配達員に、荷物代の5000圓を拂はなければならなかつた。
一萬圓しか無かつたので、自販機で5000圓分をおさいふケータイにチャージしやうと思つた。
(無人でチャージできるところつてあつたつけ。駅の切符売り場と、コンビニのレジだけじやなかつたつ
け。)
彼女が彼女の父親に、26時間以上ある歌舞伎のビデオを見せられるてふ虐待を受けてゐた。
彼女が怒つて「×××の部屋に行かう」と行つた。
私の部屋だと思つたので、「エレベーターに乗つた方が早いよ」と聲をかけた。
私の部屋は五階だつたらし。
然し彼女は階段を降り、建物の外へ出て行く。
どうやら彼女の部屋に行けるみたいだ。
彼女が怒つてゐる事や、私が彼女の言葉を咄嗟に聞き取れなかつた事(かういふ事は良くある)が、途端に何うでも良く思へた。
駅前で自撮りをする彼女を、遠巻きに盗撮しやうとする。
然し外國人観光客に阻まれて失敗する。
彼女に500円玉を渡された樣な氣がする。
駅の改札を抜け、「500円で都内を何処まで行けるかやつてみよ〜」みたいな気持ちになつた。
不安は無かつた。
たくさんの人が乗れば乗るほど、電車もバスも運賃が下がるものだ。
田舎で敬遠して誰も乗らない1000円のバスも、誰も乗らなければ無くなるのだ。
(原付や自転車、徒歩。そんなもので節約した気になつてゐる貧乏大学生を、バス座席てふ高みから見下す気持ちになれた。
また、スーパーの地場産コーナーにある卵も花かつおも、豆腐も米も味噌も食べた。牛乳のブランドも試した。
かういふ事は、会社に勤めてからやる事かも知れなかつた。
でも、バイトも旅行も部活も友人も無い私には、食事しか樂しみが無かつた。
グーグルのタイムラインには、大学と家の往復の記録だけが残つてゐた。
そりやうつか適応障碍になりますわ。)
レゼが駅の構内で、「梨、梨……?」と仕切りに口に出してゐた。
彼女も500圓を持たされて、その中で梨を買つても良い物か思案してゐるのかも知れない。
彼女と2人、上りのエスカレーターに乗る。
けいおんの二人の樣な、おとぼけキャラが、私たちの隣をすり抜けていく。
(別にいいけど、エスカレーターでは歩かないでね。立ち止まつててね。)
「保険証に行く」みたいな事を言い訳みたいにしてた。
彼女が「病院に行くならまだしも、保険証に行くなんて。面白いね。」みたいに笑つた。
電車に乗つた記憶は無い。
ドアをガチャッと開けて、彼女の部屋の中を案内された。
二人で同じベッドに寝た。
夜に目が覚めて、一人でくしやくしやのルーズリーフみたいなやつに、三行ほど書いた。
梨とか保険証とか、そんな事だつたと思ふ。
彼女の頭が私の足の方にあつた。
実写映画『TAXI(タクシー)』みたいな、ペラペラのシーツに寝てゐた。
髪の毛が長すぎて、ジーンズの裾から髪の毛が漏れてゐた。
彼女は私を見てはにかんだ。
その時父親が合鍵で玄関を開ける音がした。
「精神病になつちやいけませんよ〜♪」
とか言つてゐた。
私は彼女の頭を撫でた。
まるで小さい子にさうするみたいに。
部屋に入つてきた父親に、私はこんにちはと頭を下げた。
さうするしかやる事が無かつたので。
窓から逃げるのも違ふ気がした。
『TAXI5』の鈍臭い方みたいだ。
窓はカーテンを閉めてをらず、家の前の通りから中が丸見えだつた。
寝る前に面倒くさくて、カーテンを閉めずに寝る。さういふ事もあるよね。
父親は入つて来るなり、彼女に「家の仕事も手伝はないで(何をやつてるんだ)」みたいな事を叱責した。
そして野球の硬球を投げつけ樣とした。
運良く手からボールがこぼれ落ち、私はそれを拾つてシャツの胸ポケットにしまはうとした。
スマートな動作を装つてはゐるが、野球のボールを胸ポケットにしまはうとしてゐるマヌケだ。
案の定、ボールは胸ポケットに入らず、間抜けた時間が流れた。
父親の怒りが冷めたのか、居間で飯を取ることになつた。
ケチャップライス二つとカレーとあんかけと白米の5皿があつた。
三人しか居ないのに、5人前の料理を用意する人。さういふ事もあるよね。
ティッシュペーパー1枚の上に盛られてをり、衛生的でなかつた。
彼女はケチャップライスが気に入つたらし。
私はどうせカレーを食べる事になるんだらうな、と思つた。