クリスマス
それはいつもの街をきらびやかにしている。
「......寒ぅ........」
ギラギラと装飾された駅のクリスマスツリーの下で手をこすり、摩擦熱の微熱を感じる。
彼との約束の場所に来たのは良いものの、もうすっかり夕日も沈んだ時間帯だ。
「ねぇ、今度はあっち行ってみよぉ~」
「その前に写真だろ?さっき言ってたじゃんか」
「いいじゃんいいじゃん!ね!ね!」
目の前を中の良さそうな鹿獣人カップルが通っていく。
年齢は高校生ぐらいだろうか。
妙に大人びた男の子はめんどくさそうにしていたが、優しい温かさを持った目で、はしゃぐ彼女をしっかりと視界に入れている。
「.......................」
スマホで時間を見ようと目を落としたときだった。
「ねぇねぇそこの可愛い兄ちゃん!いま一人?」
何やら声をかけられたらしく、顔をゆっくりと上げる。
そこには犬獣人が、チャラチャラとした様子でこちらを見下していた。
「俺達今からカラオケ行くんだけどさ、一緒にいかねぇ?」
「そうそう、ちょうどさっき一人ドタキャンされちゃってさぁ」
いきなりの出来事に、相手をする気さえ失せてしまった。
「.........やめてください」
なるべく穏便にことを済まそうと断りを入れた。
「へぇ、そんなこと言って良いのかな?」
犬獣人の顔がこわばった。
いつの間にか逃げ道は視界から消えていた。
「.............おい」
殺意が混じった低音が乾いた空気を伝って鼓膜を揺らした。
「んだよ、いま取り込み..........ヒッ!」
気だるそうに声のする方に体を向けた犬獣人が一瞬で固まる。
そこには2メートルをゆうに超える巨漢虎獣人が静かな殺気をまといながらそこに佇んでいた。
「俺の連れに用か」
体が動かない。
重ったるい空気があたりを支配する。
「い、いえ!失礼しました!」
「すいませんした!」
「ごめんなさい!」
流石にやばいと感じたのか
先程までの余裕と共に一瞬で走り去っていった。
そんな犬獣人たちのことなど目もくれず、その瞳はじっと僕のことだけを捉える。
「............」
虎獣人はバツが悪そうに、こちらを覗く。
僕の足は勝手に前へ進み、その虚軸に身を投げた。
「............遅いよ」
肩の力が抜けた。
思ってたより息が上がってたんだ。
虎獣人も少し驚いたのか、手の行場に困っている。
それでもすぐに右手を肩へ回し、左手で子供をあやすかのように僕の頭をぽんぽんと撫でる。
「..........すいません。あんな目に合わせちゃって」
先程の緊張感はどこへやら、どこか申し訳なさそうな声が上から降ってくる。
「........ありがとう.......」
彼の厚い胸板に顔を埋めながら、呟く。
一瞬の間のあと、彼の抱く力が一層強くなり心地よい心音が体全体に伝わってくる。
それに答えるよう黙って彼を抱き返したとき、頭を撫でる感覚がなくなり、ゆっくりと顎の方までその腕が動かされ顔を空の方へ向けられると
チュッ...........
彼の口が僕のおでこに接し、短いリップ音を発した。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、次第に体が火照っていく。
「じゃあ行きましょ!先輩!」
そう言って僕の拘束を解き、そのまま乱雑に手を引いてスクランブル交差点のほうへとむかう虎獣人。
「行きましょうじゃない!何してんの!?」
「もーいいじゃないすか!」
前を見て手を引く彼の顔は見えない。
それでも確かに尻尾は揺れている。
僕の心臓はまだバクバクと拍動する。
「早くうまいもん食べましょ!」
そう言ってくるっとこちらを向いた彼
満面の笑みで笑う顔が、いつも見せるのよりキラキラと輝いて見えるのはクリスマスの装飾のせいか。
心が一瞬でほころんでしまった。
「............はは、そうだね」
心臓はまだバクバクと鼓動し、血液を身体全体に忙しなく送り続ける。
顔はまだ熱い。
冬の冷たさも、もうちっとも寒くないや