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【84】傍仕えハーフエルフの呪いと使役する半精霊について。【閑話】

  元同僚の一連の行動を見て、やはりこの価値観のズレた屑とは相容れないと再認識した。

  一見優しそうに見えて、その時の気分一つで対する者の価値をコロコロと変え・・産み出し殺し、捨て拾いと好き勝手に弄ぶ・・

  この屑には本当の意味での信頼など、決して寄せられはしない。

  精々が気に入られている間のみ、こちらも都合よく利用するだけだ。

  機嫌よく鼻歌を歌い、サイドチェストから「じゃらり」と丸い何かが擦れる音のする箱を取り出した元同僚。

  その背に「もういいか?」と声を掛けると、慌てた様子で薄布を翻しこちらに振り向いた。

  「あ、待って待って!渡す物があるから!」

  「・・何だ?」

  壁を叩こうとしていた手を下げて正面に向き直ると、顔の位置目がけて小瓶が飛んで来る。

  眼前で構えた手の平でパシリと受け止め、くるりと手首を返して確認すると瓶の内側で丸薬がころりと動いた。

  「そろそろ足りない頃でしょ?ついでだから渡しとくねん♪」

  にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべる元同僚に、業腹だが「助かる」と短く礼を伝える。

  「ひひっ♪良いよぉ。ちゃんと対価は貰ってるし?しっかし面倒な呪いだよねぇ・・半分とはいえ、たぁいへん♪」

  「・・俺は抑制剤で対処出来る分、まだマシだ」

  「けどけどぉ・・いい加減面倒じゃなぁい?どお?見つかりそ?」

  こちらの現状を理解した上で揶揄い訊ねる元同僚に、瞼を開いて眼球を晒し殺気を込めて睨みつけた。

  ざわりと濃厚な魔力が足元から立ち上り、銀色の前髪が巻き上がる。

  「ん、ん〜♪良いわぁその眼・・ぞくぞくしちゃう♪ね、ね!片っ方抉らせてよ!一生大事に愛でるからっ!」

  いつもの如く[[rb:小鬼 > ゴブリン]]にも劣る勝手な言い草に大きく舌打ちで返して、「さっさとくたばれこの反吐野郎が」と言い捨てた半エルフは、そのまま壁の中へと身を沈めて部屋から消えた。

  残されたサテュロスは「うひひ♪」と不快になる声音で笑い、再び立ち上がり始めた性器に手を伸ばす。

  「相変わらず良い反応するんだからんっ♪これだから錆を揶揄うのって止めらんないんだよねぇ・・もぅ本当、可愛い♪」

  「はぁっ」と熱っぽい吐息と共に楽し気に呟かれた言葉は、誰にも聞かれる事なく水っぽい音にかき消された。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  元同僚の私室から離れ、自分の部屋へと足早に向かう。

  腹立たしい、腹立たしい・・

  仕方が無い事とはいえ、あのクソ野郎にこちらの弱みを知られているのはかなりの精神的苦痛だ。

  顔を合わせる度、的確にこちらが嫌がる所を突いてきて、大事な何かをガリガリと削り取っていく・・

  己が持って生まれた、どうしようもない体質。

  この体に流れる血脈の、呪われた半分。

  戦争に巻き込まれ、父と永遠の別れを告げた後で呪いが発現したのは良かったのか悪かったのか・・

  ただ一つ父にとって救いだったのは、制御出来ない衝動に突き動かされ、浅ましい獣のようになり果てる我が子の有様を目にせずに済んだ事だろう。

  それだけは、本当に良かったと思う。

  どんなに嫌で、苦しく、解放されたいと願っても叶う事はほぼない、生きて行く限り延々と続く呪い。

  だが、呪詛師手製の抑制薬程度で日常生活を送ることが出来ている自分は、この呪いに蝕まれた者達の中でもまだ幸運な方だ。

  普通こうはいかない。

  半分の血に感謝だ。

  ・・本当ならあの呪詛師にも感謝すべきなのだろうが・・・

  本人の性格がアレなので、全くと言って良いほど有難く思うことが出来ない。

  まぁ、あの屑の自業自得だ。

  我が身の呪いについてつらつらと考える内、漸く自室に辿り着く。

  キィと扉を鳴らして開けて室内に入ると、すぐさま壁や床をすり抜けて半精霊たちが現れ、心配そうに纏わり付いてきた。

  「皆、ご苦労さまです。わたくしは大丈夫ですから、皆の報告を聞かせて・・はいはい。聞いたら薬を飲んで寝ます。思っていたより早く帰れましたから、睡眠時間もちゃんと確保できますよ」

  無表情の中でも淡く浮かぶ微笑みに、半精霊たちは嬉しそうに笑い返し、この日の報告を順番に告げていく。

  その中に「本日も発見ならず」というものがあり、目に見えて半精霊たちがシュンと落ち込んだ。

  いつも役に立とうと頑張ってくれている小さな姿がしょんぼりとするその様は、不謹慎ながらつい微笑ましく思ってしまう・・

  ハーフエルフである自分と契約してくれる半精霊たちは、大きな力を持つ精霊へと至る為の修行中の身だ。

  上手く精霊としての力を使っていく事で少しずつ成長し、最終的に強大な力を持つ大精霊へとなる訳だが、自然な成長だけで精霊へと至るのは困難を極める。

  故に、半精霊たちは人と契約して精霊の力を使い自身の成長を促すのだ。

  人は半精霊の力を借りて様々な恩恵を受け、半精霊たちは効率良く成長出来る。

  互いに利があるからこそ成り立つ契約という訳だ。

  基本的に、半精霊たちは契約した使役者にとても協力的で尽くそうとしてくれる。

  それは半ば本能のような半精霊の性質ではあるのだが、その反面、こうして仕事が上手くいかないととても落ち込んでしまうのだ。

  この呪いの解呪に必要な「鍵」は必ず何処かに存在する。

  その鍵を求め、広く情報を探ってくれる半精霊たちには悪いと思ってはいるが、自分自身はもう諦めているのだ。

  この呪いを受けた者の殆どは解呪の鍵を手にすることなく、体力が尽きて死んでいく。

  もう何度となく情報収集を止めて良いと話したのだが、半精霊たちは毎日落ち込みつつも、未だ諦めることなく鍵を探してくれている。

  自分には勿体ないくらい、本当に良く出来た半精霊たちだった。

  半精霊たちの報告を聞き終え、幾つかの指示を出したら洗浄魔法を掛けてお着せを脱ぎ壁に掛ける。

  そうして寝支度が済んだら、寝台に腰掛けて半精霊が持ってきた水と一緒に抑制薬を飲んだ。

  前日に飲んだ薬の効果が切れかけ、内側からじわじわと蝕むように本能的な衝動が忍び寄っていたが、それが徐々に落ち着いていくのを感じる・・

  『薬師としての腕も一級なんだよなあの屑』

  癪だが、これから先も世話になるのは確実だ・・

  本当の本当に癪だが。致し方ない。

  寝台に横になり、ぞわぞわとした感覚を誤魔化す為に腕を組んで二の腕を撫で擦る。

  明日も忙しい一日になる筈だ。

  今日の主人は想い人である「異界の魔女」と話す暇が無かった。

  その寂しさや焦燥といった感覚は、想像はしても理解するのは難しい。

  呪いとそれを抑える薬の所為で、色恋にまつわる心の機微にはとんと疎いのだ。

  これもまた、鍵が見つかれば解消されるのだろうが・・

  鍵・・鍵、か・・

  自身の呪いを解きほぐし、受け入れるだけでなく、こちら側も受け入れることで完成する唯一無二の存在・・

  心の何処かで常に焦がれる我が半身。

  『本当に存在するというのなら、この目で確かめてみたいものだ・・・』

  まぁ、確実に無理だが。

  今日もまた、ぷかりと浮かんできた淡い希望を自ら押し殺して、ジャスパーは眠りに就く。

  こうして、傍仕えハーフエルフの一日は終わるのだった。

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