獣人貴族の完璧美少女な王子様系イケメン女子と一緒にいる事により惨めに感じ、疎遠になろうとするが捕まり、論破した上で再調教される。

  [水族館]

  おまたせ。来てくれてありがとね。

  とりあえず、中に入ろうか。

  オープン前の水族館。お客さんとして誰も入ったことのない水族館に入った初めてのお客さんが君な訳なのだけど、素敵な場所だろう?特に今夜みたいな雨の日にはピッタリなデートスポットだよね。

  夜の水族館にも開いている水族館を作るのが私の夢だったのだけど、いざ自分で出資して作った水族館に入るとやはり感動するものだね。

  君はこの水族館、気に入ってくれたかな?

  気に入ってくれて何よりだ。この水族館は広い。歩きながら話そうか。

  こうして2人で歩いていると、初めて君と会った水族館での事を思い出すね。

  あれは私が小さかった頃。異国から両親に連れられて来た獣人の私は両親の元から逃げて水族館まで来てしまった。我ながら当時はお転婆娘でね。貴族の娘だと言うのに家から逃げて独り歩きする日々だったよ。誘拐されなかったのは運が良かったからだろうね。または、こっそり護衛を付けていたか。まぁそこはどうでもいいね。

  いつもみたいに飛び出して水族館まで来てしまった私。知らない国の水族館にワクワクしていた訳なのだけど。

  待ち受けていたのは夢の世界なんかじゃなくて、獣人差別。

  当時の私は獣人と言うだけで差別されるとは知らなかったんだ。そして理解出来なかった。だから水族館まで来たのに中まで入れない理由がわからず泣いてしまったのだけど、そこに現れたのが君だった。

  君は私にパーカーを貸してくれて、フードを被せてくれたね。さらに、受付の人はきっと君が可愛すぎてお魚さんが嫉妬しちゃうから入れてくれなかったんだよ、と甘い言葉で慰めてくれた。

  君と見た水槽の景色は今でも忘れられないよ。青い光に包まれた君の笑顔は私の記憶にちゃんとインプットされている。君は私の初恋だったんだ。

  過去を掘り起こされて恥ずかしくなっちゃったかな?可愛いね、君は。

  両親の仕事で滞在した1ヶ月。遊園地やゲームセンター、遠くの海から近くの公園まで。沢山の場所で思い出を君と作ったね。

  滞在最終日の夜、水族館で約束。絶対君を迎えに行く。私がまた君を見つけ出して私の国に招待する。その時は私と・・・。そう、約束したね。

  君はその約束を忘れていたみたいだけど、私はちゃんと覚えていたよ?まったく酷い王子様だ。惚れさせたくせに時間が経ったら忘れてしまうだなんて、罪な男だね。

  あっ、これは私たちの好きな魚だね。ピエロカエルアンコウ。角が生えたアンコウで、カエルなのかアンコウなのかわからない名前を持つ所が、獣と人間の間みたいな獣人の私みたいで好きだったな。海水と淡水の混ざる汽水に住む所も、私たちの関係みたいで好きだった。

  奥の水槽はエンゼルフィッシュだね。キスで喧嘩する面白い魚。これも好きだったよね。単純に可愛くて好きだった気がするよ。

  君は覚えているかい?水族館には秘密の扉があって、そこには魚だけが住む不思議なカーニバルが広がっている、なんて子供ながらの妄想話。

  作ってみたんだ。ほら奥の、何も書かれていない扉。入ろうか。

  大人の秘密基地へ、ようこそ。残念ながら魚のカーニバルはやってないのだけど、素敵な部屋だろう?マジックミラーを利用した、泊まれる小さな水族館だ。

  トイレや寝具があって、ちゃんと鍵を掛けられる。大人の秘密基地を名乗るだけはあるだろう?せっかく自分のお金で作るのだから細かいところまでこだわりたくて、つい作ってしまったよ。

  さて、本題に入ろうか。君が私の国まで留学しに来てこれで1ヶ月。何故、私を避けるんだい?いや、答えの予想はつくか。君は私との差を感じて距離を置いたのだろう?

  確かにこの国での私は貴族だ。だが、大学内では同じ学生。趣味の投資が成功して小金持ちになっただけの学生に過ぎない。

  私の周りには沢山人がいるのも認めよう。私は人気者だ。家柄がよく才能もあり容姿の整っている、その自覚はある。私は特別だ。

  でもそれらは、私と君の仲を引き裂く理由にはならない。身分差だとか種族だとか、周りの評価だとかは関係ない。そう、君は教えてくれたじゃないか。なのに何故君は私を拒む。どうして私を受け入れてくれない。

  ・・・つまり、私の隣りにいる時の君は惨めだと。凡人の君が何でも持っている私と一緒にいるだけで劣等感に苦しめられると。そう言いたいのだね?

  どうやら君は十年と少しで変わってしまったようだ。間違えた価値観で君の心は腐っちゃったみたいだね。

  いいかい?私にとっては君が凡人であろうが劣っていようがどうでもいいんだ。君がどうあろうと何であろうと私からしたら変わらない。私が君を愛している事実は決して揺るがない。君の良い所悪い所、その全てが私は好きなんだ。

  だから、そう自分を卑下しないでくれよ。

  いいや、卑下してくれて構わない。君が自分を悪く言うのなら、その10倍私は君の良い所を探して伝える。君が君自身を傷付けるのなら、その100倍君を慰めてあげよう。

  君が君自身をどう思おうが君の自由だ。だが、忘れないでくれ。君が傷付くことに、心を痛める人が目の前にいることをね。

  もう、今夜は帰さないよ。

  この夜で私が君を再調教して、作り直してあげよう。

  もう二度と、私と離れたいだなんて思わないように、ね?