石割りの運び屋は遺跡の中に消える

  石化の霧が立ち込める森の中に、遺跡があると言われていた。俺は今、その遺跡とやらの中にいる。

  元々こんな所に寄る理由なんて微塵もなかったのだが、石化を受けないアクセサリーを手に入れてからというもの、これまで迂回してきた場所を直線で進めるようになったものだから、自然と「石割りの虎」だなんて二つ名で呼ばれるようになり、運び屋としての仕事の効率が上がっていったのだ。

  それだけじゃない。石化の森と呼ばれていたそこには、その名の通り物言わぬ石になってしまった生物も多数存在する。それは魔物討伐などを請け負う冒険者も例外なく、だ。

  そんなわけで、冒険者ギルドには命からがら戻ってきた冒険者が、石化した仲間を安全なところまで連れ戻して欲しいという依頼を行い、それがギルドの掲示板を埋め尽くさんとばかりにびっしりと貼られていたものだ。

  運び屋としてこういった依頼を受けることも増えた。というか、石化を無効化するような物が貴重なために、出来る人数が少ないのだ。

  今日も石化の森の中にいる石化した冒険者を助けるという依頼を引き受けて来たのだが、道に迷ってしまい、気づけば遺跡の中へと足を踏み入れていた。

  「はぁ…どうすっかなあ……」

  なんでこんなことになったんだ?と考えても、ついぞ解決することは無かった。

  遺跡内には森の中と同じように冒険者たちの石像が無造作に転がっていた。中には年端も行かぬ獣人の子供の石像もあり、なんともいたたまれない気持ちになった。

  石化自体は治療法が確立されているが、石化している時間の長さによっては身体の硬直や、言語機能、記憶の喪失などがあり早急に解除した方が良いことに越したことはない。

  その症状、もとい後遺症を避けるためにも速やかに脱出したいのが現状だが、出口が分からなくなってしまったのだ。

  「くそ……脱出アイテムも使えねえし、参ったな」

  複雑に入り組んだ遺跡の内部。それに、どういう訳か部屋同士の接続が不安定なようだ。扉をくぐったあと、同じ扉を開けると違う部屋に出たことからそう考えるのが自然だろう。

  まるで、捉えた獲物を逃さない罠のようだ。

  とはいえ、希望を捨てるわけにもいかない。俺は疲労のたまった体をうごかして、足を進める。

  「ん…?」

  自分がいた部屋の構造が変わっている。まるで謁見の間のような一本道の両脇に、完全な裸体を曝す獣人の石像が列をなして並んでいた。

  疲れから来た幻覚かと思い何度か瞬きをしてみたが、それらは消えることなくそこにありつづけた。

  「こいつらも石になってしまったのか…回収しておこう」

  あくまでも目的自体は石化した冒険者の回収。全裸の獣人の石像ばっかりなのが少々気になるが、多少は目をつぶろう…

  「ほう、また新しい奴が来たか」

  声がしたほうへ振り返ると、そこには見慣れないモンスターがいた。

  リザードマンにトゲトゲした翼を生やしたかのようなそのモンスターは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

  「『また』っていうのは?」

  「言わずともわかるだろう?お前のような生きているやつがまたやってきたということだ。それ以上でも、それ以下でもない。まあいい、さっさと終わらせてやろう」

  

  不意に、化け物の目が光った。それに気づくのが少し遅れてしまった俺は、それが致命的なミスだということに気づく。

  (ぐ…体が、うごかない…!)

  「ふふ、驚いたか?無理もない。いま私はお前の体にいるのだからな」

  (な、んだと…)

  気づけば目の前にいた化け物は物言わぬ石となって動かなくなっていた。こいつ、ガーゴイルだったのか…!

  「くくく…オスの獣人の体というのはいつになっても飽きないな」

  (っ…!)

  俺の意思に反して体が動く。自分の手で、自分の胸のあたりを触っている感触が伝わってくる。なんとも奇妙だ…。

  一通り触って満足したのか、ガーゴイルに乗っ取られた体は、首からぶら下げたアクセサリーを取ろうと腕を伸ばす。や、やめろ…!

  「こいつ、『復活のタリスマン』か。いいものを持っているじゃないか」

  黄色く着色されたそのお守りは、万病から持ち主を守ってくれると噂のものだ。それが外された今、俺の体は徐々に石へと染まりつつある。

  (や、やめろ!そいつを元に戻せ!)

  「それは聞けない話だな。代わりに尽きることのない快楽を与えてやろう」

  ガーゴイルはそういうと、俺の体をつかってガチガチにそそり立った逸物をしごき始めた。手が石化し始めていたこともあってか、それはいつものときよりも数段強烈な快楽がダイレクトに流れ込んでくる。

  (ああっあああああああ!!)

  「くくく…気持ちいいだろう。そのままイクがいい」

  (あっああっイクッイグッ!!!!)

  ビュルルルル…

  ――。

  静寂。

  そして、石は覚醒する。

  「クク…俺がこれまで見てきたどのオスよりも素晴らしい。いい石像になったな」

  石の魔物、ガーゴイルは目の前にある時間の止まった虎獣人の体を撫でまわしながら語り掛ける。彼の手には、黄色いお守りが握られていた。

  「これはお前のものだから返してやろう。とはいってももう使い物にならないだろうがな。ハハハ…」

  石の魔物はそういうと、獣人の股間に生えた石の槍の柄にお守りを引っかけて、その場から立ち去るのであった。

  (イグイグイグッイカせてくれえぇぇ)

  背後から聞こえる石像の悲鳴にも似た声は、その体の中で虚しく木霊するだけだった。