老龍若虎ドスコイ

  「っさぁ!」

  前方からの掛け声と共に、土俵に両拳を着いていた俺は跳び上がる。目の前には両腕を左右に広げ、受け身の体勢を取る青い鱗の老龍の男。その老龍の右胸に額を、脇腹に両手の平をぶつけて押していく。

  「んんん! ぐぅうう……」

  だが俺の力いっぱいの押しも、二、三歩だけ進んだかと思えば止まってしまう。それは俺が細身だからとか力が弱いからとかではなく、目の前の老龍が上にも横にも図体がデカい巨体だからというのもあるが。

  「ハイよいしょっと」

  老龍はその重い体からは信じられないほどの軽い口調でそう言うと、必死に力んでいた俺の体をヒョイと簡単に横に転がした。

  「ちきしょう……もう一度だジジイ!」

  勢いよく土俵に転がって砂まみれになった俺。土俵を転がされたのは今日これで何度目か。黒と黄色の縞模様の背中に砂が纏わりつき、細マッチョな腰に巻かれた相撲廻しに汗が滲む。疲労も溜まってきてはいるのだが、負けず嫌いな性格が俺に力を与えてくれる。顎の下に滴る汗と砂を手の甲で拭うと、再び腰を下ろして両拳を土俵に着けて構える。

  「コースケお兄ちゃんがんばってー!」

  土俵の周りでは廻し姿の小学生のガキどもが無邪気に俺に応援してくれる。10歳近くも下のガキどもに応援されるなんて悔しいのだが、その悔しささえバネにしてやるぜ。

  「よーしよし。……っさぁ!」

  負けじと立ち上がる俺の姿を見て老龍は楽しそうに鼻を鳴らすと再び両腕を左右に開き、胸を出して身構え掛け声を上げる。俺は再び立ち上がり、弾力があるその胸に突っ込むのであった。

  華の高校生男仔であるこの俺がなぜ小学生のガキどもに囲まれているのか? デブがやるもんだろとバカにしてた相撲を熱心にやってるのか? どうして俺をコケにする龍のジジイに立ち向かっているのか? それは三ヶ月前までハナシは遡る――。

  「うーっす。きったねー場所だなオイ」

  大木(おおき)小学校の校庭の隅にプレハブ小屋があり、俺はガラスの引き戸を開けるなり中にズカズカと入り込んだ。目に映るのは砂と土の床に俵で円を描いたもの……いわゆる土俵。砂と土と汗の臭いが漂ってきて、きったねーにクッセーも加えるべきだったか。

  「こんにちは……虎のお兄ちゃんだれ?」

  そう言ってきたのは相撲廻し姿の小学生のガキども。稽古をしている最中に見知らぬ年上のやつが入り込んできたもんだから、稽古を止めて不思議そうなアホ面を浮かべて聞いてきた。

  「俺か? 俺ァ、南谷コースケ! よろしくぅ」

  名前を尋ねられて俺は自信タップリに自己紹介をした。俺の名前は南谷(みなみや)コースケ。16歳の虎獣人。現役の高校生男仔だぜぇい。おっとそこら辺のモブ虎と違うのは、このアタマ……モヒカンになるように毛を伸ばして赤色に染めているのが特徴。カッチョイイだろ!

  「俺が用があるのは……じーさん、アンタだよ」

  俺は腕を組んでプレハブ小屋の中を見渡すと、一人の男が目についた。その男は土俵の真ん中で相撲廻し姿のガキの一人に胸を突き出して身構えていた。

  「ほほう! 初めましてこんにちは。ワシに何の用かのぉ?」

  その男――青い鱗の老龍は稽古を一旦止めると、俺という急な来訪者に対し驚きつつもニコニコと柔和な笑みを浮かべて挨拶を返す。

  「じーさん、アンタが大宝スミヨシ? かつての強豪力士だったとかナントカ?」

  俺は老龍こと大宝(おおだから)スミヨシの全身を上から下まで見渡す。縦にも横にも図体はデカいが全体的にブヨブヨと膨らんだその姿。鏡餅に龍人の頭とヒトの腕足がくっ付いてるんじゃねぇのと思える単なるデブだ。

  「強豪だなんてそんな! ワシぁしがない50歳の老いぼれですじゃいゴホゴホ」

  俺の問い掛けに大宝スミヨシはワザとらしく大げさに驚いてみせて、咳き込んだフリをする。ヒトをおちょくってんのかこのクソジジイめ……。

  「色んなヤツから聞いてんだよ。ちょっと俺と勝負してみてくんね?」

  俺は親の仕事の都合で最近この町に引っ越してきた。それと同時に高校進学したもので、この町のことはほとんど知らなかった。だが、俺は引っ越し前の住んでた町ではケンカ最強中学生として名を馳せた男。ならば新しい町でもやることは変わるまい? 目指すは町一番の最強の男!

  というわけで手始めに「この町で一番強いヤツって誰?」と聞き込みついでに同い年くらいの不良どもをケンカでボコってきた末にココに辿り着いたわけだ。

  「ほほう! 道場破りか。このご時世にこんな骨のある若者が居たとは」

  この町で一番強いと言われる男――小学校の土俵でわんぱく相撲クラブのコーチをしている青い鱗の老龍――大宝スミヨシは腕を組んで顎髭を撫でながらカッカッカッと笑う。……家の縁側に腰掛けて茶でも啜って「いい天気じゃのう」とでもボヤいてそうなじーさん。こんなのがホントに町一番の強い男かよ?

  「いいじゃろう! 相手してやる。ただし靴は脱いでおくれ」

  大宝スミヨシは自身の丸い腹をパァンと叩くと、土俵の真ん中の「二」の字の白い線の前に立つ。命令に従うようでシャクだったが、まぁいいだろうと俺はフンと鼻を鳴らして靴を玄関で脱ぎ散らかして靴下も適当に脱ぎ捨てて裸足になる。

  「なんか賭けでもしないとつまらんのぅ。ワシが勝ったら……この相撲クラブに入門してもらうぞい」

  「イイぜ。俺が勝ったら、俺に土下座して靴でも舐めてもらおうか。そんでその姿をスマホで撮ってSNSに上げてやるぜ」

  俺の言葉に大宝スミヨシは「よしよしイイじゃろう」と軽く返すとその場で軽く四股踏みをした。その余裕な顔を“ぶっ飛ばして”やるぜ――。

  「よし、いつでも良いぞい!」

  四股踏みを終えた大宝スミヨシは両腕を左右に広げて身構えた。土俵の周りでは「せんせーがんばってー!」とガキどもの応援の言葉が飛ぶ。

  「では……おんっどりゃっと!」

  俺は大宝スミヨシの左頬に……右手の握り拳を叩き込んだ。

  「あー! グーでぶった! 反則だー!」

  ガキどもがワーワーと騒ぐ。俺だって相撲のルールを全然知らないわけではないが、勝てば良かろうなのだブッ飛ばされた方が悪いのだという己がルールだった。

  「…………は?」

  だが、困惑の声を漏らしたのは俺だった。渾身の、全身全霊の、体重を掛けた右拳をお見舞いしたハズだというのに、大宝スミヨシは倒れることはなかった……まるで石像の如く、そこから一歩もよろけることもなかった。

  「……っりゃあ!」

  何かの間違いだと俺はほんのちょっとの焦燥を払い除けて、右拳を引っ込めると右脚を軸にして体を回し、その勢いで左脚の甲で大宝スミヨシの右頬に蹴りをお見舞いした。土俵の周りで今度は「顔をけった! 反則!」とガキどもが騒ぐ。

  「……! ……!」

  だが、大宝スミヨシは、微動だにしなかった。それどころか、表情すらも一切変えていない――両瞼を「一」の字にさせた仏像のような微笑みを浮かべたままだった。

  「どうしたんじゃ? もうお終いかの?」

  本当に石像か仏像になってしまったんじゃないかと勘繰るほどに身動き一つ取らない大宝スミヨシだったが、口を開けると穏やかな声。何事も無かったかのようなトボけた口調。拳で殴られ足で蹴られたというのに怒りも憎しみも感じられない優しさ溢れる話し方に、俺は酷く……恐怖を感じた。

  「そんじゃ今度はワシ」

  次の瞬間、俺の体は……宙を舞った。背中から土俵に激突し、プレハブ小屋の相撲場の天井を見上げる。目を大きく見開き「……? ……?」と、何が起きたのか分からず疑惑と困惑とで混乱していた。

  現実時間では1秒くらいしか経っていない。ではその1秒で何があったのかというと、大宝スミヨシが俺のズボンのベルトを鷲掴みにして体を持ち上げて宙に放り上げた後、土俵に叩き付けるようにして背中から下ろしたのである。

  「あ、あ……あ……」

  自分が負けたことの衝撃もそうだが、自分を見下ろす大宝スミヨシのその顔。漢字の「一」の字の糸目だったはずの両目がカッと開いており、その目は光を反射しているわけではないはずなのにギラギラと金色の光が瞬いているように見えた。

  その両目は、色んな例え方が出来た。獲物を狙う目。殺気に溢れた目。激怒の目。突き刺すような目。威圧する目。燃える炎のような目。閻魔大王の目。

  「おい」

  それは、唸るようなドスの利いた低い声。大宝スミヨシの口から出た一言。ただ「おい」と言っただけだというのに「おい、終わりか?」とか「おい、弱いな」とか「おい、クソガキ」など、色んな意味が込められているのを感じた。

  「ひっ」

  そのたった一言に俺は小さく弱々しく、それでいて心からの悲鳴を口から漏らしてしまった。顔も声もそうだが、仰向けの下アングルから見た大宝スミヨシの体……ポヨンポヨンと音でもしそうな大宝スミヨシの真ん丸ボディが、全身に筋が走った超絶マッチョボディと化していたのだ。

  よく、昔のバトル漫画とかで、ガリガリの老人が力を発揮したら筋肉ダルマみたいな姿に膨れ上がるというギャグシーンみたいなのがあるが、アレは現実的にありえるらしい。

  筋肉というのは要するに特定の部位に水分が集まった状態で「体に力を込める」というのはその部分に水分を一斉集中させることだが、体を鍛えていない貧弱が力を込めたところで水分があつまる器が整ってなければ意味はない。

  だが体を鍛えているヒトであれば……普段は力さえ込めなければ細そうに見える四肢でも、贅肉が付いているように見える胴体でも、力を込めれば一瞬でも筋肉が膨れ上がって見えるらしい。

  「ころさないでぇ……」

  巨大筋肉ダルマ老龍の気迫に対し、情けないことに俺は頭を隠すように守るように両腕で抱えて体を丸めて小さくなった。悲鳴と一緒に小便まで漏らしてしまい、学ランから滲み出る小便が土俵に垂れる。

  「おやおや、土俵が小便で汚されちゃあ敵わんのぉ」

  恐るべき鬼神から、縁側で茶でも啜ってそうな和やかな年寄りの雰囲気に戻った大宝スミヨシの声が硬く閉じた瞼の向こう側から感じる。

  「ほれ、立ちなさい。よしよし、怖がらせてしまったか」

  大宝スミヨシは俺の背中を擦りながら立たせると、ヨシヨシと頭を撫でる。土俵の周りでガキどもが「トラのお兄ちゃんお漏らししてやんの! 赤ちゃんみたい」と囃すのだが、もう怒るのすら億劫で、ただただ情けなくメソメソと泣くしか出来なかった。

  「ハイ、もう一丁!」

  そして今に至る。約束通り俺は大宝スミヨシの……ジイさんの、わんぱく相撲クラブに入るハメになった。週2、3回の1日3時間程度の相撲稽古。今だって両腕を広げた受け身の姿勢を取っているジイさんに向けて、頭と両手の平で突っ込んでいるところだ。

  「んぐぐぬぅうう……ぬあ!」

  ジィさんの弾力のある胸に力の限り全身を込めて押し付けるが、ジイさんの体をズズズ……と辛うじて下がらせることが出来ても土俵際までは届かない。やがてジイさんが軽い調子で俺の頭に手の平を乗せると脇に転がせるという繰り返し。

  「ちきしょう……ちきしょう!」

  土俵に転がった俺は悔しさのあまり握り拳を土俵に叩きつける。それはジイさんを押し下がらせることが出来なかったこともあるが、こうなった現状そのものが悔しくてたまらなかった。

  わんぱく相撲クラブに入るハメになってから散々だった。俺の親に話をつけに言ったそうだが親は「どうぞどうぞウチのバカを叩き直してやってください」と簡単に売りやがったチキショーめ。

  新入りである俺のためにと新品の相撲廻しを買ってくれたのだが、新品故に硬くてゴワゴワした白くて分厚いそれはオムツを穿いているように見えて恥ずかしいったらありゃしない。

  バスケのユニフォームとか水泳のビキニみたいなカッチョイイ恰好が映えそうな俺の細マッチョな体に、相撲廻しというミスマッチ感が惨めさを醸し出す。

  おまけに相撲クラブに俺と同年代でも居ればまだしも、俺以外は全員小学生低学年なんで、その中で俺が年上で背丈もあるので悪い意味で目立って浮いて仕方ねぇ。

  挙句の果てにはケンカで負かしたヤツらや学校の同級生どもにも知られる始末。

  「南谷ってば、お相撲さんになんの? ウケるー!」

  俺がジイさんに負けてわんぱく相撲クラブに入ったって噂はもう知れ渡ってしまい、土俵の上でジイさんに転がされてる最中に同級生ら不良どもが冷やかし揶揄いにやってきたこともあった。

  「やっかましいわゴラアアア!」

  土塗れ汗塗れになって気が立っていた俺は悔し恥ずかしガルルと歯を向けてヤツらに飛び掛かろうとしたが「これこれイカンぞい」とクソジジイに廻しの後ろを掴まれ持ち上げられジタバタするしかなく唸るしか出来なかった。

  何よりも最も情けないのが……ジイさんに全く歯が立たないこと! 今までのケンカ殺法をガマンして相撲のルールに則った勝負を挑んでも、あるときは廻しを掴まれ放られ、あるときはツッパリで押し出され、あるときなんかはヒョイと横に避けただけで俺が土俵の外にズッコケて自滅なんてことも――。

  「ちきしょう……もう一回だ!」

  もう何度目の敗北。何度目の砂まみれ。何度目の悔しさ屈辱。だがそれでも俺は諦めない。俺は本来、努力するだとか勉強するなんて大のキライなのだが、それ以上に負けず嫌いなのだ。負けず嫌いな性格が俺を奮い立たせてくるので、勝ち目の無い戦……いや稽古に挑ませてくれる。身も心もボロボロだが、それだけでこうして土俵に両足を立たせて起き上がる。

  「とはいえ、稽古をサボることはないなんて、根はマジメなんじゃのう。エライぞコースケ」

  相撲を始めて早1ヶ月くらいのあるとき、ジイさんはそう言って俺の頭を撫でた。その瞬間、苛立ちと悔しさでいっぱいだったところに猛烈な恥ずかしさでいっぱいになって思わず涙目になってしまい「うるせぇな」とその大きな手を払い除けた。俺は照れ恥ずかしさも払うために鉄砲柱に必要以上に力を込めてツッパリを始める。

  確かに、サボって逃げることも出来たのだが、約束破って逃げたなんて俺様のコケンに関わる問題。こうなりゃヤケだと、相撲でジイさんを負かすのが今の俺の目標だ。そんなワケで不本意ながらコツコツとマジメにわんぱく相撲クラブに通う日々――。

  「ちーす……あれ、ガキどもは?」

  そんなある日の土曜日の午後。いつものように小学校のプレハブ小屋稽古場に来てみると、いつもの元気騒がしいガキどもはおらず、ジイさんが独りで土俵に砂を撒いていた。

  「よく来たのうコースケ。今日は、子どもたちは休みじゃ。今ごろは温泉旅行楽しんでいる頃かのぅ」

  聞けば、町内家族旅行だとかでこの土日はどこぞの温泉に泊まり掛けで出掛けているそうな。

  「ジイさんと二人っきりか……」

  「怖いかのぅ? お手柔らかにしてやるぞい」

  クソジジイのお道化た言葉に俺は1秒未満でカッとなって「アアンッ?」と声を荒げる。

  「上等じゃボケジジイ……日頃の稽古の成果見せてやる!」

  闘争本能が最初からクライマックスに滾った俺は、これまでの汗と砂が染み込んだ廻しを締め終えると、軽い柔軟や胸押しをした後に、ジイさんと相撲の取り組みを始めた。

  「ほほう! 少しはやるようになったか」

  ジイさんは多少なりとも手加減しているのだろうが、それでもジイさんの掴み技やツッパリを上手く避けたり掴み返す俺に感嘆の声を上げる。……最終的には土俵の外に出されたりしてるが。

  「ふふん! 俺も強くなってるんだぜ!」

  まだまだ勝ちナシではあるのだが、それでも最初のアッと言う間に拍子抜け敗北させられた頃と比べれば十数秒も持ち堪えてきたことに自信が持ち始めてきた。

  「ぬううううう!」

  「おっとっと!」

  何度目かの「っけよい!」の直後、ジイさんの左足を両腕いっぱいにしがみ付いて持ち上げてジイさんを転ばせようとしたり、ある時はジイさんの片腕の関節部分を握り締めて技をキメようとしてみたり、真正面からぶつかったら即座に横に逸れて押し出そうとしたり。これは全部、相撲のルールに則った技だ。とはいえやはりジイさんを転がせた試しは無いが。

  「まだまだ荒いが大したもんじゃのぉ」

  「俺だってやるときゃあ、やるのさ」

  相撲なんざ汚いデブ同士が抱き合う汚いスポーツだとバカにしていたが、やる以上は強くなりたいし勝ちたいと、動画サイトとかで相撲の取り組みを見てきたのだが、これまた意外と奥が深い。俺と同年代でほぼ同じ細マッチョ体型の力士がその何倍も体がデカい力士を投げ転がしたりするシーンなどは素直に感心してしまったものだ。

  相撲やっていく内に俺もブヨブヨの醜いデブになるんじゃないかと不安になっていたが、学生相撲大会の動画を次々に見ていくと俺みたいな細マッチョどころかゴリマッチョでカッチョイイ体型の高校生力士も割と多い。

  最初は体型だけに注目していたが、やがて動きや勢い。技の掛け方や立ち振る舞いなどに目を向けるようになった。コイツの動き素早いな。おっとコイツは動きが派手だけどその分パワーがあるな。そうか体格に差があってもこういう技を掛ければ逆転も出来るのかと。

  「へへん! どうよジイさん?」

  「うむうむ。それはイイんじゃが、まず勝ってみようかの?」

  あの手この手でジイさんを翻弄したつもりだが、それでもやっぱり土俵に転がされているのは俺……。クソックソッ! ガキどもに邪魔されることもないんだ。いずれスタミナ切れでも起こして俺が勝てるハズ。ジイさんをヘロヘロのクタクタのボロボロにして土俵に大の字になって倒させてやろうと意気込む。

  「ドスコイだコラアアアア!」

  「ドスコイだ……ああ……」

  3時間後。ヘロヘロのクタクタのボロボロで土俵に大の字になって倒れていたのは俺。ジイさん相手に無我夢中でぶつかり稽古を挑んだが、結果はご覧のザマで。

  「ふっひゃっひゃっひゃっ。最初の頃と比べればスタミナが付いたのぉ」

  ジイさんも全身から滝のように汗を流し、肩を上下させているものの、あの「一」の字の柔和な目の笑みを全く崩していない。それどころか活気さえも感じる。口では賞賛を送ってくれるが「まぁそれでもまだまだ弱いが」と言葉が続きそうなほどの余裕。さながらそれは、孫悟空を手の平の上で弄ぶお釈迦様。悔しい……。

  「今日の稽古はもう終いにしようかのコースケ」

  「オッス……」

  何をまだまだ……と言いたいところだが、流石にもうヘトヘトだ。3時間ミッチリタップリとぶつかったのだから、この経験値が溜まってやがてレベルアップするだろう自分。ジイさんの「シャワー浴びるぞい」と俺も続いて更衣室で廻しを脱ぐとシャワー室に向かった。

  「子どもたちも居ないし背中流してほしいのぉ~」

  「へいへい」

  ガキどものシャワーの順番待ちの関係でいつもなら背中に付いた砂や汗を軽く洗い流す程度なのだが、今日は俺とジイさんだけなのでゆっくり出来るってわけだ。ジイさんは「ぴえん」とでも言いたげな目で俺にねだってきやがったのでしゃーねーなぁと。

  シャワー室のタイルの床に胡坐を掻いて座るジイさんの後ろに立つと、手に持った石鹸とタオルをワシャワシャと泡立ててから青い鱗の背中をゴシゴシと流す。時折「ア~ソコソコじゃ~」と喘ぎ声を漏らすのが鬱陶しい。

  フと、俺は背中越しの頭上越しからジイさんの体の前の方を見下ろす。突き出た胸、腹、太もも。そして……股座のスリット。哺乳類ならチンポとキンタマがあるはずのトコロ。プールとか銭湯とかでスリット持ちの雄のハダカを見た際にそいつらの股間を指さして「オトコなのにマンコだー!」って一度はからかったことがあるだろう?

  ガキの頃はそんなバカなことでゲラゲラ笑っていたもんだが、男の体なのに女みてぇなトコがあるというギャップが、なんというかその……ドキドキするというか。だが俺の場合はそれだけではない。

  (ジイさんの体……イロッぺぇな)

  ジイさんは……大宝スミヨシは、大福餅がヒトの姿になったかのような丸い肉体。だがその実は、ちょっとでも力を込めれば無数の筋が走った鎧と呼んでもいいほどの筋肉の塊。俺はデブもガリも嫌いだ。むしろマッチョが好きだ……漢らしいヤツが、好きだ。

  「ふぃ~サッパリした! どれ、今度はワシが背中を流してやるぞいコースケ」

  「えっ! いや、別にいいし……ってちょっ」

  泡立てた背中をシャワーで洗い流し終えると、ジイさんはドッコイションと立ち上がって床に置いてあった石鹸を手に取って立ち上がろうとした。しかし、先ほど洗い流した石鹸の泡でタイルの床が滑り易くなっていたのか、ジイさんが態勢を崩して倒れそうになった。

  「あっぶななななわわわわわ――」

  アブねぇって俺は思わずジイさんの腕を掴んで引っ張り起こそうとしたのだが、俺の足元もまた石鹸の泡で滑り易くなっていたみたいで俺も巻き込まれるように倒れてしまい。

  「おぶほっ!」

  結局は俺もジイさんと一緒に倒れてしまった。ジイさんは背中からタイルの床に倒れてしまったのだが、流石はベテラン力士か咄嗟に受け身を取ることが出来たみたいで怪我はしてないみたいだ。そんで俺はというと、なんとジイさんの体の上に……要するにジイさんを押し倒すような体勢になっちまった。相撲で押し倒したことはなかったがようやっと勝てたぜ……なんてノンキでバカみたいなジョーク言ってる場合じゃねぇ。

  ジイさんとは何度も相撲で体をぶつけ合ったというのに、こうやって体同士を密着させたのは初めてだった。俺の虎の毛皮に対し龍の鱗。柔らかいようで硬い体。石鹸で洗ったばかりなこともあって清らかな水の香り。ジイさんの胸に横顔を押し当てているのでジイさんの心臓の鼓動がドクドクと聞こえる。

  「立てなくなったかの?」

  ジイさんの言葉に俺は「ハッ!」と慌てて、タイル床に手を着いて立ち上がろうとした。まずい、バレる――。

  「おや、別のトコが立っちょる!」

  バレる前に離れようと思ったが既に遅し。ジイさんは顔を軽く上げて俺たちの下半身を見下ろした。俺のチンポが勃起していた……ギンギンと熱く硬く滾ったチンポ。ジイさんの背中を流している最中から薄っすらと熱と血液が集まってきてチョイとヤバいと思ってたが、ジイさんを押し倒して直に抱きついてしまったもんだからもう収まらない。

  ジイさんの指摘に俺はカーッと顔が火照ってしまい涙目になる。もうジイさんの顔が見れなくなってしまった俺は、恥ずかしさのあまり立ち上がることが出来ずジイさんの体の上に抱きついたまま。だがもっと情けないことに、変わらず俺のチンポはギンギンのままで、俺の腹とジイさんの丸い腹に挟まれている状態だ。

  (どうしよ……)

  俺もジイさんも黙ったまま。聞こえるのは水の滴る音と、俺とジイさんの鼻息と、ドクドクと聞こえてくる心臓の音。熱いシャワーによる湯気が石鹸の匂いがシャワー室内に漂う。

  「ワシぁコドモには手をださんよ?」

  気まずい沈黙が続く中、ジイさんが最初に口を開いた。いつの間にかジイさんは両腕を頭の後ろに着けて枕にしていた。

  「ワシぁコドモには手を出さんよ? けど、不良のガキに押し倒されてなす術もなく……手を出されるってのなら?」

  ジイさんはヌフフとイタズラっぽい不敵な笑みを浮かべて言った。どこまでもヒトをおちょくりやがって――。

  「じゃあ後は好き勝手にしていいんだな」

  ジイさんの挑発に俺は呆れ怒り……は最初だけ。俺はガルルと唸ると、ジイさんのスリットに右手の人差し指と中指を突っ込んでナカをクチャクチャと掻き回す。

  「おお……ふう……おおう」

  相撲の稽古の時とは違う鼻息を漏らすジイさん。いつもいつも余裕タップリで仏みたいな微笑みを浮かべてる老龍が、口を窄らせて眉間に皺を寄せている。龍人特有の大きな鼻から鼻水まで垂れて情けねぇツラになってやがる。そのギャップに酷く……酷く興奮した。

  俺はジイさんのスリットをこねくり回しながら、空いた方の左手でジイさんの左乳首を摘まみ弄る。そして右乳首を舌先でベロベロと舐め倒す。

  「おおお~……いいぞい……ああ……」

  AVで見た程度の見真似な愛撫だが、ジイさんのヨガり声からしてどうやらイイカンジらしい。あるいは演技かもしれないが。しかし演技だろうがマジだろうがもう関係ねぇ。柔和で優しいお爺ちゃん龍人が、底知れぬ余裕と強さを持った年寄りの淫らに乱れるその姿――。

  「もうガマンできねぇ……ッ!」

  前戯なんてもうやってられねぇと、俺はギンギンに滾ってパンパンに腫れ上がったチンポをジイさんのスリットの割れ目部分に押し当てると、日頃の相撲で鍛えた足腰に勢いを付けて一気にぶち込んだ。

  ――ヂュボンッ!

  「オ゛ッオホォ゛ン゛!」

  粘膜と空気が擦れる肉厚でマヌケな音と共に俺のチンポはジイさんのスリットの中に滑り込んだ。ジイさんの汚い喘ぎ声がシャワー室内に響いたが、そこから少しだけ沈黙。俺もジイさんも息を荒げて肩を上下させる。

  「あ……ああ……入ったァ――」

  ジイさんの胴体に抱きついて股間を押し付ける態勢のまま動けないでいた俺だったが、ジイさんのスリットに俺のチンポを根本まで挿入して最初に出た言葉がそれ。よくよく考えてみれば俺は童貞だった。俺はマンコだかスリットだかにチンポを挿入した時点で童貞卒業だと思ってはいたが、まさかキレイなオネーチャンとかではなく50過ぎくらいのジジイで童貞卒業という我ながら驚嘆するやら情けないやら。

  「おおスッゲ……動いてる……スッゲ締めてくる……アチィ……すげぇ、すげぇよぉ」

  だがもっと情けないのは……ジイさんのスリット内の締め付けがサイッコーに気持ち良かったこと。「下のお口」とはよく言ったもので、その締め付け、その熱さ、その脈動。スリット自体が単独の生き物として自我を持っていて、チンポを「包み込む」のではなく「握り締めている」みたいだ。

  「おお~ヨシヨシ……イきのイイ……久方ぶりのチンポじゃのぅ……! どれ、コシを振ってみぃ」

  下のお口で俺のチンポを弄んでいるジイさんが上のお口で俺に指図してきやがる。上等だぜと俺はジイさんに打ち付けていた腰を少しだけ浮かせて根本まで突っ込んでいたチンポを少しだけ抜いた……瞬間に、また根本までトスンッと挿れた。

  ――パン、パン、パコ、パン。

  チンポを少し引き抜いては突っ込み、少し引き抜いては突っ込みを繰り返す。モチロンただ単に出し入れをするわけではなく、腰に力を込めた強い押し。腰に力を込めて相手に攻め入る動作は相撲で散々鍛えてきたものだ。まさかこんな風に役立つときが来るとは。

  「イイぞ、イイぞ。アア~……チンポイイ~……」

  俺が必死こいてコシを振ってるってのにジイさんは相変わらず両手を枕にして横たわってイイ気なもんだ。だがそれでいてスリットの中の肉壁は俺のチンポをこれでもかと歓迎の“手”を緩めず時にキツく、時にユルく、時に撫でまわす。コレがまた格別なもんで……ちょっと気を緩んだらアッと言う間にイッちまいそうだが、アッサリと射精しちまうのも悔しいからまだまだ堪えてみせる。

  (コレ……ジイさんのチンポか?)

  単調なチンポの出し入れに少し物足らなさを感じた俺は深~くチンポを突っ込んで3秒くらい停まると、今度はゆ~っくりとチンポを引き抜いたりとバリエーションを増やしていた。すると、俺のチンポの亀頭部分がスリットの中でナニかと擦れるのを感じた。

  スリット持ちの雄は、普段チンポはスリットの中に収納されていて勃起すると外に飛び出すそうだが、勃起してもスリット内に留めておく技術もあるらしい。スリット内に収まってるジイさんのチンポの全長がどれほどかは分からないが、俺の亀頭で感じる限り、ジイさんのチンポもギンギンに滾っているようで、俺の亀頭とジイさんの亀頭が何度も先端をゴッツンコする。

  「スゲェ! スゲェよジイさん……! ジイさんの中スゲェイイ……!」

  とまぁここまでいろいろ理屈こねてアタマの中を整理してきたが、やはりコレ……キモチイイ! 普段のオナニーなんかとは比べものになんねーくらいキモチイイ! 手でシコるのとオナホ使うのとも違う格別!

  「キモチイイか? ワシもキモチイイぞ! コースケのチンポがキモチイイ!」

  ジイさんの心からの快楽と悦びの声。口からは喘ぎ声を、下の口からは淫らな汁を漏らし、その言葉が決して嘘ではないことを証明する。そうかそうか、俺のチンポがキモチイイかと。俺も嬉しくなって更に悦びが増して調子がノッてきてバスバスバスと腰を更に速く強く打ち付ける。

  「ああっ……ヤベッ……もう……イきそ」

  調子にノッたのがダメだったのか、気分のタガが外れたらガマンの限界も外れてしまったようだ。下腹部の一点に熱が集まっていき、キンタマがギュウッとせり上がって引き締まるのを感じる。

  「イイぞ……出してイイぞ! コースケのザーメンが欲しい……!」

  淫乱の熱で浮かされたジイさんが呻く。ああそうかい、だったら望み通りにしてやる。もうラストスパート。ノコッタノコッタ土俵際。俺は廻しを締めていないジイさんの腰にこれでもかこれでもかと廻しを締めていない俺の腰を打ち付けて、ジイさんのスリットにチンポのツッパリをお見舞いした。

  「イッくうううううううううああああああああああ! ……あっ」

  ――ドブゥッブリュリュプッ。

  ギリギリのギリギリまでガマンにガマンして、溜めに溜め込んで。雄叫びを上げて最後の腰の一打ちでジイさんのスリットに俺のチンポを思い切り根元まで突っ込んだ瞬間、果てた。キンタマの中で熟成していた熱い汁がチンポから噴き出してジイさんのスリットの中に注ぎ込まれる。粘り気の強い汁がジイさんの腹の中で弾けるのが傍からでも聞こえてくるほど。

  「ぁあ~……コースケのチンポ汁……あったかいぞ……あっ……ワシも……出るっ」

  ――ジュボブブドブリリッ。

  ジイさんの腹の中でまた別の粘液が弾けるような汚い音が聞こえてきた。ジイさんもザーメンをぶっ放したらしい。ジイさんのスリット内に突っ込んだままの俺のチンポが、胎内の熱さと締め付けに加えて粘り気のある熱い粘液が充満していくのを感じた。チンポ越しで感じるこの濃さと量ときたら、俺と同じくらいはありそうだ。

  「へへっ、ザマぁ……あ」

  射精後でヘトヘトだったもののジイさんをイかせたことに満足していたのだが、気も体も緩んだ瞬間、今度は別のところが緩んでしまい、射精とは別の欲求が膀胱に集まってきた。

  「あ……あっやべ……ションベン出る」

  流石に排泄物を注入するわけにはいかぬと辛うじて硬さを保ってたチンポを引き抜こうとしたら、そうはさせぬと俺のケツをむんずと掴んで押さえたのはジイさん。

  「構わん! ションベンでもなんでもブチ込んでくれ!」

  おいおいマジかよと内心ヒくが、ジイさんの剛腕が俺のケツっぺたをガッシリと押さえて抜け出すことが出来ない。ここまでされて懇願されたら「じゃあ別にいいよな? 仕方ないもんな!」と俺は強引に俺自身を納得させると、反射的に抑えていた膀胱の締まりを緩めた。

  ――ジョロロロロ……。

  ――ジュブブブ……。

  俺のションベンがジイさんのスリット内に注ぎ込まれていく。だが同時に、ジイさんの方からも何か熱い液体が噴き出てきた。ジイさんもションベンを漏らしたらしい。俺のチンポを呑み込んでいるスリットの隙間からほんの少々、ザーメンとションベンが入り時混じった液体が溢れる。俺もジイさんも出すもの全部ヒリ出して疲れ切っていたが、フと顔を見合わせると、どちらが先にというわけでもなく、軽く口先同士をくっ付けたのだった。

  「ジイさん、こういうコト慣れてるのかよ」

  スケベな熱気もようやっと一段落してシャワーで軽く体を流しながらジイさんに聞いた。

  「ふっほっほ! ワシが若い頃にゃあ相撲でロクな戦績が取れなかったらフィストファックで掻き回されるなんてのは日常茶飯事じゃったぞい!」

  そう言ってジイさんは自身の腹をパァンと叩く。俺のザーメンとションベンだけでなくジイさん自身のザーメンとションベンが詰まっている大福餅みてーな腹が、いつも以上に張りがあるように見えるのは気のせいだろうか?

  「この変態クソジジイ」

  「変態クソジジイで童貞捨てたクソガキ」

  俺の憎まれ口に対しジイさんは間髪入れず憎まれ口で返してきた。だがそこに怒りも恨みも無い。情けなさとバカらしさで俺もジイさんも力なく笑う。

  「さ~て、せっかくだし……もうチョイ相撲していかんかの?」

  「えっ?」

  その腹で? と思ったが、俺がジイさんのスリットからチンポを引き抜いた時でさえもほとんと零れなかった。ただのヤリマンというわけではないというのもダテではないということか。

  「ハンデじゃ。チョイとでもスリットからザーメンでもションベンでも漏らしたらコースケの勝ちでいいぞ」

  なんて変態的なハンデ。ジイさんの提案に俺は呆れるが、同時に闘志も湧いてきた。

  「へっ! 上等だぜ。土俵の上で無様に漏らさせてやるぜ!」

  俺は拳を握り締め、濡れた体を拭くのも早々にしてシャワー室から出ると、ジイさんと共に廻しを締め直し、土俵に臨んだ。

  数分後、土俵の上で無様に漏らしたのは俺だったが……。

  「はぁ……まだまだじゃのう」

  廻しの中のスリットから一滴もナニも溢しておらず綺麗な廻しのままのジイさんは、土俵の上で目を回して倒れ尿を失禁している俺を見下ろして呆れ溜息を漏らすのであった。

  終