いずれの御時にか、病弱な王子ありけり。
王は、その王子が後を継げるか不安に思つてをつた。
そこで王子は、王の后(きさき)を寝室に閉じ込め、彼女が王子を産んだら、密かに城から追放する事にした。
王は寝室の扉を頑丈に固定し、そこは続く通路全てに蛇を放った。
さらに、お屋敷に火までつけてしまつた。
ところが后は、王子の企みを知つてをり、ひみつ動画を持ち込んでゐた。
彼女は先づ、ノコギリと木槌で扉を破つた。
次に、首から下げてゐたヒレ(今でいふスカーフ)を手に取り、二、三回振るつた。
すると、ヘビは大人しくなつてしまつた。
このヒレは、幽冥界で修行する神仙から貰ったものであつた。
さて、彼女が今一度ヒレを振るうと、突然の雨風が屋敷を襲つた。
これにより、彼女は惡い王子からバレずに、脱出する事ができたのである。
然し王子は見逃さなかつた。
サメにまたがつた王子が、嵐の中を飛んできたではないか!
后はヒレを必死に振ったが、サメはそれを食ひ千切つてしまつた。
また、后の服の袖も食い千切つてしまつた。
そこで、后は幽冥界の神弓を打ち鳴らした。
また、琴も琵琶も掻き鳴らした。
然し、サメには効果がなかつた。
最後に后は、髪を縛つてゐた紐で何かをしやうとしたが、鮫に邪魔されてしまつた。
紐は闇夜の中に消えて行く。
万事休すかと思つたが、氣が付くと其処は既に、「幽冥界」であつた。
つまり、サメごとあの世にワープしてしまつたのだ。
王子も「自分も病弱故に死んでしまつた」と嘆いたが、ヨモツヘグイをしなければ、きつと帰れると気を取り直した。
然し、彼の目の前には巨大な閻魔大王が居た。
一方その頃、閻魔をやり過ごした后と赤子は、赤子の外祖父の知り合ひといふ神仙を探してゐた。
なんやかんやあつて數年後、王妃と息子は現世の村にたどり着いた。
息子は、一生をその村で暮らすことになつたのであつた。
そして、ある日、彼は森の中で出会った謎の老人から、自分に特別な力があることを知らされた。
その老人は、實は死んだ祖父であつた。
彼は、幽冥界で修行し、神仙となつたのである。
娘を心配させない爲に、自分の正體を明かしてゐなかつたが、孫が無事産まれたので、氣が緩んだのである。
さて、孫が持つという特殊能力。それは、彼の持つ「声」が、人々を癒す力があるというものだった。
そこから彼は、病気や災害で苦しんでいる人々を助けるために、世界中を旅することとなつた。
というか、母親が是非そうしろと言ふからだつた。
また、死んだ祖父さへもが、折角「幽冥界の力」を得たのだから、是非使ひなさいと言ふから。
さうして、彼は行く先々で、妖怪たちと戰ふ羽目になつた。
彼ら妖怪は、幽冥界の力に惹かれ、高徳の僧や貴人などを襲ふ哀れな存在であつた。
誰かが救はねば。
彼は、アリババと四十人の盗賊、浦島太郎、かぐや姫、ウサギとカメ、人魚姫たちと出會ひ、一緒に冒険をすることになる。
サメに毛皮を剥かれたウサギ。
彼を声で癒してやると、ウサギは仲間になつた。
また、うさぎをいじめた四十人の盗賊を倒すと、彼らも仲間に下つた。
そして、盗賊の財寶を盗んだアリババも、彼の旅の目的を知り、同行してくれる事になつた。
しかし、幽冥界の大魔王が行く先々に現れ、彼らを襲つた。
手に入れたいものを奪うために、凶暴化した動物たちを送り込んできた。
サメとか、狼とか、虎とか、野干とか(キツネのこと)。
惡しき狼が、赤ずきんを拐かし、七匹の子山羊をたひらげ、藁の家を吹き飛ばし、木の家を壊し、嘘吐きの少年を喰らふ。
王子のウサギも、また毛皮をひん剥かれてしまつた。
大魔王がさう迄して手に入れたいものといふのは、やはり「幽冥界」云々が関係してゐた。
さう、大魔王の正體は、全ての元凶たるサメ王子だつたのである。
彼は、閻魔大王に擦り寄り、跡を継ぐことに成功してゐた。
然し、現世に帰還するには、王子を殺して力を奪ふ必要があつたのだ。
癒しの聲の力を持つ流浪の王子。
幽冥界の神仙のパワー。
アリババ、四十人の盗賊。
昼と夜の砂漠のパワー。
浦島太郎の龍宮パワー。
かぐや姫の、月のパワー。
うさぎ、かめ。獣のパワー。
そして人魚姫。魔法のパワー。
彼ら一人一人が自分の持つ力を合はせ、遂に大魔王を倒すことに成功する。
彼らは、再び平和な村に帰り、彼らが持ってきた宝物をみんなと分け合い、彼らに幸せをもたらした。
しかし、彼らが手に入れたものよりも大事なものがあった。
それは、人々が、自分たちの気持ちを表現することの大切さを知ることであり、彼らの声が、誰かを助ける力があることを知ることであった。
そして、少年は、運命を自分で切り開いていくことを決心する。
ここに、シンドバッドの冒険は、はじまつた。