鳥を導く星【6】

  オリオンはまさかの出来事に焦った。そして困った。

  360度見渡してみるが、やはりあるのは壁、壁、壁。教室の面影はどこにもない。

  まだヒーローを始めてから1年足らずな彼は、未経験の出来事にその心臓が落ち着かないでいた。

  

  「こ、こういうときは……っそうだ先輩!」

  

  PDAを操作して、おそらく犯人を追っているであろう先輩ヒーローに繋げる。

  彼が連絡を取ろうとしたのは……

  

  『はい、バーナビー』

  

  バーナビーだった。

  

  「せせせせ先輩!なんか俺とんでもない状況にいるんですけど、どうしたらいいんでしょうか!?」

  『落ち着いて、スタークラング。今、何が起きてる?』

  「……教室だったはずのこの場所が、一気に密室になりました。見渡す限り壁ばかりで、まるで箱の中にいる感じです。ちなみに生徒は全員避難した直後だったので、今は俺だけです」

  『その変化する瞬間はどんな感じだった?』

  「いや…その、突然変化したのでなんと言えばいいのか。あ、でも一瞬空間が歪んだような感じはありました」

  『だ、そうですよタイガーさん』

  

  会話の途中で、バーナビーがそう虎徹に話を振った。おそらく隣で聞いていたのだろうが、オリオンにはなぜ虎徹に話が振られたのかよくわからなかった。

  

  『んー、こりゃいよいよ濃厚になってきたなぁ』

  『スタークラング、多分君は今犯人の能力に惑わされているんだ。これは虎徹さんがさっき推測したことだけど、今回の犯人は幻覚を扱う可能性が高い』

  「幻覚……っそうか!」

  

  バーナビーから教えられたその可能性に、オリオンもピンときた。

  到着前に虎徹が言っていたこと、実際に目の当たりにして感じた違和感、そしてつい先ほどの現象。

  

  確かに、それならば話が通じるかもしれない。

  

  「わかりました、ありがとうございます!」

  『っていうかお前、バニーに通信するってどうゆうことだ?』

  『それは日ごろの行いというやつではないでしょうか』

  『っだ!どうせ俺は頼りねえよっ』

  『拗ねない泣かない嘆かない。というか誰もそんなこと言ってないですし、それに今回はタイガーさんの読みが当たって助かってるんだからいいじゃないですか』

  

  たまに思うが、この2人は単なる相棒という域を超えてもはや夫婦のような感じがする。

  それともバディというのは、時間が経過し親密になると自然にこうなるのだろうか。

  

  

  「……あの、なんかごめんなさい」

  

  

  まるで親が自分のせいで喧嘩していると思って落ち込む子どものように、とりあえずオリオンは謝った。

  [newpage]

  

  

  その頃、虎徹とバーナビーの先を進む2人は、人気のない場所まで入り込むとそこで進むのをやめた。

  

  「……あの木の影に」

  

  そこで、初めて白の堕天使が話し始めた。

  アニエスがいれば、確実に撮られ録音もされているだろう。そして「視聴率ゲット!」と喜ぶに違いない。

  

  「今回は少々、時間をとってしまったな」

  「……すみません」

  「別に責めてはいない。しかし相変わらず、貴様は中途半端だな」

  「私はヒーローでも、ダークヒーローでもないですから」

  

  犯人のNEXTの能力をいち早く見破ったのは虎徹。しかし、場所を初めに突きとめたのはルナティックと、白の堕天使だった。示された方角に、ルナティックの青い炎が飛ぶ。

  

  「っうぁあぁっ」

  

  寸分の狂いもなく当てられ、犯人は隠れていた木々を燃やされた。

  慌てて飛びのいたことで2人の前に姿を現す羽目になってしまった犯人を見て、ルナティックは少々意外そうに呟く。

  

  「……女か」

  「だ、だから何さ!大体、どうしてここにいるんだ!」

  「決まっている。貴様にタナトスの声を聴かせるためだ」

  

  見つけられると思っていなかったらしい犯人は、完全に追い詰められたことで焦っているようだった。

  しかも目の前にいるのは、普通のヒーローではない。命の保証がないことは嫌でも知っているだろう。

  

  

  一歩、また一歩と、ルナティックが近付くたびに、彼女のなかに言い知れぬ恐怖が湧きあがってくる。

  

  

  もう間もなく、ダークヒーローの手で殺人犯の処刑が行われようとしていた。

  [newpage]

  

  所変わって。

  

  (幻覚ってことは…視覚だけの問題じゃないはず。俺の意識そのものが犯人の能力の支配下にあるはずだ)

  

  先輩からアドバイスを受けたオリオンは、冷静な思考を取り戻し脱出方法を考え始めていた。

  虎徹とバーナビーはルナティックを追っていると言っていた。早く追いつくためにも、急いでこの状況を打破しなければならない。

  

  ひとまずオリオンは、自分の能力を頼りに犯人の能力に抵抗してみることにした。

  

  「――――♪」

  

  元の教室の姿を思い浮かべる。

  

  数か月前までは自分もここの生徒だった、そんなことを心のどこかで思いながら、オリオンは周囲の空気を震わせた。

  

  「―――♪――――♪」

  

  1分が経過した。

  まだ、異変は見られない。

  

  「―――――――♪」

  

  3分が経過したが、それでもあまり変わらないようだ。

  

  「―――♪」

  

  

  ―――ピキ

  

  

  5分が経過したところで、初めて異変が生じた。

  まるでガラスにヒビが入ったかのような音が、一瞬だけ響く。もちろんオリオンはその音を聴き逃さなかった。

  

  

  (……いける…!)

  

  

  少しずつ、少しずつ、オリオンを囲む壁に歪みが生じ始めるようになる。

  小さな歪みだが、しかしこれでオリオンは自分の能力で対抗できると確信を持てた。

  

  (………これでどうだっ!)

  

  これで決める。

  そう言わんばかりの高音のメロディーを、 思い切りぶつけた。

  

  

  ――――――――

  

  

  「……っおいおいおい!」

  「ルナティック、やめろっ」

  

  まさにギリギリのタイミングだった。

  途中からハンドレッドパワーを使用したのが正解だったのか、なんとかルナティックが犯人を殺害してしまう前に2人はその場にたどり着くことができた。

  

  ただ、その到着の仕方は少々アレであったが。

  

  「…とりあえずバニーちゃん、俺は降りたい」

  「ああ、そうでした」

  

  バーナビーが5分の発動時間なのに対し、今の虎徹は1分。

  大事な場面が他にもあるかもしれないというバーナビーの言葉に、渋々虎徹はバーナビーに運ばれてきたのである。

  

  

  

  

  ―――――お姫様だっこで。