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【18】カレーのトッピングに揚げ物って最高だよね?

  目元をハンドタオルで覆い、真上を向いて「ふぅ~・・」と深く息を吐く青年を見て、頼子はまたしても「悪い事をしたなぁ」と自責の念に駆られていた。

  うん。やらかした。

  どうやら少々先走ってしまったようだ・・

  まぁ、冷静に考えたら「水」について勉強した後で感情爆発させて大泣きして。

  落ち着いたと思ったらいきなり映画についてつらつら語られても付いてけないよね・・

  オタクの悪い癖が出てしまったなぁと反省。

  「ごめんね?誰かとアニメ観るとか久々で少しはしゃぎ過ぎちゃったや・・勉強したり感情的になったりで精神的に大分疲れてるだろうから、今日はもう休むと良いよ」

  「・・分かった。「えいが」は気になるが、アヤがそう言うなら休むとしよう。また明日詳しい説明を頼む。時間は今日と同じく昼過ぎで良いか?」

  そう言って、ハンドタオルを返してくる青年。

  頼子は温くなったそれを受け取って「いいよ~!また何か美味しいのを用意しとくね!」と返した。

  「そだ、このタオル!もっかい冷やすから持って行きなよ。明日返してくれたら良いからさ」

  「・・分かった。借り受けよう」

  「うん。ちょっと待ってね」

  そう言って、またボウルにハンドタオルを入れて濯ぎ、硬く絞る。

  残った氷水をチャックのあるビニール袋に入れて丸め、棒状にした。

  それを絞ったハンドタオルで包み青年へと渡す。

  「はい。暫くは冷たいと思うから、使って?」

  「・・・世話焼きだな」

  「そうかな?・・あ、余計なお節介だった?ごめんね?」

  「いや?そんな事はない。気遣い感謝する・・菓子も、ありがとう」

  クッキー缶とハンドタオル、ノートとペンを抱えて「では、また明日」と別れの言葉を残し、青年は鏡の前から離れて行った。

  気配が完全に無くなるまで待って、鏡にタオルを掛ける。

  「ん~。半端に暇になっちゃったな・・」

  さて、どうやって時間を潰そうか。

  夕食を作り始めるには早すぎるが・・

  「や、メニューをカレーにしよう。んで今から作って、余った時間で見逃してるアニメ追っかけよっと」

  カレーは多めに作って、明日の昼食にも出せば良いではないか。

  天下のカレー様なら、異世界の青年も喜んでくれそうですしおすし。

  「翌日カレーはジャスティース!」と何となくリズミカルなステップを踏んで、頼子は冷蔵庫へと向かった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  鶏のもも肉を使ったチキンカレーを手早く作り、トッピングになる総菜とサラダ用のカット野菜をコンビニに行って調達。

  帰宅したらお気に入りのペットボトルの紅茶を片手に、作業机のPCで未視聴だったアニメを観た。

  「さぁて、海外の反応動画も見よっかな~っと」

  最近はアニメ本編を見た後で、海外のアニメファンの反応動画も観るのが定番になりつつある。

  仲間と一緒に観ている感覚になるし、純粋に海外ファンの反応が面白いというのもあった。

  ・・地味に引きこもりの影響が出ている。

  傍から見れば、人恋しさからのなんとも侘しい趣味に思えるが・・

  まぁ、別に。特に何か困る訳でもないので、全く気にしていない頼子だった。

  「ん~。どれにしよ・・」

  マウス片手に動画を物色していると、玄関のインターホンが鳴った。

  どうやら友人の到着だ。

  直ぐにヘッドホンを外して、出迎えに向かう。

  念の為ドアスコープで確認。

  うん、間違いなく友人だ。

  ドアチェーンを外して、鍵を開けドアを開く。

  「いらっさい!」

  「アコ!良かった。元気そうだね」

  「お蔭様で!とりま、入りなよ」

  「お~サンキュー!ふぃ~涼しっ!」

  クーラーを入れた部屋に足を踏み入れた友人は「天国じゃ~」と仕事帰りなのか、スーツを脱いでシャツのボタンを二つほど外し、胸元に風を送っている。

  「今日暑いもんね~流石にクーラー入れたわ。何か飲む?」

  ハンガーを手渡しながら訊くと「ありがと。でも今日は泊まれないから、お酒は無しで」と返って来た。

  スーツを壁に掛けた友人は用意していたラグにぺたりと座る。

  「あれ?そうなん?したら麦茶で良いかな?」

  「十分十分!あっ!今日カレー?やっりぃ!家カレーだ!」

  「分かる~。時々食べたくなるよねー。今日のヤツはチキンカレーだよ!」

  冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いでラグの中心に設置したローテーブルに置く。

  「やったー!楽しみ♪しかし、のんびりしてるって事は無事に脱稿したんだ?」

  「したした。なんとかね。今回も売り子、よろしくお願いしますだ」

  「任せんしゃい!報酬貰ってるしね!」

  「や、そこは払うでしょ普通。迷惑かけてんだから」

  「迷惑ではないけど・・ま、アコがそれで気が済むんなら良いけどさ」

  「小遣い有難いしね!」と、そこで友人は麦茶を飲み、続けて言った。

  「でもさぁ実際、あれから二年?は経ったし・・ぼちぼちイベに参加しても大丈夫なんじゃない?」

  「ま、そだね。この部屋に引っ越してから気配感じた事ないし・・小さいイベならそろそろ行ってみようかな?」

  「だよ~。あのストーカーも流石に二年も経ったら諦めてんじゃない?」

  「だと良いけどね・・さて!ご飯直ぐに食べられるけど、どうする?」

  「もち食べる~♪」

  「トッピングにウインナーとから揚げ、納豆もあるよ!」

  「マジで?!全部くれっ!」

  「ふふふ。勿論、福神漬けもございます」

  「神かっ!」

  両手を組んで拝んでくる友人に気を良くしながら、頼子はカレーを準備するのだった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「ジャス。このデザートだが、余分にあるか?」

  夕食が終わり、食器を下げに来た傍仕えに茶を片手に訊ねる。

  「はい。厨房に確認致しますが、おそらく問題ないかと」

  「では余裕があれば二つほど持ってきてくれ」

  「畏まりました。こちら、気に入られたのですか?」

  「あぁ。それもあるが、美味だったからな。「異界の魔女」にも食べさせてやりたい」

  「・・畏まりました。確かに、あの菓子は素晴らしい味でしたからね。お返しにこちらは釣り合うかと」

  「直ぐにお持ちします」と、傍仕えは食器を持って下がった。

  今日のデザートはカップ型の焼き菓子に、たっぷりとクリームを乗せ、色鮮やかな果物を散らした見た目も美しく、美味なものだった。

  恐らく、アヤが出してくれた「こーひー」にも合うだろう。

  友人も来ているらしいから、二人分頼んだ。

  急な差し入れだが、喜んでくれるだろうか?

  暫く経つと、ノックがして傍仕えがデザートを運んできた。

  長方形の皿に載ったデザートをカートごと目の前まで運ぶと、静かに小部屋に繋がるドアの横まで移動する。

  「ありがとうジャス。では早速行って来る」

  「はい。わたくしはこちらでお待ちしております」

  皿を持ち、ドアを開けてくれた傍仕えの横を通って小部屋へと入る。

  殺風景な部屋には本棚とテーブル、背もたれのある椅子が一脚ずつ。

  件の鏡は今は壁際に置かれたテーブルの上に立てかけられている。

  その鏡の前に皿を置き、向こう側へ声を掛けようとした時だ。

  [[rb:艶 > なま]]めかしい声、が・・漏れ聞こえてきた。

  咄嗟に口を噤み、耳をそばだてて彼方の様子を窺う。

  『・・だいぶ、解れて来たね?』

  『あっ。そこ・・気持ちいっ!』

  『ここ?』

  『あ゛―・・そこ、もっと・・』

  低い、男のものらしい声と・・高く善がる・・アヤの声に聞こえた。

  心臓が、痛い。

  血の気が引き、指先が震える。

  皿を持ったままだったら、きっと落としてしまっていただろう。

  どこか現実感の無い感覚の中、そんな他愛もない事を思う。

  不明瞭な声は続いている。

  聞きたくない。聞きたくはないが・・

  『確認だ・・確認、してみないと・・勘違い、やもしれぬし・・』

  本棚から本を一冊、手に取る。

  震えそうになる手で本をあちら側に差し込み、視界を塞いでいる布をそっと避けた。

  僅かに開いた隙間から、片目を覗かせ様子を窺う。

  素足をこちらに向け、床にうつ伏せたアヤの上に、男が跨り乗っている。

  男が身体を揺らす度、アヤが・・声を上げていた。

  二人はこちらに背を向けている為、まだ私には気づいていない。

  そのまま、そっと布を元の位置に戻す。

  手にした本を机の上に置いて、代わりに皿を持つと小部屋を後にした。

  「おや?アディード様、どうされたのですか?」

  不思議そうに訊ねて来る傍仕えに「片づけてくれ」と皿を押し付け、何か言われる前に「もう寝る」とだけ告げて寝室に引き籠った。

  靴も脱がずに寝台に前から倒れ込み、枕を取って後頭部から押さえ覆う。

  『来客は友ではなく、恋人・・だったのか・・』

  気を、使われたのだろう。

  だから、友などと嘘を伝えて来たのか。

  だが・・

  「最初から、恋人だと言ってくれれば・・」

  強がって呟いた自身の言葉で、より絶望感が増した。

  胸が、酷く痛む。

  締め付けられるような苦しみの中、先程聞いたアヤと恋人のやり取りが頭の中で勝手に繰り返された。

  行き場のない感情が膨れ上がり、拳を強く握る。

  手の平に食い込む爪による痛みで、叫び出したい衝動を何とか抑え誤魔化した。

  芽生えたばかりの恋心は、千々に破れ・・無残に散っていく・・

  この夜、向こう側がどうしても気に掛かり・・一睡も出来ないまま朝を迎えた。

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