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かぞく

  [chapter:ケモノとおうち]

  ハルを抱いたままのゼルは、家にたどりついた。

  家、というには大きすぎるかもしれない。

  古めかしい、レンガ造りのお屋敷だ。

  「るぅ……」

  ハルは顔を背け、ゼルの服に顔を埋めた。

  小さな手の、ゼルの服を握る力が少しだけ強くなる。

  獣耳はぺたんと伏せられ、しっぽをゼルの腕に巻きつけた。

  ハルは、こんな大きなものを見たのは初めてで、怪物か何かに見えている。

  「大丈夫だ。俺とハルのほかにも、仲間はここにいる」

  ゼルは古めかしい扉に手をかけた。

  ハルはどことなく怖くて、目をぎゅっと瞑った。

  ぎぃぃ………

  [newpage]

  [chapter:ケモノと「はじめまして」]

  「おっ!おかえりゼル!!なんかゲットしてきた!?」

  扉を開けて真っ先に出迎えたのは、鳥人の少年。

  彼の名はルイ。

  ゼルとは性格がほぼ反対で、仲がいいのか悪いのかわからない。

  いつも軽い調子のムードメーカー。

  こう見えて、手先が器用である。

  「悪い、店閉まってた」

  「まぁそうだよなぁ〜、すごい雨だったし。

  よし、じゃあ今日はあるもん使ってー…って、 ん……?」

  ルイの視線が、ゼルの左腕にいく。

  見慣れない何かを、ゼルはだっこしていた。

  「ゼル、それ何…?」

  「拾った」

  「はぁ!? 拾ったって……えぇ!?」

  「路地裏で、ひとりで蹲ってた」

  ゼルは淡々と説明する。

  ハルは顔を、ゼルの服に埋めたまま、振り向こうともしない。

  肩がかすかに震えていた。

  明らかに、怖がっていた。

  「ルイ、ボリューム下げろ。怖がってる」

  「オレはいつもこうなの! 怖いのはお前の顔だろ!?」

  「俺の顔に怖がってなんかねぇよ」

  「よく言うわその顔で!!わっかんねぇだろ、そんなの!!」

  …ハルはどっちも怖かった。

  大きな声や音が響くのが苦手。

  路地裏で盗みを働いて怒鳴られた時。

  お店のひとの怖い顔。

  「ごめんなさい」って言えなかったから、耳を引っ張られて、さらに怒鳴られた。

  ハルは、大きな音=痛いこと、と覚えてしまっている。

  体の大きいゼルに声をかけられた時も、正直、怖かった。

  今も、何かされるのではないかと、怖いままでいる。

  [newpage]

  「はいはい、もう終わりにしなさい…。

  2人の声が混ざっててうるさいのよ……」

  呆れた[[rb:呆 > あき]]ような優しい声が、ゼルとルイの言い合いを止める。

  「ゼル、この子のこと、教えてくれる?」

  声の主は、抱かれたままのハルにそっと近づいた。

  彼女の名は、イリア。

  癒しの力を持つエルフである。

  医者でもあり、この屋敷の癒し手だ。

  ゼルとルイの言い合いは日常茶飯事なので、もう慣れている。

  「名前、ハルって言う。市場の路地裏で、ひとりで蹲ってた。少々吐いてたし、腹も痛いみたいだ」

  ゼルが説明する中でも、ハルは顔を背けたまま。優しい声がしても、あんまり信用したくないのだ。

  「ありがとう、ゼル。

  ハル君、私、イリアって言うの。こっち向いて欲しいな」

  イリアがなるべく優しい声で、ハルに言う。

  ハルの獣耳だけがぴくっと動いて、返事した。顔は動かさなかった。

  まだ怖いのだ。

  「うん、それでいいからね。

  ハル君、お腹、まだ痛い?」

  「んん……」

  くぐもった声と共に、ハルは首を横に振る。

  おえってなる感じも、ゼルに名前を言えた時にはもうなかった。

  「できたらお顔を見せて欲しいな。ここに住む家族のしるし」

  イリアが言った言葉に、ハルは反応した。

  "かぞく"。ハルにとって憧れの言葉だった。

  おとうさんもおかあさんも、ハルは知らない。

  気づいたときにはもういなくて、あの場所にいた。

  "かぞく"はいつもいっしょで、すごくあったかいもの。

  それがハルの考えで、あこがれる"かぞく"だった。

  「……る…」

  ハルはおそるおそる、顔を声の方に向けた。

  みんな優しい顔をしていた。

  耳を見て、しっぽを見て、「混血だ」と騒がれない。

  「どっか行け」と、石を、言葉を投げられない。

  誰も、目を逸らさない。

  ハルは、それがあたたかくて、うれしくて、たまらなかった。

  「良い顔してんじゃん!オレはルイ!

  よろしくな、ハル!」

  ルイは、にかっと笑った。

  「…ぁ……」

  しかし、ハルはすぐにふいっと顔を背けた。

  その反応が意外で、ちょっと寂しかったルイは、

  「ありゃ……、オレ嫌われた…?」

  「そうかもな」

  「はぁ!?」

  またゼルとルイが、ギャーギャー言い合いを初めて、イリアはため息をついた。

  [newpage]

  ほんとは、はずかしかっただけ。

  ハルのほっぺは淡い赤色に染まって、口角が少し上がっていた。

  「……ふふっ」

  自然と笑いがこぼれて、ハルのしっぽは満足そうに、右に左に揺れた。

  "かぞく"になったハルの、はじめての夜は、騒がしく、でもあたたかく更けていく。

  To be continued

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