PRPR
  
着ぐるみ46-内臓男性x男性(初音ミク)

  気付いた気持ちに蓋をすることは出来ないが、かといって、それを告白するのはもっと無理なことだった。

  彼との出会いは大学入学の時である。隣同士の部屋に同じタイミングで引っ越ししてきて、話せば同じ大学だという。

  お互いボカロ好きと言う事もあって、イベントに行ったり遊んだりと言うことをよくしていた。

  入学当初はお互い彼女を作るぞと意気込んでいたが、異性に消極的な姿勢を変えることが出来ず、一年経ってもフリーのままだった。

  だが、その一年も経つと、今の状態が妙に落ち着いていて充実していることに気付く。

  気遣いの出来る男で、こんなチビのオタクの男相手でも優しくしてくれる。作ってくれるメシは美味いし、ゲームもお喋りも楽しい。

  この気持ちは何なのだろう? 人に相談できないが、きっと好きなのだろうと結論付けた。結論付けると楽と言えば楽だ。だが、それを告白できない苦しみが生まれる。

  自分では口に出さずに、どうやったら振り向いて貰えるだろうか? 彼の好きなものと言えば、何はともあれ初音ミクである。ボカロ以外の曲を聴いている素振りはない。アイドルグッズの類も見た事のない純然たるボカロオタクだ。

  頭のことが初音ミク以上に彼の事でいっぱいになる。

  ひょっとしたら、自分のボカロ好きは彼に近付くための方便で合ったのではないかとすら錯覚するほどである。

  どうしたらいいのだろうか? 初音ミクになる?

  女装? 無理だ。顔が無理だ。

  体形的にも小太りだ。チビで160cmは届かないが、こんなんで初音ミクと言えば、彼に嫌われてしまうだろう。

  何はともあれダイエットだけは始めた。

  ある日、「ミクナノーさんが近くのゲーセンに来るそうだぜ?」とゲームセンターに誘われた。

  そこには、細くて小さい女性がお面の着ぐるみを着ていた。

  「すげー、一分の一だ!」

  彼のテンションは高くて、年甲斐もなくはしゃいでいた。

  スマホの撮影は連射音ばかりが鳴っていた。

  カメラマンも多い。囲み撮影になって、ミクさんはポーズをつけていた。

  興奮した彼は、「カメラが欲しくなった」と言っていた。

  言うまでもなく、彼はそれを実行して、そこそこのお値段の一眼を手に入れた。

  その翌週はコスプレイベントがあって、折角だから撮りに行こうと誘って来る。「初音ミクのレイヤーさんもいるみたいだし」と言う。人の気も知らないで。

  僕には彼の写真が上手いのか下手なのか分らないでいるが、しかしかなり楽しんでいるように見える。

  そして、その時、アマチュアの着ぐるみにも出逢う事が出来た。

  リンレンの着ぐるみで、細くて小さい人だ。

  彼は興奮して写真を撮りまくった。多分、その日の三分の一ぐらいは彼等の写真だ。

  最後に名刺を貰った。僕もくっついていたから、僕も貰った。それが始まりだ。

  何だろう、この悔しさは……ダイエットで多少精神が不安定化していたのは間違いないが、悔しいこと自体は消えないだろう。

  そうか、着ぐるみになるという手があるだろう。

  その頃には、彼にも心配される程度には細くなっていた。

  「いや、健康診断でコレステロールが出て……」

  その時は、適当に誤魔化していた。だが、それも限界のような気がしてきた。

  悩みに悩んだ。ここで初音ミクの着ぐるみを着たところで、彼が見てくれるのは自分ではなくて着ぐるみだ。

  だが、それでも僕に振り向いて欲しい。

  着ぐるみでもいいから、振り向いて欲しいのだろうか?

  手段など選べるのか?

  葛藤の末、リンレンの人に相談した。「発注するにはどうしたらいいですか?」と。

  二人は特別なルートがあったらしい。

  僕が細くて小柄だったのも功を奏したのかも知れない。

  すぐに連絡が付いて、自分の身体を採寸した。

  タイツも衣装もお面とセットで発注できるそうだ。

  着ぐるみの工房は親切で、進捗の報告と確認をしてくれるし、納期通りに送ってきてくれた。全ては順調だ。

  これなら次のイベントで出す事が出来る。

  全てが順調で、全ての事を待ち遠しさと期待で過ごす事が出来た。

  心配しないではいられない。

  幾ら初音ミクとは言え、中身は男だ。

  男と分っていても喜んでくれるだろうか?

  悩みと心配と待ち遠しさ。ダイエットは続くし、気持ちは揺らぐ。

  何度かキャンセルしようと思ったぐらいだ。

  だが、進捗のメールがそれを思いとどまらせた。

  またコスプレイベントに誘われた。と言うか、毎回誘って来る。お目当てはリンレンの着ぐるみだった。

  世の中にはアマチュアの初音ミク着ぐるみは沢山いるそうだが、近所のイベントで出てくるのはこの二人だけのようだった。

  僕はリンレンの二人には秘密にして貰うように言っていた。

  そして、今日は用事があると言って断り、彼が出るよりも早くイベントに出掛けていった。

  お面と衣装とタイツを一箱に詰め込んで、その箱を大きなバッグに隠して部屋を後にした。

  リンレンの中の人は二人とも女の人だった。

  Twitterではその辺をあやふやにしていたが、それは面倒くさい出会い厨がいるからだとか言っていた。なるほど。

  流石に更衣室は別々だ。

  タイツは肌の滑りが良い。足や手を通すと指のゴツゴツが消えていく。綺麗な皮膚のようにも見えるが、しかし目の細かい生地と言うのは分る。

  お尻と太股ににパットを入れる。シリコンおっぱいを入れる為のベストを着て、そこにできたポケットに、シリコンを突っ込んで行く。

  背中のファスナーを閉めると、か細く、お尻の大きな女の子の体形である。残念なのは顔が不細工な男だと言う事だ。

  下着を着て、衣装を着て、頭を被る。

  ツインテールは別パーツになっているので、それを取り付けて姿見を見る。

  初音ミクだ。これが自分なのかと驚く。そして興奮してしまう。

  これならきっと大丈夫だ。

  更衣室を出ると、出口の辺りにはリンレンの二人がいた。

  僕は彼女らに誘われてカメラマンの相手をする。

  女の子らしい動きとはなんだろうか? 他から見て違和感がないだろうか? 今になってとても怖い。

  熟練らしいカメラマンに、姿勢を指摘される。背筋を伸ばして! もう少し右を見て! それは多分正しい。

  にやりとした顔は、中が男だと気付いているのだろう。

  リンレンを見る。周りのレイヤーさんを見る。

  なるべく自然に、女の子になるように努力する。

  さて、そんな場所に彼がやってきた。

  そして、ちょっと引くぐらいにテンションを上げていた。

  僕は今なら行けると思って、ハグをしに行った。

  彼は混乱しながらも抱き返してくれる。

  幸福な時間だ。

  それから一日、僕は彼と一緒に過ごした。

  「名刺とかありますか?」

  僕は首を振る。

  「あーどうしよう」

  そう言いながら、自分の名刺を渡してきた。

  さて、イベントはつつがなく終了した。彼は満足した顔で帰っていく。人の気も知らないで。

  僕は自分が例の初音ミクだと言う事を彼に知られたくない気持ちが増えてきた。だが、どうしたものか悩んでしまう。

  取り敢えずTwitterのアカウントは別に作って、彼に連絡した。

  自撮りをすると流石にバレそうなのでやめた。

  直近でコスプレできそうなイベントを探す。

  少し遠いけど、来週ある。

  今日の満ち足りた気持ちにあてられて、すぐに予定を決めてしまう。そして、彼に連絡を入れる。

  すぐに彼から連絡が入る。

  今日凄い初音ミクを見掛けたと。

  ああ、彼は僕より初音ミクなんだなと思った。

  そして、イベントに誘われる。でも、僕は行けないと断る。

  「折角だから、絶対に行った方がいい」

  と言われるけれど、なんとか断り切った。

  翌週が楽しみすぎる。

  彼に抱きつけると言う事を考えるだけで、本当に幸せな気持ちになる。

  ああ、どうしたらいいのだろうか?

  授業のことが手に付かなくなる。

  「おまえ、最近おかしくない?」

  そんなことを言われてしまうぐらいにはおかしくなっていた。

  さて、翌週も早く家を出る。そして予定通り、彼と落ち合い、一日中デートに費やす。

  幸せだ!

  もう、その幸福のために全てを費やしていいと思った。

  彼と手を繋ぎ歩く。所々抱きついてみる。観覧車に乗ってみる。全てが楽しい。

  一日が終わると精神と体力がずしんと響く。

  彼よりも後に帰路に就く。

  彼はアフターを誘ったけど断ったのだ。

  しかし、自分の幸福感の暴走とその反動は予想以上に大きい。

  居ても立ってもらいられなくなる。

  着ぐるみを着ようか?

  否、僕が惚れているのは初音ミクではない。

  そうは言いつつ、着ぐるみのタイツに袖を通す。

  姿見を見ると、隣にいない彼を残念に思ってしまう。

  ああ、どうしたものだろうか?

  気が付いたら、彼の部屋の前にいた。

  「ミクちゃん!」

  彼は目を白黒させた。

  僕は抱きつき、奥へと進んだ。

  頭の中はもう真っ白だった。

  部屋の奥まで進み、ベッドに押し倒す。

  そこから彼の服を脱がせて、身体を撫で回していた。

  もう、暴走は止まらない。

  ズボンもパンツも脱がせてしまい、自分の股間を摺り合わせていた。

  「ミクちゃん!」

  彼は中身が男である事に今気付いたのだろうか?

  だが、彼はそれを受け入れたくれた。

  僕は手コキをする中、彼はミクのショーツの中に手を突っ込んでいた。

  彼はミクちゃんの名前を何度も何度も口にして、そしてお互いに射精してしまう。

  「なぁ……○○だろ?」

  落ち着いた彼は僕の名前を挙げた。

  僕は頷く。

  頭を外すのは流石に出来なかった。

  それから、彼には初音ミクと遊ぶ事を要求される事になる。

  僕は、僕と知っていて初音ミクを所望される事に悦びを得ていたが、しかし、事が済んで部屋に戻ると、初音ミクでしか受け入れられない事に絶望した。

  だけれど、彼はそういう事に関して、人に口外することがなかった。

  大学が終わり、バイトが終わり、部屋に帰ると着替えをする。そして隣の部屋で遊ぶ。それが日常だ。

  日常が幸せなら、それで文句を言う必要がないかも知れない。

  不安定を感じつつ、それを無視して生きていくしかないのだろう。

PRPR