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【88】気付いた時にはもう遅いとか・・こんなあるある、体験したくなかったとです・・
4人で写真を撮った翌日。
作業机に座って、スキャンして取り込んだ下書きにデジタルでペン入れをする。
今回は久々のノマカプ本だ。
内容は毎度の18禁・・ではなく、珍しく全年齢である。
とあるオンリーイベント用にと必死に線を引いているが、ちょっと急がないと間に合わないかも・・
なんせ60ページ以上あるので。
「うひぃ~・・終わっかなぁコレ!出来るだけ全部の話入れたいけど・・間に合わない時は後ろの方削るしかないかぁ・・」
今は兎に角手を動かすのだっ!と液タブをかしかしやっていると、突然右側から透明な触手がひょっこりと現れた。
「んおっとぉ?!・・あ、やべ。もう約束の時間か?!」
慌ててヘッドフォンを外し触手を追って斜め後方へ振り向くと、新調した埃除けのカバーを捲った青年が大変良い笑顔でこちらに向けた手の平をひらひらと振っているではないか。
『やっちまった!』と焦りながら、急ぎ鏡台の前に移動。
顔の前で合掌してぺこぺこと頭を下げて謝る。
「ゴメン!没頭して時間を忘れてました!」
すると水で作った触手と共にワザとらしい笑顔を引っ込めた青年は「冗談だ、気にするな」とあっさり許してくれた。
うぅっ・・約束忘れてたのはこっちなのに優しいっ!
「本っ当にゴメン!今度何かお詫びします・・」
「いや、大丈夫だ。こちらこそ仕事に集中している所悪いな。だが、今日は幾つか大事な話があるのだ。すまんが少しだけ付き合ってくれ」
そう気を使いながら申し訳なさ気に言う青年に「うん。それは勿論」と頷き、冷蔵庫から麦茶を出すとグラスに注いで席に着く。
今日は一人で来たらしい青年にも麦茶入りのグラスを渡し、互いに喉を潤したところで会話を始めた。
「それで?大事な話って何かな?」
「あぁ。まず私たちの間で交わした「精霊契約」を一度破棄して、新たに結びなおしたいと考えているのだが・・」
「うん?確か私の「望み」に付き合う対価に「異世界の知識」を知る権利を得る・・だったかな?」
「あぁ、それと知り得た知識の悪用の禁止と、その責任を私が持つ。という内容だ」
『うんうん。確かにそうだったな』と頷いて、「新しい契約内容は?」と訊ねる。
「それなんだが、一つ相談がある。そちらにも関わる話なのだが・・」
青年が語った内容によると、青年が遠征で居ない間も売買取引を止めずに続けたいので、留守の間は青年の代理として姉が関わる許可が欲しい・・という事だった。
「アド君のお姉さん?」
「あぁ。前にも伝えたかと思うが、本人は魔術院に勤める魔道具、魔術陣の研究者でな。直接顔を合わせるのに抵抗があるなら「声だけのやり取りでも構わないから」と、本人たっての希望なのだ」
おっと。初手で譲歩されちゃったよ・・圧しが強いなお姉さん。
しかし、う~ん・・これは断り辛い・・
「・・私、暫くは原稿・・仕事が忙しいのね?だから会う回数をかなり減らしてもらわないとなんだけど・・それでも良いなら、まぁ・・」
「そうかっ!!勿論、減らしてもらって大丈夫だ!」
「ありがとう、助かる!」と嬉しそうに言う青年に「本当に声だけで良いの?」と確認したら「声だけでも良いし、交流方法はアヤに任せる」と言われてしまった。
『言ったなこんにゃろ。中二心満載な仮面でも被ったろか?』
と、勢いに任せて考えたところで、『案外良い案かも・・』と気が付く。
青年の時とは状況が違うのだ。流石に初対面の同性に末期の喪女姿を晒す気はない。
とは言え、手間をかけて擬態するのも面倒だ・・
それならいっそ、ド〇キで適当にお面を買って・・髪と体形はストールとかで隠したりしちゃったり?
そうしたら、わざわざ着替えとメイクなんかする手間も省ける・・よね?
お?良いんじゃね?何だか楽しくなってきちゃいましたぞ?
『ようし。そうと決まれば、なんちゃって和風アレンジをかますとしますか!』
狐のお面と和柄の羽織を着た自分が、意味ありげに口元を扇子で隠すというチョイ痛な妄想していると「そんなわけで・・」と青年が続けた。
「一度契約を破棄して、姉の事を踏まえ曖昧だった部分を明確にした「精霊契約」を、お願いしたいのだが・・」
「良いだろうか?」と確認されて、少し考える。
契約の更新はまぁ、特に問題ない。
でもちょっと気になる事があるのだ。
「あのさ、一つ聞きたいんだけど・・前に契約違反?しそうになって、精霊に警告を出されたよね?」
「そうだな」
「勿論、違反するつもりはないのだけど・・自分のうっかりでアド君が怪我したり、血を流すのは・・」
そう。そこが自分の中ではかなり引っ掛かっている。
何かと他人様に迷惑をかけることが多い自分だ。
そんな迷惑千万な輩が理屈が良くわからない「精霊」さんに身を任せたたりしたら・・
ヤル。
私はきっと何かとんでもないミスをして青年を傷つける。
間違いない。
出会ったばかりの頃は何も気にせずにいられた。
けど、いまや彼は大事な友人だ。
うっかりで友人に傷を負わせるとか・・
いやいやいや・・無理。
絶対に無理っ!
改めて契約の事を持ち出され、思い出して・・気付いてしまった。
知らぬ間に契約違反して怪我させるとか・・
それがたとえホンの少しだとしても、無理なモノは無理だ。
「精霊契約」怖すぎぃっ!!
話の途中で黙って動かなくなった私に「アヤ?」と心配そうに声を掛けてくれた青年と目を合わせ、一つ頷く。
「うん。ごめん。私は自分を全く信用出来ないので、「精霊契約」は破棄で。その後の契約は普通に書面で交わしませんか?」
「・・ちょっと待て。何故そんな話になる?」
眉根をぎゅうと寄せて言う青年に、如何に自分がうっかりさんで信用出来ないかプレゼン・・
何で私は自分自身をネガキャンしてんだ?
うぅ・・解せぬ。
「つまり何だ。自身の間違いで私を傷つける可能性がある「精霊契約」自体が精神的負担だと・・」
「え~と・・多分。端的に言うと?」
「・・逆に、痛みがないと間違えると思うのだが・・」
首を傾げる青年にめっちゃ「異世界」を感じて『あ゛―っ!!』となりつつ、説得を試みた。
「こっちには「精霊」さんとか居ないのっ!いや、もしかしたら居るかもしれないけどさぁ!兎に角、違反したら「ハイ罰~警告~」とかって一々怪我とかしないのっ!今まであんまり気にしてなかったけど、これから先何か君にしてあげたり逆に私がしてもらったりする度にビクビク気を使ってやり取りするのめっっっっっちゃ疲れるんだよぅっ!!」
嫌だーそんなん嫌だー
面倒だし何よりアド君を傷つけるかもしれないって気を張りながら動くのが辛いー
的な事を半泣きで訴える事暫し、青年は「分かった。分かった。だから落ち着け」と半分呆れた様子で言った。
「アヤがそこまで気に病むとは思わなかった・・私の配慮不足だな。すまない。希望通り「精霊契約」は破棄。元の契約を踏まえた上で、書面での契約を交わすとしよう」
「そうして頂けると大変助かりますぅ~・・」
「「精霊契約」には助けられた事もあるのだが、アヤの為だ。早速破棄の宣言を・・」
「へ?ちょい待ち。「助けられた」ってナニさ?そんな事あった?」
訝しげに思い、首を傾げながら言葉を挟むと「あるぞ?」と何でもない事の様に明かされる事実・・
その衝撃の内容に、絵に描いたように頭を抱える。
「・・私が刺された時に、契約紋が?」
「あ、あぁ。突然痛みが、な・・しかし、そのお陰でアヤに何か大変な事が起こったと逸早く気付けたんだ」
マジか・・
ほぅらね。やっぱり既にやらかシテますヤないか・・・
・・・・よし。
スグに破棄しようそうしよう。一分一秒でも早く。
これ以上、アド君を傷つけるかも知れない状況で居たくないっ!
「アド君!契約を破棄するにはまず如何するの?!」
「そ、それなら、そちらで保管している契約書の控えを・・」
「控えねっ!後は?!」
「いや、後はこちらも原本を用意して、互いの手を握り合っ・・」
説明する青年の言葉が尻すぼみになって消え、途中から全く聞こえなくなってしまった。
急に顔色を悪くした青年に、焦りから大きな声で問う。
「アド君何て?他には何をすればいいの?!」
「・・すまない、アヤ・・契約の破棄は、難しいかもしれない・・」
突然の「難しい」発言にびっくりして「ふへっ?」と変な声が出た。
え?どういう事だってばよ?
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