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二人部屋。ルームメイトが失恋した日、俺は「慰め」の名目で彼を押し倒した

  夕陽に焼けたユニフォームの匂いが、部屋中に沈んでいた。

  寮の二人部屋は、いつもより狭く感じた。窓は半分だけ開いていて、網戸に当たる風が、しゃり、しゃり、と乾いた音を立てている。グラウンドからは、まだ遅くまで残っている野球部の掛け声が遠く聞こえた。バットの乾いた金属音。土の匂い。汗の抜けきらない夕方。

  その全部が、ベッドの端に座る同室の男を、ますます黙らせていた。

  陸斗は俯いたまま、肘を膝に置いていた。でかい背中だった。肩幅が広い。練習終わりで風呂にも入らず戻ってきたせいで、首筋に汗がまだ薄く光っている。短く刈った髪の生え際にも塩が浮いていた。握った拳だけが妙に白い。

  俺――遼は、少し離れた自分のベッドに腰かけたまま、陸斗の横顔を見ていた。

  昼間のことを思い出す。

  中庭。放課後。転校生の水城が、生徒会長の手を取っていた。あれは誰が見ても、そういう空気だった。ちょっと出来すぎなくらい絵になっていた。桜の葉の影。白いシャツ。生徒会長の整った横顔。水城の、いつも人を真っ直ぐ見る目。

  陸斗は、それを見た。

  見てしまった。

  そのあと何も言わずに部室へ行って、何も言わずに戻ってきて、こうしてずっと黙っている。

  俺には、その沈黙がうまかった。正直に言えば、胸の奥が少しだけ軽かった。ひどいとは思わない。だって、俺はずっと陸斗が好きだった。毎日、寝起きの髪をぐしゃぐしゃにした陸斗を見て、喉の奥が熱くなるのを、ずっと飲み込んできたからだ。

  俺はベッドから立った。

  床に落ちた陸斗のソックスをつまんで、洗濯籠に放る。そんなことに意味はない。ただ、動いていないと、自分の顔がにやける気がした。最低だな、と頭のどこかで思う。けどその最低さごと、今の俺には都合がよかった。

  「なあ」

  声をかけると、陸斗の肩がわずかに動いた。

  「……なんだよ」

  掠れていた。喉が乾いている声だ。ずっと何かを堪えていた男の声だった。

  俺は冷蔵庫代わりの小さな保冷庫からスポドリを出した。汗をかいた手に冷たかった。キャップを開けて、陸斗に差し出す。

  陸斗は少し迷ってから受け取った。ごく、ごく、と大きな喉が鳴る。飲み方まで男っぽい。口の端から少しだけ垂れた液が、顎を伝って首へ落ちる。

  陸斗はボトルを握ったまま言った。

  「見てたんだろ。昼」

  「うん」

  「ダセえよな、俺」

  「全然」

  自嘲の気配だけが、口の端に固く残っていた。あの場面を何度も反芻している顔だ。水城の手。会長の指。近すぎる距離。失恋した側は勝手に何十回も見返してしまう。

  だからこそ、今日はもう行くしかなかった。

  俺は陸斗の前にしゃがみこんだ。膝と膝がぶつかる。汗と土の匂いが濃くなる。野球部の男の匂い。日焼け止めが落ちたあとみたいな皮膚のにおい。塩気。ユニフォームに染みたグラウンドの乾いた土。全部、俺の好きなものだった。

  「なあ、陸斗」

  「……んだよ」

  「一回ヤったらスッキリするからさ!」

  言った瞬間、部屋の空気が止まった気がした。

  網戸が鳴る音だけが、しゃり、とした。

  陸斗がゆっくり顔を上げる。目が合う。ただひたすら疲れた目。その奥に、俺の言葉がちゃんと届いたあとの空白が見えた。

  「は?」

  当然だ。普通はそうなる。

  でも俺は引かなかった。こういうとき引いたら終わると思っていた。冗談っぽく笑ってごまかすのも、今日は違う。やさしく、でも逃がさず。そこが大事だ。

  「慰め。そういうの、あるじゃん」

  「ねえよ」

  「あるって。ほら、失恋するとさ、身体に残るんだよ。行き場ない感じ」

  「お前……」

  陸斗は眉間を押さえた。混乱している。そりゃそうだ。だけど完全に拒絶しているときの顔ではない。怒鳴らない。立ち上がって距離も取らない。その時点で、俺には十分だった。

  この男は、根がやさしい。相手を強くはねのけられない。しかも俺が相手なら、なおさらだ。甘い。いつも無意識に甘やかす。ずっとそうだった。眠そうにしてると牛乳を買ってくれる。テスト前に俺のノートを勝手にまとめてくれる。風邪をひいたら氷枕を替えてくれる。

  俺はその膝に手を置いた。

  熱かった。太い腿だった。短パンの上からでも筋肉の形がわかる。触れた瞬間、陸斗が息を止めたのがわかった。

  「俺、そういうの平気だし」

  「平気ってなんだよ」

  「男とヤるの」

  「……は?」

  二度目のそれは、さっきより小さかった。

  俺はちょっと笑った。もう一歩踏み込める。そう思えた。

  「前から言おうとは思ってたんだけど。まあ今のほうがタイミングいいかなって」

  「いや、よくねえだろ」

  「俺はいいよ」

  「お前がよくても」

  陸斗は言いかけて、止まった。

  その続きは、たぶん、俺がよくねえ、だ。

  そう言いたいのだろう。自分が失恋した直後で、頭が回っていないことも。俺をそういう対象で見たことがあるのかないのか、自分で整理できていないことも。全部ひっくるめて、踏み切れない。

  でも、踏み切れないだけだ。

  俺は膝に置いた手をゆっくり上へ滑らせた。腿の付け根近く。ユニフォームの布越しでも、内ももの熱がわかる。陸斗の脚がぴくっと引けた。けれど逃げきらない。途中で止まる。俺はその反応に喉が焼けた。

  「嫌ならやめるよ」

  「……」

  「でも、少しでもラクになりたいなら、俺、手伝える」

  陸斗は黙ったままだった。

  その沈黙を、俺は都合よく受け取る。いや、都合よく受け取るくらい、今日くらい許されるだろうと思い、俺は指先に力を少しだけ込めた。太腿の硬さを確かめるみたいに、ゆっくり撫でた。

  陸斗は長く息を吐いた。

  それが諦めなのか、迷いなのか、俺にはもう区別する気がなかった。

  陸斗はスポドリのボトルを床に置いた。ごと、と鈍い音がした。大きな手が太腿の上で開いて、閉じる。指の節がごつい。

  「変なことしたら殴る」

  「それはこわいな」

  「笑ってんじゃねえよ」

  そこで初めて、ほんの少しだけいつもの陸斗の調子が戻った。俺はそれが嬉しかった。結局いちばん満たされるのは自分かもしれない。そういう最低さが、ますます体を軽くした。

  俺は立ち上がると、カーテンを閉めた。夕陽の赤さが布の向こうでくすむ。部屋は少し暗くなる。ベッドの下に押し込んでいたトートを引っぱり出した。洗面用具のポーチ。使いかけのローション。コンドーム。こういうものを寮で持っているのは、べつに不思議じゃない。風俗雑誌を隠すみたいに、みんな何かしら隠している。

  けれど、陸斗はそれを見て目を止めた。

  「お前、慣れてんのか」

  「まあ」

  「まあ、って」

  「そういうの、ひと通り」

  「……マジかよ」

  呆れたような顔だった。

  でも、その顔の下にあるのはたぶん別のものだ。知らなかった、という驚き。自分の知らない俺がいたことへの戸惑い。ちょっとだけ置いていかれたみたいな感じ。陸斗はたぶん、自分が俺のことをよく知っているつもりでいた。実際、こいつは俺の生活のかなり近い場所にいた。朝起こして、夜は同じ部屋で寝て、タオルや洗剤の減り方まで見ている。そんな相手が、急に知らない顔を見せる。そのざらつきが、今の陸斗にはきっと効く。

  俺はベッドに座って、手でシーツを叩いた。

  「こっち」

  陸斗はしばらく動かなかった。

  それから、重たい足取りで立ち上がった。筋肉で布を押し上げた太腿が近くで見ると余計に太い。ユニフォームの脇には汗染みが濃く残っている。風呂前の男の匂い。塩と土と、ぬるい体温。俺はくらくらした。

  「まず、上脱いで」

  「……命令すんな」

  「じゃ、お願い」

  「なお悪いわ」

  ぶつぶつ言いながらも、陸斗はシャツの裾を掴んだ。脱ぎ方が乱暴で、首元に引っかかる。大きな腕が上がり、腹筋がのびる。汗で湿ったインナーごと引き抜くと、むっと熱い匂いがした。練習終わりの肉体の匂い。鼻の奥が痺れる。胸板は厚く、乳首の周りに汗が細かく光っていた。腹は割れていて、脇腹に土が少しついている。俺は何度も見てきた体なのに、いざ触っていいと思うと、見え方がまるで違った。

  「いい身体」

  「今それ言うかよ」

  「今だから言うんだよ」

  俺はそう返して、手を伸ばした。ベルトに指をかける。陸斗はそれを見下ろしていた。止めたいのか、止めたくないのか、自分でも決めきれない顔。俺はそういう曖昧さをこじ開けるのが得意だった。

  金具を外す。

  チャックを下ろす。

  擦れた音が静かな部屋にやけに響いた。

  野球部指定のパンツの内側は、もう少し膨らんでいた。完全に無反応ではない。俺はそこにじっと視線を置いた。陸斗の喉が、ごくりと鳴った。

  俺にはそれが聞こえた気がした。

  気のせいでもよかった。

  視線を向けられているだけで、股間がずしんと重かった。

  「……見んなよ、そんな」

  俺はパンツの上から手のひらを当てた。

  熱い。

  分厚い。

  布の下で、もうはっきり形がわかる。

  「でか」

  「うるせえ」

  「知ってたけど」

  「じゃあ言うな」

  その返しに、俺は笑った。

  こういうときでも律儀に返してくるところが、どうしようもなく陸斗だった。

  手のひらで根元から先までゆっくり撫でる。

  布が擦れて、じゅっ、と湿った音がする。

  パンツの前が少し濃くなっていた。

  たぶん、今さらだった。

  相手が男だとか。

  俺が慣れてるとか。

  そういうことに、ひとつひとつ驚いている余裕がない。

  失恋の痛みと、目の前で自分のモノを愛撫する同室の男と、身体が先に反応してしまっている現実と。全部が一度に来て、処理しきれていない顔だった。

  俺はパンツのゴムに指をかけた。

  ゆっくり引き下ろす。

  太い腿を擦りながら、野球部指定のパンツが膝まで落ちる。

  出てきたのは、思っていたよりもっと凶悪なやつだった。

  硬い。

  太い。

  竿が日焼けで少し濃い。

  先端だけ赤く、つやつや濡れている。

  重そうに腹へ反っていて、脈打つたび先走りが糸を引いた。

  「……は」

  思わず声が漏れた。

  陸斗がそれを聞いて、ほんの少し眉をひそめる。

  恥ずかしいのか。

  見られているのが堪えるのか。

  それとも、そんな顔をされたこと自体が初めてなのか。

  俺には全部、都合よく見えた。

  「何その反応」

  「いや、だって……でけえ」

  「お前……」

  「褒めてる」

  俺は根元を片手で握った。

  熱が掌に食い込む。

  硬さが男くさい。

  先を親指でこする。

  ぬる、と先走りが広がる。

  匂いが濃くなる。

  陸斗が息を乱した。

  「は、ぁ……」

  「感じてるじゃん」

  「……っ、うるせえ」

  声がいつもよりずっと弱い。

  俺は先端に口づけた。

  ちゅ、と吸う。

  塩気と苦味が舌に乗る。

  陸斗の腹筋がかたく縮んだ。

  「っ、あ、」

  「声、いい」

  「よくねえ……っ」

  陸斗は荒く息をしていた。

  胸が大きく上下する。

  乳首がうっすら立っている。

  自分で気づいていないだろう。

  「まだ我慢して」

  「まだってなんだよ」

  「挿れたいから」

  「は?」

  俺は立ち上がった。

  そのまま自分のシャツを脱ぐ。

  タンクトップも頭から引き抜く。

  胸に夕方の湿気が触れる。

  陸斗の視線が、今度は俺の体に止まる。

  「挿れるの、陸斗だよ」

  そこで陸斗が、はっきり固まった。

  陸斗は口を開いて、閉じた。

  喉が動く。

  視線が俺の顔から胸へ、腹へ、下へ落ちる。

  俺はジャージも下ろした。

  勃起した自分のモノが、ばちんと腹に当たる。

  「……っ、お前も、すげえな」

  「嬉しい」

  「褒めてねえ」

  「褒めてる顔してる」

  実際、陸斗は困った顔をしていた。

  でも目は逸れていなかった。

  男の本能みたいなもので、比べてしまっているのだと思う。

  自分より少し細いが、いやらしく反り返った俺のチンポを。

  先走りでぬらぬら光っているそれを。

  そしてその持ち主が、自分の前で足を開こうとしていることを。

  俺はベッドに腰を上げた。

  枕を引いて、膝を立てる。

  自分の内腿を開く。

  見せつけるみたいに。

  「ローション、そこ取って」

  「……マジでやんのか」

  「早く。気持ちいいうちに」

  この言い方が効くのを、俺は知っていた。

  陸斗はその場の熱に弱い。

  勢いが切れる前なら、わりと押し切れる。

  案の定、陸斗はのろのろとポーチからローションを取った。

  手がでかい。

  その手がぬるい透明の液を握っているだけで、俺は尻が疼いた。

  「どうすんだよ」

  「指で広げて」

  「俺が?」

  「他に誰がいんの」

  陸斗は露骨にためらった。

  眉間が寄る。

  けど目の前にある俺の脚はもう開いていて、太腿の間の場所を隠していない。

  男のケツ穴なんて、見慣れているはずがない。

  戸惑わないほうがおかしい。

  俺は自分で指を一本、口に含んで濡らした。

  くちゅ、といやらしい音を立てて抜く。

  そのまま後ろへ回し、穴をなぞる。

  ひく、と締まる。

  見せつけるように指先を押し込むと、陸斗の息が目に見えて止まった。

  「こうやって」

  「……」

  「ほら、こっち来て」

  陸斗は近づいた。

  ベッドが沈む。

  マットレス越しに、体重の重さが伝わる。

  俺は脚をもっと開いた。

  股のあいだから、濡れた穴が空気に晒される。

  恥ずかしさはなかった。

  好きな男に見せるために鍛えてきた尻だ。

  使ってもらわないと困る。

  陸斗の指が、そっと尻に触れた。

  ごつい。

  硬い。

  野球で鍛えた指先だ。

  そこにローションのぬめりがあって、そのアンバランスさがたまらない。

  「あ……」

  「っ、そんな声出すな」

  「出るって。気持ちいいから」

  陸斗の肩がぴくっとした。

  言葉に弱い。

  俺が感じていると、きっとこいつは責任を感じる。

  だから、もっとちゃんとしなきゃ、みたいな顔になる。

  そういう真面目さが、今は全部、性欲に変わっていく。

  指が穴を押す。

  ぐ、と入り口が凹む。

  俺は腰を少し上げて、受け入れた。

  ぬる、と第一関節まで入る。

  「あっ、は、ぁ……♡」

  「……こんな、入んのか」

  「力抜けばね。もうちょい」

  「お前、慣れすぎだろ」

  もう一本、指が増えた。

  太い二本が穴を押し広げる。

  俺は息を吸って、吐いて、膝を抱えた。

  痛みは少しある。

  でもそれごと欲しかった。

  広げられてる感じが、むしろ気分を煽る。

  「っ、は、ぁ、んん……♡」

  「すげえ締まる」

  照れている。

  でもチンポはますます硬くなっている。

  視界の端で、陸斗の竿が跳ねるのが見えた。

  互いの息が近い。

  汗の匂いが濃い。

  ローションと先走りの匂いが混じる。

  夕方の部屋が、もう完全にセックスの臭いになっていた。

  「あ゛っ、はぁっ、ふ、ぅ……っ」

  「痛ぇか」

  「ちょっと。でも、好き……」

  「っ……」

  その一言が効いたのがわかった。

  陸斗の喉が詰まる。

  たぶん今の“好き”を、どっちに取るか一瞬迷ったのだ。

  穴を広げられるのが好き、なのか。

  自分にされるのが好き、なのか。

  俺はあえて補足しなかった。

  三本が出入りし始める。

  中がじわじわ熱くなって、奥が緩む。

  動きが少しだけ荒くなった。

  指先が奥を探る。

  こり、と当たる場所。

  俺の視界が白く弾けた。

  「あっ♡ そこ、そこっ、んぐぅ……!」

  「ここか」

  「やば、っ、やばい、好き、っ♡」

  「……っ」

  陸斗の呼吸まで荒くなる。

  自分が遼をイかせられる。

  その実感に、明らかに興奮していた。

  俺はもう待てなかった。

  陸斗の手首を掴む。

  「もう入れて」

  「まだじゃねえのか」

  「もういい。欲しい」

  「でも」

  「陸斗の、早く」

  その言葉で、最後の躊躇が切れたらしかった。

  陸斗はコンドームを取った。

  震える指で袋を破る。

  慣れていない手つきだ。

  それが逆にいやらしい。

  本気で、これが初めてに近いんだと思う。

  コンドームを竿に被せる。

  太すぎて、途中で少し手間取る。

  俺はそれを見るだけで興奮した。

  好きな男のチンポが、自分に入る準備をしている。

  それも、失恋の慰めを言い訳に。

  ずるい始まり方だ。

  でも始まれば、もうこっちのものだった。

  「脚、持て」

  「うん」

  俺は膝裏を自分で抱えた。

  大きく開く。

  尻がベッドの端に浮く。

  穴がぬらぬら光っているのが、自分でもわかった。

  陸斗が先端を当てる。

  熱い。

  ゴム越しでも十分わかる太さ。

  入口を何度か擦られるだけで、ぞくぞくした。

  「……マジで入れんぞ」

  「入れて」

  「泣いても知らねえ」

  「泣かせてみてよ」

  強がり半分。

  煽り半分。

  陸斗の眉が寄る。

  男の顔になった。

  ぐっ、と押し込まれた。

  「っ、ぁあ゛……!」

  「く、っそ、狭……っ」

  裂けそうな圧迫。

  太い亀頭がねじ込まれる。

  入口が熱く焼ける。

  俺はシーツを掴んで、歯を食いしばった。

  痛い。

  でも、その痛みの芯に甘い痺れがある。

  好きな男にこじ開けられている現実が、痛みを快感に変える。

  「いいよ、来て」

  「お前、ほんと……」

  陸斗はゆっくり腰を進めた。

  太い部分が少しずつ入っていく。

  肉が押し広げられ、ぬち、ぬち、といやらしい音が立つ。

  ローションが垂れて、尻の下を汚した。

  「あ゛っ、そこ……!」

  「まだ全部じゃねえ」

  「っ、うそ……」

  最後まで入ったとき、俺は声も出なかった。

  ただ口を開けて、酸素を求めた。

  腹が膨らむみたいな異物感。

  尻の穴がきゅうきゅうに塞がれている。

  陸斗の腰骨が尻に当たる。

  本当に全部入っていた。

  「は、ぁ……っ、すげえ……」

  「陸斗……」

  「お前、こんなの入れてんのかよ、いつも」

  「いつもじゃ、ない……っ」

  「嘘つけ」

  「今が、一番……っ、いい♡」

  それは本当だった。

  陸斗はしばらく動かなかった。

  たぶん自分もきついのだ。

  遼の中の熱と締めつけを、初めて全身で感じている。

  失恋の穴埋めで始めたはずなのに、もうそんな簡単な顔はしていなかった。

  俺はその変化を見逃さない。

  だから、わざと腰を少し揺らした。

  中のチンポを、穴で擦るように。

  「っ、遼」

  「動いて」

  「……煽んな」

  声が低く落ちた。

  次の瞬間、陸斗が引いた。

  ずるっ、と抜けかけて。

  すぐに、叩き込まれる。

  「ぁあっ♡」

  「く、っそ……!」

  「は、っ、ぁ、いい、っ♡」

  二度目は痛みより快感が勝った。

  奥を太い先で抉られる。

  前立腺の近くを擦られ、俺のチンポが跳ねる。

  先走りが腹へ飛んだ。

  陸斗はその反応を見て、完全にスイッチが入った。

  腰が本格的に動き出す。

  どん、どん、どんっ。

  ベッドが軋む。

  壁に小さく当たる。

  ぬちゅ、ぱちゅ、ぐちゅ、と体液の音が続く。

  コンドームのこすれる音と、汗ばんだ肌のぶつかる音が混ざる。

  「っ、はぁ、あっ、んぐ、ぅ♡」

  「締まる、っ、やば……」

  「陸斗、すご……っ、深、いっ♡」

  「お前が、っ、気持ちよさそうな声出すから……!」

  その言い方に、俺はぞくっとした。

  自分のせい。

  そう言ってるも同然だった。

  陸斗は腰を掴んだ。

  指が食い込む。

  逃がさない手だ。

  野球部の主将候補らしい、容赦のない握力。

  そのまま引き寄せられ、奥へ何度も突き上げられる。

  「あっ♡ あ゛っ、そこ、そこぉ……!」

  「どこだよ」

  「奥、っ、右、んぁっ♡」

  「注文多すぎんだろ」

  「でも、ちゃんと、やる……っ♡」

  そう。

  こいつは言えばやる。

  真面目だから。

  俺が欲しいところを教えれば、そこを正確に突いてくる。

  陸斗の角度が変わる。

  次の一突きで、前立腺をまともに擦られた。

  「あ゛っ♡♡」

  「っ、そこか」

  「やば、っ、やだ、出る、っ♡」

  「まだ出すな」

  「無理、ぃっ……♡」

  陸斗の声も荒れていた。

  俺の中に入れたまま、自分の快感もどんどん増しているのだろう。

  腰の振りが重く、深くなる。

  一発ごとにベッドが揺れる。

  枕がずれて、シーツにローションが染みる。

  俺は自分のチンポを握った。

  先走りまみれだ。

  しごくたび、ぬるぬる鳴る。

  陸斗がそれを見て、息を呑む。

  「触んな、俺がやる」

  「え」

  「手、貸せ」

  陸斗は片手で腰を支えたまま、もう片方で俺のチンポを掴んだ。

  ごつい手のひらが、熱い竿を包む。

  その瞬間、俺は本気で頭が飛びそうになった。

  「っっ、あ゛♡」

  「これ、こうか」

  「んぁ、ちが、もうちょ、上……♡」

  「うるせえな」

  「だって、陸斗の手、でっか、気持ちいい……♡」

  握り方は雑だ。

  でも力がある。

  野球のマメが少し硬い。

  それが皮を擦るたび、たまらない刺激になる。

  後ろからは太いチンポで奥を穿られ、前は好きな男の手でしごかれる。

  こんなの、我慢できるわけがなかった。

  「は、ぁっ、あっ、出る、っ、出るぅ……!」

  「待て」

  「むり、っ、無理、むり、ぃ♡」

  陸斗が腰を深く沈める。

  同時に手で先を強く擦る。

  俺はびくん、と跳ねた。

  腹筋が攣るみたいに縮む。

  白い精液が、どくどく弾けた。

  自分の腹と胸に飛ぶ。

  陸斗の手の甲にもかかる。

  濃い匂いが一気に立った。

  「あ゛っ♡ は、っ、ぁ、あぁ……♡」

  「……すげえ」

  「ん、ぅ、見んな……♡」

  「見せつけといて今さらかよ」

  そう言いながらも、陸斗は止まらなかった。

  俺がイったあとも、腰を打ちつけ続ける。

  中が敏感すぎて、俺は涙目で喘いだ。

  「っ、あ、や、だ、っ♡ イった、のに……」

  「俺まだ」

  「はぁ、そう、だけど……っ♡」

  「責任取れよ、俺を慰めるんだろ」

  「っ、ふ、は、ずる……♡」

  その言葉に、変な笑いが混じった。

  でも本当にそうだ。

  始めたのは俺だ。

  なら最後まで付き合うしかない。

  俺は足をもっと開いた。

  自分から迎えにいく。

  陸斗の目つきが変わる。

  理性より、雄の欲が前に出る。

  「遼」

  「ん……?」

  「お前、俺のこと、そういう目で見てたのか」

  唐突だった。

  でも、セックスの最中だからこそ出る問いでもあった。

  陸斗の手が、俺の腹に残った精液をぬるりと広げる。

  腰は止まらない。

  奥を突きながら、そんなことを聞いてくる。

  俺は息を乱したまま、笑った。

  「今さら?」

  「……今、わかった」

  「遅い」

  「遅えよな」

  陸斗は苦そうに笑った。

  俺は首を伸ばして、陸斗の肩に腕を回した。

  汗まみれの首筋に噛みつく。

  塩辛い皮膚を舐める。

  「好きだよ」

  「っ……」

  「ずっと」

  「今言うかよ、普通」

  「今だから」

  「……くそ」

  陸斗の腰が乱れた。

  効いている。

  間違いなく。

  失恋直後で、慰めのセックスの最中で、告白まで食らっている。

  まともに受け止められるわけがない。

  でも、受け止めきれない顔のまま、俺を抱く腕だけは強かった。

  「俺、今日、お前が落ち込んでんの見て、ちょっと嬉しかった」

  「最低だな」

  「うん。でも好きだから」

  「……そういうとこだよ」

  何がそういうところなのか、説明はなかった。

  でも陸斗は怒っていなかった。

  ただ、困って、参って、どうしようもなさそうだった。

  そのくせ、チンポは俺の中でますます硬い。

  「なあ」

  「ん……っ」

  「たぶん俺」

  「うん」

  「お前に甘すぎたんだな」

  無自覚だったものを、自分で掴み直す声だった。

  「今さらだよ、陸斗」

  「……ああ」

  陸斗は俺の脚を肩に担いだ。

  角度が変わる。

  次の一撃で、奥をえぐられる。

  「あ゛っ♡♡」

  「こっちのがいいだろ」

  「っ、ぅ、わかっ、てる、じゃん……♡」

  「お前の顔見りゃわかる」

  それが嬉しかった。

  ちゃんと見ている。

  俺のことを。

  今、抱かれて喘いでいる男としてだけじゃなく、ずっと隣にいた俺として。

  陸斗の突き上げが速くなる。

  がつ、がつ、がつっ。

  尻肉がぶつかり、湿った破裂音が散る。

  汗が飛ぶ。

  息が絡む。

  空気が熱い。

  「っ、はぁ、あ、遼、やべ……」

  「ん、んぁ、なに、っ♡」

  「出る」

  「中? コンドームの中で?」

  「当たり前だろ、ばか」

  言いながら、陸斗の顔は完全に余裕がなかった。

  眉を寄せ、歯を食いしばり、俺の腰を掴む手が震えている。

  俺はその顔がたまらなく好きだった。

  転校生を見ていた顔より、ずっといい。

  「出して」

  「っ」

  「俺の中で、イって」

  「遼……」

  「欲しい」

  その一言で、陸斗の理性が切れた。

  最後の数発は、ほとんど叩きつけるみたいだった。

  奥にどんどん当たる。

  俺の視界がまた白む。

  「あっ♡ あ゛っ、は、ぁっ♡」

  「っ、く、ぅ……!」

  「陸斗、っ、好き、好き、っ♡」

  「っ、うるせ、ぇ……!」

  ぐ、と一番深くまで入ったまま、陸斗が止まる。

  腹の奥へ、脈打つ熱が伝わる。

  コンドーム越しでもわかるほど、どくどくと精が吐かれていた。

  「は、ぁ……っ、くそ……」

  「ん、ふ……♡」

  陸斗の体が震える。

  重い。

  熱い。

  そのまま覆いかぶさられ、俺はベッドに沈んだ。

  胸と胸がくっつく。

  汗まみれの肌同士が、ぺたぺた貼りつく。

  しばらく、どっちも動けなかった。

  荒い呼吸だけが続く。

  窓の外では、もう部活の声が消えていた。

  代わりに、虫の音が細く混じる。

  陸斗が俺の肩へ顔を埋めた。

  風呂前の匂いが近い。

  汗と土と男の臭い。

  その中に、自分の精液の匂いも混ざっていた。

  「……やっちまった」

  「うん」

  俺はわざとそっけなく返した。

  すると陸斗が少し体を起こし、俺を見た。

  その目は、さっきまでと違った。

  失恋で空っぽになっただけの目じゃない。

  ちゃんと俺を見て、困って、でも目を逸らさない目だ。

  「お前、そうやってまた調子乗るだろ」

  「乗るよ」

  「だろうな」

  「じゃあ責任取って」

  「普通逆だろ」

  そう言いながら、陸斗は俺の額の汗を親指で拭った。

  あまりにも自然な仕草だった。

  たぶん本人は気づいていない。

  こういうところだ。

  こういうところに、俺は何年もやられてきた。

  陸斗はゆっくり抜いた。

  ぬる、と中から離れていく感覚に、俺の穴が寂しくきゅっと縮む。

  コンドームの先には白濁がたっぷり溜まっていた。

  陸斗はそれを見て、なんとも言えない顔をする。

  「……ほんとにやったんだな」

  「見ればわかるじゃん」

  「そういう意味じゃねえよ」

  その声はまだ少し掠れていた。

  けど、最初の乾いた掠れ方じゃない。

  使い果たしたあとの、熱を残した声だった。

  俺は起き上がって、ティッシュ箱を取る。

  体液で汚れた腹をざっと拭く。

  陸斗も黙ってそれを受け取った。

  同じ部屋で、同じベッドの上で、セックスのあと始末をしている。

  妙に生活感があった。

  それが、俺には甘かった。

  「風呂、行く?」

  「……いや、今廊下出たら死ぬ」

  「確かに」

  「お前もだろ」

  「俺は顔に出ないタイプ」

  「真っ赤だぞ」

  言われて、俺は少し笑った。

  陸斗も、つられてわずかに笑う。

  その瞬間、昼間に見たはずの中庭の光景が、一気に遠のいた。

  勝った、とは思わない。

  恋はそういう競技じゃない。

  でも、ちゃんと届いたとは思った。

  こいつの体にも、頭にも。

  俺が何年も抱えてきたものが。

  陸斗はティッシュを丸めてゴミ箱へ投げた。

  外したコンドームも、その上に落ちる。

  生々しい音がした。

  「なあ、遼」

  「ん」

  「明日、気まずくすんなよ」

  「陸斗がしなきゃね」

  「……善処する」

  「なにそれ」

  また笑う。

  笑ったあと、少し沈黙があった。

  その沈黙はさっきまでと違う。

  重たくない。

  ただ、次をどうするか考えている沈黙だ。

  陸斗は自分のベッドではなく、俺のベッドにそのまま腰を下ろしていた。

  たぶん無意識だ。

  戻るのが面倒なだけかもしれない。

  でも俺には、それすら嬉しい。

  「一回やったらスッキリするって言ったよな」

  「言った」

  「……余計面倒になった気がする」

  「それはそう」

  俺が即答すると、陸斗は眉をひそめた。

  でも次には、諦めたみたいに息を吐いた。

  「お前、最初からこれ狙ってた?」

  「どう思う?」

  「狙ってた顔だな」

  「正解」

  さすがにそこで、陸斗は大きくため息をついた。

  けど怒らなかった。

  その代わり、俺の頭をぐしゃっと撫でる。

  乱暴で、でもやさしい手だった。

  「ほんと、ずるいわ」

  「知ってる」

  「……でも、俺も悪い」

  俺はその言葉に、少しだけ目を細めた。

  陸斗は視線を逸らし、耳の後ろを掻いた。

  野球部の試合前みたいに、照れたときの癖だ。

  俺は何も言わなかった。

  言ったら、たぶん今は軽くなる。

  こういうのは、本人にちゃんと噛みしめさせたほうがいい。

  陸斗はしばらく黙ってから、俺を見た。

  「……次」

  「うん?」

  「次やるときは、慰めとかじゃねえからな」

  短くて、ぶっきらぼうで。

  でも、それで十分だった。

  俺の腹の奥が、また熱くなった。

  さっき散々抱かれて、出されて、イかされて、それでもまだ欲しくなる。

  ほんとに性欲が強い。

  自分でも笑うしかない。

  「じゃあ次は、ちゃんと口説いて」

  「もうしてんだろ、たぶん」

  「全然足りない」

  「めんどくせえ」

  陸斗はそう言って、俺の肩を引き寄せた。

  半分だけ抱くみたいな格好になる。

  熱い体温が残っている。

  同じ汗の匂いの中で、俺は目を閉じた。

  網戸がまた、しゃり、と鳴った。

  夕方はもう終わっていた。

  部屋の中には、男二人がヤったあとの匂いが濃く残っていた。

  それを嗅ぎながら、俺は静かに口元をゆるめた。

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