「タイガー先輩!」
「おー、来た来た」
バーナビーが言った通り、通信から5分程度で到着した。
虎徹が生徒たちと待機していた教室のほうへトランスポーターがまわりこむと、先にスタークラングが顔を出している。そして教室の中へ入ろうと、早速能力を使い始めた。
「――――――♪――――♪♪」
歌声を利用して空気を変化させる。それが彼の能力の特徴だ。
彼が言うには、作り出したいものをイメージし、メロディーのキーで調節しながら形にしていくのだとか。
スタークラングが今作り出そうとしているものは、ポーターから教室へ続く道。
そして数秒で形作られたその上を渡り、虎徹がとにかく怪しいと言っていた炎がまとわりつく窓に触れてみる。
(……なるほど)
バーナビーとのやりとりを聴いていた時は、彼がどういう意味で怪しいと言いたかったのかわからなかったが…今、直に触れて彼は理解した。
熱は感じる。しかし、時間が経過すればするほど必ずできるものがそこにはなかった。
とにかくまず虎徹はトランスポーターに行ってもらわなければ。
右手でこぶしを作り、その周囲を空気のシールドで覆うと彼は窓に思い切り手を突っ込んだ。
そして手首を動かすと鍵の部分を器用にまわし、その窓を開放する。
「待たせてすみません。タイガー先輩、トランスポーターへ行ってください」
「すまないな!スタークラング、悪いが例の堕天使と一緒にあいつらも頼む」
「……わかりました」
スタークラングが渡ってきた道をたどって、虎徹はトランスポーターに乗り込んだ。
それを見送ったスタークラングは、白の堕天使に視線を投げかける。
「………協力、してくれるんだよな?」
そして白の堕天使は、虎徹の時と同じように頷いた。
「頼んだぜ、堕天使」
そう言うとスタークラングは再び歌った。
そうして出来たのは、ついさっきまでトランスポーターと教室をつないでいた道を変化させたもの。
滑り台とまではいかないが、なだらかな斜面の道だ。
「よし、動ける人から順番にここから降りてくれ。けが人はいるか?」
「……あ、あの……」
そこで1人、女子生徒が気まずそうに手をあげる。
「け、怪我じゃないんですけど……高所恐怖症で…」
彼女がそこまで言うと、そこで白の堕天使が動き出した。
道が続く窓まで移動し道の上に立って外へ出ると、途端に背中の羽を大きく広げた。
そして女子生徒に、手を差し出すような動きをとる。
「……多分、つかまれって言ってる。彼にしがみついて、下を見ないようにすれば怖くないだろ?」
「あ、は、はい…っ」
弾かれたように動き出し、やはり最初は怖々とした様子だったが、堕天使が上手く抱き上げたことで彼女は下に視線を向けることなくつかまることができた。
そして、白の堕天使がその場から飛び立った。
[newpage]
炎が消えることのないアカデミーの周辺では、何事かと集まりだした野次馬やアカデミーの関係者が茫然とその現場を見つめていた。もちろんそこには事件の被害者である避難した生徒たちもおり、1人1人の傍には連絡を受けて駆けつけてきたのだろう親が傍についていて、建物を不安そうに見つめている。
生徒たちの中には責任感や仲間意識の強さから、自ら残された友人を助けに行こうとして警官や教員に止められ、悔しげに見守る者も少なくなかった。
時間が経つにつれて、その場の空気がどんどん重くなっていく。
「!ねえ、誰か…もしかしてアリス!?みんなっ、アリスが助かったよ!!」
そんなときに、1人の女子生徒が白の堕天使に抱えられて現れたことでその場は一気に歓声が上がった。
生徒たちが避難する場所に、アリスと呼ばれた少女が降り立つ。
地に足が着いたことと、あの現場から避難できたことを知り、堕天使に笑顔でお礼を言うと仲間のほうへ走り去っていった。
彼女の周辺には無事を喜ぶ生徒と親、そして教員が集まり、その喜びは次第に白の堕天使へも向けられたが、すでに次の生徒を救出に向かったのかその場にはいない。
そしてもちろんその一連の流れは、アニエスにぬかりなく撮影されていた。
……少々、苛立ちながらではあるが。
「ちょっと先越されてるわよ皆!スカイハイ、貴方も飛べるんだから急いで窓から救出に向かって!ドラゴンキッドと折り紙サイクロンは正面から、ブルーローズとロックバイソンは裏からまわって犯人を探してちょうだい。ファイヤーエンブレムはタイガーとバーナビーの援護を頼むわ。スタークラング、様子はどう?」
『脱出ルートは作りだしたので、今順番に外に出てもらってます。…ただ2階なので、さっきの生徒のように怖がる人は堕天使に直接お願いしてる感じです』
「なるほど、それでそのダークヒーローは相変わらず何も話さないのかしら?」
『……ええ、まあ。ですが、ルナティックとはやはり違うと思うんですけど…』
2人がそんなやりとりを進める間にも、1人また1人と救出された生徒たちが姿を現す。
その時、犯人だろうか。怪しい服装をした人物がカメラに一瞬だが映った。
だが先ほど指示した、建物に入って行ったはずの他のヒーローたちが何故か出てこない。
不審に思ったアニエスは、裏と表の入り口からまわりこむように指示した4人のヒーローに通信を繋げた。
「ちょっと、何してるの?犯人は外に出ているわ、早く貴方達も…」
『それが、さっき通ってきた廊下になんでか壁があって…』
『こっちも似たようなもんだ。正直、今どこにいるのかもわからん』
ドラゴンキッドとロックバイソンが困ったように呟いている。
どうやら身動きがとれない状況にあるらしい彼らに、アニエスは怒鳴った。
「だったら壁でも窓でも壊して外に出てきなさい!!」