牝へと堕ちてしまっている、だが、実用性を考えた堕液の改良によって性的な欲求は抑えられており、直ぐに遊魔へと改造する必要も無くなっている。
そんなティアスの様子をマギガントの通信盤を通して見せつけられたリレッタは、妙に高揚した様子だ。
リレッタ 「こんなティアス様が見られるなんて感動的ですわ、人に媚びるお方では無かったのに」
ティアス 「愛する者に尽くす事は当然の事ですね、ティアスが出来る事でダインが喜んでくれるなら何でもやります、でも、残念なのは処女で有るティアスに利用価値が有るのでダイン様に抱いて貰えないんですよ」
ティアスが残念そうに語るので、後部座席に座っていたダインが手を伸ばして頭を撫でてやる、そしてその幸せそうな表情のティアスは付き合いの長いリレッタも初めて見る姿で、本当にダインを愛おしく思っている事が解る。
リレッタ 「この辺りでよろしいですわね、ちょうどマギガント二機が降りるスペースがありますわ」
リレッタが乗ったポナリアは見つけた森の中の広間に降りて行く、ティアスもそれに習ってザガルバを降下させて、向かい合う様に着地させると双方とも片膝立ちの乗降姿勢を取って中に乗っている者が降りやすい様にする。
ティアス 「ダイン様は慣れていますよね、このザガルバは左右にロープが有りますのでそれを使って下さい、ティアスが先にお手本を見せますね」
ティアスはシートの拘束具を手早く外すと、開いたハッチの上から二本下がっている吊革を引っ張ると、するりと伸びてまた持ち手が現れる。
ティアス 「下は足を掛けて、上は手で持って下さい、上の左右のボタンで降下と上昇に別れています」
ティアスはお手本を見せる様に降りて行くと、直ぐに降り立ってダインを招き寄せている、それに対してダインも昇降紐に手を掛けると身を任せて降って行く。
ダイン 「子供の頃に遊んだ遊具の様で少し楽しいですね」
ティアス 「ダイン様もですか、ティアスも結構これ好きなんですよね、特に登る時がいいんですよ」
ティアスのその発言を聞いて、先にポナリアを降りてダインを待っていたリレッタが驚いた顔をしている。
リレッタ 「ティアス様の口からそんな言葉が出るとは驚きですわ、何時も真剣な顔でマギガントを駆ってましたから」
ティアス 「だって楽しんでるのバレると戦いが好きだってバレるじゃないですか、元老院って王が好戦的なのを嫌ってますから」
リレッタ 「ダイン様って恐ろしいお方ですわ、あのティアス様がこんなにも変わってしまうなんて」
ダイン 「そうですかね、まぁ私は嘘をつく女性は大嫌いなので、ティアスもそれを感じているんですよ」
ティアス 「はい、リレッタがそうやっていられるのも今だけですよ、ダイン様の牝に成れば理解出来ますからね」
リレッタ 「ティアス様はダイン様を信じているんですわね」
ティアス 「はい、リレッタに奥の手が有っても、ダイン様の狡猾さには敵わないと確信していますから」
リレッタ 「言ってくれますわ、ならリッタの本気を見せてあげますわ」
ダイン 「いえ、私は別に本気で無くとも」
ダインは弱気な事を言っているが、リレッタの本気はその姿に現れていた、頭髪が変な感じに盛り上がって行くと、そこから大きな角が生え出し、大きく拡がったドレスの背中からは翼が生え出して来る、リレッタが騎士服を纏わない事をダイン達は不思議に思っていたが、背中の翼で服が破けない配慮だったのかも知れない。
そして、スカートの中からは尻尾が生え出して来て、その姿はダインの求めていたモノの具現化でも有った。
ダイン 「素晴らしい姿ですよ、正に力の有る牝の象徴の様です、それに打ち勝つと手に入れる事が出来るとは、最高の狩の幕開けですね」
リレッタ 「狩とは本当に凄い自信ですわね、その身でリッタをどうにか出来ると思っているのですか」
ダインは不敵に笑うと、今度はダインの身体にも変化が訪れる、リレッタの様な付属物はは無いが、体表が金属味を帯びた色に変わって、手の爪が鋭くなっている様だ。
ダイン 「まぁこんなモノですよ、変化こそ控えめですが力はなかなかのモノですよ」
リレッタ 「はい、頑丈そうな身体で安心しましたわ、リッタを目一杯を味わって欲しいですから」
ダイン 「魅力的な言葉ですね、今は本心では無さそうですけど」
リレッタ思考 『やはり疑り深い人ですね、ですが男は女の身体に弱いのが当たり前ですから、都合の良い女には優しいものなんですけど』
リレッタ 「興味が有るのは本心ですよ、それだけでもいいじゃないですか」
ダイン 「私も貴女の身体にはとても興味有りますよ、ですからそろそろ始めましょうか、ティアスはどちらかのマギガントに乗って下さい、私はリレッタを完全に信用していませんし、本気を出して巻き込んでしまうかも知れません」
ティアス 「ダイン様が戦うところを直で見てみたかったですが、確かにそうですよね、ティアスが人質にされたらダイン様に迷惑が掛かりますよね」
納得したティアスはザガルバに駆け寄ると昇降機器を作動させて操縦席に乗り込んでハッチを閉じるとザガルバを起動させる、起動させていないマギガントでは二人の戦いの様子が解らないからだ。
リレッタ 「ダイン様って、お優しいんですね」
ダイン 「いえ、本当にリレッタを疑ってるだけですよ、私は眷属達以外を信じませんので、眷属達はとても信頼出来ますからね、それを知っていて私だけ王都に召還したのではないんですか?」
リレッタ 「どうでしょうね、知りたければリッタをモノにすればいいだけですから」
ダイン 「なら勝った方が負けた方を好きに出来るでよろしいんですね、勝利条件は敗北宣言か気絶ですかね」
リレッタ 「それでよろしいと思いますわ、あと戦いの範囲とかはどうなさいますか」
ダイン 「詳しく設け無くてもいいでしょう、リレッタさんが姿を消せば私達は帰りますし、私もティアスを残しては去れませんからね」
リレッタ 「確かに、用意がよろしいのならば始めましょうか」
ダイン 「はい、では行きますね」
ダインは宣言と同時にリレッタに突進する、それをリレッタは障壁で受け止めるがダインの拳の連打は数発でリレッタの障壁を一枚ずつ破壊していき、その火力にリレッタも作戦の変更を余儀無くされるのだが、現状繰り広げられている攻防はマギガント戦の時とは真逆で攻めるダインと守るリレッタの構図になっている。
リレッタ 「驚きましたわ、ダイン様はもっと臆病な方だと思ってましたから、しかし、マギガントの戦いはダイン様本来のスタイルが発揮出来ない為だったのですね」
ダイン 「ポナリアは良い機体ですが、やはり生身とは違いますね、私本来の戦い方は自分のペースに相手を引き込む事なんですよ、リレッタさんは凌げますかね」
そう言って手を拡げたダインの手から火炎弾が放たれる、単純に魔術なのだが普通魔術師が至近距離で火炎弾を放つ事は無いのでリレッタも防御に徹するしか無い。
火炎弾の炎で視覚が奪われた隙に、ダインの姿はかき消えて辺りに満ちる高い魔力のせいで魔力による探知も妨害されている。
リレッタ思考 『困りましたね、予想以上に動いてますわね、俊敏さはリッタより上の様ですし普通ならばリッタが不利ですわ』
リレッタは不敵な笑みを浮かべる、実は何気なく選んだ様に見せたこの森は予めリレッタが用意していた狩場で有り、罠の類いが仕掛けて有るのだ。
そして、リレッタが大勢を整えていると背後に盛大な火柱が上がる、ダインがリレッタの罠に掛かった様だ。
だが、振り返ったリレッタが見た光景は想定外だった、人型の炎がリレッタへと突進して来ているのだ、そして全身の炎が手先に集約されて行くと炎槍となってリレッタに放たれると、無傷のダインが後方に飛び退いて行く。
リレッタ思考 『アレでダメージを受けていないんですか、それに罠の勢いをそのままに打ち込まれてますわ、これではリッタにもダメージが』
騎士としての資質と乳魔としての身体能力でリレッタは回避を行うが、なんとダインの炎槍はリレッタの居た地点で弾けて周囲に炎の魔弾が拡散される。
その変化にリレッタは更に避ける事も叶わず、弱い障壁をつけ抜けた魔弾を防ぐ術は無かった。
リレッタ思考 『痛ぅ、この熱さ、拡散しても罠の魔力を上回ってます、ですが不思議な事に周囲に燃え広がらないですね、そういえばリッタの罠も鎮火してますし』
リレッタは周囲の状況がおかしいのに気付いてこの場にいる事に不安を感じ始めていた、ダインが周囲の空間自体に何か仕掛けを行っているのならば影響の及ばないところへと退避すべきだろう。
危惧を感じたリレッタの行動は素早かった、乳魔の翼は只の飾りでは無く魔力を使う事により浮遊を可能とする器官だ、ならダインの影響が及ばないと考えられる空中が地上に留まるより遥かに安全な筈だ。
強靭な乳魔の脚力は只ジャンプするだけでも人間の数倍だ、それに翼によって重量軽減された効果によって、リレッタは一気に50メートル程上空に退避して、そこからダインの姿を探すが易易と見つかる物ではない、だが、地上からかなりの距離が稼げている事でリレッタには余裕が生まれていた。
リレッタ思考 『この距離ならダインが何か仕掛けて来ても察知出来る筈ですわ、下にはなにかおかしな仕掛けが張り巡らされつつある様ですから、リッタの領域で戦う事にしましょう』
実際、リレッタの直感は間違ってはいなかった、ダインは高速で移動しながら辺の空間に微細な粒子を放っていた、ダイン粒子というふざけた名称が付けられた粒子は地表一面に拡がっており、その効果の一旦で罠の火は燃え広がらなかったのだ。
リレッタ思考 『ですが何処に?』
リレッタがそう思った瞬間、何かが猛烈な痛みを伴って左腿に直撃すると、それが肉にめり込んで行く不快な感覚が有る、魔王由来の乳魔は激痛を抑える能力を持っているが、肉に何かが食い込んで来る不快感はリレッタにも初めての感覚だった、魔王ルゥの侵蝕はあんなにも気持ちよかったのに。
その不快感の中、次々にリレッタに何かが打ち込まれ、空中に逃げた判断も今となっては間違いに思える。
そして、打ち込まれた何かはリレッタの魔力の流れを阻害している様で、背中の翼への魔力供給が疎かになって、リレッタの身体は徐々に降下してしまう。
おまけ
リレッタの魔導トラップ 魔導士家系のクガトに伝わる技、魔導とは術式魔術の事で有り、術者のイメージで行う魔術と違って確実に求める効果が発動される。
リレッタが仕掛けたトラップはリレッタ自身の魔力を発動源にしている為にリレッタが付近に居ない場合は発動する事も無い。
乳魔リレッタは飛行能力を使って王都の数カ所に狩場を作り上げており、今回ダインを誘い込んだ森は最も破壊力の有るトラップを多数配置している。
術式の耐久性を考えて複雑な仕掛けには出来ていないが、高い魔力を持つ乳魔リレッタが起動させるとその効果は絶大で人間ならは死を免れないレベルの威力ではあったが、ダインには通用しなかった。