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【99】ガチ美女を眺めながらのお茶・・え、絵画鑑賞かな?
何をしていても、自分の胸元が気になってつい視線を下げてしまう。
日に何度も服の襟首を引っ張り覗き込んで、胸の真ん中にある契約紋の状態を確認するものだからTシャツが何枚もびろんびろんになってしまった。
だもんで、今はもう胸元が見えるキャミやタンクトップばかり着ている。
暑いし、ついでにね。
あと、何かもう一々視線を下げるのが面倒なので、近々百均で卓上ミラーでも買ってこようと思う。
ぐっと下を向くと顎下に肉を感じるのが悲しいからでは、決して無い。
無いったら無いっ!!
「ぐぬぬ・・アイスを控えたらこの肉消えませんかね?・・消えませんか。そうですか」
ちぇー。と下唇を不服のままに尖らせて、手元のペンタブをかしかし動かす。
「あー。グローブ蒸れて嫌な感じぃ~・・でも無ければ無いで摩擦がなぁ・・」
『どうにかならんもんかね』と今度は二本指グローブに対してぶちぶちと文句を垂れ流す頼子。
ヘッドフォンで周りの音が聞こえないのも一因かもしれないが、独り言が酷い。
と、曲と曲の僅かな隙間に、鉄製の風鈴が奏でる高く澄んだ音が届いた。
ドキッとして心臓が跳ねる。
『いよいよ来たかぁ・・』
今日は青年を見送って二日。
もうそろそろ「お姉さん」が接触してくる頃かと思っていた。
どうやらその予想が見事的中したらしい。
マウスを操作してPCで流していた曲を止めると、ヘッドフォンを外して定位置に置く。
そうしてあちら側に繋がるベルの紐をちょいちょいと動かして、こちらを視認出来ない相手へ来訪に気付いた事を知らせた。
スピーカーを用意して、鏡を覆うカバーを捲る。
で、目の前に現れたのは、凛と引き締まった雰囲気を纏う金髪美女。
そのあまりのキラキラっぷりに思わず「うっわ」と声が出た。
背中に棒が入っているかのように真っすぐ伸びた姿勢で腰掛ける美女は、一見シンプルながら、お高そうな光沢のあるドレスを身に纏っている。
色は落ち着いた雰囲気のシャンパンゴールド的な感じで、良く見れば胸元や袖口には細かな刺繍が入っており、ドレスも見る角度によって模様が浮き出る仕様になっていた。
立って歩けば動きに合わせて素敵に華やぐ事間違いない。
胸はこっちの中世の貴族がしていたようにコルセットで圧迫してお椀状に形を作っているらしく、不自然に盛り上がっている。
同じように腰の括れもキュッと細められていて、「それ本当に息出来てる?」と心配になった。
うん。めっちゃめちゃ美人さんだけど、全体的にお近づきになりたくない固い雰囲気のお人です。
んぁー!でもでも、こっちから積極的にムーブしないと意思疎通出来ないんだよなぁコレがっ!
『頑張れワタシ!大丈夫、大丈夫! [[rb:同性 > 同じ生き物]]として比較するのも烏滸がましいレベチの美女だからって、そんなしり込みしなくてもイケるって!声だけで良いってアド君言ってたじゃん!あっちからは見えてないし、平気平気!・・・ふーっ・・よし、アド君のお姉さんなんだ。きっと優しい人だよ、多分、めいびー・・』
スピーカーを持ったまま、直視するのも憚られる程の金髪碧眼美女を前にしてブルっていると、待ちくたびれたらしい美女さんがすっ・・と扇を取り出し、パッ!と開いて口元を隠して目を細めた。
ひいっ!怒ってらっしゃる?!
んでもゾクゾクするような冷たい目がすんげぇ似合いますねお姉さま!
ビビり散らかしながら、『これ以上待たせてはイカン!』と焦り震える指でスピーカーをこちら側のモニターに繋げて電源を入れた。
それから咳払いをして喉を整え、スピーカーだけをにゅっと向こう側に押し出す。
すぃ、と。視線がスピーカーへ移ったタイミングに合わせて、なるべく落ち着いた声で話し掛けた。
「ご、ごきげんよう、アド君のお姉様」
「あら、黒い小箱から声が・・ごきげんよう。貴女様が「異界の魔女」様ですの?」
「はい。声のみで失礼します」
「構わなくてよ。弟から話は聞いていますもの・・でも、慣れたら是非お顔を拝見したいわ」
「・・え~・・善処します」
「うふふ・・楽しみにしていますわ。早速ですけれども、慣れるために口調はもう少し崩して頂くことはできますかしら?」
おぅ・・この人、押しがつよつよだぞぅ~?
めっちゃ距離詰めて来るやんけ・・
「あの・・慣れれば自然と口調も砕けると思うので、気長にお待ち頂けますか?・・」
「そうですわね。無理強いは本意ではありませんもの。待ちますわ」
そう残念そうに告げる美女。
うぬぅ。そんな悲しそうな顔されると罪悪感が・・・
ま、ワザとだろうけどね。交渉術ってヤツですわ。
「え~。では、早速ですが取引を始めましょう」
「解りましたわ。こちらの希望としては、「かれーるー」に続き、菓子の購入を希望したく思います。以前頂いた筒状の焼き菓子に、冷たい菓子・・あれらはとても・・とっても美味で素晴らしかったですわ!えぇ、それはもう、この世の幸せを凝縮したような美しさと味で!あたくし、感動で胸が震えましたわ!」
扇を閉じ、胸の前で拳を握って前傾姿勢で力説する美女。
その勢いに圧倒されて身を引き、鏡から距離を撮る。
「そ、そのように気に入って頂けるとは、とても嬉しいです。お贈りした甲斐がありました」
「ええ!ですので、是非他の菓子も食してみたいと思いましたの!弟は幾つか口にしている様ですわね?」
「えぇ、そうですね」
「魔女様!このあたくしにもどうか!どうかそれらの菓子を味合わせてくださいませ!」
青年によく似た青い目をキラキラ・・いや、ギラギラさせた美女は、顔が鏡にくっ付きそうな勢いで前のめりになって訴えてきた。
「あ、はい。もちろんいいですよ。少しお待ちください」
「ありがとう存じます!!」
「いえいえ」
そう言って、席を立とうとしたところで美女さんが「はっ!?」と身を震わせたので思わず動きを止める。
「あたくしとしたことが!申し訳ありません。名乗っておりませんでしたわ。あたくし、アディードの姉でクリスティアナと申します。是非「クリス」とお呼びくださいませ」
「これはご丁寧にどうも。私の事は「魔女」でも「魔女さん」でも、好きに呼んでください」
目を伏せ、軽く頭を下げた美女にこちらも名乗り、菓子を用意するために席を立った。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
「あぁ・・お口の中が幸せで満たされますわぁ~・・」
「お気に召して頂けたようで良かったです」
青年に出したのと同じB○URB○Nの焼き菓子3種を出してみた。
女性だし、甘いのお好きかな?と思って、2個ずつ皿に盛ってある。
「えぇ・・特にこの穴の開いた焼き菓子・・見た目は一番飾り気が無くとても簡素ですが、さくりと軽いのに濃厚な味が堪らなくて・・優しい甘さが最高ですわぁ・・」
「分かります。美味しいですよね~それ。弟さんも気に入ってましたよ」
「だと思いましたわ。しかし他の二つも素晴らしい・・この黒い実の入った物は兄が、ザクザクした歯触りの方は双子の弟が好きそうですわ・・あぁ、美味し・・幸せ」
へぇ。じゃあ上から男、女男の双子、男の兄弟構成か・・
ん?そういやアド君。下にも弟妹が居るって言ってなかったかな?
え、6人兄弟?普通に凄いな・・私一人っ子なので仲の良い兄弟姉妹ってちょっと憧れますわ。
なんて事を考えながら、手に持った食べかけのバタークッキーをまた小さく齧り、うっとりと目を閉じる美女なお姉様に飲み物を勧めた。
「喉が渇きませんか?よろしければお茶を淹れましたのでどうぞ」
ティーバックですけどね。
んでもこれ、お安い割に香りが好みで常備してるんだよね~
「あら、お気遣いありがとうございます魔女さん。頂いてもよろしいかしら?」
「えぇどうぞ。熱いので気を付けてください」
そう言って、湯気立つカップをトレイごと差し出す。
美女は食べかけのクッキーを皿に置いて「ありがとう存じます」と礼を言うと、トレイからソーサーごとカップを受け取り口をつけた。
「少し渋いですが、よい香りですわ・・」
「あ~、すみません。何分素人なので・・お口に合わなかったですか?」
「そんなまさか!こちらの菓子とも相性良くてとても美味しいですわ!」
「それなら、良かったです」
ほっとして自分の分のカップを持ち上げ、同じ紅茶の香りを楽しむ。
そのままふーっと吹き冷ましながら一口、口に含んだ。
熱い紅茶が舌全体に広がれば、心地よい熱と共に茶葉の味を拾う。
そうしてこくりと飲み込むと、鼻腔に良い香りがふわりと満ちた。
一緒にお茶して、何だか少し距離感が縮まったような気持ちになる・・
気の所為じゃなかったら、良いな。
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