最終話

  ☆☆☆

  「んぅ~……いやぁ、当事者としてもほんとぉに吃驚してるんですよぉ……。私も~」

  名張ぺとらは、そう言いながら俺の大きくなったお腹にエコーを翳す。

  華音さんの屋敷の中、高そうな機械から診察台まであるような部屋で、彼女は興味津々といった様子で見つめながらノートに何かを書き足していった。

  彼女と俺の視線の先にあるエコーでは、白い影がうごうご蠢いているのが見える。

  「外性器の形状からしておそらくぅ……、女の子でしょうねぇ。五体満足、母子ともにぃ元気そうで何よりですねぇ~」

  いちおう、世界初のとんでもない事例なんですからぁと釘を刺してくる魔女に、俺は苦笑いを返すことしかできなかった。

  「いや、わかってますけど……。やっぱり男としては複雑っていうかあ……」

  俺の胎内にいのちが芽吹いて数か月。

  あの夜、完全に淫魔と化した俺には明確に子袋ができていた。

  もう、絶対に離したくないと思った相手の、子種を受け入れるための器官が。

  それに気が付いた俺は感極まってしまい、卵巣から排卵し、卵管を通っていく感覚さえはっきりと覚えている。

  それでもまさかあの時のタイミングで俺の中で新しい生命が芽吹くとは夢にも思っていなかった。

  (あの時は半分冗談で言ったんだけどなぁ……)

  少しの体調の変化を感じて、定期的に経過観察をしていたぺとらから華音さん経由で詳しく調べて貰ったら、これ。

  もはや驚愕しない人間のほうが少ないだろう。

  華音さんの実家は手広く事業を営んでいたようで、症例を聞きつけたグループ企業の研究者が研究資料としてぜひデータを取らせて欲しいと言ってきた。

  華音さんにはまあ多大な御恩もあるし、俺も研究材料として積極的に協力している。

  ぺとらも予想以上の結果に驚きを隠せない様子だったが、すぐにいつもの調子で『まあ、引き続きぃ経過観察を続けましょうかぁ~』と言い今も色々調べているのだ。

  「あのときぃ、正直私は中山さん淫魔にはならないって思ってましたからねぇ」

  彼女は俺にエコーを当てながらしみじみと語る。

  「ははは……」

  俺は苦笑いしかできなかった。確かに俺自身もそうなるとは思ってなかったしなぁ……。

  「法律的な問題とか、周りの人間の心情とか。まぁ色々とあると思うんですけどぉ、そういうの全部ぶっ飛ばしていきなり淫魔になって子作りに励んだわけですからねぇ~」

  「いやまあ……その節は本当にありがとうございました……」

  改めて感謝を伝えると彼女は『いやぁ私なんてぇ何もしてませんしぃ』と首を横に振る。

  確かに、竹中家は全員ぶったまげた後喜んでくれたけど、俺の実家ドン引きしてたもんなぁ……。

  「私はぁ、結果が気になるだけでぇ、別に中山さん達のためとかじゃないんですよぉ?」

  彼女はそう言って俺のお腹を見つめる。その表情は真剣で、研究熱心なのだなと思った。

  「でもまぁ……この子はこうしてすくすく男性の淫魔子宮で育っててぇ、この世に生まれたがってるわけなんでぇ。将来私の知らないところでもぉ、しっかりと生きていくんでしょうねぇ~」

  そう言って彼女はエコーを片付け始めた。

  「じゃあ私は部活がありますのでぇ、失礼しますぅ~」

  あたまをぼりぼりとかきながら、彼女は部屋を後にする。

  それと入れ替わる様にして、竹中が部屋に入ってきた。

  急いできたのだろう、息も絶え絶えになりながら俺に近づいてきて、傍に寄って来た。

  「ど、どうだったか?問題なかったのか?」

  俺は大きく膨らんだお腹を撫でてやりながら、竹中に笑いかけた。

  「ふふ、大丈夫だったよ。将来有望だそうだ♡」

  俺がそう言うと、竹中は安心したように笑った。

  (普通のお医者さんの診察にだってついてきてるんだから心配しなくてもいいのに)

  休学中の俺と違って竹中は普通に大学に通っている。

  心配してくれるのは本当にありがたいんだけど、それでも竹中には学業に集中してほしかったのだが、この通り定期検査となると駆け付けて来てくれている。

  「ありがとな」そう言って俺は竹中の手を取ると自分のお腹に押し当てた。「この子も感謝してるってさ」

  すると掌を通して微かに振動が伝わってきた。

  この丸みを帯びた大きなお腹の中で、俺の血を引く小さな命が懸命に生きていると思うとそれだけで愛おしく感じる。

  竹中は俺の言葉に照れたのか頬を染めながら笑った。

  「そっか……それならよかった」

  彼は心底嬉しそうな顔をして俺のお腹を撫でると、少し名残惜しそうに手を離した。

  「じゃあ俺は大学に行く……」

  そう言って部屋から出て行こうとする彼を引き留めるように俺は声をかける。

  「なあ竹中……」

  俺がそう呼びかけると、彼は立ち止まりこちらを振り向いた。その表情にはちょっとした緊張の色が窺える。

  そんな姿がなんだか可笑しくて可愛くて愛おしくて、つい悪戯心が芽生えてしまう。

  「……お医者さん、安定期に入ったって言ってたじゃん?だからさ……」

  そう言って俺はお腹の膨らみをなぞりながら上目遣いで彼を見つめる。

  初めのうちはおくちとちんぽ穴、しっぽでコいてたんだけど、お腹が大きくなるにつれて竹中は『お腹の子に何かあると心配だ』なんて言って口での奉仕か、俺が満足するまで角を撫でたり、耳を愛撫したり尻尾の根元をとんとん叩いてくれるしかしなくなっていた。

  そういう心遣いも全部嬉しかったし、心からの繋がりって感じでこれはこれでいいんだけど……。

  「ねぇ……今日はどうする?」

  俺はそう言って大きくなったお腹を両手で押して揺らして見せた。

  「……」

  俺の挑発的な言葉にごくりと喉を鳴らしながら竹中はこちらを見つめる。そして彼は無言のままこちらに歩み寄ってきた。その表情には情欲の色が見て取れる。

  その目は熱っぽく潤んでおり、口元から洩れる荒い息が彼の興奮具合を物語っていた。

  俺は更に挑発するように産婦人科の診察台のレッグレストに脚を置いて股を広げて見せた。

  お腹を大きく押し上げながら股を広げていくと、診察台がギシリと軋む音がする。

  「ほら……『お医者さんごっこ』シよ?」

  そう言って俺は再びお腹を揺らす。大きくなったお腹が窮屈そうに揺れて中から音が聞こえてくるようだ。

  その音が聞こえたのだろう、竹中の目つきが変わったのが分かった。その瞳には情欲の色だけではない、確かな愛情と欲望が入り混じったような複雑な感情が見て取れた。

  彼はゆっくりとこちらに近づいてくると俺の両脚の間に跪くように屈んだ。

  「やさしく、絶対に無理はするな……」

  俺のお腹に両手を添えてそう自分に言い聞かせるように呟くと、彼は優しく俺の唇にキスをした。そして舌を絡ませてくる。俺もそれに応えるように彼の舌を受け入れると唾液を交換しあった。

  「んっ……ちゅるっ♡れろぉっ♡」

  いやらしい音を立てながらお互いの舌を絡め合い、唇を貪り合う。

  その度に俺の腹には硬いものが押し当てられているのが分かる。

  俺はそれに気づかないふりをしてわざと身体をもぞもぞ動かすと、更に大きくなったお腹を揺らす。

  するとそれに反応するように彼のモノは激しく脈打ちながらむくむくと大きくなっていった。

  「っ……ちゅぷ……はぁ……」

  やがて、竹中の口からどちらともつかない唾液がこぼれる頃には二人の口の間に透明な橋がかかった。

  俺はそれを拭うことなく微笑むと、上目遣いで彼を見つめる。

  「ねぇ、おっぱい張って苦しいんだけど……」

  そう言って診察台の上でマタニティウェアを脱ぐと、ぷるんと小さな胸がこぼれ落ちた。

  青い血管が痛いくらい浮き出た僅かな膨らみと、すっかり大きく黒ずんだ乳輪、熟れた大きな乳首が外気に触れてヒクヒクと震える。

  竹中はそんな俺の胸をまじまじと見つめるとゴクリと唾を飲み込んだ。

  「ねぇ……ずっと張って痛いから吸ってよ♡」

  そう言って俺は胸に指を這わせて見せると、彼は両手で恐る恐る俺の胸に触れた。

  (ふふ♡可愛いなぁ~)

  ぷっくりした乳首に吸い付くように優しく口に含むと、まるで赤ちゃんに戻ったかのような表情で一心不乱に乳首に吸い付く竹中。

  その大きな赤ちゃんの頭を撫でながら俺はくすくすと笑う。

  「ふふ♡くすぐったいよぉ♡」

  竹中はそんな俺を上目遣いで見やると、ちゅっと軽く音を立てて乳首を吸い上げた。

  その刺激にビクンっと身体を震わせると、彼は満足げに微笑むと再び強く乳首を吸った。

  (ふふ……いいこいいこ)

  まるで自分がお腹を痛めて産んだかのような錯覚を覚えてしまうほど愛おしく思えるその姿を見ていると自然と笑みがこぼれてしまう。

  そう思うだけでぴゅっと乳首の先から母乳が噴き出した。

  「んっ……あはぁ♡上手に飲めるかなぁ~?」

  そう言ってお腹を優しく撫でて見せると、それに応えるようにボコッとお腹が蠢いた。

  竹中は夢中で俺の乳を吸い続けると、物足りなくなったのか反対側の乳首にも吸い付いた。そしてさっきよりも激しく音を立てて吸い上げる。

  「ふふ♪そんなにがっつかなくても『今は』まだ、全部あげるからね?」

  するとその言葉に反応したのか俺の股の間にいる竹中のモノが大きくなっていき、腹に強く押し当てられる感触がした。

  (ふふ♡もう挿れたくて仕方ないんだね?でもまだダーメ)

  俺が焦らすように腰を揺らすと、彼は名残惜しそうに口を離す。その口元は俺の母乳で濡れて光っていた。

  そんな彼の可愛らしい姿に満足しながら、俺は意地悪な笑みを浮かべて告げる。

  「ほら……次はこっち♡」

  そう言って俺は自分の股間のモノを掴んでぷるぷると弄んで見せる。

  女性ホルモンのせいか殆ど勃たなくなってしまったとはいえ、元から巨大なそれは今でも十分すぎるほど立派なものだった。

  竹中はごくりと唾を飲み込むと、そのまま俺の股に顔を近づけてきた。

  そして舌を這わせる。ぬるぬるとした感覚がくすぐったいけど気持ちいい♡ 俺は竹中の頭を撫でながら熱っぽい視線で見つめると、彼は必死に舌を動かして刺激を与えてくる。その姿を見ただけで俺の興奮はどんどん高まっていった。

  「あっ……はぁ♡もっと舐めてぇ♡」

  俺がそう言って腰を浮かすと、彼は大きく膨らんだお腹を気遣いながらも丹念に舐めしゃぶってくれる。

  その光景はまるで仔牛が母牛の乳を吸っているかのような錯覚を覚えさせるほど倒錯的で淫靡な光景だった。

  (ふふ♡そんなに必死に舐めちゃって可愛いなぁ~)

  俺はそんな彼の姿にゾクゾクとした快感を感じてしまっていた。

  ここからミルクは出ないけれど、尿道に舌をちゅぽちゅぽと出し入れされるとその刺激がお腹に響いてたまらない気持ちになる。

  俺は彼の頭を掴むとぐっと自分の方へ引き寄せた。すると自然と喉奥まで突き立てられ、苦しそうな顔をする彼だが決して歯を立てないようにしてくれている。

  そんな健気な様子が愛おしくて頭を優しく撫でてあげた。

  「ん♡よしよし♪そろそろいいかな?」

  俺がそう囁くと竹中は名残惜しそうに口を離した。尿道は幾たびの情事ですっかりガバガバに開き切っており、涎のように先走りを垂れ流しながらくぱくぱと口を開閉させていた。

  「久しぶりだけど……たまに隠れてオナニーしてたから多分大丈夫……っ♡」

  俺は自分の尿道を割り開きながら微笑んだ。

  「……無理はするな」

  そう言って心配そうに見つめる竹中だが、その瞳の奥には隠しきれない欲望の色が見える。

  もう既に暴発しそうなのだろう、時折腰がぶるっと震えるのが分かった。

  「うん……挿れて♡」

  俺がそう言って脚を大きく広げると、竹中はゴクリと唾を飲み込んだ後ゆっくりと腰を近づけていった。

  亀頭の先端が鈴口に触れる感覚に背筋がゾクゾクとする。

  その瞬間、まるで待ってましたと言わんばかりに俺の尿道が開いて彼の亀頭を飲み込んでしまった。

  「ぁんっ♡挿入ったぁ♡」

  俺は甘美な快感に耐え切れずにかくかくと腰を振り始めた。するとまるで射精したかのような勢いで透明な汁が飛び散る。そのあまりの快感に俺の頭の中は真っ白に染まっていった。

  竹中も待ち望んだ刺激を堪えるように歯を食いしばり、眉間に皺を寄せて必死の形相で耐えているのが分かる。

  ゆっくり、ゆっくりと極太のカテーテルを挿管するかのように俺の尿道に挿入してくる竹中。

  「あ♡イイっ……きもちいっ♡♡♡」

  彼のモノが俺のメスちんぽの中に入って来るたびに幸福感で満たされていく。

  久々の男根に俺のちんぽは狂ったように絡みつき、蠢いていた。

  そのあまりの快感に耐え切れなくなったのだろう、竹中がビクンと身体を跳ねさせる。

  雌化した俺のペニスが幾ばくか小さくなったおかげか、竹中の巨根は俺のちんこの根元の方にまで

  ずっぽりとハマりこんでしまっていた。

  「あっ♡ぜんぶはいってるよ♡♡♡」

  俺が嬉しそうにそう囁くと、竹中は苦しそうな表情を浮かべながらも優しく微笑んだ。

  そして彼は俺のお腹を愛おしそうに撫でると、そのまま俺の乳首を口に含んで母乳を吸い始めた。

  (ふふ♪本当に赤ちゃんみたい♡)

  そんな姿にキュンッときてしまい、俺の中で彼のモノがより大きくなっていくのを感じる。

  今まで挿入された事の無い尿道の奥を突かれる度に前立腺がぎゅんぎゅんと疼いた。

  (やばっ♡これ癖になりそ……♡)

  そしてとうとうその快感に耐え切れなくなったのだろう、竹中の腰がビクンと跳ねたかと思うと、そこから熱いものが勢いよく俺の中を満たしていくのが分かった。

  「ぁあっ♡♡出てるっ……♡♡♡」

  長い射精を受け止めるかのように俺は彼の身体を強く抱きしめると、ドクンドクンと脈打つモノが精管を逆流して、精巣にまで到達していくのが分かった。

  きんたまの中まで愛する人の精子に犯される感覚に背筋がゾクゾクと粟立つ。

  (ヤバい……これクセになりそ……♡)

  「んっ……はぁ♡いっぱい出たね♡」

  俺がそう言って微笑むと、彼は恥ずかしそうにしながらこくりと頷いた。

  すると竹中がペニスをゆっくりと引き抜いていく。

  まだ抜かないでと言わんばかりに俺のちんぽまんこがきゅーっと締め付けると、竹中は何か言いたそうにこちらを見た後ゆっくりと引き抜いた。

  「んっ……はぁ♡」

  引き抜かれた瞬間、どろっとした白濁液が鈴口から溢れそうになる。それを見ていると再びお腹がきゅんっと疼いた。

  (あ♡またイっちゃうかも♡)

  上体を起こして自分のちんぽに吸い付いて精子を全部吸い上げよう、そうした時だった。

  「……無理はするなと言っただろ」

  「っ……!?」

  突然耳元で囁かれたかと思うと、股間に顔を埋めた竹中がぱくりと俺のモノを咥えた。

  そしてじゅるじゅると吸い上げ始める。

  (あ……らめっ♡も、もぅ♡♡)

  「あ♡いくっ♡いっくぅう♡♡♡」

  その瞬間、ぷしゃっと音がして潮を吹き出すように精液があふれ出た。その勢いは凄まじく、まるで放尿するかのように長い時間をかけて出続ける。その間も竹中は俺のものを強く吸い上げていた。

  (あぁああ♡♡しゅごいぃい♡♡♡)

  それからしばらくしてようやく落ち着いた頃を見計らい、竹中は尿道からちゅぽっと音を立てて口を離した。

  そして口をもごもごと動かすと、竹中は口いっぱいに溜めたそれを俺の口に流し込んでくる。

  俺はそれを零さないように必死に飲み下していった。

  「んっ……ごくっ♡」

  (あ、すごぃ……これ癖になっちゃうかも♡♡)

  竹中の奉仕がこんなに熱烈で情熱的だなんて知らなかった。俺は完全に蕩けきった頭のまま、夢中で彼と俺の精液のカクテルを飲み続けたのだった。

  竹中に口移しで飲まされる快感に酔いしれた後、唇を離して口を開けて見せてやる。

  そしてけぷっとゲップをすると、彼は満足気に微笑んだ。

  「えへへ……お腹いっぱいだよ♡」

  俺はそう言って優しく彼の頭を撫でてあげた。すると彼は嬉しそうに目を細める。

  そんな彼が愛おしくてそっと抱きしめると、彼も応えるようにぎゅっと抱きしめ返してくれた。

  温かい体温に包まれて幸せを感じていると不意に眠くなってしまいそうになる。その心地良さに身を委ねてしまいたくなるが、まだ終わっていないことを思い出して慌てて身体を起こした。

  「でも……まだ、ね?♡」

  そう言って腰を突き出すと、彼のモノも再び大きくなっていくのが分かる。

  (ふふ♡また興奮し始めちゃった♡)

  彼はごくりと唾を飲むと、診察台で開ききったままの股に指を這わせる。

  会陰部はぷっくりと膨らみ、その下にある肛門もまるで別の生き物のようにパクパクと口を開け閉めしていた。

  妊娠後期の、色素の沈着したアナルは黒薔薇の開花のようにグロテスクでとても美しい。

  その窄まりを彼は丁寧にマッサージしていく。指の腹で優しく何度も押され、くるくると円を描くように動かされるとそれだけで甘い声が漏れ出してしまうほど気持ちよかった。

  (あぁんっ♡それすきぃ♡♡)

  そこはすっかり縦に割れてしまっており、まるで女性器のようだった。

  それでも尚締め付ければキュッと締まったアナルの入り口が、まるで彼の指を歓迎しているかのようにいやらしく蠢いている。

  しばらくそうして愛されていると、俺のアナルは強請るようにくぱくぱと開閉を始めた。

  「ん♡おねがい……挿れて♡」

  俺がそう言って上目遣いで見つめると、彼はゴクリと唾を飲み込んだ。

  が、しかし彼はすぐに首を横に振ると俺を宥めるように頭を撫でた。

  「お腹の子にもお前にも優しくしたいんだ」

  「んっ♡わかった……ありがと♡」

  そう言われてしまっては仕方がない。

  でもやっぱり物足りない、どうしたものかと辺りに視線をやると、診察台の横の器具置き場に目が留まった。

  (そうだ♡これを使えば……♡♡)

  俺は腕を伸ばしてそれを手に取ると、竹中の前で見せつけた。

  透明なプラスチック製のその器具はきりきりとダイアルを回すようにするとくちばし状の先端が少しずつ開いていく。

  いわゆるクスコだ。

  それに流石華音さんの屋敷だ。内視鏡まで置いてあるとは恐れ入った。

  俺は竹中の手を取ると、それを渡してやった。

  「これで俺のおまんこ……優しく広げて?」

  そう言うと彼はまたごくりと唾を飲み込んだ後、頷いて見せた。

  そしてゆっくりとそれを俺のアナルに近づけていく。つぷっと先端が挿入されていく感覚に背筋がゾクッとするのを感じる。

  (あぁ♡入って来るぅ♡♡)

  少しずつ中へと侵入してくるそれに未知の感覚を感じつつ息んでいると、やがて行き止まりまで辿り着いたようだった。

  しかしまだ全て収まりきってはいないようで、竹中は更に深く差し込もうとするが中々上手くいかないようだった。

  俺はそれを確認するとクスコを優しく握って小さく動かすように指示を出した。すると彼は素直に従ってくれる。

  (ふふっ♡♡)

  彼の指が触れているという事実に興奮しつつも慎重に奥へと進めていくと、やがてこつんと弾力のあるものにぶつかったのが分かった。

  それを確認した俺は彼に声を掛ける。

  「開いて中をのぞいてみて?」

  俺がそう言うと彼はコクリと頷き、そして恐る恐るといった様子でダイアルを回してクスコのくちばしが開いていく。

  そうして曝け出されたそこにライトを当てられ、内視鏡が近づいていく。

  するとそこには俺の大事な部分がしっかりと見えるようになっていた。ピンク色に色づいた腸壁がヒクヒクと蠢いており、時折何かを誘い込むようにきゅっと収縮するのが分かる。

  そのあまりのいやらしさに、俺は思わずお腹を撫でた。

  (ふふ♡俺のおまんこ♡竹中くんに見られてるぅ♡♡♡)

  彼はそれを食い入るように見つめていた。

  「綺麗だ……」

  そう言って感嘆のため息をつく竹中に、俺は思わず笑ってしまった。

  そして俺はクスコを結腸の方ではなく、『あたらしくできた方』へと狙いをずらすように指示を出す。

  「ここか?」

  竹中が問いかけてくるので俺はゆっくりと頷いた。

  「うんっ♡そこぉ♡」

  すると彼はその指示通りあたらしくできた、そして今も尚ぱくぱくと開いているそこに狙いを定めるとぐっと入れて押し拡げていく。

  そうして肉襞をかき分けて行った最後、丸いぷっくりとしたピンク色のものが、ぬるりとした粘液の糸を引かせながら姿を現した。

  それはまるで真珠のように美しく艶めいていて、見るからに柔らかそうな質感をしている。

  その中心には小さな窄んだ孔が開いており、そこから蜜のようなとろりとした液体が滲み出していた。

  「ふふ♡そこ……子宮口だよ♡」

  俺がそう言って微笑むと、彼は驚いたような表情を浮かべる。

  前にそれがまろび出た時はすぐに引っ込んでしまったのと驚きも相俟ってじっくり見る事が出来なかったのだが、今は違う。

  そこは俺の胎内でぬらぬらと濡れ光り、時折くぱくぱと物欲しそうに蠢いていた。

  その様子を内視鏡のカメラ映像が映ったモニターを愛おしげに見つめる。

  この更に奥には、俺の赤ちゃんのお部屋があるのだ。

  (早く会いたいなぁ♡)

  俺はそんな事を考えながら自分のお腹を撫でて微笑む。

  竹中はそんな俺を、興奮した面持ちで見つめていた。

  「すごい……まるで別な生き物みたいだ」

  彼はそう呟く。めくるめく生命の神秘の前に、彼もすっかり心を奪われているようだった。

  俺はそんな彼の様子をみてくすりと笑うと、お腹に少し力をいれて子宮口をぴくぴくと動かして見せた。

  するとそれに反応したかのように、中からどろりとした液体が滲みでてくるのが分かる。

  それを見た竹中はゴクリと唾を飲んだ。

  肉棒は完全に腹に付くほど反り返り、血管が浮き出ていてドクンドクンと脈打っている。

  今にも爆発してしまいそうなのを必死に我慢しているようで、竹中は辛そうに顔を歪めていた。

  だけれども気を遣ってくれているのが嬉しくて、俺は竹中の頬に手を伸ばす。

  「もう我慢できないよね……♡優しいパパにはご褒美をあげようかな?」

  そう言って微笑むと、耳元で吐息混じりに囁いてやる。

  「見ててあげるから、おなにーして直接ぶっかけて♡」

  挿入しても無理はないとは自分でも感じていたけれども、この優しさと、自分へのご褒美と言わんばかりに、今日は直接ぶっかけでしてもらうことに決めた。

  竹中は俺に言われるがままに右手で竿を握り上下にしこしこと扱いている。

  (あ♡すごい♡♡)

  その光景を見ているだけで興奮してしまって、俺のおまんこペニスからもとろとろと愛液が流れ出していくのを感じる。

  互いの肉棒の先端からは先走り汁がだらだらと垂れていて、亀頭全体がぬらぬらと光っていてとてもいやらしかった。

  モニターを見れば挿入してもいないと言うのに肉襞が強くうねり、射精を催促しているように蠢くのが見て取れて、思わず俺は目を細めた。

  竹中はそんな俺の姿に興奮したのか更に激しく手を動かしていく。

  (あぁ♡そんなに激しくしたら♡♡)

  どぷどぷと先走り汁が溢れだし、泡立ちながら水たまりを作っていく様を見ていると俺のアナルから子宮まで疼いてきて仕方がない。

  はやく欲しいと思う反面、彼の感じている表情をずっと見ていたくて仕方ない気持ちもあったので黙って見つめている事にした。

  そんな俺の様子に気づかずに彼は夢中で肉棒を扱いている。

  そしてそろそろ限界が近いのか苦しげに顔を歪めると、激しく手を上下させてラストスパートをかけていく。

  「あぁん♡もうイっちゃうのかな?♡♡♡」

  子宮頸部がひくひくと痙攣する感覚に俺も我慢できなくなってきて、激しくメスイキしそうになる。

  その瞬間だった。

  「うっ……ぐっ!!」

  ビュルルルーッ!と勢いよく飛び出した白濁液がクスコで開ききったアナルの中へと発射され、子宮口へと強く打ち付けられる。

  その衝撃に俺は呆気なく達してしまった。

  「あ"ぁああぁあ〜〜ッ!!♡♡♡♡♡」

  それと同時に俺の子宮口からもこぽりと透明な液体が溢れ出す。それはまるで射精のようでもあり、また失禁したかのような錯覚を覚えさせるものだった。

  俺が尚イキ続けているなか、竹中が優しく手を握り、角を擦ってくる。

  「んぁっ♡あぁああぁあ!!♡♡♡」

  そのあまりの快楽に頭が真っ白になってしまう。もはや声を抑えることも出来ず、獣のような咆哮を上げ続けた。

  ビクンッビクンッと何度も身体を跳ねさせながら絶頂し続ける俺を、竹中は労るように撫でてくれた。

  彼の優しい手つきに心まで蕩けてしまいそうな心地良さを感じながら、だんだんと落ち着きをみせる。

  そうしてなんとか息を整えた頃、内視鏡とクスコを引き抜いてレッグレストから足を下ろして大きく伸びをした。

  「んん~~~~~っ!沁みるぅ~!やっぱこっちの方で味わうと格別な感覚するなぁ〜!!」

  背中を鳴らしながらそう呟くと、竹中は苦笑いをこぼした。

  「あまり無理をするなと言ったろう」

  そう言って俺を気遣ってくれるが、俺は笑顔を浮かべると答える。

  「無理なんかしてないって!それに気持ちよかったし♡」

  そう言い切ると、竹中は少し照れ臭そうにして目を逸らした。

  その仕草がなんとも可愛らしくて、胸がきゅんとする。

  腸内からでも精子の味が判るレベルになってしまった自分が末恐ろしいが、正直言って愛する人との行為は本当に気持ち良かった。

  それでも、夏祭りのあの日、俺に新しく出来た生殖器官で味わった、あの幸福を思い出してしまうと、子宮の疼きは一層強くなってしまう。

  そんなことを考えていると、俺のお腹の中の赤ちゃんがコツンと蹴るのを感じた。

  「わっ!蹴ったよ!!いま!」

  俺が興奮気味に言うと、竹中も食い入るように俺の腹を見つめていた。そして何か思い立ったかのように俺の下腹部を撫でると、顔を綻ばせる。

  「ここにいるんだな……俺たちの子供が」

  そう言われて思わず胸が熱くなる。

  (あぁ♡俺本当に母親になるんだなぁ♡♡)

  そんな幸せな気持ちに浸っていると、また子宮口がヒクヒクとしてきてしまう。

  (もう♡そんなに慌てないでよっ♡)

  俺は満足気に微笑むと診察台から降りてこう尋ねた

  「なぁ……この子の名前考えてみないか?」

  そう尋ねると、彼は嬉しそうに頷いた後『実はもう考えてある』と恥ずかしそうに言った。

  意外に思いつつも彼の口からそのうち出てくるだろう言葉を楽しみにしつつ、頬にちゅっと口付けをする。

  「分かった。じゃあ産まれたら教えて?」

  そう言って微笑むと、竹中は照れ臭そうにしながらも優しく微笑んでくれたのだった。

  「また後でね♡」

  そう言うと彼は少しだけ困った様な表情で頷くと、手を振ってくれた。

  (ふふ♡可愛い♡♡)

  そんな事を思いながら俺は上機嫌でその場を後にしたのだった。

  ☆☆☆

  臨月ともなると出産の兆候としてお腹全体が張りやすくなるそうだが、やはり胎内に新たな生命が宿っているという事実を改めて実感させられる。

  既に俺のお腹は大きく膨れており、パンパンという音がしそうなほど張り詰めていた。

  しかもこの中に入っているものはただの生物ではない。オトコの俺の子宮で育まれた愛する人との子供なのだ。

  そう考えると不思議な気持ちになると共になんだかドキドキしてしまう。

  (これが母性ってやつなのかなぁ……?)

  予定日まではあと一週間程だが、今のところお腹の中の子は順調に成長しており、いつ産まれてもおかしくない状態にまできていた。

  身体が身体なので麻酔も出来そうにないらしく、帝王切開も出来るかどうかも分からないとの事だった。

  不安が無いと言えば嘘になるが、入院してからというものの毎日のように陽菜ちゃんや竹中母が俺とお腹の子供を気遣って様子を見に来てくれているし、竹中もつきっきりだ。その何より愛する人が側に居てくれているのが心強かった。

  「幸さん、身体の方はどんな感じですか?」

  そう言って現れたのは陽菜ちゃんだった。その手にはお盆に乗った水とお菓子がある。

  「うん、だいぶ落ち着いたみたい」

  俺がそう答えると彼女はほっとしたような表情を浮かべる。

  「そうですか……でも無理はしないでくださいね?ママや兄貴達が心配しますから」

  そう言って心配そうに俺の顔を覗き込む陽菜ちゃんに笑いかけながら、俺は彼女からお盆を受け取るとテーブルの上に置いた。

  「ありがとね♡でも陽菜ちゃんこそちゃんと寝てる?クマ出来てるよ?」

  そう言って彼女の目元に手を伸ばすと、彼女は慌てたようにその手を払った。

  「こ、これは昨日遅くまで勉強してたせいですよ!それに心配される程子供じゃないです!」

  そう言って顔を赤らめながら怒る彼女を微笑ましく思いながら見ていると、ふと悪戯心が湧いてくる。

  「へぇ……?それで『兄貴』呼びは卒業したの?」

  ニヤニヤしながらそう言うと、彼女は更に顔を真っ赤にしてしまった。どうやら図星だったようだ。

  「そ、それはその……急に切り替えるのは難しくてですね……」

  そう言って俯く彼女の頭を優しく撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めるのが見えた。

  (こういうところはまだまだ子供だよなぁ♡)

  そんな微笑ましい様子に思わず笑みが溢れてしまう。

  陽菜ちゃんはそのまましばらく黙り込んでいたがやがて意を決したかのように顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。

  「アタシ……、兄貴が『中山さん』の事好きなんじゃないかって、気付いてた気がするんですよ」

  突然の告白に、俺は驚きを隠せなかった。

  そんな俺の様子を見てか、彼女はくすくすと笑ったあと話を続けた。

  「兄貴ったらわかりやすいんですもん!いっつも『中山さん』の事気にしてるし、暇さえあれば会いに行ってますし!だからきっとそうなのかなって思ったんです!」

  そこまで言うと陽菜ちゃんは俺を見つめて少し照れくさそうに笑うと、こう言った。

  「『中山さん』、ひょろっとしてて頼りないし……中性的でかわいらしいし、アタシも男の人だったら好きになってたかも♪」

  その言葉に俺は苦笑いを返すしかなかった。

  「あはは……どこまで行っても女性にはご縁のない男なんだよなあ……俺って」

  この見た目になってもそうなのだから、違いない。

  俺がそう言うと、彼女は可笑しそうに笑った。

  「そうかもしれませんね♪でも、アタシは今の『幸さん』の方も好きですよ♡」

  陽菜ちゃんの言葉を聞いて俺はドキッとした。

  彼女が俺の事を好きだと言ってくれているわけではないのに、その言葉が凄く嬉しかったからだ。

  そんな俺の様子に気づかずに彼女は続けた。

  「兄貴もそうですよ。もしかしたら『中山さん』が気の許せる男友達で好き、じゃなくて『中山幸さん』だったから好きになったんじゃないかな?って思います」

  彼女のその言葉に俺は胸が温かくなるのを感じた。

  たどたどしい言葉選びであっても、性別が変わろうが姿かたちが変わろうが関係ないのだと言ってくれているようで嬉しかったのだ。

  「ありがとう……」俺がそう礼を言うと、陽菜ちゃんはにっこりと微笑んでくれた。

  (あぁ……本当に良い妹を持ったなぁ)

  そんな事を考えつつ、俺はふと気になった事を尋ねてみる事にした。

  「ところでさ、陽菜ちゃんはどうなの?あれから……出会いでもあった?」

  入院生活は刺激がなさすぎて、暇を持て余していたので、こうしてちょくちょく顔を出してくれる陽菜ちゃんや竹中と話をしているが、彼女の近況については詳しく聞いていなかったからだ。

  俺が尋ねると、彼女は「うーん……」と少し考えるような仕草をした後、こう言った。

  「全然♪兄貴の事はすっぱり諦めましたけど……、兄貴以外の男の人とかあんまり興味ないし」

  そう言って彼女は苦笑いをする。

  (勿体ないなぁ……陽菜ちゃん可愛いのに)

  そんな事を思いながら彼女の横顔を眺めていると、少し恥ずかしそうにしながら続けた。

  「この通り女っぽくないものですから部の女の子達には散々からかわれるし……、まぁ好きでやってるんでいいんですけどね」

  そう言って照れくさそうにする彼女がなんだか微笑ましくて、つい頭を撫でてしまう。すると彼女は嬉しそうにはにかんでくれた。

  (か、かわいい……!)

  そんな俺の内心など知る由もなく、陽菜ちゃんは上機嫌な様子だった。

  「最近は同じ部活の子達と一緒に服を買いに行ったりとかしてるんですよ〜!色々あって楽しいです♪」

  (楽しそうで何より……)

  そんな会話をしていると不意に扉がノックされる。

  俺が返事を返すと、竹中が入ってきた。

  「入るぞ」

  そう言って仏頂面のまま近寄ってくる彼の姿を見て、俺は思わずドキッとしてしまう。

  シャツにジーンズといったラフな格好をしていて、そんな格好でさえも様になっているのだからずるいと思う。

  そんな事を思いながら彼の顔を見ていると、彼は不思議そうな表情でこちらを見つめ返してきた。

  「どうかしたか?」

  そう尋ねられて慌てて首を振ると、俺は話題を変えようと口を開く。

  「あっ!そういえば子供の名前決めてるって言ってたでしょ?なんかヒントとかない?」

  そう尋ねると、彼は無表情のままぽつりと呟いた。

  「陽菜の前で言うと恥ずかしい……」

  それを聞いて俺と陽菜ちゃんは思わず噴き出してしまった。

  (こいつってホント天然というかなんというか……)

  俺は苦笑いを浮かべつつ、期待を込めた眼差しで彼を見つめる。

  「それって男の子でも女の子でも使える感じの名前?」

  そう尋ねると竹中は首を傾げながら答えた。

  「いや……そうだな……」そこまで言うと言葉を詰まらせて黙りこんでしまう。どうやら考え込んでいるようだ。

  そんな様子に呆れ顔の陽菜ちゃんだったが、やがて溜息をつくと言った。

  「はぁ……アタシの可愛い姪っ子に変な名前つけたら承知しないんだからね!」

  陽菜ちゃんの言葉を聞いてもなお、竹中は難しい表情をしていた。よほど真剣に考えてくれているのだろう。

  そんな姿を見た俺たちは顔を見合わせるとクスクスと笑ったのだった。

  (どんな名前になるのかな)

  そんな期待を抱きながら、俺はその日を過ごしたのだった――

  ☆☆☆

  出産予定日当日となった俺は、朝から緊張でガチガチになっていた。

  (大丈夫……大丈夫……きっと上手くいくはずだ……!)

  そう自分に言い聞かせながら深呼吸を繰り返す。

  そんな俺の様子を心配そうな表情で見つめる竹中の姿があった。

  「……大丈夫か?」

  「大丈夫だってば!心配しすぎだって!」

  俺が笑いながらそう言うと、竹中は少し拗ねたような表情を見せた。

  なにせ世界初の男性淫魔の出産を控えているのだ。当然といえば当然の反応だろう。

  それでも尚、俺が頑なに大丈夫だと言い張るのには理由があった。それは陽菜ちゃんの存在である。

  彼女はどうやら俺の出産に立ち会う気満々のようで、今はここにはいないものの連絡が来次第来ると言っていた。

  そんな訳で俺は竹中に励まされながらその時を待っていたのである。

  (でもやっぱり不安だなぁ……)

  そんな事を考えていると不意に大きな胎動を感じて思わず息を吞んでしまう。

  すると、それに気づいた竹中が声をかけてきた。

  「幸……痛いのか?」

  俺は首を横に振った後、不安そうな表情を浮かべる竹中に向かって微笑んだ。

  「痛くないよ……ちょっとビックリしただけ」

  俺がそう言うと彼は安心した様子で胸を撫で下ろした後、俺の頭をぽんぽんと優しく叩くように撫でてくれた。

  (あったかいな……)

  そんな安心を与えてくれる優しい手を甘んじて受け入れていると、不意に扉がノックされた。

  どうやら陽菜ちゃんが到着したようだ。

  ついでに華音さんとぺとらまでついて来たようで、ぺとらの姿を目にした竹中がげんなりした表情を浮かべているのが見えた。

  そんな二人と魔女をよそに陽菜ちゃんは俺の方へ駆け寄ってくると心配そうに話しかけてくる。

  「幸さん!大丈夫そうですか!?」

  それに対して俺が笑顔で頷くと、彼女もまた笑顔を見せてくれた。

  一方のぺとらは興味深そうに俺のお腹を覗き込むと、興味津々といった様子で問いかけてくる。

  「是非とも胎盤はほしいのでぇ、幸さぁん……よろしくお願いしますねぇ?」

  その言葉に俺は引き攣った苦笑いを浮かべるしかなかった。

  そんな俺達のやり取りを見ていた華音さんが呆れたように溜息をつくとぺとらの頭を軽く小突く。

  濡れ烏の様な美しい黒髪を振り乱して拳骨を振りかざすその姿を見て、俺は思わず苦笑した。

  「全くもう……名張さんはホント無神経なんだから!」

  そんな二人のやり取りに苦笑しながらも、華音さんは俺のお腹を優しく撫でてくれる。

  「しっかり私の病院スタッフ一同が見てますので、心配しないでくださいね」

  そんな彼女の掌から伝わる温もりが心地良くて、なんだか安心できた気がした。

  (こんな素敵な人達に囲まれてるんだもんな……)

  そんな事を考えつつ、俺は大きく深呼吸をすると竹中の方に向き直った。

  「ねぇ……手ぇ握っててくれる?」

  俺がそう言うと、彼は無言のまま手を握り返してくれた。

  その手の温もりに安心感を覚えつつ、俺は目を瞑りその時を待つ。

  その時だった。

  じんわりとプールの塩素を思わせる様なあの独特な臭いが鼻をつく。

  「破水、しましたねぇ……。ナースコールしますよぉ」

  ぺとらがそう言ってボタンを押すと同時に、再び大きな胎動を感じた。

  まるで早く出てこいと言わんばかりに中から押されている様な感覚に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

  (せっかちさんだな……)

  そんなことを考えている間にもどんどんと破水は進み、それと同時に痛みが増していくのが分かった。

  「ぅ……痛い……」思わず呟く俺の様子に竹中が心配そうな声を上げる。

  「大丈夫か?」

  そんな声と共に彼の手が俺の手を優しく包み込んでくれると不思議と痛みが和らぐような気がした。

  (なんだろう……すごく落ち着く……)

  そう思いながら彼に身を委ねていると、不意に顔に影が差したのが分かった。

  不思議に思って目を開けると目の前には陽菜ちゃんの顔があってビックリする。彼女は何故か複雑そうな表情をしていたが、すぐに笑顔になると声をかけてきた。

  「頑張ってくださいね!」

  そう言って励ましてくれる彼女の姿を見て、胸が温かくなるのを感じた。

  (俺って幸せ者だなぁ)

  そんな事を考えつつ、俺は彼女に笑い返すと再び竹中に目を真剣な目で見つめる。

  「出産……立ち会って」

  彼はそれに応えるように頷いてくれた。

  分娩室に移動するまでの間も竹中はずっと手を握ってくれていた。

  彼の手の温もりが心地よくて、不思議と痛みや不安は和らいだような気がした。

  ☆☆☆

  分娩台のひんやりした感触が肌に伝わり、不思議と気持ちが落ち着いた。

  これから未知の世界へ飛び込もうとしているというのに怖くはない。

  そんなことを考えている間にもお腹の中で赤ちゃんが動くのを感じる。

  その度にじんわりとした快感が広がっていく様でつい声が出てしまう。

  (よし……行くか)

  そう心に決めて大きく深呼吸すると、俺はいきみ始めるのだった。

  「ん゛〜〜〜ッ!!ふぐぅううぅぅッ!!」

  歯を食いしばりながら必死にいきむ俺だったがなかなか上手くいかないようで、額に脂汗が滲むのを感じた。

  (やばい……!上手く力が入らないっ!)

  そんな俺の様子を見ていた竹中は握っていた手に力を込めるとこう言った。

  「幸……落ち着いて息をするんだ」

  彼の言葉に頷いて応えつつ、俺は懸命にいきみ続けた。

  子宮口は大きく開いているはずなのだが、中々胎児が出て来てくれなくて焦ってしまう。

  そんな俺の様子を見て心配そうな表情を浮かべる竹中に俺は心の中で謝った。

  (ごめんな……)

  俺が苦戦しているせいで彼の心労が増えてしまっているだろうと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

  しかし、今の俺にはどうすることもできなかった。

  産婦人科の先生や助産師さんも懸命に助けてくれているのだが中々上手くいかない。

  無理もない、肛門からの出産事例なんて世界でコレしかないのだから。

  俺のあたまからは角、尻からは長い生えたしっぽも相まって分娩台は異様な様相を呈していた。

  それでもめげずに俺は懸命にいきみ続けた。

  「ふ、ふぐぅぅぅっ!!」

  大きなお腹が激しく上下し、全身が汗でびっしょりと濡れるのが分かる。額や脇からは滝のように汗が流れ落ちており、滴り落ちたそれがシーツに染み込んでいくのが見えた。

  それでもなお、俺は踏ん張り続けた。

  そんな俺の様子を見ていた竹中が優しく背中をさすってくれる。

  「大丈夫……大丈夫だ……」

  そう言う彼の顔には心配そうな表情が浮かんでおり、その手は微かに震えていた。

  彼のそんな様子に申し訳なさでいっぱいになると同時に嬉しさが込み上げてくる。

  (こんなに心配してくれてるんだもんな……)

  そう思うと胸が温かくなるのを感じると共に力が入るのが分かった。

  それと同時にずるりと何かが出ていく感触がして思わず声を上げてしまう。

  「お゛ぉっ♡」

  その瞬間、下半身から全身に電流が流れたかのような衝撃が走り、目の前が真っ白になった。

  (な、なんだ今の……)

  一瞬だけ意識が飛びかけたもののなんとか持ち直すことが出来た。しかし、未だに頭がぼーっとしていて上手く思考することができない。

  そんな俺を見て助産師さんが心配そうな表情を浮かべたまま声をかけてきた。

  「幸さん……?大丈夫ですか?」

  その問いかけに俺はハッとして我に返った後、慌てて答える。

  「あっ……!は、はいぃっ!大丈夫ですぅっ!!」

  痛みで頭がおかしくなったのか、俺は情けない声で返事をしていた。

  するとどういう事だろうか、竹中が手を握りながら頭の角をよしよしと撫で始めたではないか。

  (えぇ!?ちょ、ちょっと待って!?何これぇっ!?)

  混乱する俺を他所に竹中は俺の角を優しく撫でる手を止めようとしない。

  陣痛もさることながら、竹中の優しさに心が温まる思いがした。

  「幸……深呼吸だ……大きく吸って吐くんだ……」

  そんな彼の言葉に従って深呼吸をすると気持ちが落ち着いた気がした。

  (もしかして痛みを紛らわせる為にやってるのか……?)

  そう思うと同時に彼に身を委ねて静かに深呼吸をする事にしたのだった。

  すると角から伝わる快感で幾分か和らいだような気がした。

  「んぉおおッ!おぉ゛ぉっ♡おっ♡」

  (やべっ!?声が抑えられねぇ……)

  いきみ声と共に雄叫びにも似た嬌声を上げてしまう俺だったが、周囲の人間は誰も気にしていないようだった

  。というか気にする余裕がないのかもしれないが……。

  「幸さん……もっといきむの!」

  助産師さんの檄が飛ぶと同時に俺は再び踏ん張り始める。

  「ん゛っ♡ん゛〜ッ♡♡♡」

  (そうだ……俺は1人じゃない……!竹中も見てるんだ!)

  そう思うと不思議と力が湧いてくるような気がした。

  「んぉおおっ!♡♡おっ♡おっ♡お゛ぉっ♡♡♡♡」

  子宮が快楽物質によってどんどん広がるかのような感触に身悶えしつつ、俺はひたすらいきみ続ける。

  「幸さん!あと少しで頭が出ますから!頑張ってください!」

  助産師さんの声を聞きながら全身に力を入れていくと、少しずつではあるが赤ちゃんが降りて来ているような感覚があった。

  今まで毎日出していたうんちなんて目じゃない位太いものが肛門から出てこようとしているのだ。

  「んぎぃっ!?♡♡♡」

  (やばいぃいっ!こんな……こんなの無理だよぉおっ♡)

  出産は尿道にスイカ入れられるような痛みだというが、今の快感はそれを上回るものを感じる。

  「幸さん……もう少しです!頑張ってください!」

  助産師さんの応援を受けながら、俺は必死にいきみ続けた。そして遂にその時が訪れる。

  「んぉおおッ!?♡♡♡♡お゛ッ♡お゛〜ッ♡♡♡」

  (あ、頭出てるぅっ!出ちゃってるぅううッ♡♡)

  お尻の穴が裂けてしまうのではないかと思う程の激痛と共にそれは姿を現したのだった。

  「んお゛ぉおおッ!!♡♡♡ほぉおっ♡♡♡♡♡」

  それと同時に大量の羊水と血が溢れ出す。周囲のスタッフが慌ただしく動く中、俺は大きく仰け反り獣のような咆哮を上げていた。

  (あへぇええぇええ♡♡♡♡しゅごいぃいいっ!!♡♡イグゥウウッ!!♡♡♡」)

  もはや自分が何を言っているのかすら分からない状態になりながらもひたすらいきむ俺。

  陣痛と共にやって来た激しい快感のせいで頭がおかしくなりそうだったが、そんなことを考えている余裕すらなかった。

  「あ゛〜ッ!!イグゥウウッ♡♡♡♡んほぉおおっ!♡♡お゛ッ♡♡おぉお〜〜〜ッ!!♡♡♡♡」

  (おひりぃいいっ!!壊れりゅぅううっ!!)

  一際大きな絶頂と共に羊水と血液が混ざったものが噴き出すと同時に、俺の絶叫と共に赤子の産声が上がった。

  おぎゃあおぎゃあと甲高い声を上げて泣く赤ちゃんを助産師さんが抱き抱えてこちらに向けてくるのが見えた。

  その姿はしわくちゃの猿みたいで、思っていたのとは違っていたものの、愛おしく感じる自分がいることに気付く。

  「おめでとう……元気な女の子ですよ……」

  そんな声を聞いた瞬間、全身の力が抜けていくのが分かった。

  それと同時にどっと疲れが押し寄せてくる。

  (よかった……ちゃんと産めたんだ……)

  倒れ込みそうになったのを、竹中が支えてくれた。

  竹中も何がなんだかもう分からないという顔で涙なんて流している。

  まあ、それは俺も同じなんだけどな。

  「本当に……産まれたの?」

  俺がそう問いかけると彼は小さく頷いて見せた。

  その表情はとても嬉しそうで、見ているだけでこちらも嬉しくなってくるほどだ。

  安堵感に包まれる中、俺はゆっくりと目を閉じたのだった。

  ☆☆☆

  夏の暑さは連日猛威を振るっており、立っているだけで汗が噴き出てくるような気候が続いている。

  自転車なんて使わずに、バスでいけば良かったと後悔しながら額を流れる汗を拭う。

  真昼間の夏の日差しは眩しく照り付けており、暑さを倍増させているような気がしてならなかった。

  (汗、匂わないよね?大丈夫かなぁ……)

  わたしはそんな心配をしつつ、電動アシストの自転車で坂を登っていた。

  そんな中、ふと顔を上げると遠くに大きな入道雲がそびえ立つのが見える。

  (あっつぅ……日焼け止め塗ってなかったらヤバかったかも)

  そんなことを考えながら電気の力に助けられ、なんとか汗だくになりながらも目的の場所まで辿り着くことができた。

  坂の上のこじんまりした一軒家を見上げると懐かしい思い出と共に、胸がすくような想いがこみ上げてくる。

  身だしなみをもう一度確認して、天然パーマの髪を手ぐしで整えるとインターホンのボタンを軽く押した。

  軽やかなチャイム音が響いて、しばらくするとスピーカー越しに聞き慣れた声が聞こえてくる。

  「はーい!今行くから待っててねー!」

  その声を聞くと自然と笑みが溢れてくるのが分かる。

  ガチャリという鍵が開く音を聞いて、わたしは背筋が伸びるおもいがした。

  「いらっしゃい葵ちゃん!暑かったでしょ?」

  そう言って出迎えてくれたのは陽菜叔母さんだった。

  夏休み、わたしは叔母の元に行くため自転車を漕いで来たのだった。

  「陽菜さんこんにちは!お邪魔します!」

  そう言って頭を下げると陽菜さんは嬉しそうに笑ってくれた。

  背はわたしよりずっと小さいけれど、笑顔が可愛らしい女性だ。

  「ささっ!外暑いでしょ?中入って入って!」

  そう言って招き入れてくれる陽菜さんにお礼を言いながら、わたしは玄関を上がった。

  廊下を抜けリビングに入ると、冷房の効いた涼しい空気が身体を包んでくれる。

  (ふぅ……生き返るぅ……)

  汗ばんだ肌から流れ落ちるように汗が引いていくのがわかった。

  ひんやりとした室内の空気に一息ついていると、陽菜さんがタオルを渡してくれた。

  「汗拭きなよ!身体冷えちゃうから」

  「うん、ありがとー!」

  そう言ってありがたくタオルを受け取ると顔に当てる。するとほのかな洗剤の香りが鼻腔をくすぐった。

  (陽菜さんの匂いだ……落ち着くなぁ)

  そんなことを考えていると、キッチンの方から声が聞こえてきた。

  「お腹空いたでしょ?何か食べたいものある?」

  そう言われて時計を確認すると時刻はちょうど11時を回ったところだった。お昼にはちょっぴし早いけれど、お腹が空いているのは確かだった。

  「えっとねぇ……とりあえず冷たいものが食べたいかな」

  わたしが答えると陽菜さんは悪戯っぽく笑ってみせる。

  「あはは!暑いからねぇ……じゃあ素麺なんてどう?」

  「簡単だから?も~わたしが作るから良いよ!」

  叔母は昔から料理は苦手だったようで、料理が趣味の父が教えるのを放棄したほどなのだと言う。

  「遠慮しないで!おうちだと思ってくつろいでてね!」

  そう言うと陽菜さんはキッチンの方へと歩いていった。

  でもやっぱり、不安になったので後ろからそっとついていく。

  叔母はわたしが生まれた年にわたしと同じ位の年だったと誕生日パーティの時に言っていた。

  年の差約2倍と言ったところだけど、見ただけだと親子に見えなくもない。

  わたしがお母さんで、陽菜さんがこども、だけど。

  「なにか手伝おうか?」

  そう声をかけるとわたしは彼女の肩越しに腕をまわす。

  そして後ろから抱き着くように彼女の腰に腕を絡めた。

  『親子』のスキンシップにしては、過激すぎるかも知れない。

  「ちょっと葵ちゃん。……背また伸びた?」

  驚いたような声を上げた後、陽菜さんはくすくすと笑いながら聞いてくる。

  「ふふ♡実は3cmも伸びたの!」

  わたしは得意になって胸を張りながら答えた。

  すると叔母はわたしの腕をぽんぽんと優しく叩いてくる。

  まるで子供をあやすような仕草だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。

  「……兄貴に似たのねえ」

  感慨深げに呟いたその言葉に、わたしはドキッとする。

  確かにパパはとっても背が高い。

  ママは昔、今のわたしくらいあった、らしいけど陽菜さんと変わらないくらいだ。

  でも、わたしは……。

  「もうちょっとで沸騰しそうだから、素麺茹でて貰ってもいい?伸びたの食べたくないでしょ?」

  その言葉にはっと我に返るとわたしは慌てて鍋を見る。

  危ない危ない……考え事しちゃってたみたい。

  「あ、うん!そうだね!任せて!」

  わたしは気持ちを切り替えると鍋に素麺をはらりと投げ入れた。

  ☆☆☆

  ふたりきりの昼食はとても静かなもので、ラジオの音と、素麺を啜る音くらいしか聞こえない。

  黙々と食べていると不意に陽菜さんが口を開いた。

  「家の方はどう?みんな元気?」

  彼女の何気ない質問にわたしは苦笑しながら答える。

  「いや~、騒がしすぎて全然ゆっくりできないよ~……。みんな子供なんだもん」

  「あはは!確かに!男の子ばっかだしねぇ~」

  彼女は笑いながらそう言うと、お茶を啜った。

  うちの家族は、わたし以外全員男。

  ママはママだけど、一応生物学上戸籍上は男なので言葉の綾もあるけれど、オトコだらけなのだ。

  しかも6人兄弟で、いちばん下は今年生まれたばかりときた。

  もう勘弁して欲しいレベルだよ……。

  そんなことを考えていると陽菜さんが心配そうに声を掛けてくる。

  「そっかぁ、じゃあ夏休みくらい羽伸ばしたいよねえ」

  その言葉にわたしは大きく頷きながら答えた。

  「そう!そうなの!うちじゃゆっくりお風呂も入れないしさ……」

  家がいくら大きいからと言って、流石におふろが二つある家なんてのはそうそうない。

  そんなことを考えているうちに、わたしはふと気になったことを聞いてみた。

  「陽菜さんはさ、寂しくないの?」

  すると彼女は不思議そうな顔でこちらを見返してくる。

  「え?なにが?」

  その問いかけにわたしは思わず言葉を詰まらせてしまった。

  突然そんなことを聞くなんて無神経だったなと反省しながら慌てて誤魔化すことにした。

  「な、なんでもない!気にしないで!」

  そんなわたしに彼女は優しく微笑むと言った。

  「葵ちゃんは優しい子ね」

  その言葉に胸が締め付けられるような気持ちになる。

  思わず泣き出しそうになってしまったので、わたしは誤魔化すように別の話題を振ることにした。

  「陽菜さんはさ!恋人とかいないの?」

  そんな質問をすると彼女は少し困ったような表情を浮かべる。

  そしてちらりとわたしの方を見ながら口を開いた。

  「今はいないかな」

  「えー!?そうなの?てっきり恋人の一人や二人、いるのかと思ってた!」

  陽菜さんは見た目は綺麗で美人だし、スタイルもしゅっとしていて良いし、その上明るくて話しやすい性格だ。モテないわけがないと思うんだけど……。

  すると彼女は少し恥ずかしそうな表情で答えた。

  「もういいかなって思ってるよ」

  その言葉にわたしは黙ってしまう。

  叔母がこの家に住み始めて数年、足繁く訪ねていたわたしでも陽菜さんが恋人らしい人を家に連れ込んでいたところを見たことがない。

  元々あまりそういう話題が好きな人じゃないので、わたしも深くは追求しなかったけれど……。

  でもそんな陽菜さんだからこそ、わたしには眩しすぎるのだ。

  「そっかぁ……」

  わたしは小さく呟くとお茶を啜る。

  ラジオからは甲子園の応援歌が流れてきて、外では蝉の声が響き渡っていた。

  「葵ちゃんはさ……」

  陽菜さんが沈黙を破るように話しかけてきたので、わたしはそちらに視線を向ける。

  「彼氏とかいないの?」

  その言葉に、どきりと心臓が跳ねるのが分かった。

  胸の中に薄暗い靄が広がっていくような錯覚を覚える。

  (やっぱりきた)

  そんな気持ちを押し隠しながら笑顔を取り繕って答えた。

  「い、いないよ~!」

  わたしがおどけてそう言うと彼女はくすくすと笑う。

  そして続けて言った。

  「葵ちゃん、可愛いのにね」

  そんな叔母の言葉に思わず顔が熱くなる。

  なんだか恥ずかしくなってしまって、わたしは彼女の顔を直視できない。

  テーブルの木目と睨めっこしながら、わたしは早口でまくし立てた。

  「も~!褒めたって何も出ないよ!わたし背が高すぎて男子なんてこっちから願い下げだよ!」

  そんな風に軽口を叩いてみる。

  叔母はそんなわたしの態度に一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔になるとわたしの頭を優しく撫でてくれた。

  「葵ちゃんはそのままでも充分魅力的よ」

  そんな優しい言葉に思わず涙腺が緩んでしまいそうになる。

  慌てて下を向いて誤魔化したけれど、きっと彼女は気付いてるんだろうなと思った。

  ☆☆☆

  昼食を終えると、わたしは食器を洗って後片付けを済ませていた。

  おうちに来た理由なんて、何もないけどこれが全てだった。

  叔母の家に来て、ゆっくりお話をして。

  この静かな家の空気になれたら、それでいい。

  40センチ差の身長。

  わたしが見上げて、陽菜さんが見下ろすかたちになるこの遥かな身長差がわたしと叔母の心の距離感なのかも知れない。

  「たまにはうちに遊びに来てよ、陽菜さん。坂のせいでふともも太くなっちゃうんだから」

  わたしはソファに腰かける彼女の肩に手を置きながら言う。

  「あはは!分かったよ、そのうちね!」

  陽菜さんはそんなわたしの態度に苦笑しながら答えると、おいでと言わんばかりに両手を広げてきた。

  わたしはその腕の中に飛び込むと、ぎゅっと抱き着く。

  柔らかい胸の感触に顔をうずめると、懐かしい匂いに頭がくらくらした。

  (この匂い……安心する)

  そんなわたしを見てか、叔母は優しく頭を撫でてくれる。

  心地よくて思わず力が抜けそうになるけど、それでは駄目だと思いぐっと堪えて、もうひと声。

  「ずっとこうしてたいなあ……」

  甘えた声でそう呟くと、陽菜さんは小さく笑う。

  「学校遠くなっちゃうよ?いいの?」

  その言葉にわたしは首を振ると、腕に力をこめた。

  「陽菜さんのがいい」

  そんなわたしをあやすように陽菜さんは背中をぽんぽんと叩いてくる。

  心地よいリズムにうとうとしそうになりながらも、わたし達はしばらくの間そのままでいた。

  まるで時間が止まっているかの様で、幸せだ。

  陽菜さんと一緒にいるだけで、不思議と心が穏やかになる気がする。

  そんな風に思っていると不意に叔母が言った。

  「葵ちゃんさ、好きな人とかいないの?」

  その言葉に思わずどきりとしてしまうが、平静を装って答えることにする。

  「……いるよ」

  そう呟くと彼女はクスリと笑った後、真剣な口調で尋ねてきた。

  「どんな人なの?」

  そんな問いにわたしは少し考えてから口を開く。

  「優しくて、かっこよくて……わたしの事ちゃんと見てくれる人」

  そこまで言うと叔母はうんうんと頷きながら聞いてくれた。

  それから少し間を置いてから続きを口にする。

  「でもその人はいつもひとりぼっちで、それでも強く生きてて……わたしなんかが手出しできないような、すごい人なの」

  そこまで言うと、わたしはそれ以上何も言えなくなってしまった。

  (わたしがどんなに背伸びしたって届かない場所にいるんだから)

  そんなわたしの気持ちを汲み取ったのか、陽菜さんはぎゅっと抱きしめてくれる。

  「大丈夫、きっと振り向いてくれるよ。葵ちゃんこんなに美人なんだから」

  『ママにそっくりで』

  そう後ろについているだろうその言葉にわたしは首を横に振った。

  「ダメだよきっと……。はぐらかされちゃうんだ」

  わたしがそう言って苦笑いを浮かべると、叔母は困ったように微笑んだ。

  「そっか……でもわたしは応援してるからね!」

  そんな陽菜さんの言葉に胸がきゅっと締め付けられるのを感じる。

  (違うんだよ陽菜さん……)

  心の中で呟くと、わたしは彼女の顔を見上げるように覗き込む。そしてじっと見つめながら口を開いた。

  「違うんだよ……。応援なんか、されたくないの」

  「わたしが、陽菜さんの事を好きだから」

  そう言うとわたしは彼女の顔をじっと見つめた。

  彼女の瞳は大きく見開かれている。

  (あー……、言っちゃった)

  もう後戻りはできないし、するつもりもない。

  わたしの言葉を聞いて驚いたのか、彼女は身じろぎ一つしなかった。

  そんな叔母を見て、わたしは少し不安になる。

  いくら仲の良い友達みたいな関係とはいえ、いきなりこんな事言われたらびっくりするだろうし……。

  (やっぱり迷惑だったよね……)

  そんなことを考えるが、ここまで言ってしまった以上引き返せない。

  わたしは意を決して口を開いた。

  「ご、ごめん陽菜さん……困るよね、こんなこと言われても……」

  すると彼女は我に返った様に首を横に振って言った。

  それは慌てた様子のひとつもない、大人の対応だった。

  「ううん……ごめんね、ちょっとびっくりしただけだから」

  彼女はそう言うと、わたしの頭を優しく撫でてくれる。

  (……いつもの陽菜さんだ)

  そんな安心感と共にわたしは叔母に甘える様に身体をすり寄せた。

  すると彼女はふわりと微笑みながら言う。

  「葵ちゃん可愛いからつい忘れちゃうけどまだ、中学生だもんね」

  その言葉にわたしは思わず赤面してしまうが、同時に疑問が浮かぶ。

  (忘れてたんだ……)

  そんなことを考えていると彼女は続けた。

  「わたしも葵ちゃんのこと好きだよ」

  その言葉に思わず胸が高鳴る。

  (いや……これは親戚として、友達としての好きであって恋愛的な意味の好きじゃないし……!)

  そんな考えを打ち消すように頭をぶんぶんと振ると、わたしは彼女に視線を向けた。

  すると陽菜さんは優しく微笑んでくれる。その笑顔にほっとしていると、彼女は言った。

  「葵ちゃんはどうしてわたしとそんなに一緒にいたいの?」

  唐突な質問にわたしはドキッとしたが、努めて平静を装って答える。

  「前も言ったけど……陽菜さんといると安心するから」

  その言葉に彼女は頷いてくれる。

  「そっかぁ」

  そう言いながら微笑むと、彼女は少し考え込んだ後口を開いた。

  「でも葵ちゃんにはもっと相応しい人がいると思う」

  その言葉にわたしは胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

  (そんなこと……言わないでよ……)

  「……誰と比べてるの?」

  思わずそんな恨み言を口にしてしまう。

  そんなわたしに、彼女は優しく言葉をかけてくれた。

  「兄貴と、兄貴の一番大事な人と」

  その言葉にわたしの胸は高鳴る。

  でもそれと同時に胸が苦しくなった。

  (やっぱり陽菜さんはパパのこと……)

  そう思うとなんだか悲しくなってしまって、思わず泣いてしまいそうになる。

  パパだって何も言わない、ママだって嬉しそうに陽菜さんと仲が良さそうにしてる。

  だけれども、この家には、大きな溝がある。

  そのことが嫌でも分かってしまって、わたしの気分は沈んでしまう。

  そんなわたしを見かねたのか、叔母がぎゅっと抱きしめてくれた。

  彼女の優しい温もりに包まれていると不思議と心が落ち着くのを感じる。

  (陽菜さんの匂い……好き)

  そんなことを考えつつ、わたしは口を開くと問いかけた。

  「わたし、ママとそっくりなんだって嫌でも分かるの。それが辛くて、わたし……おうちに帰りたくない」

  わたしには、他人をおかしくさせるような不思議な力がある。

  思春期になってからそれは抑えきれなくなっていて、わたしの周りでは頻繁におかしなことが起きていた。

  ママはそのうち収まると言っていたけれど、この力は成長と共に大きくなっている気がする。

  わたしの身体がわたしでなくなる。

  それを直感的に感じているのかもしれない。

  だからわたしはこの叔母以外誰もいない家に自然と助けを求めてしまった。

  そんなことを考えていると、彼女はわたしの頭を抱き寄せながら言う。

  「葵ちゃんは今のままでいいんだよ。無理に変わる必要なんてないんだから」

  「で、でも……みんな、変な目でわたしのこと見るの」

  『男の股から生まれた女』の何倍も、何十倍も酷い言葉を浴びせられたこともある。

  そんなことを思い出しながら俯くわたしの頭を、陽菜さんは優しく撫でてくれる。

  「葵ちゃんは悪くないよ」

  そうだ。わたしも悪くなければ、パパもママも悪いわけではない。

  そんなことは分かっている。でも、どうしても自分の中にあるもやもやとしたものを拭い去ることは出来なかった。

  わたしは顔を上げると、彼女の目を見つめながら言う。

  「ねぇ陽菜さん……わたし……」

  わたしが『力』を使って、今の生活を捨てて、陽菜さんと二人きりで暮らしをしてみたい。

  そんな想いが漏れ出してしまえば最後、この空気は崩れ去ってしまうだろう。

  そんな風に考えると、わたしは言葉の続きを飲み込んでしまった。

  そんなわたしを陽菜さんはぎゅっと抱きしめてくれると耳元で囁くように言った。

  「アタシ達はこのままでいいんだよ」

  (このままでいい?)

  わたしはその言葉に胸の奥が熱くなるのを感じた。

  (わたしもそう思う)

  心の中でそう思いながら顔を上げると、彼女は優しげな眼差しを向けてくれている。

  そんな彼女の瞳に吸い込まれるようにして顔を近づけると、そのままキスをした。

  (柔らかい……)

  柔らかな唇に自分の唇を押し付けていると、彼女は静かに目を開く。

  綺麗な瞳に見つめられていると、何だか頭がくらくらしてきてしまった。

  (もっと……)

  唇を離すと、今度は舌を伸ばし彼女の口の中に侵入させる。

  ぬるりとした感触と共に熱い吐息が漏れるのが分かった。

  そのまま陽菜さんを抱き寄せるようにして何度も何度もキスを繰り返す。

  そんなわたしに答えるように彼女も舌を絡めてきた。

  (すごい……気持ち良い)

  陽菜さんの体温を感じるだけで幸せだと感じる自分がいることに気づく。

  (もういっそこのまま……)

  そのまま押し倒してしまおうかとすら思ったその時、突然唇が離された。

  「ぁ……」

  そんな切なげな声を漏らすと、彼女は言う。

  「葵ちゃん、そろそろ晩御飯にしようか」

  その言葉にわたしは思わず頬を膨らませてしまった。

  そんなわたしを見て陽菜さんはクスッと笑う。

  (やっぱり陽菜さんには敵わないなあ)

  そんなことを考えているうちに食欲が沸いてくるのを感じた。

  あたまとお尻の付け根がざわざわする。

  何かを伝えようとしているかの様に、胸の奥が甘く痛むのだ。

  (もしかして……?)

  自分の中の何かが変わりつつあることを感じながらもわたしは平静を装って返事をする。

  「そうだね、叔母さん」

  そんなわたしの言葉に彼女はくすっと笑うと、台所に向かって歩いていった。

  (もっと大人になりたいな……)

  わたしは自分の身体の変化に戸惑いながらも陽菜さんについて行く。

  夏の茹だるような空気に負けないくらい熱い身体。

  それから発せられる得も言われぬ香りを纏ってわたしは、彼女の手に指を絡めた。