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【16】みず!ミズ!水!ウォーター!

  「全く意味が解らん・・」

  そう言って項垂れる青年に『悪い事したなぁ・・』と思いつつ頭をガシガシと掻く。

  「や、ゴメン・・小さい世界から学んだら今後応用が利くかと思ったんだけど・・」

  流石に中学二年生の内容は早過ぎたようだ。

  まぁ私も見ていて『アレ?思ったより難くね?』と思った。

  最後まで視聴したものの、用意する素材の選択ミスを実感。

  「・・アヤはこの内容が理解出来ているのか?」

  「完璧じゃないけど・・まぁ大体は?」

  「・・・アヤは絵描きではなく賢者として教鞭を取った方が身を立てられると思う・・」

  「あ~・・ゴメンて。そんな落ち込まないでよ~。知識の基礎が違うんだから仕方ないって」

  肩を落としてショボン・・としている青年に申し訳なさが募る。

  やべ。かなり凹ませてしまったようだ。

  若干焦りながら、なんとか気分を上向けてあげたくて説明を続ける。

  「こっちじゃ6歳から義務教育が始まって、ほとんどの人が18までは学校で知識を蓄えるんだよ~」

  「・・義務教育?国として教育を義務化しているのか?」

  「そそ。6歳から9年間は国が授業や教科書なんかの代金を負担してくれるの。後はほぼ自腹。保護者は教育を受けさせる義務。子どもは受ける権利があるんだよ」

  「国庫から国民の教育費を出しているのか・・凄まじいな・・」

  「あ。やっぱりそっちはお金持ってる人だけって感じ?」

  「そうだ。一応貴族は国営の学園に通う義務があるが、庶民は一部の金持ちや有力な商人、魔法の才を認められた者が通う」

  「費用の免除制度もあるが、普通は親が支払うな」と腕を組んで青年は続けた。

  『おぉ。異世界テンプレキタコレ!』と妙な感動をしている頼子。

  そこでふと気づいた。

  『あれ。アドくんもしかして貴族じゃね?』と。

  教育を受けているらしい言動に、家族総出で人助けの仕事をしてるって貴族なんじゃね?と思い至ったのだ。

  「あの・・つかぬことを窺いますが、アド君もしかしてお貴族様?」

  「ん?いや違うぞ?似てはいるがな」

  「ほっ。なんだそっか。不敬をやらかしたかと思った。じゃあ態度を改めなくても?」

  「態度?・・別に変える必要はない。そのままでいてくれ」

  「そっか、了解~」

  内心で『焦った~!』と掻いてもいない汗を拭う。

  相手の身分なぞ知った事ではないが、不快な思いをさせたい訳では無いのだ。

  ある程度なら相手に失礼の無い対応をしようと思ってはいる。

  ・・青年の場合は特殊すぎて殆ど素で接しているが、普通に社会人であるからして、相手によって適切な対応をする気はあるのだった。

  尚、実行出来ているかは別とする。

  「ところで、今見せてもらった内容は義務教育課程のどのあたりで習うものなのだ?」

  「えと、中二だから・・義務教育8年目?」

  「・・・おい。それ、ほぼ終盤では無いか?」

  「です。すんません」

  「理解できるワケが無かろう?!」

  「だからゴメンて!私も途中で気づきました!」

  眦を釣り上げて怒る青年に素直に謝罪。

  両手を合わせて眉を下げ『反省しています、以後気を付けます』と訴える。

  怒りはしたものの、腹を立てた訳ではないらしい青年は頼子の態度に怒気を収め、居住まいを正して言った。

  「・・・応用は後々学ぶとして、まずは「水」について学びたい。実際に魔法が使えるようになるか試したいのだ」

  「了解!じゃあ口頭で説明して、実験したり動画みたりして理解を深めていくとしましょう!」

  そうして改めて、青年の学びは始まったのだった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「・・・成程、通常は「温度」が状態を決めるのだな」

  「そう。温度が低いと水は固まって氷「固体」になり、溶けて水の時は「液体」もっと温度が上がると水蒸気になり「気体」として空気中・・この何もないように見える空間に、見えないくらい小さな粒になって、漂ってるの」

  渡したノートに、彼方の言葉でカリカリとメモを取りながら、青年は頷く。

  こちらも、タブレットに表示した内容を読み上げながら解説を続けた。

  「えと「水」の性質として「一、重さは変化しない」「二、体積・・大きさは水、氷、気体の順で大きくなっていく」「三、密度は気体、氷、水の順に大きくなっていく」ってのがあるんだけど、まずは実際に変化する様子を見て見ようか」

  そう言って、百均で買ったアロマポットを用意。

  冷蔵庫の製氷室から氷を一個持って来た。

  「はい氷、触ってみて」

  「うむ。冷たいな・・・確かに氷だ」

  軽く放ってもらい、返された氷をポットに乗せる。

  そして、下部にはライターで火をつけた蝋燭をセットした。

  「はい。火で温めて温度を上げますよ~」

  「・・・溶けてきたな」

  「うん。水になっていくね。全部溶けて蒸発していくには少し時間がかかるから、その間に水の状態変化について説明していくよ~」

  水がぷつぷつと泡立って、消えて行く様子を観察しながら「融解、凝固、蒸発、凝縮、昇華」といった状態変化について話す。

  「はい。重さと体積と密度の変化は図にするとこんな感じ。状態変化はこんなね?」

  タブレットを裏返し、表示している図解を見せてあげた。

  それを目にして、カリカリと書き写していた青年は「ん?」と不思議そうな顔をした。

  「私の印象としては氷の方が密度が大きいのだが・・実際は水の方が大きいのか?」

  「お。よく気が付きました~。そう、普通は固体の方が密度が大きいよ。よく比較対象にされる物質が蝋燭の「ろう」はい図解」

  「うむ。比較してみると水は随分と特殊なのだな」

  「そ。水は特別な物質って事だね!」

  「理解はしたが・・こう、納得し辛いな・・」

  「実感出来ぬというか・・」と難しい顔をする青年に、頼子は「じゃあ実際に見て見よう!」とコップに水を汲み、皿に氷を乗せて来た。

  「はい。ここに水があります。そして氷。水より氷の密度が大きいイメージだと、水に氷を入れるとどうなる?」

  「む・・沈むな」

  「だね。でもいま言ったように、実際には氷は水より密度が小さいから・・」

  「浮く、という事だな」

  「いえすざっつらいっ!」と言いながら氷をポチャンと水に落とした。

  当然、氷は一度は沈むものの、直ぐにプカリと浮かび上がる。

  「成程・・実際にこうして目にすると納得だ」

  「今度水風船を凍らせておくね!そしたら、もっと変化が解りやすいと思う!」

  「分かった。どんな物か、楽しみだ」

  真剣な表情の中にも新しい知識を得る事への楽しさを滲ませて、青年は微笑む。

  それを見た頼子も何だか嬉しい気持ちになって、にこにこしながら追加で知識を披露した。

  「体積・・大きさは水より氷の方が大きいってのを解りやすい例で言うと・・昨日飲んだビール缶。あれなんかには「凍らせないでください」って注意書きがあんのよ」

  「水より氷の方が大きい・・分かった!膨らんで破裂するのか!」

  「正解っ!だから絶対に伸縮しない素材・・鉄やガラスなんかの容器で密閉した水を凍らせたら駄目なんだよ!容器が割れるからね!」

  「成程!」と頷いた青年だったが何かに気付き、その疑問を口にした。

  「ん?だが待て、なぜ氷になると膨らむ?密閉していたのなら、中身はどうやって増えたのだ?」

  「それは中身が増えた訳じゃなくて・・粒子・・ん~と。こう、水でも土でも、物質ってのは目に見えないくらい小さな粒の集まりで出来てんのね?」

  「・・そうなのか?・・ああ。そう言えば先程、空間に漂っていると言っていたな」

  「そ。例えるなら・・こっちの海には家よりも大きな「鯨」って生き物がいるんだけど、そっちにはどう?何かでっかい生き物いる?」

  「いるぞ?巨人族に大蜘蛛・・竜もいる。聞いたところによると、海にはさらに国ほどの大きさの島亀というのがいるそうだ。それがどうした?」

  「マジか・・異世界パネェ・・・ま、それは置いといて。その大きな生き物から見たらさ」

  そこで頼子は立ち上がって、瓶に入った砂糖を持って来た。

  「この中身の粒が、あっちから目視で確認できると思う?」

  「無理だろ。小さすぎる」

  「ね?でも見えてないだけで、こうして存在はしてるでしょ?」

  「まぁ・・確かに」

  「それと同じでさ。この瓶の中身が水の粒だとするでしょ?今ここまで入ってるよね?」

  と、油性ペンで印をつけると、軽く瓶を振って砂糖に空気を含ませた。

  「はい。これが水が凍ったときの状態。中身を増やしたわけじゃないけど、印より上にきてるよね?つまり、粒子。粒と粒の間に隙間が出来て、増えたように見えるってわけ。で、隙間が無くなると・・」

  そう言って鏡台の端で瓶の底をトントンと叩いてまた印を確認する。

  「はい。また印の位置にまで量が減った様に見えるよね?水の時は粒子が規則正しく並んでぎゅっと詰まってる状態なわけ。だからその分、密度も大きくなるんだよ」

  「納得した?」と小首を傾げると、青年はこくこくと頷きながら「成程、合点がいった!」と理解と納得を体験して目をキラキラさせていた。

  「とりあえず、水についての説明はこんな感じかな?これをより細かく学ぶとなると、先に見せたヤツみたいになっちゃうや」

  「分かった。現状、これ以上は不要だ。早速、魔法が発動するか試すとしよう!」

  「そのグラスを借りていいか?!」と意気込む青年に、頼子も「おー!見せて見せて!」とワクワクしながらコップを手渡す。

  青年は氷の浮いたコップをノートを退けた台の中央に置く。

  と、触れぬように両手をコップにかざした。

  「ふーっ・・よし。行くぞ・・水よ、巡り回れ・・」

  真剣そのものの青年に感化されて、頼子も何となく手を組んで祈る。

  すると・・コップの水面に浮かぶ氷が僅かに動き・・縁をなぞるようにゆっくりと回り出した。

  「動いた・・」

  「動いたね」

  氷は動いた。が、果たしてこれは成功なのか失敗なのか。

  どちらとも判断できなかった頼子は『どっち?』と小首を傾げてコップへ向けていた視線を青年の顔へと移し・・ぎょっ!と目を見開く。

  異世界の青年は両手をコップにかざした状態で固まっており、唖然とした表情のまま両目からぼたぼたと大粒の涙を零していた。

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