旦那様は寡黙で口下手なダンディズム~春はあけぼのデート編
第1話「気分はもう紫式部」
落ち着かない。
どんなになだめても、やはり落ち着かなかった。
春麗らかな昼下がり。辺りから菜の花とか、桜の花とか、色んな草木の香りがする。柔らかな熱をはらんだ日差しは、冬の名残さえ感じさせてくれなかった。どこかそわそわとした感覚が、俺の足元を狂わせる。
鼻先に、柔らかな風が吹き抜ける。
俺は、自分の旦那様を待ち焦がれていた。
待ち合わせに選んだのは、繁華街から少し離れた噴水の前だ。人通りが多い表通りとは違って、ここはどこか落ち着いた雰囲気が漂っている。行きかう人々も、この春のまどろみをゆったりと楽しんでいるようだった。
すぐそこにある、シックなオープンカフェ。
向かい合わせに立ち並ぶ、古き良き古書店。
いかにも映画に出てきそうな花屋に、香ばしい香りが漂うバゲット直焼きのパン屋。
目線を移せば、立ち並ぶ銀杏の木に、レンガ調に整えられた街路樹が辺りをぐるりと取り囲んでいた。派手過ぎず、それでも安さを感じさせない噴水からは、キラキラとした太陽の光をこれまでかと反射している。
これを目の当たりにして、落ち着けというのが無理だった。
そう、言うなれば何もかもがパーフェクトだった。この街並みをデザインした偉人には、是非とも俺から何ちゃら功労賞とかを表彰したい。そしてこんな場所をデートの待ち合わせ場所に選ぶ我が旦那様も旦那様だ。もう目に映る全てのものが愛に満ち溢れ過ぎて、涎が零れる。僕の心拍数も興奮度もハイレベルにマックスきゅんきゅんですよこれは。
さて、待ち合わせの時間まであと30分だ。
バックには歯ブラシと、お口をくちゅくちゅするモンダミン的なものも忍ばせ済みだ。それから何に使うか明白な薄いゴムの袋を一箱と、またもや何に使うか明白なトロリとした透明な液体が入った小さいボトルも準備万端だ。後は首元に漂わせるちょっとエッチなフレグランスと、隙あらば旦那様にこっそり飲ませようと持ってきた精力剤兼媚薬的な何かも完備している。
これらを駆使してはぁはぁと息を荒げる我が旦那様…あぁ、俺の頭の中は今宵も絶賛春はあけぼのです神様。のぼりすぎて沈む気配が全くしない。その内救急搬送とかされないだろうか俺。でもそれはそれで必死に慌てながら周囲に助けを求める旦那様…やべぇ想像しただけで宇宙の法則捻じ曲げそう。
で、改めて顔を上げてみる。
本当に、映画の一こまを切り取ったような光景だ。この中に俺がいるのだから、未だに信じることができない。
向かい側に立ち並ぶガラス窓には、俺の姿が映りこんでいる。
休日出勤を終わらせた、スーツ姿の虎。仲間宏昭、28歳。旦那様は俺の事をヒロアキと呼んでくれる。ふと「ヒロ」と呼んでくれた時は、どんなに鼓膜という鼓膜が歓喜の歌声に震えたことか。あのはにかむような照れた顔…ただただ「たまらん」の一言だった。それが君たちには分かるだろうか?いや、分かるはずもない。
…駄目だ。
また話が逸れてしまった。
ちょっとばかり話を元に戻そう。
本日は俺の旦那様も昼までで仕事をあがる予定だ。元ラグビー部の巨体を誇る俺の体は、どこか緊張したように強張っている。灰色のストライプタイプのスーツの端から見える橙色の毛皮は、今日どんな風に愛撫されるのだろうか。想像しただけで勃起だ。もうギンギンシコシコレベルですよこれは。そして今まで一度も旦那様とはエッチができていないのだから、なおのこと想像が一人歩きしてしまう。
そうだ。
付き合って半年を迎えた今、未だに俺は旦那様と愛の営みを育めていなかった。
そもそも寡黙で口下手な俺の旦那様は、やはりその手には奥手な所があるらしい。俺がそれとなく誘ったとき、顔を赤らめて戸惑うあの厳つい獅子ときたらどれほど可愛かったことか。もし俺にスターでプラチナな能力があったら、時間を無限にとめて360度くまなくありとあらゆる角度から写メをバシャバシャ撮りまくりたい所だった。何度思い返してもそう断言できる。エロスというショッキングピンクに染まった某ぺー様と化した俺を止められるものなどこの世界にはない!
まぁそれはそれでオツな展開だけれども、もういい加減エッチしたい。この雄穴をぶっとい肉矛で貫かれて、あんあん喘ぎたい。それでいてもし旦那様が童貞とかだったら、もうこの世の全ての業を背負っていい程に俺は幸せになれる自信がある。つまるところそれが俺の本音だった。
今日は半月ぶりのデートだ。
年度末だからと、互いに時間も取れない毎日を強いられたけれども、そのおかげで俺は悠々と1ヶ月近くのオナ禁にも成功することが出来た。多忙とは使いようで、こうも益を運んでくれるものとは。そしてそれが旦那様も同じだと考えると…いつでも発射スタンバイ完了です、教授。もう想像だけで俺イッてしまうんではないだろうか。
さて、待ち合わせまであと20分を切った。
いつも待ち合わせには早く到着する旦那様のことだ。妄想はその辺にして、辺りの人影を確かめてみることにした。
爛漫な笑顔に目を煌かせる女子高生達。
映画の一コマをまたもや切り取ったような黒光りの獅子に、厳つい熊のリーマンとイケ渋な眼鏡姿の獅子。どこの帰国子女かよという出で立ちのキャリアウーマン二人組みに、大柄な水牛の…
…いた。
映画の一コマをまたもや切り取ったような黒光りの獅子。
俺の愛して止まない旦那様。真田正宗42歳だ。
黒光りと言うと弊害があるが、黒い鬣に、所々白い柔らかな毛並みが混じっている。全体で見ると黒い毛並みだが、胸元から腹にかけて体の内側は白い毛並みがフカフカと逆立っているのが正宗さんの特徴だった。
聞けば、狼と獅子の両方の血統を持っているらしい。その白い内毛に映えるように生い茂る黒い鬣が、たまらなく渋かった。
顔つきもよくよくと見れば、他の獅子よりもどこか狼を連想されるような獰猛さを感じさせる。その厳つさと渋さの中で、瞳の奥がたまらなく優しいのだから、いつだって俺はこの人と目線を絡ませるのが好きだった。
鋭い眼光と目つきの中に、キョトンとした丸いこげ茶色の瞳が、しっとりとした落ち着いた優しさをはらんでいる。初めてこの人の眼差しを見たときに、俺はもう恋に落ちたんだと悟った。
そんな俺の旦那様は、ベンチに座り単行本へとその視線を絡ませている。真剣に文脈を追うその姿は、まさにダンディズムを濃縮した図だ。雄々しいその巨体も、白地に黒のストライプ柄が入ったカッターシャツに黒いベストを羽織ったビジネスマンチックな風貌も、何もかもが完璧だ。完璧過ぎて鼻血が出てしまう。
この春麗らかな日差しは、正宗さんには少し暑かったのだろうか。
ベンチの隣には、正宗さんが脱いだであろうスーツの上着が横たわっていた。
俺の性欲と言う名の北風と太陽は、正宗さんの服をはだけさせさせたくてやる気満々だ。汗ばんでネクタイをゆるめながらシャツをハタハタさせる正宗さんもオツだし、急に冷え込んだ寒気に手を繋ごうとしてくれる正宗さんももちろんオツだ。長袖のシャツを捲し上げてその筋肉を誇張する正宗さんもいい。寒そうに肩を寄せながら、俺に甘えてくれる正宗さんも言うまでもなく美味しい。マツタケとかトリュフを凌駕する旨味の濃縮に料理の哲人たちも驚きだ。せいぜいお前らは生の赤パプリカでも食っておけ。俺は正宗さんの生キノコをいただく。
俺に甘える、か。
照れるんだろうな、正宗さん。
それでもどこか満更でもなく甘えてくれるこの人の優しさが、俺の萌え萌えポイントを限りなく刺激してやまなかった。
そしてその全てが妄想なのが果てしなく悲しい。
「久しぶりっすね、正宗さん」
駆け足になりそうな自分の体を必死になって抑えながら、平静を装って俺は声をかけた。
ふと、単行本から正宗さんが顔を上げる。
優しいこげ茶色をした瞳が、太陽の光を吸い込んで綺麗だった。
「…すまない、ヒロアキ。つい、読みふけってしまっていたようだ」
完璧なまでのバリトンボイス。
某国境なき部隊を取り仕切っていたとてつもなく大きなボスさんを遥かに凌ぐ渋さですよ正宗様。
そしてそのバリトンでイケイケな渋いボイスを、今この瞬間俺だけが独り占めしているんだよな…俺。
我が鼓膜はあなた様の甘い喘ぎ声も聞きたく聞きたくて待ちわびておりますぞ、正宗様!
「いいんすよ。俺もさっき来たところですから」
「…そうか?」
「ええ。でも早かったっすね、正宗さん。まだ待ち合わせまで20分近くあるのによ」
わざとらしく、俺は何も知らない素振りをしてそう投げかける。
我が旦那様が待ち合わせの時間30分前に到着するのは、以前の実績から統計済みだ。
俺が来ないかと今か今かと待ちわびる正宗さん…それを眺めているだけで計り知れない幸せが俺に押し寄せる。
寝る前にその写真と動画を眺めるのが一日の楽しみなんだ。良い子の皆は内緒だぞ!
「…まぁ、な。お前に会えると思うと、その…居ても立ってもいられなくなってな」
「そ、それって――」
来た。
まさかの不意打ちクリティカルヒット。
耳を伏せて照れくさそうに頬を掻くって、一体何人の人々を萌え殺すつもりですかあなたは。
最初の犠牲者はもちろん私です。ありがとうございます天の神様。
「え、でも仕事は…」
「…切り上げてきた」
マジかよ。
そこまでしてきてくれたのか。
「よ、良かったすか? 正宗さん、仕事凄まじく忙しいって…この前だって、残業で日付越えたってメールで――」
「…だからだ」
静かに目を細めて、正宗さんは笑う。
パタンと、彼が手にしていた単行本がそのページを閉ざした。
「…最近は、なかなか電話もメシも一緒に行けなかったからな。お前に会えるのを楽しみに、今日まで頑張ってこれたんだ。これ位の贅沢はしておかないとな」
あぁ、駄目だ。
泣きそう俺。今この瞬間を録画できない悔しさで、身も心も悪魔に食われてしまいそう。
もう感激過ぎて心がプルプル震えて止まらない。
「ま、正宗さん…」
「…じゃ、行こうか。少し遅めのお昼にはなってしまったが…」
苦々しく笑いながら、我が旦那様はベンチから立ち上がる。
俺を迎えいれてくれるように、片手で畳んだスーツの上着を抱えながら、もう片方の腕を広げて体をこちらに向けてくれる正宗さん。
その温かそうなベストに埋もれた、厚い胸板と鬣のフカフカにマズルを押し付けたい。ていうか抱きつきたい。
「いえいえ。俺も、ちょうど腹が減っていたことだったんすよ。ちょうどよかったです」
ええ。
色んな意味で空腹です。
とくに下腹部が飢餓状態で涎が垂れそう。
「…そうか! じゃあ…行こうか。店はすぐそこなんだ」
パッと笑顔を向けながら、彼はその脚を踏み出していく。
俺はそれに寄り添うように歩幅を寄せると、二人一緒になって歩き出した。
微かに、正宗さんのコロンの香りがする。
ずっとクンカクンカしていたい魔性の香りだ。この空気ジップロックにつめて保管できないのだろうか?
「なぁ、ヒロアキ」
「はい?」
例の如くイケ渋なバリトンボイスに呼ばれて、現実へと引き戻される俺。
頭二つ位上を見上げれば、黒光りする獅子の顔がすぐそこで俺を見つめていた。
確かに今、この人と一緒に肩を並べて、歩いているんだよな…俺。しかも友達とか職場の先輩としてではなく、一人の恋人として。
それが、なぜか嬉しくてたまらなかった。
「…今日は、その…」
そこで口ごもりますか、先生。
何この厳つい生き物超可愛いんですけど何なんですかこれは。俺を一体何回萌え殺す気ですか先生。
けどこんなことでへこたれる俺じゃない。一体何度この萌え死に戦線を潜り抜けてきたと思っているのか?
さぁ、来い!
どんと受け入れてやる!
「その?」
「い、いや! 今日は、その…もし、お前が良かったらだな。…ずっと、一緒にいられたらいいなと…そう思って、だな…」
即死でした。
第2話「迅速かつ隠密に地雷を設置せよ」
たどり着いたのは、最近オープンしたばかりのテラスカフェだった。
コーヒー類はもちろんのこと、ハーブティー関連の紅茶にもかなりの力を入れているらしい。これは紅茶好きの俺にとってまたとない話だった。正直テンションばり高で上がる。
俺の好みを考えながら、この店を選んでくれたのだろうか。
もう愛されていると実感ありすぎて生きていくのが辛い。別に死なないけどぶっちゃけ辛い。それ位嬉しいチョイスだ。
メニューに目を通すと、食事にも結構な力を入れているようだった。おしゃれな洋食屋さんと言っても過言ではない。そしてメニューの大半を占めているおいしそうなスイーツの数々…
フルトン回収する逸材を発見した気分だぜ、ボス。
これはできる限り隠密に、そして迅速に事をおこさなければ。
俺の飽くなき正宗萌えポイント補充のチャンス、見逃せるはずもない!
「ここも仕事で来たんですか?」
柔らかなソファーに体が吸い込まれそうになりながら、俺は言葉を続けた。
メニューから顔を上げて、目の前の黒い獅子は静かに笑う。
「…あぁ。この前の取材でな。ここのオムライスが一品だと聞いたよ。いつかお前を連れてきたいなと思ってな」
あぁ、その一言だけで俺泣ける。
さりげない一言一言に俺への愛をしたためる正宗さん…流石俺の旦那様としか言えない。
正宗さんの仕事はと言うと、平たく言えば出版会社のライターと言った所だった。スパイグラスマガジンというファッション雑誌から派生した「ラパス」という男性専門誌に専属で記事を書いているらしい。
読者層はまさに、ダンディズム溢れるおじ様方や、イケ渋で落ち着いた大人という冠を被ったセレブ層達だ。今目の前にまさにそれを体現しているかのような獅子が自然体でいるのだから、お前は生きた「ラパス」かよというツッコミを一体何度いれたことか。そんなイケ渋でダンディズム溢れるお洒落な紳士が俺の恋人なんだから、人生何が起きるか分かったもんじゃないとつくづく思う。今でもそう思える。
というか、完全に釣り合ってない。俺達。
悲しいことに、俺にはそんな素敵なパラメーターなんてあるようには思えん。
正宗さんは、こんな俺でいいのだろうか。
駄目だ不意に寂しさが込み上げてきた。
「正宗さん、もう決まりました?」
話題を変えるように、俺は正宗さんに声をかける。
メニューの裏側からヒコヒコと揺れる獅子耳…あぁもう超可愛い。
「あぁ。ヒロアキは?」
「俺もだいたい決まりました。じゃあ…店員さん呼びますかね」
俺のゴツゴツとした手の平を上げて、ウェイトレスさんを呼び止める。橙色に染まった虎模様の毛皮は、まるでヒトカゲとかリーザードンとかそんな類の色だ。何度も見慣れた自分の手を見て、ふとそう思い返してしまう。
「お待たせいたしました。ご注文でよろしいですか?」
「あぁ。アイスコーヒーと、タンポポオムライスの牛肩肉がホロホロになるまでじっくり煮込んだお肉たっぷりの濃厚ビーフシチュー仕立てを一つ。あとは…」
そんな女子力高いメニューをそのバリトンボイスで読み上げますか。
てか普通に美味そう何それ見てなかった。
これは俺も正宗さんに続けるしかない。
「俺はオレンジハーブティーのホットと、俺も同じオムライスを一つ。あと、デザートですが…」
その瞬間、目の前の獅子の耳がピクリと反応する。
かかった。
ミッション、スタートだ。
「正宗さん、デザートどうしますか?」
「む…そ、そうだな…ヒロアキはどうする?」
「俺は正宗さんがいただくなら、俺も頼もうかなと思いますよ。ここのスイーツ、結構凝っているみたいだし」
そう。
何を隠そう、我が旦那様正宗さんは大の甘党なのだ。
それも一日に一個は必ずスイーツをお召しになられる程の、大の隠れ甘党だ。それを発見した時、どんなに俺が萌え死にそうになったことか。それを悟られまいと平静を装うのは、まさにインポッシブルなミッションだった。
宙釣りになったトム・クルーズでも至難の業だったんじゃなかろうか。ヤバイ頭の中で例のテーマソングが流れ始めてしまっている。
メニューを見たところ、正宗さん的ヒットは「シナモンがふんわり香る甘酸っぱい青林檎のサクサクアップルカスタードパイ~たっぷりのメープルシロップと手作り林檎ジェラードを添えて~」か、「摘みたてベリーがゴロゴロ入った季節のショコラフランボワーズ風ムースタルト~カカオ香る濃密ソフトクリームにオレンジの爽やかなソースを添えて~」が有力候補だろう。
このどちらかを選べと言うのは、きっと正宗さんには断腸の惜別だ。だからこそ攻略できるイベントというものがある。このイーサン・ハントに不可能なミッションなどない!
「そうだな…では、いやこれも…うーん…」
悩ましそうにメニューに目を釘付けにして、あちらこちらと目線を動かす黒光りをした獅子、42歳。ストライプ柄のカッターシャツに黒いベストを羽織ながら、黄金色のネクタイを締めて女子力高いスイーツに思い悩むその姿。もう超可愛い何なのこれ。その厳つさとダンディズムの中にそんなお茶目な仕草見せちゃいますか。こらウェイトレスさん、萌え死にそうな至福の笑顔を必死に堪えながらじろじろ見るんじゃない。これは恋人である我にしか拝謁が叶わない超レアモノなイベントですぞこれは。ファンクラブ特典でも珠玉のレアもものだ、お前なんぞに分かるはずもない!
「じゃあ…『シナモンがふんわり香る甘酸っぱい青林檎のサクサクアップルカスタードパイ~たっぷりのメープルシロップと手作り林檎ジェラードを添えて~』を一つ」
「デザートはお食事後にお持ちしてもよろしいですか?」
「…あぁ。頼む」
よし、そう来たか。
ここまでは読み通り。流石俺の分析力、度重なる俺のリサーチも捨てたもんじゃない。
てか正宗さんまたこの女子力高いメニューを完璧なまでに読み上げたな、そのバリトンボイスで。
普通噛みそうな所を絶対噛まない。それが正宗クオリティー。
「じゃあ、俺はこの…『ショコラフランボワーズ風ムースタルト』で」
「お客様もデザートはお食事後にお持ちしてもよろしいですか?」
「ええ、お願いします」
正宗さんの顔がピクリと反応したのを、俺は横目で見逃さなかった。
ちょっとそわそわし出す黒光りの獅子。そしてそれを見てニヤニヤなりそうになるのを必死に堪えて平静を装う橙色の虎。
一体何なの俺達は。
「では、先にお飲み物をお持ちしますね。少々お待ち下さい」
一礼をして、ウェイトレスさんが奥へと消えていく。そしてその瞬間、彼女が俺に対しさりげなくウィンクを投げかけたのを見逃さなかった。
まさか・・・そなた。
同士、か・・・?
前世で共に正宗さんの萌え萌えポイントをあく無き探求し続け、命をかけてその珠玉の悦びを守り貫き合った・・・その同士が、今ここにいる。
おお、神よ。
また一人、我が旦那様のファンが一人増えてしまいました。
腐女子とは思えんその出で立ち、その女子力が高い洗練された立ち振る舞い・・・まさにくノ一と呼ぶにふさわしい。
この場にスパイが2人も集うとは!!
良い!!
良いぞ!! この展開!!
・・・とは言えあまりにも完璧過ぎる読みに、自分でも怖くなる。これも正宗さんへの愛の賜物か。夜な夜な分析レポートをまとめただけの甲斐はあったものだ。
そういえばこの前、俺の親友兼同僚の竜司にそれを見せたときはめっちゃドン引きされたんだっけ。今日ラインで我が旦那様のおニューな写真でも送りつけてやろうかこの野郎。精々萌え死ぬがいい。
「…そういえば、最近どうだ?ヒロアキの所は」
「仕事とかですか?」
「…あぁ。最近お前の所も忙しかったんだろう?」
「まぁ…年度末の整理で結構忙しかったですけど、峠はやっと越えましたよ。途中何度か倒れそうになりましたけど」
そのお陰で本日まで長きに渡るオナ禁にも成功しました。
「…そうか。…大丈夫か?」
声色を少し心配そうに落とす正宗さん。
あぁ…その思いやりだけで成仏できる。
「ええ。しっかり休みも取れてますし、大丈夫ですよ。もうピンピンっす」
主に下腹部が。
「…そうか。…あまり無理はしないようにな。なかなかそれが許されない時もあるだろうが…」
その憂いに花束を捧げたいです。
てかもう雰囲気が紳士過ぎて英国人になりそう俺。
「でも、俺嬉しいです」
「ん?」
「今日こうやって、正宗さんと会えて。久々でしたし」
「…そ、そうか…?」
満更でもなく目線を泳がせながら、頬を掻く黒光りなダンディズム獅子。
たまりませんなぁ…
「そういえば、今日これからどこに行くんですか?」
「今日か?」
「ええ。そういえばまだ、何も聞いていなかったなと思って」
今更だが、結構これって珍しいケースだ。
いつもなら、「なぁ、ヒロアキ。今度はどこに行きたい?」的な正宗リーサーチがあるのだが、今回はそれがない。唐突に「会えないか?」というラインの文章から発生した、突発的な超予測不だったデートだ。
もう嬉しくてたまらない。
嬉しくてたまらないのだけれど、ちょっと気になる。半分はワクワクとした期待感で、半分は性的な興奮だろうか。もしかしたら今夜俺赤飯炊くのかもしれない。いや、そこは明日の朝赤飯だろうか。正宗さんと初めて迎えた朝チュンで一緒に食べる赤飯…いやぁなんだか恥ずかしいなぁおい!
「そうだな…とりあえずここを出た後は、買い物に行こうかなと思っている。少し見たいものがあってな」
「買い物ですか?」
あら。
これはまた珍しい。
「久々ですね。正宗さんと買い物って」
「あぁ。たまにはいいかなと思ってな。その後は…水族館でもどうかなと思っている。今日はナイトショーがあるらしいんだ」
何それ超ロマンテックじゃないすかそれ。
初キッス来るか。来てしまうのか、今夜。
藍色に染まる水槽のガラス越しに目と目が重なり合って、惹かれあうように手を取り合って…あぁもうそれディカプリオ版ロミオじゃん。俺今夜ジュリエットになるのかよ。どうしよう俺このままだと死んじゃう。
「お待たせしました。お先にコーヒーと、オレンジハーブティーになります」
妄想をかき消すかのように、ウェイトレスさんの可憐な声が俺を現実へと引き戻す。
爽やかな柑橘系の香りが、鼻先をくすぶる。カップへと紅茶がそそがれる、この瞬間がいつも俺は好きだった。ふと、心が洗われるような気さえする。
真っ白なカップに注がれる柔らかな栗色の水面が、俺の鼻先をしっとりと濡らす。橙色をした、俺の虎模様の毛皮のようだ。それが俺の指先をじんわりと、心地よく温める。
「…うまい」
その一言で全部集約されてしまった。
あぁもうたまらんなにこの紅茶。どうやったらこんな美味しく淹れられるの。そして目の前の正宗さんはというと…うわ、めっちゃ幸せそうな顔してる。まさに至福の顔。超写メ撮りたいんだけど。そしてこのコーヒーのほろ苦い香りと、カップを片手に微笑む黒光りの獅子…ベストドレッサー賞とか何ちゃら眼鏡賞のノリでベストコーヒニスト賞取れんじゃねぇのこれ。余裕の受賞でしょこれは。
「…うまいな」
「…ええ。流石です、正宗さん」
もう色んな意味で流石です。
「それはそうと、明日ヒロアキは仕事休みだったよな?」
「ええ。久々に今週末は休めそうですよ」
つうか今夜は正宗さんと熱い夜を過ごすから休めねぇんだけどな。
愛に満ちた粘液でお腹一杯に疲れ果ててしまいたい。
何言ってんだ俺。
「そうか。実を言うと、俺も明日は休みなんだ。急ぎの仕事が週明けになってしまってな。俺も久々にゆっくりできそうだよ」
マジか。
ということは、つまり――
「え、じゃあ正宗さん…」
「…まぁ、なんだ。今日は久々に羽目を外しても大丈夫そうだな。お互いに…」
それは夜通しエッチをする宣言ですか正宗さん。
このテンションの高さに果たして俺の心と体はもつのだろうか。もちそうで怖い。
…どうしよう。
ツッコミ役がいない。
窓の向こう側に目を向ければ、そこはもう春の半ばを向かえた優しい日差しが辺りを包み込んでいる。もう少ししたら初夏と言ってもいいのだろうか。爽やかな風を感じさせる若葉の揺れが、爛々とした光を輝かせていた。こうしてこの人と季節をまた跨げる嬉しさが、ふとこみ上げてしまう。
俺も今年で29歳か。
20代最後の今年は、正宗さんにどう映るのだろう。初めて30歳を迎える時も、この人は俺の隣にいてくれるのだろうか。
俺は、その時もこの人の隣にいていいのだろうか。
「…ヒロアキ?」
ふと、俺を呼ぶ声が聞こえた。
その声に呼び出されるように、現実へと生還する俺。
あ、正宗さんだ。
超可愛い。
「…え? どうかしました?」
「…いや。少し暗い顔をしているように見えてな。…大丈夫か?」
目を細めて、チョコレート色をしたその瞳を俺へと向ける。
その真剣な眼差しに、心が奪われそうだった。
胸の奥に、ドクンと痛みが高鳴る。
「え、え…!! いや、俺は…何も――」
突然の事で、頭の中が一瞬パニックになりかける。そんな俺を見て、この人の表情が悲しそうに陰を落としたのを俺は見逃さなかった。
一瞬の、些細な変化だ。
その刹那に、この人の本音が垣間見えたような気がする。
自分が本気でこの人とキスをしたいと、そう思った。その瞬間だった。
「…お待たせしました。タンポポオムライスの牛肩肉がホロホロになるまでじっくり煮込んだお肉たっぷりの濃厚ビーフシチュー仕立てになります」
現実から呼び出されるように、ウエイトレスの可憐なその声で引き戻される。ていうかこの腐女子なウェイトレスさんも息継ぎしないで一気にメニュー全部読み上げちゃったよ・・・なんで皆噛まねぇの?
目を向ければ…うわぁ何だよこれ。正直想像以上だった。プルプルに煮崩れたお肉がデミグラスソースの中でゴロゴロ震えているし、トロットロの分厚い卵が絡みに絡み合って見ただけで美味いのが分かる。チキンライスとか米が光輝いて一粒一粒が立っているよ。アクセントでかけられた生クリームがその輪郭を滲ませて、ホカホカに湯気だった濃厚な香りが凄い。
これは正宗さんが俺を連れて行きたいと言うのも分かる。
「凄いっすね、これは…」
「…あぁ。味は保障する。なかなかだったぞ」
嬉しそうに、口元を緩める正宗さん。
その顔を見ただけで、自分の心のどこかがふと温かくなるのを感じた。そして俺は、本当にこの人に惚れてしまったんだと改めて思い知らされる。
「いただきます」
「・・・あぁ。いただいてくれ」
スプーンで柔らかな黄金色の海をすくい上げる。
うわぁもうなんなのこれ。これ庶民様が本当に口にして良い料理なの? 正宗クォリティーで世界で一番有名なレストランとかじゃないよね、ここ。
落ち着け、落ち着くんだ自分。
まずは一口。一気に頬張るんだ。その結果頬が落ちちゃってもあとでフルトン回収すれば問題ない!!
「・・・うまっ」
墜ちちゃったよ。
俺の頬。秒で墜ちたよ。耐える余力すら見せずに墜ちちゃったよ。
てゆうか何なのこれ? ライスの一粒一粒がチキンや野菜のうまみを吸って、それを濃厚なトマトソースが一つにまとめ上げている。バターの薫り高い甘さが引き立つトロトロの卵がそれを遺憾なく包み、とろける程に煮崩れた牛の程よい脂身を含む繊維がほどけて・・・それが一体となって一つの味を作り上げている。
もう駄目だ。
こんな場所に、こんな料理でデートコースを編成するなんて。俺、もう正宗さんと結婚するしかないじゃない。
グッパイ、俺のバージン。こんにちは、正宗さんとのいちゃラブハネムーン。
正宗さんが旦那様なら・・・え、俺花嫁? ウエディングドレスとか着ちゃう? いやだなぁもう恥ずかしいなおい!!
「旨いか・・・?」
「ええ!! 本当に美味しいですよ正宗さん!! ありがとうございます、本当に・・・」
そして正宗さんと一緒に食べるこの奇跡・・・神の力としか言えぬ。
主よ・・・この身を委ねます。
「・・・そうか」
優しく、俺の旦那様は目線を逸らして微笑む。
その神々しい姿・・・あなたは聖処女ジャンヌか。・・・いや、駄目だ。聖処女だと俺、正宗さんとエッチぃことできない・・・
ここは期待も込めて性処女としとくか。処女喪失するのは俺だけど。
「本当は・・・お前ともっと一緒にいてやりたかったんだが・・・すまない、宏明。また、待たせてしまったな」
え、俺・・・主人の帰りを待つ小姓みたい。
戦に身を投じ、死線をくぐり抜ける正宗さん・・・そして最愛の主人の帰りを涙ながら、一人寂しく待ち続ける俺・・・
マジでこの黒光りの獅子、武士顔負けの佇まいしているから妄想が捗っちゃうよおい!!
「・・・いえ。俺も・・・こうやって正宗さんと会えるからよ。それだけで、俺は嬉しいよ」
「そ、そう・・・か?」
「・・・はい。俺だって、正宗さんの恋人でいられる事が・・・本当に夢みたいなんだ。あなたと一緒にいられて、本当に・・・」
俺、めっちゃ愛の告白してない?
正宗さんを見ると・・・あ、やばい。これはやばい。よい子の皆には到底見せられない。
どうしよう俺もだえそう。
「・・・俺も、そう・・・だな。そ、その・・・」
耳の内側を真っ赤に染めて、穂がついた雄々しい尻尾は右往左往とあっちに行ったりこっちに行ったり・・・
口元を手の甲で恥ずかしげに塞ぐ黒光りの獅子。その表情、照れくさげに超喜んでること間違いなし。
それって・・・俺と一緒にいられてグットってこと?
ていうか、俺の言葉でそんな悶えてんの!?
・・・俺じゃあるまいし!!
「・・・ありがとうな、ヒロ。・・・お前で、本当に・・・良かった」
優しく、俺に微笑みかける黒光りの獅子。
所々に混じる白い毛並みが、太陽の光に透けて輝いている。その奥で明るい茶色をした優しい瞳が、俺を真っ直ぐに見つめていて・・・
駄目だ。
俺、もう吐血しそう。
なんでこんな時に限ってインスタ蠅がかったパパラッチはおらぬのか!!
俺のインスタは全て正宗さんコレクションで一杯だ!! まだ開設してないけど!! ウェイトレスさーん!! ウェイトレスさーん!! お金・・・お金あげるから、盗撮して!! このケモでホモな俺達の光景を・・・主にイケオジで寡黙で少し照れ屋な優しいこの獅子の姿を盗撮してくれ!!
そんな感じで目の前のオムライスを召しながら、談笑を弾ませる俺達。
なんだが、今日は正宗さん上機嫌だ。いつも見られる緊張というか、雄々しい気迫が随分まろやか。
少しずつ、俺にも心を赦し始めてくれているのだろうか・・・え、それって今夜は初夜ってこと?
正宗さんが選ぶ話題も豊富だ。
仕事のこと、同僚のこと、取材のこと・・・主に「ラパス」で取り上げた今旬の話題ばかりだ。おかげで俺は、世に出版される前にイケオジブランド最新情報に精通してしまっている。普段着る洋服から、腕時計などの小物品、手帳や万年筆といった些細なビジネスグッズまで。今では男性向けのエステサロンも主流らしい。実際に正宗さんもそれを体験して、今度俺を連れて行ってあげたいと言ってくれた。
・・・ん?
ちょっと待て。
それって、正宗さんが俺に・・・実は個別のエステマッサージをして欲しいという伏線か?
全裸にバスローブ姿で横たわる正宗さん。大柄な獅子の身体、固い筋肉の凹凸に覆われた腹筋と丸太のような両腕・・・真っ黒な毛並みに映える、腹部の雄々しい白くやわらかな毛先。むっちりと固い太ももの付け根には・・・わぁおもうこれ以上は俺勃起しちゃう。正宗さんにマッサージする前から昇天しちゃう。
正宗さん、俺に照れくさそうに「リフレッシュ、ありで・・・」とか言っちゃうんだろうか。え、それってもしかして俺の中に中だししてくれるってこと?
そんなOTU♂な妄想も交えながら、俺達は目の前の食事を楽しんだ。
目の前の皿を下げられ、温かなドリンクが再びカップへと注がれる。
・・・そうだ。
本日のメインはここからだ。
俺の股間に宿りしイーサン・ハントよ。準備は万全か?
メインテーマを脳内再生大音量でオン!!
「お待たせしました・・・こちら、食後のデザート・・・“シナモンがふんわり香る甘酸っぱい青林檎のサクサクアップルカスタードパイ~たっぷりのメープルシロップと手作り林檎ジェラードを添えて~”と、“摘みたてベリーがゴロゴロ入った季節のショコラフランボワーズ風ムースタルト~カカオ香る濃密ソフトクリームにオレンジの爽やかなソースを添えて~”になります。・・・ご注文の品は、以上でよろしかったでしょうか?」
「・・・あぁ」
「それでは、ごゆっくりお楽しみください」
伝票を正宗さんの横に添えながら、しとやかに微笑むウェイトレスさん。またも息継ぎせずに一気に読み上げぞあの人・・・ここは女子力高いメニューもその攻撃力は腐女子の前では微塵となるのか? 絶対噛むぞ俺。
そして眼下に広がるは・・・うわぁもう想像以上。ここにインスタ蠅いたら絶対女子達がパパラッチと化しているよこれ。まるで正宗さんの一喜一憂を捉えて離さない俺じゃん。黄金色をした焼きたてのアップルパイに、シナモン薫る細やかな木目色の雪化粧、そしてそれを覆い尽くすような樹液のように甘い香りを滴らせるメープルシロップの網目模様・・・その熱に溶かされるように、淡い黄緑色をした青リンゴのジェラードがその細やかな氷の粒をキラキラと光らせている。俺のムースタルトといれば・・・うわぁこっちもやばい。ショコラとベリーを交互に合わせたムースタルトの上に、黄金色輝く大きな翼のような飴細工・・・木イチゴやブルーベリーといった甘酸っぱい大小様々の果肉が、夜露を含ませるように太陽の光に照らされて輝いている。オレンジのジューシーな果肉を思わせる山吹色のソースが、杏の甘酸っぱい香り遺憾なく漂わせるビターなソフトクリームと絡み合い・・・一つの芸術作品のように煌めかせる。まさに圧巻の一言だった。
正宗さんを見てみると・・・あ、やばい。
目が超キラキラしている。
クリスマスプレゼントを開ける前の子供でもこんな無垢な表情見せねぇぞ。女子力バリ高のスイーツを目の前に、目を輝かせてときめく雄々しい黒光りの獅子・・・あぁんもう可愛いなぁおい!! 知ってたけど!!
「それじゃあ、いただきますか」
「あ、あぁ・・・」
平静を装い一口スプーンを運びながら、しっかりと正宗さんの表情を確かめる俺。ナイフとフォークを器用に使いながら、とろりとしたソースを絡める。そして・・・
「っ・・・!! ・・・んっ・・・」
来ました。
来ましたよ、皆さん。
正宗さんのファブュラスに至福な笑顔。目を細めて、頬を緩めて・・・あぁ、なんてお美しいお姿なんだ。究極生命体某姉妹でもこんな光輪世の人々にまばゆかせるはずはない!!
「おいしいですか?」
「・・・あぁ」
そのうなずきに、ものすっごい重みを感じる俺。
まさに至福の瞬間。宇宙の法則ねじ曲げそうな重力場と化す俺。
萌えすぎてもうブラックホールになりそう。
「俺のも凄く美味しいですよ。・・・どうすか? 一口」
その一言に、目の前の猫耳がピクリと反応する。
・・・かかった。
ミッション、スタート。
「・・・い、いいのか?」
「おうよ。正宗さんだって、俺のも食いたいだろ?」
イーサン・ハントと化した俺の誘導尋問に、悶え始める黒光りの獅子。
目線が右往左往と泳いで、落ち着く無くその尾はうねらせる。・・・可愛いなぁおい。世の万民ども!! 乙女じゃ!! 乙女がここに舞い降りたぞ!!
「い、いや・・・しかし、だな・・・むぅ・・・」
何を迷う必要があるのだ、子羊よ。
我が導きに、その心を委ねたまえ。さすれば幸福の光はそなたにさしのべられるだろう。
この、珠玉の法具・・・お口、あーん作戦によって!!
「・・・ほら、遠慮せずに。はい、あーん・・・」
ショコラタルトをスプーンですくって、彼の前へと腕を伸ばす。
その瞬間、彼の顔が恥ずかしそうな戸惑いを見せた。猫髭を逆立てて、ゴクリと大きな喉仏を上下にさせる正宗さん・・・あ、ウェイトレスさんの視線が痛い。あの人も固唾を飲むように釘付けだよ。さすが腐女子。
「・・・い、いいのか・・・?」
「もちろんっす。俺も、正宗さんに食べて欲しいからよ」
その一言に、正宗さんも意を決したのだろう。
大きなマズルが、ばくんと銀のスプーンを包み込んだ。その瞬間、鼻先をすぴすぴさせてその味に悶え始める黒光りの獅子・・・俺のミッションは今ここにコンプリートした!!
目を向ければ、さっきのウェイトレスさんがこちらを見て微笑んでいる。
嬉しそうに、静かに頷きながら軽くその両手を拍手のように重ね合わせて・・・同士よ、やはりそなたも仲間だったか。よかろう、今宵はこのネタを元に薄い本を描くよい!! 我が代表してその新刊はいち早くこの私が良い値で買おうではないか!!
「・・・どうすか?」
「・・・あぁ。旨いよ、ヒロ。・・・ありがとう」
照れくさそうに目の前の獅子は笑う。
ふと目を向ければ、さっき拍手を送っていた腐女子のウェイトレスさんが親指を立てて俺に笑顔を送っていた。
“グッジョブ!!”
“良くやった!!”
無言のまま交わされる賛辞の声に、俺は頷いて感謝の意を表明した
“ありがとう・・・ありがとう・・・!!”
“・・・俺、絶対幸せになるからな・・・!!”
スプーンを自分の皿へと戻し、次の一口を自分のマズルへと運ぼうとした・・・その時。
俺は、気づいてしまった。・・・いや、気づいていなかった。
この最大幸福、神の成せる業とも言える奇跡に。
もしかして・・・
もしかして、これは・・・
“間接キス”って奴じゃないの・・・か?
「・・・うまいな、宏明。・・・お前をここに連れて行けて、良かった」
「それは俺もです、正宗さん。・・・俺も、この場所を教えてくれて・・・嬉しかったからよ」
そんな言葉を続けながら、慌ててさっきの腐女子なウェイトレスさんに目線を送る俺。彼女は俺を促すように、目を開きながら何度も頷いた。
“何をしている、我が同士よ・・・この偶然を見放すおつもりか?”
“お口あーんからの間接キス・・・そのお約束を味合わずに、そなたは誠にその殿方の伴侶か・・・?”
“さぁ、味わうのです・・・同士よ。卑しい私めに、ケモでホモな瞬間を共に享受させてくださいまし!! ・・・さぁ、さぁ!!”
確かな意思を持って、彼女は頷く。
俺は意を決すると、一気にそれを頬張った。
口に広がる、爽やかなオレンジの果汁と、甘酸っぱいベリーのジューシーな果肉・・・そしてそれを濃厚に包み込む、微かに杏の香りがするビターなショコラのムースと、甘く愛おしい、正宗さんの・・・
悶え死にました。
第3話「ラブ♂ロマンスは突然に」
死因が萌え時ぬという危機的状況をなんとか抜け出した俺は、我が旦那様と一緒に街路樹を歩いていた。
どうやら、次は買い物に行くらしい。
辺りはきらびやかなショーウインドウが並ぶ、ブランド街だ。取材でこの辺りには良く来るんだと、そう正宗さんは笑いかけてくれた。
柔らかな風が、俺達を包み込む。
太陽の香りが胸一杯に溢れて、ただ心地よかった。すぐ隣から薫る、正宗さんのスパイシーで大人なコロンの香りが鼻先を燻る。いつだって俺は、この香りを嗅ぐのが好きだった。
並んで歩けば、頭3つほど背丈が違う俺達。ちょうど俺の頭は、正宗さんの肩の辺りだ。大学まで元ラグビー部誇っていた俺の巨漢も、正宗さんと隣に並ぶと小柄に見えてしまうから不思議だ。その巨漢で、どう見てもどう猛な獅子そのものなのに・・・寡黙で照れ屋で、ちょっと奥手だけどものすごく優しい正宗さん。あなたは神以上の存在か。
「・・・ここだ、ヒロ」
例のバリトンボイスで、妄想から強制帰還をさせられる俺。
目の前には、黒字に黄金色の装飾が施されたブランド店がその扉を開かせていた。確か、以前正宗さんがラパスでも記事に取り上げた所だ。この辺りで一番高価なお店なんだと正宗さんが話してくれていたから、よく憶えている。
・・・ん?
・・・ちょっと待て。
この辺りで、一番高価なお店・・・だと?
「・・・実を言うと、探しているものがあってな。宏明にも、普段俺が取材してる店には・・・そういえばあまり連れて行けてないってことに気づいてな。・・・お前には、できるだけ・・・知って欲しかったんだ。仕事のこともそうだが、その・・・俺の、こともさ」
そう照れくさげに、頬を掻きながら笑みを零す正宗さん。
どうしよう。
俺、めっちゃ愛されてる。
「正宗さん・・・」
「・・・まぁ、なんだ。見てみるだけでも、十分に楽しい場所だ。・・・行こうか、ヒロ。俺が、案内する」
我が旦那様のエスコートに導かれるまま、店内へと入る俺。
扉をくぐれば、吹き抜けになった高い天井が広がっていた。きらびやかシャンデリアに、数々の照明・・・まさに、圧巻の一言だった。商品を照らす為か、至る所に光源がある。その光に照らし出される正宗さんは、まさに芸術作品だ。・・・とうか、この店の数々の装飾品にも、煌びやかな雰囲気にも・・・似合いすぎだ、正宗さん。・・・流石、生けるラパス。芸能界にもこんな逸材いねぇんじゃねぇのか?
色んな小物を指さしながら、俺に解説をしてくれる正宗さん。ネクタイピンから時計、そして手帳カバーまで・・・全てが洗練された一品だ。値札を見れば・・・マジかよおい。俺の年収より高い奴がゴロゴロ並んでいる。
「今日は何を探しているんですか?」
目の前の気迫に負けながら、俺はふとそんな言葉を投げかけていた。
大きな獅子耳が、ピコピコと揺れる。
・・・可愛いなぁ、もう。
「・・・あぁ。ネックレスだ」
「ネックレス?」
意外だ。
そう言えば正宗さん、いつも俺と会うときスーツ姿だから彼がネックレスをしている所は俺も見たことがない。
「・・・あぁ。できれば、指輪を入れる事ができるものを探しているんだが・・・用途が限定されれば、品数も少なくなるからな。良いものを選ぼうとすると・・・なかなか難しくてな」
苦々しく、我が旦那様は笑う。
聞けば、今度の記事にそれを掲載したいらしい。指輪とセットになって売られているものは数多くあるが、それだと指輪の価値が下がってしまう。普通のネックレスでは傷や色落ちのことを考えれば、用途に特化したものの方が適任だろうと彼は笑った。
流石我が正宗さん。
その知性的な所も、それをそのバリトンボイスで優しく俺に説明してくれる所も・・・何もかもがファブュラス。
・・・そうだ。
この店、絶対あの姉妹来ているよ。絶対。
「・・・なぁ、宏明」
「おうよ」
「・・・これ、どう思う?」
指さされたのは、手の装飾品だった。
五本の指輪から、細い鎖が手首の装飾まで繋がっている。ファッションショーでもなかなか見ないものだった。マネキンの腕に付けられたそれは、どこかの映画の中でしか見たことがない。これ・・・正宗さんがつけたらどんな風になるんだろ。・・・石油王? アラブのセレブ? どれも似合いすぎて乙だなぁもう!!
「・・・ちょっと試してみるか?」
・・・え?
この黒光りな獅子・・・今なんつった?
「え、いいんすか・・・?」
「あぁ。宏明も普段こんなものをつける機会はないだろう。・・・顔なじみだから、大丈夫だ」
さりげない優しさ。そして驚愕の顔パス宣言。
雄々しい我が旦那様が軽く手を上げれば・・・うわぁ速攻で来ちゃったよ店員さん。しかも、じゃらしゃらとした鍵束持って。
このショーケース開ける気満々じゃん。
「・・・すまない。これを彼に試させてもいいか? 記事でどう映えるか見てみたい」
「かしこまりました」
たったその一言で、素早くショーケースを開ける店員さん・・・
え、ちょっと待って。正宗さん、本当にただの雑誌記者・・・だよね?
まさかどこかの貴族とかセレブとか・・・いやいや流石にそんな訳ないだろう。
でも正宗さんの生まれがどうであれ、遺伝子・・・濃そうだしなぁ・・・
つか、冷静に考えろ。獅子と狼の両方の特性持つって・・・ケモ好きにはたまらんその神設定やばすぎだろ。確かに、全体的な姿は獅子そのものだ。それでも黒い鬣に所々混じる白い毛並みや、身体の内側を包む柔らかな白い毛並みは狼のそれを連想させる。顔つきも普通の獅子と違って雄々しく、どこか気高いどう猛さを感じさせると言ったところだろうか。今思えば、その黒い毛並みも狼そのものかもしれない。
ってことは。
正宗さんのザーメン、狼のそれと同じように、濃くて量もはんぱないのだろうか・・・?
獅子のように一日何度も営みを励んでも疲れないその雄々しくも百獣の王と呼ぶにふさわしいタフネスなスタミナ・・・狼のように種付けしたら産むまで離さない濃厚な種汁にケダモノのようなどう猛さ。そしてそれらをまとめ上げる正宗さんの大きくも愛おしい、慈悲深くも尊い温かな優しさ・・・
そんな正宗さんと恋人って、俺・・・代償に末代まで祟られちゃうとかそんな奴なの?
だったら俺は末代まで正宗さんの特濃ザー汁を味わうまで!! 上のお口からも!! もちろん下のお口からもだ!!
その為の今日まで守り通してきたこの鉄壁の処女・・・主よ、この身を委ねます!!
そんな妄想をちらつかせながら、目の前のソファーへと座るよう促される俺。
そして目の前には・・・うぉおい正宗さんの股間!! スラックスに包み込まれた柔らかぁいもっこりが!! 今!! 俺の目の前に!!
「そうか。実際に見るとなかなか大きいな」
「ええ。この部分も大きいでしょう?」
それは正宗さんの股間の話をしているのだろうか。ド淫乱この上ないなその会話・・・よい、よいぞその響き。俺の紫式部があけぼのよいよいし始めるではないか!! いとをかし過ぎて俺清少納言に歓喜のドロップキックかましそう。
店員さんと話しながら、ちょっと脚を動かす正宗さん。そしてその瞬間、その膨らみの中で雄々しく眠っているであろう・・・双球のωの形が!! くっきりと!! 俺の、目の前で!! くにゅりとスラックスの布越しに露わになったではないか!!
「左手を失礼いたします」
そう言って、俺の手にさっきの装飾を付け始める店員さん。
だけど俺の視線は正宗さんの股間に釘付けだ。凝視しすぎて目からビームでそう。俺が某エックスな男集団のサイクロップス先生とかだったら・・・この瞬間赤いビームが正宗さんの股間に当たっていやーんからのきゃーからのぽろりとか・・・それもそれでいいなぁおい!!
・・・そうか。
正宗さんのチンポジは、竿を上に上げて固定する派か。目の前のもっこりを厳しく査定しながら、俺はそんな推測を立てていた。
脚の付け根に浮き出た、鶏の卵のようなωの象徴・・・しかしそれでも、股間全体のもっこり・・・そう、ファスナーの下からベルトの真下付近まで柔らかな膨らみが雄々しくはち切れんばかりにスーツのスラックスを押し上げているのだ。そして、正宗さんが再び脚を動かした瞬間・・・
捉えた。
捉えたぞ。
正宗さんの、亀頭であろう大きなくっきりとしたカリのくびれ。確かに今!! 俺は捉えた!!
「いかがでしょう」
そんな妄想に脳内をショッキングピンク色に染めていく内に、いつの間にか俺の手には例の装飾品がつけられていた。
それを口元に拳を当てて吟味する正宗さん・・・まるで俺、見世物小屋で今夜誰とエッチしようかと殿方達に見定められる花魁ちゃんのよう。
俺ってもしかして・・・今、ファブュラス?
「・・・なるほどな。指の太さによってバランスが異なるな」
やばい。
チンポの太さによってバランスが異なるにしか聞こえない。
「おっしゃる通りでございます。ですのでこの品は指輪のみ、個々のオーダーメイドで発注させていただいております。おのおのの鎖の長さも同様です。その方が、見栄えもぐっと格式高くなるかと」
チンポの太さに合わせてオーダーメイド・・・なるほど。
おちんちんから伸びる鎖が格式高い貞操帯兼ガータベルト・・・確かに見栄えがぐっとファブュラスになりそう。
「・・・そうか。たとえばこの場合、薬指のサイズはどうだ?」
「ええ。彼のサイズでしたら、ちょうどこのリングと同じですから・・・恐らく、このようになるでしょう。・・・いかがですか?」
別の指輪を手にして、店員さんは俺の指へそれを近づける。一瞬正宗さんに「お前のチンポの太さはどうだ?」と聞かれたのかと思った。いやぁんもう恥ずかしい!! 俺の太さは勃起したらちょうどズッキーニ、萎えたら少し小ぶりのナスって答えちゃう所だったよ。こら!! 店員さん!! 俺の股間のサイズはメモらない!!
なんやかんやでそんな風に、目の前で繰り広げられる正宗さんのビジネストーク・・・その雄々しい姿に、俺のあたらなる正宗コレクションが秒のスピードで更新されていった。
やばい。なんだこれ。
この人の知らない一面がありすぎて、コレクションが追いつかない。
頑張れ、俺の脳細胞!! お前のシナプスはその程度か!?
「・・・わかった。ありがとう、次の記事の参考にさせていただくよ」
「恐れ多いお言葉です。また何かありましたら、なんなりと」
「・・・あぁ」
俺の手の平から装飾品を外し、ショーケースを閉める店員さん。
俺達の元を離れる間際、彼女が俺に対し軽くウィンクをするの見逃さなかった。
まさか・・・
そなたも、同士か?
「頼んでいたものがあるから、ヒロは少しここで待っていてくれ。・・・すぐ戻る」
申し訳そうに、黒光りな獅子はそう俺に声をかける。
俺が立ち上がる瞬間、そっと手の平をさしだして介助してくれる・・・あぁんもうなんでそんなに完璧すぎるんだあなたは。
これじゃあ俺、正宗さんと「真田姉妹」っていうユニット組まなきゃいけないじゃないか!!
ん、待て。
姉妹じゃなく、兄弟・・・? 兄さんとか、兄貴とか・・・そんな感じで呼び合うの?
しかも俺達って、どっちかと言うと夫婦っていうか・・・
いやだなぁもうハネ-ムンあげるしかねぇじゃんこれ!!
「分かりました。ちょっとこの辺り、見ていますね」
「・・・すまない。すぐ戻る」
俺の肩をグッとつかんで、店の奥へと消えていく正宗さん。
そう。
俺の肩をグッとつかんで、店の奥へと消えていく正宗さん。俺を励ますように、ぽんぽんって、その大きな手の平で肩を優しく叩きながら、店の奥へと消えていく正宗さん。
その大きな背中を見せて、そして、振り返りながら優しく俺に、笑いかけて・・・
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!!」
即死でした。
第4話「気分はもうジュリエット」
日が落ちかけた春の空。
青みが少ない、透明な空だ。それに、柔らかな日の光がまどろんでいる。
目の前の水槽と、同じように。
そう。
俺達はこの街でも有名な、とある水族館へと来ていた。
確か、ラパスでも「大人のデートスポット」と記事に取り上げられた場所だ。柔らかな大人びた音楽が流れるこの一角は、カップルに人気な絶好のデートスポットらしい。ラパスにも「彼女に結婚のプロポーズをするならこの場所20選!!」に堂々2位にランクインしていた場所だ。確か第1位は・・・このすぐ近くにある高級ホテルだっただろう。周囲に建物がないことから、そこから眺められる夜の夜景はすさまじいものらしい。しかも全面ガラス張りの開放的なお部屋で、夜景を眺めながら大人のエッチを楽しめるセレブご専用の所と来た。都会のネオン輝く街並みを見ながら、宝石のように輝く汗を滴らせる正宗さん・・・多分オレ妊娠しちゃう。
そんな愛しの旦那様はというと、オレをこの場所まで連れて行ったあと、「喉が渇いただろう」と言って飲み物を買いに行ってくれた。
一通り楽しんだこの水族館も、ここがクライマックスだ。円形状の建物の中心に大きな水槽がそびえ立ち、それをぐるりと囲むように大小様々な水槽がユニットのように並んでいる。
そう。
この場所は、開けた開放的な景色とは裏腹に、少し死角が多いのだ。少し離れて談笑し合っているカップルも、水槽の水面に遮られてぼんやりとしか見えない。それに目の前の大きな水槽には、ウミガメや熱帯魚、そして小さな白銀色の小魚たちが照明の光をキラキラと光らせるように自由に泳いでいるんだ。このロマンチックな景色に、確かに「彼女に結婚のプロポーズをするならこの場所20選!!」に堂々2位にランクインしていたのが分かる。
俺の為に、我が旦那様はここを選んでくれた。
その事実が、途方もなく嬉しい。
これだけ死角が多いなら、手とか繋いだら駄目だろうか。
大きな肉球の感触とか確かめたいじゃん? 急に手を握った瞬間に見せる正宗さんの照れて驚いた表情とか、確かめたいじゃん? でもそのあとなんだかんだ言って照れくさそうに握り返してくれる正宗さんとか、刮目したいじゃん? ああんもう魚たち!! 俺に幸福の女神を呼び起こしてくれ!!
ていうかあの丸太のような腕に抱きつきたい。あの厚い胸板に顔を押しつけてくんかくんかしたい。
正宗さん、恥ずかしがるんだろうなぁ・・・いや、しかし待て。正宗さんも立派な雄なんだ。雄が雄足る欲望は持っているに違いない。それを象徴するかのようなあの雄々しい鬣、白い柔らかな腹部の毛並みへと続く剛毛、俺より遥かに大きな巨体、そして全身からむんむん漂わせるダンディズムなフェロモンに、さっきも刮目したスラックスの上からでも分かるあの大きな重みのある股間の膨らみ・・・男性ホルモンめっちゃでてるじゃねぇかよ。正宗さんの金玉絶対デカいに違いない。鶏の卵みたいにゆっさゆさだよゆっさゆさ。
だとしたらだ。
正宗さん・・・オナニーとかするんだろうか?
あ、やばい俺。今パンドラの箱開けようとしてる? ノアの箱舟沈んじゃったりしない? だってそうじゃん!! 男なら!! たまるもんはたまる!! そうだろう!? 俺だってオナ禁何日目だと思ってんだよ・・・もう金玉パンパンだよ!! パンパン!!
今まで神々しすぎて想像もしていなかったが、正宗さんも抜いたりすんのか・・・一人で、自分のチンポしごいたり・・・ あ、やばい俺勃起してき――
「・・・待たせたな、宏明。・・・どうした? 顔が赤いぞ?」
そんなジャストなタイミングで、俺の隣へと腰掛ける正宗さん。
イマージェンシー!! イマージェンシー!!
俺!! 今!! 勃起してる!! テント張っちゃってるって!! ビンビンだよ!! ビンビン!!
「え、いや・・・えと、ちょっと考え事しちまって・・・ほら、こんな綺麗な場所だからよ」
ええ。
ホント色んな事考え事しちゃったよ。ぐふふふ・・・
「・・・そうか。体調とか、具合が悪いんじゃないんだな?」
「ええ。すみません、心配かけちまって・・・」
「・・・お前の事を心配するのも、俺の役目だ。・・・気にするな」
そう言って、俺に優しく微笑みかける俺の旦那様。
もう俺、泣きそう・・・
死んでも「あなたのオナニー姿妄想してました」なんて言えねぇ・・・
「ほら」
そう言って、彼は俺にカップを差し出す。
それを受け取ると、じんと肌に染みこむ暖かさが伝わってきた。
この甘い香り。きっと、キャラメルマキアートだ。
正宗さんの大好物だから分かる。
「あ、ありがとうございます。すんません、正宗さんに買いにいかせちまってよ・・・」
「・・・いいんだ。今日は少し疲れただろう。・・・お前が休まるまで、少しゆっくりしていこう」
そう微笑みながら、その大きな手の平で俺の頭をポンポンしてくれる正宗さん。
・・・え?
ちょっと待て。
俺、今正宗さんに頭ポンポンされた・・・?
「俺も・・・つい羽目を外してしまったな。・・・すまない、宏明。俺も、お前と一緒にいられたのが随分と楽しくてさ」
その柔らかな瞳を細めながら、謝る正宗さん。
きっと、俺が少し疲れてしまったのだと誤解しているのだろう。ていうかさっきの挙動といい、その台詞といい・・・正宗さんパワーがありすぎだ。
もしかして・・・俺、もう死んじゃうの?
俺の墓場、ここ?
小魚ちゃん達の餌になっちゃうの?
「そんな・・・俺だって、その・・・凄く楽しかったんだ!! 俺も、正宗さんと一緒にいて・・・その・・・」
くそう。
上手く言葉が出てきてくれない。
「・・・そうか。それじゃあ、おあいこだな」
そう言って、目の前の黒光りする獅子は微笑む。
そのどこか嬉しそうな眼差しに、俺は胸が張り裂けそうになった。
切なさが、こみ上げる。
「・・・お前と一緒にこの場所に来られて、本当に・・・良かった」
そう、静かに彼は言葉を続けた。
切なげに、その瞳を細めながら。
目の前の水槽では、優雅に魚たちが泳いでいた。
その光を、柔らかな水流の中で踊らせるように。
幻想的な輝きが、まどろむ夕焼けの光と溶け出して、あたりをオレンジ色に染め上げていった。
まるで、その蒼さを柔らかな日の光で優しく包み込むように。
俺は、息をのんだ。
「ずっと、ここに連れて行きたかったんだ。・・・あまり仕事ばかりするのも、身体に毒だな。お前と一緒にいられる幸せを・・・痛いくらいに感じる。・・・本当に、俺の隣にいてくれたのがお前で・・・本当に良かったってな」
「正宗さん・・・」
「・・・そんな顔はしないでくれ。折角の男前な顔が台無しだろう?」
「で、でも・・・俺――」
「・・・心配するな。確かに今仕事も忙しいが・・・それでも、俺はお前の傍にいたい。・・・恥ずかしいが、その・・・俺も、寂しかったんだ。お前に、会いたかった。だから今日くらい、俺もわがままを言いたい。・・・心行くまで、お前と楽しみたいってな」
切なげにその目を細めながら、彼は俺の頬をそっとなでる。
正宗さんは手にしていたコーヒーに口を付けると、一口、それを含んだ。
それに釣られるように、俺も両手で抱えていたカップを口元へと近づける。
ほろ苦い香りの中で、キャラメルの香ばしい甘さが口の中でとろけていく。
温かなその感覚に、思わず目を閉じた。
「・・・なぁ、ヒロ」
「ん・・・?」
「・・・一つ、聞いても・・・いいか?」
その声に、ふと、俺は目を開ける。
目の前の獅子は、どこか緊張したようにこちらを見つめていた。
柔らかなその水面を、はち切れそうな程に震わせるように。
心が、その鼓動を早めた。
「・・・ええ。・・・そ、その・・・どんな、こと・・・ですか?」
「そ、それは――」
苦しそうに、その瞳が歪む。
きっと、俺への想いにその表情を曇らせているんだ。その苦悩に満ちた表情も、切なげな眼差しも、胸を締め付けた。
心が、壊れそうだ。
息が、上手くできない。
「・・・ヒロ」
俺の手を、そっと正宗さんが握る。
少し汗ばんだ暖かさが、俺の肌を抉った。
「もし、お前が許してくれるなら・・・今夜は、俺と・・・一夜を共にしてくれないか?」
震えた声で、彼は言葉を続ける。
目尻が、一気に熱くなっていくのを感じた。
「・・・え、そ・・・それって――」
照れくさそうに、彼は俺の手を握りしめる。
どこか、緊張した眼差しで。
涙が、こぼれそうだった。
「・・・まぁ、そういうことに・・・なるな。本当はうちに招きたい所なんだが・・・記念すべき、大切な日なんだ。今日は・・・特別な場所で、お前と愛し合いたい。お前が満足するまで、ずっと・・・」
そう言って、彼は俺の指をそっと握りしめた。
まるで、愛の告白をするように。
困ったように笑いながら、彼は言葉を続けた。
「・・・すまなかった、宏明。今日まで、ずっと・・・お前を待たせてしまったな」
恥ずかしそうに、彼は笑う。
その顔を、誰よりもみたいはずなのに。
上手く、ピントを合わせることができなかった。
彼が握ってくれた指先を、そっと、握り返す。
愛おしさが、溢れた。
「・・・もちろん。喜んで」
笑いながら、俺は言葉を続けた。
少しだけの涙を、目尻ににじませながら。
ただ、無我夢中になって、笑った。
「できるなら・・・あなたと、ずっと傍にいたかった。だから、今日も・・・ずっと、一緒にいたい。俺も、正宗さんのことが・・・大好きだから・・・」
こみ上げる想いに、声が震えて上手く言えなかった。
そんな俺を励ますように、その大きな手の平でやさしく、俺の頭をもう一度なでつける。
柔らかく、溶け出しそうな愛が、俺を包み込んだ。
「・・・なぁ、ヒロ」
「・・・はい」
「・・・お前に、渡したいものがあるんだ」
そう言って、彼は鞄の中から何かを取りだした。
長方形の、木でできた箱だ。木彫りで施された細かい装飾から、白銀に輝く飾りまで、それがとても高価なものだと言うことが一目で分かる。
「・・・開けてくれ」
震えた声で、彼はそう言葉を続けた。
その声に、俺は息を吸い込む。指に力を入れれば、少し重いその蓋が少ずつ開いていった。そしてそこから見えるその光景に、俺は息をのんでしまう。
指輪だった。
大きな、指輪が二つ。厚めの金属に、煌びやかな装飾。指輪の外側の辺をなぞるように、二本、黄金色の透明なラインが入っていた。照明の光に照らされて、それが宝石なんだってことが分かる。
「これは・・・」
「・・・ペアリングだ」
そう言葉を続けながら、彼は俺の左手を握りしめる。
片方の指輪を、俺の左手の薬指へとはめながら。そしてもう片方の指輪を、自分の左手の薬指へと通していく。
冷たい金属の重みが、薬指の根元を優しく包み込んだ。
上手く、息ができない。
「・・・よかった。目測でサイズは測っていたんだが・・・あの店でお前の指周りを確認していて良かったよ」
その言葉に、俺は声をなくす。
そしたら・・・まさか――
「もしかして、その・・・為に?」
「・・・あぁ。・・・とても大切なものだったからさ。・・・俺だって、失敗はしたくない」
そう言葉を続けて、彼は俺の肩を優しく抱き寄せる。
そっと、互いの身体を近づけさせるように。
大人びた彼のコロンの香りが、心を揺さぶった。
「・・・ヒロ」
低い、喉の奥を震わせるような声で、彼が囁く。
切なげなその眼差しを、真っ直ぐに俺へと向けながら。
息が、できなかった。
「・・・お前を、愛している。他の誰よりも、ただ・・・お前だけを、愛している」
優しく、彼の指先が俺の頬をなぞる。
大粒の涙が、こぼれ落ちた。
その涙を拭うように、そっと、彼の指先が俺の目尻に触れる。
「・・・傍に、いて欲しい」
指先を絡めながら、彼は言葉を続けた。
「・・・お前の事を想うと、胸が張り裂けそうなんだ。寂しくて、苦しくて・・・もう、お前なしじゃ生きていけないと悟った。・・・俺の傍に、いてくれ。ずっと、俺の傍で・・・笑っていて欲しい。・・・俺が、お前を守る。・・・俺に、お前を・・・守らせてくれ。お前の事が、こんなにも・・・大好きだから――」
その言葉に、俺は何度も何度も大きく頷く。
大量の涙を、その目尻からこぼしながら。
“ありがとう”と彼は優しく笑うと、静かに俺を抱きしめてくれた。
その、大きな身体で。ギュッと、力強く。
柔らかなこの人の毛並みが、俺の身体を包み込んだ。大人びたコロンの香りも、この人の匂いも・・・柔らかな温もりも、何もかも。この人の全てが、全身へと伝わっていく。
ふと、彼の顔が離れていったのはその時だった。
黒い毛並みに、白い毛先が所々混じっている。そんな雄々しい獅子の眼差しが、切なげに濡れている。
彼の口元が、微かに震えていた。
そんな彼の眼差しに答えるように、そっと、俺もその口元を近づける。
ほろ苦い、キャラメルの香りが溶け出す。
初めてこの人と交わした口づけは、そんな柔らかな温もりで溢れていた。
第5話「グッパイ、俺の処女。こんにちは、正宗さん童貞喪失の瞬間」
エレベータの音が、到着の瞬間を俺達に知らせる。
目の前に、だだ広い廊下がずらりと並んでいた。
金色の装飾に、大理石の床。赤い絨毯に、煌びやかなシャンデリア。
そうだ。
俺は、正宗さんにあのホテルへと連れて行かれたのだ。「彼女に結婚のプロポーズをするならこの場所20選!!」に堂々1位にランクインしていた、あの高級ホテルに。
周囲に建物がないことから、そこから眺められる夜の夜景はすさまじいものらしい・・・とのことだったが、エレベーターだけでも圧巻の一言だった。しかも全面ガラス張り。さらにそれが、これから向かうお部屋でもそうなのだろう。都会のネオン輝く街並みを見ながら、俺は・・・この人と結ばれようとしている。
「・・・緊張するか?」
俺の隣で、正宗さんが優しく俺に微笑んだ。
眼差しが、どこか余裕がない。
きっと、緊張しているのはお互い様だと思った。
「・・・少しだけ、な。・・・ずっと、夢に見てきた瞬間だからよ」
「・・・そうか」
嬉しそうに、彼は笑みを零す。
俺の背中をそっと抱き寄せながら、彼は俺を部屋の前まで案内してくれた。
かざしたカードキーが、無機質な電子音を立ててその扉を解錠する。
ドアの向こうから、柔らかな光が差し込んでいた。
「すごい・・・」
部屋の灯りは、最小限の間接照明のみ灯されていた。
その柔らかな光の中で、ガラス張りに切り取られた夜景の光が宝石のように輝いている。この瞬間を、際立たせるためなのだろう。部屋の灯りが間接照明以外灯されいないこの空間が、何よりも美しく思えた。
そんな宝石のような景色の中で、愛しいその人が立っている。
黒く雄々しいその獅子の身体は、ただ、綺麗だった。胸がときめいてしまうほどに、切なさがこみ上げる。
「・・・気に入ってくれたか?」
照れくさそうに、彼は笑う。
そんな彼に答えるように、俺はそっと、彼の背中に手を伸ばした。
互いのバックが、床の上へと落ちていく。
優しく、彼は俺の身体を抱きしめてくれた。
「・・・あぁ。嬉しすぎて、泣きそうだ。・・・本当に」
「・・・そうか。・・・良かった」
憂いを帯びたその声に、俺は彼の胸板へと顔を埋める。
ギュッと、彼が俺の身体を強く抱きしめたのはその時だった。
甘い、コロンの匂い。そして彼の雄々しいフェロモンのような香りがする。
ふと、頬を撫でられたのはその時だった。雄々しいその指先を曲げるように、優しく、俺のマズルをなぞる。
見上げたそこには、切なげに目を細める獅子がそこにいた。
茶色いその瞳を、寂しげに濡らしながら。微かに、口元を震わせる。
そっと、俺が瞼を閉じた瞬間。
柔らかな温もりが、俺の唇を満たしていった。
舌先を、絡める。
甘い蜜の味が、口の中を満たしていった。ねっとりとした優しいキスに、心までがときほぐれていく。
吸い付くような愛おしい音が、広い部屋の中で響き渡っていた。
その音に、少しずつ俺の熱が鎌首をあげ始める。少しだけ唇を離すと、彼は俺に柔らかな目線を絡ませてくれた。あとほんの少しで、唇がまた重なり合う。そんな目と鼻の先で、熱い吐息が吹かかる。
「・・・お前が、欲しい」
切なげなその低い囁きに、俺はくらりと酩酊した。
大きな手の平が、俺の身体をなぞる。
その手の平が、優しくそっと、俺の股間を包み込んだ。
待ちわびた快感に、息が漏れ出す。
「本当は、一緒に風呂に入りたかったところだが・・・すまない、宏明。もう・・・我慢、できそうにない」
それだけを告げ、彼は再び俺の唇を奪う。
雄々しく。むさぼるような、卑猥な口づけで。
俺は、必死になってその唇に絡め合わせた。彼の大きな手の平が、俺の股ぐらを、尻尾を、胸を愛撫していく。その指先がただ熱すぎて、俺は歓喜の声を上げた。少しずつはだけていく互いのスーツが、床の上へと落ちていく。
大きなベットの上へと、俺は押し倒された。
目を向ければ、目の前の黒い獅子は息を荒げている。はぁはぁと肩を上下に揺らしながら、強引に自分のネクタイを引き抜いた。荒々しくワイシャツを脱ぎ捨て、その胸元が露わになる。
黒く、雄々しい鬣。
それが、白く柔らかな毛並みの中で、胸の中心、そして下腹部に続くであろう剛毛へと繋がっている。
俺の両腕を枕の上へと引き上げると、彼は俺の上に覆い被さった。
その舌先を、俺の首筋、胸の突起へと甘い唾液を含ませて舐めあげる。その欲情的な愛撫に、俺は悶えた。彼の手が、荒々しく俺のズボンと下着を脱がしていく。
ズルリと、それは露わになった。
いやらしい汁を垂らしながら、興奮で震えている。
その先端に、分厚い獅子の舌先が触れた。ざらしとした感触で、甘い蜜をなめるように。
柔らかな感触が、俺のものを包んだ。
言葉に、できない。
目を向ければ、大きなマズルが俺のものをばくんと咥えていた。愛おしむように、優しく、優しく、それでも味わうように俺のものを舐めあげる。その柔かで温かい吸い付くような感触に、俺は歓喜の雄叫びを上げた。
彼の指先が、少しずつ、少しずつ、俺の秘部へと近づいていく。
冷たい、とろりとした感触が、俺のそこをいやらしく汚した。ふと目を向ければ、小さな小瓶から柔らかな液体を彼は自分の指へと絡めている。
「っぁ・・・」
彼の太い指先が、中へと侵入していく。
その違和感を消し去るように、優しく彼は俺のものをしゃぶりあげてくれた。
水気のある卑猥な音が、前からも後ろからも俺を責め立てる。
自然と俺は、腰をくねらせるように太いその太ももを揺らしていた。彼の身体に絡みつくように、きつく、肌と肌を合わせるように。
彼の指が、3本ほど入ったそのとき。
ゆっくりと、それは俺の中から抜けていった。
物足りない虚無感が、俺を襲う。濡れた眼差しで彼を見つめれば、息を荒げてベルトを外し始めた。そんな彼を見て、俺は身体を起こす。
膝立ちになった彼の股間は、これ以上にないくらいにいきり立っていた。
スラックスが、彼の愛液で濡れている。それが布地をテラテラと光らせ、大きなシミを作り上げていた。そんな彼のスラックスと下着に指をかけ、一気に俺はそれを下に下ろす。
彼のものが、俺の目の前で露わになった。
大きく、太い幹のようにそびえ立つそれは、待ち切れなさそうに震えている。少し余った皮が、固く張ったカリに少しだけかかっていた。それを少しずつ剥いていけば、柔らかな包皮からエラが張った大きな亀頭がその姿を現す。ぱっくりと割れた鈴口からは透明な蜜が溢れ、ぴくぴくとそれを痙攣させていた。大きな鶏の卵のような双球が、俺の目の前でたぷたぷと揺れている。
俺は彼の顔を見上げながら、ゆっくりとそれを口に含んでいった。
大きな玉、そして竿、大きく張ったカリのくびれまで。そして大きく口を開け、一気にそれを頬張る。
「ぁぁ・・・ぁ・・・」
雄々しいうめき声が、彼の喉仏を震わせた。
濃厚な雄の香りが、鼻の奥を突き抜ける。固めるように舌先をその亀頭へと吸い付かせれば、がくがくと彼はその膝を震わせた。もしかしたら、こんな事をされるのも初めてなのかもしれない。俺はできるだけ優しく、ゆっくりとそれを舐めあげた。少しずつ、少しずつ、そのスピードを早めながら。がりがりと、彼の余裕を削っていく。
熱い息が、その呼吸を乱れさせ始めた。
大きな手の平が、俺の肩をつかむ。彼の顔は、切なげに快感に染まっていた。耐えるように、時折その牙をかみ合わせながら、甘い吐息にその歓喜の声を上げる。
俺は一気に彼のものをしごきあげながら、亀頭をじゅるじゅると舐め始めた。
ねっとりと、甘い唾液を含ませながら。
固く張ったそのカリのくびれに、舌先を絡め合わせながら。
ぐっと、目の前の双球が身体の奥へと持ち上がる。
「・・・駄目だ、ひ、ヒロ・・・!! もう、それ以上は・・・っぁ・・・がぁあ!!!」
彼のものが、ビクビクと俺の中で震える。
ジュルリと、俺はそれを吸い付かせた。
その奥で耐えようとしている、熱いマグマを搾り取るように。
ドクンと、それは弾けた。
「っぁ・・・ぁ・・・っは、っは・・・」
痙攣したように、彼は身体を震わせる。
固いゼリー質のような雪崩が、俺の口内を満たしていった。生臭い、確かな甘み。それがびゅるりびゅるりと音を立てながら、俺の中へと吐精されていく。
ゆっくりと、俺はそれをマズルから離していった。
はち切れそうな程に真っ赤になった亀頭が、ぴくぴくと震えている。その鈴口から、白い粘液がタラリと墜ちていった。未だに固さを失わないそれは、もう我慢ができないかのように切なげな脈動を続けている。
俺は両手を口元へと近づけると、彼の愛液を手の平へと吐き出した。
ゆっくりと、その味を確かめるように。
黄色く色濃くこり固まったそれは、俺の両手を一杯に満たしてくれた。そして俺は、それを自分の下腹部へと近づけていく。
大きく、脚を広げながら。
彼に、俺の秘部が見えるように。
はぁはぁと息をあげながら、彼はそれを見つめていた。ズボンのポケットから小さな袋を取り出して、荒々しくそれを牙で食いちぎる。
俺は彼の愛液を、ゆっくりと自分の尻穴へと馴染ませていった。
熱い、ぬちゃりとした感触が俺の毛皮を汚していく。彼は薄いゴムを自分のものへとかぶせると、俺の上へその身体を覆い被らせた。
固い熱が、俺の秘部に触れる。
火傷しそうなその熱に、胸がときめいた。
「・・・いいか?」
切なげに声を震わせながら、彼は俺を見つめる。
俺は彼の鬣を撫でながら、優しく頷いた。
大きな獅子耳が、手の平を通り抜けていく。
「・・・あぁ。俺も・・・正宗さんのが、欲しい。俺を・・・めちゃくちゃにしてくれ。・・・頼む――」
その声に、彼ももう我慢ができなかったのだろう。
自分のものを片手で支えながら、ゆっくりと、彼はその腰を沈めていった。
俺の瞳を、真っ直ぐに見つめながら。そしてその眼差しが、とろけるように快感で歪む。
熱い火傷しそうな熱が、俺を貫いた。
「っ・・・ぁ!!! ぁ・・・っ・・・」
「ふぅ・・・ふぅ・・・ぜ、全部・・・入ったぞ・・・ひろ、あき・・・」
息も絶え絶えに、彼は俺を抱きしめてくれる。
彼と、一つになれた。その悦びが、目尻を熱くさせる。
俺は彼の唇を塞ぐと、無我夢中になってその舌先を絡め合わせた。
彼の息が、荒い。
何かを必死になって耐えているように、苦悩の表情にその眉間をゆがめていた。
「・・・良かった。俺の、初めてを・・・正宗さんに奪ってくれてよ・・・」
その言葉に、目の前の獅子の表情から一気に余裕がなくなる。
びくんと、彼のものが俺の中で弾けた。
「初めて、って・・・経験、あったんじゃなかったの、か・・・?」
「・・・まさか。今、俺の処女・・・あんたが奪ってくれたんだよ。・・・正宗さん。・・・知らなかったのか?」
その声に、正宗さんは俺の首筋へと顔を埋める。
ふー、ふーと、雄々しい荒い息が俺の肌を熱く溶かしだした。
彼の大きな手の平が、力強くベットのシーツを握りしめる。
その身体を、痙攣させるかのように。微かに、震えている。
「・・・すまない。思わず、イッてしまい・・・そうだった。俺も、初めてだったから・・・」
「・・・正宗さんも、ですか?」
驚いたその声に、彼は恥ずかしそうに目をそらす。
彼のものが、俺の中でビクンと弾けた。
「・・・あぁ。だから、上手くできる自信はないが・・・お前と、愛し合いたい。お前が、満足してくれるまで・・・ずっと、ずっと・・・」
俺の指先を、彼の雄々しい指が絡め合わせていく。
恋人つなぎのように、固く、握りしめるように。
その熱さに、俺も自分の脚を彼の腰に絡ませた。
クチュリと、粘液で濡れた互いの毛皮がその音を立てる。
「・・・愛している」
静かに、彼は言葉を続けた。
真っ直ぐに、俺を見つめながら。
涙が、溢れた。
「・・・他の、誰よりも。お前だけを・・・愛している」
その言葉と共に、俺は、彼のマズルに唇を奪われる。
ねっとりと、彼の腰が動いたのはそのときだった。いやらしく腰をくねらせるように、ゆっくりと、彼のものが俺の内壁をかき混ぜていく。
耐えがたい快感が、俺を襲った。
愛させていると、確かに俺達は愛を営んでいるんだと、そう確かに感じさせてくれる。彼の愛しいそれが、俺を慈しむように俺の中を絡み合わせてくれた。俺もそれが嬉しくて、彼の動きに合わせるように腰をくねらせ、そこを吸い付かせるように緩急をつけて締め上げる。切ない声が彼の喉仏を震わせ、荒い吐息が俺の首筋を溶かしだした。
少しずつ、少しずつ速さを増していくその腰の動きに、俺は、必死になって彼の背中へとしがみつく。
ぎゅっと俺を抱きしめながら、彼は自分のマズルを俺の首筋へと埋めていった。はぁはぁと何かに耐えるように、必死になってその表情を苦悩でゆがめながら、それでも達してしまわないようにと俺の中をかき混ぜるように、その腰を振り続ける。
「・・・気持ち、いい・・・か?」
息も絶え絶えに、彼は俺に言葉をかけた。
何度も何度も、必死になって俺は頷く。
嬉しそうに、彼はその瞳を細めた。
「・・・っ・・・ぁ!!! っぁ・・・」
彼の腰つきが、リズミカルなものへと変わっていく。
目の前の獅子は身体を起こすと、俺の両膝を開かせるようにその両手でつかんだ。
俺と彼の結合部が、露わになる。
大きなカリのくびれが内壁を抉り、パンパンに張った亀頭が俺の前立腺を抉った。
何度も、何度も。
柔らかなそれを、押しつぶすように。
俺のものから、止めどなく甘い蜜がこぼれ落ちた。
「・・・駄目だ・・・!! も・・・もう、イッて、しまう・・・」
苦悩に満ちた表情で、彼は腰を振り続ける。
大きな手の平が、俺のものをつかんだのはそのときだった。
我慢汁で濡れたそれが、荒々しく彼の大きな手の平でしごかれる。
耐えがたい快感が、背筋を駆け抜けた。
「お、俺・・・も・・・き、来てくれ!! 正宗さん!! お、俺も・・っぁ――」
頭の中が、快感で真っ白になったその瞬間。
俺は、彼の手の平の中で果ててしまった。
何度も、何度も。大量の精液が、俺の腹の上へに大きな水たまりとなって、壊れたホースのように吐き出されていく。
きつく、そこを締め付けた。そのときだった。
彼の瞳が、苦悩で歪む。
「っ!! っ・・・だ、駄目だ・・・もう――」
荒々しく、彼は俺の身体を抱きしめる。
何度も、何度も。最奥まで打ち付けるように、そのスピードが増していく。
「お、俺も・・・また、イッちまう・・・!! い、イク!! イクイクイクイク!! ・・・がぁ!!」
あまりの快感に、俺が二度目の吐精を迎えた。そのときだった。
俺の中で、彼のモノが一回り大きく、そして固さを増していったのを感じる。
彼が、最奥にそれを打ち付けた。
「・・・ぁ!! っは・・・っは・・・ぁがあ!! ぁ・・・っ・・・」
ドクンと、それは俺の中で弾けた。
何度も、何度も、最後の一滴まで出し切るように。彼はその身体を痙攣させる。長い射精の脈動に合わせるように、彼はその腰を打ち付けた。そしてその短い間隔が収まり出したそのとき、彼は事切れたかのように、その身体から力を抜いて俺に追い被さった。
荒い呼吸が、二人を包み込む。
にゅるりとそれが俺の中から出てきたとき、思わず甘い声が俺から漏れ出てしまった。
目を向ければ、未だに固さを失わない彼の大きなものが天井を仰いでいる。その先端から垂れ下がるように、大きな黄色みがかった水風船のような塊が、薄いゴムを引き延ばすように重く垂れ下がっていた。
ゆっくりと俺はそれを外しながら、そのゴムの口を結ぶ。
快感に歪んだ彼の眼差しは、まだ切なげに濡れたままだった。そんな彼を目の前に、俺は、さっき彼が吐き出した愛液の水風船を口の中へと含ませていく。
まだ、夜は始まったばかりだ。
彼は俺を抱き寄せると、もう一度俺の唇を甘く塞いでいった。
第6話「俺の旦那様は寡黙で口下手なダンディズム」
やわらかい時間が、流れていた。
ふとベットから顔を見上げてば、そこは満天の夜空に宝石のような夜景の光が輝いていた。そんな光に照らされて、俺の隣で俺の愛しい人が眠っている。
黒いその鬣に、夜空の光が煌めく。
その幻想的な光景に、本当に俺はこの人に愛されているのだと悟った。
胸の奥に、温かくて、それでいてしっとりとした何かが、流れ込んでいくのが分かる。
それが、俺のこの人へと愛だと悟ったとき。嬉しくて、涙がこぼれ落ちそうだった。
こんな俺に、こんな最愛の人を巡り会わせてくれた。俺に、この人を愛する悦びを教えてくれた。
その奇跡に、言葉がでない。
この気持ちを、未だになんと言っていいのか、分からなかった。
「・・・なぁ、ヒロ」
「・・・ん?」
「腹、減っていないか?」
俺を抱き寄せながら、彼はそう俺に問いかける。
その声色が柔か過ぎて、俺はただ嬉しくて彼の背中に腕を回した。
しなやかなシーツの中で、彼は俺に優しく微笑んでいる。
その明るい茶色の瞳の奥に夜景の光が反射して、宝石のように綺麗だった。
「ん・・・そういや、ちょっと減ったかもな。さっきはあんだけ激しい運動もしたしよ」
その言葉に、目の前の黒光りした獅子は恥ずかしそうに目を泳がせる。
たまりませんなぁ・・・
「む・・・まぁ、そう言われたら・・・そうだな。・・・すまない、宏明。本当は、お前のディナーに連れて行くよう・・・予約しとかなきゃいけなかったんだがな。・・・我慢が、その・・・できなくて、だな・・・」
え、それって・・・俺とエッチしたくて我慢できなかったってこと?
もう一発おかわりっすか!? 何それ悶え死ぬ!!
「・・・それは、俺もだったっすよ。おかげで、正宗さんと・・・たっぷり愛し合えたじゃねぇか。俺も・・・その、こんなに激しくされて、嬉しかったからよ」
やばい。
照れくさくて上手く言えない。
そう、俺達はあれからめっくちゃエッチをした。騎乗位から、バック、背面座位、そしてまさかの駅弁まで。正宗さんの大きな身体にしがみついて、下から雄々しく突き上げられるあの快感は凄まじかった。
正宗さん的お気に入りは、どうやた正常位とバックらしい。特にバックのときのあのケダモノのような雄々しさ・・・まさに百獣の王と呼ぶに相応しい腰つきだった。俺の頭を枕に押しつけ、片腕を引っ張りながら・・・押しつけるようにその腰を荒々しく突き立てる。そんな無理矢理犯されているような感覚に、胸がときめいた。
・・・やばい。
俺また、勃ってきてしまっている。
「・・・そうか。一緒に風呂入ったら、少し出かけよう。・・・この近くに、お気に入りのレストランがあるんだ」
「そうなんすか?」
俺の声に、嬉しそうに彼は俺の身体を抱き寄せる。
柔らかな毛並みが、俺を優しく包み込んだ。雄々しいその鬣に、心まで奪われそうになる。
「あぁ。オーブンで焼き上げたチーズと、丸ごとチキンステーキが入ったオニオンスープがとても旨い場所なんだ。今夜は少し寒いから、そこで少し暖まろう。もしそれでも冷えるなら・・・お前ともう一回愛し合うのもいいしな」
大胆なその台詞に、俺は一気に顔が真っ赤になる。
そんな俺を見て、可笑しそうに彼は笑った。・・・これが、童貞を卒業した正宗さんの威力か。恐ろしい。ていうか俺、 正宗さんの童貞を・・・初めてを奪ったんだよな?そのおっきいチンポの筆おろししちゃったんだよな? それって・・・めっちゃすげぇことじゃねぇ!? ていうか正宗さんその見た目で42歳まで童貞守ってきたなんて・・・あなたは魔法使いか何かか!?
「・・・なぁ。正宗さん」
「・・・なんだ?」
「ちょっと、聞いてもいいか?」
その声に、目の前の瞳が不思議そうに丸くする。
可愛いなぁ、もう・・・
「・・・あぁ。なんだ?」
「その・・・さっき、エッチする前・・・俺も初めてって。正宗さん、その見た目と、その年齢で・・・本当に、童貞だったんすか?」
その言葉に、目の前の瞳が恥ずかしそうに右往左往する。
あ、間違いない。
この人ホントに童貞だったんだ。
「それを言うなら・・・お前が処女だったってこともびっくりしたぞ!! てっきりその・・・経験あると思ってたからな・・・」
「まぁ・・・俺も正直、バニラな経験はそりゃあありましたけど・・・初めてなのは本当っすよ。その・・・玩具で練習とかは、してましたけど・・・」
主に、正宗さんのチンポを想像しながら。
その練習の甲斐あって、今日のエッチだったんだ。やはり日頃の鍛錬は必要だったわけだ・・・ぐふふふふ。
「・・・参ったな。できれば、次の店で言おうと思っていたんだが・・・」
困ったように、彼は頬を掻く。
その恥ずかしげな戸惑いの表情は、今まで見せてくれていたものとは少し違っていた。
意を決したように、彼がベットから身体を起こす。
しなやかなシーツが、はだけていった。そして彼の美しい身体が、夜空の光に照らし出される。
「・・・その、誰とも身体を重ねたことがなかったのは、お家柄みたいなものだ。その一歩手前まではあったが、それから先は・・・なかなか勇気を出せずにな」
え?
お家柄?
「それって・・・」
「・・・我が真田家の一族の男児は、一生を共にする者となければその身体を重ねることはできないんだ。我が財閥を守る為・・・そう幼い頃から教えてこられた。もちろん時代錯誤な精神論ではあるし、その約束を守っている者は今となってはいない。それでも・・・もし、自分の初めてを捧げることができる相手が、もし・・・一生を共にする、本当に愛する人であったとしたら・・・それ以上に素敵なことはないと、子供ながらにそう思ってしまってな。今までも良い人と出会ったことは何度もあったが・・・今日までそれを捨てずに、本当に良かったと思ってる。・・・お前という、最愛の人に捧げることができたからな」
そう優しく微笑みながら、彼は俺の手の平を握りしめる。
そっと、俺の身体を抱き起こすように。目の前で優しく見つめてくれる獅子は、ただ美しかった。だからさっきまでの「財閥」や「真田家の一族」という言葉が、上手く飲み込めない。
「・・・宏明。お前に、伝えたい言葉がある」
俺の手を握りしめ、彼は真っ直ぐに俺を見つめる。
少し緊張したその眼差しに、涙がこぼれそうだった。
どこか寂しそうに、その瞳が濡れる。
「・・・お前を、誰よりも愛している。ただお前だけを、俺に守らせてほしい。真田家の男児として、お前を・・・一生幸せにすると約束する。だから・・・」
彼の目尻から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
俺はそれを優しく拭うと、静かに微笑んだ。
彼のその一言を、促すように。そっと、彼の頬に手を寄せる。
大きな息が、彼のマズルから吐き出された。
「俺と・・・結婚してくれないか?」
切なげに、彼は言葉を震わせた。
その言葉に、大粒の涙がこぼれ落ちる。
困ったように、彼は笑った。
「・・・泣くな。折角のいい顔が台無しだろ?」
「け、けどよ・・・けどよ・・・!!」
「お前を・・・一生の伴侶として、娶りたい。だから・・・俺の傍にいてくれないか? お前を泣かせるのは、これで最初で最後だと誓う。だから――」
その言葉を言い切らないうちに、俺は彼の唇を塞いだ。
泣きながら、一心にその唇を絡み合わせる。
どうしようもない位に、笑みがこぼれた。そんな俺の姿を見て、彼も切なげに、目尻を濡らしながら笑ってくれる。
夜空の星が、はちきれんばかりに輝いていた。
この街を見下ろす夜景も、その宝石のような輝きも、全てが俺達を包み込んでいる。
ただ、涙が溢れた。
「大好きだ」
震えた声で、俺は彼に告げた。
痛いくらいに、その大きな身体に抱きつきながら。
抑えたくても、こぼれる笑みを止めることができなかった。
「・・・本当に、大好きだ・・・!!」