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【42】傍仕えの進言。

  珍しく取り乱した姿を見せた傍仕えは「釈明させて欲しい」と主へ懇願した。

  青年が「聞こう」と頷いた為、一礼して口を開く。

  「アディード様もご存知の通り、わたくしは「鳥」所属でございます。主に武を得意とする「鷹」に籍を置いたまま、現在はアディード様の警護兼傍仕えとしてお仕えさせていただいております。そこの「黒」とは同期であり、何度も同じ任に着いた事がありますが・・」

  言葉を途切れさせた傍仕えは、糸目の眉間をきゅっと寄せると甚だ不服そうに続けた。

  「・・非常に残念な事に、わたくしの魔力はアディード様とは相性が悪いのですが、他の者とは馴染む事が多く・・時折わたくしの魔力操作で仕事仲間の魔力詰まりや呪いの澱を取り除く事がありました。それで「鳥」の仲間たちに目を付けられ、頻繁に絡まれるようになり・・」

  「色々と煩わしくなりまして・・」と幾分肩を落とした傍仕えに青年は頷いて言った。

  「腕利きの「鷹」である君が何故私の専属になったのか不思議に思っていたが、そのような訳があったのだな・・」

  「その通りです。しかし、貴方様が努力する姿に感銘を受け、お役に立ちたいと思ったからこそ引き受けた任でもあります」

  「勿論だジャス。君の忠義を疑ったことは無い。だが、そうか成程な・・」

  「合点がいった」と納得する青年の言葉に、サテュロスは蹄をタンタンと踏み鳴らして不満そうに零した。

  「しょーがないっしょ!「鷹の錆」の魔力操作を受けるとメッちゃくちゃ気持ち良いんだもん。中には「えっちより好き!」ってヤツが居るくらいなんだからね!」

  唇を尖らせる若者に、傍仕えはふうと溜息をついた。

  「と、この調子で任務外でも四六時中付き纏われまして・・」

  「・・・大変だったのだな」

  「ええ。本当に」

  「え~。なんだよぅ。いいじゃん別に時々ならさぁ~」

  「いや・・何名も「時々」来ていたら、それはジャスにとって「時々」にはならないと思うが・・」

  傍仕えの立場を慮って口を出した青年に、サテュロスは「他のヤツの事なんて知らないしっ」とぷいっと顔を背けた。

  腕を組み、ツーンと顎を反らすその様子から、青年は困惑とともに頭を抱えたくなる。

  仕事の依頼をする為に呼び出した筈だが・・この調子では話が進みそうにない。

  アヤの為にも、出来るだけ早く仕事を受けてもらいたいところだが・・

  『どうしたものか・・』

  顎を掴むようにして指を添え、考えを巡らせる青年。

  背後の傍仕えは遮音の魔法を使いつつ、口元を手で覆い隠して言葉を紡いだ。

  「アディード様「黒」は面倒な性格ではありますが、腕は「梟」の中でも随一です。仕事を受けさせるのでしたら、わたくしの魔力操作を・・」

  「いや。それを受けられると知れば、また「鳥」の者たちが集まって来るのではないか?」

  「おそらくは。ですが、アディード様の為でしたら、わたくしは・・」

  「論外だジャス。君に負担を強いてまで無理に通す話ではない」

  「・・・畏まりました」

  遮音の魔法が解かれると同時に、サテュロスは面白くなさそうな様子で言った。

  「内緒話は終わったぁ?いい加減仕事の話をしたいんですけどぉ~」

  予想とは違い、先に仕事の話を振られた青年はこの流れを逃さぬ為『申し訳ない』と態度で示しながら話し始めた。

  「待たせてすまない。では早速、依頼の説明をしても?」

  「どぉーぞぉ。受けるかどうかは聞いてから決めるけどね~」

  態度の悪いサテュロスに対し傍仕えが動こうとしたが、青年は片手を上げてそれを止める。

  「わかった。それで構わない」

  青年は異世界の事を伏せつつ、依頼について話し始めた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  青年とサテュロスの若者の間にあるテーブルの上に、一本のナイフが置かれている。

  「保存」の効果を持つ布の上に乗せられたそれは、頼子の腹に刺さっていたモノだ。

  「ふぅん。コレの持ち主が特定の人物に近づかないようにしたいってのとー。悪夢とかで衰弱させたいって?」

  「あぁ。方法は任せるが、衰弱死ぎりぎりまで追い込みたい」

  「うっへぇ。そいつが何ヤったか知らないけど、随分と恨みがましいコトで」

  「私にとって唯一無二の人を傷つけたのだ。当然だろう?」

  笑っていない目で笑顔を作る青年に、サテュロスは首を傾げる。

  「へー。それなのに始末しないんだ?」

  「・・傷つけられた本人の頼みなのでな」

  「げ。何それ。お人よし過ぎて虫唾が走るわー」

  おえー。と舌を出して見せるサテュロスに、青年は「いや」と否定を口にした。

  「[[rb:あ > ・]][[rb:れ > ・]]は優しさや偽善ではなく・・」

  自身に対する低い価値観から来る無関心、ではないだろうか?

  私がどれだけ心配しても、諦めにも似た手応えの無さを、あの時感じた。

  私を含め、大切に想う者が傷つけられたら、当然だが怒る。

  が、一方で自分が傷を負う事に対する忌避感が、どこか薄い。

  自分は無価値だと思う故に、害意ある者に対する反応が鈍いのでは・・

  無意識、なのだろうが。恐らくこの予想は当たっている、と。そう思う。

  「ともかく、本人は優しさから言ったのではない。断言は出来ないがな」

  「ほぉ~ん?ま。いいケドね」

  興味なさそうに肩を竦めた若者は、気持ちを切り替える為か手の平をパンっ!と打ち付けて「んじゃ!視てみよか~仕事を受けるかどうかはその後ってことで!」とナイフに視線を降ろした。

  青年が「頼む」と頷いたのを見て、布ごとナイフを手に取り目の高さまで持ち上げる。

  眼鏡のブリッジを押し上げ、じっと視線を注ぐ中・・若者の横に長い瞳孔の幅が、急に太くなった。

  「ん?ん~?変に辿り辛いなぁ・・魔力残滓は強いのに・・」

  「どうだ?受けてもらえるか?」

  「ん~。も少し待って・・」

  そう言われた青年は「分かった」と了承して、暫し無言の時間が続く。

  少しして、若者は唐突に「あはっ!」と楽しそうな声を上げた。

  「あーっはっはっはっ!何コレ腹立つーっ!残滓は強いのに回線は繋がらないわ読み取り辛いわでイライラする!よぉし、やるっ!この依頼、特級呪詛師である「梟の黒」が引き受けた!」

  心底楽しそうに笑いながらぴくぴくとこめかみをヒクつかせて怒るというちぐはぐな挙動に驚いた青年だったが「引き受ける」という言葉に反応して腰を浮かせた。

  「っ!受けてくれるか?!」

  「ムカついて楽しそうだからね!こんな腹立つのも久々だから、お代も少しはマケたげよん♪」

  何に対してそのように怒っているのか理解出来ない青年だったが、依頼を受けてくれるのだからと些細な疑問には目を瞑って腰を下ろす。

  「それは助かる。では、対価は何を?」

  「んじゃ、竜種の魔石で。勿論上級のね?後、今回はちょーっと澱が多めに残る予感がするから、依頼が終わったら一度「鷹の錆」を派遣して欲しいかなぁ~」

  瞳孔を元の大きさに戻した若者は、掲げるナイフからチラっと視線を青年の背後に向けて言った。

  「いや、それは「わかりました」・・ジャス?」

  傍仕えの派遣を断ろうとした青年だったが、割り込まれる形で当の本人が了承した事に困惑し、背後へと振り返る。

  「不躾に割り込んでしまい、誠に申し訳ございません。ですが、どうか今こそお役に立ちたく・・」

  「後生でございます」と締めくくり、スッと綺麗な礼をとる傍仕え。

  青年は逡巡したが、傍仕えの気持ちを汲むと一つ頷いて「感謝する」と短く礼を伝えた後、正面の若者に視線を戻して真剣に言葉を綴る。

  「私の傍仕えの願いだ。派遣は許そう。だが、以前のように「鳥」に集られては彼の負担になる。そのような事が無いよう配慮してもらいたい」

  「保存」の布を元通りくるくるとナイフに巻き、ベストの内側へ仕舞った若者は青年の言葉に怠そうに答えた。

  「え~。面倒だなぁ・・でもま、いっか。了解しましたよぅ」

  「よろしく頼む」

  肩を竦めて了承した若者に青年は内心でほっと息を吐くと、顎を引いてほんの僅か頭を下げる。

  「じゃ、魔石の用意が出来たら連絡を寄越してね!完成した呪具と交換!ってことで!」

  ぱっと立ち上がった若者は「そんじゃね~!」と背中越しに片手を振り、入って来た扉から出て行った。

  騒がしい若者を見送ると、青年は緊張を緩ませ、息を吐いて両肩をだらりと下げる。

  良かった。後は魔石を用意するだけで、特級が作り上げる呪具が手に入る。

  今の自分なら、魔石を直接取りに行く事も可能だ。

  また、買えるだけの金を稼ぐのでも良いだろう。

  好いた人の脅威を取り除ける目途が立ったことに安堵感を覚え、青年は晴れやかな気持ちで長兄の居る執務室へ足を向けた。

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