002-029
決着の瞬間、闘技場内全体に歓声が起こったかというとそうでも無かった、観客の多くは今までの協定戦とは全く違った決着に理解が追い付いておらず、歓声を上げたのは試合結果の勝利がダインで時間十分に賭けた者ぐらいだ。
ティアス 「色入りと常識外れな戦いでしたが、勝利おめでとうございます、まさか武器を使わずに決着されるなんて」
ティアスは複雑な表情でダインに祝辞を述べる、味方であるティアスですらこの有様なので、観客はもっと混乱している事だろう。
そして、敗北した黒騎士の衝撃は今尚続いている様で、通信盤に映る姿に全く動きがない。
ダイン 「ティアスさんがポロルグを傷付けるなと言ったからですよ、しかし、マギガントでの投げ技も意外と決まるモノですね」
ティアス 「一連の行動が型破りでしたから、まさか鉄棍を蹴り上げてからのあの動作なんて」
主審 「如何なる方法も容認されていますので、ダイン様の行いは有効です、私としても未だかつてない決着でしたが」
黒騎士 「素直に賞賛しか有りませんわ、まさか武器を捨ててあの様な方法を取るとは、アレは異世界の技なんですか?」
ダイン 「私の世界の武道を応用したモノですね、元々は武器を失った時に戦う為の戦場格闘技という話です」
ダインはポナリアをフーティアの横に寄せてしゃがむと手を差し伸べる、卑怯な手段で勝利を得ても、自分の牝に成る可能性の有るモノに対しては優しいのだ、そして黒騎士の正体はダインが特に気になる事象でもある。
黒騎士 「ありがとうございます、ですがまさかマギガントに触れて十日の人に負けるなんて、でも、あの動きは十日で出来るモノだとは思えませんわ」
ティアス 「そうですよね、私のポナリアなのに私より上手く扱ってました、動きに強者の凄みは無かったですけど」
ダイン 「確かに私はポーカの様な動きは無理ですね、ですが魔力に任せての素早い動きは大丈夫なんですよ」
ティアス 「さて、帰って祝勝会ですね、これでアーキアの件でクガト側に文句は言わせませんよ」
黒騎士 「残念ながらそうなりますわ、アーキアのフーティアを含めてポロルグでの管理を認めます」
ダイン 「フーティアもですか、あの機体はかなり高価なマギガントですが」
黒騎士 「こちらから申請した協定戦ですので仕方有りませんわ、それにダインさんとの対戦はこちらにも有益でしたから、本番に対する備えも出来ますから」
ティアス 「そうですよね、ある意味ダインさんの手の内を明かしてしまいましたから、私達の失ったモノも大きいですね、私も初見であれやられたら対処出来ないでしょうから」
ダイン 「私の行いはそれ程常識外れだったのですか」
黒騎士 「確かにその通りですがルール的に問題は有りませんわ、クガトの名誉に賭けて勝敗には異を唱える事は有りません」
その言質にティアスは満足そうな顔をしている、そして、順次闘技場からマギガントを退出させて行くとポナリアの格納庫の周りは工員で埋め尽くされている。
ティアス 「あの動きに興味あるのは解りますけど、集まり過ぎですよね」
ダイン 「マギガントに携わる者としては興味があるんでしょうね、テガスの工員達もそうでしたよ」
ティアス 「アレをテガスでもやっていたんですか、道理で上手く行ったわけです」
ダイン 「ティアスさんがポナリアを貸してくれて助かりました、操作感覚もテガスの二体の間ぐらいでしたし」
ティアス 「ポナリアは扱い易いですし、無茶も出来る良い機体ですから、でもダインさんならまだ余力が有りそうですよね」
ダイン 「それは私も感じています、ですがより魔力が込められるフーティアは私には繊細過ぎるんですよ」
ティアス 「このザガルバはフレーム厚くしてますから、まだ扱えますけど、私だってフーティアは難しいですよ、正直、リエルやアーキアは化け物ですね、もう一人のルーフィンには上手く扱えないそうですし」
ダイン 「そこなんですよ、黒騎士の正体がリエルで無いとすればルーフィンと考えるのが妥当です、ですがあの動きはこの世界で訓練された人間の動きですよね」
ティアス 「はい、そうだと感じました、ですがあの魔力は納得出来ませんね、この話は後で存分に語り合いましょう、帰りも私が送りますよ」
ダイン 「それが一番安全な方法ですね、空だと会話が漏れる心配が有りませんから、ティアスさんには黒騎士の正体に心当たりも有る様でしたが」
ティアス 「それはおいおいお話しします、今は先ずお休みになって下さい、プルルに場所を用意して貰ってますので」
ダイン 「解りました、ではポナリアを戻します」
ポロルグの動きから、整備櫓周辺の工員達が退いていく、アレだけ変な動きをしたポロルグなら、急にガタが来てもおかしくないと感じているのだろう。
そうしてダインはポナリアを櫓に預けると、直ぐに昇降の為の櫓が用意されて降りる準備も整う、ハンドルを回して操縦席のハッチのロックを解くと、直ぐに工員によってハッチが開かれて、格納庫の油っぽい匂いの空気が入り込んで来た。
女性工員 「お疲れ様でした、ポナリアをああいう風に動かした人は初めてで興奮しましたよ、でも、お陰で今までに無い点検が必要になりますけど」
ダイン 「それは申し訳ない事をしましたね」
女性工員 「むしろ喜ばしいですよ、この子も全力出せて喜んでいると思います、アーグル人ではこうは行きませんから」
その表情を見る限り工員は嘘は言っていない様だ、限界まで魔動力を出したポナリアなど初めてで興味が有るのだろう。
ダイン 「しっかりとした整備をお願いしますね」
女性工員 「はい、ティアス様の機体ですから何時も念入りですよ」
ダインもその言葉に納得する、実際に動かしたダインの感覚でも、ティアスのポナリア・ジーカはテガスの物よりも細かいところの整備が行き届いていたのだ。
操縦席から出て櫓を降りたダインの元にはティアスが既に待っており、何か声を掛けたそうな工員達を牽制している、そして来た時と同じにダインの手を取るとそのまま工房の入り口の方へと連れ出してしまう。
ティアスはかなり早足で何処かに向かっている様で、直ぐに格納庫から王宮内へと戻って来る、だが今回の行き先は先程の書庫では無いようで警備の兵の配されている場所がかなり多い、そしてその兵士達が女性へと変わってどうやら余り男を入れない区画に入った様だ。
そして、二人の女性兵士が警備する、豪華な扉の部屋の前にやって来ると、兵士が扉を開くのだがその余りにも豪華な作りにダインの気が引けてしまう。
ティアス 「私の部屋ですから遠慮なさらずにお入り下さい、私の部屋なら情報が漏れる事は有りませんので」
ティアスがダインを自分の部屋に招き入れた理由はよく解らないが、それだけダインを重要視している証だろう、どちらにしろ王都でダインが頼れる人間はティアスぐらいしか居ないのだ。
ダイン 「いいんですか、未婚で時期国王候補の方が自室に私なんかを招いても」
ティアス 「むしろ私のモノだって事を積極的にアピールしないと、工房での工員達の反応を見ましたよね、皆んなダインさんと話がってましたよ」
ダイン 「ああいうのはテガスでも慣れてますからね、実際長く扱ってきた人間の話には聞くべき事も多いですから、ですが私達のやる事は常識から外れている様で嫌ごとを言う人も多いんですよ」
ティアス 「黒騎士のフーティアの担当はそうなるでしょうね、あれは別次元の戦いでしたから、観戦した貴族達も驚いたでしょう、そういえば、さっきの試合で賭けが行われていたので、ダインさんにファイトマネーが支払われますよ、観客は貴族ばっかりでしたのでかなりの額が手に入りましたよ、何せ勇者対黒騎士でしたからね」
ダイン 「お金ですか、この世界の金銭感覚はまだちゃんと無いんですよ」
ティアス 「十枚以上は貴族貨幣で貰えると思います、ポナリアも殆ど無傷でしたからお金はダインさんの好きに使って下さい」
ダイン 「そう言われても難しいですね、まぁ歴史書の一冊ぐらいは入手したいですけど」
ティアス 「書庫で読んでいた奴ですね、同じ物を私も持っていますから差し上げます、他には何か有りませんか」
ダイン 「そうですね、工具が欲しいですねテガスにも有りますが私が使いやすい様に改造したいですから」
ティアス 「工具を改造するんですか?」
ダイン 「はい、こちらの道具は何もかも高価ですからね、最終的には私達で作るつもりです、その為には見本も要りますし」
ティアス 「そんな事まで考えているんですか」
ダイン 「はい、テガスは退屈しない場所なので、私達の世界の知識を応用してマギガントを作る計画も立てているんですよ、材料は整いつつ有りますし」
ティアス 「たった十日で数十年分の魔鋼を仕上げたって聞いてますよ、本当に常識外れですよね、まぁ今日の戦いを見てで納得出来ましたけど」
ダイン 「ですが相手の黒騎士も凄かったと思いますが、まさか空中から鉄棍で攻撃されるとは思いませんでしたよ、リエルは長槍で攻撃してくると聞いていましたので」
ティアス 「そうですね、黒騎士も確かにアーグルの常識から逸脱した戦いをしていました、ですが黒騎士は私の知る人物だと思うんですよ」
ダイン 「やはり心当たりがあるんですね、知っている者を挑発している感じがしました」
ティアス 「はい、アレは多分リレッタ・クガトですね、リレッタは私が一番多くマギガントで戦ってる相手ですから解るんですよ、でも、何故あれほどの魔力を持っていたのかは解りません」
ダイン 「そのリレッタという人は頭に角が生えていませんよね」
ダインの予想外の質問にティアスはポカンとした表情になると、笑みを湛えて応えた。
ティアス 「アレは兜の飾りですよ、かつて魔王の配下に黒騎士と呼ばれた魔族が居たらしいんですけど、それを意識しているだけですよ、クガトと魔王は因縁有りますからね」
ダイン 「果たしてそうでしょうか、壁に激突した時の衝撃を受けて黒騎士は角を押さえてました、もし飾りだとして押さえる必要が有るんでしょうか?」
ティアス 「見た目に注意しただけじゃ無いんですか、折れた角では弱そうですから」
ダイン 「詳細を探りたいですが、そのリレッタさんは今何処に居るんですか?」
ティアス 「多分、王都に居ると思いますよ、登城するクガトのメンバーの中に名前が有りましたから、あ、そうだ、ダインさんの祝勝会に招待状を出してみましょう、それらしい一文を加えて招待すれば不自然では無い関係ですから」
ダイン 「面白そうですね、私もそういうのは大好きですよ」
ティアス 「なら、ダインさんは今日は王都に滞在して貰いますよ、マギガント戦までやっているんですから当然ですよね」
ダイン 「それは少し問題が有ると思います、テガスにはリエルが現れたんですよね」
ティアス 「はい、でも一緒に昼食を共にしたので安心して下さいとフェカトから通信が有りました、アーキア同様に直ぐに仲良くなったんですね」
ティアスにはその報告の裏が読み取れていないが、ダインにはちゃんとフェカトの意図した意味が伝わっていた、遊魔が食事を共にしたと表現する事は、堕としたという意味が含まれているのだ。
勇者リエルが一先ずテガスの遊魔達の手に堕ちたという事はダインにとっては朗報である、そしてテガスが落ち着いたならば今日発覚した新しい懸念に対しての調査を進めるべきだろう、そう勇者リエルに対しての対応を全て任せられるぐらいにダインは眷属の遊魔達を信頼しているのだ。
おまけ
異世界アーグルの権力構造 アーグルでは力の基準が明確に魔力である、魔力の高い者同士で婚姻を行なっている権力層は一般民衆に比べて高い魔力を持つ者が多くその地位を維持している。
領地を持つ家が貴族と呼ばれ、騎士は個人に対して与えられる称号である、騎士の地位は剥奪される事無く命有る限り有効で有るが、領地を失った家は貴族階級を失う。
アーグルには協定戦管理機構が存在しており、協定戦で敗北して貴族階級を剥奪される事も多く有る、こういった事象発生する理由は領民が嘆願書を提出する事で領主の変更を行う事が可能だからだ。
領民の嘆願で行われる協定戦には領地を持たない騎士の参加も認められており、騎士の地位が有れば平民出身で有っても貴族に成り上がる事も可能なのだ。
その為にアーグル人類圏では悪政を行う領主はほとんど存在せずに、民衆の生活は安定している。