PR
カレーを食べた友人は先日描き上げた私の原稿を読んで、鼻息荒く帰って行った。
『萌を補充したから明日からの仕事もダイエットも頑張れるっ!砂おじのコスしたいからもうちょっと搾らないとなんだよね!オンリーまでに!』
『売り子は任せな!』と言い残した無駄にカッコイイ背中は男気に溢れていた。
おい。ダイエットなんて聞いてないぞ?カレーがっつり食べとったやないかい!
あ奴め。急に来たと思ったら・・
さては今回、製本まで待てずに私の原稿を読みに来たな?
や、ファンでいてくれるのはめっちゃ嬉しいんだけど・・そんなに?
言ってくれたらデータぐらい送ったよ?
まぁ、わざわざ見に来るのは会いたかったって事なんだろうけど・・
どんだけ私の事好きなんアイツ。
私も好きだが?
激細キャラのコスプレをするという親友に「無理して倒れんなよ~」と見送り、その後はアニメ観たりネサフしたりしてまったり過ごした。
で、本日。
アド君との約束まであと僅かとなったのでカレーを温め直している所でございます。
トッピングの納豆は流石にハードルが高すぎるだろうと、代わりにチーズを用意しました。
後は昨日も準備したから揚げとウインナー。
福神漬けは・・一応別皿で添える予定。
サラダと、汁物・・コンソメスープか味噌汁でも出そうかな?レトルトだけど。
もうそろそろ来るだろうと思い、鏡のタオルをひょいと捲り上げる。
と、向こう側では既に青年が椅子に座って待機しているではないか。
「おわっ!びっくりした!」
「・・何故驚く・・」
「いや、もう居るとは思わなくて。来てるなら声掛けてくれても良かったのに」
言いながら、青年の顔を見た頼子はその様子が昨日とは違う事に気が付いた。
目に隈こそないものの、何と言うか・・疲れた、荒んだ雰囲気を感じる。
「・・アド君どした?なんか疲れてる?」
「・・・早朝から[[rb:迷宮 > ダンジョン]]に潜って来たからな。それでだろう」
「へぇ。迷宮なんてのもあるんだねぇ。やっぱモンスターがうじゃうじゃ出て来る感じ?」
「概ねそのような感じだ」
「怪我は?大丈夫だった?」
「あぁ。回復薬すら使わずに終えてきた」
「おぉ。それは凄い事なのでは?アド君て強いんだねぇ」
「・・そうでもない」
腕を組んでいた青年は、ふいと視線を斜め下に逸らす。
そしてやはり・・態度に違和感があった。
何故そんなに居心地悪そうにしているのか・・
『私、何かしたっけか?』
思い当たる節は無いが・・
内心で首を傾げつつ、会話を続ける。
「・・回復薬って、魔法的なやつ?」
「あぁ。損傷した肉体を魔力で補い変換、修復する魔術が組まれた液体だ」
「おぉうファンタジー・・病気とかも治るん?」
「いや、怪我だけだな。体を正常な状態に回復させる・・解毒も出来るが、病や生まれついての体質や奇形は回復薬では治らない」
「ふうん・・あ。じゃあ寝不足や二日酔いは?」
効くのなら凄いなと思い質問してみた。
青年は虚を突かれたようで「は?」と驚きの声を上げる。
「どうだろうか・・そのような事で使うなど聞いたことがないが・・効くのではないか?寝不足は見当がつかぬが、二日酔いは解毒と同じで酒精を抜くことが出来る、と思う」
「恐らくだが」と小難しい顔で答える青年に「反動とか、リスクはあるのかな?」と更に突っ込んで訊ねる。
「言ったろう、魔力で補うと。組み込まれた魔術式が正常であれば反動はない」
「え・・スゴ・・魔法じゃん」
「魔術は魔術式を組み上げた魔術陣で魔力を消費、現象を引き起こす。魔法とそう変わらん。何だ?回復薬、欲しいのか?」
「ノーリスクってんなら、欲しいかな・・修羅場で役に立ちそうだし」
「・・・分かった。幾つか融通しよう」
「え?マジで?!」
『本気か?』と頼子は青年をマジマジと見つめる。
「あぁ、約束しよう」
「やった!ありがと!」
成り行きだけど『魔法のお薬ゲットだぜっ!』と拳を握る頼子。
そのはしゃぐ姿を見て、青年はふっと目元を緩めた。
「アヤ、すまないが今日は・・」
「あ、ごめんね!?お昼直ぐに用意するよ!今日のは私作でっす!」
「―?!アヤが?!」
「料理を作ったのか?!」と驚く様子に逆にびっくりする頼子。
「いや、簡単なヤツだけどね?こっちには料理するにも便利な物が沢山あるし、そんなに難しくないんよ」
「そうなの、か?・・そう言えば複雑な香りがするが、これが?」
「そだよ~「カレー」っていうんだ。具材は色々だけど、今日のは根菜と鶏肉を使った定番のやつ」
「・・美味そうだ」
「美味しいよ!こっちでは子どもから大人まで大人気なんだぜ♪」
そこまで言って「ちょっとだけお待ちを~」と、頼子はキッチンに向かい準備を始めた。
途中から青年の雰囲気が幾分、柔らかくなったのを感じて安心感から気分が上向く。
楕円形の皿に炊飯器から米をよそい、空けたスペースにカレールーを注ぐ。
その境目にトースターからから揚げと、フライパンから大き目のウインナーを二つずつ乗せた。
冷蔵庫に入れて置いたサラダと、福神漬けを小皿に用意。
お椀にレトルトの調味みそを入れ、フリーズドライの具を入れたら電気ケトルからお湯を注ぐ。
軽く混ぜ、調味みそを溶かしたらそれらをランチトレイにセット。
手前にキッチンペーパーを敷いて、先割れスプーンを置いたら準備は完了だ。
「はいお待たせ~」とトレイを青年に向けて差し出す。
「飲み物は冷たい「麦茶」ってのがあるけど、それで良い?」
「ああ。ありがとう」
トレイを受け取った青年は嬉し気に微笑んで礼を言った。
何となく違和感を覚えるも、それが何かは分からないまま「はいよ~」と返事する。
食器棚からタンブラー、冷蔵庫から麦茶パックを浸したピッチャーを取って鏡台に戻り、先にタンブラーを渡した。
「はいどうぞ」と麦茶を注ぐ。
「先食べてて良いよ?あ、カレーは熱いから気を付けてね?」
「・・・・わかった。では先に頂くとしよう」
青年が麦茶を一口飲んで先割れスプーンを手に取ったのを確認して、自分のカレーを準備した。
青年よりご飯もルーも少なめ、でもから揚げとウインナーは同じく二個ずつ。
ルーに調理用チーズを適当に散らして完成。
タンブラーに麦茶を注いでピッチャーを仕舞ったら、自分も鏡の前の椅子に座って「いただきます」と手を合わせた。
スプーンで軽くお米とルーを混ぜ、チーズを絡めてパクリ。
「ん~!やっぱ一晩置いたカレーは美味しいなぁ!!」
咀嚼して飲み込むと、つい感想が口を衝いて出た。
青年はというと、無言でスプーンを皿と口とで往復させ、がふがふとカレーを頬張っている。
「ははっ!美味しい?気に入ってくれたんなら嬉しいな」
もぐもぐっ!と口を動かしながら、青年は目をキラキラさせて頷いた。
そのまま飲み込むと、麦茶を呷り勢いよく話し出す。
「―っは!アヤ!この「かれー」とやら、見た目に反して凄く美味いぞ!?アヤは料理の天才か?!」
「や~。そこまで手放しで褒められると照れちゃうな~」
「まぁ実際、カレールーが優秀なんだよね」と言ってスプーンでウインナーをカットしてルーと一緒に口に運ぶ。
「その「るー」とは?」
「ん?見て見る?ちょっと待ってね」
興味を引かれたらしい青年の為に、冷凍室に保存してある余りのルーを持ってきて渡してやる。
受け取った青年は冷蔵用のビニール袋に入った箱を見て「開けても?」と聞いてきた。
カレーを食べながら頷き了承する。
「この中にある・・茶色の塊が「るー」か?何で出来てるんだ?」
「ん。確か箱に書いてあったと思う。貸してみ?」
青年から箱だけを受け取り「えーと」と原材料を読み上げた。
「・・とまぁ、色々入ってるね」
「・・・呪文か?」
「まぁ、簡単に言うと、小麦粉と油脂とスパイスを混ぜ固めた物だね。カレーは味付けほぼこれだけだから」
「味付け・・と、いう事は・・この「るー」があればいつでも、どこでもこの味が食べられるのか?!」
驚きに目を見開く青年に『期待通りの反応だなぁ』と思いながら頷く。
「そ。野外料理の定番だしね。自然に囲まれた中で食べるカレーもまた美味いんだなぁこれが」
「・・これは凄い・・凄い事だぞアヤ!!」
「ね!企業努力に感謝!」
「素晴らしい・・」と言いながら、ルーにじっと視線を注ぐ青年。
見れば、彼の手元の皿は空になっていた。
「え、もう食べ終わったん?お代わりいる?」
「いるっ!!」
ばっ!と顔を上げて、間髪入れずに返事をした青年を微笑ましく思いながら、会話を続ける。
「了解。あ、もうお肉は無いんだけど、代わりにチーズ入れる?ちょっと味がまろやかになって、これはこれで美味しいよ?」
「ではそれで頼む!」
「はいはーい。じゃ、お皿くださいな」
「あぁ!」
差し出された皿を受け取って台所へ向かう。
背中越しに「量はどうする?減らす?」と訊けば「同じくらいで!」と返って来た。
それに「はいよー」と返事して、お米とルーをよそい、チーズを散らして鏡台へと戻る。
「はい。お待たせ」
「ありがとう!!」
嬉しそうに皿を受け取った青年に笑い返しながら「どういたしまして!」と返す。
「どんどん食べてね!その赤い「福神漬け」も一緒に食べると、また味が変わって美味しいよ?」
「そうなのか?・・・うん!これも美味いな!」
「ね?合うよね~!昨日来た友だちもそれ好きでさ!」
「私も結構好き!」と続けて、食事を再開する。
カレーを口に運んで、次はから揚げ。
飲み込んだら、スパイスに染まった舌をタンブラーを傾けてリセット。
またスプーンでカレーを掬い、口に運ぼうとしたところで・・
青年の様子がおかしい事に気が付いた。
PR