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アヤとの関係が進んだ。
と言っても、ただの知り合いから友人へと格上げされただけだが・・
しかしだ。
考えてみれば出会って7日で友人となったのだから、ともすれば恋人という関係に進むのもそう遠くないのではないだろうか?
・・楽観しすぎか?
そうだな。
まだたった7日だ。
友人認定されただけでも僥倖と捉え、これから恋人になれるよう布石を打って行こう。
・・具体的にどうするかは未定だが。
それでも、一つ考えている事がある。
これについては、出来るだけ早く行動に移すとしよう。
彼女と会話しつつ、そのような事を胸の内で考えていたが、急に「顔を洗いたい」と言い出して首を傾げた。
特に汚れているようには見えなかったが、聞けばどうやら化粧を落としたいらしい。
洗面所にも行きたいと。
・・仕方ない。生理現象は止められるものではないしな。
だがやはり心配で、水操魔法で手助けをする事にした。
その際に「こんたくと」とやらを取り外す姿を魔力による感知で把握したのだが・・
把握したのをとても後悔した。
何だアレは。
目の中に異物を入れるなど、なんと恐ろしい・・
発想自体にすら悪寒が走ったぞ?
本人は全く問題無さそうにしていたが・・
これまで鏡を通して様々なモノを見聞きし、驚かされてきたが今回の「こんたくと」については正しく「異世界」の代物であると、つくづく実感した。
そのようにして、洗面を手伝ったまでは良かったのだ。
そこから先は精神修行の如きであった。
・・・・彼女を、この手で丸洗いした。
いや、直接では無いのだが、操った水・・温水で顔以外を包んで汚れを落として、濯いで、流して・・
水の操作が難しくて、戦闘より疲れた。
何より魔力での感知、情報把握の加減が難しい。
ある程度感度が無ければ力の加減が解らぬし、かと言って感度を上げ過ぎれば肌の柔らかさ、とか、形、とか、全部解ってしまって・・
その、股間が苦しくなって、大変だった。
最後まで理性を保った私を誰か褒めてくれ。
ほんの些細な問題はあったものの、無事に彼女を洗い終えた後には食事を提供した。
傍仕えのジャスに用意してもらった野菜を煮て濾したスープに、小さく千切ったパンを浸した病人食だったのだが・・
初めて食べるこちら側の料理はどうやら口に合ったようで、しっかり完食してくれた。
これだけ食べられるのなら、もう体の方は大丈夫だろう・・
良かった。本当に。
そこから会話の流れで心配し、心配され。私自身も体を休める様に言われてしまった。
・・・好いた人に心配されると、こんなにもむず痒く、嬉しいものなのだなと、改めて思う。
彼女は、アヤは何時だって私に気を遣ってくれる。
例えば、初めて会ったときに「脚を隠してくれ」と言った事を気に留めていて、顔を合わせる時には何時も足首まで覆う服を着ているのだ。
普段は最初の時の様に身軽な格好をしているのだろうに、こちらの感覚に合わせてくれている。
ふざけた言動も多いが、その根底にある優しさを伴った気遣いは、確と受け取っているつもりだ。
出会いから、たかだか数日。
だがその数日の間、鏡越しに会う度彼女の淡い優しさに触れ、どんどん好きになっていった・・
愛しいと想う気持ちが、この身から溢れて止まらない。
もう、彼女を知らなかった頃には戻れない。戻りたくもない。
だから、アヤを。愛しい彼女を傷つけた痴れ者を、私は許すつもりが無かった。
異世界の、あちらの理屈は解らぬが法で裁くのは難しいという・・
ならばと呪詛を薦めてみたが、反応は芳しくない。
「どうでも良い」と。
関わる事自体が「面倒」なのだと。
何処か投げやりですらあるその反応が、正直とても腹立たしかった。
私は彼女を傷つけたくない。失くしたくない。
それなのに彼女は自身をぞんざいに扱う・・
人は、大事に扱われ、大切に想われるうちに自己の価値を知る。
彼女は、今までどういった生を歩んで来たのだろう・・
私自身も他人の人生についてどうこう言えるほど大した生を歩んでいるとは思っていないが、どうか彼女は辛い思いをしないでいて欲しいと思う・・
・・不毛な思考だ。
過ぎた事はもうどうにも出来ないというのに・・
そうだな。
これから先、未来へと目を向けた方が賢明というのは明白か。
彼女に友人が居るのは知っているが、家族は居ないらしい。
離れて暮らしているだけかも知れぬが、それでも年頃の女性であるのに、彼女は一人で住んでいると言っていた。
余計なお世話、なのかもしれないが・・
寂しくは、辛くはないのだろうか?
共に暮らしたい者は、居ないのだろうか?
もし・・
もし叶うのならば、私を。
貴女を請い願うこの身を、傍らに置いてはくれないだろうか?
貴女が自身を顧みる事が出来ないのならせめて私に、側で大切にさせて欲しい。
・・・こんな身勝手で押しつけがましい想いは、とても伝えられはしない・・
今は、未だ。
ともあれ、彼女を傷つけた者を処する許可は、説得により得られた。
死なぬ程度に痛めつけ、二度と彼女の前に現れないよう恐怖を刻み込むとしよう。
そう。死んだ方がマシだと思っても、終わらせてなどやるものか。
何度でも、繰り返し悪夢を見せてやろう。
その魂が擦り切れるまで、な。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
危ない雰囲気駄々洩れの青年に『イケメンはどんな顔してても様になりますな』と諦めにも似た感想を抱きながらスマホの画面をなぞる。
折角あちこちの風景をスマホに収めたのだ、幾つか先に見せても良いだろう。
「あぁ、そうだ。伝える事があったのだった」
「ん?なんじゃらほい」
恐ろしく黒い笑みを浮かべていた青年は雰囲気を平時のものに戻して言った。
「以前譲ってもらった「るー」で「かれー」を作り家族に振る舞ったのだが、皆とても気に入ってな。こちらでも気軽に食べられるように料理人を募集して「かれー」を研究してもらおうという話が出ているのだ」
「へぇ、異世界でも受け入れられるとは、流石!我が国の誇るカレー様!」
「嬉しいねぇ」と笑う頼子。
青年も「相当に美味かったからな」と頷いて本題を切り出す。
「そこでだ、研究用に「るー」を大目に融通して欲しいのだが・・」
「ん、おっけー!この前ので良いんだよね?どんだけ用意したら良いかな?」
「・・待て、その言い方・・もしかしてあれ以外にも種類があるのか?」
「え?勿論あるよ。味が一つしか無かったら飽きるじゃん」
「・・・それは・・何とも贅沢な話だな・・」
やや呆れた様子の青年は、少し羨ましそうに言った。
「うちの国の人らは食道楽が多いというか、凝り性が多いんだよね「あったら便利」って理由で色々作り出しちゃったりとかさ。他国からも「異常」ってよく言われるよ。伝聞だけど」
頼子の説明で微妙な顔になった青年に「誉め言葉だって」と笑いながら、改めて訊ねる。
「それでは旦那!どういった感じでご用意しましょ!」
「・・・・他の味も気にはなる。気にはなるが・・争いの元になる予感がするな・・」
「だろうねぇ」
人の好みは千差万別。
好きと好きがぶつかれば、下手すると戦争である。
きのことたけのこみたいにね。
「なのでこの前譲ってもらったヤツを、そうだな。100箱頼みたい」
「・・・これまた凄い数で」
「そうか?ひと月で使い切ると思ったが・・」
いや、流石に毎食カレーでも厳しくね?・・
「アド君とこは家族が多いんだっけ?」
「ああ。前にも話したかも知れんが、兄が二人と姉。後は弟と妹が一人ずつだな。上の兄は結婚して子どもが二人。姉も結婚はしているが、子どもはまだだ」
「皆一緒に住んでるの?」
「弟と妹は学園の寮で生活していて、姉は家を出ているが他は・・そうだな。一緒だ」
「なる。料理人募集とか言ってたね。家事とか、お手伝いさん的な人がそれなりに居るのかな?」
「まぁ・・そうだな」
そんならひと月で100箱はイケる・・のか?
ま、早々に腐るもんでもないし、いっか。
「おっけ了解。辛さも種類があるからさ、そこまで辛くない「甘口」40。まあまあ辛い「中辛」30。辛い「辛口」30で良いかな?」
「あ。この前あげたのが「甘口」ね」と指を立てて説明すると、青年は眉根を寄せ、頭痛を堪えるような顔で言った。
「おい。ここに来てまた新しい情報を・・」
「・・てへっ♪」
「・・・・はぁ。分かった・・とりあえずはそれで良い」
「はいはいな~!助けてもらったし、なる早で用意しまーす!」
「・・・こちらとしても助かる。それと対価だが、兄らと話し合ったが何で支払うか結論が出ていなくてな・・」
姿勢を正し、脚を組み変えた青年は少しだけ顔を傾けて「何か対価になりそうな、欲しい物はあるか?」と訊ねた。
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