気がつくと私は、見知らぬ山峡に立っていた。姿は警備員。近くには白い建物と数人の警備員。
私は空港にいた筈なのにと思う。
何故ここにいるのかと疑問に思いつつも、私は警備員に一人に声を掛ける。
「あの、私は何をすれば良いのでしょうか」
「ああ、お前は門の前に立っていれば良い。くれぐれも魔物は通すなよ。ま、昼間だから出てこないだろうがな」
「分かりました」
私はその人の言葉に頷き、一人の男性とともに門の外に立つ。
空を見上げると灰色の分厚い雲が、青色を覆い隠している。山の木は葉を落としているものが多いため、おそらくは冬なのだろう。その割には、寒さを感じないのだが。
「にしてもー」
男性の呟きが聞こえてくる。
「お前、女なのにこういうのなるなんて根性あるんだな」
「よく言われます。私にとっては根性があるというのは関係はなく、ただ単にやらないとと思っただけなんです」
そんな言葉が口からついてでる。
一緒に、まさか採用試験本土近くの離島に来る事になるとは思っていなかったがとも思っている事に気づく。
まるで、他人の体に入り込んでしまったような感覚だった。
私は交代の時間になるまで、何故ここにいるのかを考えるのだった。
数時間か経った頃、交代の人が来た。
ようやっと休めると門の中に入ろうとした時、視線を感じて、森の中へと続く道に振り向く。道の真ん中に漆黒の色を持った狼がいた。
「うわ、ブラックウルフかよ」
誰かがぼやく。
聞いた事のないものだったので、尋ねることにする。
「ブラックウルフとはなんですか?」
「都会育ちのは知らないんだったな。離島や山中の魔力が濃い所にいる特級クラスの魔獣だよ」
特級。一般的な魔物の中では一番高いランク。
しかし、この狼には右の前足に紐で鈴が付けられていた。その鈴はどこかで見たことがあるようで。
私の様子に気づいた風でもなく、三人はそれぞれ自分の武器を構える。
一人は弓、もう一人は銃。最後の一人は剣。
私はこの狼を傷つけてはいけないと思って、三人とブラックウルフの間に立つ。
「私が引きつけておきます。皆さんは中へ」
「は?特級相手に一人で勝てるわけないだろうが!」
「勝つ必要はありません。ここへ危害を加えさせなければいいのです」
私は腰に下げていた刀を抜き、刃先を狼へ向ける。
「んな細え剣じゃすぐに折れるんじゃねえのかよ!」
「剣ではなく、刀と呼ばれているものです。それに、私が引きつけている間に呼んでくれればいいのです」
後に行った言葉でハッとしたように建物の中に消えていく。
これで集中できると思って、刀によって斬撃を放つ。ブラックウルフではなく、その足元に。それでも狼は危険だと判断したのか、後ろの大きく飛び退く。
こちらを見る目は鋭く、しかし憐れんでもいるようだ。
「話したいことがあるのならば、話してみなさい」
そうするとブラックウルフは人の言葉がわかるかのように、口を開く。
『自分は何故ここにいるのか、知りたくはないか。青年』