ゆらゆらと揺れる狼の尻尾。
しかし、そこに感情的なものは見受けられない。
ただ動くと同時に慣性でだらしなく尻尾が揺れているだけ。
「ナツト君!」
学校指定の制服を脱ぎ、上半身だけ体育ジャージに着替え終え、後ろから声をかけられた狼獣人は、ゆっくりと顔を声のする方向に向けた。
「実は今日用事があって、掃除当番出れなさそうなんよねぇ…」
狼に比べて二回りほど小さいウサギ獣人が気怠そうに首を上に向けて話す
彼女はまだ制服姿だ
「だからぁ、ちょっと今日一人で掃除当番してもらってもいい?」
「………………」
早くこの場を切り抜けて、用事とやらに行きたいであろうウサギはどこか適当にそうお願いした。
「…………‥わかった」
低く、どこか心地の良い低音ボイスが辺りの空気を振動させた。
狼獣人は終始顔色を一切変えず、静かな三白眼に染まる琥珀色をゆらゆらと揺らしていた。
「え!まじでありがとー!」
そう言うとウサギ獣人の女の子はポケットからギラギラと装飾されたスマホを取り出し、何か操作をし始めた。
「じゃあそーゆーことで、よろしくー」
そのまま狼獣人に背を向けてどこかへと一瞬で姿を消してしまった。
燃えるようなオレンジの光を纏った光は、教室の窓を通して無感情の狼の琥珀色をさらに助長させていた。
時刻はすでに17:30ごろ
通常時よりも10分のほど遅く掃除を終えた狼獣人は誰もいなくなった教室のロッカーからサッカー部統一の練習着を取り出し、それに身を包んでいく。
ところどころ見え隠れする彼の体は雄雄しく、腹筋は綺麗に六つに分かれ、くっきりとした輪郭を持つ大胸筋は恐怖すら感じさせる。
時期は11月
もう17:00を過ぎれば辺りは薄暗くなってくる時間帯だ。
そのため、先ほどまで存在感を示していた夕日は影を潜め、人工的な色の蛍光灯の光だけが教室内を照らす。
「……………………」
練習着に着替え終わり、サッカー部の練習に遅刻して行こうと荷物をまとめていたところ、何か得体の知れないものがカバンの奥底でくしゃくしゃになっている
狼はそれを手に取ろうとカバンの底に手を突っ込んで、取り出した
-進路希望調査-
狼の動きが一瞬止まる。
誰も気づけないような、それでも確かに、ほんの少しだけ狼の呼吸が乱れた。
提出期限はとっくに過ぎている
今は無くしてしまったという理由でなんとか未提出の現実をダラダラと続けている。
「………………………」
それでも彼の顔は変わらず、感情がこもっていない真顔だ。
教室はいつのまにか静寂に包まれる。
狼は持っていた進路希望調査書を同じようにくしゃくしゃにして、カバンの奥底に突っ込んだ。
淡々と準備を進め、教室の最終確認をし、電気を消す。
廊下に出た狼のすぐ隣にある窓は暗く澱んでいる。
狼はゆっくりと歩きながら階段を降りて行き、グラウンドを目指す。
彼の尻尾はゆらりゆらりと揺れているが、やはりそこからは感情的なものは一切感じられなかった。