今日はハロウィンの夜。
かぼちゃおばけの僕、ラタンはぼんやりとかぼちゃ畑で寝転がっていた。
「今日は……ハロウィン、かぁ……」
独り言がかぼちゃ畑に思った以上に響く。
ハロウィン。おばけや怪物がシブヤ街を何も気にせず歩けるパーティーみたいな日。
一般的には。
僕はあんまり楽しくない。
もう僕は収穫期を過ぎてるような年齢だ。
ニンゲンで言うと20歳は過ぎてるような年齢。
なのに僕はまだ発芽期を迎えてない。
なのに体ばかりどんどん成長していって、恐らく人間年齢16歳頃から身長が伸びなくなり、そこからお腹にばかり栄養がいくようになった。
今では発芽期を迎えられてない20歳のデブかぼちゃおばけの出来上がり。
ちなみに、収穫期を終えてジャック・オ・ランタンになると黒いローブが身体から生えてくる(!?)のだが、僕は収穫期の体格で発芽期を終えてないから、発芽期前のオレンジ色の褌1枚の風貌である。
なんだよ。どこかの変態露出狂か?
「どうして僕だけ収穫期入れなかったんだ……みんなはとっくになってシブヤ街とか、他の街に行ってるっていうのにさ」
ぶつくさ言いながら、起き上がり周りを見渡してみる。
カボチャがくり抜かれてできたジャック・オ・ランタンの怪物に、ふよふよとそこらじゅうを漂ってるゴースト。
この世界では所謂成人というものをしたら、名前が日本準拠から海外準拠になるというよく分からない文化のようなものがある。
その中に一人ぽつんといるジャック・オ・ランタンになれてないデブかぼちゃおばけ……考えるのやめよう。
そんな中、一人だけ不思議なやつを見つけた。
おそらく幽霊なのだが、地上にいる。
足もあるし、なんなら実体がある……?
気になって、僕はそいつに近づいてみることにした。
歩いてるだけで揺れる腹を恨めしく思いつつ、僕はそいつに近づく。
と、そいつが突然こちらを振り向いた。
「うおっ……びっくりしたぁ……俺ラタン。は、はじめまして?」
最初の挨拶が疑問形になってしまったがいいとしよう。
その幽霊に僕は話しかけることに成功した。
「……あ、えっと……あぅ……………」
おかしい。言葉という言葉が聞こえてこない。
「あ……君もしかして、しゃべれない系?」
たまに言語を持たずに生まれてくるような奴もいるのだ。
その類かもしれない。
「……………」
首をブンブンと横に振る。
……?
喋れるのになぜ喋らないのだろう?
「喋れるんだったら、なんで喋んないの?」
そう聞くと、幽霊は顔を覆ってうずくまった。
……恥ずかしい?
「……もしかして、恥ずかしがり屋?」
ぶんぶんと首を縦に振る幽霊。
そいつの外見は所謂オーソドックスなシーツを被ったおばけだ。
そして、特徴?はシーツ越しでもわかるぽっちゃりとしたお腹。
あとは、シーツの下から見える生足。
…………生足?
「君は恥ずかしがり屋なのね。わかった。」
考えないことにした。
「あとなんで生足なの?」
無理。めっちゃ気になる。
チラッとそいつを見るとシーツ越しでもわかるほどに顔が赤くなってる。…………気がする。
「あっ!ごめんごめんごめんごめん……あの、えっと……うーーーん………シブヤ街、行ってみる?」
なんであんな提案してしまったんだろう。
ここでの娯楽がシブヤ街に行くことしかないのが悪い。
幽霊くんは楽しそうだから良しとしよう。……本当に楽しんでくれてるのかな。
「幽霊くん、楽しい?」
首を縦に振る幽霊くん。よかった。楽しんでくれてる。
ちなみに幽霊君というのは、名前を教えてくれないため勝手に呼んでる名前である。
しょーがない。分かんないんだもん。
「にしても、賑やかだねぇ。街は」
見渡す限り人人人。目眩がする。
それに、うまそうな匂いがプンプンする。
腹が減ってくるな。
「それにしても人間様はじょーとーなもん着てやがんな。」
こちとら古くなったオレンジの褌のみと、破れたシーツ1枚だぞ。
なのに、人間様と来たら、タキシード?やたらとスカートが短い服も着てるし、おじょーひんなこった。
それよりも、何だか褌の前が少しだけゆるくなったような……
いつの間にか幽霊君が褌の前をグイグイと引っ張っていた。
…………なんで??
「え?なになになに?もしかして君、そういう趣味?????」
首を横にブンブンと振っている。
じゃあ、なんなんだ。
よく見るとすごく怯えた顔をしている?
指を指している?
そちらの方向を見ると、青い制服のような服を着たケモノがこちらに向かって走ってきている。
なんで?
「いたぞ!!!捕まえろ!!!!!!」
「通報のあった露出狂二匹を発見!直ちに捕まえます!!」
今なんて言った???
なんて言ってるとどっかで天狗が暴れでもしたのか、でかい風が吹いた。
その瞬間、引っ張られた褌はほどけて飛んでいき、幽霊くんの被っていたシーツが飛ばされていった。
……目の前にはすごく綺麗な、すごく単純な言葉で言ってしまうならすごく美人な顔をした俺より身長が小さく俺よりちんこがすごく大きな、シーツを被ってない幽霊君がいた。
逆に俺は幽霊君より大きめな身長に見合わない小ぶりなちんちんを晒していた。
……外でこれ、やばくない????
「ごめん……ちょっと掴むね…………」
知らない声が聞こえて、俺の手首が掴まれる。
ふわり。と宙に浮いた。
「え?あれ?浮いてる???」
知らないうちに俺は浮けるようになってたらしい。
そんなわけない。え?なにこれ?
「突然ごめんね……怖がらせちゃうと思って……」
遠慮気味な、少し幼さが残る声変わりが終わったような、そんな声が隣から聞こえる。
幽霊君の声だ。
「いや別に……あ。幽霊君。名前は?」
「え?今?」
もう勢いだ。変に思われようとも何でも聞いてやる。
下に行ったらまた声聞けなくなるだろうし。
「……レスト。」
「レフト?それが幽霊君の名前?」
「そう。ゆう「れ」いでゴー「スト」でレスト。」
俺と同じく安直な名前だ。覚えやすくていい。
「おっけ〜!ばっちり覚えた!」
多分、もう忘れることはない。
オレンジと緑にライトアップされたシブヤ街をバックに中に浮かびながら聞いた君の名前を。
「よろしくね。ラタン。とりあえずかぼちゃ畑まで飛んじゃうね。」
ふわりと優しい風が吹き、俺とレストはゆっくりとかぼちゃ畑まで戻っていく。
多分、今日の夜のことも今後忘れることはないだろう。
そして、シブヤ街で有名になる空飛ぶ二匹の露出狂の話を俺は全力で知らないフリをする。