朴訥武闘家ゴリラ獣人のエロマッサージ初体験

  色とりどりの天幕が連なる大通りを、川の流れのように人々がひしめき合いながら進んでいく。そんな濁流を、さながら巨岩のごとく押し分ける一つの大男の影があった。

  身長は二メートルをゆうに超え、丸太のような腕は艶のある黒い毛でびっしりと覆われている。身に纏うのは、東方の国から着てきたのであろう、丈夫な藍染の上衣と袴。その無骨な出で立ちは、活気あふれるこの都においてもひどく目立った。道行く者たちは威圧的な体躯に気圧され、あるいは厳めしい顔立ちを恐れ、波が割れるように道を譲る。

  むせ返るような熱気が、筋骨隆々の巨躯を包み込む。香辛料の刺激的な芳香、焼いた肉の脂が滴る音、多種多様な獣人たちの汗と体毛が発する生臭さ。乾いた土と草いきれの匂いが常であった彼にとって、それら全てを攪拌する湿った大気は、さながら巨大な生き物の胃の腑に迷い込んだかのようだった。

  (……これが都か。故郷とは何もかもが違う。匂いも、音も……人の熱気も、桁違いだ)

  男の名はゴウケン。ゴリラ獣人という、この多種族がごった返す都ですら珍しい種族の益荒男である。黒々とした剛毛に覆われた巨躯は、当然のように人々の注目を集めた。しかし外野の反応はいざ知らず、彼の神妙にも見える無表情の奥、内なる声は饒舌に驚嘆を繰り返していた。

  遠い東にある故郷の村を出て幾年月、様々な土地を渡り歩いてきたゴウケンにとって、これほどの規模の都市は初めてだったのだ。見聞を広めるという旅の目的を果たすには、まさにうってつけの場所と言えた。湿った鱗に陽光を反射させる蜥蜴人、猛禽の翼を背負う鳥人。書物でしか知らなかった種族が、すぐ近くを歩いている。

  (鱗に覆われた者、翼を持つ者……なるほどな。しかし、本当に飛べるのだろうか? あの体躯を浮かすには些か心許なく思うが……)

  ゴウケンが物珍しげに周囲を観察する視線は、そのまま彼自身にも突き刺さり返ってくる。畏怖、好奇、警戒。様々な感情をない交ぜにした視線が、その巨躯に絶え間なく注がれていた。

  無用な注目は好まない。ゴウケンは喧騒から逃れるようにして、建物の影が落ちる薄暗い路地へと足を踏み入れた。ひやりとした石畳の感触が、草履越しながらも心地よい。大通りの熱気が嘘のように遠ざかり、静寂が戻ってくるかと思われた矢先、ゴウケンの耳が、路地の奥から漏れ聞こえる怒声を拾った

  「お前のせいでなぁ――兄貴はあれから――」

  「それは誤解です。私はただ――」

  一方的な追及に、か細い弁明が割り込んでいる。

  (……揉め事か)

  ただでさえ厳つい眉間に深い皺が刻まれる。面倒は御免だ。見知らぬ土地での厄介事がろくな結果を生まないことは、これまでの旅で嫌というほど学んできた。だが、強者が弱者をいたぶる声を聞いて見過ごせるほど、ゴウケンの性根は腐っていない。深く、一つため息を吐き出すと、音もなく路地の最奥へと巨体を滑らせた。

  建物の影はさらに深くなり、昼間にもかかわらず薄暗い。鼻をつくのは澱んだ水と黴の匂い。壁際には用途も分からぬ木箱が無造作に積まれ、すぐに袋小路となっている。その僅かに開けた空間で、案の定、体格の良いハイエナ獣人のチンピラが二人、壁際に誰かを追い詰めていた。相手の姿はチンピラの体で隠れ、うかがい知れない。

  ゴウケンは何も言わず、ただ路地の入り口で仁王立ちになる。昼下がりの陽光を背負ったゴウケンの影が、獣人たちの足元から這い上がるように伸びていき、やがてその全身を漆黒に塗り潰した。

  「あ?」

  チンピラの一人が、自分たちとは比べ物にならないほど巨大な影が路地全体を支配したことに気づき、ぎょっとして振り返る。

  「……去れ」

  地を這うような低い声で、ただ一言。それだけで十分だった。チンピラたちは顔を見合わせ、脱兎のごとく逃げ出していく。

  静けさが戻った路地裏で、壁際に追い詰められていた人物が、ゆっくりと顔を上げた。そこでゴウケンは初めて、自分が助けた相手の姿をはっきりと認める。

  (人間族……!)

  書物に記されていた種族。大陸の辺境に細々と生き残るのみとされ、姿を見たという者すらほとんどいない、幻の民。鳥人や蜥蜴人といった他の種族とは、存在の確かさにおいて次元が違う。

  そんな人間が目の前にいる。ゆったりとした外套を纏っているが、その下に隠された体の線は、およそ戦闘を生業とする獣人たちのそれとはかけ離れていることが一目で知れた。何しろ、フードの隙間から覗く白い首筋や、袖口から伸びる指は、下手に力を込めれば小枝のように折れてしまいそうだ。獣人特有の頑強な骨格とは似ても似つかない。

  青年は助けてもらった安堵からか、礼を言おうとゴウケンの方へ一歩踏み出した。恐怖から解放された足はまだ震え、もつれて体勢を崩す。その体が石畳に叩きつけられる寸前、眼前に黒い影が躍り出た。ゴウケンが、巨躯からは想像もつかない俊敏さで踏み込み、華奢な体を力強い腕でもって受け止めたのだ。

  気づけばゴウケンの太い腕の中には、信じられないほど軽い体が収まっていた。胸板に柔らかな感触と、かすかな体温が伝わってくる。

  (……柔らかい)

  予期せぬ接触にゴウケンの全身が硬直する。互いが身に纏う薄い布地を隔てて伝わる人間の柔肌の弾力。獣人同士の硬い毛皮と筋肉がぶつかり合う感触とは全く違う。青年はすぐに体を離すと、はにかむように微笑んだ。

  「すみません、少し気が抜けてしまって……。助けていただき、ありがとうございます」

  無防備な微笑みを目にした瞬間、ゴウケンの心臓が、ドクン、と大きく脈打った。ゴリラ獣人特有の広い鼻腔の奥に、青年から漂うほのかに甘い香りが絡みつく。熟れた果実のような、雄の闘争本能を湧き立たせる匂い。思わず鼻の下が伸びそうになるのを、ゴウケンは懸命に平静を装って堪えた。

  ゴウケンが内心の動揺を押し殺していることなど露知らず、青年は馴染みのない東方の装いに純粋な好奇心の目を向けていた。

  「素敵なお召し物ですね。この辺りでは見かけない、不思議な風合いで……」

  「……ああ。故郷のものだ」

  「そうなのですか。あなた様の実直な雰囲気にとてもよくお似合いですね」

  青年は、花が綻ぶように微笑むと、改めてゴウケンに向き直り、その場で膝を折りそうなほど深々と頭を下げた。どこまでも真摯で、純粋な感謝の念だけがそこにあった。

  「本当に、ありがとうございました。あなた様がいらっしゃらなければ、今頃どうなっていたか……」

  震えの残る声が、ゴウケンの耳にはひどく頼りなく、そして甘やかに響く。居心地の悪さを覚え、ゴウケンはぶっきらぼうに言葉を返した。

  「気にするな。俺は当然のことをしたまで」

  「当然などではありません! 私にとっては命の恩人です!」

  青年は勢い込んで顔を上げると、潤んだ瞳で真っ直ぐに見上げてくる。ゴウケンはたじろぐしかない。これ以上感謝の言葉を重ねられては、ますます立ち去り難くなる。それを断ち切るように、ごつい手を軽く上げてみせた。

  「……その言葉、しかと受け取った。礼はそれで十分。だから、もう行け。達者でな」

  そう言い捨てて立ち去ろうとするゴウケンの袖を、しかし青年は咄嗟に掴んだ。繊細で、力を込めれば容易く砕けてしまいそうな指。ゴウケンは動きを止めざるを得なかった。

  「お待ちください! このままでは、私の気が済みません……!」

  必死の形相に、ゴウケンの眉間の皺が深くなる。

  「……しつこいぞ」

  「存じております! ですが、何か…何かお礼をさせていただけませんか…!」

  どうすればこの感謝が伝わるのかと、青年は懸命に言葉を探す。その視線が改めてゴウケンの巨躯を――丸太のように太い腕、分厚い胸板、そして筒袖からわずかに覗く古傷を捉えた。

  「あなた様のお体は……まるで戦うためにあるかのようだ。歴戦の闘士とお見受けいたします」

  青年は、ゴウケンの肉体に刻まれた歴史に思いを馳せるように、少しだけ目を伏せた。

  「そのようなお体には、どれほどの古傷や痛みが刻まれていることか……。絶え間ない鍛錬で、筋肉の芯は岩のように凝り固まっているに違いありません」

  そこまで淀みなく言い切って、青年は再びゴウケンを真っ直ぐ見据える。

  「私はこう見えて、この近くで癒やし処を営んでおります。私の仕事は、まさにあなた様のような方の、屈強な肉体に宿る疲れや痛みを和らげることなのです!」

  なおも返事をためらうゴウケンに、青年は一歩踏み込んだ。そして、だらりと下げられたゴウケンの巨大な手を、自らの両手でそっと挟み込んだ。

  (……この感じは、初めてではないな)

  これまで旅を続けてきた中で、似たようなことは何度かあった。山賊から助けた行商人の娘、魔物に襲われていた村の女たち。彼女らは一様に、感謝の言葉と共に、潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。中には、それとなく夜の伽を申し出てくる者もいた。

  だが、ゴウケンがその誘いに乗ったことは一度としてない。己に課した、古臭いと笑われるかもしれぬ誓いがあったからだ。

  『相手のためにも、旅人の身で軽薄な真似は許されん。それに、この身と、この力、そして……俺の純潔は、いつか巡り合うただ一人の想い人のために捧げる』

  そんな硬派な信念を貫いたがゆえに、ゴウケンは未だ女人の肌の温もりすら知らない。百戦錬磨の益荒男、童貞である。

  欲が昂った際には自身の手で慰めることもあったが、有り余る精力は全て血の滲むような鍛錬によって汗へと昇華させてきた。

  それでよかったはずなのだ。これまでは。

  だが、今。腕に絡みつく、この青年の発する熱量は、これまで感じてきた女たちのものと比べて、まるで異質だった。振りほどこうとすればするほど、逆に絡め取られていくような、奇妙で抗いがたい引力がある。

  (……なんなのだ、この男は。なぜ俺は、この手を振り払えん……?)

  戸惑うゴウケンの耳に、青年のか細くも必死な声が届く。

  「お願いします! あなた様がこのまま行ってしまわれたら、私はきっと後悔で夜も眠れません......!」

  ゴウケンの身体が僅かに強張った。

  驚くほど滑らかな人間の肌が直に触れている。太さを比べるべくもない、繊細な指。そこから伝わる柔らかな熱が、まるで皮膚の下の血流に直接注ぎ込まれるかのようだった。

  体の大部分を覆う硬い毛皮とは異なり、掌は黒い剛毛に覆われていない。しかし、岩をも砕く鍛え抜かれた己の掌が、こんなにも他者との接触に敏感であったことなど、ゴウケンは初めて知った。

  青年は圧倒的なまでの体格差をものともせず、ゴウケンの手を一生懸命に握ると、潤んだ瞳で真っ直ぐに見上げた。

  「どうか、ご恩のひとかけらでも返させてください!」

  黙りこくっているうちにも、ゴウケンのあらゆる退路が断たれていく。

  (参ったな……)

  この若者の真っ直ぐな瞳もそうだが、何より、この手を包む人間族の肌の感触が、ゴウケンの判断を鈍らせていた。

  (このまま振り払うのは、惜しい……いや! 俺は何を考えて……)

  自分たち獣人とはまるで違う、毛のないつるりとした感触。その未知の心地よさに、ゴウケンの心の奥底で、どうしようもなく恥ずかしい疼きが走る。

  目の前の青年は、一点の曇りもない瞳でゴウケンを見上げている。この真っ直ぐな想いを無下にするのは、一人の獣人として、武人として、道理が通らない。

  逡巡を振り払うような、重いため息が一つ。ゴウケンは観念し、大きな頭を一度だけ緩慢に、こくりと縦に振った。

  「……うむ。ならば、世話になろう」

  絞り出した声は、ゴウケン自身でも驚くほど乾いていた。返事を耳にした瞬間、青年の顔から憂いが消え、一点の曇りもない歓喜が咲き誇った。薄暗い路地裏のかび臭い空気ごと浄化するような、まばゆい笑顔。

  (そうだ……見聞を広めるのが旅の目的。ならば、こういう未知の体験にこそ飛び込んでみるべきだろう。そうだ、これは修行の一環だ。決して、やましい気持ちなどでは……)

  あまりの眩しさに、ゴウケンは『面倒なことになった』という思いとは裏腹に、胸の奥が妙に温かくなるのを感じていた。

  青年に導かれるまま、ゴウケンは都市内の裏路地を幾度か折れて進んだ。道すがら青年は少しはにかみながら、自身の名を告げた。ゴウケンがぶっきらぼうに己の名を返すと、青年は嬉しそうに「ゴウケン様、ですね」と微笑んだ。その屈託のない様子に、ゴウケンはむず痒いような、それでいて悪い気はしない不思議な心地よさを覚えていた。

  大通りの喧騒はいつしか遠のき、周囲には静かで落ち着いた街並みが広がっている。やがて青年が足を止めたのは、古いが手入れの行き届いた木造の建物の前だった。看板らしい看板もなく、軒先に小さな布が揺れているだけだ。

  「こちらです。どうぞ」

  柔和な笑みを浮かべ、青年はゴウケンを店の中へと促す。ぎ、と年季の入った木の扉を開けて中に足を踏み入れると、ひやりとした土間の空気と、乾燥した薬草の混じった生活の匂いがゴウケンを迎えた。商売をしている店特有の気配はなく、まるで他人の住処に無断で上がり込んだような、妙な居心地の悪さがあった。

  (店と言うから、どんなものかと思ったが……)

  ゴウケンが内心で首を傾げていると、青年は「さ、こちらへ」と廊下の奥へと手招きした。きし、きし、と心地よく鳴る床板を踏みしめて進むにつれ、鼻腔をくすぐる薬草の清涼な香りが一層濃くなっていく。そして、最奥にある扉の前で青年は足を止めた。

  「ここが施術室です」

  す、と音もなく扉が開かれる。その瞬間、室内に満ちた濃厚な香りと共にゴウケンの目に飛び込んできたのは、生活感の欠片もない静謐な空間だった。中央に置かれた簡素な寝台と、壁際に据えられた衣類を置くための棚が一つ。それだけだ。

  「……うむ」

  (…罠、というわけではなさそうだな)

  行きすがら垣間見えた青年の屈託のなさと、この清浄な空気に、ゴウケンの張り詰めていた気は、知らず知らずのうちに緩んでいた。何より、鼻腔をくすぐるこの香りが、闘争のために研ぎ澄まされた神経を芯から穏やかにしていくのを感じる。理屈ではない。この青年と、この場所は、己に害をなすものではないと、身体が先に理解していた。

  「ではゴウケン様。さっそくですが、お召し物をそちらの棚へ。このままでは、お身体の芯まで癒すことはできませんから」

  青年が柔らかな口調で言う。ゴウケンは黙って頷くと、手慣れた様子で袴の紐に手をかけた。そのまま青年に背を向ける形で、手にした衣類を棚に置く。上衣と肌着が剥がされ、広い背中が露になる。

  黒々とした剛毛に覆われた僧帽筋は、太い首から丘陵のように盛り上がり、左右に広がる広背筋へと繋がっていく。

  それは彫刻のように筋繊維が浮き出た肉体ではない。脂肪と筋肉が一体となった、触れれば指が沈み込むようなむっちりとした弾力を感じさせる、丸みを帯びた肉の塊だ。それでいて、その輪郭はどこまでも雄大で頼もしい。どっしりとした肩幅から、ほとんどくびれることなく、丸太のように太い腰へと至るラインは、圧倒的なまでの存在感を放っていた。

  ゴウケンは男の前で裸身を晒すことには何の抵抗も無いが、青年の視線がそこに注がれるとなぜだか内心が浮ついた。

  ふと、ゴウケンの動きが止まる。

  (……まずい。随分と汗臭いのではないか? ここ最近、まともに水浴びもしていなかったからな……)

  そこで初めて、ゴウケンは己の失態に気づく。目の前の青年は、か弱く、そして毛むくじゃらの自分とは違う人間という種族。衣服から解き放たれたゴウケンが発するニオイは、彼にとって不快極まりないのではないか。

  ゴウケンが自身の逞しい肉体に刻まれた汗のニオイに狼狽え始めていると、青年の鼻がかすかにひくついた。眉根がほんの僅かに寄せられ、一瞬だけ呼吸が浅くなる。

  常人ならば見逃すほど微細な反応。だが、旅の中で幾多の危機を切り抜けてきたゴウケンの鋭敏な五感が、それを見逃すはずはなかった。

  (今の反応……やはり、臭うのか……)

  ぐらり、と視界が揺れた。戦場で敵の刃を浴びても揺るがなかった精神が、己の獣臭を気取られた、ただそれだけのことで根底から覆されるような衝撃を受ける。なんと情けないことか。

  「あっ……申し訳ありません。少し驚いてしまって……」

  青年はすぐに表情を穏やかな笑みに戻すと、何事もなかったかのように言葉を続けた。

  「お手数ですが、その……肌着、なのですか? そちらもお脱ぎいただけますでしょうか」

  「む……」

  肌着――ゴウケンが腰に締めている、一枚の古い褌のことだ。

  これ以上、この若い男の前で無防備を晒すことへの抵抗が、かすかにゴウケンの胸をよぎる。しかし一度世話になると口にした以上、今更断ることなどできようはずもない。ゴウケンは内心の羞恥を押し殺し、黙って褌の結び目に手をかけた。最後の布が取り払われ、鍛え上げられた下半身が露わになる。

  「こちらの布をお使いください」

  青年が褌の代わりに差し出してきたのは、手拭いほどの大きさしかない一枚の布だった。ゴウケンはそれを受け取ると、言われるがままに腰に巻く。だが、それは彼のふてぶてしい竿と、その根元にぶら下がる重い袋をかろうじて正面から覆い隠すだけ。少しでも動けば、硬い尻の割れ目や太い腿の付け根が容赦なく露わになってしまう。

  自身の最も無防備な部分が、布きれ一枚に隔てられて、静かに穏やかに見つめる青年の視線に晒されている。ゴウケンは言いようのない落ち着かなさに、ただ身を硬くするしかなかった。

  「……では、ゴウケン様。こちらの台にうつ伏せになっていただけますか?」

  [newpage]

  ぎしり、と木製の脚が悲鳴を上げる。並の男が二、三人乗ってもびくともしないであろう頑丈なつくりの施術台が、ゴウケン一人の体重で軋んでいる。

  施術台に身を横たえると、硬質で、ひんやりとした木の感触が、羞恥でやや火照った胸板と腹には存外心地よかったが、ぎしりと軋む音を聞くたびに己の規格外の巨体を改めて意識させられ、所在ない気持ちになる。

  (これほど無防備に、人前で裸を晒すのはいつぶりだろうか……)

  ゴウケンが雑念と向き合っていると、ふわり、と清涼な薬草の香りが鼻腔をくすぐる。青年が近くの棚から小さな瓶を取り出したのが、視界の端に見えた。琥珀色の液体が、白くしなやかな指先へと、とろり、と注がれる。

  顔を伏せたまま、ゴウケンは視線だけを動かしてその一部始終を盗み見ていた。青年は注がれた油を両の掌でゆっくりと擦り合わせる。白い指と指が絡み合い、琥珀色の液体をぬらぬらと引き伸ばしていく様は、それ自体がどこか淫らな交わりのように見えた。

  (なんだ、あの指の動きは……。まるで…………いかん、何を考えている。これはただの施術だ。治療の一環なのだ……!)

  温められた油が隆起した肩甲骨のあたりに、ぬるり、と塗り広げられた。人間のつるりとした滑らかな皮膚が、黒い剛毛を掻き分け、肌へと直接触れる。ぞわりと背筋に走ったのは、決して不快ではない未知の感覚。

  青年の指は、ゴウケンの肉体の構造を完璧に理解しているかのようだった。凝り固まった筋肉の走行に沿って、的確な圧をかけながら滑っていく。特に僧帽筋と背骨の境目に指が沈み込んだ時、ゴウケンは思わず息を呑んだ。

  「む……ぅ…」

  長旅で蓄積した疲労が的確に捉えられ、解きほぐされていく。それは自らの鍛錬では決して届かない、身体の深奥。あまりの心地よさに、ゴウケンの巨躯から徐々に力が抜けていく。武人としての常に張り詰めていた緊張の糸が、緩んでいくのが自分でも分かった。

  「力加減、いかがですか?」

  不意に耳元で青年が囁いた。その声はやけに甘い耳触りでゴウケンの頭に浸透していく。

  「うむ……ちょうどいい。こういった施術を受けるのは初めてなのだが、案外に気持ちのいいものだな……」

  「それは良かったです。もう少しほぐしていきますね」

  問いそのものよりも、吐息がかかるほど近くで発せられた声に、ゴウケンの肩がびくりと震える。

  弛緩しきったゴウケンの意識の隙間を縫うように、青年の指の動きが、ほんのわずかに変化した。背骨の溝をなぞる指が、太い腰からむっちりと丸みのある臀部、そして逞しい太腿の裏側へと滑り落ちていく。その指が再び腰へと戻る瞬間、剛毛に覆われた内腿の、最も柔らかい付け根の部分を、羽で撫でるように掠めていった。

  「むっ……!」

  びくん、とゴウケンの巨体が大きく跳ねる。雷に打たれたかのような衝撃が、背骨を駆け上がった。

  今の接触は、治療に必要なものだったのか? それとも――

  羞恥と困惑が再び鎌首をもたげる。

  (偶然か……? いや、しかし……明らかに指が……)

  思考がまとまらない。ただ、触れられた一点だけが、焼印を押されたように熱かった。

  ゴウケンの狼狽をよそに、青年の指は、何事もなかったかのよう尻の肉を力強く揉みほぐし始めた。岩のように硬くなった大臀筋に、的確な圧が加えられる。そこがこれほどまでに凝り固まっていたこと、そして、そこを揉まれることがこれほどまでに心地よいということを、ゴウケンは生まれて初めて知った。先程の微細な違和感は、たちまち純粋な心地よさの波に飲み込まれていく。

  完全に油断し、再び身を委ねた、まさにその瞬間だった。青年の掌が、今度はゴウケンの逞しい太腿を裏側から包み込むように掴んだ。そして、親指が……硬い筋肉と脂肪の境界線を確かめるように、内腿の柔らかな肉付きへと、ぐ、と沈み込んだのだ。

  「く……ッ」

  今度こそゴウケンは短く呻く。全身の毛が総立ちになる。華奢な指が自らの内腿の付け根を、明確な意思を持って圧迫している。紛れもない感触にゴウケンの思考は停止する。羞恥か、怒りか、それとも未知の感覚への戸惑いか。感情が渦巻き、言葉にならない。

  そんなゴウケンの動揺を全て見透かしたかのように、青年は静かに、そして穏やかに告げた。

  「ゴウケン様、次は前面を癒やしますね。こちらを向いていただけますか」

  有無を言わさぬようでいて、どこまでも優しい声色。ゴウケンはぎこちない動きで巨体を反転させるしかなかった。そうして仰向けになった彼の目に映ったのは、先程の行為とは到底結びつかない、はにかむように微笑む青年の顔だった。

  (なっ……あんな破廉恥なことをしておきながら、なんだその顔は……)

  ゴウケンの脳裏に、内腿の柔らかい部分――自身の急所に程近い箇所をぐ、と押された、あの下心をくすぐるような感触が蘇る。治療の一環だとは到底思えぬ、明確な意思を持った指の動き。だというのに目の前の青年は、ただ純粋な親切心から施術を行っているようにしか見えない。屈託のない表情を見ていると、先程の行為が勘違いであったかのように思えてくる。

  (俺の考えすぎ……だったのか? だが、あの感触は……いや、待て。この青年はただの癒し手で、それに男同士だぞ。俺のようなむさ苦しい獣人の体に、破廉恥な考えなど抱くはずがない。そう、きっとそうだ。俺がこの状況に慣れていないだけなのだ……)

  ゴウケンの黒い肌がぶわりと熱を帯びる。歴戦の武人にあるまじき失態。だが、青年はゴウケンの狼狽など気づかぬ素振りで、再び油を細い指に垂らした。仰向けのゴウケンからは、青年の白い両の手が油を絡ませ合う様が真正面から見えてしまう。指と指が絡み合い、琥珀色の液体をぬらぬらと引き伸ばしていく光景は、ゴウケンの理性を試すかのように目の前で執拗に繰り広げられた。

  「では胸から緩めていきます。楽になさってくださいね」

  穏やかな声と共にオイルで温められた掌が、ごつい胸板に、ぴたり、と置かれた。背中の剛毛を掻き分けられた時とは全く違う、滑らかな皮膚が直接触れ合う感触。ゴリラ獣人の身体は、胸から腹にかけては体毛が薄い。そのせいで、ぬるりとした油膜を介して伝わる青年の熱と柔らかさが、あまりにも生々しく、直接的に肌へと伝わってきた。

  (いかん……これは、けしからん……!)

  青年の両手はまず、分厚くも弾力ある胸筋を側面から、肉を中央に寄せるようにして掴んだ。むんず、と重量感のある筋肉が、細い指の間に柔らかく盛り上がる。次に、掌の付け根を使い、岩盤のような胸板全体を、じっくりと体重を乗せて圧迫していく。ゴウケンの体内に籠っていた澱んだ空気が、ふぅ、と長い息となって漏れた。仕上げに、凝り固まった筋肉の繊維を一本一本確かめるように、指先が鎖骨の下を丹念に押し込んでいく。

  背中をほぐされた際と同じ、純粋な心地よさ。先ほどまでの羞恥心は、再び巧みな手技の前に霧散していく。

  (これは治療……何もやましいことはない……)

  自分に言い聞かせるように、ゴウケンは目を閉じた。青年の掌は、胸から腹部へと滑らかに移動していく。硬い腹直筋の溝をゆっくりと辿り、引き締まった脇腹の肉を慈しむように揉み解す。その心地よさに、ゴウケンの意識は再び蕩けそうになる。指はさらに下腹部へと進み、腰骨のすぐ内側、下腹の柔らかい部分を、円を描くようにゆっくりと圧迫した。

  「……ぅ」

  体の芯がまたしても湿っぽい疼きを訴えるも、それはあくまで体の深部の話。青年の手付きはどこまでも治療の域を出ない。しかし指が布越しの鼠蹊部に触れた時、ゴウケンの全身が強張った。そこはあまりにも、自身の竿や袋に近い。

  (こ、これ以上は……!)

  緊張で息を詰めるゴウケン。だが、青年はゴウケンの危惧を嘲笑うかのように、あっさりと鼠蹊部から手を離し、逞しい太腿へと指を滑らせていった。

  (……あ、危ないところだった……)

  安堵したのも束の間、ゴウケンはすぐさま己の浅ましさに気づき、内心で舌打ちする。危ない、とは何だ。青年はただ真摯に施術をしているだけではないか。それを勝手に勘繰り、みっともなく体を強張らせてしまった。武人として鍛え上げたはずの精神が、こうも簡単に揺さぶられるとは。

  ゴウケンは邪念を振り払うよう努めたが、青年の施術に身を任せればそれは容易いことだった。

  強張っていた全身から、ふ、と力が抜ける。青年は長旅で疲労が蓄積した大腿の筋肉を、力強く揉み込んでいく。純粋な疲労回復のための施術だ。徐々に手が股座から離れていくと、膝の裏の窪みを的確に押し、張ったふくらはぎの肉を揺らし、硬くなった足首を回し、凝り固まった足の裏の筋を一本一本ほぐしてくれる。最後には獣人の大きな足指の一本一本まで、入念に揉み解された。

  あまりの心地よさに、脳裏をよぎった不埒な勘繰りも霧散した。ここはどこで、自分は何をされているのか。そんな問いすら浮かばない。ただ全身を巡る心地よい痺れと、微睡みにも似た感覚だけに包まれていた――が。

  ゴウケンが完全に油断しきっていた、まさにその瞬間だった。

  「次は、こちらの血の巡りを良くしていきますね」

  微熱を持った耳に、遠くから声が聞こえたような気がした。まだ続きがあるのか――ゴウケンはぼんやりと、それを聞き流していた。

  足の指先を揉んでいたはずの指が、今度はゆっくりと脚の内側を遡上してくる。ふくらはぎ、膝の内側、そして何のためらいもなく、柔らかい内腿の肉を掻き分け、薄い腰布の下でずっしりと施術台に垂れ下がる重い袋を、優しく包み込んだ。

  むにゅっ…むにっ、もみゅっ、もみゅっ…

  「ん……っぁ」

  声にならない声が太い喉から漏れた。そこは、これまでゴウケンが自らの手で無骨に処理することしか知らなかった秘境。そこに他人の手が。それも男の、人間の、柔らかく温かい手が。自らの金玉袋を、労わるように、慈しむように、ゆっくりと揉んでいる。

  「お、おい……そこは……」

  腰に巻かれた薄い腰布など、何ら意味をなしていない。流石に制止のため声をあげるゴウケン。

  だが、ゴウケンの掠れた声は、静かな室内に響く粘着質な水音に、いとも容易くかき消された。青年は、岩のように硬直するゴウケンの巨躯など意にも介さず、柔和な笑みすら浮かべている。

  「大丈夫ですよ、ゴウケン様。皆様最初は驚かれますが、ここは男性の活力の源、全ての精

  気が集まる場所なのです。ここに溜まったものを放置すれば、全身の気の巡りが滞ってしまいます。私のお客様も、これこそが真の疲労回復の要だと、最後には必ずご所望なさいますよ」

  声はどこまでも穏やかなもの。しかし、その指がやっていることは、ゴウケンの人生において最も破廉恥で、背徳的な行為だった。

  (な……何を言っているんだ、この男は……。俺の金玉を揉むことが、疲労回復だと……? そんな馬鹿な話があるか! だが、しかし……この、腹の底から湧き上がってくるような心地よさは、一体……なんだ……!?)

  油をたっぷりと含んだ掌が玉袋全体を、ぬちゃ…と粘りつく音を立てて包み込む。薄い皮の下で、鶏卵大ほどもある硬い睾丸の輪郭が二つ、指の腹でぐにゅり、ぐにゅりと転がされる。

  「んん……っ、ふ……ぅ……」

  思わず、太い喉の奥から熱い吐息と共に甘い呻きが漏れた。自らの手で無骨に扱くのとは全く違う。他人の指が、己の最も柔らかな急所を蹂躙、というには丁寧な手つきで包み込んでいる。指の一本一本が、これまで知らなかった感覚を確実に教え込んでくる。

  ゴウケンの腰が意思とは無関係にびく、びくっと痙攣し、施術台の上で軽く浮き上がった。

  「ふふ……正直な身体ですね。私が指を動かすたびに、ゴウケン様のものが脈打っているの

  が分かりますよ。体が健康な証拠ですね」

  青年は愉しむように肯定すると、今度は二つの玉を片方ずつ、より丁寧に揉み解き始めた。親指と人差し指で輪を作り、根元から引っ張るように絶妙な力加減で扱き上げる。

  「は、ぁ……っ、く……」

  ゴウケンの腰が小さく跳ねるたびに、既に半勃ちだった肉竿がぐぐ…と腰布を盛り上がらせる。赤黒く、子供の腕ほどもある逸物が、青年の手技に呼応するように生命を主張し始めている。

  (いかん、このままでは……)

  存分に金玉を弄んだ青年の指が、その裏側、会陰部へと更に潜り込む。蒸れたそこに、青年の指の腹が沈んだ。

  ぐにゅっ…

  「ぬお゛っ……!」

  (ああ……もう、だめだ……)

  金玉を揉まれた時とは全く質の違う、意表を突く刺激だった。体の芯を直接鷲掴みにされたような感覚に、ゴウケンは野太い呻きを漏らし、意思に反して腰を大きく突き上げてしまう。その勢いで、股座の膨らみをかろうじて覆っていた腰布が捲られて、膨れ上がった巨根を外気に晒してしまった。

  「すまない……みっともないモノを……」

  羞恥に耐えかね、ゴウケンはか細い声で謝罪する。しかし青年は、露わになった巨根に臆した様子もなく、穏やかに微笑むだけだった。

  「お気になさらないでください。施術で血の巡りが良くなりますと、このように反応されるのはごく自然なことなんです」

  青年は悪びれもせず、むしろゴウケンの勃起を褒め称えると、再び会陰のツボにぐ、と指を沈めた。

  「ま、待て……はあぁ……っ」

  下からの刺激に押し出されるようにして、股座の黒々とした獣毛の茂みから、一段と色濃い肉の柱が天を突く。

  露わになった雄々しき巨砲。肌の色よりもさらに赤黒く鈍い光を放つ肉の柱は、完全に昂りきってもなお亀頭の半ばまで皮が覆い被さっている。そのどこか素朴でありながら獣じみた雄姿を、青年はまるで美しい芸術品でも眺めるかのように、うっとりと見つめていた。

  ここにきて俄かに色気を増した青年の態度と、的確すぎる快感の刺激に、ゴウケンの抗議の言葉は霧散する。羞恥と、否定しきれない心地よさ。奇妙な感覚の渦の中で、思考もまとまらない。

  ゴウケンが反論の言葉を失って、ただ浅い呼吸を繰り返すだけになったのを見計らい、ついに青年は全ての指を、先走りの雄臭がむわっと漂う肉棒へと這い上がらせる。

  潤滑油を帯びた指先が熱い肉柱に触れた瞬間、ゴウケンの巨躯に疼きが奔った。

  「くぅ……っ、は、ぁ……っ!」

  青年が琥珀色の油を竿に塗り広げる。ぬちゃり、と粘つく音。片手では到底握りきれぬほどの逞しい竿が、人間の器用な指にくまなく撫でられている。血管の浮き立つ硬い表面をなぞりながら、ぬるり、ぬるりと指の腹が滑っていく。

  「こ、これも……く……っ、施術、なのか……?」

  「もちろんです。ここに溜まった澱みを流さずして、真の疲労回復はありえませんよ」

  黒光りする己の巨根の上で、対照的に白い人間の指が、まるで別の生き物のように淫らに踊る。

  (自分で扱くのとは全くの別物だ……!)

  視覚から叩き込まれる強烈な刺激が、全身の毛を逆立たせた。限界まで硬くなったはずの肉棒が、未知の興奮に煽られ、さらに一段と熱く、硬く膨れ上がってしまう。

  「素晴らしいモノをお持ちですね。つい施術にも熱が入ってしまいます」

  青年は感心したように呟き、手つきを変えた。

  両の掌が、まるで粘土をこねるように全体を挟み込む。にゅるり、にゅるりと肉棒が揉みしだかれるたび、鈍く、重く、腰を直接揺さぶる未知の快感に襲われる。

  「あ"……ッ、ぬぁ……ッ! ま、まて……そんな、揉み方……むうぅッ!」

  懇願するように、ゴウケンの肉厚な腰が揺れた。

  素直な反応を確かめた青年の親指が、今度は亀頭の真下に走る裏筋を、根本から先端へ、ぐぐ……っと抉り上げるように這い上がった。

  脳天を灼くような衝撃。ゴウケンの全身の神経が、一本の肉棒に繋ぎ変えられたかのようだった。青年の指が竿を操縦桿のように抉り上げると、その動きに連動して巨躯が勝手に弓なりにしなる。

  「お゛お゛ぅっ……!?」

  (なんだ、今の、は……!? からだが、どうにかなってしまう……!)

  もはや、この身体は己のものではない。ゴウケンは獣のような短い呻きを上げた。

  理性が追いつく前に、責めはさらに次の段階へと移行する。

  ぬちゅ…

  青年の親指と人差し指で作られた可愛らしい輪が、大きく膨れ上がった亀頭のカリ首だけをきゅ、と締め上げる。他のどこにも触れない、ただ一点だけを狙い澄ました、高速の摩擦。

  ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅ!

  「あ、ああッ! だめだ、そこは…ッ! そこがいちばん……!」

  「では重点的に」

  悪魔の宣告のように、青年の静かな声が響いた。返事をする間もない。輪の締め付けがさらに強く、摩擦も加速する。

  びくびくと脈打つ亀頭が、巧みにいたぶられる。 我慢汁がとめどなく溢れ出し、指の動きをさらに滑らかにさせた。

  ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅッ!!

  熱い、 早い、 気持ちいい。思考が単純な単語に分解され、蕩けていく。

  「で、出る! 出てしまう……ッ!」

  懇願に近い喘ぎが迸り、施術台の縁を掴む巨大な指に力が入る。全身もがくがくと痙攣を始めた。

  腰の奥から熱い塊がせり上がってくる。揉みほぐされた金玉が、きゅう、と硬く縮み上がった。もう止められない。

  ゴウケンが射精の予感に歯を噛み締めた、まさにその刹那――

  ――ぴたり、と。

  嵐のような摩擦が、嘘のように止んだ。

  ちょうど股座の中で吐き出される寸前だった熱い奔流が、急に勢いを失くして静止する。

  「っあ……、ぐ……ぅ?」

  行き場を失った快感の残滓が、灼熱の蟲の群れとなって全身の神経を内側から食い荒らす。金玉は固く縮み上がったまま、精気がマグマのように煮え滾り、今にも管を突き破って溢れ出しそうだった。

  気持ち良くなれば何も考えずにそのままぶっ放す。男としての約束された快楽――射精を裏切られたチンポは、先程よりもさらに硬く、熱く、鬱血して赤黒さを増している。先端の小さな孔からは、堪えきれなかった先走りが一筋、ぷすりと玉の汗を滲ませていた。

  「……まだですよ、ゴウケン様。男性の本当の快感は、この先にあるのですから」

  悪魔が囁くように青年の声が鼓膜を揺らす。

  「っ……ぅああ……」

  むにゅっ…むにゅっ…

  竿に直接は触れられない。その代わり、ずっしりと重い金玉を、両手で再び優しく包み込まれた。一度射精を堪えたことで極限まで張り詰めた袋が、指の腹で、くり、と撫ぜられる。薄皮一枚を隔てて、硬い睾丸がこ指先で転がされた。

  「くッ、ぁ……! ん、ぁ……い、今は、やめ……、ぬぁ……っ!」

  直接的ではない、じわりと内側から溶かされるいやらしい快感。腰が勝手に震えて逃げようとするが、施術台に縫い付けられたように動けない。

  金玉への愛撫で再び全身の熱が最高潮に達したのを見計らい、青年の指が、三度、竿を捉えた。

  ぬちゃあ…

  今度はゆっくりと。根本から亀頭まで、既に油でぬるぬるのチンポを、表面の筋の一本一本まで確かめるようにじっくりと扱き上げる。こり、こり、と硬い筋を指がなぞるたび、ゴウケンの太腿がぴくりと痙攣し、亀頭がひくひくと震えた。

  「ん"……ぅ、ぅ! ……は、ぁ……ッ!」

  言葉にならない声が、ゴウケンの喉から漏れ出る。 体から力が抜けた瞬間に、青年の指の輪が、ぐ、とカリ首に食い込んだ。

  本来は雄としての機能を果たすための溝を、苦しくならない絶妙な力加減で執拗に、高速で擦られる。 熱と快感で赤黒く膨れ上がった亀頭がひたすら集中攻撃される。

  ぬちゅッ! ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅッ!!

  「んぐ……ッ! ぁ、あ……ッ! ふ、っ…ンぁ……ッ!」

  快楽に蕩かされながらも喉の奥で声を殺そうとするゴウケンの耳元で、青年がくすりと笑いかけた。

  「おや、まだ我慢なさるのですね。…どうぞ、思うがままに声をお出しください。ゴウケン様のお体がどこで一番喜んでいるのか…私に教えてくだされば、もっと気持ち良くして差し上げますよ」

  青年の指は、ゴウケンが最も感じやすいカリ首の溝をさらに深く、的確に抉る。

  「む゛おぉ…ッ! そこ、だ……! そこがッ、……あ゛ぁッ、きもち、い……ッ!」

  武人としての矜持も、羞恥心も、全てが蕩けていく。ただ、己の快感を貪欲に求める獣の本能が、ゴウケンを支配していた。

  「たのむ……そこを、もっと……強く、こすって、くれ……!」

  自ら快感をねだる言葉を発したゴウケンのチンポが、ぶるり、とひときわ大きく震える。これまでで最大級の硬さと熱を帯び、今にもはち切れんばかりに勃起している。

  懇願に応えるように、青年の指使いがさらに激しさを増した。

  ぬちゅ、ぬちゅちゅちゅッ!

  「ふ、ぅ……ッ、もう、だめだ……おさえ、きれん……ッ」

  今度こそ止められない。ゴウケンが全身の筋肉を硬直させ、腰の奥からせり上がってくる熱い奔流を解き放とうとした、その瞬間――

  ぴたり。

  二度目の悪魔的な静寂が訪れた。

  「ぁ……な、ぜ……」

  涎とともに、掠れた声がゴウケンの口から漏れた。思考が追いつかない。ただ肉体だけが正直に反応する。与えられるはずだった快楽を求め、腰がみっともなく、へこっ、へこっ、と空気を打った。

  熱に潤んだ瞳で青年を見上げても、そこにあるのは悪戯っぽく細められた涼やかな目元だけだった。

  「言ったはずですよ、ゴウケン様。本当の快感は、この先にあると」

  ゴウケンはようやく理解した。これは過ちではない。意図的に、自分は果てることを許されていないのだと。

  今まで感じたことのない屈辱と、それを上回る欲情が突き上げてくる。

  「たのむ……っ、はぁ……もう、これ以上は……堪えられん……ッ。……は、……果てさせて……くれ……ッ」

  精一杯に絞り出した声は、ゴウケン自身でも情けなく感じるほどに震えていた。しかし、青年は優しく微笑むだけだ。

  「もう少しの辛抱ですからね」

  声はどこまでも甘く、しかし決して揺らがぬ拒絶の意思を孕んでいた。

  「たのむ……もう、一度……!」

  青年は再度の懇願を無視。す、と竿から指が離れる絶望感。ゴウケンの腰はまだカクカクと小刻みに揺れている。快楽と射精の圧力から解放されてしまったチンポは、行き場のない精欲でどくんどくと脈打ち、尚も赤黒く怒張する。

  息をつく間もなく、ぬるり、と新たな油が滴り落ちた。

  青年の両掌が次に狙うは、またしても根元にぶら下がる金玉袋。二度の寸止めを経て、そこにはじんと甘い疼きが蠢いている。

  むにゅ…むにゅ…

  「ふぬぅ……ッ! ちがう……もっと上を、触ってくれ……!」

  ぬちゃ、ぐちゅ、と粘性の高い油が陰嚢の皺に絡みつく。射精を堪えた睾丸はそれ自体が性感帯のように成り果てていた。が、弱点を責められるのに比べればどうしても物足りない。

  そこで青年の親指の腹が、袋のちょうど根元をぐ、と押し込み、ねぶり上げた。

  「んお゛ッ! …む、ぅ……きもち、いい……!」

  硬い付け根を、つるりとした指の腹が労わるように優しく揉み押してくる。その丁寧な手つきが逆にゴウケケンの焦燥を煽る。善良そうな青年の顔が今は淫らに見えた。

  「素晴らしい張りですね。生命力に満ち溢れている……」

  素直に感心した声。だが、指はもう急所を責めてくれない。 代わりに、片方の手がチンポの根元に添えられ、するり、するり、と包皮だけを上下に扱き始めた。 ぬるぬるの我慢汁をまとった亀頭が、皮を被っては剥けを繰り返す。

  「ん……ぬぅ、あ……ッ!」

  そして、それと同時。もう片方の指先が、さわさわと玉袋の裏、会陰の窪みを羽で撫でるように触れてきた。

  「お゛……ッ!? な、なんだ……これ、は……ッ!」

  二方向からの、全く質の違う愛撫。 焦れったい皮の動きと、体の芯をくすぐるような微かな刺激。思考がぐちゃぐちゃに掻き乱され、太い足指が施術台の上で力む。亀頭の鈴口から、堪えきれない粘液がまた一筋、だらりと垂れた。

  (だめだっ……もう、辛抱たまらん……!)

  「どうしました? そんなに震えて」

  「も、もう……勘弁してくれ……ッ!」

  「ふふ、もう少し我慢してから気持ちよくイきましょうね」

  嘲笑めいた楽しげな声がゴウケンに浴びせられると、会陰から指が離れた。そのまま体を辿り、鼠径部がつつ、と労わるようにゆっくりと撫でられる。

  「ん……ぅ、ぁ……」

  あまりに優しい、癒すような手つき。だが、二度の寸止めで射精欲求が高まりすぎているゴウケンにとって、それは拷問に等しい。亀頭から竿にかけてだらだらと粘液が垂れ、その切迫を物語っていた。

  (やめろ……そんなところでは、ない……もっと……!)

  快感の奔流をせき止められ、ゴウケンの腰が快感をねだるように、く、くと揺れ始めた。 もっと激しい快感を、寄越せと。

  「は、ぁ…はぁ……っ! も、っと……たのむ、から……もっと、激しいのを……くれ……!」

  「焦ってはいけません。最高の快感は、ゆっくりと味わうのが男のたしなみですよ」

  「む゛っ……う゛ぅ、ぅううぅ……! は、ぁ……あ、あぁぁ……っ!」

  囁き。そして、ぬるり、と。三度、青年の指の輪が、鬱血してどくどくと脈打つチンポの根本に、ねっとりと絡みついた。

  にゅるぅ…

  指の輪がゆっくりと、油と我慢汁でぬらぬらと黒光りするチンポを扱き上げる。

  「さあ、今度はもっともっと限界を責めていきましょうね」

  囁きと同時に、優しいだけだった手つきががらりと変貌した。

  亀頭の傘を指の腹で、くり、と撫で、裏筋を爪先でかり、かりと引っ掻き、焦らしに焦らされたバキバキのチンポの頂点にだけ、ねぶりつくような快感を集中させる。

  (なんだ、この指使いは……今までと、違う……)

  最高に気持ちいい、しかし決して頂には到達させない、じっくりと嬲り殺すような卑猥な手つき。

  「あ……ぅ、ん……っ、ぁ……ッ! や、やめ……そんな……!」

  ゴウケンの巨躯が施術台の上でだらりと弛緩する。腰を除いて全身の筋肉が脱力して、全神経が股座に聳え立つ一本の肉竿へと注がれていく。肉体が巨大な性器そのものになったかのような錯覚。指が動くたび、びくん、びくん、と腰だけが勝手に跳ねる。

  「ゴウケン様。お願いがあります」

  「ん、ぁ……? な、なんだ……っ」

  「できるだけ堪えてください」

  (堪えろ……? この状態で、だと……? 正気か……!?)

  脳が理解することを拒む。これ以上の快感を与えられ、どうやって耐えろというのか。

  「む、無理だ……。たのむ、出させてくれっ……!」

  悲鳴に近い懇願。だが青年は、慈愛に満たた笑みすら浮かべて首を横に振る。

  「だめですよ、ゴウケン様。まだです。もっと気持ちよくなれるんですから」

  「だ、だが……! っぁ、もう、身体が……言うことを、きかん……!」

  「大丈夫、あなたならできます。さあ、もっと力を抜いて……」

  ぐちゅり、と粘度を増した雄汁が溢れ出した先から亀頭に塗り込められていく。青年の指は傘の卑猥な反りをなぞり、カリ首の高い段差を突き、弄ぶ。だが決して全体を握り込もうとはしない。

  これまでの執拗な愛撫によって、ゴウケンの肉竿は完全に調教されきっていた。快感そのものの閾値が格段に下がり、亀頭を軽く撫られるだけで腰の奥が痺れるほど感じてしまう。行き場をなくした熱が、体の中心でぐずぐずに煮え滾り、肉棒をさらに赤黒く腫れ上がらせていく。

  「ん……っ、く……! こらえ、てる……だが、……あ゛……っ!」

  喉を反らし、必死に喘ぎを飲み込もうとするが、熱い吐息が絶え間なく唇から漏れ出る。思考は快楽に焼き切れているが、青年の「堪えてください」という言葉だけが、まるで呪いのように頭にこびりついていた。

  言われた通りに全身の力を抜こうとするそばから、下腹部の筋肉が勝手に引き攣り、性欲が暴れ狂う。矛盾した反応が織りなす苦悶の表情を、青年は恍惚と見つめていた。

  快感の波が、ゴウケンを否応なく射精へと押し流していく。腰が、雄の当たり前を始めようと大きく浮き上がる。

  「おっと……まだいけますよね?」

  ぴた、と青年の指の動きが止まる。

  「あ゛……ッ! そんな……!?」

  同時に、ゴウケンが浮かせた腰を、もう片方の手でぐ、と押さえつけた。ゴウケンのチンポが、射精寸前の痙攣をびくびくと繰り返す。

  「うぅ……、ぁ、……お゛……ッ!」

  ゴウケンの切なげな喘ぎが施術室の湿度を上げる。

  指が離れてもなお、びくびくと苦悶を訴える肉棒。腰が勝手に浮き沈みし、存在しない刺激を求めて空を掻く。

  (見られて、いる……こんな、無様な姿を……っ! なのに、なぜだ……ぞくぞくする……!)

  そんな無様な姿を青年は楽しげに見下ろしている。

  「だめだ……も、……むり、だ……で、……でてしまう……!」

  今度こそ本物だった。青年の制止も、自らの意思も振り切って、体の芯から突き上げるような絶対的な射精感がゴウケンを襲う。

  「――――――ッ!」

  青年の手が、す、と竿から離れるのは分かりきっていたこと。

  肉棒は支えを失ったが変わらず天を突く。むしろガチガチに硬度を増していき、腹の上でぷるぷると震える。ひたすらに与えられ続けた快感の残滓が、熱を持ったままそこにある。

  どくん……と、竿の根元が一度だけ大きく脈打った。

  ゴウケンの喉が、ごくりと鳴る。全身の筋肉が来るべき衝撃に備えて一斉に強張る。腹筋が硬く盛り上がり、腰を浮かせながら足をピンと伸ばす。いつもの、全てをぶちまけるための爆発的な収縮。その予備動作。

  「ん……ぅ、あ……でてしまう、…でる、だすぞ……っ」

  だが、衝撃はいつまで経っても訪れない。自らの肉体に起きた異常に困惑するゴウケン。

  赤黒く鬱血し、張り裂けんばかりに膨れ上がった亀頭の先端。 その中心にある尿道口が、くぷ、と身勝手に開いた。

  「く、ぁ……ッ!ぉ、お゛ぉ……! あ゛、あ゛……っ、……ふ、ぅ……」

  粘液に濡れた鬼頭の唇がわずかに開く。 透明な先走りの滴が一つ。そして、その奥から押し出されるようにして、とろりとした濃い白濁が、ゆっくりと顔を覗かせた。

  零れた一筋だけの精液が、ぬらぬらと光る竿を滑り落ちていく。そのまま陰嚢の丸みを伝い、皴に引っかかって止まった。

  「んっ……、ぁ……?」

  爆発的な解放感はない。代わりに、じぃん、と痺れるような甘い疼きが、竿の根元から下腹部全体へと染み渡っていく。射精寸前の、あの脳が焼けるような切迫感が、終わることなく体の中で燻り続けている。

  「はぁ、は…っ、これ、は……?」

  「それでいいんですよ」

  青年はうっとりと囁き、まだ静かに脈打つ竿を眺めている。

  「これが、ゴウケン様の身体が本当に求めていた快感なんですから」

  「は……っ、は、ぁ……ッ、は……ぅ……」

  獣の喘ぎだけが、湿度の高い室内に虚しく響く。

  強大な力を秘めたゴウケンの肉体は、今や完全に弛緩しきって施術台に沈み込んでいた。ぴくりとも動けない。指一本、足の先一本、己の意思で動かすことすら億劫だった。焦点の合わない瞳が虚空を彷徨い、ただ天井の木目をぼんやりと捉えている。

  (果てた、のか……? いや、違う……チンポの先から少しばかり汁が漏れただけだ……。なのに、身体の熱は少しも引かん……)

  頭が快感に痺れて正常に働かない。 何が終わったのか。そもそも何が起きていたのか。思考が答えを出すことを拒絶していた。ただ、腹の底には、まだ熱い疼きが燻っている。快感の残滓が、体中の神経をじりじりと焼き、弛緩しきった筋肉を時折、ぴく、ぴくん、と痙攣させる。

  ゴウケンは己の股座に視線を落とした。

  チンポはバキバキに怒り狂っている。当たり前だ。溜めに溜めた射精欲求は、爆発的な解放を得られぬまま、腰の奥で出口を求めて煮え滾っているのだから。むしろ、先程よりもさらに敏感になっているのが竿表面の感覚で分かった。だからこそ、竿を伝う頼りない吐精をも鮮明に感じ取れたのだ。

  (おれの、チンポが……こんな、情けなく汁を垂らして……)

  屈辱。羞恥。武人としての矜持が、かろうじて残った理性が、そう叫んでいる。

  だが、身体は正直だった。

  みっともなくムラつきを体現する肉棒が、どくん、とかすかに脈打つ。 燻っていた熱が呼応するように、じわりと疼いた。

  「まだ、ほんの序の口ですよ、ゴウケン様」

  「ぬ、ぅ……は、ぁ……?」

  甘い疼きの余韻に浸っていたゴウケンの喉から、まったりとした呻きが漏れる。

  (まだ、だと……? これ以上、何を――)

  ゴウケンの思考が追いつく前に、淫らに濡れた青年の指が、再びゴウケンの股座へと伸びる。

  射精欲求の波が完全に引いたことを確認すると、青年は間髪入れずに指先を、まだ熱を持つ亀頭の先端、ごく僅かな精液を漏らしたばかりの尿道口へと、ゆっくりと押し当てた。

  「く……ぅあっ」

  一番敏感な場所を的確に抉る指先。終わったはずの快感が、脳髄を直接灼く。 快感の余韻に蕩けきっていたゴウケンの表情が、だらしなく崩れた。半開きの口から、獣のように低い息が漏れ、焦点の合わない瞳がぐ、と白目を剥く。刺激に呼応するように、既に限界まで硬直していた肉竿が、びくん、と一度大きく脈打った。

  「ん"く……ぅ、ぅうう……お"、お"おぉ……っ!」

  (これ、以上は……おかしくなる……!)

  理性が「やめろ」と叫び、肉体は「もっと」と疼く。 完全に引き裂かれた思考の中で、ゴウケンは自分が自分のものではなくなっていくのを、ただ呆然と感じるしかなかった。

  青年はそんなゴウケンの葛藤を見透かしたように、くすりと笑う。

  「よくお休みになれましたでしょうか」

  ゆるりと肉棒を撫でる手の動きに、抗うことはできなかった。

  「……では、始めさせていただきますね?」

  返事をする間もない。青年は新たに油を掌に広げると、ぬちゃり、と粘性の高い音を立てて、最大限まで血液を流し込まれているゴウケンのチンポを、今度は壊れ物を扱うかのように両手で優しく包み込んだ。

  「ふん゛……ッ!?」

  これまでとは全く違う。指先だけの繊細な愛撫でありながら、その熱量が段違いだった。

  柔らかな掌全体で、極太の肉棒に宿る熱を確かめるように握り込み、ぐ、ぐ、と根本からゆっくりと揉み解していく。こりっ、と硬い血管の筋を指の腹が優しくなぞり、熱で張り詰めた肉を慈しむように揉みほぐす。

  硬く張りつめたチンポの芯に直接、じんわりと染み渡るような、抗いようのない快感。

  「あ、ぅ……き、もち……いぃ……もっと……っ」

  「ふふ……随分と可愛らしいお声になりましたね」

  止めどなく溢れる汁を、青年はチンポ全体に塗りたくる。そして両の掌で挟み込み、労わるように、ゆっくりと扱き始めた。

  ぐちょっ…ぐちょっ……

  「ん、ぅううう……っふぅ、ぅぁ……はあぁ……っ!」

  大振りでいて繊細な指の動きが竿を丁寧に揉み込み、腰の奥から熱い塊をじわじわと引きずり出してくる。金玉が、きゅう、と疼いた。

  「あ……ッ、また、くるっ……あれが……!」

  腰の奥深いところで、またあの甘い痺れが爆ぜる予感がした。竿の根元が、それに呼応するように一度だけ、大きく脈打つ。やはり爆発的な解放感はない。代わりに堰き止められていた熱が、ただ亀頭の先端からじわりと漏れ出していく感覚だけがあった。

  「んぐ、ぅ……ぁ、……?」

  「……どうですか? 気持ちいいでしょう?」

  息も絶え絶えのゴウケンに、青年が教え込むように囁く。

  「せっかく精力漲る逞しい獣人の男性が、ただ精を吐き出すだけでは勿体ない。ゴウケン様には身体の奥の奥まで、快感だけで満たしていただきたいのです。さあ、最後まで頑張りましょうね」

  それが合図だった。そこからは休む間など、一瞬たりとも与えられない。

  青年の掌が再びチンポを根本からゆっくりと、深く扱き上げる。腹の底を直接捏ねられるような、蕩ける熱が這い上がる。

  「ふ、ぅ……ん、ぁ……っ」

  とろり、と尋常ではない雄臭を放つ白い筋がまた一つ、意思とは無関係に零れた。

  裏筋を指の腹がねっとりと抉る。一番弱い場所を的確に嬲られ、腰が勝手にくねる。

  「ぬ、ぅ……ぁ、そこは……だめだぁ……」

  じゅわ、と鈴口がさらに濡れた。

  金玉を掌で優しく転がされると、体の芯が痺れた。

  「ひ、ぅ……んん……っ……ぁ……」

  チンポと体の境目がなくなる。亀頭から、また汁が漏れた。

  もはや言葉にならない。ただ、快感の波に揺さぶられるだけ。

  「あ、……ぐぅ……」

  「ん、んっ……」

  「も……むり……」

  「あああぁぁ……」

  とろり……

  びくっ

  どろぉ……

  もはやゴウケンはただ喘ぎ、汁を漏らすだけの肉塊と化していた。理性の欠片もなく、与えられる快感に身を震わせるだけ。

  自身を昂らせるために女の裸体を思い浮かべる必要など、どこにもなかった。ただ、気持ちいい。それだけでいい。気持ち良くなるのに理由も、言い訳も、何もいらないのだと、本能が理解した。雑念が消えて、頭がチンポになった。

  ゴウケンがどれほどの時間、施術台の上で弄ばれていただろうか。とうとう亀頭から漏れ出る汁が白濁から半透明に変わったのを、青年は見逃さなかった。

  「……おや。もう、ほとんど残っていないようですね」

  青年の手技による射精管理がようやく止まる。

  「では、これが本当に最後ですよ。ここまで頑張ったのですから、最後くらいはいつも通り、気持ちよくイきましょうね?」

  青年は、チンポ全体が纏うぬるぬるとした粘液を両の掌で掬い取った。漏らし続けた精液と、先走りと、施術用の油が混じり合った、むせ返るような雄の匂いを放つ淫液。それを、これでもかとばかりに、赤黒く腫れ上がった亀頭へと塗りたくる。

  「お゛おぉ…………う、っお゛お゛おおぉぉ……っ!」

  そして、これまで散々にゴウケンを弄んできた十指が、まるで別々の意思を持った生き物のようにうねり始めた。

  ぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょっ、ぐっちゅ、ぐちょっ、ぬちゅ、ぐちゅちゅちゅ、ぐちゅっ!

  一本一本の指が、腫れ上がった亀頭のあらゆる箇所にまとわりつく。膨れ上がった肉の塊そのものを、粘土のようにぐにゅぐにゅと捏ね回す。

  ゴウケンが蕩けきった理性の底で求めてやまなかった、下品で暴力的なまでの刺激。

  「ぐ……ぅ……お゛ぉおおおおッ!?」

  腹の奥、精嚢のさらに奥。生命の源そのものを、内側から鷲掴みにされるような圧迫感。

  青年の手つきがより一層に過激になる。亀頭を捏ねていた指が、今度は竿全体を根元から鷲掴みにし、絶頂を促すためだけの、一切の容赦ない高速の扱きへと転じた。

  じゅごじゅごじゅごじゅごじゅごッ!

  溢れ出る先走り汁と油が、激しいピストンの熱で沸騰し、粘性を失ったかのように掌と竿の間を滑り狂う。根元まで激しく扱きあげる手がゴウケンの股座に叩きつけられ、卑猥な水音が部屋中に響き渡った。

  「さあ、最後までしっかり出し切りましょう」

  じゅごじゅごじゅごじゅごじゅごじゅごじゅごじゅごじゅごッ、ぐじゅッ!

  「ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"──────ッッ!!!」

  声にならない絶叫が、ゴウケンの喉から迸った。

  白目を剥き、施術台の縁を掴む指が、みしりと音を立てて木に食い込む。

  どぐんっ、どく、どくどくどくどくっ!

  腰がこれまで以上に大きく反り上がり、尻の肉がきゅっと硬く引き締まった。

  びくん、びくん、と腰と竿が何度も激しく痙攣し、その度に熱い精塊が股座を押し上がってくる。

  ごぶりゅッ! ごりゅっ、びゅるるるるッ! びゅッ、びゅッ!

  ぱっくりと開いた亀頭の先端から、射精とは名ばかりのお漏らしとは比べ物にならない量と濃さの白濁した精液が断続的に噴出しては、腹の上へボタボタと重たい音を立てて落ちていった。

  「は……っ、……は、…………」

  体内で荒れ狂うような熱風が過ぎ去った後。ゴウケンの巨躯は抜け殻のように施術台に横たわる。

  瞳からは光が消え、厳めしい顔付きはぐちゃぐちゃに乱れていた。半開きの口からは涎がだらしなく垂れて、体が小刻みに震えている。寡黙で実直な雰囲気も台無し。浅い呼吸だけが、かろうじて彼が生きていることを示していた。

  [newpage]

  「――お疲れ様でした、ゴウケン様」

  穏やかな声が耳には届いているはずなのに、まるで水の中にいるかのように遠く、輪郭がぼやけていた。だらりと施術台に投げ出されたゴウケンの身体は、もはや指一本動かす気力も残っていない。腹の上や、黒い毛に覆われた内腿には、自らが放ったばかりの白濁が、粘りつくように点々と飛び散っている。思考は完全に停止し、微睡んだ瞳が静かに動き回る青年の姿を捉えているだけだ。

  ほどよく温められた手拭いが毛皮にこびりついた精液を優しく拭い去っていくのを、ゴウケンはされるがままに感じていた。その感触だけで、萎んで柔らかくなった竿の根元が、ぴくりと小さく脈打った。

  「ん……」

  掠れた声が漏れる。青年はそれに気づかぬふりをして、手際よく丁重にゴウケンの全身を拭い清めていく。

  「仕上げに、お体を温めましょう。立てますか?」

  支え起こされ、誘われるままに足を進めると、奥の間には大きな湯船が鎮座していた。磨き上げられた天然木の香りがふわりと鼻腔をくすぐり、満たされた湯に紅色の花びらが散りばめられているのが目にも楽しい。旅の武人であるゴウケンには、この贅沢な空間は少しばかりむず痒いくらいだ。

  「どうぞ」

  「……うむ」

  青年はゴウケンのごつごつとした背中を押して、湯船の横に置かれた低い椅子に座らせると、手桶に汲んだ湯でその巨躯を洗い始めた。きめ細かな泡をまとった指が、まずは広い背中を滑る。背骨の感触を確かめるように、黒い毛の合間を抜け素肌に触れた。

  「はぁ……」

  思わず吐息が漏れる。施術中の甘い声ではなく、純粋な心地よさから来るものだった。青年の手は胸、腕、そして太ましい脚へと移っていく。完全に凝りのほぐれた筋肉の弾力を、毛の流れに沿って、指の腹が撫ていく。

  全身を清め終えた青年が、今度は手桶にたっぷりとぬるま湯を汲む。人肌ほどの心地よい湯が、ごつごつとした背中の頂からゆっくりと注がれる。きめ細かな泡が黒い毛皮の上を滑り落ちていった。

  「……すまない」

  ぽつりと、ゴウケンが礼を口にした。青年はにこりと微笑む。

  「いえ。さあ、どうぞ湯船へ。芯まで温まってください」

  促されるまま、そろそろと身を沈める。ざぷん、と心地よい音を立てて、湯船が巨躯を受け入れた。身体の芯まで、骨の髄まで、温かいものがじんわりと染み渡っていく。

  今まで、こんなにもゆったりと湯に浸かったことなどあっただろうか。

  「はあああぁ……」

  ゴウケンの魂の底から、深く長い安堵のため息が漏れた。熱すぎず、ぬるすぎもしない絶妙な湯加減が、身体の芯にまでじんわりと染み渡る。施術によって残されていた甘く気だるい痺れが、湯の熱にゆっくりと解かされていくのを感じた。それは、ただただ心地の良い弛緩となって、骨の髄まで満たしていった。

  筒袖の上衣に腕を通し、ゆったりとした袴を履く。蕩けきっていた身体に、少しずつ武人としての意識を呼び戻していく。最後に幅広の帯を腰に回し、ぐっ、と両腕に力を込めて帯を左右に強く引き締める。丹田に意識が集中し、緩んでいた心身に一本の芯が通る感覚。それまで夢見心地だったゴウケンの瞳に、ようやくいつもの無骨で鋭い光が戻ってきた。

  身支度を終え店先へと向かうと、見送りに出た青年が静かに頭を下げた。その手には、一枚の木札が乗せられている。

  「ゴウケン様、こちらを」

  差し出されたそれを受け取ると、滑らかでいてしっかりとした重みがある。黒檀のように艶やかで、手に吸い付くような感触。表面には緻密で複雑な紋様が彫り込まれていた。

  「……これは?」

  ゴウケンの問いに、青年は柔和な笑みを崩さずに答える。

  「大切なお客様にお渡ししているものです。もし再び施術を望まれるようでしたら、どうぞこちらをお持ちください」

  仰々しい言葉はない。だが、その声には、またゴウケンがここを訪れるという確信のような響きがあった。ゴウケンは黙って頷くと、上衣の合わせ目に深く木札をしまい込んだ。

  店の外に出ると、夕暮れの涼しい風が、湯上がりで火照った肌を心地よく撫でていった。心身は驚くほど軽く、足取りはどこか雲の上を歩いているようだ。

  都の雑踏に戻っても、頭の中はまだ少しフワフワとして、難しいことは考えられなかった。ただ、あの青年の指の感触、肌を滑る油のぬめり、天然木の香り、そして全てを洗い流した湯の温かさが、渾然一体となって思考を支配している。

  (なんだったんだ、あれは……。ひどい目に遭った……というのとは違う。むしろ……今までで一番、体が軽いかもしれん……)

  懐の奥で、硬い木札が確かな存在感を主張している。指先でそっと触れてみると、青年が口にした言葉が、遅れて脳内で反響した。

  (再び、か。まあ、気持ちが良かったのは事実だ。いや、しかし、あれは……)

  そこまで考えて、自分の思考に少しだけ顔が熱くなる。

  (……だが、この都にはしばらく滞在するつもりだ。また頼んでみるのも……悪くはない、

  かもしれんな……)

  誰に言うでもない屁理屈を心の中で呟き、ゴウケンは夕暮れの空を見上げる。足取りは軽い。そうして、未だ知らぬ快楽の予感を秘めた都の夜へと歩みを進めていった。

  この先に、彼を堕落へと誘う罠が待ち受けているとも知らずに…………

  【朴訥武闘家ゴリラ獣人のハニートラップ初体験】につづく

  ※続きません